B.

BUZAMA





































































































その日の次元は、まるでいつものままだった。
ダークスーツ、ボルサリーノ。髭面の気の良い笑顔。
定刻に遅れてやってきた癖に俺の無二の相棒面、呆れるほどの大きな態度で。
本当に────良く似ていた。
ハンマー岩鉄、風の三太夫、そして峰不二子。
アジトへ呼び集めた他の部下と同様に俺に合言葉を尋ねられ、次元は笑った。
「ははは、よせやい、ルパン。まさかこの俺をニセとは思わねェだろ」
「偽者かどうかは俺が決めるぜ、次元」
重ねて問いかける。次元も笑いを重ねた。
「わかったよ、合言葉だったな」
瞬間、ほんの鼻先に突きつけられた銃口。
「合言葉があったとは知らなかったぜ!」
次元が叫ぶ────いや、次元もどきだ、次元自身ではない。
俺の惑乱を尻目に、銃声が響いた。
次元がどうと倒れ伏しす。
次元はのたうち、やがて動きを止めた。埃まみれの床に血溜りが広がる。強張った横顔、信じられないとでもいうかのように大きく見開かれた目。思わず指を伸ばしかけ、慌てて引いた。
振り返る。部屋の一隅に腰を下ろしたままの峰不二子が、煙の上がる拳銃を差し向けたまま、不敵な目線で俺たちを睨めつけていた。冷然と吐き捨てる。
「どじなまわしものね」
不二子はつと立ち上がる。床に転がる次元もどきの死体には目もくれず、俺の傍に歩み寄り顔を寄せた。
至近距離、赤いルージュがにやりと歪む。
「そして貴方は無様だわ、ルパン三世」










無様









次元もどきの正体はあっさり知れた。
俺の御同業の、霞の吉三の部下だった。おそらく奴も例のダイヤモンドを狙ってのことだろう。
ある夜、俺は見知らぬ女に呼び出された。
記憶喪失のその女の身辺を洗う内に、俺と次元は彼女だけが隠し場所を知る密輸ダイヤの存在を知った。
俺が部下たちを呼び寄せたのもそれが理由だ。霞の吉三は俺に張り合いたがるところがある。それだけに情報を得るのも早かったのだろう。
俺は部下を引き連れ自ら霞の吉三の元へ乗り込むと、次元もどきの死体をつき返し、ついでに本物の次元の身柄を解放するように伝えた。
俺に従う不二子の、酷薄な視線を背中に感じながら。










迎えには行かなかった。
だが次元は、アジトへと舞い戻るとすぐに俺の部屋にやって来た。
部屋に入る耳慣れた足音。俺の不在に途惑ったそれは、すぐに気付いたように続きの奥間に向かう。寝室も兼ねたここは本当のプライベートな空間で、入ってくるのは女の他は俺の相棒を気取った次元くらいだ。いつもより控えめな音を立ててドアが開いた。
「・・・・・・へへ」
決まり悪げに笑いながら次元は、寝台の傍らのシングルソファに腰を下ろして紫煙を燻らせる俺の前に立った。俺が顔も向けずにいると、次元は俺の足元に膝を付き、下から覗き込んでくる。
聞こえよがしなため息をひとつ吐くと、次元はびくりと身をすくめ、そしてもう一度こちらを伺うように笑う。無性に癇に障った。
「悪かったよ」
サイドボードの上の灰皿に煙草を押し付けると、俯く次元の胸元目がけて、俺は今日の戦利品を放った。慌てて受け止めた大粒のダイヤモンドを見て、次元の目がまるく見開かれる。
卵ほどの大きさもあるダイヤモンド。
精巧なカッティングはすべての光を集め、まばゆいばかりの輝きを放つ。
「すげえ・・・」
さらに眺めようと目を凝らす次元の手から、ダイヤモンドをかすめ取る。
「お、おい」
寝台の上に無造作に転がせば、次元は慌てて手を差し伸べた。ふらつく身体、その首を掴み、寝台に放り投げる。スプリングが弾み、ダイヤモンドがシーツを滑る。
寝台の上に投げ出された身体に、俺は馬乗りになった。
「──────!」
そのまま物を言う隙も与えず、片手で喉を締め上げる。圧迫された喉がくぐもった声を上げる。次元の顔が見る見ると蒼白になった。
だが次元の四肢は投げ出されたまま、抵抗ひとつしようとしない。
俺は短く舌打ちして、次元の喉を解放した。慄くように胸が喘いだ。
犬のように浅い息が、狭い部屋に満ちた。





