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追っ手を振り切り、ルパンの後を追って要塞の地下へと降り立った次元と五ェ門は、そこで思わぬ光景を目にした。
「何だありゃ、どっちが本物だ?!」
次元が頓狂な声を上げる。
ただ広いその一室、ルパンはサーベルを手に敵と剣を交えていた。敵────だが、どちらが敵なのだろう。次元と五ェ門は表情を固くした。
相向かい合う二人。それはどちらもルパンだった。少なくとも、ルパン三世の姿を取っていた。
容貌から服装から少しも違わぬ二人のルパンが、激しく打ち合う。狙う切っ先をかわし、そして踏み込んで相手に迫る。すでに最初に目にしたルパンがどちらのルパンであったかさえわからない。
その正体だけは既に知れていた────ミスターX。ルパンを宿敵と付け狙う、犯罪組織スコーピオンのボスだ。幾度となくルパンに挑み、その都度、返り討ちにされてきた男。
シルクロードの小国、ココダット王国の王女ヤスミンが誘拐され、その奪還を国王から依頼されたときから、ルパンはそれが自分を呼び出すミスターXの策と気付いていたようだった。
事件の細工にミスターXの気配を察したのか、ここまで自分に固執する相手が他にいなかったからなのか、それは知らない。
(執着心を募らせてこのザマか)
おそらくミスターXはルパンに化けるために相当の努力を重ねたに違いなかった。文字通り骨を削り、肌を移し変え、喉を裂いて声帯に器具を埋め込む。仕草を盗み取り、言葉を己が物とするためその思考を解読する。この男を殺すために────それは哀れなまでの妄執だった。
胸の内、次元は嗤う。まるで自嘲のように。
その間も、剣戟は止まない。どちらも一歩も譲らない。刃と刃のぶつかり合う鋭い金属音が地下にこだまする。
このままでは埒が明かない。ふと次元はにやり笑った。
「ああ、見分ける手がひとつだけあるか」
そうする間にも一人のルパンがもう一人を部屋の片隅へと追い詰めた。振り下ろされる刃を受けて、受け止めたサーベルの刃がへし折れる。
「これまでだな」
ルパンが笑った。
ままよ、と次元は二人の前に歩み出た。二人のルパンが振り返る。顔つきも表情もまるで変わらない。二人とも自分の知るルパンとしか思えない。動揺を押し隠し、次元は言った。
「加勢してやるから答えろ、どっちが本物のルパンだ?」
折れたサーベルを手にしたルパンが、もう片方にきっと指を突きつけた。
「次元、俺が本物のルパンだ。信じられなきゃ仕方がねえが、こいつの手に掛かってくたばるのはごめんだぜ。せめて親友のお前の手で殺してくれ」
声もまるでおなじ・・・・・・本物のルパンとそっくりだった。
次元は迷わず引き金を引いた。
「────うわあぁぁ!」
銃弾は、違わず左胸を貫いた。野太い叫び声を上げ、偽ルパン、否、ミスターXが倒れ伏す。折れたサーベルが床に転がる。次元は肩で息を吐くと、背中のシャツとベルトの間にマグナムを収めた。
「なぜ・・・なぜわかった、私が偽者だと」
くずおれたままミスターXが次元を振り仰ぐ。もうルパンとして取り繕う余裕も必要もなく、声はかつて敵したミスターXのそのままだった。
次元はその顔を睨み据えた。こうして見ても、まるで同じ。ふつふつと湧き上がる怒りに任せて声を上げた。
「本物のルパンなら、せめてお前の手でなんてもったいぶった台詞、吐きゃしねえや。恥も外聞もなく泣き叫ぶさ。助けてくれってなァ!」
言い様きびすを返すと、ルパンと五ェ門がぽかんと見ていた。微かに肩をすくめる。
「・・・そこまでいうの?」
長年連れ添った相棒の言い放った決然たる台詞。ルパンはがっくりと肩を落とした。










