copyright by Twentieth Century Fox Film Corporation The X-Files is a trademark of Twentieth Century Fox Film Corporation ***************************** この作品は、RIOSA個人の楽しみのために作ったのが始まりであり、一切の営利目的に 基づきません。 また、本作は「Will&Dana club」シリーズ作品であると同時に、アダルト作品でもあります。 個人的にはこういったものに対する適齢は年齢ではないとは思いますが、成人としての良心に基づいて 18歳未満の方は、速やかに読むのを中断していただくよう、お願いいたします。 加えて、18歳以上の方でも「性行為」に対して疑問や抵抗のある方には、本作はお勧めしかねます。 その辺りを、ご理解の上で呼んで頂ければ幸いです。 ***************************** Description for Will & Dana club Serial number:003 Condition:For Adult ***************************** True & first night RIOSA SKY-LAND MOUNTAINからワシントンに戻ってきた夜はさすがに二人とも疲れていて、ただ抱きしめ合って ぐっすり眠った。 というのは、建前で、モルダーの方は熟睡するスカリーの寝顔を見ては溜め息、美しい体の線を眺めては 首を振って見ない振り…という、いわゆる「蛇の生殺し」状態に苦しんでいた。ベッドを分けたら眠れるか もしれないと、モルダーが起き上がりかけると、スカリーの白い手が彼の首を健気に探し始めるものだから、 モルダーは完全に身動き出来なくなっていた。 それでもまあ、失いかけた彼女をこうして腕の中に収めて寝顔を見られるのだから…。 そう無理矢理に自分の本能と煩悩を説得して、モルダーは夜が明けるころやっと眠りについた。 夜は明けて、太陽は何事もなかったようにまた地球を照らし始める。 温かい腕の感触に、スカリーは微笑みながら目を覚ました。視線を上げると熟睡しているモルダーの寝顔。 安心感と喜びが沸いてきて、スカリーは彼の胸の辺りに顔を擦りつけてみたりする。それからきゅっと抱き ついてみる。肌の感触とまるで胎児の気分にさせてくれる優しい心拍音が、彼女を包んだ。 なんという幸福感。 女の幸福な時間とは、こんなところに転がっていたりするものなのだと、今更ながら彼女は幸福感に酔い しれる。しかし、彼の背中を撫でていて、ふとあの傷に指が辿りついたとき、スカリーは体が硬直するのを 感じた。 自分が彼につけた傷……それは、目を背けることを許されない確固たる証拠。 ---ジブンタチハコイビトニナルマエニ、ネテシマッタノダ スカリーは、まるで火傷をしたときのように腕を引っ込めた。 ---------------------- ---------------------- 「ダナ?」 しっかり彼女お手製の朝食(といっても、ほとんどブランチの域に達した時間と量だったが)をたいらげた モルダーが、声をかけたとき、スカリーはぼんやりと自分のスクランブルエッグをフォークでかき混ぜ続け ていた。 「え?」 自分がどれくらい哀れな卵達を攻撃していたか、気付いていなかったらしいスカリーはただふと手を止め て、モルダーを見た。その、きょとんとした眼差し。 「その…腹が減ってないのかい?」 あまりに彼女が自分のぼんやり具合に自覚がないので、モルダーはどう声をかけたものか途方にくれなが ら声をかける。その言葉にやっと自分の皿とモルダーの皿を比べて、スカリーは自分を取り戻した。 「あ!あのね、そう!久しぶりに人のためにご飯を作ったから、あの、味見をしすぎたみたいで…」 頬をほんのり染めながら、スカリーは言い訳をまくし立てた。モルダーは、彼女が何を考えているのか、 まだ掴めずにいる。だから敢えて、何も言わずにその場は微笑むだけにした。 「具合が悪いって訳じゃないなら、出かけないかい?」 ---------------------- ---------------------- 「これなんか、どうかな?」 