この作品はあくまでも作者の個人的な楽しみに基づくものであり この作品の登場人物、設定などの著作権はすべて、クリス・カーター、 1013、20世紀フォックス社に帰属します。 TITLE - Again - by yuria SPOILER   「レクイエム」         P.コーンウェル 著         「警告」   この作品は「レクイエム」の後の設定となっています。 *********************************************************************************************** X-Files office 1:27 PM Feb. 23 「モルダー、これはあなたがしそうなことね。  あなたはいつも一番大事なことを私に話さない。」 スカリーは、一人 Fox Mulder のデスクの前に立ち、手を前で組んで 眉を上げて言った。 そして少し考えた後、デスクの上の電話をとりダイヤルしようとしたその時、 R.R.R.R.R.R....... R.R.R.R.R.R....... 静かなofficeに突然スカリーのcell phone の音が響いた。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 - 4時間前 - Feb. 23 Skinner's office 「Sir、お呼びでしょうか?」 いつものように1分の隙もなく黒いパンツスーツに 大きく胸元の開いたグレーのインナーを着たスカリーが スキナーのオフィスへと入ってきた。 しかしその顔は、いつにもまして青白い。 モルダーを失った悲しみを振り切るように仕事に没頭するスカリーが スキナーには痛々しかった。 「体調はどうだね、スカリー捜査官。少しの間、休暇をとってみたらどうだ」 スキナーは、チラッとスカリーの下腹に目をやって言った。 「ありがとうございます、sir。でも私は大丈夫です。」 スキナーの言葉が終わるのを待たずに、抑揚のない声でスカリーが答える。 「お話というのはそのことでしょうか。  今日中に検死を2つ片づけてしまわないと・・・。」 「スカリー捜査官、まあ、かけたまえ。」 スキナーはスカリーの話をさえぎって言った。 「Yes, sir.」スカリーはあきらめたように、ゆっくりと彼のデスクに向かいあっった椅子に 座り、まっすぐにスキナーを見つめた。 スキナーは小さく咳払いをし、つとめて明るく言った。 「今日は君の誕生日だな。Happy Birthday, Scully.」 「Thank you, sir.」 わけがわからないというような顔で、スカリーが短く答えた。 短い沈黙のあと、スキナーは小さな鍵で彼のデスクの引出しを開け 中から一通の白い封筒を取り出し、それをスカリーに差し出した。 スカリーは、いぶかしげにスキナーを見てそれを受け取り、 その封筒に目を落としたとたん、見覚えのある懐かしい文字が 彼女の目に飛び込んできた。 おもわず小さく息を吸い込むスカリーを、スキナーは黙って見つめた。 白い封筒の表には " To Scully " 裏には " Mulder " と黒い文字があった。 「Sir,これはいったい・・・。」 スカリーは必死で平静をたもちながら、スキナーに尋ねた。 「私はあの時、モルダーからこれを預かった。  もし、自分に何かあったらスカリーの誕生日に  これを必ず渡してほしいと彼にたのまれていた。」 スカリーの美しい大きな瞳が2〜3度宙を泳ぎ、 また白い封筒へとすいよせられた。 "あの日" 以来、モルダーからは何の連絡もない。 スカリーの cell phone からは、彼のくぐもった声は聞こえない。 "It's me, Scully." "...Mulder..., Where are you ..." スカリーは胸を大きく上下させて呼吸をし、涙がでそうになる自分を奮い立たせ、 椅子から立ち上がった。 スキナーが気遣わしげに彼女を見つめている。 スカリーは彼の視線を意識しながら、心の中で "冷静になりなさい" と 何度も繰り返した。 「今日はもういいから、帰って休むといい。  検死の件はこちらから連絡しておく。」 スカリーはスキナーと目を合わせることなく、無言で彼のオフィスを出た。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 X-Files office     10:13 Feb. 23  スカリーは、オフィスのドアの前で封筒を持って立ち尽くしていた。 