DISCLAIMER// The characters and situations of the television program "The X-Files" are the creations and property of Chris Carter, Fox Broadcasting, and Ten-Thirteen Productions. No copyright infringement is intended. ------------------------------------------------------------------------------------------ −前書き− 某月某日、某チャットルームにて、このFicを作るきっかけをいただきました。 果たして「これでFic一本決まりやな」という、某御方のセリフはジョークだったのか 本気だったのか!? 真意は謎のままですが、勢いで書いてしまいました(^^;) ------------------------------------------------------------------------------------------ Title: Craving Category: MSR Spoiler: Never Again Date: 02/23/00 By Amanda ------------------------------------------------------------------------------------------ 孤独 慰め 逃避 欲情 憤り... 人間は孤独を封印し、自分以外の何かを求める... 「お兄さん、準備はいいかい?」 「...ああ、やってくれ、僕の気が変わらないうちに」 DCの裏通りにある、薄暗い店。 彼は、その部屋の中の小さな丸椅子に腰掛けていた。 スイッチが入り、歯医者で使う機材のように「ビーッ」という不快な音が、いやに大きく 部屋中にこだました。それは次第に彼に近づき、左肩を捕らえる。そして程なく、チクチクと 刺すような痛みと奇妙なくすぐったさが、彼の感覚神経を刺激し始めた。 「ぐっ...」 思わず喉から声が漏れ、膝の上に置いた両の手で拳を作る。 僕は...何をやっているんだ? 「ヤンキースのワールドシリーズ優勝記念に、尻に『NY』とでも彫ろうか」 知ってるかい? あの言葉は、ジョークでもなんでもなかった 僕は半分本気だった 別にヤンキースがどうのこうのってわけじゃない タトゥーを彫る事に意味があったんだ おそらく君と同じように タトゥーを彫る事に... ------------------------------------------------------------------------------------------ 「さあ、できたよ」 男はロシア訛りのたどたどしい英語で、Mulderに声をかけた。 「見えるか?」 男は手鏡をMulderに渡す。 「なかなかの出来栄えだろ? 口の中の赤色もうまく馴染んでる」 「そうだな...」 体中の細胞という細胞が、表現しようのない違和感を感じている。Scullyに向かって「尻に 彫る」なんて言ってはみたものの、やはり見知らぬ男に尻を見せるのも気が引け、結局は 平凡な場所 −左肩の後ろ側− に落ち着いた。 鏡に映ったのは、一匹のカエルだった。子供達に人気のある「カエルのマペット」だ。 ここのタトゥーショップのオーナーであるロシア人の男が、「これがうちで一番人気のある デザインだ」と言ったから、というのがマペットを選んだ理由だ。別に「かわいいから」とか 「マペットのファンだから」などという、特定の理由はない。 「何を彫るか」が問題ではない。 「彫るか否か」が問題なのだ。 鏡越しに、Mulderとマペットの視線が合った。 こいつ...幸せそうな顔してるな マペットに対して嫉妬の感情を抱いた自分が情けなく思えて、ふとため息をもらす。 なぜ君はタトゥーを? なぜ君はエドとタトゥーを彫った? なぜだ? まだ目にした事のないScullyのタトゥーの存在がやけに重く感じられ、Mulderは頭を抱えた。 「あんた、大丈夫か?」 「あ、ああ、大丈夫だ」 フラフラと椅子から立ち上がると、Mulderは男に礼を言った。 