ふたりきりだね
今夜からはどうぞよろしくね





「・・・って歌、あったよな」
「何?」





引越しを終えたばかりの新居はまだ生活感がない
それでも寝室には大きなベッドが、これ見よがしにその存在感を示していて
夜の静けさの中、栄純は思わず頬を染める




降谷が後ろから抱きしめて首筋にキスを落とすのに、くすぐったそうに身を竦めながら、そんな風に、昔流行った歌を思い出したのだった





「お、俺、昨日はすっげー楽しかった!」
「・・・僕は早く帰ればいいのにって思ってた」
「んな事言うなよ、皆せっかく来てくれたのに」




沈黙が訪れる事を恐れて栄純が言うと、降谷が心底嫌そうに眉を顰めたので
思わず噴きだしてしまう




昨日は、先輩達が結婚祝いという(名の飲み会?)名目でどっと押しかけ
夜通し騒ぎまくった



2人の新居



その言葉が持つ意味を栄純はちゃんと理解していたから
ほっとしたような拍子抜けしたようなそんな気持ちだったのだけど




今夜からは・・・





「長かった・・・」
「え?」



栄純の肩口に顔を埋めて、ため息とともに降谷は呟く



「早く、君の全てが僕のものになればいいのにってずっと思ってた」
「降谷」
「長かったよ、今日まで」



2人が『恋人同士』になってからもうすぐ3年になるのだけどキス以上の発展はしなかった
その影に降谷の涙ぐましい努力と我慢の日々があった事を、栄純はとても良く知っている




「降・・・」
「名前で呼んでよ」
「さ、暁」




だからどんなに恥ずかしくても、恐くても、その日が来たら逃げたりはしない
ずっと前から心に誓っていたのだ





(いや、恐いことなんて何もないはずだろ?)





勢い良く振り返って、栄純は降谷に抱きつく
出会った頃は華奢だった体躯が今ではこんなにも逞しい
照れ隠しのようにすりすりと胸板に頬を押し付けると、一瞬固まった降谷は嬉しそうに目を細めて栄純を抱きしめた









新しいベッド
おろしたてのシーツ



その真ん中でお互いの服を脱がしあう



「ほら、バンザーイ!」
「・・・何かデジャブ」




言われるがままにバンザイして、スポッと着ていたシャツを頭から引っこ抜かれると降谷は首を傾げる




「お前が爪やった時、風呂入るの手伝ったじゃん」
「・・・ああ」




あれは1年の頃だ
無邪気に自分に触れる栄純を何度恨めしいと思ったか




「じゃ、君もほら」
「おう!バンザーイ♪」




(いや、今もか・・・)





色気なんてものは皆無
勢い良くシャツを引っこ抜くと、健康的に焼けた肌が現れる



男だから胸があるわけでも柔らかいわけでもない
なのにこんなにも自分を煽ってくるその姿に、瞬きすら忘れたように降谷は見惚れていた




それに気づいた栄純は真っ赤になって慌ててシーツを被る




「あ、あんま見んなよ!」
「やだ、もっと見たい」
「や、ちょっ・・・」





頭かくして尻隠さず、の言葉通りに丸見えだった栄純の下着をスルリと下ろすと、日に焼けていない尻が現れる
ゴクリと息を呑みながらそっと撫でるとビクリと大きく体を揺らした栄純はこれ以上ないという位に真っ赤な顔で、ほんの少し涙を浮かべながら振り返った




「・・・っっ!!お前も脱げ!!」



真っ赤な顔のまま、ガバッと襲い掛かってきた栄純のしたいようにさせていると
2人は言葉の通り一糸纏わぬ姿になり
じゃれあうように押し倒したり押し倒されたりしながら、お互い、全身にキスを落としていく





「・・・・・・」
「・・・・・・」





暫くの間そうしていたのだけど、不意に目が合い
どちらからともなく目を閉じる




「暁」
「栄純」







初めてのキスの時より、緊張するね



降谷が言った





!!




その瞬間、コツンと鼻がぶつかってお互い目を丸くする
それから声をたてて笑った





初めてのキスの時と同じ
色気もムードもあったもんじゃない





だけどたったひとつ、大切な事がわかっていればそれでいいのだ






「・・・愛してるよ」
「俺も!!」






もう一度、今度はちゃんと重なった唇には幸せの笑みが浮かぶ











2人の甘い初めての夜は、まだ始まったばかりだ









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