「きっとお似合いですわ!ぜひご試着を」 モルダーがスカリーをつれてやってきたのは、ここ、デパートメントストア。 あれこれ服を手にとってはスカリーの体に合わせてみる。そんなモルダーの姿に戸惑うスカリー。 彼にとっては、こんなこと、彼女に対して当たり前のようにすることなのかしら? その疑問はそのまま、モルダーがいくつも恋愛を経験してきたのだろうかという疑問に結びついて行く。 「ダナ?」 黒いワンピースを手渡されたまま、ぼんやり立ち尽くしているスカリーに、またモルダーは声をかける。 「え?」 朝食のテーブルと、同じようなとんちんかんな彼女。 「黒は嫌いかい?ダナ?」 「いえ、そんなことないわよ、モルダー」 慌てて楽しそうに彼女は笑顔を作って、服を自ら体に当てる。その姿を事件のレポートでも読むような 真剣な顔つきでモルダーが眺める。 「うーん…黒より赤の方が似合う気がしてきた」 「そう?赤はちょっと派手じゃない?」  片手に黒の、もう片方の手に赤いワンピースを持ち比べて、スカリーが首を傾げる。 「いや、こっちがいいな。赤を着てごらんよ」 「あなたがそう言うなら着てみるわね」 そう言い残して、彼女は試着室に消えた。 「まだお付き合いはじめたところ?」 おしゃべりな店員が声をかけてくる。 「うーん…まあ、そうかな。どうして?」 「だって、彼女、ファーストネームで呼ばないのだもの。きっと職場恋愛だわねって、みんなで言ってたの」 少し驚いた顔をしたモルダーに、彼女はウィンクして図星ね、と笑った。 「モルダー、どう思う?」 言われたそばから、スカリーの彼を呼ぶ声。 やっぱりこんな時間は「モルダー」は勘弁してもらわなきゃな。 心で大きな独り言を呟いてから、美しいに決まっているワンピース姿の彼女を見るため振り向いた。 --------------------- --------------------- 「今日はたくさん服を買ってくれてありがとう」 夕食も外でというモルダーの希望で、二人はワインを傾けている。 「君のスーツ姿は今まで堪能してたけど、他に知ってる服は、色気がなかったからね」 「失礼ね!見せなかっただけで、私服だって少しはあるのよ」 かわいらしく頬を膨らませて、彼女は甘えるように怒って見せる。やっとプライベートな態度になってきた スカリーにすっかりモルダーは喜んで、恋人らしいジョークのつもりで軽口をたたいた。 「ダナ、男が服を買うってのは脱がすためなんだよ?」 言った瞬間のスカリーの表情に、モルダーは内心あせった。「しまった」と「これだったのか」という気持 ちが入り交ざる。 スカリーは軽く息を飲んで、一瞬硬直して、そして微笑んだ。 その笑顔の消え入りそうな小ささに、モルダーはさらに慌てていた。 「ごめんごめん、ちょっと時間が早かったかな?」 必死に取り繕うモルダーに、スカリーも笑わなければと、必死になった。 「いやだモルダー!そんな台詞ちょっと古いんじゃない?」 ぎこちなく微笑み合う互いの表情を見ながら、二人はそれぞれじれったさをもてあまし始めていた。 子供じゃあるまいし… --------------------- --------------------- シャワーの音がかすかに聞こえる寝室で、スカリーは強張った自分の顔を鏡で見ていた。 あの時の自分のこと…モルダーに話さなくてはならない。 彼女は確かに彼に薬を盛った。それは睡眠薬。 しかし彼女もあのとき自分に薬を盛っていたのだ。 どちらかといえば、高価な薬だった。それに彼女はもう、それを使いたくない。真実の自分を、彼に対して 誤魔化している気がするから。 でも、もしモルダーが失望した顔をしたら? あのときと違う自分を、彼はどう思うだろう…… モルダーの愛情を感じた時間の分だけ、スカリーは恐怖に怯えていた。 おかしいとは、モルダーも思っていた。 「先にシャワーを浴びておいで」 そう言っただけなのに、彼女はもう恐れるような瞳で彼を見た。そしてできれば自分に先にシャワーを使って 欲しそうだった。 初めてではない。 あの夜の彼女はとびきり甘くて、優しくて、そして恐れなく自分を受け入れていた。だから、今夜は確かに 恋人になっての「初めて」かもしれないが、そう堅くなる必要もないはずだった。