DISCLAIMER// The characters and situations of the television program "The X-Files" are the creations and property of Chris Carter, Fox Broadcasting, and Ten-Thirteen Productions. Also, the music in this story doesn't belong to me, either. No copyright infringement is intended. ----------------------------------------------------------------------------------------------------- −前書き− 今回のFicは...Scullyがかなり爆走しています。 しかし、いつものAmandaテイストの「爆走」ではないんです。 「アブナイもの見たさ」...そんな言葉がお好きな方に、このFicを捧げます(笑) また、このFicには、設定上たくさんのDance Musicが出て参ります。 雰囲気を盛り上げるため(!?) 家にあったCDの中から実際に曲を集めて 「サントラ」まがいの物を作ってみたんです。 (と言うか、ただ電車の中で聞くためのテープを作りたかった・苦笑) もし「ほしい」なんて方がいらっしゃいましたら、Amandaまでご連絡下さい(笑) ----------------------------------------------------------------------------------------------------- Title: Stranded Heart (1/2) Category: MSR Spoiler: None Date: 10/25/99 By Amanda ----------------------------------------------------------------------------------------------------- I'm going out tonight - I'm feelin' alright Gonna let it all hang out Wanna make some noise - really raise my voice Yeah, I wanna scream ond shout... ("Man! I Feel Like A Woman" / Shania Twain) 役人達の住処、ワシントンDC。 ホワイトハウスやFBIがここにあるという事は、誰もが知る事実である。 そんなお堅い都市、DCには、そのイメージに到底似つかわしくないクラブハウス 「Explosion」がある。 建設当時は「そんなもの、DCの雰囲気に合わない」と、かなりの建設反対の声があったのだが、 いざフタを開けてみると、ストレス発散や、いわゆる「出会い」を求めて訪れる人間の なんとまあ多いこと。 DCでのクラブハウス建設という、大胆かつ画期的(!?)なプロジェクトを立案、実行した人物は さぞ笑いが止まらないだろう。 そんないわく付きの「Explosion」では最近、ある話題で持ちきりだった。 ここには時々、息をのむほどのセクシーな女性が姿を現すというのだ。 この日もクラブでは、男性ばかりでなく、女性の視線をも独り占めにする、話題の女性が 来ていた。彼女はダンスフロアの中央で、気持ちよさそうに踊っている。そのダンスがまた、 誰もが羨むような上手さなのだ。その出で立ちも、他の女性と比べてはるかに際立っている。 軽く10cmはあるだろう高さのピンヒール、白いブラウスにミニのタイトスカート。 唇には、真っ赤なルージュをひいている。 その「イケテる女」に、一人の男が近づいた。すると彼女は、両手を彼の首に回し、 耳元で何かささやいてはクスリと笑う。男は彼女の腰に手を置いて、二人は踊り始める。 誰も彼女の素顔を知らない。 「Dee」という名前以外は...。 ----------------------------------------------------------------------------------------------------- 「私達って、一体何なの?」 Dana Scullyは、長い間心にため込んでいた「やり場のない苛立ち」のおかげで、 爆発寸前の精神状態にまで追い込まれていた。 私、ここで何やってるのかしら?? ...いえ、仕事に不満はないわ。科学的に納得しきれないような事件ばかりだけど、 Mulderと共に、私にとっての「真実」を追求する事、それが私のやるべき事だと思っている。 なぜ私がアブダクトされ、首にチップを埋められなければならなかったのか。 なぜメリッサが私の身代わりに殺されなければならなかったのか。 なぜ、政府が陰謀を企てるのか。 