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if winter comes





































































































if winter comes









ひと月ぶりに、パリ郊外のアジトに戻ったその夜。
ルパンは、リビングで相棒と酒を酌み交わしていた。
「お前は何してたんだよ、このひと月」
散々このひと月のことを語り終えると、ルパンは目の前の相棒に笑いかけた。
その声に、ロングソファに悠然とくつろぐ次元が、どこか緩慢な仕草で顔を向けた。
プレーン・フロントの黒のスラックス、濃紺のシャツは釦まで闇色、それを二つ三つ開け、初冬のこの時期だというのに上着も纏わずそれきりで。
いつもの帽子こそかぶっていないものの、流しただけの長い黒髪と相まって、すっかり夜に溶け込んでしまいそうだった。
「別に・・・・・・」
次元は、気怠げにかぶりを振り、グラスを煽った。
いつもよりさらに口数の少ないその唇を、バーボンが濡らす。
暖色のフロアスタンドのほのかな明かり、硬質に光を弾く黒の双眸とは対照的に、濡れた唇が淡く艶めく。
ルパンは微かに息を呑むと、グラスを手に立ち上がった。
そのまま次元の隣に腰を下ろし、その肩を抱き寄せた。
次元はわずかに眉をひそめたが何も言わない。ただ黙って酒を飲んでいる。
珍しく表情の読み取れないその横顔。
ルパンは、どこか焦りにも似た気持ちが湧き上がるのをかき消そうと、ことさら明るく言った。
「何もねえってこたァねえだろうよ」
何度か促すと、次元はようやく重い口を開けた。
「銃の訓練をして、筋トレをして、酒を飲んで、情報屋から上がってくるネタをまとめて・・・そんなもんさ」
いつも通りというわけだ。
その声に嘘がないのを知って、ルパンはほっと安堵する。
しかし、それを次元に気取られるのはさすがに悔しい。誤魔化すように大声で笑う。
「色気もへったくれもねえなあ。ちったあ俺様を見習えよ」
そして続く立て板に水の艶笑譚。
ふだんだったら次元は「どこまでが本当のことやら」とでも鼻で笑って仕舞にするか、機嫌が良ければルパンの言葉の些細な矛盾をひとつひとつ指摘して「やっぱりモテねえんじゃねえか」と高笑いしたことだろう。
だが今夜は瞳を闇に沈めたまま、「よかったな」とちいさくつぶやくだけだった。
いつもとは確かに違う。だがその理由がどうにも掴めない。
こんなことはまずないことだ。相棒の────恋人のことで、自分が知らないことなど無いのだから。





ひと月前、次元と喧嘩をした。
今じゃ覚えてもいないような、些細でつまらない理由だ。だが二人とも意地になった。
ルパンはホテルを転々とし、その間、次元は連絡ひとつ取ろうとしなかった。
(すぐに根を上げるだろうと思っていたのに・・・)
痺れを切らしたルパンがこうして戻ってきても次元は、やっと戻ってきたかと嬉しそうにするでもなく、かといって、自分がルパンを降参させたと得意げにするでもなく、ただ静かに出迎えただけだった。





