DISCLAIMER// The characters and situations of "The X-Files" are the creations and property of Chris Carter, Fox Broadcasting, and Ten-Thirteen Productions. Also the song "Grown-up Christmas List" sung by Natalie Cole do not belong to us, either. No copyright infringement is intended. ============================================ 前書き 本作品には、XFキャラクターの性的描写が含まれております。 18歳未満の方、もしくはこれに対して抵抗感をお持ちになっている方は ご遠慮いただきますよう、お願い申し上げます。 一足遅いクリスマスFicになりました。 サンタクロースにプレゼントをおねだりした思い出を持つ全ての方に このFicを捧げます。 ============================================ TITLE Christmas List SPOILER None AUTHOR スキナー愛好会 DATE 2000.1.11 ============================================ これは私の一生のお願い おとなになった私の クリスマスのおねだり 私自身のためでなく 救いを求める世の中のために これ以上 生命が絶たれることがありませんように 戦争が決して起こりませんように 時がすべての心を癒してくれますように みんなに友達ができますように 正義が必ず勝ちますように 愛が消えることのありませんように これがおとなになった私の クリスマスのおねだり "Grown-up Christmas List"− Natalie Cole --------------------- クリスマスイブ 素敵な響き 私は遠い記憶をたぐる あれはいつの事かしら? ねえパパ サンタさんはトナカイのソリにのってくるんでしょう? ダナのおねがいしたプレゼント、もってきてくれるかな? ねえママ きょうはクリスマスだから ゆうしょくのあと ダナのだいすきなイチゴがのった クリスマスケーキをたべてもいいでしょう? そしてクリスマスの日の朝 ツリーの下に山ほど置かれたプレゼントに 目を輝かせる うわあ、みてみて! こーんなにきれいなおようふく!! それに ダナがサンタさんにおねがいした ドールハウスもあるよ! サンタさん、ありがとう!! あの頃の無邪気な私は クリスマスが大好きだった 家族が集い みんなでテーブルを囲み クリスマスキャンドルの灯火に 願いを込める 「まいにちがクリスマスでありますように」 嬉しく、楽しく、幸せな思い出がいっぱい詰まったクリスマス そしておととし 私は、切なく、哀しく、忘れられない思い出を得た ねえモルダー あなたは覚えているかしら 去年のクリスマスイブの事を あなたは知っているかしら 私があのお化け屋敷に行く事をあれだけ嫌がった本当の理由を ・・・多分知らないでしょうね 私はね クリスマスを静かに過ごしたかったの ほんのひとときだけしか時間を共有できなかった あの子のために・・・ そしてできることならあなたに 私の隣にいてほしかったの でも、それはかなわない願い事 わかりすぎるほどわかっている 温かい、平凡な日々を自分が望んでいるとは思わない でもたまにひどい孤独に襲われることがある クリスマスに温もりを求めずにいられない自分の弱さを 目の当たりにした瞬間に・・・ --------------------- ふと小さなため息をついて、スカリーは帰り支度を始めた。 相棒は早々に帰ってしまっていた。 「スカリー、帰るぞ」 「えっ?」 去年のように、また幽霊退治にでも駆り出されるのではないかと 予想していた彼女は、モルダーの意外な発言に心底驚いた。 「何? その『えっ?』って」 「あ、いえ、何でもないの」 「今日は何やら謎の彗星が見えるらしいんだよ、フロヒキー達も一緒なんだけど、 君も来ないか?」 