問題は.......「彼」よ 「彼」という代名詞が彼女の頭に浮かんだ時、その「彼」がScullyに向かっておねだりの声を上げた。 「Scullyyyyyy〜〜〜〜、腹が減ったよ〜。君んちで何かごちそうしてくれない?」 ...どうして私があなたにそこまでしないといけないの!? 私はあなたの「連れ合い」じゃないのよ!! 「連れ合い」...別にイヤじゃないけど... 「...Mulder?」 「なに〜??」 「あなた、私を何だと思ってるの?」 「何だよ、急に?」 「質問に質問で答えないでちょうだい!!」 「え、っと...君は僕の...」 「僕の?」 「...パートナーだ」 パートナー、ね。 Mulderに気づかれないほどの小さなため息をついて、Scullyは彼女お得意のスピーチを始めた。 「Mulder, 今の私達の状態って、仕事上のパートナーって言えるの? そりゃ確かに、  あなたと私はコンビを組んで6年になるわ。誰がどこから見たって立派なパートナーよね。  でも、仕事上のパートナーって相方の食事の用意までしないといけないワケ?」 「だってScully, 君って料理が上手だし、それに、お互い一人で食べたってつまらないだろう?  知ってるかい? 一人っきりの食事は、後の人格形成に悪影響を及ぼすんだ。  人とのコミュニケーションがいかに大事かって事。だから僕は、食事をしながら  君とコミュニケーションを取りたいんだよ」 「あら、それはそれは立派なご意見だこと。でもあなたは既に人格が形成された後じゃないの」 ...料理が上手、か。 そういう誉め言葉はすぐに出てくるクセに 「とにかく、今日はダメ」 「どうして?」 「どうしても」 「なんで?」 「なんでも」 「ダメかい?」 もう、その顔するの、やめてよ!! それに弱いんだから... やや誇張表現気味ではあるが、Scullyは「お願いの表情」を顔いっぱいに作っているMulderを 「断腸の思い」で振り切り、少々乱暴にブリーフケースをつかんで帰る仕草をする。 「今日はダメ!! わかった?」 「はいはい、わかったよ、パートナー」 好きなら好きだと言えばいいのに...そう思っているXF視聴者がどれだけ多いことか。 「何を今更...」という、当事者達の気持ちも、分かる気がしないでもないのだが... ...おっと、今は私の私情をはさむべきではない。 今はFicの「語り部」に徹しなくては... とにかく、Scullyは二人の間にくすぶる「中途半端な関係」にイライラしながら、 ドアを荒々しく締め、オフィスを出ていった。 「どうしたんだ、今日は?」 女心、特にScullyの心情が相手になると、全く「心理分析官」という肩書きが通用しなくなる Mulderは一人、オフィスに取り残されてしまった。 ----------------------------------------------------------------------------------------------------- ああ、私って...何イライラしてるのかしら? 何に対しての怒りなのだろう? 自分に度々食事を作らせるMulderに対してなのか。 そんなMulderに「しょうがないわね」と、つい願いを聞き入れてしまう自分に対してなのか。 それとも... いや、これ以上は考えないようにしよう。 ぷるぷると頭を振って気持ちを切り替え、帰宅しようと車のドアにキーを入れた時だった。 ふと外を見ると、鮮やかな夕焼けが、まだ空いっぱいに広がっていた。 夕刻に太陽と顔を合わせる事ができるほど、今日は早くオフィスを出たのだ。 「...たまには...歩いて帰ろうかな」 いったん手にした車のキーをポケットにしまう。夕焼けに魅せられるように、 Scullyはその優美な空をじっと眺め、かすかに唇の端を上げて微笑んだ。 ----------------------------------------------------------------------------------------------------- 道すがら、いろんな人に出会う。 茶色い袋を抱えた、買い物帰りと思しき母親と小さな娘。 楽しそうに顔を寄せ合って話す男女。 犬を連れてジョギングをする人。 いつもは事件現場に足を運ぶための「道」でしかないのに、 実はこんなにもたくさん、素朴な幸せで満ち溢れているものなのだ。 いつの間に、そんな事さえ忘れてしまっていたのだろう? そんな事を考えながら歩いていると、あるストリートの一角に、異様な人だかりができているのが 目に入った。わずかな好奇心にそそられ、その一団に近づいていく。 派手な格好をした若者達が、建物の入り口でたむろしている。 その建物を見上げると、蛍光色のネオン文字が、Scullyの目に強引に飛び込んできた。 Explosion ああ、ここだったの そう言えば、最近DCにクラブハウスがオープンしたって、Mulderが言ってたわね アルコールを飲みたいわけじゃない 踊りたいわけでもない なぜかそのネオンの魅力に吸い寄せられるように、Scullyはフラフラと 「Entrance」のサインボードに近づいていった。 ----------------------------------------------------------------------------------------------------- He's like thunder, like lightning The way you love me is frightning I'd better knock on wood I'd better knock, knock, knock on wood... 入り口を抜けると、そこは別世界だった。 DCという土地のお堅いイメージを一瞬にして吹き飛ばすような、そんな力強さがあった。 暗めの部屋に、幾筋ものスポットライトがスッと栄える。 色とりどりのライトがダンスフロアを強烈に照らしつけ、それが踊る者の心を煽る。 見事なまでに'90年代風にアレンジされた往年のヒット曲「Knock on wood」が、 クラブの内壁を撃ち破らんばかりの大きさでリズムを刻んでいた。 Scullyは、体の中からこれまでにない興奮がわき起こるのを感じた。 危険な匂いがする それでいて甘美な、刺激的な匂いが 彼女の第六感が、そう感じ取った。 その第六感に誘われるがまま、バーのカウンターに歩み寄り、体をカウンターにもたせかけた。 「ジンライム、もらえる?」 「OK, ちょっと待って」 鍛え上げた体つきのバーテンが、Scullyのオーダーを聞く。 「浮かない顔だな」 バーテンはジンライムをScullyに出し、音楽に負けないぐらいの大声で、彼女の耳元で話しかけた。 「そうかしら?」 「ああ、何もかもに疲れたって顔してるぜ」 「あなたまで私の分析をするの?」 「分析? はっ、ただのカンさ。ま、今日は楽しんで行きなよ」 そう言うと、彼は隣の客のオーダーを取りにかかった。 疲れた顔ね... 初対面の人にまで悟られるとは、相当暗い顔をしているに違いない。 これを飲み終わったら帰ろう、そう心に決めた時、後ろから誰かに肩を叩かれた。 「そんな暗い顔してちゃあ、せっかくの美人がだいなしだよ」 声のする方向へ顔を向けると、そこには見知らぬ男が立っていた。 誠実そうで、屈託のない笑顔をScullyに向けている。 いくつぐらいだろうか、Mulderよりも随分若そうに見える、と言うよりも、 Mulderと比べれば「子ども」という言葉がふさわしいかもしれない。声も少し高め。 程良く日焼けをして均整のとれた体つきが、相手に良い印象を与えるには非常に効果的だった。 「一人で来たの?」 「...ええ、そうよ」 「君がこんな所に、一人で!?」 「おかしい?」 「いや、そんな訳じゃ...あの...気を悪くしたならごめんなさい」 焦ったように謝る彼を見て、Scullyはなんだか微笑ましい気分になった。 「いいのよ。あなたも一人?」 「そう。僕はNick、このクラブが大好きなんだ。クールだし、活気があるから。  ねえ、良かったら一緒に踊らない?」 「私が...あなたと!?」 「他に誰がいるのさ?」 突然の申し出に、Scullyは慌てた。 「あの、悪いけど踊るために来たんじゃないの。それに私、こんな所で踊ったことないし...」 「大丈夫、リズムに合わせて適当に体を動かせばいいんだよ。せっかく来たんだし、いいじゃないか」 「でも...」 「それとも、僕が相手じゃダメ?」 Nickは、拗ねたような表情をしてScullyを見る。 彼女は、彼のその仕草の中に、なぜか愛しさを感じた。 「そんな事ないわ」 「それじゃ、決まりだね」 そう言うと、彼はScullyに手を差し伸べ、ニッコリと笑う。 彼女がわずかな笑顔を返し、Nickに手を預けると、二人はダンスフロアに向かって歩き出した。 ----------------------------------------------------------------------------------------------------- Sometimes love comes quickly Sometimes love comes slow Let's not miss this moment....'cause Love Will come and go 「ほら、そんなに固くならないで、リラックスしなきゃ」 ぎこちない動きのScullyを見て、Nickはクスクス笑いながら指導をする。 こんな所をMulderに見られたら、彼女はきっと自分で自分を撃ち殺してしまうに違いない。 BGMは、いつの間にかVonda Shepard の「Love Will Come and Go」に変わっていた。 「『踊る』って意識するからダメなんだよ。音楽を聞いて、リズムを全身で感じ取るんだ。  ルールなんてない。思ったように体を動かすんだ」 目の前で軽く体を揺らすNickを横目に、Scullyは見よう見まねでわずかにステップを踏む。 