それなのに、あの怯えるよ うな、まるで出来たら避けたいかのような、理解できない反応の数々。 もしかしたら、あの夜の感想が実はいいものでなかったのかもしれない。 男としては、考えられる可能性はここまでだった。その考えに行きつくと、モルダーもにわかに自信がなく なってくる。 互いの思惑を見抜けないままで、寝室の電気を消す時間は近づいてゆく。 --------------------- --------------------- お酒に逃げ道を求めることはたやすいことだと、二人とも知っていた。そこまで子供ではないし、ましてや 互いの気持ちは分かっている。 けれど… 高ぶりも、期待も不安も、戸惑いも切なさも、相手を慮るあまりに伝える術を見つけられずにいる。 「モルダー」 「ダナ」 同時に声をかけてしまい、また機会をなくす。 「なに?」 「なんだい?」 TVすらつけられず、静かな部屋で互いを見詰め合う。 モルダーはTシャツに短パン、スカリーはバスローブ。 互いの新鮮な姿に、心臓の音を感じながらも、それを誉め合う余裕すら持てないまま。 先にスカリーが目をそらした。 そのときモルダーの目に入ってきたのは、昨夜「昨日の分」として自分がつけた跡。 あんなに派手に主張しておいて、彼女に今手を伸ばせないなんて情けない。 「昨日の分」は、「今日のモルダーの気持ち」を後押ししてくれた。 「…ダナ、二人のときは『モルダー』はやめないかい?」 はっとしたように、モルダーを見上げるスカリーの視線は、彼女の不安を映し出すように力無く、震えて いるかのようだった。 男として、今彼女のためにすべきこと。 やっと、モルダーはそこに辿りつこうとしていた。 たとえ今の彼女がそれを望んでいなくても、二人で乗り越えなければならないもの。 恋人としての「first night」は、いつだって、どんなときだって、そして誰とだって特別なもの。 ましてや、それが一度でも関係したことのある相手ならばなおさら。 モルダーがその手を、差し出す。 「寝室に…行こうか?」 --------------------- --------------------- 濡れた髪は半乾きで、ぱさりとシーツに音を立てる。 「ダナ…」 頬に、額に、そして瞼に。 口接けを丁寧に落としてゆく。バスローブの紐は、遠慮がちに解かれた。 スカリーは何も言えないまま、彼の唇の温度で全てがもう始まったことを感じ取っていた。 「ダナ、平気かい?」 耳朶まで染まりながらも震えているのを見て、さすがにためらいを覚えたモルダーが囁きかける。その、 吐息の熱さと優しさに、スカリーは微笑む努力を自分に課した。 「ええ、もちろんよ」 泣き出しそうな笑顔。 いっそ泣き出してくれたら、この興奮に雨を降らせてくれたら…モルダーは半ば舌打ちしたいような気分 になっていた。 本音を言えば、もう止められない。でも理性が彼女の不安を感じ取っている。スカリーは、納得せずして 快楽にその身を任せられるような女ではない。モルダーは混乱してきた。 「ダナ…愛してるんだよ、君を抱きたくて、恋人として早く抱きたくて仕方がない。…でも君は…その、君 は違うのかい?それとも前の時になにか嫌なことを僕がしたのか?」 言い始めた途端張り裂けそうに目を見開いて、スカリーが見詰めているのを知りながら、言葉を止められ なかった。大きな青い瞳が、伏せがちになって涙をこぼしだす。 「違う…違うの…」 少女のようにいやいやをして、スカリーは泣きじゃくる。彼女もまた混乱している。 どうしてこんな不器用なことになってしまったのか、ベッドの上は溢れかえった感情でごった返しになっ ていた。 「ごめん…」 急速に冷めてゆく興奮と立ち戻ってくる理性の狭間で、モルダーはぼんやりと呟いた。白いシーツの上で は、美しい赤毛が波打っている。薄く部屋を照らす光を頼りに、モルダーはそっと手を伸ばして、その髪に 触れた。拒まれないことを確かめながら、ゆっくりと撫でてゆく。髪の先から続いてゆく剥き出しの肩が痛 々しくて、そっとシーツをかけた。その気遣いの気配に、スカリーがうつぶせになって泣いていた顔を上げ る。 「ダナ…」 「違うの、嫌だとか…そういうことじゃなくって…」 言いにくそうな彼女に、これ以上自分の想いを強制してはいけないと感じたモルダーは、その唇に指を当 て、続きを制した。 