「もしかして────妬いてる?」
次元ははっと顔を上げた。
今夜初めて真正面から捉えたその瞳、その奥は微かに揺れていて、ルパンの鼓動を跳ねさせた。
ルパンの視線にごく間近から晒されて、次元は不意に我に返ったか、恥じらうように目を伏せる。瞼まで、うっすらと赤い。
言葉も忘れ、次元の手を引いた。次元の身体は抗ったが、やがて諦めて男の膝に乗り上げ、腕の中に収まった。揉み合った、二人分の浅い吐息が夜に混じる。
「な、図星だろ?」
笑いかけると、次元は色の褪せた下唇をきつく噛んだ。
「違う・・・」
次元は顔を目の前の男の肩口に伏せた。
そしてルパンの首筋にぎこちない仕草で唇を押し当てる。
何かを請うようなその口づけは、ただ押し当てられるだけ、だがいつまでも離れようとはしない。そして酷く熱い────
背筋が、ぞくりと震えた。
強引に腰を引き、きつく抱きしめる。次元は腕に引かれるままに肌を寄せた。
微かに身体が震えるのは怯えか────それとも歓喜か。
熱い肌、言葉を紡ぐことも忘れた唇。
妬いている────それだけではなく。
「なあ・・・もし間違ってたら怒ってもかまわねえんだけどもよ」
乾いた唇をちらりと舌で湿らせ、ルパンは次元の耳元に唇を寄せた。
「もしかして次元────したいの?」
次元が、小さく息を呑んだ。肩に縋る、指の力が強くなる。
物言わぬ時間は、長いようでいて、一瞬だったのかもしれない。
「・・・間違ってないから、怒れねえ」
次元は深くため息をつくと、ルパンの肩に瞼を擦りつけた。
「もう・・・嫌われたかと思った」
声はかすれ、まるで涙ぐんでいるかのようで。
慌てて指でおとがいをすくい上げる。その目はすっかり潤んでいた。
「嫌うって、お前」
「ずっと女のところで、帰っても来ないで」
「次元」
「もう、飽きちまったか、俺のことなんか」
次元はやわらかく微笑んだ。笑んだままのその頬を、ぽろぽろと涙があふれる。
「もしお前が俺のことなんかいらなくなっちまっても、それでも俺は」
涙を拭う素振りすら見せず、ルパンを見つめたまま次元は囁いた。
「俺は、ずっとお前のことが・・・」





・・・・・・ちょっと待て。
次元はもともと根が素直だし、自分にぞっこん惚れているのはルパンだって承知のことだ。(次元本人は決して認めようとはしないが)
とはいえ、さすがにこれはおかしい。
閨の睦言すら、ろくに口にしようともしない男だぞ。まあ、それを強引に言わせるのも楽しいわけなのだが────もとい。
しなだれかかる身体、なだめる仕草で次元の首筋に触れ、そこでルパンはようやく気付いた。慌てて額と額とを合わせる。火のように熱い。
「・・・って、次元、お前、熱があるじゃねえか!」
慌てて相棒を俵担ぎに担ぎ上げると、ルパンは大慌てで次元の部屋まで駆けた。
力を失いなすがままの次元をベッドへと押し込むと、鼻まで布団を掛けてやる。
「今日はもう休め、な」
ああ、着替えさせないと。
クローゼットに寝巻きがあるだろうと向かおうとすると、上着の裾を引かれた。
振り返ると、布団から目だけ出した相棒が、じっと見つめている。
潤んだ目────いやいや、これは熱のせいだから。
「やっぱり、俺のこと嫌になったんじゃねえか・・・」
「だってお前、熱が・・・」
仕方のないことだというのに、次元は頑是無い子供のようにきつく首を横に振る。
「そうやって理由をつけて遠ざけようとして」
嫌になったのならそう言えばいい、そんな風にまた泣き出すから、ルパンは慌ててベッドから抱き上げた。
「嫌になるはずないだろうがよ」
とんとんと、子供にするように背を叩いてやる。
「・・・・・・俺はいいって言ってるのに」
抱き寄せた腕の中、唇を尖らせ、そうつぶやく。
まるで子供のような────だが子供では決して見せない、色めいた表情。
「ふだん言えよ、そういうことはよォ・・・」
片手で顔を覆うと、ルパンはぼやいた。
指の隙間から、横目で相棒の顔をちらり。
眦は赤く染まり、目は潤んでいる。
誘うように濡れた唇は微かに開き、のぼせた吐息を繰り返す。
熱のせいだ。それは承知だ。
ルパンは腹を括った。
「泣いても止めねえかんな」










