君が知ってるはずないんだ、僕の誕生日なんて。 でも、もしかしたら、君が来てくれるかもしれないと。 そんなありえない夢を見て、僕は手を動かす。 と、そこに見知った顔が現れた。 「なんでケーキとか焼いてんの?お前、今日、自分の誕生日だろ」 「ジーンこそ何しにきたんだ?」 手を止めずに問い返す。 「俺はお前の誕生祝いと偵察を兼ねて」 そう言いながら、面白くなさそうな表情でこちらをみる。 「……お前、仕事だってわかってるんだろうな?」 「わかってるよ」 …たぶん。 わかってる。 「油断させるいい機会だろ」 そう言いつつも、手は止まらない。 決まってる、ことなんだ。 僕と君の人生は君を殺すという一点でのみ、交わるんだ。 そうでしょう? 「誕生日なもので、ケーキを作ってみたのですが……姫もいかがですか」 そんなことを言って、君と一緒に過ごしたかった。 そんなこと、あり得ないもの。 もう、いいや。 手を止める。 「ジーン、これ全部食べていいよ」 そう言って机の上を指差す。 「は?これ全部、か?そりゃ食べろといわれれば食べますけど」 机の上を見回して、再度確認する。 「……いいのか?」 僕は頷く。ジーンは席について食べ始める。 「ま、お前が“浮気”しないっつーんなら別にいいけど」 そんな何年も前の約束を覚えてたんだ。 「ジーン。僕を誰だと思ってる?」 少し、目を細める。 「リオウ、だろ?」 こちらも見ずにジーンが答える。 「お前が今も俺の知ってるリオウなら、いいよ」 ジーンの知ってるリオウ…… どういう、意味だ? 僕が黙っているとジーンが続ける。 「それがわからないのなら、楽士なんてやめて、帰って来るんだな」 食事を終えて立ちあがる。 「じゃ、ご馳走様」 そう言って手を振って出て行く。 机の上には空になった皿が並ぶ。 作り出すのにはあんなに時間がかかったのに、消えるのは一瞬。 ――人も、同じ。 僕は。 君を、殺してしまいたいんだろうか。 あの時の、君だって、わかった上で。 それでもなお、殺せるのだろうか?君を。 君と同じ顔をしたカイン様も。 指令があれば、いつものように仕事をするだけ。 僕は自分にそう言い聞かせて、部屋の片付けを始めた。 〜Fin〜 楽士同盟様企画ページへ 王宮二次創作サイト・白いチラシへ 2006.3.6 この後に姫が訪ねて来ておろおろするリオウが見たい。 |