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ふたり









「ここにいたのか」
次元は、男の背中に声を掛けた。
ルパンは縁側に胡坐をかき、硝子越しに冬の庭を眺めていた。
昨夜から降り出した雪が、こじんまりとした日本庭園に趣きを添えている。
掛けられた声に首だけを差し巡らせて、ルパンの目が驚きに見開かれた。
「どうしたんだ、お前」
悪戯げに笑いながら、次元は着物姿のままルパンの隣に、やはり胡坐で腰を下ろす。
「五ェ門が着せてくれた」
「へえ」
「正月くらいきちんとしろとよ」
ルパンと次元は五ェ門に招かれ、正月を久々に日本で過ごすこととなっていた。
勝手のわからぬ客人よろしく、五ェ門の指図のままに慣れぬ風習に従うことは、なかなか面白い趣向だった。
これもそのひとつだ。
勝手もわからぬままに着物を着せ付けられたのち、ルパンの分も用意があるから捉まえてこいという五ェ門の言いつけに従って、屋敷の中をルパンの姿を捜して歩いていたのだった。
「お前の分も見たけどすごかったぜ。墨地に赤い模様が入っていて、歌舞伎役者みてェなヤツだった」
そう言う次元といえば、くすんだ藍色のお召しに変わり織りの中羽織、きちんと平袴まで着付けられ、なるほどちょっと見はいっぱしだ。
だがルパンはしみじみと言い放った。
「しかしお前────つくづく似合わねェなあ」
じろじろと不躾な視線を這わせ、なおも言葉を継いでいく。
「外国人が観光地のサービスでキモノを着せてもらったみてェだ。オー、ビューティフル・キモノ! ってな感じ」
「お前、言うにこと欠いて・・・」
着物に着られているのは自分でもわかってはいるのだが。
しかしあまりの言い草だ。次元は思わず肩をすくめた。
「いちおう日本人なんだがな、俺は」
ふと、ルパンが静かに笑った。
「生まれが、だろ」
次元はわずかに息を呑んだ。疼く胸の奥底に気付かぬ振りをして、そっと俯く。
「・・・そうだな、俺たちに国は関係ねェな」
それがたとえ、自分が生まれた場所であっても。
「根無し草だもんな、俺たちは」
次元も笑った、同じ表情で。





ルパンについていくことを決めたとき、次元はすべてのしがらみを打ち捨てた。故郷も、肉親もすべて。
後悔はしていない。
世界一自由な男の背を追うために。
どれほどの代価を払おうと、ルパンについていきたかったのは本当だから。
たとえ疎まれたとしても、傍にいたかった。
その気持ちは、今も変わりはしない。





「根無し草、か」
ルパンは次元の言葉を鸚鵡返しにする。そして俯いたままの次元の目を覗き込んだ。
覗き込んでくるその目はいつもどおり、不敵で悪戯げな────次元の惚れたその目だった。
「ま、それもいいんじゃねーの。風の吹くまま気の向くまま、枯れ草が空を舞うみたいに、二人で流れ流れていくのもよ」





確かに次元は根無し草なのだろう、それはこの先もずっと。
でも────ひとりじゃない。





次元は隣に腰を下ろす男の肩にことんと頭を乗せた。
「ん?」
その声のおだやかさ、不意に瞼の裏側に熱さを覚える。次元はやりすごすために目を閉じた。
「・・・寒いからな」
「そうだな」
ルパンがつぶやく。そして板間に投げ出されていた次元の手を取り、指を絡めた。
「寒いもんな、今年の冬は」
「・・・ああ」
次元は低く声を返すと、そっとその指を握り返した。










雪が静かに降り積もる、その年、最初の日の物語。










end










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