F.

Future





































































































───それはごくありふれた、だが、すべてのはじまりの記憶。









ひとヤマ終わって、またしても、相も変らぬ大騒ぎ。
不二子が奪ったお宝をくすねてトンズラ。
次元が喚いてルパンがなだめる。
呆れた五ェ門が修行へと旅立ち、アジトはいつものふたりきり。





さすがにわめき疲れた次元が黙るのを見計らって、ルパンは酒瓶を次元の目の前に突き出した。
拗ねた色を乗せた目が、上物のバーボンに吸い寄せられる。
ルパンは、気難し屋の相棒に笑いかけた。
「飲もうぜ、次元」
「・・・おうよ」
口を尖らしながら、それでも酒瓶を横目で捉えたままはっきりと頷く相棒に、ルパンはいっそう笑みを深くした。










未来の恋人









アジトのリビングで相棒と差し向かい、強いバーボンの刺激に、次元の舌も軽くなる。
「まったくあんな女のどこがいいんだか、俺にはさっぱりわからねえな」
ソファにだらしなく四肢を投げ出し、次元は相棒を軽くねめつけた。
ルパンは笑う。
「次元ちゃんは浪漫がないなあ。あの大いなる謎に挑む感覚、あんなエキサイティングな女もそうそういないぜ。解けない謎も落ちない女も、難攻不落のお宝ってのは盗み甲斐があるってもんさ」
「盗みと同列かよ」
「女も盗みも浪漫だよ。暴く楽しみってェのがまた格別」
ニシシと笑う怪盗に、ガンマンは呆れて肩をすくめた。
「で、謎を解いちまったら、あとは興味も失せちまうってわけか。てめえみたいな男に好かれた不二子も、たいがい気の毒なもんだぜ」
ルパンは否定も肯定もしなかった。いつもの悪戯っぽい笑顔で次元を見ている。
次元は鼻を鳴らすと、掌中のグラスを煽った。





「俺ぁ、惚れた女には優しくしてやりてえけどな」
ポツリとつぶやく。
脳裏に浮かぶのは、かつて自分が愛した、不幸を身にまといながらも気高さを心に棲まわせた女たちの面影。





しかしルパンは、グラスを持ったままの手で、次元に指を突きつけた。
「優しくが聞いて呆れる。あのな、女のためを思って身を引くなんざ、女に取っちゃ何の優しさでもないんだぜ。惚れた男と一緒に不幸になりたいってのも、恋愛の一つのカタチだってーの」
「何だそりゃ」
「堕ちる喜び、浪漫だろ」





堕ちる喜びねえ────次元は口の中でつぶやいた。
女相手にそんな趣味はどうも起きねえな、それが次元なりの感慨だった。
「ま、俺にはお前がいりゃ、それでいいよ。一緒に堕ちる相手なんざ、お前さんで間に合ってるさ」
いつもの揶揄に、いつもの返答。
そのつもりだった。





「本気か、次元」





不意に目の前を影が差した。
顔を上げると鼻先に真剣なルパンの顔。
ふたりの間にあるテーブルに、ルパンは片膝立ちで乗りあがっている。
次元は目をしばたたかせた。





「ルパ・・・・・・」





名を、最後まで呼ぶことは出来なかった。
声は相棒の唇に吸い取られた。
舌を強く絡め取られる。
嗅ぎ慣れたジタンの香りが舌を刺した。





キス、されている。
そう気づいたときには、次元の身体はソファの上に組み敷かれていた。





頭が痺れて、うまく働かない。
ジンジンとこめかみが痛むのに、口づけはとろりとあまい。
「・・・ん・・・・・・ッ・・・」
鼻にかかった吐息が漏れる。
先をせがむ女のような。
その響きを信じたくなくて、口づけから逃れようともがくが、すぐに顎を捕らえられ、そして口づけはさらに深くなる。
ルパンの舌がやわらかく口中を這う。
その動きに気をとられているうちに、身体に回されていた手が、意図を持って動き出す。
「・・・んッ・・・ぅん・・・・・・ッ・・・」
怪盗の指は、繊細に、だが確実に次元を追い詰めていく。
まるで、自分が宝箱の錠にでもなったかのような、そんな錯覚を起こす。
あのルパンの鮮やかな手業。
どんな巧妙な仕掛けも、ルパンに掛かれば稚技でしかなく、彼が望んだものは何もかもがその手中に収められるのだ。





