◆リオウ◆

君に一年半ぶりに会って、当面は城に滞在を許されて。
そんな時、君が言った。

「今まで会えなかった分のあなたの誕生日をしましょう?二年分!」

もちろん受けた。
だって、僕の人生は君のもの。
僕は君の傍にいられれば何でもいいのだから。

食事に、と呼ばれて行ってみると、カイン様も一緒だった。
一緒に食事を、と誘われたから二人きりかと期待したのに。
そう思うからかカイン様も多少、面白くなさそうな様子。
僕も…そんなに面白い訳ではない。
でも君は少しはしゃいでいて、楽しそうで、それだけは救いだった。

食事が済むと、バルコニーに出て二人になった。
カイン様もそこまで無粋じゃなかったらしい。
それとも、もしかして気を利かせてくれたんだろうか。
しかし……僕の可愛い姫は本当に何を考えてるのか読めないね。

不意をついて後ろから姫を抱きしめる。
姫の温もりを感じていると安心する。
「ひーめ。一緒に食事を、というから、期待したじゃありませんか」
少しだけ、拗ねて見せる。
誕生日を祝ってもらえるのはもしかしたら初めての事で、期待し過ぎたのかもしれない。
本当はそんなに怒ってはいない。
「え?あ…ごめんなさい、そういうつもりじゃなかったの」
「そういうつもりじゃなかったらどういうつもり?」
でも……なんだろうな。
君に隠し事はしたくないし、君の考えてることを、知りたいと思う。
「だって、私と一緒じゃないとカインは一人で食事を摂る事になるんですもの」
――ああ。

納得はするけどなんとなく腑に落ちない。
そんな僕をよそに君はまた付け加える。
「もう、カインとは二人きりの家族だから」
そう、だけど。
……この姉弟はいつまでもこうなのだろうか。

君は僕が一番だと言ってくれるし、実際そうなのだと度々感じるけれど。

どこかで――どうしてもカイン様には敵わない。

両思いのはずなのにいつまでも僕だけが片思いしてる気分だよ。

でもそれなら。
もし、もしも。
僕がカイン様と同じ立場になれば、その気持ちも変わるだろうか。
もちろん、それだけじゃないけど。
もっと、君の近くに、いたい。

「ねえ、姫」
そう言って、君の肩に手を掛けて、顔を覗き込む。

「僕を君の家族にしてくれませんか」

ずっと、考えては、いたことを口にする。
君は、一瞬顔を赤く染めて、返事とは違うことを話し始めた。
「えー…と。あなたの誕生日、といったけれど私、誕生日の贈り物は用意してないのよね」
少し慌てていて、恥かしがっているのか目を合わせようとしない。
「異国の書物とか、短剣とかも考えたのだけど……会えない間に趣味が変わっているかもしれないし」
贈り物なんて、君がいれば、なんだっていいのに。
「それでね、あなたへの贈り物は……私、なの」

その瞬間、確実に息が止まったと思った。
このまま死んでも、きっと僕は幸せだろう。
まあ、僕はもう君のものだから、君の許可なく死んだりしないけど。
「だから、今日……私をあなたのものにしてくれる?その、形の上でも」
それは、僕との結婚を、望んでくれていると、そう取ってもいいんだろうか。
「あなたの傍にいたいの。ずっと、ずっと」
「……姫」
それだけを、やっと絞り出す。
他に、何と言えばいいのかわからない。

最初は君の命を狙った。
次は君のための道具でいい、そう、思った。
その後、君に……愛されたいと思った。

その君が、僕のものに、なってくれると言う。
僕が本当に欲しいものを、君が、くれると言う。

誕生日という日は、生まれてきたことに感謝する日でもある。
でも、そんなことを、本当に、本当に実感したのは初めてだった。
自分で望んだ答えなのに、声が出なくて、何度も頷いた。
「お父様とお母様とカインに誓ってくれる?」
僕の様子を見て安心したように少しだけ笑う君。
言葉の代わりにぎゅっと体を包みこんだ。
「あなたが待っていて欲しいって言うから、私その間に嫁き遅れになってしまったのよ」
僕が黙っているからか、照れ隠しかそんなことを言う君。
だめだよ。ちゃんと知ってるよ。
旅をしている間も君の情報はいつも気にしていたのだから。
でも、僕を気遣ってくれた気持ちを嬉しく思う。
「ありがとう。君が産まれて来てくれて、僕に出会ってくれて…そして、僕を愛してくれて」
本当に、嬉しい。
「あら。私だって、リオウのお父様とお母様と、育ててくださった方に感謝したいわ」
一族、に…?
今はもうなくなってしまったことを思えば、確かに、楽しいと思える時間もあった。
少し、少しだけ思い出していると姫が僕を現実に引き戻した。
「……もちろんリオウにも、ね」
なんだか君には一生敵わない気がする。
僕に、人の愛し方を教えてくれたのは君なのだから、仕方がないのかもしれないけれど。
この新しいやり方で、やっていくしかないし、やっていきたいと思う。

そうなると…
僕はゆっくりと姫を離すと、正面に回った。
ゆっくり、息を吐いて、吸って。

「もう取引なんて言わない。君が好き。愛してる。だから、僕と一緒になってくれませんか」
改めて口にすると緊張する。
答えは既にわかっているような気もするし、全くわからない気もする。
でも何度でも、言いたいし、君に……僕を受け入れて欲しい。
「喜んで」
そう言って、君は僕の手を取って、自分の手をそっと重ねてくれる。

僕はその感触を自分が信じられるまで何度も確かめた。


〜Fin〜




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2006.3.6

誕生日飛び越えネタはやっとかないと!と思って。

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