DISCLAIMER// The characters and situations of the television program "The X-Files" are the creations and property of Chris Carter, Fox Broadcasting, and Ten-Thirteen Productions. Also, the music in this story doesn't belong to me, either. No copyright infringement is intended. ----------------------------------------------------------------------------------------------------- Title: Stranded Heart (2/2) Category: MSR Spoiler: None Date: 10/29/99 By Amanda ----------------------------------------------------------------------------------------------------- 体中に電流が走ったような刺激を受けて、DeeはNickの首に左手を回し、彼の体を引き寄せる。 その仕草に応えるように、Nickの細い指が、Deeのブラウスのボタンを一つ、外した。 外気のひんやりとした空気が、彼女の胸元をスルッと舐める。 二つ目のボタンにNickの指がかかった。 その時、Deeは彼の首に絡めていた自分の腕をほどき、その手で彼の胸を押して 相手を貪るようなキスから自分自身を解放した。 突然の拒絶に、Nickは混乱した。 「どうしていつもキスだけなの?」 「あなたのキスが好きだから」 「お願いだよ、君が好きなんだ。愛してるんだよ、どうしようもないぐらい」 Nickが懇願するような目をDeeに向けると、彼女は妖しい光を帯びた瞳でじっと彼に視線を合わせる。 「まだダメ」 そう言ってDeeは上目使いに彼を見上げ、頬に軽く口づけてからその場を去っていった。 ごめんねNick, あなたが嫌いなわけじゃない 何度あなたに抱かれたいと思った事か それで彼の事を忘れられるのならね でもね 体があなたを欲しがっても 私の心が、まだそれを許さないの その晩遅く、Scullyは一人、部屋で声を出さずに泣いた。 ----------------------------------------------------------------------------------------------------- 次の日、Scullyは昨晩の事など、何もなかったような顔をしてオフィスのドアを開けた。 「おはよう, Mulder」 「おはよう」 朝の挨拶をする時、Mulderはいつもチラッと相棒に目を向ける。 彼女が何を考えているのか、いわゆるご機嫌伺いをするためである。 この一瞬のチェックで、今日はどこまでくだらないジョークが通じるかを推し量るのだ。 しかし、今日は何かがおかしい。 Mulderの心理分析官としての勘がピクリと働いた。 「Scully?」 「なあに?」 「何かあったのかい?」 突然の質問に、Scullyは飛び上がるほど驚いた。 なんとか呼吸を整え、努めて冷静に答える。 「何もないわよ、どうして?」 Mulderは椅子から立ち上がり、彼女に近づいて顔をのぞき込んだ。 「瞼が腫れてる」 それは、ほんのわずかな腫れだった。 昨晩、散々泣いた後、しっかり目元を冷やしたのに 今朝もメイクで充分カバーしたはずなのに どうしてわかるの? どうしてそんな小さな事を簡単に見破るの? 「...昨日...眠れなかったのよ」 口を開く度に、嘘が増えていく。 私はまたMulderに嘘をついた ほんの軽い気持ちで踏み入れた世界の上に、幾重にも嘘が塗り重ねられる。 Scullyは生まれて初めて、自分自身を醜いと感じた。 「ねえScully, 一つ聞きたい事があるんだけど」 「何かしら?」 「最近、君は僕に何度嘘をついた?」 !! その問いかけに、思わずScullyの体がギクッと反応した。 彼女のわずかな瞼の腫れさえも簡単に見破った男である。 わずかな反応とはいえ、今しがたの彼女のぎこちないリアクションなど、 呼吸するのと同じぐらいたやすく感じ取る事ができた。 