「炎症が治まってないうちは、気をつけるんだな」 その声が聞こえたのか聞こえていないのか、Mulderは一度も振り向かずに店を出ていった。 ------------------------------------------------------------------------------------------ 左肩がズキズキとうずく。 脈打つのが妙に強く感じられる。 アパートに戻ると、Mulderはシャツを脱ぎ、肩にとめていたガーゼを外して鏡に映してみた。 マペットのタトゥー まったく、どうかしてるな、僕は... 衝動的とはいえ、ここまで後先を考えない行動は初めてだ 鏡に向かって、思わず苦笑いを浮かべる。 (Loser!!) と、頭の中で突然、低い女の声が聞こえた。 (ヒーッヒヒヒヒハハハハハッッッ!!) 「誰だ!?」 (フォーックスーッ!!) Mulderはシンクの前で動きを止めたまま、目だけをせわしなく動かした。 誰かいるのか? 見渡せる範囲で人の気配を探したが、何も見つからない。しかし、誰かが頭の中に話し掛けて いるのは確かだ。 (どうしてカエルなのかしら? 前のオトコは女の子のタトゥーだったのに。まあいいわ。 寂しがり屋には変わりないし...フォーックスー!! ケロケロケロ.....ヒヒヒヒハハハハッッ!!) 「隠れてないで出てこい!!」 (アタシよ、かわいそうなFox) 「なぜ僕が『かわいそう』なんだ?」 (いつも孤独に耐えているじゃない、一人でね。でも、これからは私がいる。アンタとアタシ、 二人っきりよ。アタシがアンタを慰めてあげるわ。フフフフフフ.....) 「...まさか...お前か?」 Mulderは、シンクの鏡に映るマペットの姿を見つめた。 ------------------------------------------------------------------------------------------ 「おはようScully」 Dana Scullyがオフィスのドアを開けると、既に彼女の相棒は自分のデスクについていた。 しかし、顔色がさえない。 「おはよう...Mulder大丈夫?」 「どうして?」 「なんだか疲れてるみたい」 「そうか? 別に何もないよ」 「そう...ならいいんだけど」 表情を曇らせたままMulderの顔を一瞥してからデスクトップのパソコンに近づき、Scullyは ブリーフケースから書類を取り出して、早速仕事に取り掛かった。そんな彼女を、Mulderは じっと注目するわけでもなく、ただボーッと眺めていた。 (ふーん...) また昨夜の声が聞こえてくる。 (もしかして彼女がアンタの同僚なの? そう言えば彼女、エドとよろしくやってたわね) 「エド」という名前に、Mulderの体がピクンと反応した。 (あら、動揺してるの? は〜ん、アンタもホレたクチか。まったく、なんであんな赤毛の 女がモテるんだか? まあ彼女はカワイイもんね。無理もないか) (うるさいぞ、黙れ!!) 心の中でマペットを黙らせようとするMulderだったが、その試みも敢えなく失敗に終わった。 それどころか、彼女の言葉は延々と続く。 (アンタ、あの娘と寝たわけ? ふふっ、聞くだけムダか。当然よね、毎日一緒なんでしょ? しかも地下室で二人っきり。チャンスはいくらでもあるものね。でも一つ忠告しておくよ。 アンタとあの娘はダメだね。いくらアンタが熱を上げても、結局は捨てられるのがオチよ) 「うるさいぞ!!」 椅子から立ち上がり、Mulderはいきなり大声を張り上げた。Scullyは、その突然かつ もの凄い迫力に、ビクッと体をこわばらせた。 「Mulder...? 私の書類を繰る音、そんなにうるさい?」 「あ、ゴメンScully。なんでもないんだ、本当に...」 しかし、この状況では、どんな言い訳をしても適切な言葉なんてあるはずがない。「頭の中で 声がする」などと言おうものなら、またいつものように「非現実的」という味気ない単語で 片づけられるのは明らかだ。 「悪い、ちょっと外の空気を吸ってくるよ」 そう言うが早いか、Mulderは、さっとオフィスから姿を消した。 そんな彼の後ろ姿をメガネ越しに見送りながら、Scullyはいぶかしげな顔を作った。 「変な人ね。まあでも...いつもの事か」 ------------------------------------------------------------------------------------------ 朝も昼も夜も、Mulderの頭の中にマペットが囁く。 