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the world





































































































それはほんの些細なことだ。
例えばいつものアジトの居間で。
いつものように相棒と二人、差し向かいに飲んでいて。
ちょっとした言い合いを楽しんで。
弾みで顔が近づいた。





いつもだったら顔の近さなぞ気にせず、大笑いに笑い飛ばすところを。
すこし熱くなった瞼を、ふと伏せてみた。
そんな些細なことで────世界は変わる。










ほんの一瞬で、世界は変わる









舌を刮げ取られるかと思うほどきつく口づけられながらソファに縺れ込んだ。
奪われた帽子は床に放られた。思わず目で追う。ありえないほどの至近距離で、ルパンの黒い目が猫のように笑った。
それだけで、動けなくなる。
唇が離れる。唾液が糸を引く。痺れ切った唇と舌は自分の意思で動かすことも出来ない。だらりと唾液が頬を伝い、髭に絡んだ。
「次元」
今まで聞いたこともないような深い声色で名を呼ばれた。背が震えた。
「いいな?」
何が────?
耳元の囁きに馬鹿な言葉を返しそうになる。こうまでなって、やることなんて後はひとつしかないはずなのに。
ルパンは返事を待たなかった。その代わり、また唇をふさがれる。その熱さに意識が溶けそうになる。
本当に溶けてしまえばいいのに。
馬鹿みたいなことを思う。
実際、馬鹿なのだと思う。
だがすぐに、そんな馬鹿みたいなことさえ考えられる余裕も奪われた。
毟るように釦が外されたシャツは胸を露わにされ左肩だけを抜かれ、中途半端に剥かれたまま二の腕に溜まっている。ズボンは下着ごと左脚に引っかかったままだ。ルパンは上着を脱いだだけ、ネクタイさえ緩めていない。
胸に舌が這い、昂ぶった性器をまさぐられる。きつく吸われ、腫れあがったように熱い唇では声を止める手立ても見つからず、次元はなす術もなくソファの上、ただ身を捩じらせていることしか出来なかった。
「ん・・・ぁ・・・・・・あぁ・・・っ」
仰け反った弾み、飛んだ汗がソファの張り地に衣魚を作る。
非日常を当り前のものとして生きるふたりの、ここは数少ない日常の場所だ。
こんな場所で────思う端から、その思考が快感に崩れる。
仰け反った喉を吸われ、背を、尻を撫で回される。
女じゃねえんだぞと目の前の男を詰りたかったが、自分の肌がそれを裏切る。ルパンの熱い掌の感触に、否が応にもテンションが上がる。
「あ・・・あぁ・・・・・・はっ・・・あぁ・・・」
女のような喘ぎ声が耳を打つ。その声は確かに悦んでいて、身の置き所がないほどの羞恥に焼かれてしまいそうだった。
「もう、こんなにしやがって」
声をわずかに上ずらせて、ルパンが笑った。鈴口を親指の腹でぐりぐりと嬲られる。思わず身を竦めた。痛いのに、それを上回る快楽が身体を駆け巡る。
「すげえ濡れてる」
乳首を噛まれた。鋭い痛みに脳髄まで痺れる。痛いだけ────なのに腰が揺れる。
「痛いのが好きなんだな、お前は」
「言うな・・・ァ・・・・・・」
こぼれる息が火のように熱い。その間にも男の節張った指は性器を包み、擦りあげる。そこがとろとろとぬめるのが自分でもわかる。息が上がる。
不意に両腿の裏を掴まれ、ルパンの手で引きはだけられた。熱の上がった肌が夜気に触れる。
思わず首をかしげた。そんな次元を見て、にんまりとルパンが笑う。そして次元の下肢に顔を伏せる。意図に気付いて、思わず肩を掴んで止めようとする。だが残されたシャツが腕に絡み、それすらも叶わない。
「よ、よせ────あっ」
性器を口に含まれた。奥深く飲み込まれ、舌がねっとりと絡む。
こういう真似をされたことがないわけじゃない。だが。
内腿をくすぐる相棒の短く硬い髪。いつも軽口ばかり叩く唇が、いまは何も語らず猛った自分の性器のかたちを辿るように上下する。見慣れた頬が、歪なかたちに蠢く。
「や・・・」
ありえない。信じられない。
そんな気持ちとは裏腹に、身体はその行為を素直に悦ぶ。思わず腰がせり上がる。
その様子に、口に含んだままルパンが笑った。歯の先が微かに触れて、肌が粟立つ。なだめるように腰を揉まれ、気が逸れる。すると今度はきつく吸い上げられた。
「あ・・・んっ・・・」
体内に波が湧き上がる。身を任せようとしたところを、ルパンの唇が離れてしまう。
「んな、不満そうな顔すんなって」
からかうように笑いながら、ルパンは身体を起こした。
途惑う次元の目の前で、ルパンはネクタイを引き抜き、シャツを脱いだ。西洋の血の混じったその肌は硬質に白く、夜の空気に映えた。
次元の見とれるその隙に下着ごとズボンを取ってしまうと、今度は次元の身体に纏いつく衣服を取り去る。そして肌を擦り合わせるように抱きしめられた。自分の熱さを忘れるほど、ルパンの肌も熱かった。
それだけで、また息が上がる。浅い息、だが長くは続かない。
不意にうつ伏せにさせられ、両肩をソファに押し付けられた。そこを男の身体が伸し掛かる。
ルパンの手が腿の内側を這った。竦んだ肌をなだめるように掌が蠢く。それに気をとられる内に尻の狭間を指が撫でた。
「ひっ・・・」