「嘘なんて...」 最後の力を振り絞って抵抗するScullyの言葉が、また嘘を生み出す。 彼女の発するセンテンスの途中で、Mulderが大声を上げた。 「もういい、聞きたくないよ!! 君の嘘なんてもうウンザリだ!!」 そう言うと、彼は相棒の肩を乱暴につかみ、体を揺すった。 「Scully, 何があったんだ? 何を隠してる? 僕にも言えないことか!?」 Mulderの両手の中にある相棒は、瞳をカッと見開いたまま動かない。 「答えるんだ、何かあったんだろ?」 見る見るうちに、彼女の目の縁に涙が溢れ出す。 「なぜ泣くんだ?」 「あ....」 あまりにも感情が高ぶり、Scullyはまともに声が出ない。 もう一度大きく息を吸い込んでMulderの手を振り払い、驚くほどの金切り声を上げた。 「あなたのせいよ!!」 一瞬、Mulderは何も返すことができなかったが、なんとか気持ちを切り替えた。 「ぼくの...?」 「そうよ、あなたのせいだわ!! どうしてそんなに優しいの? どうしてそんなに私が心配なの?  どうしてそんなに私に気をかけるの?」 「何バカな事言ってるんだ? 君が大事だからだ!!」 「私が大事? それなら手錠をかけて檻にでも閉じこめておけば?」 「Scully, 自分が何を言ってるのかわかってるのか!?」 「ええもちろんよ、わかってるわ。私はあなたの大事なお人形よ」 「いい加減にしろ!!」 「パートナーだから、自分の言う事ならなんでも聞くし、黙っていても通じ合ってると  思ってるんでしょ? そうなんでしょ!?」 「Scully, 本気で怒るぞ!!」 Mulderは彼女の両手をつかんで、そのまま彼女を壁に押しつける。 ダン!! という、乾いた鈍い音がした。 二人とも、互いを睨み付けたまま一寸たりとも動かない。 「...私をどうするつもり?」 「.....」 「好きにすればいいわ。あなたのお人形だものね」 「.....」 「なんならここで、人形の服でも脱がしてみる?」 バシッ!! 殺風景なオフィスに、平手打ちの音が響きわたった。 Scullyの頬が、赤く腫れ上がる。 それと同じぐらい、Mulderの右の手の平も赤く腫れ上がった。 「君は...」 Mulderがボソリとつぶやく。 「最高の女性だ」 「...」 「僕はいつも君を尊敬してたし、愛してた」 愛してた...? 「でも今の君には、手を触れたいと思うほどの価値もない」 二人の間は、水を打ったように静まり返った。 呆然としているScullyをそのままにして、Mulderはオフィスを出ていった。 彼の足音が遠くなっていく。 彼女はそのまま膝が抜け、ずるずるとその場に座り込んでしまった。 Mulder.... ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい 涙がとめどなく流れ落ちていく。 胸の詰まるような嗚咽が、いつまでも止まらなかった。 ----------------------------------------------------------------------------------------------------- その後、二人とも顔を合わせることもなく帰宅した。 どうしたんだ、Scullyは!? 彼女が起こす事とは思えない突然の言動に、Mulderはただ動揺するばかりだった。 今からすぐにでも会って話し合いたい衝動が何度も彼を襲ったのだが、今行ったところで また同じ事の繰り返しになってしまうだけだと、無理やりに自分を押し止める。 くそっ、どうしたらいいんだ!? やり場のない怒りを抱えて、Mulderはどうにかなりそうだった。 もうどうにでもなれ!! 完全に怒りで感情を支配されてしまった彼は、荒々しく車のキーをつかんで部屋を出ていった。 彼にとんでもない事を口走ってしまい、Scullyはただ落ち込むばかりだった。 今からすぐにでも会って話し合いたい衝動が何度も彼女を襲ったのだが、今行ったところで また同じ事の繰り返しになってしまうだけだと、無理やりに自分を押し止める。 私、どうしたらいいの? 自分の取った情けない行動が、彼を深く傷つけてしまった。 もう彼に合わせる顔がない。 もう...どうなってもいい... 完全に自分を見失ってしまった彼女は、力なく車のキーをつかんで部屋を出ていった。 ----------------------------------------------------------------------------------------------------- どうにかして、この怒りを忘れたい Mulderは、どうやらその願いをアルコールに託したようだ。 酒には決して強くないが、そんな陳腐な方法しか思いつかない自分に苦笑いを浮かべる。 「Explosion」 そのケバケバしいネオンサインが、彼に手招きをしたような気がした。 彼は迷わずハンドルを切り、パーキングに車を止めた。 ----------------------------------------------------------------------------------------------------- なるほど、ここならいけそうだ Mulderは、自分の直感は正しかったと一瞬で悟った。 吐き気がしそうな思いを、すぐにでも忘れさせてくれそうな喧噪。 ここでは誰もが、自分の中に潜んでいるやり場のないパワーを何かにぶつけようとしている。 魅力的なサックスプレイヤー、Candy Dulferのサウンドを耳にしながら、彼はすぐに バーのカウンターへ足を運んだ。バーテンにスクリュードライバーをオーダーすると、 バーと反対側の方から歓声が上がった。 「Deeだ!!」 「Dee!! 僕と一緒に踊って!!」 そんな声が乱れ飛ぶ。 Deeと思われる小柄な女は、隣にいた男を誘って踊りだす。 Mulderは、タブロイド誌に載っていた、あの美女の写真を思い出した。 「Queen of Explosion」のお出ましか 群衆の隙間から、Deeの姿がわずかに見え隠れする。 そして、その「女王」の顔が見えた瞬間、Mulderは体が凍り付いた。 いつものメイクとは違うが...あれは... スクリュードライバーをオーダーした事さえ忘れて、彼は「女王」めがけて歩き出した。 「Scully!! どういうつもりなんだ!?」 周りの客達が一瞬にして動きを止め、全員がMulderに視線を注ぐ。 聞き慣れた男の声がして、Deeは振り向いた。 「あら」 相棒が目の前に現れたにもかかわらず、Scullyはさっぱりとした顔をしていた。 酔っているのだろうか、目が少し潤んでいる。 「どうしたの、こんな所で?」 「それはこっちが聞きたいよ!! そんな格好して...それにその男は誰だ!?」 「誰でもいいじゃない」 「誰でも良くない!!」 「気になるの? そうよね、気になるわよね。自分の人形が勝手な事してるんですもの」 「.....」 「どうしたの? 気にならないの? じゃあ、こんな事しても怒らない?」 そう言うと、一緒に踊っていたNickの首に右手を巻き付け、激しいキスを始めた。 いたたまれずに、しかし冷静な表情のまま、Mulderは彼女の左腕を取る。 「Scully, 帰るんだ」 それだけ言うと、強引に腕を引っ張ろうとする。 しかし、Scullyが彼の手を勢いよく振り払った。 「ねえMulder, あなた、どうしてそんなにいつも冷静なの!? こんな私なんて嫌いでしょ?  私の事なんて忘れて一人で帰ってちょうだい!!」 いつの間か、音楽も止んでいた。 クラブの中には、Scullyの声だけが響いている。 「あなたを見てると、自分がどんどん惨めになるの。だからお願い、私に構わないで...」 最後の方は、ほとんど泣き声に近かった。 人混みをかき分けて、Scullyは走っていく。 「おいScully!!」 「待て!!」 追いかけようとした彼を、後ろから引き留める声がした。 Nickが、鋭い目つきでMulderを睨んでいた。 「そうか、あんたのためだったのか」 「何の事だ?」 「どうしてDeeが僕を拒み続けるのか、不思議に思ってたんだ。  あんた、彼女の気持ちを考えた事あるのか!?」 「君にどうしてそんな事を言われないといけないんだ?」 「あんた、救いようがないぐらいマヌケなヤツだぜ。これだけホレてくれる女がいるってのに」 「偉そうな口をきくな!!」 「彼女の気持ち、考えた事あるのか!? あんた、自分の感情を抑えてるんだろ。  それが彼女にとってどれだけ辛い事かわかってるのか!?」 会ったこともない小生意気な青年に知ったような口を叩かれ、Mulderの怒りも頂点に達していた。 「じゃあ聞くが、君は彼女の何なんだ?」 「僕は...彼女を愛している。本気なんだ、この気持ちは誰にも負けない自信がある」 Nickの挑むような目つきに、Mulderは刹那、ひるんだ。 