「いいんだよ。…急に恋人になりきってくれって言うほうが無茶だった。すまなかった。…でもこれだけは 信じてくれるかい?君を大事に想っていないとか、そういうわけじゃないんだ…こんなに傷つけるなんて思 わなかったから…」 自分の中の優しさを搾り出すようにして、モルダーは言葉を紡いだ。これまでの人生で、彼はベッドでこ んなにもためらう女を知らなかった。過去の彼女達はみんなモルダーと寝ることが好きだったから。彼女た ちが一瞬拒んでみせたりしたのは、後のお楽しみを引き立たせるためのものでしかなかった。モルダーに とっても、彼女たちにとっても、抱き合うことは互いを確かめ合うのにこよなく簡単な方法だったから。そ れはスカリーと重ねてきたような、心の結びつきより、ずっと分かりやすい結びつきだったから。モルダー の考えでは、既に別の方法で結びついている二人が、こんな簡単な結びつきの前で気まずい足踏みをする必 要はないはずだった。 「違うの。ごめんなさい、私…もっと早く言わなきゃいけなかったのに…怖くて言えなかった…今からでも、 聞いてくれる?」 深い茶色の瞳が、優しさをにじませて自分を見る。この人の前で嘘をついている理由などないと、スカリー は自分に言い聞かせながら、モルダーに視点を合わせていった。モルダーが、何も言わずに頷いて視線で彼 女に続きを促す。それでもスカリーには、彼の瞳を見てこの話を続けられる勇気はなかった。 「…モルダー…あの、腕枕…かりてもいいかしら?」 照れながら尋ねてくる彼女のいじらしさに、モルダーは思わず微笑んで彼女を腕の中に収めた。シーツ越 しに伝わる素肌の感触と小さい体が、またモルダーにいとおしい気持ちを呼び起こす。 「私の……体のことはよく知っているわよね?女の体ってね、モルダー…すごく実用的に出来ているの…。 そういう機能がないって分かってから、私から性欲ってものがどんどん消えて行くのが手に取るように分かっ たわ。分かるかしら…つまり、もう何年も私はセックスをしていないの」 自分を抱きとめるモルダーの腕が、少し震えたのをスカリーは感じた。そっと顔を覗きこむと、彼女が何 を言わんとしているのか、掴めていないようだった。仕方なくスカリーは、説明を続けた。 「あの、つまり…、もう私の体は退化しちゃってるってことなの。子宮は調べる度に収縮していってるみた いだし、刺激反応も悪いみたいで…。あ!あの、この前はね…あのときは最後だと思っていたから…私、ホ ルモンと促進剤を打っていたの……。ごめんなさいモルダー…私…」 何も言わないモルダーにスカリーの不安は募る一方だった。だんだん声が震えだして、ついに彼女は言葉 につまりはじめる。その瞬間、声の震えの行方をモルダーが唇で受け止めた。やわらかな下唇を甘噛みした 後、舌先を滑り込ませて行く。 「…んっ…」 スカリーの白い喉が鳴る。呼吸の限界になって離れた濡れた唇をぬぐいもせず、突然の長い口接けの意味 を尋ねるように彼女は目を開けた。そこにあったのは、モルダーの笑顔と頬に当てられた温かい掌。 「ダナ…君は本当に僕を誘惑するのがうまい。…つまり君は自分のことをまるで処女みたいだって告白して、 僕を誘ってるってことだよ?バカだなあ、ダナ、そんな素敵な内緒話をいままで隠してたなんて」 今度こそ、彼女を微笑ませることが出来るように、モルダーはおどけてみせた。スカリーの頬が柔らかく 崩れてゆく。 隠し事はなくなった。お互いの気持ちはもう、はっきりと見えている。 にっこり微笑み合って、もう怖いものはない。 “Dana...Say you love me and you want me” モルダーの声が、薄い闇に溶けていった。 --------------------- --------------------- この前は、ただ彼を自分の体に記憶させたかった。ひたすらにそれだけの想いだった。 今度は、違う。これからの二人のための「初めて」だから。 だから彼女は目を閉じる。彼が導く方向を自分が信じていることを、彼に知らせたくて、伝えたくて。 「…ダナ…」 自分が「彼の彼女」であることを、こんな囁きが教えてくれる。その指がそっと首筋から、体の線を伝い 始める。体が記憶する彼の指の動きに、スカリーは自分の産毛がそっと波立つのを感じた。 