オフィスでもアパートでも、ふとした拍子に声が聞こえてくるのだ。 (ねえ、アンタ、気にならないの?) 「何がだよ」 (もしかして、あの娘に男がいるんじゃないか、とかさ) 「....」 (やっぱり図星なのかい!? ヒヒヒヒヒハハハハッッッ!! 情けないヤツだね) 「うるさいな!! もうほっといてくれ!!」 Mulderはたまらずカウチに寝転がり、頭の上からクッションを押さえつけた。 (フォーックスー!! アタシに隠し事なんて無駄さ。知りたいだろ?彼女の事...もしかしたら 今頃、男を連れ込んで楽しい事やってるかもしれないよ。フフ、アンタに耐えられるかな? 女なんてね、裏では何考えてるのか分かんないもんなんだよ) Mulderの脳裏から、相棒が見知らぬ男と情事を重ねている光景が離れない。「そんなはずは ない」と、どれだけ打ち消そうとしても、その想像はますますエスカレートしていくばかり。 気が狂いそうだった。 (知りたくない?) 「何をだよ?」 (あの娘が、今なにしてるか...フフフフッ) 自分自身の意志がそうさせたのか、それとも心を操られているのか。Mulderは、デスクの上の 電話に手を伸ばす。 (さあ、受話器を取って) 言われるがままに、Mulderの左手が受話器を握る。 (ダイヤルするんだ) ピッ 右手の人差し指が、ゆっくりとScullyの短縮ダイヤルボタンをプッシュした。 prprprprpr...... prprprprpr..... prprprprpr..... プツッ 『Hello?』 受話器の向こうから相棒の声が聞こえた。それと同時に、頭の中でマペットが話し掛ける。 (『やあScully、僕だ』) Mulderの口がマペットの言葉を復唱する。 「やあScully、僕だ」 『どうしたの?』 (『今一人?』) 「今一人?」 『どうしてそんな事聞くの?』 (おや、おかしいねえ。一人なら素直に『そうよ』って言いそうなもんじゃないさ? どうして あんな答え方したのかしらねえ?) ゾクリ 全身に鳥肌が立った。 Mulderの頭は、もはや思考能力さえ正常に動かなくなっていた。 呆然とした表情のまま、受話器を静かに置く。 (ほらほら、アタシ達、邪魔しちゃったみたいだね。いいじゃない、あんな娘なんて放っときな。 アタシが慰めてあげる。アタシはアンタを裏切るような事はしないよ...) 「うわあぁぁぁぁっっっっっ!!」 ガシャーン!! コードが引きちぎれるのも構わず、力任せに電話を振り上げ、思い切り床に叩きつけた。 落としたショックで端の欠けた電話をしばらく見つめた後、Mulderはその場に頭を抱えて しゃがみ込んでしまった。 何なんだ、一体!? Scully... ------------------------------------------------------------------------------------------ ドンドンドンドン... 「Mulder、開けて!!」 Scullyは、先刻のただならない電話に胸騒ぎを覚え、Mulderのアパートへ出向いていた。 セルと自宅に電話を入れてもつながらない。その上、さっきから何度もドアをノックして いるのにもかかわらず、一向にドアが開く気配がない。 「Mulder!? どうしたの?」 ドンドンドンドン!! 「まったく...」 ハーッとため息をついてから、コートのポケットに手を入れ、合鍵を取り出した。 ガチャリ 「Mulder? いるんでしょ?」 と、一応「相棒が部屋にいる」事を前提にして名前を呼んでみた。しかし、その問いかけに 答える声だけでなく、人間の気配さえも感じられない。Scullyは、奥の部屋へと歩を進めた。 誰もいない。 コードが外れ、壊れた電話だけが、ただ無残に転がっていた。 「Mulder...どこへ行ったの?」 ------------------------------------------------------------------------------------------ 次の日。 Mulderは2時間も遅れてオフィスにやって来た。 「Mulder、昨夜はどこへ行ってたのよ!? 心配したわよ、電話には出ないし、家にもいないし」 相棒の姿を見るやいなや、Scullyは椅子から立ち上がり、烈火の如く怒り出した。 