今年は彗星観測か・・・ 「いえ、やめておくわ。折角のクリスマスなのに、UFOの熱狂的信者達の 邪魔をしたくないしね」 仕方ないわね、と言いながらも一緒に来てくれる そう思っていたモルダーは、わずかに表情を曇らせる。 「そうか、じゃあ気が向いたら電話してくれ。待ってるから」 「ええ、分かったわ」 こうして、何かすっきりしない思いを心に残したまま、 二人はそれぞれのクリスマスイブを過ごすことになった。 小さい頃は 楽しい日だったはずなのに この日が来るのを待ちきれなかったのに 今はこの日が近づくと、やりきれない寂しさが私を襲う 誰もいなくなってしまったオフィスに一人、 スカリーは相棒のデスクに歩み寄り、力無く椅子に腰掛ける。 そして、身につけていた金のクロスにそっと指を這わせた。 もう一度あの子に会いたい この腕に抱いてみたい あの子は私に教えてくれた 自分の血を受け継ぐ人間に対するいとおしさを でも私は今 そのいとおしさに 自分の全てをさらわれそうなの --------------------- 誰もいないアパートに帰るのも気が引け、なるべくそれを遅めるために スカリーは歩いて帰ることにした。体の芯まで凍えそうな寒さに逆らおうと 肩をすくめ、コートのポケットに手を突っ込んで、すっかり暗くなった DCの街並みをゆっくりとした歩調で歩き出した。 道すがら、近くの教会の前で足を止めた。 空に高く伸びるその尖塔を見上げ、スカリーは少し唇を噛んだ。 なぜそうしたのかはわからない。 ただ何かに引き寄せられるように、彼女の手は教会のドアを開け、 中へと入っていった。 外の喧噪とは打って変わって、静寂がスカリーを包み込んだ。 正面に何本も連なるロウソクの光が、彼女の蒼い瞳に程良く反射する。 祭壇の近くでは、純白のガウンに身を包んだ聖歌隊が賛美歌を歌い、 それはオルガンが慎ましやかに奏でる音と、優しい調和を生みだしていた。 まばらではあるが、寒さに震えながら祈りを捧げる人々もいた。 コートを着たまま、じっと賛美歌に耳を傾ける者。 ひざまずき、今年犯した罪に対して許しを乞う者。 悲痛な顔を神に向け、願いを聞き入れてもらおうと必死に懇願する者。 そんな人々に混ざって、スカリーも祈りを捧げようと、 コートを脱ぎ、前に向かって静かに歩を進めた。 人を幸せにできない私に 祈りを捧げる権利はあるのだろうか 人を救ってやれない私に 許しを乞う資格はあるのだろうか そう問いかけずにはいられない 自然に涙が滲んで、乾いた頬を伝う。 しかしスカリーは、自分が泣いているという事実を心の中でごまかそうとした。 私は強くあるべきなのだ。 涙に対する精一杯の抵抗。 なぜここで泣かないといけないの? 誰のために? 何のために? 答えの出ない問いかけを心の中で続けていると、比較的教会の左端に位置する ステンドグラスの下に、見慣れた後ろ姿を見つけた。 「・・・Sir」 高ぶった感情を落ち着け、スカリーはつぶやくように声をかけた。 その呼びかけにスキナーがゆっくりと振り返ると、そこには 今しがたまで瞳を涙で濡らしていたのであろう女性の姿があった。 「メリークリスマス、スカリー捜査官・・・いや、Ms. Scullyと 呼ぶ方がいいかな?」 「どうしてあなたがここに?」 彼女の問いかけに、スキナーはふと、わずかに苦い笑みを漏らした。 そして、さっきまで見つめていたステンドグラスに視線を戻す。 「意外かな?・・・私にだって、祈りを捧げたい仲間はたくさんいるんだよ。 なぜかこうして生きている事が息苦しく思えるからね、クリスマスには。 罪滅ぼしなんておこがましい事は言えないが、せめて祈りぐらいはな」 寂しそうな彼の表情が、スカリーの胸の奥深くをくすぐった。 どこか似た感情を、この人も持っているのだ。 やるせなくて、どうしようもない思いを・・・ スカリーは、自分の目の前で静かにたたずむスキナーをもう一度視界に入れた。 そこには「副長官」としての彼ではなく、「己と向き合う一人の人間」としての彼がいた。 「どうした、Ms. Scully?」 「え・・・?」 どれほど自分がスキナーを見つめていたのか、 彼が自分の名前を呼んで、ハッと我に返った。 