モルダーを失う前まで、毎朝なんのためらいもなく開けていたドア。 でも "あの日" 以来、このドアを開けるためには自分の勇気を 総動員しなければならない。 7年間の2人の思いが詰まった彼なしの部屋へ入るのは、 スカリーにとって苦痛だった。 それでも毎朝スカリーは、このドアを開ける。 できるだけの勇気をふりしぼって。 ノブを握り、目をつぶり、モルダーがデスクに足を投げ出して座っているところを 思い描く。 何事もなかったかのように・・・。 目を閉じたままドアを開け、1歩なかへ入る。 目を開ければ、彼は消えてしまうことはわかっている。 でも毎朝この儀式を繰り返す。 昔、彼に教えてもらったとうりに・・・。 スカリーが目を開けると、ひっそりとした部屋、主のいないデスク。 そして "I want to believe." のポスターが、目に飛び込んでくる。 スカリーは小さくため息をつき、いつもの儀式を終わらせると、 静かにドアを閉め、モルダーのデスクの前に立って しばらくポスターをぼんやりと見つめた。 彼のデスクは今でもあのときのまま、彼だけにわかる方法で整理されている。 そして、いつ彼が帰ってきてもいいように、主を待っている。 スカリーはFox Mulder のネームプレートをそっと指でなぞり、 ゆっくりとデスクを回り込んで、Mulderの椅子に座った。 キィと椅子がたてた小さな音が、静かな寒々とした部屋に響いた。 そして、白い封筒の上におどる黒い "To Scully" の文字を見つめる。 スカリーはやっと封を開けると、中から数枚の手紙を取り出した。 そこには、まぎれもない彼の字。 急いで書いたのだろうか、文字がまがっている。 彼らしい・・・。そんなことをぼんやりと思った。 涙で字がぼやけそうになるのをこらえて、 スカリーは手紙を読み始めた。 ------- -------- -------- -------- --------- --------  Scully この手紙を君が読んでいるということは、僕は今、君のそばにいないということだ。 今ごろ君は、休暇をとろうともせずに仕事に没頭しているんだろうね。 君は心と体に休むことを許していないだろう。 ひとりの夜を恐れているだろうか。 悪い夢を見るだろうか。 誰にも弱さを見せない気丈な君だから、よけいに僕は君が心配になる。 あのとき、僕は知っていた。 リスクを負っているのは僕のほうだということを。 それを、感のいい君に気づかれたくなかった。 これ以上、僕の個人的な興味に君を巻き込む理由はない。 父、母を失い、そしてサマンサも。 僕は今、君以外に失うものは何もない。 そして君を失うことが何より怖い。 僕はこの7年間、君と共に追い求めてきた真実を、 どうしてもこの目で確かめたい。 それと向かい合い、決着をつけたい。 そして終わりにするんだ。 これは、僕自身が選んだ道。 君には君自身の道を歩んでもらいたい。 そしていつか、遠い未来にまた再会しよう。 そのとき、僕はMulderではなく、君がScullyでなくても、 僕らは必ず、お互いに気づくはずだ。 それまで精一杯、自分の選んだ道を走りつづけよう。 前だけを見つめて・・・。 僕はいつも君のそばにいる。 暗闇に閉じ込められて、君が立ち止まりそうになったら、 そっとその背中を押してあげよう。 感じるはずだ、僕の両手を。 小さな未来の光は、ずっと先に見えている。 I love you, Scully. 今まで僕は、一度も口に出して君に言ったことはないけれど、 心の底では何度もこの言葉を繰り返していた。 口にしなくても、お互いに分かり合えると思っていた。 2人の心の奥には同じ川が流れていると感じていた。 君の流れが僕に交わり、僕のうねりが君へと流れ込む。 でも僕は言うべきだったね、この言葉を。 君もそれを望んでいただろう。 君をとても愛している 君がとても大切だ。 悲しまないでスカリー。 怒ってくれよ、いつものように。 手を前で組んで、眉を上げて 『またなの、モルダー』 さあ、スカリー。今日の仕事はキャンセルだ。 すぐに君のママに電話をして、食事の約束をしろよ。 家族で集まって、にぎやかに。 君はステキな家族をもっている。 それが僕にはいつもまぶしく映った。 家族に心を開くんだ。 信じてくれスカリー。何もかもは、うまくいく。 僕はいつも君を見ている、僕が君のもとへ戻る日まで。 Smile Scully. Happy Birthday.    