クリス先輩にお願い! 〜仲人編〜 「コラ、沢村寝るな」 「寝てませんっ!」 教本を開きつつ白目を向いている沢村にデコピンして 「降谷・・・お前は堂々と寝すぎだ・・・」 「・・・・・・」 机に頬をべったりつけてヨダレを垂らしている降谷の頭をノートを丸めて叩く 「降谷寝るなっっ!!クリス先輩が貴重な時間割いてくれてんだぞ!」 「・・・・・・」 「・・・お前も寝てただろ」 「ぐっ・・・」 「全くお前達は・・・」 ルーキーズの教育係を余儀なくされたクリスのため息は日々回数を増していく 夏が終わって、役目も終わりと思っていたのに またまだ手のかかる後輩たちの指導をまかされたのは、別にいい 困るのはそんな事ではなくて 「もー!起きろっての!」 「・・・うーん」 「眠いのはお前だけじゃねーんだからな!!昨夜だって俺眠いのに・・・!」 頬膨らませながら体を揺する沢村の腕を掴んで降谷はやっと目を開ける 「・・・そんな事言うけど、もう一回しよって誘ってきたの君の方じゃない」 「!!」 「そんな事言われて、僕が我慢出来ると思ってるの?」 「わーーーー!!バカ!バカバカバカ!!」 ・・・これだ 毎晩のようにこんな痴話げんかにつき合わされるのはいかがなものか この1年投手'Sがいわゆる『恋人同士』という意味で付き合っている、という事は クリスしか知らない 別に彼だって知りたかったわけではなかったけれど 夏の予選の頃からこんな風に2人まとめて面倒見ている内に『良き相談相手』から『キューピッド役』(言い換えれば、2人がまだお互い意識始めた頃から付き合い始めるまで)に、否応なしにされてしまったというのが真相だ 「お前ら、ヤル気がないならやめるぞ」 「すんません、クリス先輩・・・!降谷、お前マジで起き・・・っ」 「ヤル気なら、あります」 何のヤル気だ!? 不意に真面目な顔になって沢村を見つめる降谷と うっすら頬を染めながら降谷を見つめ返す沢村 「降谷・・・(何だよ、カッコイイじゃねーかvv)」 「僕、頑張るから(早く終わらせて、したいし)」 勘弁してくれ・・・ クリスはガックリと肩を落とす 「あるならいい、続けるぞ」 「はいっ!ところでクリス先輩!」 「何だ?」 「実は、折り入ってお願いがあるんですけど」 何だかんだとクリスは沢村の『お願い』には弱い バッテリーを組んでいたというのもあるが、バカで、一生懸命なこの後輩を何だかんだと気に入っているのは間違いない 広げた教本の向こうから、はにかみながら自分を見上げてくる沢村の頭をくしゃりと撫でると、嫉妬に満ちた降谷の視線を感じて苦笑いする 「お願い?」 「・・・降谷、お前からもお願いしろよ」 「え、僕?何を?」 2人からのお願い? それはまた何か嫌な予感がする・・・クリスは思わず顔を引きつらせる だいたいこういう予感は当たるのだ 「アレだよ!昨日も話したじゃん」 「・・・アレ?昨日?」 「忘れたのかよ」 「・・・いや、忘れないよ、だって君が初めて口で・・・」 「何の話だ!?」 「ち・がーーーう!!そーじゃなくて!!」 「付き合いきれん、部屋に戻る!」 バカップルには付き合っていられない、と席を立ったクリスは次の瞬間固まった 「だから!俺らの仲人になってもらうって話だよ!」 「・・・ああ、そうだったね」 仲人・・・? なこうど・・・?? 仲人・・・!? 「意味わかって言ってるのか?」 ズキズキと痛むこめかみを押さえながら言うと、至極真面目な顔で2人は頷く 「勿論っす!」 「わかってます」 「・・・・・」 「夏休み終わる頃、俺ら、実家に帰ったじゃないですか?」 「・・・ああ」 「その時、降谷と付き合ってるって言ったら両親とかじいちゃん大騒ぎで」 「・・・だろうな」 「えっちももうしたって言ったら、だったらちゃんとケジメつけろって言われて」 「ウチのおじい様にも話したら今度沢村を連れて来いって」 「・・・お前らどんだけオープンなんだ・・・」 「お互いの家族で話し合いして、正月休みに帰った時に式を挙げる話になったんです」 「入籍は、まだ出来ないから式だけね」 「・・・・・(急展開だな)」 「で、色々お世話になってる大好きなクリス先輩に俺らの仲人になってもらいたくて!」 「・・・・・(しかし何で俺が!?)」 「先輩にしか頼めないんです!先輩に頼みたいんです!!よろしくお願いしやす!」 「お願いします」 突っ込みたいところは多々あるけれど 2人の真剣な姿に気圧されて、クリスは思わず頷いた 「やったぁ!やったな、暁!」 「良かったね、栄純」 他人の前では決して口にしない、お互いのファーストネームを呼び合って喜ぶ姿に 唖然としていると、いつの間にやら辺りにはピンクのハートが飛び交っているような、甘い空気が漂いだす 「冬には俺、降谷?」 「僕が沢村になってもいいけど?」 「どっちでもいい、暁とずっと一緒にいられるなら」 「・・・僕もだよ」 見詰め合いながら、どちらかともなく顔を近づけ 唇が触れ合うか合わないかという所を冷たい本の表紙に邪魔される 「お前ら、俺がいる事忘れてないか?」 「はっ!俺っ・・・!恥ずかしいっ!!」 「僕は気にしない」 「少しは気にしろ!・・・いや、もういい・・・とにかく今日はここまでだ」 「えーー?」 何だか疲れた・・・ はぁ〜〜っとため息をついて、席を立つ 「クリス先輩!」 「・・・まだ何かあるのか?」 「俺、幸せになりますね!」 「僕が幸せにします」 「いや、俺が幸せにしてやるんだ!!」 「僕が・・・」 「俺が!!」 また、始まった・・・と思ったら 「・・・じゃあ、2人で幸せになろ?」 「・・・・・・おう!」 そう言って幸せそうに笑いあう2人を見て 肩を竦めながら、結婚も悪くないかもと小さく呟いたのだけど これから先の事を考えるとやっぱりクリスは頭が痛いのだった・・・ さて、どうする・・・? |