「いえ、何でもありません」 「強要はしないが、もし良かったら・・・食事でも一緒にどうだね」 ------------------- 「Sir, 誘っていただいて、ありがとうございました」 「私こそ、つき合わせてしまって悪かったのではないかな?」 「いえ、そんな事は・・・料理も最高でしたし」 教会を出て、二人は落ち着いた雰囲気のフランス料理屋へと足を運んだ。 洒落たガラス細工の受け皿にのったロウソクが、各テーブルに置かれている。 そのロウソクの灯の暖かさが、ほんのりとスカリーの顔に紅みをさす。 スキナーは、仕事から解放された部下の柔らかい表情を見て、まるで美しく成長した 娘を見ている父親のような、そんな穏やかな気分に浸っていた。 食後のコーヒーを飲みながら、普段はぶつかりあうことの多い上司と このような形で同じ時を過ごしている事に、スカリーは何かしらとまどいを覚えた。 「・・・スカリー?」 「何でしょうか?」 「どうかしたのか?」 「いえ、別に何も・・・なぜですか?」 「何か落ち着かないようだから」 「ただその・・・Sirと食事をするなんて、思ってもみない事だったので」 「私もだよ。まさか君とクリスマスを過ごす事になるとはな。モルダーはどうした?」 「彗星観測に」 「君は行かなかったのか?」 「そういう気分じゃなくて・・・あの、Sir?」 「何だ?」 「さっき、私の顔をずっと見ていらっしゃいましたが・・・」 「ん? ああ、君は子供の頃、どんなクリスマスを過ごしていたのかと思ってね」 意外な事を言うスキナーに、スカリーはクスリと笑いながら答える。 「平凡そのものです。興味を持たれる程のものではありませんわ」 「是非お聞かせ願いたいね、少女時代の君が過ごした、平凡そのもののクリスマスを」 「そうね・・・とても楽しかったわ。両親がいて、兄姉がいて・・・母のおいしい 手料理を囲んで、兄や弟が、自分の話を聞いてもらおうとやっきになって喋るの。 いつも楽しい会話で彼らには笑わされてばかりいたわ。もちろん、クリスマスの 朝には、抱えきれないほどのプレゼントをもらって・・・それに昔は、 『欲しい物リスト』を作ったりしたの」 「君でもそんな子供時代を過ごしていたのか」 「あら、私が小さい頃から検死をしていたとでも?」 「まさか。それを聞いてなんだか安心したよ」 「あの頃は無邪気だったの。お姫さまみたいなドレスや、目のぱっちりしたお人形や、 キラキラ光るアクセサリーを下さいって、真面目にサンタさんに手紙を書いたり したわ。でも・・・」 「でも?」 「ある日突然、ぱったりと書かなくなったの」 「どうして?」 スキナーのその問いかけに彼女は少しうつむいて、昔を懐かしがるような、 それでいて、わずかに寂しそうな笑みを浮かべた。 「同じクラスの男の子に、サンタを信じるヤツなんてバカだ、って言われて・・・」 「ひどい男の子だな」 「Sirはサンタを信じていたのかしら?」 「もちろんだ。私は今でも信じているんだぞ」 「そうなんですか?」 「クリスマスになると、街中が特別な雰囲気に包まれる。暖かさというのかな。  この優しい雰囲気は、サンタからの贈り物だと思っている」 「Sir・・・」 瞳がかすかに潤んだ。 「あの時・・・」 「ん?」 「あなたが同じクラスだったら良かったのに」 スカリーは、こみ上げてくる涙を微笑みで隠した。 ------------------- レストランを出ると、もう10時半を回っていた。 「送っていこう」 帰る足のないスカリーに、スキナーはそう申し出た。 彼女を助手席に乗せ、車体の前側から回り込み、運転席に乗り込んでエンジンを かけようとした時、なぜそうしたのか自分でもわからないが、スキナーは うつむいて隣に座っている部下を一瞥した。 「どうしたのかね? さっきからずっと黙り込んで」 「・・・」 「スカリー?」 助手席の方に体を向けて話しかけたその時、膝の上で祈るように組んでいた 彼女の両手に、一粒の涙がこぼれた。 「・・・泣いているのか?」 「・・・」 「教会で会った時も、君は泣いていたな」 「・・・」 「誰に祈りを捧げに教会へ行ったのかな、君は?」 「・・私には・・・・・」 つぶやくような、ともすれば聞き取れないほどの小さな声で、スカリーは答えようとした。 