偽物の恋









王女を無事取り戻し、ルパンたち三人は早々にココダット王国から立ち去った。やはりルパンを追ってきた銭形のことは、王国の首相カシムに任せてきた。
ルパンは王国に出向いて早々に自分たちに振舞われた大仰なもてなし振りを思い出しほくそ笑む。あのときは辟易させられたが、今となっては好都合だ。おそらくルパンたちが悠々と姿を消す頃になってようやく、銭形は王国を挙げての歓待から解放されることだろう。
砂漠をジープで駆け抜け夕暮れ時、三人は寂れた安宿に差し掛かった。先ほどの要塞への侵入で五ェ門が足を負傷していたこともあり、好都合と三人は転がり込んだ。
簡素な食事を取り、五ェ門を寝かしつければ後は砂漠の夜、もう何もすることはない。
「ま、方法に難ありとはいえ、やーっぱ持つべきものは相棒だよな。ん、それとも愛の力か?」
次元へと宛がわれた部屋のソファに反っくり返り、ルパンは呵呵と高笑う。次元はベッドに寝転がったまま、振り返りもせずに鼻を鳴らした。
「バカか、お前は」
「ひっでーの。感謝してんのよ、これでも」
ルパンは立ち上がると、勢い良くベッドに飛び込んだ。男の手首を掴み上げると、もう片手で次元のネクタイをほどきにかかる。
「いい加減にしやがれ!」
次元の蹴りがルパンの腹に思うさま決まった。ぐえっとつぶれた蛙のような呻き声が転がりだす。思わず掴んだ手が緩む。その隙に次元はルパンをベッドから蹴り出した。
「隣には五ェ門がいるんだぞ。この安普請の壁越しにセックスなんざ出来るか」
「その安普請の壁を承知でセックスセックス言うなよなー」
床にへたり込み、腹をさすりながらルパンがぼやく。
次元は微かに頬を染めたが、すぐに低く言い返してきた。
「今更じゃねえか。お前と俺との腐れ縁なんて、五ェ門だって百も承知だ」
「腐れ縁って酷ェなあ。最初に抱いた十四の頃から、こーんなに大切にしてるのによォ」
「・・・お前まさか、ミスターXなんじゃねえだろうな」
ベッドの上、乱れた前髪の隙間から、次元がぎろりと睨みつける。
どうやら先ほどミスターXの声色を真似て次元たちを驚かせたのがずいぶん勘に触っていたらしい。ルパンは慌てて首を振った。
「さっきの声色はただの物真似だって。本物よ、俺様は」
「どうだかな。本物のルパンがこんなこと言うかよ」
次元が吐き捨てる。それがどこか自棄な響きを帯びていて、ルパンはわずかに首をかしげた。違和感が拭えない。それでもそ知らぬ顔で、ルパンは苦笑した。
「何つーかなあ、次元ちゃん俺のこと何だと思ってるのよ」
「おっちょこちょいの女ったらしで取り得のない奴」
「お前なあ・・・」
「少なくとも、俺に真意や本意を気取らせるような男じゃねえことだけは確かだな」
天井を睨み据えたままの次元の横顔は、硬く厳しい。たまらずルパンは笑いかけた。
「俺の本意くらい、それこそ次元ちゃんは百も承知でしょ。お前に惚れてるってさ」
「はっ、本意ね────お前らしくもない」
立ち上がり、今度は静かに次元の上に身体を重ねた。緩く抱き寄せる。次元は抵抗しない。だが視線は揺らがず、虚空を見つめ続けていた。
「じゃ、こうしてお前に愛を語ってる俺様は、お前にとっちゃ偽者ってこと?」
「愛なんて語ってねえじゃねえか。遊びだろ、お前にとっちゃよ」
次元は伸し掛かる男の身体を押しのけて、ベッドから降りた。緩められたネクタイを締めなおすと、ルパンに背を向ける。
「五ェ門の様子を見てくる。足の怪我が身体に障ってなきゃいいんだが」
「次元」
咄嗟に肩を掴む。次元は足を止めた。身体を寄せて再び抱き寄せる。肩に顎を乗せ、耳元に囁いた。
「本気でそう思っているのか?」
次元が息を呑む。途惑った唇が二、三度蠢き、そしてきつく唇を噛んで俯いた。
腰に回した手に力を込める。やがて次元が声を絞り出した。
「他は全部お前の思い通りにしているんだ。そのくらい、俺の願いをかなえてくれてもいいじゃねえか・・・・・・三世」
「それがお前の“本意”か、次元」
腕の中の身体が強張る。ルパンは次元を腕に掬い上げると、そのままベッドに放り投げた。
「うわっ?!」
古いベッドが男の身体を受け止めかねてか鈍い音を立てた。絡むシーツを払う、その腕を捻り上げた。
「ルパン!」
「お前は俺の気持ちなんざ知ったことじゃないんだろ。だったら俺だってそんなもんに構う義理はねえ」
次元の喉がひくりと震えた。視線が絡む。きつい視線に負けたように、次元が瞼を伏せる。ルパンは低く空笑いを漏らすと、次元のシャツを毟り取った。





