DISCLAIMER: The characters and situations of the television program "The X-Files"are the creations and property of Chris Carter, Fox Broadcasting, and Ten-Thirteen Productions. No copyright infringement is intended. この物語はあくまでも作者個人のフィクションです。 ==================================== ★警告★ この作品にはMulder&Scullyの性的描写が含まれています。 18歳未満の方は速やかにお引き取りください。 Mulder&Scullyの性的関係を好まれない方にもお勧めできません。 悪しからず御了承願います。 ==================================== Title:「a scar」 Author:may Spoiler:「Anasazi」「Never Again」 Note:既に二人は恋愛関係。 ==================================== 濡れた服を脱ぐのももどかしく、二人は温かい雨の中で唇を交わした。 二人は仕事では完全にプライベートを絶っている。出張でモーテルを取る時でも 別室を取る。本格的に仕事に取りかかっている間は、たとえ週末でも互いの部屋 には行かない。こういう関係になった時、スカリーが相棒に突きつけた決まり事だ。 モルダーはもちろん不本意極まりなかったが、「でなけりゃパートナー解消よ」の 一言で受け入れざるを得なかった。いまいましいが、彼女の最強の切り札だ。 だが、例外はいつでもある。今夜のように。 今回の仕事は、はっきり言って無駄骨だった。いつものようにモルダーが仕入れて きた事件は解決した時点で他の部署に移り、実績は他に取られて始末書だけを書かされた。 得たものと言ったら、事件を渡した部署からのおざなりな礼の言葉だけ。精神的に ないよりはマシだが、結局それだけじゃ費やしたものには見合わない。 しかも今回、スカリーはひどく疲労していたようだった。 幸い笑顔が戻るのは早かったが、それでもどこか元気がない。つとめて明るかった 車の中でも、ともすればぼんやりと外を見つめがちだった。ようやくモーテルに帰り ついた頃には、モルダーは心を決めていた。 「スカリー、君の部屋へ行ってもいいか?」 額面だけなら質問だったが、言い方はまるっきり決定だった。彼女は途端に眉を つり上げたが、彼がそう言うのは分かっていたかのようにあきらめ顔で頷いた。 部屋に入るなりバスルームへもつれるように入った。何せ夕方から降り出した雨で、 二人ともずぶ濡れだったのだ。すっかり湿って色の変わった上着を、シャツを、 シャワーからあふれる温かい雨で完全に水に浸してしまう。代わりに水よりも熱い肌に 触れて、二人は互いの体温を確かめるように互いを腕の中に受け取める。 「モルダー…」 したたり落ちる滴と時折離れる唇の間から、掠れた声が漏れる。それに誘われるように 指を彷徨わせ、頼りない下着を探って落とした。バスルームを埋める白い湯気に溶ける ような白い肌。  目眩がしそうだ。 「モルダー?」 止まっていた手に、彼女が瞼を上げて恋人を湯気の合間から透かし見る。何よりも青く 澄んだその瞳に微笑み、彼女の背に回した腕に力を込めた。 湿った赤い髪を、持ち主の白い指がうっとうしげにかきあげる。 情交の後の火照りが抜けない色づいた肌が、闇の中でも鮮やかに浮かぶ。 バスルームから寝室へ直行して、夕食も取らずに相手をむさぼった。 躰が離れた後も、手を伸ばせばすぐに引き寄せられる距離で、視線を合わせて目で微笑む。 ふと、彼女の手が上がり、彼の頬に触れた。 輪郭をなぞり、鼻の線を指先でなぞる。くすぐったさに、彼は笑いを漏らした。 「何?」 「検査」 「触診?」 「そう」 くすくす笑いながら、細いしなやかな指が額の生え際を、耳を、まぶたを辿っていく。 鼻筋を追い、そこを通り過ぎる時に彼女が微笑む気配がして鼻先を柔らかい感触が 通りすぎた。モルダーは瞳を瞑り、恋人の好きなようにさせてやる。実際、彼女の 指はベルベットのように心地よかった。 顎の線をたどる指先が首の後ろに回り、肩胛骨の上の皮膚を撫でる。彼女の腕に余る 肩幅にはそこまでが精一杯の範囲だったらしく、そのまま腕が肩の上を通りこして 胸に戻ってくる。 目を綴じたままのモルダーの顎に絹糸のような髪が触れ、鎖骨に小さい痛みが走った。 「スカ…」 「動かないで」 思わず目を開けかけた彼の耳に、叱るような、甘やかすような低い声が届く。 鎖骨に立てられた歯の跡をスカリーは獣のように舐めて癒した。 