「祈りを捧げる資格も・・・許しを・・・乞うための資格もない・・・」 「いや、君は立派な人間だ。上司として、そして一人の人間として、私は君を尊敬している」 「嘘だわ」 「なぜそんな・・・」 「じゃあ!!」 涙で目を赤くしたスカリーが、顔を上げて激しくスキナーに食って掛かった。 「なぜ私はあの子を救ってやれなかったの!?」 「・・・」 「あの子は・・・あの子は本当の家族の温もりを知らないまま逝ってしまったわ。  血のつながった本当の家族の温もりを。私が経験した『家族の暖かさ』を伝えないまま、  私はあの子を手放してしまったのよ。こんなひどい人間に、許しを乞う資格があるの!?」 真っ直ぐに向けられた目から、スキナーは視線を外すことができなかった。 彼女もいわば被害者なのだ。エミリーを奪われ、新しい命を育むという、 女としての喜びを味わう権利さえも、惨たらしく奪われてしまった。 それなのに、彼女は自分自身を攻め続ける。 誰に罪を押しつける事もなく、ただひたすらに。 今度はスキナーが視線を下に向けた。 「あの子には・・・分かっていたはずだ」 スカリーも再びうつむく。 「君の気持ちが」 「・・・」 「何よりも、君の気持ちがな」 「・・・」 いつまでそうしていたのだろうか。 二人は、そのまま動けないでいた。 車の中で座ったまま、まるでそこだけが時間の経過を止めてしまったかのように。 空からしんしんと降り続ける白い雪が、暗いアスファルトにふわりと降り立っては溶けていく。 雪は、二人の心にも舞い下りてくる。 雪よ その白さで 私の罪を消してくれればいいのに 「Sir」 「・・・何だ」 「これからしばらく、私を見なかった事にしてくださいませんか?」 「何をするつもりだ?」 「お願いですから・・・」 「・・・わかった、言うとおりにしよう」 隣から、耳を塞ぎたくなるような哀しい嗚咽が聞こえてきた。 彼はそっと右手をスカリーの頭に乗せ、自分の右肩に引き寄せた。 「見なかった事にしてほしい」 その願いを聞き入れてやりたくて、顔は前を向けたままにしていた。 ------------------- ここは・・・どこ? うっすらと目を開けると、そこには見慣れない家具が並んでいた。 ダークブラウン一色で統一されている寝室。 わずかに開いているドアから一筋の細い明かりが漏れ、かすかに音楽が聞こえてくる。 背後から人の気配がして、男は振り返った。 「目が覚めたかね?」 「あの・・・私はどうしてここに?」 「泣き疲れたんだろう、あのまま眠ってしまったんだよ、君は。アパートへ送って行こうかと  思ったんだが、目覚めたら自宅で一人きりというのもなんだろう、こんな日に」 「じゃあここは・・・」 「私のアパートだ」 ソファに腰を落ちつけているスキナーは、スカリーにもブランデーをすすめたが、 何も口にしたくない彼女はそれをやんわりと断った。 「すみません、お恥ずかしい所をお見せした上に、ご迷惑までおかけしてしまって」 「いや、気にするな。君も疲れているんだ、ゆっくりしていきなさい」 その言葉に安心したのか、スカリーは彼の隣に少しだけ隙間を開けて腰を下ろした。 ステレオが、耳に懐かしい音楽を奏でている。 「ナタリー・コールね。『クリスマス・リスト』・・・」 「ああ、よく知っているな」 「アカデミー時代によく聞いたわ。お気に入りだったから」 「そうか」 二人はしばらく、音楽に耳を傾けていた。 これ以上 生命が絶たれることがありませんように 戦争が決して起こりませんように 時がすべての心を癒してくれますように これがおとなになった私の クリスマスのおねだり 「スカリー」 「何でしょう?」 「君がもし、今ここで『クリスマスリスト』を作るとしたら、どんなおねだりをするのかな?」 ステレオの方に目を向けたまま、スキナーは尋ねた。 「人のぬくもりが欲しい」 スカリーの口からついて出た言葉は、彼を驚かせるのに充分な力を持っていた。 「私が消えてなくならないように、抱きとめていてほしい・・・」 モルダー・・・ 曲が終わった時、部屋の壁に映る二つの影は、一つに重なっていた。 ------------------- あまりの儚さに思わず抱きしめてしまったスカリーの、予想以上の体の小ささに、 スキナーはしばし戸惑っていた。 