「電話で様子がおかしかったから、あなたの家に行ったのよ。そしたら...」 「どうして君が僕の心配をするんだ?」 「どうしてって...いきなり行方不明になるんですもの。心配するのは当たり前でしょう?」 「外へ飲みに行っただけだよ...本当に僕の事が心配だったのか?」 「どういう意味よ?」 「別に気を使わなくてもいいんだぞ、Scully」 「ちょっと、最近あなたどうかしてるわよ。いつもイライラしてるし、仕事にも集中できない みたいじゃない。それに、こんなにやつれて...」 と、頬に触れようと近づいてきた彼女の右手を、Mulderはうっとおしそうに払い落とした。 「大丈夫だって。君は自分の事だけ心配してろよ」 そう言い残して、Mulderはオフィスから姿を消した。 何があったのMulder? なす術もなくScullyはその場に立ちつくし、途方に暮れた。 ------------------------------------------------------------------------------------------ マペットは確実にMulderを追いつめていた。 Mulderは、朝方Scullyに「昨夜はどこにいたのか」と問い詰められた後、オフィスを出たのは 覚えているが、どうやって自宅へ戻ってきたのかをまったく思い出せなかった。 再び夜がやってきた。 (フォーックスー!! おやおや、こんなにやつれちゃって。ヒヒヒハハハハハッッッ!! もしや 恋わずらいかしら? だから言ったじゃないか、あんな娘に恋したってロクな事なんかありゃ しないんだってさ) ついにMulderは限界を越えた。 やにわにカウチから立ち上がり、キッチンに飛び込んで、引き出しからナイフを取り出した。 「黙れ!! お前なんかこうしてやる!!」 Mulderは一瞬のためらいもなく、自分の左肩にナイフの刃を置いて一気に手前へ引いた。 「ウッ...」 一瞬遅れて襲いかかってきた鋭い痛みに、思わずうめき声がもれる。着ていた白いシャツが、 みるみるうちに朱へと染まっていく。怒り、焦り、哀しみ、嫉妬...剥き出しになった様々な 感情が、彼の中で渦を巻く。 ゴトン 血のついたナイフが、乾いた音を立てて右手から滑り落ちた。その右手を目の前で大きく開き、 掌をじっと見つめる。 Scully... 彼はその手で車のキーをつかみ、荒々しくアパートのドアを開けて出ていった。 ------------------------------------------------------------------------------------------ ドアを開けると、真っ青な顔をしたMulderの姿があった。『どうしたの?』と言い終わる前に Scullyは強引に両手首をつかまれた。その状態のままMulderが前へ前へと歩くので、彼女は それに合わせて、自身の体の向きに逆らって後方へ下がらざるを得なかった。 「Scully...もう気が狂いそうだ。君が好きだScully、愛してる。どうしようもないんだ。君が 他の男と一緒にいるのかもしれないと思っただけで、僕はどうにかなりそうなんだよ」 「ちょっと、落ち着いてよ!! 何があったのMulder!?」 「何も言わないでくれ。僕を...僕だけを気にかけてほしい」 「やめてMulder!!」 「頼む、僕のものになって...僕のものに...」 後ろ向きに歩いていたScullyがカウチにつまづき、二人一緒に倒れ込んだ。 「こんなの、あなたじゃないわ!!」 必死で叫ぶScullyの声さえもMulderの耳には届いていないのか、彼は左手で相棒の両手首を 捻じり上げ、右手を彼女のブラウスの中へと滑り込ませた。 「頼むScully...頼む.....頼むよ....頼むよ....」 うわ言のように何回もそうつぶやきながら、彼の右手が腰から胸へとかけて、Scullyの体の ラインをねっとりと舐めていく。 『こんな形では許されない』 Scullyは、ありったけの力でMulderに抵抗した。しかし、上からのしかかっている彼の目を 見た瞬間...その「ありったけの力」は、まったく意味のないもののように思えた。 肉体的な面だけでなく、精神的な面においても。 そして、彼に対してだけでなく、Scully自身にとっても。 