「スカリー…これじゃ拷問だよ」 男が呻く。肩にかかる熱い息。彼女はどこか悪女めいた微笑を浮かべる。ただでさえ 深い闇の中、瞳を伏せる彼にはそれが分からない。 「まだ駄目よ」 肩に手を置いて彼の耳元に囁くと、絶望の呻きがため息と共に彼女の髪を揺らす。 くすくすと声を殺して笑っていた彼女の瞳が、彼の肩にある物を見つけて冷えた。 「スカリー?」 腕の中の彼女の躰が強張ったのに気づいて、モルダーは瞼を上げた。 スカリーは目に映ったまま離れてくれないそれに、そっと指先を伸ばした。 肉の盛りに沿って走る細かい襞。色が他の肌より少し違う。 目に触れないように手のひらでそれを包んでも、手の中の感触が痛い。 「…残ったのね、これ」 「ああ」 彼女が何をしているのかがやっと分かって、モルダーは甘い微笑を浮かべた。 父を失い、薬に冒され、精神に異常をきたしかけていた自分を止めた彼女の銃弾が通り過ぎた跡。 「綺麗だろ?君の銃の腕も、後の処置も良かったからな。腹の方なんか、医者の腕が 悪くて見せられたものじゃないよ」 「…ごめんなさい」 彼女の肩が強張ったまま冷たい。モルダーは驚いて目を瞬かせた。 「スカリー?なぜ謝るんだ?」 「…貴方を傷つけたわ」 モルダーはキョトンと目を丸くすると、ぶっと吹き出した。 「笑うことないでしょう?」 スカリーがさすがにムッとした顔で睨み付けてくる。くすくす笑いながら、モルダーは 彼女の躰を引き寄せた。愛おしげにそのなめらかな白い背を撫で、髪に頬を埋める。 「どうして笑うのよ!もう…」 彼の躰を押し返そうと抗う仕草までもが駄々っ子のように愛おしくて、彼は彼女を手放せない。 ようやく抵抗を諦めて、スカリーは恋人の首筋に額を寄せた。 「…あなたを傷つけるなんて…」 「君は僕を救ったんだよ、スカリー」 「…もっと他に方法があったかもしれないわ」 こんな傷跡を彼の躰に残すような、以外の方法が。 そっと顔をずらし、もう一度その傷跡に目を向ける。指先でそれをたどり、スカリーはため息をついた。 あの時、彼に銃口を向けた時、私は何を考えていたのだろう。あの一瞬の判断が正しかったと 思いたいけれど。今まで、そう思ってきたけれど、もしかしたら違っていたかも知れない。 彼の判断に任せた方が、犠牲が少なくて済んだかも知れない。 「いや、君は正しかったよ。あの時の僕を止めるには、ああするしか無かった」 「…モルダー」 「あの時、君がいなかったら、僕はとっくに死んでいたか、刑務所に入っていたかの どちらかだったよ。そうだろう?」 事件の真相に触れることもできず、ただ自分の無力さに歯がみをしつつ、精神的な飢えと 絶望にじわじわと絞め殺される。 その運命から、僕を救ったのは君だ。 君は僕の躰だけでなく、心を守り通してくれた。 「君は有能な捜査官で、僕の最高の相棒だ」 耳元で力を込めて囁く。 ようやく顔を上げたスカリーが、こぼれるような笑顔を浮かべる。 そこからあふれる温みに包まれ、誘われるように唇を重ねる。 自然に互いが互いを求め、腕に誘われるままに彼女を組み伏せる。 「モルダー…」 息のひとかけらまでも奪い呑みほすようなキスに、酸素を求めてスカリーが喘ぐ。 その青い瞳に渇望の残滓が再び揺らめき立つのを認めて、モルダーは薄く微笑んだ。 「今度は僕の番だ」 肌という肌をくまなく探られ、辿られ、刻印を施されて、スカリーは頭に霧がかかるのを感じた。 彼は愛するときですら猪突猛進で、ささいな事も見逃さない。日頃から理性が感情に勝つ スカリーの、表に出ない反応を、目の細かい網ですくい取るかのように捉えて引き寄せ、 口付けし、彼女を悦楽の淵へ叩き落とす。 「…ルダー…」 「ダナ…」 荒い息で名前を呼び続ける彼女に、もはやまともな理性は無いことを承知で、彼は彼女の 名を囁く。何より舌に甘く残るその単語。 正気であれば、彼女はベッドの中でも彼にファーストネームを許さない。最初にそれを拒否 のは自分の方なので、彼としても後ろめたくて、強く出られない。いつになったら、彼女は あの時思わずついた嘘を許してくれるんだろう? ひときわ高い叫びを残して、彼女が枕に突っ伏した。激しく息をつぐ肩から項への白い 曲線に惹かれて唇を寄せる。背骨の隆起を唇で辿ると、先の恍惚が抜けない躰に新しい 震えが走るのを唇で確かめる。 「スカリー」 「…モルダー、もう…」 「『まだ駄目』だよ」 先に言った言葉を笑い混じりに繰り返されて、スカリーは肩を落とした。 彼の手が背中から躰の曲線を押し包むようにたどり、降りていく。片手はシーツと躰の 間に差し込まれ、豊かな双実を絞るように揉み込まれて、色づいた唇からため息が洩れる。 その間ももう一つの手とその後を追う湿った感触が、常に意識を背中に引き戻す。 「…スカリー」 欲望に掠れた声が火傷しそうな熱い息に乗って降り注ぐ。 「モルダー…あ…っ!」 