どうしよう。
どうしよう。





このままルパンに身をゆだねていてはいけないと。
このままでは取り返しのつかないことになると。
確かに心は叫ぶのに、身体はルパンのもたらす刺激に溺れてゆく。





唇が音を立てて離れた。
「・・・はぁ・・・ぁ・・・・・・」
口づけの合間、乱されたシャツ。
そこから覗く肌に、ルパンの口づけが落ちる。
熱くすべやかな舌が肌を辿る。からかうように彷徨ったそれは、薄い胸の、淡い尖りにたどり着いた。
音を立てて、きつく吸い上げられる。
「・・・あぁ───あ・・・・・・」
次元は背を弓なりに仰け反らせた。
思いもかけぬ快感。知らず身体は逃げを打つ。
ルパンの腕が、離れようとする次元の腰を抱き寄せた。その腕の中に、きつく引き戻された。
「ル、ルパン・・・」
途惑いを隠せない次元の声に、ルパンは次元の肌に伏せていた顔を上げた。
漆黒の双眸は深い闇そのもので、次元に何も読み取らせはしなかった。
ルパンは、にやりと口元を歪めた。





「一緒に堕ちようぜ、次元」





ああ──────





いつだって、ルパンとともに在りたかった。
ルパンといっしょに、ずっと走っていたかった。
これがそのための儀式なのだとしたら、ルパンに従う以外の手は、次元にはないのだ。
次元は瞑目した。そして、ルパンの背中に手を回した。










寝室に導かれ、ルパンの匂いのするベッドの上で、熱い身体の下に敷きこまれて。
男の指は、だが焦らなかった。
時間をかけて解された身体は、ゆっくりとルパン自身を呑みこんでいった。
まるですべてをルパンで埋め尽くされているような、全身を杭で穿たれているような感覚。
内臓のすべてを圧迫されているような息苦しさ。
次元は、ただ荒い息を吐くほか、なす術もない。
「すげえな。本当に入っちまった」
笑うルパンの息も上がっている。
「こんなに細い腰なのにな。人の身体ってのはうまく出来てるもんだ」
掌に腰をぞろりと撫で上げられ、身体がすくむ。
「あ、ああッ・・・・・・」
途端に中のルパンをより鮮明に感じて、次元は身悶えた。
「おい、そんなに締めるなよ。我慢できなくなって、酷くしちまっても知らねえぞ」
からかう口調とは裏腹に、次元を抱き寄せる腕はやさしい。
必死になって呼吸を整える。





やさしい手。やさしい愛撫。
だがそれも、そのとき限りのことだった。





「動くぞ」
宣言は唐突だった。
「あ────?!」
男の腰が、ゆっくりと動き出す。
奥をこじ開けるように圧迫され、えずきそうになる。
もうやめてくれと、泣き言を口走りそうになる。
次元は必死に唇を噛んだ。
なだめるように、唇が肌に落ちた。首筋や乳首、今夜、怪盗によって見つけ出されたばかりのウィークポイントを愛撫される。
その不規則な動きに、次元の身体は惑乱した。





「あうっ────!」
ある一点。
そこを突かれた瞬間、次元は爆ぜるように身体をのたうたせた。
ルパンの動きが止まった。





荒い息が室内に満ちる。
見つめられ、次元は羞恥に目を伏せた。
ルパンは慎重に腰を揺する。
「ここか・・・・・・?」
「あ、あああああ・・・!」
苦痛とも快楽ともつかない、強い刺激。
次元の痩躯がしなる。
「ここなんだな」
快楽を生み出すその一点、探し当てられたそこばかりを突き上げられる。体重を掛けてえぐられる。
すがるものが欲しくて、必死に自分を苛む男の背に手を回した。湿った肌に爪を立てる。
途端に自分の中でさらに嵩を増した男の存在に、次元は身をよじった。
ルパンが笑う。
「次元、本当に男は初めてか?すげーぜ、このしまり具合」
「こんな・・・っ、バカな真似すんのは、お前くらい・・・・・・あっ」
「ふーん、じゃ、俺のテクが凄いってことかな」
言うなり、ルパンの腰が勢いづいた。
「あ、だめだっ、あっあっあああっっ」
「いいぜ、次元・・・・・・わかるか、俺のに吸い付いてくる」
意地の悪い囁き。
そんな言葉にさえ感じてしまい、自分がさらに男を締め上げるのがわかる。
思い通りにならない自分の身体が信じられず、激しく首を横に振った
「いやだあ・・・・・・ああっ」
「大丈夫だって・・・」
そんな言葉をかけるのに、ルパンの腰は止まらない。