スカリー、タノム ボクノモノニナッテホシイ タノム...タノムヨ....タノムヨ..... そして、Scullyの体から力が抜けた。 Scullyは、相棒の顔を下から見上げた。なんとなく自分の顔が奇妙に歪んでいるような気が したが、その場で出来得る最大の努力をして、なんとか笑顔を作ろうとした。それと同時に、 乾いてカラカラになった喉の奥から、どうにかこうにか言葉を絞り出そうと必死になった。 「....わかった......あなたがそうしたいのなら....そうする.......それが..... あなたのために........なるんだったら..........」 抜け殻のような目で、Mulderは自分の下で組み敷かれているScullyを見た。 「手を....どけて.......」 Mulderにきつく握られていた両手が自由になると、Scullyはその両手で自分の体を支えながら 起き上がった。今度は同じ高さで二人の視線が合う。彼女はMulderの視線を自分の目から 離さないようにして、右手をMulderの頬へそっと置いた。その手は氷のように冷たい。 Mulderは、顔のすぐ側でScullyの吐息を感じた。そしてそれはだんだんと近くなり、Mulderの 唇にかかる。ほんのわずかな躊躇の後、彼女の唇はMulderのそれを塞いだ。 彼女の唇は震えていた。 どうしようもないほどに。 哀しいキスだった。 口移しに「生」の感覚を与えられたような気がしたMulderは、そっとScullyから唇を離す。 ヘーゼルの瞳から、とめどなく涙が溢れ出した。 「ごめん、Scully.....悪かった、許してくれ!!」 鳴咽をもらしながら、Mulderは心から詫びた。 「もう君に顔向けできない...」 そう言うと、彼はScullyに背を向けてカウチから立ち上がった。その時、Scullyの視界が初めて Mulderの肩を捕らえた。彼女も同じように立ち上がる。 「Mulder、血が出てるわ。シャツも切れてるじゃないの」 「...なんでもないよ」 「そんなわけないでしょう? こんなに出血してるのに。見せてごらんなさい」 嫌がるMulderにシャツを脱がせると、肩に縦一文字の切り傷が現れ、そこには無残にも真っ二つ に切り裂かれたタトゥーの姿があった。それを見た瞬間、彼女の脳裏に「あの」記憶が蘇った。 数年前の記憶が。 「どうしたの、これ?」 「...声が聞こえるんだ...」 『声が聞こえる』 このひと言を、まさかMulderの口から聞かされる事になるとは... 「僕に呼びかけるんだよ。お前は孤独だって、お前を慰めてあげるって...」 マペットの口は、鮮やかな赤色をしていた。おそらくこの赤い色材も、麦角中毒を誘発する要素 が含まれた原料から採ったものなのだろう。Scullyは、相棒をこんな目に遭わせてしまった自分 を心から罵った。 「君が僕から離れていくんじゃないかって気になった。心細かった。恐かったんだ...」 まだ肩の震えが止まらないMulderを、Scullyはそっと後ろから包み込んだ。 「あなただけじゃないわ。私もそう...人間はみんな孤独なのよ。だから、自分以外の何かを 求めるの。愛情でも仕事でも、喜びでもいい、悲しみでも、怒りでも...とにかく、自分が 一人ぼっちじゃないんだって事を自分自身に証明したいのよ。Mulder、あなたが謝る必要は ない。あなたが悪いんじゃないわ」 彼女は背伸びをして、Mulderの傷口に唇をつけた。 「だから、自分を責めるのはやめて」 子供をなだめるような優しい声。それは、千々に心を乱していたMulderの琴線に触れた。Scully の腕の中で体の向きを変え、MulderはScullyと向かい合う。そして彼女を抱き締め、泣いた。 ------------------------------------------------------------------------------------------ Mulderは、Scullyを胸に抱いて泣き続けた。寂しさを忘れるかのように。そしてScullyもまた、 己の中に存在していた「孤独」を忘れようとして、Mulderの抱擁に身を任せていた。 「Scully」 Mulderから発せられたそのひとことが、彼女の体中に暖かく響いた。 「...君のを見せて」 そう言った瞬間、腕の中にいた彼女の体が強張るのを感じた。 