常より熱い肌は過敏に慄き、やがて這い回るルパンの掌の下、溶けてゆく。
「ルパン・・・・・・やだ・・・もう、無理・・・だって」
切れ切れの声で、次元がつぶやく。
喘ぎ混じりのそれは、すっかり泣き声に近かった。
だがルパンは肌を煽る手も、その辿る跡を追うように重ねていく唇での愛撫も止めようとはしない。
「だから、やめねえって言っただろ」
これだけ煽られたのだ。止まるはずもない。
「うん、やめるなよ・・・」
熱と快楽に浮かされて、次元の言葉は支離滅裂だ。
だったら、自分に都合のいい言葉だけを拾うまでのこと。
両肩をシーツに押し付けると、いささか強引に押し入った。
「んんっ────く・・・んっ・・・・・・」
中も、酷く熱かった。ひと月ぶりに男を受け入れる身体は最初こそ抵抗を見せたものの、すぐにルパンを受け入れた。
「きついか・・・?」
深く息を吐き出しながら、ルパンが囁く。
次元は息を喘がせながら、ちいさく首を横に振った。
「もっと────奥まで」
「奥まで・・・?」
問い重ねれば、素直な唇が言葉を紡ぐ。
「奥まで・・・欲しい────はぁ・・・」
「ああ・・・いい子だな、次元は」
さらに深く、身を沈める。きつく締め付けられ、ルパンの眉が寄った。
「あああ・・・・・・あっ・・・ん」
衝撃に喉が仰け反る。その弧を描くラインに舌を這わせ、ルパンはしばらくきつい次元の中を楽しんだ。
やがてやわやわと肉がほどけ始める。
それを待って、ルパンはゆっくりと動き始めた。
「あ・・・あ、ああ・・・・・・」
あまえた吐息があふれ出す。自分でも腰を揺らめかせながら、懸命に男をむさぼる。
「そんなにいいのかよ」
ルパンが笑う。次元はこくこくと、何度も頷いた。
「いい・・・・・・すごく、いい・・・」
熱で力の入らない身体を抱き寄せ、何度も刺し貫く。そのたびに感極まったように、次元は啼いた。
汗に濡れた四肢を絡ませあう。滑る肌がもどかしい。互いの皮膚に痕を残しながら、きつく抱き合う。唇を寄せ合い、深く舌を絡めあう。腰と腰のぶつかり合う音が、暗い部屋に響く。
やがて次元はきつい突き上げによがり狂いながら果てた。
びくびくと吐き出された精液が引き締まった下腹を濡らす。
その締め付けに耐え切れず、ルパンも低く呻りあげて、次元の中を濡らした。
息が整うのを待って、ルパンは自身の性器を引き抜いた。
次元が深い嘆息を漏らした。まだ熱いその身体を抱き寄せる。ルパンの腕に身を落ち着け、胸に頬を寄せた次元が、そっとつぶやいた。
「ずっと・・・」
「ん?」
髪を梳く手を止め、顔を覗き込む。
ルパンの胸に耳を押し当て、聞くともなしに鼓動を聞きながら、次元は微笑んだ。
「ずっと、こうして欲しかった。このひと月・・・」
「次元・・・」
「触れて欲しくて────抱いて欲しくて、ずっと」





朝になれば、次元は今夜のことなど忘れてしまうだろう。
忘れていなくとも、その振りをする。
日の光の下では夜の自分をなかったことにしようと望む、そうした振る舞いをルパンは常に赦し、また愛おしくも思ってきた。





腕の中のあどけない笑顔に、ルパンは軽く口づけた。
「いいさ、今夜は一晩中こうしててやる」
「あ・・・」
腕の中の身体を、今度はうつぶせにシーツに押し付ける。腿で強引に脚を割り開くと、すぐに硬さを取り戻した性器を突き立てた。
「ああ・・・・・・っ」
仰け反る喉が、悦びの声を上げた。
細い腰を引き寄せ尻だけを高く掲げさせると、腰を叩きつけながら、次元の性器に指を伸ばす。まさぐられ、むせび泣きながら、すぐに昂ぶる素直な身体。
「ル、ルパン・・・・・・ああっ・・・」
深く腰を回すと、また嬌声が上がる。





だが自分は、この夜のことを忘れることはないだろう。
常よりも熱い肌。自分を恋うた拙い言葉。
この一夜切りのことならば、冬の夜の夢ならば、せめてそれをすべて飲み干し、むさぼりつくすだけのこと。
きつく抱きしめる。この、よく馴染んだ肌を持つ、しかし耳慣れぬ言葉を紡ぐ恋人を。










────それは冬の夜、ひとときの夢。










end










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