彼女に一度でも「恐い」と思わせてはいけない。モルダーはどうかすると逸りたって、折れんばかりに彼 女を抱きしめそうになる衝動をなだめすかしていた。自分に今夜の旅は任せたというように、瞳を閉じて腕 を首にかけてきたスカリーの仕草が、新鮮で愛しかった。 「何処に行くの?」 「どんな事件だっていうの?」 「勝手に行動しないでよ!」 聞きなれた彼女の事件の前の台詞。本当は今夜のこの旅にこそ、彼女はそう聞きたいことだろう。でも彼 女はそれを聞かない。恐くないといえば嘘に決まっている。 不妊症の女性がセックスを拒む例は少なくない。それが何も生み出さないから、それを痛感するのが恐い から、だからセックス自体を拒む。本当は、温かい安らぎを求めているのに、変わらない愛を渇望している のに、自分に足りないものがあると思うだけで、もうその手を引っ込める。そんな症例を、彼は大学時代に 学んできていた。だから、さっきの彼女の話が、自分にとってはたわいもないことでも、彼女にとっては不 安で怖くて、自分を拒みたいほどの悩みだったことは理解できていた。 それでも、ためらいながらでも、今夜の彼女は手を伸ばし、打ち明けてくれた。  その勇気。そのけなげな愛情。  「…愛してるよ、ダナ」 他にどんな言葉があるだろうか? その白い胸元には二種類の跡が刻まれていた。薄いものは先週の彼が夢中で刻み込んだもの、濃いものは 昨日の彼が安心のあまりつけずにいられなかったもの。まるで花びらのようだとモルダーは思い、一番濃い 印をつけるべく、唇を添わせた。そうしてそのままそのふくらみの先端を口に含む。ぴくんと、スカリーの 体が小さく跳ねた。その反応をうかがいながら、軽く歯を立てる。スカリーが眉を寄せたのが、暗闇の中で もモルダーには見えた。 スカリーの呼吸の間隔が短くなっているのを確認しながら、モルダーはその指を腿に伸ばしてゆく。汗で 湿った肌が、吸いつくように手に添ってくる感覚が心地よかった。そのままゆっくりと腿を押し上げ、隙間 を作って行く。 「あっ」 短い叫び声。モルダーの唇が、思いがけないところに移動していたせいだった。静かな部屋に淫蕩な音が 響いて、その残響にスカリーは頬を染める。彼の肩に自分の足首は掛けられていて、薄目を開いてその光景 を見ただけで、彼女は汗が噴き出すのを感じた。 「…ダナ…君の味がしてきたよ?少しは良くなってきた?」  ふと愛撫を止めて、そんなことを聞いてくるモルダーに、スカリーの方は恥ずかしさのあまりなにも答え ることができなかった。しかし体の芯がゆっくりとだが、熱を帯びていっていることは、直接そこに触れて いるモルダーには明らかなことだった。  まるで学生時代の数学の復習のように、スカリーの体は次々と彼女の公式を思い出して行く。 「…ぁ…そこ…」 不意にモルダーの舌先が探り当てた敏感な場所に、呼吸が喘ぎに変わる。 「ん?ここ?」 肌に泡が咲き始めたスカリーの反応に、すっかり嬉しくなったモルダーが、今度はそこを指で探る。ひと きわ甘くなった声が、彼に準備ができつつあることを教える。 「ダナ」 最後のシグナルに指を滑り込ませて、その狭さを確認する。額に汗を浮かばせたスカリーが、潤んだ瞳を 開いて頷いた。自分の首筋に彼女の腕を絡ませる。 「…いくよ?」 こんどは、返事を待たずに進入した。スカリーの悲鳴にもならない殺した声が耳に届く。十分に濡れては いるものの、やはりそこは狭いようだった。ゆっくりと体を押し進めてゆく。 「…くっ…」 スカリーが歯を噛み締めて、それでも彼を抱き寄せてくる。 時間をかけて、二人はやっと互いを繋ぎ止め合った。優しい熱さの中で、互いの存在を確認し合えた喜び に、自然と微笑み合う。 「…愛してるわ、ウィル」 綺麗な泣き顔のスカリーが囁いた。 その響きに、モルダーは一瞬戸惑い、二人はしばらく目を合わせて固まった。身体を繋げたままのその沈 黙に、そのうちスカリーの方が堪えきれずに笑い出した。 「なんだよ?」 「あなたのパニックの顔が見れて嬉しいわ」 汗をにじませた恋人の額を拭いながら、スカリーはまだ笑っている。その艶のある笑顔に、モルダーは拗 ねたような表情を浮かべて、照れを隠していた。 「随分余裕だね」 言ったとたんに、モルダーは腰を引いた。スカリーがどうにか声を抑えるために息を飲む。