いつのまにかぬるぬるとしたオイルのようなものに濡れたその指は、ゆっくりと其処をくすぐる。何をされるか察して慄く気持ちとは裏腹に、身体はあっさりと刺激にほぐれた。
耳に口づけられ、舌が耳殻を撫で上げた。抱きこまれた腕の中、くすぐったさに身じろぐ。そこへ、指が入り込んできた。
「あ────」
オイルのせいか痛みは感じなかった。だがほんの指先が埋められただけだというのに、強烈な異物感が次元を襲う。ソファに唇を押し当て、低い呻きを必死で逃した。
もうほんのすこし、指が入り込んでくる。浅い位置で、中を確かめるように指が遊ぶ。それとリズムを合わせるように、もう片方の手が、次元の性器を弄び始めた。また少しずつ追い上げられてゆく。
さらに指が入り込んでくる。しかし次元はその動きに自分の身体が抗う気をなくしたことを知った。
やわらかく中を撫でられる。ゆったりと抜き差しされる。下腹がぼんやりと熱を生み、それは全身に広がっていくようだった。
「んっ・・・んっ・・・」
さらにオイルが足されたのか、ぐちゅぐちゅと其処が水音を立てる。まるで女のように。その音にも煽られる。どうにかなってしまいそうだった。
・・・こいつと閨を共にする女も、こんなふうに扱われるのだろうか。
ふとそんなことが脳裏をよぎる。
ルパンのセックスは時として女を篭絡し、屈服させる手段だった。
厳重に隠された宝を盗み取るように、ルパンは女の心を暴き、奪い取る。
────そんな風に、俺の全部を引きずり出されてしまうんだろうか。
相棒にことさら隠し事をしたことなどなかったし、それ以上にルパンはほんの些細な事柄から事実を見明かす天才だった。
しかし、自分の奥底に眠る何かが蠢きだすのを感ぜずにはいられない。それが漠然とした不安を呼んだ。
どうしよう────次元は後背に覆いかぶさる男を振り返ろうとした。
それを見透かすように両手で腰を掴まれた。ぐいと引かれ、上体ごとわずかに引き摺られる。
「・・・入れるよ」
宣言は唐突だった。
熱いものが押し当てられる。と、すぐにそれは次元の中へと押し入ってきた。
オイルで散々に濡らされ、ほぐされたせいだろうか、男はじりじりと着実に入り込んできた。下腹を押し上げてくる圧迫感に息も絶え絶えになる。
「・・・う・・・ぐ・・・っ・・・」
「息、吐け・・・・・・そうだ」
「うぅ、んっ・・・んっ・・・」
息を吐くと、すぐさまルパンが分け入ってくる。全身に汗が伝う。
身体が奥から切り裂かれるように痛む。だが、切り裂かれた端からとろりと疼くような快楽が湧き上がる。内側から男を迎え入れるように、内壁が絡み付いていくのがわかる。
「すげえ・・・な」
ルパンが喉で笑った。
「俺のを締め付けてる・・・わかるか?」
考える余裕もなく、次元は頷いていた。途端、体重を掛けられる。さらに深く入り込まれる。喉が詰まり、腰がくだけた。
「んんっ・・・」
またぐいと、其処が締まる。
「これで・・・男相手は初めてなんてな」
からかうような口ぶりに、すこしカチンと来る。喘ぐ息の下、思わず言い返した。
「てめえは・・・あるのかよ」
「ないよ」
あっさりと、ルパンは言った。
「お前が初めてだ」
「そっか・・・」
本当に初めてかどうかなんて知らない。ルパンが嘘を吐く気なら、次元を騙すことなど容易い。それは百も承知だ。
だが、ルパンが初めてだと口にすること自体に吃驚した。
驚いたせいかもしれない。無意識に、言葉がするりと口をついた。
「お前もそうなら・・・いいや」
「────ふうん」
言い様、うなじをきつく吸われた。
「あっ・・・・・・」
鋭い痛みが首筋を走り、身体が跳ねた。そこを抱き込まれ、腕の中に閉じ込められた。
捕らえ切った獲物を良い様に扱うかのごとく、悠々とルパンは腰を使った。
「あ・・・あっ」
紛れもない快感が全身を貫く。幾度も幾度も張り詰めた性器に内側を掻き立てられて、知らず身悶えた。封ぜられた腕の中、次元はしゃくりあげ、もどかしく腰を揺すった。
「・・・いいのか」
かすれたルパンの声が遠く聞こえる。次元は頷いた。
身体に回されていた腕が離れ、ルパンが上半身を起こす。膝裏を掴まれ、さらに脚を広げさせられた。中の角度が変わって、また別の場所を突かれる。
「ああ・・・っ」
腰をぎゅっと掴まれて、挑みかかるようにルパンが覆いかぶさってきた。
幾度も押し入られ、何度も揺すりあげられる。
ルパンはすぐさま次元の内側にある弱みを見つけ出し、そこばかりを攻め立てた。いつしか次元も、其処で快楽を得るすべを見つけ出していた。
「ひ、あっ、ああ、あ・・・っ」
次元はもはや艶めいた声を上げるのを憚る気さえ起きなかった。
ルパンもふいごのように荒く息を吐きながら、幾度も幾度も次元に腰を叩きつける。汗の粒が雨のように、次元の背中に落ちてくる。噛み殺してもなお響く唸り声は、ルパンもまた深い快楽を得ていることを伝えていた。
そのとき次元の胸は、確かに喜びで疼いた。
しかし、それに浸る余裕はなかった。
「あっ、あ・・・・・・あああぁぁぁ・・・っ」
ひときわ強く突き上げられ、次元はびくびくと腰を震わせながら吐精した。ルパンもさらに数度突き立てると、やがて次元の中に精液を放つ。
熱い脈動が、そのまま中に注ぎ込まれる感触に嘆息を漏らす。
ルパンの手が、いとうように褒めるように、次元の肌を撫で回した。
しかし後戯の筈のその動きは、すぐに熱っぽいものとなってしまう。そして次元の肌もそれに応えるように熱を上げていくのを、次元自身、もう止めようもなかった。