諦めに身を任せた身体からすべて衣服を剥ぎ取る。自分もすぐに全裸になると肌を合わせ、四肢を絡ませる。感じ入ったような呻きが次元の唇からこぼれた。
「隣が・・・」
それでも繰言を呟く唇。軽く触れ合わせ、ルパンは笑った。
「いつもみたいに次元ちゃんが、あんあん声を出さなきゃ大丈夫」
濡れた目に睨まれる。だが異を唱えることなく、次元は唇を噛んだ。それを解くように、唇を触れ合わせた。
次元の肌の熱が上がる。掌で撫で上げると、敏感な肌はすぐに粟立った。
顎を掴んで、唾液を流し込む。自分もテンションが上がったのは、次元の肌の熱さを意識しなくなったことですぐに知れた。
「────ん、んんっ」
次元があまく呻く。絡めた舌はやがて互いに請いねだる動きへと変わってゆく。唇が離れると、次元は鼻にかかった吐息を漏らした。
ルパンは微かに唇を歪めた。
慣れた肌、慣れた行為。こんなに簡単に次元は自分の手の中に落ちてくる。
こんなに容易いのに、それでもそれを許せない次元の奥底。
首筋に口づけながら、胸を撫で回す。すぐに硬くなった乳首が掌に当たる。次元の頬にかっと血が差した。だが許す気は起きない。
膝で脚を割り開き、太腿で次元の性器を探る。既にきざした其処をぐいぐいときつく擦り上げる。
「・・・んっ・・・んっ・・・」
きつく噛み締めた唇は、それでもすぐに色を取り戻す。背中に腕が縋った。許しを請うのか、それとも求めるのか。どうともつかない曖昧な仕草で指が背を辿る。
肌に舌を這わせた。もう何年となく飽かずに抱き続けている肌。焦らずに高めてゆく。その繊細な舌の動きに、次元の喘ぎはすすり泣きへと変わった。
やわらかく胸を吸い、勃起した性器を撫で回す。次元が指を噛むのも咎めず、ただひたすらにそれを続けた。
次元の体液で濡れた指を尻の翳りに差し込む。ルパンに慣れた其処は、何度か指を往復させるだけで、待ち望んでいたかのようにそっとほころび始めた。
「ルパン・・・」
次元が喘ぐように呟く。
「ルパン、頼む」
ようやくルパンは顔を上げた。片頬を引き上げると、次元は微かに震えた。
「どうした」
次元は泣き出しそうに顔を歪め、それでも必死に言葉を紡ぐ。
「口・・・ふさいでくれ」
次元の下肢はすっかり張り詰め、ルパンの指を含まされた其処は、耐え切れぬように絡みついている。声は出せない、でも限界なのだと、次元の瞳が訴える。
「かーわいいおねだりだこと」
汗に紛れて涙を伝わせる頬を撫で、眦に口づけを落とす。次元はそれを従順に受け止めた。ルパンはくすりと笑うと、願いどおり唇を重ねた。
「んっ・・・・・・」
舌を吸うと、次元は無意識なのだろう、満足げなため息を吐いた。ふだんは垣間見せもしない、閨だけの挙措。
ルパンは唇を合わせたまま次元の脚を抱え上げた。そして逸る気持ちのまま、強引に男の身体に入り込む。
唇を繋げたまま腰を回す。重なった肌を汗が伝う。
古いベッドがぎしぎしと軋む。だがそれを気にしている余裕は、ルパンからも失せた。
互いに腰を揺らめかせながら、二人は飽かず身体を繋ぎ続けた。










ベッドに寝転がったまま、小さな窓を仰ぎ見た。夜空に月。カーテンも引かなかった窓から、埃っぽい部屋を白い月光が差す。
「三世、ね・・・・・・」
ルパンは大きくため息をつくと高く脚を組んだ。傍らでは次元が泥のように眠っている。その頬を月が照らし、濃い影を作った。
次元がルパン帝国の再興に心を砕いているのは知っている。
ルパン帝国────祖父であるアルセーヌ・ルパン一世が構築した、全世界に跨る犯罪組織。ルパンはかつて、その頂点に君臨していた。
次元もその一員だった。だが帝国の乗っ取りを企てたキングの策に抗うことが出来ず、その崩壊に手を貸した。妹を人質に取られ、ルパンを殺そうとさえした。それを、いまだ気に病んでいるのだろう。
アルセーヌ・ルパン一世に見出され、そして二世にも目を掛けられた次元にとって、ルパンは相棒────恋人である前に「三世」でしかないのかもしれない。
その帝国の後継者が定まった恋人も持たず、よりにもよって男に入れ込んでるなんてのは、ヤツにとっては誤った事態なんだろう。たとえそれについて、次元自身の感情がどうであったとしても。
だが。
「組織の親玉って柄かあ、俺がよォ?」
ルパンは低く笑った。
キングを殺し、そしてルパンは世界を放浪することに決めた。
何物にも囚われない、それがルパン三世であると悟ったから。そうであるべきだと心に決めたから。
そして次元はそれに従う。それがどれほど次元自身の心に叶わぬことだとしても。
すっかり力の失せた身体を抱き寄せる。汗ばんだそれはルパンに添い、しっとりと肌に馴染んだ。
偽物なのかもしれない。それでも自分はこの心を手放すことが出来ない。
「────ごめんな」
濡れた髪に顔をうずめ、ひっそりとルパンは呟いた。










end










新ル第65話「ルパンの敵はルパン」ネタ。




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