次元の肌に、ぱたぱたとルパンの汗が降る。
切なげに眉をひそめ、熱に浮かされたような目で自分を見ている。





ルパンが感じている。
俺の身体で。
いつでも余裕のこの男が、こんなに熱くなっている。
自分を求めて必死になっている。





それは不思議な感覚だった。
次元の中で、ずくりと何かが蠢いた。
それは燠火のように、次元自身に火をつけた。





「あ・・・・・・ああっ、あっ・・・・・・!」
狂ったような快感が次元を襲う。
「次元、いいのか?」
腰が、揺らめくのがわかる。だがもう止められなかった。
「あ、ああん・・・・・・い、いい」
「次元」
「いい────いい、ああんっ・・・!」
送り出される腰の動きが速くなる。腰と腰のぶつかり合う音が響く。次元は夢中で啼き叫んだ。
「いかせて、もう、いかせて」
ルパンの指が、限界まで膨らんだ次元のそれに絡む。きつく擦りあげられ、開放の喜びに次元の身体はわなないた。
「い、いく、いくぅ・・・・・・ッ!」
腰がせり上がる。下腹が痙攣したように震える。ルパンの指が栓をこじ開けるように鈴口に掛かり、次元は首を打ち振りながら絶頂を迎えた。
「ああ────────!」
きつい収縮に、ルパンが顔をしかめる。そして、ひときわ深く突き上げ、低くうなった。
その瞬間、自分の奥が熱く濡らされる。それすらも快感として受け止めて、次元は切なく喘いだ。
息を整える間もなく、汗まみれのルパンにきつく抱きしめられ、強引に唇をふさがれる。
とろけるような官能の中、次元はねっとりと絡むあまい舌に、いつしか無心で応えていた。










・・・・・・かったるい。





指一本動かすことすら儘ならない虚脱感と疲労。シーツに沈み込んだまま、ぼんやり隣のルパンを眺める。
ルパンはベッドボードに半身を預けたまま煙草を吸っている。
細い紫煙が部屋に流れる。
口を開くのも億劫で、次元はただぼんやりとルパンを見ている。
視線に気づいた聡い相棒が、吸いかけのジタンを次元の唇に差し込んだ。
湿ったフィルターが唇に馴染む。一口吸うと、ジタンの香りが広がった。
嗅ぎ慣れた、いつもの香り。それがいま、ゆったりと次元の中を満たしてゆく。





まるで中のすべてをルパンに浸されているかのように。
身体にルパンの匂いをまといながら、下肢に名残を残しながら、それ以上に。





不意に気恥ずかしくなって、次元はルパンを振り仰いだ。
目で「もういい」と伝える。
ルパンは苦笑して、次元の唇から煙草を取り上げた。
そして、ふたたびその煙草を咥えた。





その横顔。
煙草を咥えたその口元。





閉じてしまいそうな目を、シーツに押し付けるようにこすると、次元はつぶやいた。
「ルパンお前────何かいいことでもあったのか?」
ルパンが振り返った。
まじまじと見つめられる。真剣なまなざし。どうしてだろう。
ルパンが言った。
「・・・どうしてそう思う?」
からかうでもなく。試すでもなく。
ルパンのそれは、純粋な疑問のようだった。
だから次元も、素直に答えようとした。
「だって、おめぇ・・・・・・」





だって、何だかすごく嬉しそうだ。
まるで、どっかのお城から厳重に守られた獲物を掻っ攫ってきたときみたいに。
まるで、手に入れたばかりの宝石の、その輝きに魅せられているときみたいに。





「何だ次元、寝ちまったのか?」
ルパンの声が遠くなる。意識が白く溶けてゆく。
鼻を刺す強いジタンの香りと、唇に触れたやわらかな感触。
それを感じたのを最後に、次元は深い眠りに落ちた。










「いいこと、か」
ジタンを燻らせながら、ルパンが笑う。
まるで他人事のような言葉だ。
いま起きたことも、二人のこれからに何の変化をもたらすことはないと頑なに信じている。





次元は、枕に片頬をうずめて眠っている。何かを言いかけたまま、ぽかりと口を開けたその寝顔。
それはどこかあどけなかった、まるで子供のように。
さっきまでの色めいた表情が、まるで嘘だったかのように。





ルパンに必死に応えた身体。だが、そこまででストップしてしまっているらしい。
「先は長いな、相棒」
ルパンは次元の上にかがみこむと、その耳元に低くつぶやいた。
そして、次元の裸の胸、その左側を指で軽くノックする。
「早くついて来いよ、こっちもよ」
次元はむずかるように、身じろぎする。そして手近なぬくもりの在りかを探すように、自分に覆いかぶさるルパンの首に手を回した。





ルパンは息を呑んだ。





こいつは俺がてめえのちょっとした仕草のひとつひとつにこれだけ振り回されているなんて、きっと思いもよらないんだろう。
それどころか、俺に振り回されているくらいのことは平気で考えていそうな気がする。

「いずれきっちり落としてやるからな。覚悟しておけよ」
犯行予告を、その当の獲物の耳元に囁くと、いまはまだかりそめの恋人を腕に抱き、その額にそっと口づけた。








end










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