★☆★10万本の薔薇★☆★ 「やっぱり、プロポーズには薔薇を抱えてきてもらいたいわよね」 局付近のコ−ヒ−ショップで、ぼんやりしていると、後ろの席の方から、そんな声が聞こえてきた。 ほぉ・・・薔薇ね・・・そんなものかね。 僕は心の中で呟いた。 「ねえ、ダナもそう思うでしょ?」 ダナ?! 僕はその名前に反応した。 「そうね・・・両手一杯に花束を抱えて・・・」 ちらりと、気づかれないように、後ろの席を覗くと、スカリ−がうっとりとした表情を浮かべていた。 へぇ〜、スカリーでも、そう思う事があるんだ。 彼女の女性らしい一面を知り、僕はにんまりと口の端をあげた。 「はぁ〜、憧れるわね。さっき見た映画みたく、薔薇を部屋一面にもらって・・・プロポ−ズ なんて・・・ねえ、ダナ」 「そうね・・・そういえばあの薔薇全部で10万本も使われたそうよ」 スカリ−は映画のパンフレットらしきものを見ていた。 10万本・・・それは、凄いな・・・。 というか、部屋に収まるのか・・・。 「10万本か・・・、いいなぁぁぁ、そのぐらいもらえたら、プロポ−ズ、絶対に断 れないわよね」 えっ・・・そんなものなのか。 「そうね。私も10万本の薔薇をもらったら・・・断れないかも・・・」 おいおい、スカリー・・・それは本当かい? 僕は彼女の言葉に思わず、飲みかけのコ−ヒ−を戻しそうになった。 「それで、熱い視線で見つめられて、セリフはシンプルに『結婚してくれ』の一言・・・」 へぇ〜〜〜、そうなのかい。 「ダナ・・・そのセリフ言ってもらいたい人、いるんでしょう?」 スカリーの友達の発言に、僕の胸は高鳴った。 「・・・・・・・・えっ・・・いないわよ・・・そんな人」 なんだ!その間は・・・スカリ−、まさか・・・本当に・・・。 「ダナ、いるのね!ねえねえ、誰よ、教えなさいよ」 スカリーの友達は面白そうに言った。 「えっ、いないってば・・・そんな人」 「あっ、赤いわよ顔が・・・ダナ、私たち友達でしょう?」 顔が赤いだと・・・あの、アイスクィーンのスカリーが・・・常にポカーフェイスの 彼女が・・・。 「あぁ!!わかった。例の相棒でしょう?ほら・・・何て言ったけ・・・彼・・・ 動 物の名前の・・・」 おいおい、スカリーの友達君、そういう覚え方は・・・失礼だぞ。 動物の名前だなんて・・・確かに、本当だけど・・・。 「フォックス・モルダーの事?」 「そうそう、フォックスよ!!あなたがいつも、変人狐って言ってる」 ・・・へ、変人・・・狐!! スカリー・・・君は僕の事をそんな風に話しているのかい・・・。 僕は重たいため息をついた。 「変人狐だなんて・・・私がいつ、彼の事をそう言ったのよ」 「えっ・・・この間、言ってたじゃない、六年も一緒に仕事してきたのに・・・あの 変人狐・・・昔の女の言う事しか信じないのよ!!って」 ・・・昔の女って・・・ダイアナか・・・? 「えっ・・・記憶にないわ」 「あの時、ダナ、いつになく酔ってたから、覚えてないのよ・・・それで、どうなの?」 「どうって?」 「プロポーズしてもらいたい相手よ・・・やっぱり狐?」 狐、狐って・・・さっきから・・・親にも呼ばせてないんだぞ! 僕は、苛立たしくコーヒーカップをテーブルの上に置いた。 「モルダーは違うわよ・・・彼は仕事の相棒よ・・・そんな、プロポーズだなんて・・・」 うっ・・・即答!! スカリー・・・そうだよな・・・僕はただの仕事上の相棒だよな。 でも、もう少し、希望の持てる言い方をしてくれたって・・・いいじゃないか。 「ふぅ〜〜ん、そうなの・・・あなたって、本当、わかりやすい」 「・・・なっ、何よ、その笑みは・・・」 「別に・・・さて、そろそろ仕事に戻らないと」 そう言い、スカリーの友達はバックを持った。 「あっ、私も、今日中に報告書書かないと」 スカリーとその友達は席を立った。 僕はというと、すっかり、仕事をする気力を無くして、彼女たちが帰った後もぼん やりとコーヒーを見つめていた。 <XF課> 「・・・モルダー、もう終業時間よ!事件もないのに、今まで何処に行ってたのよ!」 何とか、気を落ち着かせてオフィス戻ると、仁王立ちしたスカリーが待っていた。 「えっ・・・その、ちょっと、考え事していて・・・」 僕はご機嫌をとろうと、何とか愛想笑い浮かべた。 「・・・考え事?それはオフィスではできない事なわけ?」 うっ・・・恐い・・・本気で怒っている時のスカリーの表情だ。 「それに、どうするのよ。報告書は・・・あなたがいなかったから、細かい部分が  書けなかったじゃない」 「はははははは」 もう、僕には笑う事しかできなかった。 「笑ってる場合じゃないでしょ!!私、今夜は予定があるから、残業できないのよ!」 ・・・ほ、本当に恐い・・・って・・・予定って何だ??? しかも今日は金曜日だぞ・・・金曜・・・そう、金曜の夜といえば・・・まさか、デートか!! 「・・・デートかい?」 僕は冗談ぽくその言葉を口にした。 あくまでも、動揺している事は気づかれないように・・・。 「・・・そうよ。デートなの。だから、私はどうしても今帰りたいのよ」 少しの沈黙の後に、彼女はその恐ろしい事実を僕に告げた。 しっかりしろ・・・フォックス・・・デートの一つや、二つぐらい・・・。 うろたえるんじゃない・・・たかがデートじゃないか・・・。 