I.

Immortal





































































































秋おぼろ、山の奥地の一軒家。
暢気で平和なその場所に、何故か、何とも似つかわしくない彼らの姿があった。





「期せずして、ルパン一家が、勢揃い────ふむ、五・七・五だな」
五ェ門が指を折り曲げ、字数を数えながらつぶやいた。
板間に寝転がったまま、ルパンは鼻を鳴らした。
「俳句にしちゃあ季題がないし、川柳にしちゃあ捻りが足りない。文才はからきしだな、お侍さんよ」
「なあに」
侍は莞爾と笑った。
「こういう場合は、末尾にこうやって七・七を付ければ格好がつくものと昔から相場が決まっているというものだ────『それにつけても、金の欲しさよ』」
「違ェねえ。笑いとペーソスを感じさせる、人生の真理だな」
ルパンは声を上げて笑った。それを不二子が、はしたなく長い脚で小突く。
「もう、笑い事じゃないわよ。このままじゃ、それこそおちおち、お金稼ぎだって出来ないじゃない」
そう言うと、不二子はその美しい指先でルパンの腰のあたりを指し示す。
「まあなあ」
ルパンは頷く代わりに、指差されたそのしっぽをふっさりと振った。
「もう、暢気な言い方! ねえ、五ェ門」
「ふうむ・・・しかし、こればかりは焦っても仕方あるまい。何しろ仙人が戻って来ねば話にならん」
腕組みし、うんうんと考え込む五ェ門に合わせるように、彼のしっぽもまた小刻みに揺れる。
「もう────本当に、どこへ行っているのかしら、その仙人とやらは!」
不二子のしっぽが、いらだちのままに、ぱしりとひとたび床を打った。










仙人を待ちながら









このところ特に大きなヤマもなく、彼らはそれぞれ一人ずつで行動していた、そんなある日のことだった。
突如、女が現れた。忽然と、文字通り目の前に。
着物姿のその若い女は、抵抗するいとまさえ与えず、彼らに不思議な術を掛けた。
煙のようにかき消えた女の姿に呆然としたまま、やがてそこから立ち直ったとき、彼らは自らの身に異変が起きたことにようやく気づいたのである。
尻に、しっぽが生えたのだ。
紛うことなき犬のしっぽが、ふっさりと。
悪目立ちもいいところのそれに手を焼いて、彼らはそれぞれ調べ上げ、この山に棲まう仙人の持つ秘薬の力が、この術を解く唯一の方策であることをそれぞれ知った。
そして期せずしての再会。
仙人の帰りを待ちながら、こうして四人、何をするでもなく、この山奥の庵に駄弁っているのである。
四人────そう、四人なのだ。










三人の視線が、自然、部屋の片隅に集まった。
暗い表情のガンマンが、そこにうずくまっていた。
「どうしたのだ、次元」
「・・・・・・何でもねえ」
五ェ門の問いかけにも、むっつり下を向いたままだ。
何やら様子がおかしい。
いつも飄然としたこの男が、居すくんだように、立てた両膝に身を寄せて、まるで身体を折りたたむように背中をまるめて縮こまっている。
何故か両手を、ボルサリーノの鍔にしっかりと掛けて。
帽子を深く引き下げ、まるで誰にも奪われまいというかのように。
三人の胸に、瞬間、同じ思いが去来する。
(────面白い)
三人の行動は早かった。
五ェ門と不二子が、二人同時に次元の腕に飛びついた。
「な、何を・・・・・・!」
焦る次元の目の前に影が差す。
そこにいるのはもちろん、天下の怪盗、ルパン三世。
財宝に対峙するが如くの素早い手業。瞬時に次元のボルサリーノを奪う。
「やめろ────!」
次元の悲痛な叫びが、山の彼方に谺した。





沈黙が、部屋を満たした。
帽子を奪われた次元。露わになったその目は、泣きはらして真っ赤になっている。
だがそれより三人の視線を吸い寄せたのは────





(────犬だ)
(────犬だ)
(────犬ね)





