そんな表情をされると、 ……いたずらしたくなる。 その時、強い風が吹いて、外に出ていた私の目に何か入ってしまった。 いた、いたたたたたた。 痛い。 こういう時は下手に触らない方がいい。 涙で、流してしまうのだ。 誰かに見られると恥かしいから近くにあった樹の影に寄る。 ハンカチをそっと当ててゴミが流れてしまうのを待った。 しばらくするとだいぶ落ちついた。 お天気はよかったけれど、こう風が強いのでは部屋にいた方がいいかもしれない。 そう思って帰ろうとした時、誰かの急ぐ足音が聞こえた。 だんだん、音が近付いて来る。 あれは…リオウ? 何をそんなに急いでいるのかしら。 「リオウ、どうしたの?」 声を掛けるけど、少し怖い顔をしている。 「姫、それはこちらの台詞です。何かあったのですか」 何か? わからなくて首を傾げるけれど、リオウは私の顔をみつめている。 いえ、顔と言うより、目、かしら。 あ。 さっき泣いたから、変な顔しているとか? 早く部屋に帰ってみなくては。 「何でもないわ。大丈夫よ」 言って、横を通り過ぎようとすると腕を捕まれた。 「姫!僕には言えない、ことなの?」 怒っている、というより少しだけしょげたような表情。 その時、リオウの勘違いがわかったような気がした。 では、確認してみましょう。 「もしかして心配してくれてる?」 頷くリオウ。 「私が泣いてるのが見えたから、駆けつけてくれた、とか」 またも頷く。 心配症なんだから。 でも、嬉しい。 「大丈夫。何でもないわ。目にゴミが入っただけよ」 「……本当に?」 疑り深い、というか前に一度そう言って誤魔化したことがあるから、よね、きっと。 今日は本当、だけど。 必死の表情のリオウ。 何だか、そんな可愛い表情で心配されると……いたずらしたくなっちゃう。 「私が泣くとリオウが困るの?」 言ってみる。 「僕は何からも、君を護ってあげたいんだ」 そう言って抱きしめられる。 ふふ。可愛い。 「こうやって、抱きしめて…大事にしたい」 抱きしめられると私からはリオウの顔は見えなくなる。 だからこれは彼なりの照れ隠しでもある筈。 しばらくリオウの温度を感じながら抱きあって、顔を上げて顔を見ようとすると目を逸らされた。 そしてそっと私を放して距離を取る。 急になくなった温度を寂しく思いながらリオウを見ると顔を赤くして俯いている。 下から覗きこむと右へ。 右から覗き込むと左へ。 反対側に回ればまたそっぽを向く。 頬が赤い。 言ってから恥かしがるのよね、いつも。 ちょっと面白くなってリオウの周りを回ってみるけれど目は合わない。 どうしても後ろは取らせてくれないので少し考えて、今度は私から抱き着いてみた。 「ちょっ……姫!離して、ください」 抵抗するけど、それはそんなに強いものではない。 その証拠に振り払われたりはしない。 もちろん、加減してくれているのだろうけど。 「どうして?私まだリオウと一緒に居たい」 ますます真っ赤になるリオウ。 しばらく何か言いたそうに口をもごもごさせて、叫んだ。 「わかりました、話します。話しますから、離してください!」 リオウが言うので腰に回していた手を離す。 するとそのまますぐには抱きつけないくらい距離を取ってしまう。 それがあまりに露骨なのでちょっと傷付いた。 「えー……その、何でしょうね」 いつになくうろたえた様子で辺りを窺うリオウ。 沈黙が流れて行く間、じっと手を見て考える。 何となく、腕の中の温もりが消えて行くのが寂しい。 離さなければ、よかったかしら。 もう一度抱きつこうかと顔を上げるとリオウと目が合った。 一歩踏み出す。 「あの、警戒心とか」 リオウが一歩下がる。 「僕だって、一応男な訳ですから…」 もう一度踏み出す。 近くまで行って、見上げると観念したのかもう逃げない。 「そんなつもりじゃなかったのに、君が…その、可愛くて」 そこで一旦、言い淀むリオウ。 しばらくして小さな声でこう付け加えた。 「……欲しくなるから」 え、あら。そうなの? 「君が泣いてるのを見ていてもたってもいられなくなったのも本当だけど」 慌てたように更に付け加える。 「君を抱きしめたら、その、何だか我慢できる自信がなくなって」 今度こそ真っ赤な表情をして黙るリオウ。 苛めすぎちゃったかも。 少し思いつめているようなので軽く、あくまで軽く言う。 「別にいいのに」 欲しい、と言ってもらえるのは嬉しいのよ。 「だめですよ、そんな弱みにつけこむようなことはもう、したくない」 ああ。 まだ、最初の時のこと、気にしているのね。 ではもう一つ、大義名分。 「いいのよ。今日はリオウの誕生日、でしょう?」 そう、今日はリオウの誕生日。 「ああ。そうでしたか……誕生日」 やっぱり忘れていたのね。 少し笑って、聞いてみる。 「何か欲しいものは?」 「それなら……君が欲しい、かな」 ちょと戸惑いながらも答えるリオウ。 もう、そんなの…いつだっていいのに。 それから私とリオウは連れ立ってリオウの部屋に帰り、それなりに仲良く過ごしました。 〜Fin〜 楽士同盟様企画ページへ 王宮二次創作サイト・白いチラシへ 2006.3.6 恋人以上でならタイミングはいつでも。むしろ仲良くしましたって辺りを詳しく書くべきだったのかもしれないと後で思いました。いたずらっこは…はずかしいですね(笑) |