夢のつづき 夢を見ていた どんな夢だったか、目覚めたらほとんど忘れてしまっていたけれど 隣りで誰かが笑っていた そして自分も笑っていた ただそれだけなのに、何だかすごく幸せだった気がする 枕元に置いてある目覚まし時計を手に取れば夜明けもう少し くぁ・・・と欠伸をひとつして数回瞬きをすれば、見慣れた天井の幾何学模様が、カーテンの隙間から忍び込む月明かりにぼんやりと浮かびあがる しばらくそれを眺めていると、静かな部屋に響く息遣いに気付く それは己のものではない だけど、とても心地の良いもので その存在は『沢村栄純』と言った 所謂、真田のコイビトだ 傍らでまるで猫の様に丸くなって眠りこける栄純に 真田は思わず笑みを浮かべてシーツに散らばった柔らかな髪を指で掬い上げる いつもキリリとした眉がふにゃ、と警戒心なく下がる事も 大きな目を縁取る睫毛が意外に長い事も 起きている時は憎たらしいことばかり紡ぐ唇がこんなにも甘い事も 知っているのは自分だけ いつからだろう、こんなに彼に溺れている自分に気が付いたのは 最初は敵だった 他校で、学年も違くて、接点など何もない もしかするともう二度と会うことはないかもしれない、そんな存在 だけどもっと知りたいと思った、触れたいと思った 怒った顔も、笑った顔も、泣き顔も 全てを自分のものにしたい その感情を何と言うのか 出会った頃はまだまだガキ臭かったのにな・・・ 丸みのとれた頬のラインを指で辿るとむずかるように頭を振る 眉間と目元にちゅっと音を立ててキスを落とすと、覚醒していないのに無意識に不服そうに口を尖らせるのに思わず苦笑して真田は「はいはい」と、弾力ある唇を優しく食んだ 「・・・ん・・・」 その瞬間、ふわりと栄純が笑った気がした 頭で考えるよりも先にカラダが反応する もう一度優しく額にキスを落として、自分より小さな体を抱き寄せる 「・・・真田サン?」 さすがに目が覚めたらしい栄純に名前を呼ばれて、真田はポンポンと宥めるように優しく背中を叩いた 「わりぃ、起こしたか?」 「ん・・・もう朝?」 「まだ。もう一眠りするか」 「うん」 コクンと頷いて真田の厚い胸に頬を寄せた栄純はへへっと笑って言った 「何か、今すげー幸せな夢・・・見てたかも」 「どんな?」 「んー?忘れたけど」 「何だそりゃ」 そう言うと、口を尖らせながらぐしゃぐしゃと髪を混ぜる しばらく栄純の好きにさせていたけれど、子供のようにいつまでも拗ねている恋人に苦笑しながら形勢逆転とばかりに腕を掴んで強引に組み敷いた 「なぁ、栄純」 「・・・う゛、な・・何?」 滅多に呼ばない名前を呼ぶと真っ赤になってうろたえる可愛い恋人 「俺もさっき夢、見てた」 「へ?」 「どんなだったか、忘れちまったけど」 「何だよ、ヒトの事言えねーじゃん!」 「すげー幸せな夢だった・・・・気がする」 「うん」 「誰かが笑ってて、俺も笑ってて」 「誰かって・・・もしかして俺だったり」 からかうように笑った栄純は 不意に真面目な顔になった真田に目を瞠る 「ああ、そうか」 「え?」 ・・・お前だ」 思い出せなかった夢の 思い出せる余韻 幸せに満ちた、この甘くてほんの少し切ない気持ち お前が笑ってて 俺も笑ってる それが幸せ ずっと探していた答えを今、見つけた 『愛しい』 その言葉の意味を 「なぁ、栄純・・・ずっと側にいろよ」 「何だよソレ」 「夢の中でも、お前は俺のものなんだからな」 「・・・バ、バカッ」 それはまるでプロポーズにも似ていて 恭しく指先にキスをした真田は真っ赤になった栄純の耳元で真田は甘く囁いた 「愛してる」 夜明けに溶けていく睦みごと そうして2人、幸せな夢の続きを見るのかもしれない |