そう、クールなガンマンのその耳は、いまや可愛らしい犬耳と化していたのであった。





驚愕から立ち直ったのは、まずは不二子だった。
「ねえ、次元。その耳、ちょっと見せて」
好奇心を丸出しに、犬耳次元に膝立ちでにじり寄った。
途端、びくりと強張る次元の頬。それと呼応するように、耳はぺたんと伏せられ、しっぽはくるんと脚の間にまるまってしまう。
怯える犬の仕草だ。ルパンと五ェ門は同時に吹き出した。
面白くないのは不二子だ。
「ちょっと! それってどういう意味よ」
詰め寄るが、次元が返事をするより先に、また耳がさらに寝てしまう。
こうなるともうたまらない。
五ェ門は慎み深くも壁の方を向いたが、全身が笑いにぶるぶると大きく震えている。
そしてルパンは憚ることなく高笑いすると、いきなり次元にじゃれつくように飛びかかった。
「何しやがる!」
「ほら、いいからちょっと見せてみろって」
「よせってば」
次元はいかにも嫌そうな顔つきで、必死にルパンの手を払いのけている。
しかし。
「・・・・・・・・・」
不二子と五ェ門は、無言で顔を見合わせると、二人揃ってため息をついた。
恰好の玩具を見つけたとばかりに次元をかまう、そのルパンのしっぽが楽しげに振れているのはまあいい。
だが、懸命にルパンの手から逃れようとしているはずの次元。
その次元の犬耳がピンと立ち上がり、しっぽもふさふさと大きく揺れているのは、まったくどうしたことなのか。





「可愛いー! 耳の内側、ピンク色だな」
「バ、バカ、触るなって────やっ、噛むな」





・・・犬の子同士なら、さぞや心なごむ微笑ましい光景だろう。
確かに二人とも犬のしっぽはついているし、片方には犬耳まである。
だがあくまでも二人とも、立派といえばそのとおりの成人男性なのである。
二人の見ている目の前で、いよいよ事は差し迫る。
耳を指でいじくられ、そして幾度もあまく噛まれ、ねぶられ、次元の身体はすっかり力を失い、ルパンの腕の中、もはやなすがままだ。
「・・・ん・・・んんっ・・・・・・」
床に組み伏せられ、男にのし掛かられ、いやいやと首を横に振りながら、それでもこらえきれずにあまい吐息をこぼしている。
「も・・・・・・やだ・・・」
潤んだ目が、助けを求めるように彷徨う。
だがルパンは容赦ない。腕の中の身体を撫で回しながら、楽しげに尋ねる。
「なあ、他はないのかよ?」
「え・・・・・・?」
「耳としっぽ以外には、犬になっちまったところはねえの?」
次元の返事を待つより先に、ルパンの手は次元のシャツをひん剥き始める。
「ちょ・・・何考えて────!」
慌てて暴れ出すがもう遅い。上着とネクタイは取り去られ、乱されたシャツで腕を枷られ、遂にはベルトのバックルに手が掛けられる。
がちゃがちゃと響く金属音。
(────まったくもう!)
不二子は胸の内で毒づくと、すっくと立ち上がった。
思いは同じか、五ェ門もほぼ同時に立ち上がる。
そうして戸口に向かう二人に慌てたのは次元だ。
「あ────ま、待てよ、お前ら・・・」
「ごゆっくり」
ひらひらと手を振りながら、不二子がとっとと小屋を出て行く。
「ふ、不二子」
次元の悲痛な呼び声。だが不二子は、救いを求める次元の顔を一瞥するも、つんと顎を上げるだけだ。
「あら、アンタ私のこと怖がってたじゃないの」
「ご、五ェ門」
「ワタシも野暮はしたくない」
決まり悪げに五ェ門も、不二子に倣ってそそくさと小屋を後にする。
無情にも次元の目の前で、ぴしゃんと戸口が閉められた。
次元は床にがくりとくずおれた。
「さあて」
辺りに通るルパンの声。
次元はびくりと背後の男を振り仰ぐ。
どこまでも楽しげなその笑顔────最悪の事態だ。
しっぽをまるめた次元は、慌てて部屋の片隅へと逃げ込もうとする。
だがそこはルパンの手の方が早い。
むんずと次元の二の腕を掴み、無理から自分の膝の上に抱え上げた。
「じゃ、どっからどこまでわんちゃんになってるか、確認させてもらいましょうか」
「や、やだ・・・いやだ────!」
必死の抵抗も、だが難なく脚の動きで抑えこみ、ルパンは悠々と次元をすっかり裸にしてしまう。
赤く染まって震える肌を、思うさまにまさぐりながら、意味深な響きの囁きをその耳に吹き込む。
「はいはい、次元ちゃんの、ヤダってのは、実は、イイっていう意味なんだよね」
「ち、違────あっ・・・」
胸の尖りに軽く触れられて、それだけで次元の声は高くなる。
くすくすと、ルパンが笑う。
「ほォら、もう、イイって声になっちまった」
「違・・・う────ああん・・・っ」
あとはもう、言葉にもならない声ばかり。










仙人が戻るまでもうしばらく。
受難であるか、幸いであるか。
ともかく次元の身に降りかかったそれは、いまだ終わりの見えぬ気配なのであった。










end










原作「尻尾人生」ネタ。




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