しかし、Nickはふと視線を下げ、幾分声のトーンが落ちた。 「でも...自信だけじゃ勝てない事が、今わかった」 「....?」 「くやしいけど、僕に勝ち目はない」 「一人で納得してても仕方ないだろ!! どういう事か説明しろ!!」 「...Deeが....あんたを見る目だよ。僕を見る目とは違う。僕にあんな表情を 見せてくれた事は...一度も...なかったんだ....」 さっきまでの威勢のいい表情は消え、瞳は寂しそうな色をたたえている。 Mulderは何も言わず、続く言葉を待った。 「僕とDeeは...何度かキスをした。でもそれだけだ。僕はそれ以上を望んだけど、 彼女が絶対に許さなかった。今考えると、あの時、僕を見つめていた彼女の目は、 僕を通り越して、あんたを見ていたんだ。誰か他にいるんだなって、うすうす 感じてはいたけど、でもそんな事、どうでも良かった」 Nickは一瞬、言葉を喉に詰まらせたが、新しい空気を吸い込み、言葉を続けた。 「彼女は僕に優しくしてくれた。それがすごく嬉しかったんだ。だから...だから僕は、  彼女が良ければそれでいいと思った。僕との関係は遊びでもいいって...」 そこまで言い終えると、再び鋭い目をMulderに向けた。 「でも、Deeが可哀想すぎるよ!! こんな情けないヤツの虜だなんて...」 潤んだ目を隠そうともせず、Mulderに顔を近づけた。 「もし、これからもあんたがそんなふざけた態度を取り続けるんだったら、  僕はあんたに容赦はしない。いいか!? 覚えておけ!!」 Mulderはゾッとした。 同時に、Nickが羨ましくもあった。 これだけ素直に感情を出せたら... 自分が情けなかった。 僕が...Scullyを悲しませているんだ 「Dee」は、彼女の辛い思いから生まれた、彼女の分身... 僕が「Dee」を作ってしまったんだ... ----------------------------------------------------------------------------------------------------- Now I know why I was born You feel my feelings one by one Can't see the world I'm walking through 'Cause baby I see only you ("It's Gotta Be You" / Backstreet Boys) 運がいいと言うべきなのか、次の日は土曜日で仕事は休み。 気まずい別れ方をした相棒と顔を合わせなくて済む。 しかし、Mulderの頭の中は、その相棒の事でいっぱいになっている。 彼は床の上にぺたんと座り込み、カウチにもたれて、最近のScullyを思い返していた。 彼女はいつもどおりの的確さと冷静さでもって、完璧に仕事をこなしていた。 そう、表面上は、なんら変わりはなかった。 しかし、ひとつだけ違うものがあった。 「目」だ 程よく光を取り込んだ、いつもの澄んだ目ではなかった。 彼女の目は泣いていた。 涙を流さずに、静かに泣いていた。 ただそれは、怒りと恐怖に支配されていた。 僕を見る時、彼女の目は僕に助けを求めていた 僕はなぜあの時、それに気づかなかったのだろう? いや、僕は気づいていた 気づいていたんだ、彼女が悩んでいる事を 彼女が、僕達の間で揺れ動く微妙な関係に悩んでいた事を 僕は、それを受け入れるのが怖かった それをしっかりと受け止めてやる自信がなかったんだ だから、僕は逃げた 逃げる事しか知らなかった ごめんよScully こんな弱い男だけど やっぱり君を愛しているんだ 体の中から、どうしようもない感情が込み上げてきた。 次の瞬間には、Mulderは車に乗り込んで、アクセルを吹かしていた。 ----------------------------------------------------------------------------------------------------- ドンドンドン ドアの叩く音が聞こえた。 出なくても誰かは分かる。 しかし、ここまで醜い自分をさらけ出してしまった相手に どんな顔をして会えばいいというのだろうか。 どうしたものかと考えあぐねているうちに、ドアの向こうから声がした。 「Scully, いるんだろ? 開けてくれ!!」 返事のないドアに向かって、彼はノックを続ける。 「無視しても無駄だぞ。