「僕の真似しなくてもいいんだよ。君には君のスタイルがある。それを表に出してみて」 実に抽象的なアドバイスに戸惑うScully。 音楽を聞いて、リズムを全身で感じ取る リズムを全身で... その言葉を頭で数回繰り返すと、突然彼女はフロアの真ん中でピタリと立ち止まり、瞳を閉じた。 「...ねえ.....大丈夫?」 立ったまま動かないScullyが心配になり、Nickはダンスパートナーの顔をのぞき込んだ。 しかし、全く反応がない。 「具合でも悪いの?」 Nickが相手の華奢な肩を優しくつかんだ時、Scullyの碧い瞳がスッと開かれた。 「Nick...リズムを....感じる.......」 「え?」 少しづつ、少しづつ、Scullyの体が、ハウスミュージックのビートを取り込んでいく。 それに呼応するかのように、彼女の体が少しづつ、少しづつ、動き始めた。 彼女は、次第にリズムと一体化していく。 その体はしなやかな動きを作り出し、時には優雅な、時には大胆なステップを生み出す。 その姿を目の当たりにしたNickは、信じられないといった顔つきで彼女をじっと見つめていた。 ----------------------------------------------------------------------------------------------------- 「すごいよ!! 踊ったことないなんて冗談だろ!?」 まだ熱に浮かされたような顔をしているScullyに向かって、Nickは興奮した口調でまくしたてる。 「いえ、本当よ。今日が初めて」 「隠さなくてもいいよ。あんなにクールな踊りを見たのは初めてだよ!!」 しかし、Nickの口から飛び出してくる大絶賛の言葉など、Scullyの耳には一切入っていなかった。 あの感覚は何? 体の芯が火傷しそうなほどの、あの熱い感覚は? リズムと絡み合った私の体 まるで音楽に愛撫されるような... こんなことがあるなんて... 「ねえ...聞いてるの??」 Nickのそのひとことで、Scullyはようやく我に返った。 「私、帰らないと」 そう言うが早いか、彼女は「EXIT」のサインへ向かって突然さっさと歩き出した。 「ねえ、待って!! ...また.....会えるかな?」 Nickが不安そうな表情で、振り返った彼女を見つめる。 「.....そうね」 「名前も......教えてくれないの?」 Scullyは、しばらくうつむいた後、もう一度Nickに顔を向ける。 「.......Deeよ」 それだけを口にすると、いつもの顔つきに戻ってクラブから姿を消した。 ----------------------------------------------------------------------------------------------------- 次の日、Scullyはまさに「心ここにあらず」だった。 昨日のクラブでの出来事を思い出すだけで、体中が火照ったように熱を帯びる。 ハウスのリズムに体全体を包み込まれ、まるで操られるように体が動く。 その時の息づかい。クラブのあちらこちらに弾け飛ぶ人間のパワー。 あの躍動的な世界が片時も頭から離れず、キャビネットに納めてあるファイルを繰る手も スピードが鈍る。 そうこうしているうちに終業時間が訪れた。 「Mulder, 先に帰るわ」 一本調子のうわずった声でScullyが「お疲れさまコール」を発した時、 Mulderは慌てたように声をかけた。 「Scully!!」 「...何?」 「Scully...具合でも悪いのか?」 「どうして?」 「ボーッとしてたぞ」 「いつ?」 「ずっとだ」 ...やっぱり隠せないわね、この男には 「悩みでもあるのか?」 「え、別にないわよ」 「....」 「何黙ってるのよ?」 「辛いことがあったら...相談してくれよ」 相談しろですって? 『Mulder, 私の事、どう思ってるの?』 そんな事、相談できるわけないじゃないの 「そうね...ありがとう。でも大丈夫よ」 Scullyは心の動揺を精一杯隠しながら、いつものお決まりゼリフ「大丈夫よ」をキメて、 オフィスから逃げるように姿を消した。 そんな彼女の後ろ姿を眺めながら、Mulderはフッとため息をついた。 「やれやれ」 ----------------------------------------------------------------------------------------------------- 「...ただいま」 「お帰り」なんて言葉が返ってくるわけがないのだが、今日はつい口にしてしまった。 Scullyは自宅に戻るなり、ブリーフケースをドサッとカウチに放り投げ、その隣に腰を下ろす。 私、どうかしてる たかがクラブハウスじゃない 踊っただけじゃない なのにどうしてこんなに興奮してるの? 二つの相対する感情が、Scullyの中で渦を巻く。 