Mulder ------- -------- -------- -------- --------- -------- -------- スカリーは手紙を読み終えると、両手に顔をうずめてすすり泣いた。 こらえても、こらえても、嗚咽がこみ上げてくる。 彼はFBIきってのプロファイラーなのだった。 Mulderはスカリーの行動を完璧にプロファイルし、それがすべてあたっている。 いかにも、彼らしい。 スカリーの瞳にまた涙があふれた。 彼女はもう,嗚咽をこらえようともしなかった。 "あの日"以来、こんなに涙を流したことはなかった。 自分で自分の心の痛みに気づかぬふりをして、 心の奥深くに封じ込めていた。 自分の感情がコントロールできなくなることが恐ろしかったし、 そんな自分を他人に見られるのも、恥ずかしかった。 モルダー以外に素直に自分をぶつけられる相手はいないのだ。 スカリーはティッシュで顔を拭くと、涙で汚れないように気をつけながら もう一度手紙を読み返した。 モルダーがこの手紙を書いているところを、思い浮かべながら。 白いワイシャツの袖をひじまでまくりあげ、ネクタイは外し、 デスクのライトをつけて手紙を書く彼を、スカリーは容易に 想像できた。 ときおり手紙を書く手を休め、すこし神経質そうに 長い指先が口もとをまさぐる。 そしてまた、書き始める。 そのとき彼は確かにスカリーのことだけを考えていたのだ。 そのときのモルダーは、確かにスカリーだけのものだった。 彼女は手紙を何度も読み返し、その意味を深くさぐった。 彼の言いたかったこと・・・。 彼の願い・・・。 スカリーは、今のままでは自分の心も体も壊れてしまうだろうということは わかっていた。 でも、自分を救う方法が見つからなかった。 いや、見つけたくなかったのかもしれない。 今、モルダーの願いをかなえることで、自分もここから 抜け出せるのかもしれないと思った。 スカリーは息を大きく吸い込むと、ゆっくりと立ち上がり モルダーのデスクの正面へとまわった。 そして腕を組み、眉を少し上げて言ってみる。 「モルダー、これはあなたがしそうなことね。  あなたはいつも1番大事なことを私に話さない・・・。」 そして彼の手紙にあったとうり、母に電話をしよう。 そしてなんと言おうか。 「モルダーが私の Birthday party をしてほしいって・・・。」 母はきっと驚くだろう。 スカリーは"あの日"以来、母にも自分の感情を表せない。 母が心配してかけてくる電話にも、留守電が答えた。 スカリーは自分の体の奥の変化のことを母に話したら、なんと言うだろう、 祝福してくれるだろうか、そんな事を考えながら無意識に 左手で下腹をさわった。 かすかに微笑みながらスカリーがデスクの電話に手を伸ばし、 ダイヤルしようとした、そのとき R.R.R.R.R.R.R...... R.R.R.R.R.R.R...... スカリーの cell phone が静かなオフィスに鳴り響いた。 その音に驚いてピクリと体を震わせ、彼女はのろのろと 上着の内ポケットからcellをとってぼんやりと答えた。 " Scully " 相手からの返事がない。 " Scully " 少し強い口調で繰り返した。 " ...It's me, Scully.... " 突然、低く、くぐもった懐かしい声が彼女の耳にとびこんできた。 " Mulder...Where are you... " - end - ******************************************************************************************** 【あとがぎ】  作者はまだ「レクイエム」を見ていません。    ストーリー、時間設定に無理があり、つじつまの合わない部分が  だいぶありますが、そういった部分は両目をつぶってきれいさっぱりすっとばし、  作者の書きたいところだけを都合よく書いた作品です。  そこのところは、あしからずご了承ください。(ぺこり)  はじめてS7フィナーレでモル、アブダクト説を聞いたとき  「入植」でモルダーは彼のPCにスカリーへのメッセージを  残していたことを思い出しました。  今回も彼はなんらかのメッセージをスカリーに残していったかもしれない。  そんなふうに考え続けて、この妄想Ficとなりました。  とにかく、モル〜〜、はやく帰っておいでーーーっ!!!(叫) Nov. 2000                - yuria - yuria@duchovny.i-p.com