何年も貯水池にためていたものが、あふれてしまったかのように、 スカリーはまた泣き始めている。 「スカリー・・・」 君はそんなに小さな体でプロとして働き、病と戦い、そして孤独と向き合い ・・・今、バランスを崩してしまっている。 君の心の声は、でも、実は私には聞こえている。 君が本当に求めているもの。 本当はサンタにもう一度手紙を書いてでも欲しいもの。 そうでありながら、また一方でその欲しいものを欲しいとは言えない君のことも、 私はよく知っている。 スキナーは、震えているスカリーの背中をなでながら、思考を泳がせていた。 そのうちに彼女は落ち着きを取り戻してくるだろうと、彼はどこかで彼女をあまりにも 強い人間に評価しすぎていた。 まだ泣き続けているスカリーを見ていられず、スキナーは窓の外の雪に目をやった。 どんなに寒い冬でも、いつかは春がきて雪を溶かして行く。 どんなに彼女の悲しみが深く冷たい根雪のようでも、いつかは春がきて溶かしてくれるだろう。 その寒い冬の中の小春日和みたいな存在に、今日の自分がなってやればいい。 本当の彼女にとっての春は、自分ではないと、スキナーはよく知っていた。 だから、彼女の言葉どおり「人のぬくもり」を、彼の方法で与えようとしていた。 部屋に響くのは、スカリーのしゃくり上げる声。 スキナーがゆっくりとスカリーの背をさする、静かな衣擦れの音。 「・・・sir」 不意にスカリーが、泣くのをやめた。 「・・・ん?どうかしたかね?」 落ち着いたのかと、スキナーが唇を微笑みの形にして覗き込む。 その微笑をスカリーが、まるで当たり前のようについばんだ。 「っ?!」 押し当てられた唇は、涙で濡れていて、ひんやりとしていて、そして柔らかかった。 一瞬ひるんで体を引きかけたスキナーから、それでもスカリーは離れようとしない。 「・・・今夜は、私のサンタさんになってくれるのでしょう?sir?」 それは甘えるようではなく、意を決したような口調。 彼女のお願いは、決して世界のためなんかではなかったけれど、 幼い子供の願いよりも切実だったし、 世界平和をうたって汚いことをする大人よりずっと真摯だった。 だから、スキナーも、もう何も言わずに、彼女を抱き上げた。 どんなにしっかりした大人だって、迷ったり、脱線したりする。 それがクリスマスという日なら、なおさら。 外では雪が止もうとしていた。 ------------------- ヒトノヌクモリ。 スカリーが望んだのも当然のことなのかもしれない。 スキナーは彼女のあまりに冷え切った素肌にそう思わずにはいられなかった。 服を脱がす途中でも、少女のように彼女は震えて、彼にしがみつく。 まるでこの世界中にほかに頼るものがないかのように、その様子はいたいけで、 スキナーは自分の目の奥の温度が上がったことを自覚した。 「寒くないか?」 目を閉じたままこっくりと、たてに首をふる。 「私は君にとって、今、温かいものなのかな?」 しばらくの沈黙の後、そっと目を開けて、スカリーはつぶやいた。 「・・・今の私の人生の中では、生身で一番温かい男の人だわ」 そうか、彼女は「ただぬくもりをくれる」父親すらすでに失っていたのだ。 スキナーは、さびしく微笑むことでしか、答えられなかった。 じかに触れる温もりは、やがて熱に変わって行く。 スカリーのつめたい指先を口に含む。 彼女の肌が、「そのとき」特有の張りを持ち始める。 スキナーの指先が、白い肌をなぞって行く。 幾度か唇を噛む仕草を繰り返した後、スカリーは目を開けてスキナーの 存在を確認した。手を伸ばして彼の眼鏡をはずす。 「・・・スカリー?」 「ベッドの上で、ものをよく見る必要はありませんわ、sir・・・ それから・・・今だけ、私をダナと・・・」 恥ずかしそうに言って、スカリーは潤み始めた瞳をスキナーに向けた。 「わかった。では、私のこともsirと呼ぶのはやめてくれ」 暗闇の中でもなお青い、その瞳から目をそらしながらスキナーも囁いた。 ------------------- 彼の指は、もはや彼女の一番深いところに侵入している。 冷たかった彼女の体は、ゆっくりと温められ、今や溶けんばかりに熱くなっている。 「あっ・・」 一本だった指を、不意に増やされて、スカリーの鳴き声が漏れた。 