その表情の動 きを捕らえながら、ゆっくり躯を揺らしてゆく。痛覚よりも快楽がスカリーの神経を支配して行くのを見て 取って、モルダーは制御を解いていった。 ------------------- ------------------- 「誰かと身体を重ねてこんなに嬉しかったのは初めてだよ」 そう言ってモルダーは腕の中を覗き込んだ。けだるげにまだ潤んだ瞳と柔らかく端があがった唇があった。 身体の中心にある鈍い痛みが、彼が自分に潜んでいた記憶からいつまでもスカリーを離さない。その甘い 拘束感に重ね塗りをするように、モルダーの指が彼女の背中を撫で続けている。 「…ウィル…ありがとう」 「…ねえダナ、それは…僕の呼び名かい?」 スカリーの声にかぶさるようにして、モルダーは彼女を抱きすくめ直しながら尋ねた。 「…だめ?」 「いや…はじめての名前だなって思ってさ」 「だって、キツネなんて名前の男とベッドになんて入れないもの」 「言ったな!君はそんな理由であんな可愛いらしく痛そうな顔してる途中に、なんて僕を呼ぼうかなって、 考えてたのか?」 「失礼ね!ずっと前から考えてたのよ!さっきの私にそんな余裕があったと思う?」 いつもの議論とは違うふざけ合い。屈託のない互いの笑顔に、自分達の選択が間違ってはいないことを確 認しあっていた。 睡魔に襲われて、眠りにつくころ不安そうにモルダーがぽつり。 「…こんどはちゃんとおはようを言わせてくれるんだろうね?」 不意に切なさに見舞われて、スカリーは大きなからだを抱きしめた。 「もちろんよ、ウィル。おはようも、その次のおやすみも言ってもらうわよ」  もう一度約束を交わすように唇を重ね合った。  「おやすみなさい」 「…おやすみ、ダナ」 素肌のままで抱き合って眠る喜び。表面的なことでなく、透き通るように今、二人は互いの真実が見えて いる。抱き合わなかったことで守られていた二人の絆は、新しい方法でより強くなろうとしていた。 ところで、翌朝「おはよう」なんて言葉ではない方法で、モルダーがスカリーを起したのは、言うまでも ないようなことである。 the end. ******************* 後書き ******************* 今回はなぜか本当に時間かかってつらかった(笑) かなり前から考えてたネタだったのに、いざ書き始めると進まないこと進まないこと(泣) しかも、こんなに苦労したのに大した出来じゃないところが辛い。 でも、とにかくテーマは「セカンド・バージン」(爆) というか、前から結構自分で自分に突っ込んでたのです。 「いくらなんでも5年はえっちしてないスカがあっさりできるのか?」って(笑) NEVER AGAINもしてないと思うんですよねぇ、スカちゃん。 だから、まあ、そういった自分の疑問を自分で解決する形? のつもりで書いたのに、なんであんな駄作になっちゃったのだか。くすん。 彼氏と別れて次の彼氏ができるまでに時間があいたことのある人なら ちょっとぴーんとくるのではないでしょうか? ああ、あの痛みねって(笑) それのものすごい版を想像して頂ければいいかと。 卵ごとスカリーが取られたのなら、きっと女性器の収縮とか始まってしまっているはず。 なんて、あほな想像力を膨らませて書いたのです。 実はこれは昔読んだ小説に、何年もご主人に愛されてなかった奥さんが 年下男といい関係になっていざコトに!ってなったのに 完全に女性器の機能がおちててできなかった…というようなお話があって その辺からもネタを拾ってきています。 まだモルスカなら「できない」まではいかないと思ってしてもらいました(笑) もっと、文学的にいやらしーい文章にしたかったのですが力不足と照れのため、成就せず(泣) でも十分いやらしかったと思う方もいらっしゃるかしら? 個人的にはまーだまだもっと精進しなくちゃだめなのね(笑)って、感じなんですけども。 あと、私の文章はシーンごとにだらだら長いことが多いので、デートシーンはあえて 本編風にシーンごとに切るような感じにしてみました。 いかがでしたでしょうか? 今度はどんなえっち書こうかな…と、さっきの苦労も忘れて思うバカ作者でした。 ご意見・ご感想・リクエスト、お待ちしてましゅ。 sa-yo-h@diana.dti.ne.jp