「見せるものじゃないわ」 「いいんだ、見せて」 Mulderはカウチに腰掛け、Scullyを後ろ向きに立たせた。ゆっくりと彼女のブラウスの裾を めくると、自分の尻尾に噛み付いて輪を作っている蛇の姿が、Mulderの目の前に現れた。 彼はそれをじっと見つめる。 「君も...孤独だったのか?」 「....わからないわ........」 「......寂しそうに...見えるよ.......」 Mulderは、Scullyのタトゥーに唇をつけた。 Scullyは、彼の唇の柔らかさを体全体に感じ、思わず目を閉じる。 「僕が原因だったのかな?」 真面目な声で問い掛けるMulderがいとおしくて、Scullyは振り返ってフッと笑った。 「バカね、もう過ぎた事よ。さあ、傷の手当てをしないと...」 「待って、もうしばらく...こうしていたい」 隣にScullyを座らせ、Mulderは彼女を抱きしめた。Scullyは、彼の髪を優しく梳いた。 何度も何度も... ------------------------------------------------------------------------------------------ 空が白んできた。 一定のリズムを刻む、彼女の心臓の鼓動。そして、髪を梳いている細い指。 そんな心地良さの中、Mulderは目覚めた。どうやらScullyの肩に頭をのせたまま、眠って しまったようだ。 「う....ん....」 Mulderが寝ぼけたように喉を鳴らして体を動かすと、Scullyは窓の向こうに見える青紫色の 朝焼けから、相棒の寝顔に視線を移した。彼が目を開けると、相棒は穏やかな笑顔を作った。 「起きた?」 「お目覚めのキスは?」 「ほしい?」 少し意地悪そうな瞳で、ScullyはMulderを見つめた。いつものScullyだ。 「気分はどう?」 「ああ...ありがとう」 「良かったわ、まともなあなたに戻ってくれて」 「君のおかげだ」 「ええ、ひとつ『貸し』よ」 ニヤリと笑う見慣れた彼女の笑顔を再び間近で見る事ができたのが、Mulderはとても 嬉しかった。 「蛇に睨まれたカエル...かな」 「そうね、そんな感じ...」 二人は顔を見合わせてクスリと笑った。 人間はみんな「孤独」である。しかし、人間はみんな「孤独」である事を否定したがり、その 意識を心の奥深くに閉じ込める。寂しさを紛らわせようと、必死で「何か」を求める。そして、 その「何か」を見出す事によって、人間は自己の存在価値を見出すのだ。 マペットの声は、もう聞こえなくなっていた。 The END Special Thanks: Ms.Jody Foster...for your GREAT work!! −後書き− ヒヒヒヒハハハハッッッ!! くっら〜いっっ!!(^^;) 「がらすのかめん」の反動かしら!? 前書きにもあるように、これは某チャットから生まれたネタを元にして書いてみたものです。 チャットでの話しっぷりから考えて、当初は「ベタなコメディ」路線を考えていました。 当然、その時チャットにいらっしゃった方々も、その展開を予想されていたようです。 しかし、いざプロットを考えてみると... コメディにならない!!(爆笑) まるで自分を催眠術にかけるかのように「こめでぃよぉ〜、こめでぃよぉ〜」と、何度も呪文を 唱えてトライしました。一度はいい感じでプロットが進み、「ええやないのええやないの!!」 と、ウホウホ顔で、ない知恵を出して頑張ったのに、最後の最後で「オチがない」という、 コメディにとっては絶望的とも言える事態にハマリこんでしまった私(苦笑) 「起承転結」の「結」がないFicなんて読めるか〜っ!! というわけで、180°方向転換。 リオデジャネイロまで穴掘ってしまいそうな勢いの「クラいFic」となりました(笑) Amanda初の「セミおとなFic」って事で、どうぞ皆様、お許し下さい m(_ _)m 偶然にも今日はScullyのB-Day。 ごめんScully、こんな日にこんなクラいFic作っちゃって...(苦笑) わざとじゃないのよ、わざとじゃ(^^;)... とにもかくにも、Happy B-Day, Scully!! 「おお、Amandaもアダルトまであと一息!!」なんて思っていらっしゃいませんか? その「あと一息」が壁なんですよ〜(苦笑) Amanda aiko@mti.biglobe.ne.jp