「痛いか?」 彼女の声から甘い響きしか認められなかったにもかかわらず、スキナーは そんな囁きを彼女の耳に投げ込んでみたりする。 彼女の奥を探る指の動きをやめないままで。 「・・・平気、よ・・・」 普通の声を出すこと自体に苦労しながら、吐息をどうにか組み立てて スカリーは返事をした。 スキナーの二本の指は彼女を効果的に溶かす場所を探しつづける。 そのさまざまな試みに、スカリーは素直に反応していった。 後ろから抱きすくめられる格好で愛撫されている彼女にとっては、 スキナーの体は本当に大きくて温かくて、すっかり安心を与えられていたせいだった。 「・・・っ・・そこ・・・」 不意に目的の場所を、彼は探り当てた。 四肢の震えが、指をくるむ壁の温度の上昇が、正直に伝わってくる。 「ここ?」 甘い確認。 もはやスカリーには返事をする余裕もなかった。 ------------------- 温もりと安心と、そして快楽。 いったん満たされたスカリーは、自分をくるむ大きな体が、次に向かわないことに気づいた。 つまり、自分を組み敷こうとする素振りがないこと。 「・・・ウォルター・・・?」 ためらいながら、初めてその名を口にする。 背中にあたる胸からはぬくもりしか感じられず、スカリーはかすかなじれったさを感じた。 「ん?」 情事の途中の男とは思えないおっとりとした声が、耳に届く。 たしかに彼は彼女のサンタクロースとしての役割は果たしている。 与えて欲しいと願ったものはすべて与えられた。 ここで止めてくれたなら、本来願ったりかなったり、ではないか。 「今夜は冷えるな、もう少し暖房をきつくしようか」 まるで、もうすべてが終わったようなスキナーの口ぶりに、スカリーは心底驚いていた。 「待って!」 思うより先に唇が動いていた。 腕の中で振り返る。 スキナーの困ったような表情がそこにあった。 「・・・ウォルター・・・それで私に損をさせないようにと思っているのなら それは卑怯というものだわ。私が、望んだのよ、あなたが無理やり誘ったわけじゃない」 食い掛かるスカリーに、スキナーは困った表情のまま、やさしく微笑んだ。 「君は・・・男をしらないな」 「どう言う意味?」 「私は君が本当に欲しいものを知っている。私も君がそれを手に入れるべきだと思う。 だから、私が君のサンタクロースとしてしてあげられるのはここまでだ」 「・・・・?」 「いいかいダナ、男はたとえどういう理由であれ、好きな女がほかの男と寝たというのは いやなことなんだ。こんなに近い距離だ、必ずばれる。こんなことで、君は一番欲しいものを 失うべきじゃないだろう?」 諭すように、言い含めるスキナーに、スカリーはなぜかまた泣き出していた。 はじめから、決して勢いで自分を抱いてしまったりしないように、彼は自分を 制しつづけているのだ。 ・・・自分がこんなに取り乱してしまっているというのに。 その深い思慮とやさしさを、上司だからという一言で片付けられたくない。 スカリーは新しい感情が自分の中で生まれて行くのを感じた。 突然、そんな彼女を引き止めるかのようにスカリーの携帯電話がなり始める。 こんな時間にかけてくるのは、たったひとり。 でも、それがわかっていても、彼女は電話に出る気になれずにいた。 「・・・モルダーからでは?」 言いにくそうに、でも取ることを薦めるように、スキナーは口を開いた。 その遠慮がちな口調に、不意にスカリーは笑い出していた。 今、私を裸にして、私を高みに連れていったのはこの人だというのに、 なにを遠慮しているのかしら? 私を抱いたこともない、愛しているといったこともない人に対して、 彼が遠慮する必要なんか、今に限って言えば、まったくないのに。 ・・・可愛い、人ね。 「・・・?何がおかしい?」 「ウォルター・・・今夜はもう私は彼と話す気はないの。ただのダナって女で あなたの腕の中にいたいのよ。だから、あなたも・・・」 すべては言わずに、今夜二度目のキスをした。 しつこく鳴り続ける電話のベルの中で、二人は延々とキスを続ける。 どんな状況でも、モルダーからの連絡を最優先してきたスカリーの姿を ずっと見てきているだけに、スキナーにとっては衝撃的な情況だった。 