引かれ損ねたカーテン。大きな窓から燦燦と、朝の光が寝室に降り注ぐ。
日差しがいつもよりも眩しく見える。ろくすっぽ寝てないからだ。
そしてそのろくに眠れなかった理由の共犯者は、次元の傍ら健やかな寝息を立てていた。
(魔が差したってヤツかねえ・・・)
あれからルパンの寝室に場所を移し、さらに身体を繋いだ。狂ったように声を上げ続けた喉が痛む。腹の底にはまだ深い棒杭を飲まされたような感覚が残っていた。
それにかまわずごろりと寝返りを打つと、隣の男を横目で見やる。ルパンは裸のまま、次元に背を向けて眠っている。
裸なんか見飽きるほどだったし、状況によっては同衾もあった。
裏社会ではいつまでも切れないルパンと次元の仲を邪推する者もあったし、あれこれとまことしやかに言い立てる者もいた。
(だけど、まさか本当にこんなことになっちまうとはなあ・・・)
どうしたものやら。起きてから何度目か、次元はため息を噛み殺す。
不意にむくりとルパンが起き上がった。次元は思わず飛び退る。とそこは狭い寝台のこと。次元の身体は鈍い音を立てて床に転げた。
「・・・痛ェ・・・」
「朝から元気なこって」
「うるせえ」
床に座り込んだまま、思わず唇を尖らせる。ルパンは苦笑混じりに寝台の端に腰を下ろした。その目の奥が、わずかに翳った。
「・・・・・・?」
「悪かったな────昨夜は」
ルパンの手が伸びる。髪をくしゃりとかき混ぜられた。
「部屋に戻っちまっても、良かったのに」
ルパンの指は、すぐに離れた。そして笑いながら、次元から視線を逸らせた。
(あ────)
不意に気付いた。ルパンはなかったことにしようとしてくれている。
途惑っている俺を、混乱している俺を、仕方のないヤツだと苦笑い。
それで何もかも御破算にしてくれようとしている。
それに気付いた瞬間、次元を襲ったのは────安堵ではなかった。
「次元?」
いぶかしげにルパンが振り返る。
次元はかまわず触れたルパンの手を掴むときつく引いた。思わぬ方向から力が掛かったせいか、ルパンの身体はあっさりと倒れ込んできた。固い床に折り重なる身体。触れた裸同士の胸が呼吸に合わせて上下する。
「お前なあ・・・」
繰言は聞き流して男の手を握り直し指を絡めた。指をぎゅっと握るとルパンも握り返してくれる。温かな、指。
どうしてだかは理由はわからない、だが。
その手を離したくないと思った。
ルパンはかすかに息を呑んで、それから我に返ったように大げさなため息を吐いた。
「後悔しても知らねえぞ」
至極まじめな顔つきで覗き込んでくる。
だがその口ぶりがどことなく拗ねた子供を思わせて、次元は堪らず声を上げて笑った。





世界が変わったところで、俺は俺に変わりはない。
だってこうしていつもどおりに笑っていられる。
いつまでも笑い止まない次元を見て、相棒からすこし違う何かに変わった男が、しょうがねえなあとつぶやき、そして笑った。
いままでに一度も、見たことのない笑顔で。










────ほんの一瞬で、世界は変わる。










end










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