いつのまにか腹をすべり降りていた片手が易々と彼女の腰を持ち上げ、褐色の茂みに 到達していた。不意を突かれて仰け反った白い背の、弓なりになったそのふもとにある 双丘のわずか上のあたりの、肌の白さを裏切る紅い輪が、突然彼の目に飛び込んだ。 「…!」 「モルダー?!」 途端に走った痛みに、スカリーは目を見開いた。痛みよりも驚きの方が強い。 いったい何を、と思う間もなく痛みを感じたそこにぬめった感触を押し当てられて、 ようやく歯を立てられたのだと悟る。 「何もそこまで…」 真似なくたっていいじゃない、と怒ろうとした声が、脚の間に差し込まれた指の動きに 黙らされる。思わずシーツを噛んで悲鳴を押し殺すスカリーの頭からは、モルダーの 視線の先にある物が何であるか、それを考える力すら奪われていた。 モルダーはじっとそれを睨んでいた。 自分の尾を噛む蛇。 彼女を抱き、それを目にする度、自分の腹の底に沸き上がる暗いものを、彼女は 知っているのだろうか? モルダーの瞳に、欲望を越える冷えた怒りがたぎる。 スカリーはこの蛇の意味を知っていたのだろうか? 自分の尾を食う蛇。 それはいつか自分の頭を自分で飲み込むことになるだろう。 その矛盾。その愚かしさ。 まるで自分の事を指摘されているかのようで。 そしてそれを、彼女が自分の知らないところで、今や自分の物であるその白い躰に 刻み込んで帰ってきた、という事実が。 「だめ…っ…モルダー…」 次第にピッチの上がる声と喘ぎが彼の手を促す。 「スカリー…」 目を捕らえて離さないその紅い輪から半ば無理矢理に目を引き剥がし、涙を浮かべて 懇願する恋人の青い瞳に視線を移す。 「…おねがい…もう…」 せわしなく上下する胸にもう余裕はなく、モルダーは紅く染まった唇を自分のそれで覆うと 彼女の声にならない悲鳴を喉の奥で受け止めながら、花弁の奧で息づく泉に自身を沈めた。 半ば失神するように眠りに落ちたスカリーの髪に顔を埋め、モルダーはその香りを 深く吸い込んだ。情事の後の汗混じりの中に、彼女愛用のシャンプーとシーツに焚き しめたオリエンタルなルームコロンの香りが例えようもなく甘い和音を響かせる。 その香りと。この腕にかかるしなやかな躰の重みとぬくもり。首にかかる規則正しい 寝息。それがあれば、彼の夢が悪夢で終わらない事を、彼自身が既に知っている。 もし、彼女がいなくなったら…。 不意に訪れる、恐ろしい不安。 彼女は未来に道を見いだせる人間だ。愛する男を失っても、それを糧に再び立ち 上がる事ができるだろう。だが自分は過去だけを見つめて生きてきたようなものだ。 彼女が離れていってしまったら。 思うだけで恐ろしいほどの寂寞が彼を襲う。 そしてその度に、今や彼女以外に心を預けられる人間を持たない自分に気づく。 彼女を自分の所へ差し向けた人間達は、これを知っていたのだろうか。 そもそも、僕を本気でスパイの標的にするなら、もっと適役を探し出せたはずだ。 科学と医学のスペシャリストとはいえ、彼女の陰を嫌う真っ直ぐな気質を、彼らが 全く知らなかったとは思えない。 彼女が彼らの思惑通りに動けば良し、もしそうでないなら、その時は… …彼女自身を奪ってしまえば、僕に再起不能なダメージを与えられる……? 「…モルダー?」 抱きしめる腕に力がこもったのか、スカリーが眠そうな目を上げて名前を呼んだ。 モルダーは我に返って恋人の瞳に微笑みかける。 「いや…何でもない」 「眠れないの?」 「…いや」 「眠って。…明日は寝坊できないんだから…」 スカリーの白い腕が上がり、伸び上がって彼の頭を優しい仕草で胸に引き寄せる。 無意識なのか、自分には慈母のように思えるその腕に誘われるまま、モルダーは 白くやわらかな胸に頬を寄せる。 二人は明日ワシントンに戻る。 いつものあの地下のオフィスには、次の事件が彼らを待っているだろう。 その中には、彼らの命を奪う要素が余るほど含まれているのをモルダーは知っている。 ただでさえ死亡率の高いこの仕事。その上、彼らはそれ以上に、常に危険に晒されているのだ。 だが、…決して。 彼女だけは、渡さない。 彼女の腰に回した腕をその躰ごと引き寄せながら、モルダーはもう片方の手を ベッドサイドのライトスタンドに伸ばし、明かりを消した。 ======================== THE END (後書き)…と書いて言い訳と読む。 小説版XF「移植」でScullyのタトゥが残っている事が判明。 このお話は、↑の事に妄想を脹らませた作者が某チャットでお喋り中に いただいた「傷確認ネタ」を引き金に暴走した結果です(爆)。 ネタを下さった御三方、ありがとうございました。 でも、こんなもので良かったのかなぁ…(不安)。 書き手としましては、つい先日終えたばかりの超根暗いシリアスficの 続きの気分で書いていました。