「・・・そうか・・・それじゃあ、僕一人でやっとくから・・・もう帰っていいよ」 引きつった笑みを浮かべ、僕は声が震えないように、何とかそのセリフを口にした。 「そう。それじゃあ、後よろしくね」 僕の言葉を聞くと、途端に彼女の機嫌がよくなった。 そんなに、今夜のデートが大切なのかい? あぁ・・・報告書よりも・・・デートを取るなんて・・・。 「じゃあ、月曜にな」 「えぇ、月曜にね」 スカリーは爽やかな笑顔を浮かべて、オフィスから出て行った。 「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」 僕は自分の席につき、未完成の報告書をながめ、ため息をついた。 ★☆★☆★☆★ 「・・・モルダー、まだかね・・・報告書は」 「えっ・・・副長官・・・」 僕は驚き、机から、視線をスキナーに合わせた。 「もしかして、待っていたんですか・・・」 「あぁ、来週から、私は出張で局にはいないからね。だから、今日中に報告書を読みたいんだよ」 「・・・そうですか・・・」 ヤバイ!! スカリーが気になって、まだ一行も書けていない・・・。 「それで、報告書はどこまで書けたのかね」 「えぇ―と・・・その・・・半分は書けました・・・後、30分程・・・お時間をもらえれば」 ・・・30分で書けるのか・・・?? 口から出たでまかせに、僕は苦笑した。 「そうか。わかった。オフィスにいるから・・・」 そう言い残しスキナーはオフィスから出て行った。 <30分後・スキナーのオフィス> 「うぅーん、またスペルミスだ・・・どうしたのかね?」 スキナーは僕が超特急で仕上げた報告書を見ながら、呟いた。 「えっ・・・そうですか・・・」 そりゃ、そうだろうな・・・読み返している時間なかったし・・・。 「・・・モルダー・・・何か悩みでもあるのかね?」 スキナーは報告書を読み終わると、眼鏡とり、感慨深そうに、僕を見つめた。 「えっ・・・悩み・・・ですか・・・」 ・・・スカリーかな・・・やっぱり・・・。 「ないですよ・・・別に・・・」 言えないよな・・・スカリーに気持ちを伝えられなくて、悩んでいるなんて・・・。 「・・・そうかね。この報告書から、私は君の心の中の動揺を感じるが・・・」 ・・・鋭い!! 「・・・何でもいいから、話してみたまえ・・・話すだけでも、楽になる事だってあるぞ」 上司らしい発言だな・・・やはり、スキナーは副長官なだけの事はあるな・・・。 「・・・その・・・気持ちを伝えたい人がいます・・・でも、言えなくて・・・」 そう、僕は・・・いつも肝心なセリフが彼女に言えない・・・。 伝えたい気持ちはこんなに大きいのに・・・。 「・・・モルダー、これから飲みに行くか」 スキナーは静かにそう言い、僕の肩を軽く叩いた。 <スカリーの部屋> トントントン・・・。 寝ようとした時に、いつものあのノックが聞こえた。 トントントン・・・。 無視しようと思ったが、いつもながらのしつこさに、私はドアを開けた。 「・・・モルダー・・・何?」 予想通りの人物がドアの外に立っていた。 「・・・モルダー・・・それ、どうしたの?」 彼を見た瞬間・・・両手いっぱいに持っているものに視線がいった。 「・・・その・・・君に・・・」 少し照れくさそうに、彼は両手いっぱいの真っ赤な薔薇の花束を私に渡した。 「・・・ありがとう・・・」 思わぬ彼からの贈り物に、胸がいっぱいになった。 「・・・10万本の薔薇の花束は手に入れられなかったけど・・・」 えっ・・・10万本・・・?? 「・・・でも、それ以上の気持ちをその薔薇に込めて、君に贈るよ」 いつもと違う、熱い想いのこもったモルダーの視線に、ドキッとした。 「・・・モルダー・・・それって・・・」 胸の鼓動が急に早くなった。 「・・・君が、誰を好きなのかは知らないけど・・・これだけは言わせて欲しい・・・」 彼は私の瞳をじっと、見つめた。 「・・・結婚して欲しい・・・」 夢のような、彼の一言・・・。 これは本当に現実なの?? 「・・・返事はいらないよ。気持ちを伝えたかっただけだから・・・君が僕とそう いう事になるのを望んでいない事も知ってる・・・。僕の失恋だってわかってるから・・・」 彼は私の頬に触れ、静かに笑った。 「・・・急に、ごめんね。それじゃあ」 あぁ、彼がいってしまう。 私の気持ちも伝えなければ・・・。 「・・・待って」 やっと、口に出せた一言・・・。 あまりにも彼への想いが大きすぎて・・・そう、声を出すのがやっとだった。 だから、私は行動に出る事にした。 「スカリー?」 私は彼のネクタイを思いっきり掴み、引き寄せ・・・背伸びをした。 そして、唇にキス・・・。 伝えられなかった気持ちの全てをキスに託した。 「・・・スカリー」 唇を離すと彼は驚いたように、私を見つめた。 私はにっこりと微笑み彼を見つめた。 「YESよ、モルダー」 彼は大きく瞳を見開いた。                                                ―END― ははははは!!即興で作ったので、矛盾した所がいっぱいあると思いますが・・・ 受け取って下さい。 いつも、美味しいごはんを作ってくれるひよ様への感謝の気持ちとして、デザート を作ってみました(笑) ひよ様、10万hit おめでとうございます!!! 以上catでした。