クラブで踊るなんて、私らしくないわ あの快感、もう一度味わってみたい あんな騒々しいところ、余計にストレスが溜まっちゃう たまにはこういうのもいいじゃない 頭の中で、自分の背中を押す声と、自分を押さえつける声が絶え間なく交互にこだまし、 彼女はたまらず頭を抱え込んだ。 もう行っちゃダメよ、あんな所 自分の知らない一面を見つけて怖くなったの? そんな所で遊んでるヒマがあるの? 行きたければ行きなさいよ 誰もあなたの素顔なんて知らないわよ 楽しみのない人生なんてつまらない 「..........」 とうとうScullyは顔を上げ、意を決したように寝室へと向かった。 ----------------------------------------------------------------------------------------------------- (We're gonna)Stomp all night In the neighborhood Don't it feel all right Gonna stomp all night Wanna party till the mornin' light... ("Stomp" / Big Fun) 「Dee...Dee!!」 そう呼ばれて腕をつかまれ、ハッとして振り返る。 「やっぱり君だ。まさか僕のこと、忘れてなんかないよね」 そうだ、私は「Dee」なんだわ。 昨日の事を思い出し、目の前の男に向かって、わざと突き放すような言い方をしてみた。 「あなた...誰だったかしら?」 「冷たいなあ、昨日一緒に踊ったじゃないか!!」 ムキになって言い返すNickが可愛らしくて、Scullyはつい笑ってしまった。 「そんなにムキにならなくても覚えてるわよ、Nick」 「ああ良かった、ホントに忘れちゃったのかと思ったよ。  今日も来てくれたんだね。会えて嬉しいよ」 心底ホッとしたような表情を浮かべて、嬉しそうに笑顔を作る彼。 その表情の豊かさが、Scullyにはとても新鮮だった。 「ねえDee, 昨日と雰囲気が違うね」 「そうかしら?」 「今日の君は...昨日よりも....セクシーだ」 彼は少し顔を赤らめて言う。 無理もない。昨日は仕事の帰りに寄ったために、濃紺のパンツスーツ姿だったのだ。 今日は膝丈より少し短めの、黒い革のタイトスカートをはき、第2ボタンまで開けた 白いブラウスの上に、スカートと同じ黒革のジャケットをはおっている。 ルージュも、いつもより紅の強い色をつけていた。 「...ありがと」 誉め言葉にあまり慣れていないScullyは、少しうつむいてそう答えるのが精一杯だった。 「今日の君はセクシーだ」 「会えて嬉しいよ」 その言葉が妙に照れくさかった。 まるでしおれかかった花に水が染み込んでいくように、彼女のささくれだった 「女」としての心にみずみずしさを与えてくれるNick。 Scullyの中で、何かが変化していた。 どこかで歯止めをかけていた、ある「感覚」のようなものが、彼女の中で目を覚ました。 「ええ、私も会えて嬉しいわ」 鋭い視線をNickに向けて、Scullyはそう答えた。 ----------------------------------------------------------------------------------------------------- Scullyはこの日を境に、クラブで過ごす日が多くなった。 ダンスが上手いという、意外なところに隠れていた才能、そのクールな性格、 そのセクシーかつ整った凛々しい顔立ち、ひねりの効くユーモアセンス。 彼女の全てが男性ばかりでなく女性をも魅了し、今や彼女は「Queen of Explosion」 という異名を持つまでになってしまった。 彼女がクラブを訪れると、みんなが彼女に注目し、一緒に踊りたがる。 もちろんNickも多分に漏れず、そんな彼女の虜になっている。 「Dee, 今日もすっごくセクシーだね」 「君の踊りはホントにサイコーだよ」 「君にはたくさんFanがついちゃったね。でも、僕といつまでも友達でいてくれる?」 「君の来ない日はつまんないよ」 Nickはいつも感情をストレートに表現する。 そんな彼を見ていると、Scullyは彼を愛しさのあまり抱き締めたくなる。 「Nick, あなたって純粋でいい人ね」 「君にはいつでも素直でありたいんだ。君が好きだから」 君が好きだから その言葉に、Scullyは快感で体がゾクッとした。 ----------------------------------------------------------------------------------------------------- 「二つの顔」の生活がダラダラと続く。 朝から夕方まで仕事をして、都合のつく夜はクラブへと繰り出す。 今日も、そんなお決まりの一日を過ごす...はずだった。 いつもより早めに来て、前回の出張旅費の精算をしている時だった。 Mulderがオフィスに入ってくる。 「おはようScully」 「おはようMulder」 いつも通りに朝の挨拶をかわす。 