ある意味、彼女の裸を見たことよりも・・・。 だから、彼の中で、少し余裕がなくなってしまったのかもしれない。 長いキスの主導権が、いつしか、スキナーのもとに移ってきていた。 あまりに長く続いたキスのせいで、やや息を切らして、二人は微笑み合う。 スキナーは少々照れくさそうに、スカリーはすっかり落ち着いた様子で。 電話のしつこいベルも止んで、また部屋は静けさを取り戻す。 そして、今夜の二人の最後の行き先は、スカリーの唇が告げることになった。 「サンタさん・・・あなたの、温もりをちょうだい・・・?」 ------------------- そして白い朝がくる。 大人としての分別を持つべく、スカリーはそっと寝室を抜け出した。 ドアを閉める一瞬前に、彼女は彼の目を閉じた顔を確認した。 スキナーはおそらく目覚めてはいるのだろう。 彼もまた、大人としてそうあるべく、「眠ってくれて」いるのだ。 スカリーは静かな気持ちでシャワーを浴びた。 それにしても、あのぬくもり。 あの安心感。 守られていると、五感で、本能で、実感させてくれる心地よさ。 強くなくていいということ。 しっかりしていなくていいということ。 ・・・私が本当に欲しいものってなんなのだろう? こういうものではないのだろうか?? 髪を乾かしながら、彼女は考える。 スカリーの自問は深くなってゆく。 一人で戦ってきた日々が長かった分だけ、ぬくもりのありがたさが彼女を揺らしていた。 こういうものを手に入れられないと、分かっていても欲しい愛ってあるのだろうか? 仮に、モルダーと愛し合えるようになったとしても、自分は昨夜のようにはなれないだろう。 彼女はそう思うからこそ、今まで彼との距離を保ってきたのだとわかっていた。 それでも本当に欲しいものなのだろうか? 愛していることと、安心感は、なぜか相手がモルダーだと、イコールでは結べない。 それはあくまで彼の相棒という席を彼女が他人に譲る気がないからなのだが・・・。 迷いながらも鏡に映った自分の顔が、昨日の朝みたものより美しいことを確認して スカリーは苦笑した。 彼女は、やはり、欲張りでわがままな、ごく普通の一人の女にすぎないのだ。 ------------------- 結局、スキナーが眠った振りをしている寝室を一度もあけないまま、彼女は 部屋を後にした。 スキナーはドアの閉まった音に、寝室を抜け出した。 彼女からのクリスマスカードが、そこにはあった。 読み終えたスキナーは、微笑とも、苦悩ともつかない表情で窓から見える スカリーの背中を見送った。 冬は、まだまだ続きそうだというため息とともに。 ------------------- 親愛なるサンタクロースさま メリークリスマス。 とても素敵なクリスマスをありがとう。 私のクリスマスリストを、書き直してみたの。 ねがわくば、私が、またはあなたが望んだ日が クリスマスになりますように。 ねえサンタさま、 クリスマスが年に一度しかあってはいけないなんて、 いったい誰がきめたのかしら? 次のクリスマスは、あなたが決めてね。 またホワイトクリスマスいいなって、私は思っているのだけれど・・・ 親愛をこめて、 ダナ -------------------   end. <<<<あとがき>>>> 「クリスマスリストねえ・・・」 私はペットのおもしろお菓子をDLしながら、 マニキュアもぬりながら、 chatもしながら、 コーヒー飲みつつ考えていた。 「やっぱりぃ、そろそろモルスカえっちとか 本番でほのめかしてほしいわよねえ・・・」 「スカリーのかわいいエピとか、やってくれないかしらぁ」 「DDのわがままを直して欲しい、とかぁ・・・」 「あは、これじゃあ、あたしのサンタはCCやん!(爆笑)」 私はすっかり調子にのってメモ帖にクリスマスリストを書き出し始めた。 すると... RRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR. RRRRRRRRRRRRRRR... (電話のベル) 「はいもしもしぃ?」 おおかた、相方か、明日夜遊びに行く友達あたりからの電話だと 思っていた私は、かるーく電話に出た。 「わたしだ」 またかよ!このパターン!! 「す、す、すきなぁさま??」 