「何があった」
低く問えば次元は逡巡の末、ようやく口を開いた。
「お前が・・・さ、危ねえって言うから、だから・・・」
だから、やって来た見知らぬ男に言われる儘にのこのこと付いて出掛けていったのだという。極めつけの馬鹿だ。
「すまなかった、ルパン」
許しを請う、次元の声はわずかにかすれていた────癇に障る。
「ルパン?」
まるで何も疑わない目。抵抗すら思いつかない四肢。狩り甲斐のない、獲物。
次元のネクタイを、引き抜いた。まるで次元の体のように、何の抵抗もなくそれはするりと俺の手の中に滑り落ちる。
「ルパン、何────ちょ・・・っ」
次元に伸し掛かるとシャツを毟る。釦が鈍い音を立てて弾け飛ぶ。
露わになった肌を両の掌で無遠慮に撫で回す。薄い胸、締まった腹・・・次元の肌は瞬時に熱くなった。
「あ・・・おい、何のつもり・・・・・・あぅっ・・・!」
下腹を撫で、その下を探る。布越しでさえ、次元の性器がすでに熱く兆しているのを感じる。指でまさぐると、次元の声は切なげにたわんだ。
「あ・・・あ、あ・・・・・・」
仰け反る身体を腕で押さえ込み、もう片手はさらに性器を煽る。息を荒がせる次元の唇から、喘ぎ混じりのつぶやきがこぼれた。
「何で・・・」
────嫌なら抵抗すればいい。
そう言いかけて、俺は口を噤んだ。
次元は抵抗しない。おそらく、俺が何をしようとも。
その程度にはこいつは俺に心酔しているし、何よりも俺はこいつのどんな抵抗も言いくるめるすべを知っている。
急激に頭が冷えた。俺は次元の身体の上から退くと、痩せた身体を起こしてやった。剥いだシャツの前身頃を掻き合わせ、気持ちばかりに衣服を整えてやる。
次元の目が物問いたげに俺を見つめる。俺は苦く笑った。
「冗談さ」
そう、冗談にしてしまえばいい。こんなことなど────ただの悪ふざけだと、そう言ってしまえばいい。
「冗談・・・」
次元はぽかんと口を開けて俺を見つめ、そして力なく笑い出した。
「は・・・はは・・・」
笑い声は、やがて語尾が揺れた。
次元の身体がぱたんと寝台の上に倒れた。そのままごろりと横向きに寝転がる。何かから身を守るように、体をまるめて。喉が低く震えた。
「当たり前だよな、冗談に決まってる」
「次元」
次元はくつくつと笑い続ける。
「そんなことくらい、とうの昔にわかってらァ・・・」
次元は両の掌で目を覆った。
覆ってもなお、こぼれだす涙が頬を濡らす。頬の下のシーツに、涙の染みが広がった。
思わず指を伸ばしかけた。だがそれより先に次元が跳ね起きる。そして勢いよく、袖で濡れた目を擦った。ぐいぐいと何度も何度も腕で顔を拭い、ようやく顔を上げた。
ぐしゃぐしゃの顔を真っ赤にして、それでも次元はにっかりと笑った。
「女、呼んでくるよ。こんな時間なんだ、だからあんまり好みじゃなくても文句言うんじゃねえぞ」
言いざま寝台から滑り降りようとする。まるでいつもの次元のような、そんな風情で。
その二の腕を掴むと、強引に引きずり戻した。再び身体の下に敷き込むと、次元の身体が強張った。
「おい、だから・・・」
「お前が悪い」
言いざま、喉元に吸い付く。
「あ・・・・・・」
次元の目から、再び涙がこぼれた。





