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ripples





































































































夜の漣









懐かしい夢を見た。





パリのアジト、見慣れた寝室。
まどろみから身体を引き剥がすように、ルパンはベッドの上に半身を起こした。
サイドボードに置かれた煙草を取り上げると火を点ける。ちいさな赤い光が闇にほの浮かぶ。夜の空気に、紫煙が流れた。
「────起きていたのか」
傍らに眠っていた次元が眼を覚ます。裸の痩躯に綿のブランケットを絡みつかせ、身体をまるめたままルパンを見上げた。薄く開かれた目は言葉よりも多くを語る。ルパンはくすりと笑うと吸いさしの煙草をその唇に挟んでやった。
「珍しいな、お前さんが」
ふだん寝起きの悪い男を、次元がからかう。ルパンは少し硬い黒髪をくしゃりとかき混ぜてやる。やさしい指の動きに、次元はくすぐったげに身を捩った。
無邪気な恋人の仕草に目元を緩めながら、ルパンは夢の面影について口にした。
「オーリのこと、覚えてるか?」
つと思い返して間もなく、ああ、と次元は思い当たったかのようにつぶやいた。
ズフ国漂流島。かつて島へ隠された財宝に狙いをつけ、ルパンたちはズフ国に潜入したことがある。
オーリ────オーリエンダーとはそこで知り合った。
美しい花の名を持つ、国家警察の女工作員。
「情熱的なお嬢さんだったな」
次元は低く笑った。笑いながらルパンの手から逃れるように身を捩じらせる。漣のように、シーツが波打った。





軍事政権下のズフ国。
レジスタンスを組織し、軍事政権打倒のために立ち上がった前国王の遺児パニシュ。
革命というほど大それたことじゃない。国家警察の追跡から逃れ、オーリエンダーの前に身を現したパニッシュは彼女に言った。
「ただ、みんなが幸せになれば良いだけさ」
揺るぎない意志を見せる恋人に、オーリエンダーは囁き返した。
「みんなが幸せにって言ったわね」
ふだんの気丈さが嘘のように、オーリエンダーは瞳を潤ませ立ち尽くす。
「その中に────私も入っている・・・?」





こいつはそんな可愛げのあることは言わないだろうな。
彼の手の中で暢気に煙草をふかす男を目に、ルパンは苦笑した。
ルパンの言葉には勝手ばかり言うなと文句を並べ立てて、その癖、何もかもを捧げ尽くしてその意志に従う男。
ルパンを好きだというくせに、好かれているかなどということには一切頓着しない男。
「で、そのオーリがどうした」
目で促され、口元の煙草を取ってやる。半ばまで吸われたそれをサイドボードの灰皿に押し付け、ルパンも次元の横に寝転がった。
「ん、いやあ・・・可愛かったなあと思ってよ」
「けっ」
吐き捨てると次元はごろりと壁を向いた。そのまま不貞寝を決め込もうと、ルパンの分のブランケットまで身体に巻き込んでいる。拗ねたときの仕草は子供の頃からまるで変わらない。
「妬くなよ」
痩せた体を強引に引き寄せた。次元はぶつぶつと文句を言いながら、だがルパンの腕にあっさりと納まる。
ルパンは笑った。
「ま、可愛い女には幸せが似合うってもんだよな」
腕の中の身体を反転させ、胸を合わせて抱きしめた。額を合わせ、その目を見つめる。
吸い込まれてしまいそうな、闇を映したその瞳。
「お前は俺と一緒に不幸になれよ」
「・・・・・・ふん」
拗ねた頬を赤く染め、次元はルパンの肩に顔を伏せた。





良きときも、悪しきときも。
病めるときも、健やかなるときも。
たとえ路傍で野垂れ死ぬようなことがあろうとも。
こいつはいつも俺の隣にいる。
それは「確信」ですらない────既定の「事実」だ。





ルパンは、いまはどうしているかすら知れない女のことを思う。
幸せであれば良いと思う。
こんな悪党さえ幸せなのだから、彼女が幸せでない道理はないのだ。
ルパンは次元の首筋に唇を寄せる。
彼の腕の中の、彼の幸福そのものは、そのやさしい愛撫にひとつ吐息を漏らすと、そっと目を閉じた。










end










映画「DEAD OR ALIVE」ネタ。




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