「そうだ」 「な・・・ちゃ、ちゃんとあたしは書きましたよ!ロマンス! それもあなたをどえらくかっこよく!!」 「ふん...駄作だとは思ったが、あれはあれで許してやろう。 わたしがかけているのは、君たちのクリスマスリストの件だ」 「へぇ??」(誰にも公開してないのに!) 「へえ、ではない。君たちがクリスマスに願うことといったら!!」 「だって、スキさま、正直なお願いですよ??」 「なんだと?君たちはもっと私にとって、効果のあることを 願うべきではないのかっっ?!」 スキ様の湯気が受話器から伝わってくる。 やばい、これでは電話が壊れてしまう! そう思った私は、さっさと叫んで電話を切った。 「あ!電話の電池がない!なんだかわからないけど、 ごめんなさい、スキさま!!」 がっちゃぁぁぁん。 ぷーっ、ぷーっ、ぷーっ・・・・・ すまぬ、相方よ(笑)。 説教は、おいらの代わりに受けておくれ・・・。 <<<<あとがき・その2>>>> 「クリスマスリストぉ〜〜〜っっ・・・」 私は、若手ポップコーラスグループ「'NSYNC」のゴキゲンなCDを聞きながら リズムに合わせて首をファンキーに振りながら 「ええよなあ、こーゆーノリ」などと独り言を言いながら 烏龍茶を飲みつつ考えていた。 「やっぱりぃ、そろそろ今のせせこましい生活に変化つけたいしぃ・・・」 「チャリンコでアメリカ西海岸縦断とかしたいしぃ・・・」 「いくらクッキー食べてもすぐに脂肪を燃焼してくれる体とかあったらなぁ・・・」 「どこでもドアでXFの撮影現場に潜り込んで、キャストと友達になりたいなぁ・・・」 私はすっかり調子にのってメモ帖にクリスマスリストを書き出し始めた。 すると... RRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR. RRRRRRRRRRRRRRR... (電話のベル) 「はい、FBI Japan Field Officeです」 おおかた、相方か、最近頻繁に夜な夜な電話をかけてくるダチあたりからの電話だと 思っていた私は、いつもの調子でふざけて電話に出た。 「わたしだ」 またかよ!このパターン!! 「す、す、すきちゃん・・・じゃなくって、すきなぁさま??」 「そうだ。お前はまともに電話応対もできんのか!?」 「まあまあ、そんな堅いこと言わずに・・・ところで、やっと書いたよ。  すきなぁさまのロマンスFic! めっちゃ手こずったって、ホンマ」 「さっき君の相方に電話をかけたんだが・・・一体どうなっておるのだ!?」 「へぇ??」 「へえ、ではない。愛好会員である君の相方が、私からの電話を一方的に切ったのだぞ!」 「・・・電話のバッテリー切れ寸前だったとか?」 「そんなハズはないっ!!」 そんなハズはないって言われても、相方のバッテリー状況まで、私知らんっちゅーねん。 「それに、君達のクリスマスリストは、私にとって意味のない項目ばかりだ。  愛好会員だったら、少しぐらい私に対する敬意を払ってもいいのではないのか!?」 そうこうしてる間にも、スキ様の湯気が受話器から伝わってくる。 やばい、このままでは電話が壊れてしまう。 相方の分まで説教をくらうのも、ほぼ確実だ。 ピーンチ!! その瞬間、私の頭の中で、どこからともなく神々しい声が聞こえてきた。 「先手必勝じゃ。やられる前にやる、これが大切なのじゃ。  そなたならできる。気をしかと持つのじゃぞ」 先手必勝・・・ ああ、これぞ神のお告げ!! そこで、怖い物知らずな私は、大胆にも電話口で「ある作戦」に出た。 持ち前の低めの、そして夜更けには更にかすれがちになる声で、 私は受話器に向かってつぶやき始める。 「スキ様、もしかして・・・ヤキモチやいてるの?」 「何をバカな事を・・・」 「私達が、私利私欲に満ちたリストしか作らないから?」 「やめろ、それ以上言うと本気で怒るぞ!」 「スキ様、寂しいんだ・・・」 「・・・」 「私がなぐさめてあげようか?」 ぷーっ、ぷーっ、ぷーっ・・・・・ あ、電話切れちゃった。 「やられる前にやる」 やっぱこれよね。 私は顔中に満面の笑みを浮かべた。 ごめん、相方。 2人分の説教、受けといて! ・・・おわり・・・かな?(笑) 本編より面白かったりして(爆)