潤滑油で濡らした指を、次元の尻の翳りに差し入れた。初めて異物を受け入れる其処は、オイルの助けを借りて男の指を飲み込んでいく。腕の中に抱き込まれた次元は、苦しげな息を吐いた。なだめるように、空いた手で性器をいじる。ゆっくりと扱くと、次元は鼻に掛かった吐息を漏らし、身をくねらせた。
焦らず狭い其処をほぐしながら指を出し入れする。同時に休まず前をまさぐり続ける。硬い身体が、徐々に開かれていく。
乾いた唇を舐め、傷をつけないように注意深く指を引き抜いた。次元はちいさく呻き、頬を赤く染めてきつく目を閉じた。
仰向けにさせ、脚を開かせた。ぎゅっとシーツを握る次元の傍を、転がされたままだったダイヤモンドが滑った。
「あ・・・・・・」
途惑ったように次元が俺を見上げた。その表情はどこか子供のようで、すこし意地の悪い気分になる。指でダイヤモンドを掬い上げると、次元の目の前に翳した。
「入れてみるか」
「い、いやだ・・・!」
腕の中の身体がすくんだ。俺は笑いながら、ダイヤモンドをサイドボードに押しやった。そしてそのまま、次元の其処に自分の性器を宛がった。
「力、抜いてろよ」
ゆっくりと分け入った。よく慣らした肉壁は、じわじわと男の猛った性器を飲み込んでいく。次元はシーツを噛み、必死に歯を食いしばっていた。くぐもった呻きが漏れる。
「息しろよ、苦しいだけだぞ」
「うぅ・・・・・・くっ・・・ん・・・」
「ほら、大丈夫だって。な」
「う・・・ん、あ・・・あぁ・・・・・・んっ」
すべてを納めきるころには、二人とも全身が汗に濡れぼそるほどだった。重ね合う肌が滑る。
息が整う間もなく腰を動かした。痛みを堪えるかのように、次元の眉間はきつく皺が寄っている。だが、熱く濡れた内側は待っていたかのように、ぎゅうぎゅうと締め付けてくる。
たまらない。次元の両膝を掴むと、シーツに押し付けた。折り曲げさせた身体に、体重をかけて伸し掛かる。
「や・・・あぁ・・・」
次元が泣き声を上げた。喉を仰け反らせ、子供のように泣く。かまわず腰を動かす。逃すまいと、絡みつく粘膜。次元はなおもすすり泣きながら、自分から腰を振った。
「あ・・・・・・あ、あっ・・・」
「すげえな、吸い付いてくる」
「い、言わないで・・・くれって・・・・・・ああんっ」
浅く深く突き立てながら、俺は笑った。
「俺のが入るんだったら、本当にダイヤだって入っちまいそうだな」
次元はゆるゆると首を振るとちいさくつぶやいた。
「ルパンがいい・・・」
潤んだ目が俺を見上げる。力ない指が肩に縋る。
回らない舌で、次元は俺に必死に呼びかける。
「ルパンのが・・・欲しい。俺は、お前・・・が──────ああっ・・・!」
つぶやきをかき消すように、俺はさらに激しく次元の身体を揺さぶり続けた。










身体を離すと、荒淫に疲れて眠る身体は、ぐったりとシーツに埋もれた。 名を呼んでも、腕を引いても、次元はぴくりとも動かない。疲弊しきった身体は息を喘がせることすらしない。
それを確認すると俺は、初めて嘆息した。
次元の乱れた髪を梳き、頬を撫でた。口の端から髭に絡む唾液を親指の腹で拭い、眦に滲む涙を唇で吸い取る。
そして青ざめて眠る次元を腕に掬い上げた。
不意に、不二子の言葉が脳裏をよぎる。





────そして貴方は無様だわ、ルパン三世。
美しく弧を描く唇。だがその瞳は燃えるようだった。
不二子はさらに言葉を継いだ。詰る口調を隠そうともせず。
────たかだか似せた顔というだけで、引き金を引くことすら出来ない。その理由はいったい何?





確かにそうだ。
ワルサーに伸ばす手が遅れ、不二子が次元もどきを撃たなければ俺は死んでいた。
偽者が現れた瞬間それと疑った。風情が、どこか違った。
頭の中で算盤を弾き、たとえヤツが偽者であったとしても、おそらく次元自身は無事であろうと見当を付けた。
だが俺は────撃てなかった。
不二子の言葉は問いかけのかたちを取ってはいた。だが不二子は答えなど求めていないようだった。
当たり前だ、答えなど。
彼女にも俺にも知れている。





次元は俺の腕の中、身じろぎひとつしない。
馬鹿な男だ。
愚鈍で純朴で、周囲で交錯する思惑など何も気付けはしない男。





だが、その馬鹿にここまでイカレた俺はもっと馬鹿だ。





たまらずその痩躯をきつく抱きしめた。汗で湿る髪に顔をうずめる。
温かなぬくもり。胸に掛かるちいさな吐息。次元が確かに生きている証。





「・・・無事で良かった」
そうつぶやいた俺の声は、無様なまでに震えていた。










end










原作「ナサケ御無用」ネタ。




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