しかし、今日はその後から、いつもとシナリオが違っていた。 「Scully, この記事、見てごらんよ」 バサッとデスクに投げられた、DCのタブロイド誌。 誌面上で派手に踊る記事の見出し文字を見て、Scullyは思わず声を上げそうになった。 「A NightQueen on A Street.」 ホラー映画、"A Nightmare on Elm Street."をもじってタイトルにしているところが いかにもタブロイド誌らしく、安っぽい。 いつの間に撮ったのか、ご丁寧にもDeeが踊っている写真まで掲載されている。   最近、A通りの一角にオープンしたクラブハウス「Explosion」に、Deeという名の   女性が姿を現すようになり、彼女を一目見ようと集まる若者が後を絶たない。   同クラブハウスは先月初旬にオープンしたが、同月下旬あたりから、この「Dee」なる人物が   訪れるようになった。彼女はその大胆かつセクシーなダンスで人々を魅了し、   「Queen of Explosion」というニックネームをつけられている。しかし、   この人物についてのプロフィールは一切公開されておらず... もういい、頭がクラクラしてきた。 それ以上読む事もはばかられ、Scullyは記事から目を離した。 「その写真がまたセクシーだろ? アングルが悪くて、顔がよく見えないのが残念だけど」 記事を読むScullyをじっと見つめていたMulderが、ニヤニヤしながら話しかける。 顔ですって!? 見えなくていいわよ、そんなもの!! 「そ、そうかしら?」 なんとか呼吸を落ちつけて、Scullyはやっとの思いでそう答えた。 「ねえScully, 今夜あたり行ってみないかい? そのクラブにさ」 「な、なんですって!?」 「面白そうじゃないか、行ってみようよ」 「やめなさいよ、そんな、女性を見物に行くなんて」 「ちぇっ、最近冷たいぞScully」 「あなたって、あんまり甘やかしたらつけあがるもの。厳しくしなきゃね」 なんとかその場を取り繕い、Scullyは再び精算の書類に視線を戻した。 Mulderは、彼女が手放したタブロイド誌にもう一度目を通す。 そんな彼を見て、Scullyは恥ずかしさでたまらなくなった。 そんなにジロジロ見ないでよ!! 相棒の写真を眺めるMulderと、自分の写真を眺める相棒を眺めるScully。 しばらくその奇妙な状態が続いた後、Mulderがふと顔を上げた。 「なあ、こんな事言ったらきっと怒られると思うんだけど、ジョークだと思って聞いてくれる?」 「あなたのジョーク? 期待しないで聞くわ。何?」 「この写真の彼女、君に似てるよな」 「!?」 「君がこんな格好したら、Deeみたいな感じになるんじゃない?」 「Mulder!! いい加減にしなさいよ!!」 「だからジョークだってば」 両手を頭の高さまで上げ「はいはい、すみませんでした」という表情を浮かべながら Mulderは席を立つ。 「Skinnerの所へ行って来るよ」 オフィスの外からドアを閉めようとして、もう一度ひょこっと顔を出した。 「Scully」 「なあに?」 「最近...なんかあったのか?」 「どうして?」 「すごく...キレイになったから」 驚いてMulderの方に顔を向けると、彼は既にドアを閉めた後だった。 ----------------------------------------------------------------------------------------------------- クラブを出た人気のない角に、一組の男女がいた。 クラブの中では、La Boucheの「Be My Lover」がドンドンというリズムを響かせ、 その振動が外にまで伝わってきていた。 女は体を壁にもたせかけ、男は彼女の後ろの壁に左手をかけて、じっと相手を見つめている。 しばし二人の視線が絡み合い、男の顔がゆっくりと近づく。 最初は軽く、そして次第にそのキスは熱く激しいものに変わっていく。 言葉で言い表せないほどの心地良さに、甘い声が吐息と一緒に漏れる。 体中に電流が走ったような刺激を受けて、女は相手の首に左手を回し、相手の体を引き寄せる。 その仕草に応えるように、Nickの細い指がDeeのブラウスのボタンを一つ、外した。 −To Be Continued −後書き− スミマセン、こんな所で「続く」にしてしまいました。 読んでくださっている方の「ぬぁにい〜〜〜〜っっっ!? いらんところで止めよってからに!!」 という声が聞こえそうです。ああ、許して...。 ラフ原稿の段階では、こんなに長く&アヤシクなるハズじゃなかったんですよ。 最初はバリバリのコメディにしようと思っていたのに(全然ちゃうやんか・汗) 予想外の展開に、今かなり焦っています。 続きはなるべく早く書き上げますので、もう少しお待ち下さいませ。 誕生日を迎えて、ちょっとだけ「オトナ」の文章が書けるようになったでしょう?(笑) Amanda aiko@mti.biglobe.ne.jp