まさか、僕には合鍵があるって事を忘れたんじゃないだろうな」 もう逃げ場はない。 そう観念して、Scullyはしぶしぶドアを開けた。 しかし、目の前に現れた相棒とは、決して目を合わせようとはしなかった。 目を合わせる事など、どうしてできるというのか。 そんな彼女の表情にも構う事なく、Mulderは彼女の手を取った。 「Scully, 何も言わなくていい。一緒に来てくれ」 「ちょっと、放してよ。痛いじゃない!!」 「いいから来るんだ」 嫌がるScullyを半ば強引に引っ張り出すようにして、Mulderは彼女を外に連れ出した。 ----------------------------------------------------------------------------------------------------- 車の中では、終始、無言だった二人。 しかし、その車が目指す目的地が分かると、ScullyはMulderに怒りの表情を向けた。 「どうしてこんな所に連れてくるのよ!?」 「君、ここが好きなんだろ? 今日は僕の言う事をきいてもらうぞ!!」 いつものMulderからは想像もつかないような迫力でどなりつけられ、 Scullyは全身をこわばらせて下を向いた。 彼女を逃がすまいとするように、Mulderは彼女を抱きかかえるようにして クラブの中へ入っていった。 ----------------------------------------------------------------------------------------------------- Now that I'm alone and you've walked away from me I just don't wanna live anymore I gave my life to you like you gave your life to me If only I could show what I mean 'Cause I need you more than ever If you were here, you would need me too ("Stranded" / Lutricia McNeal) 見慣れたスポットライトが、彼女を待ち受けていた。 今までと同じライトなのに、今日は何か雰囲気が違う... まるで私をあざ笑ってるみたいだわ そうよね 当然よね ひどい女ですもの もう疲れた Scullyの目には、自然に涙があふれてきた。 「Mulder...」 ダンスフロアの真ん中まで連れられて来ると、Mulderにつかまれていた腕を 静かに振り払って立ち止まる。 その感触を感じてMulderが振り向くと、そこには涙で目を赤くした相棒が なんとも悲しそうな表情で立っていた。 「あなたって...意地悪ね...」 「意地悪なんかじゃない」 「意地悪だわ!! もう全部分かってしまったのよ。私がDeeだって事... あなたには、あなたにだけは知ってほしくなかった...」 「どうして?」 「だって...」 「僕はね、Scully」 Scullyの方に体の向きを変えて、Mulderは優しく彼女の顔をのぞき込んだ。 「Deeの存在を知って良かったと思っている。いや、僕は知るべきなんだ」 どういう意味? というような表情をして、彼女はMulderの目を見た。 「だって...彼女も君の一部だろう? だから僕には、彼女を知る権利がある」 「どうしてよ?」 「君が好きだから」 Scullyは、時間が一瞬止まったような気がした。 「好きな人の事は、全てを知りたいと思うのが当然だと思わないか?」 『好きな人』って... それって... 私の事? と聞きたかったが、なぜかうまく声が出せない。 「....どうしても...言い出せなかったんだ。パートナーとしてのバランスの取れた関係が 壊れてしまうんじゃないかと思うと怖かったんだ、情けないけどね。でも、今なら はっきり言える。君が好きだ」 Scullyの目から、またひとつ、涙がこぼれた。 しかし今度は、苦い涙ではなかった。 甘く、頬に心地よい涙。 彼女の、どんな顔をしたらいいのかわからないという表情が、Mulderの心を軽くくすぐった。 その愛しさが欲しい その愛しさを受け止めたい Mulderは、彼女をすっぽりと包み込んだ。 「悪かった...Scully。もう大丈夫だよ...」 「Mulder...」 緊張の糸が切れたように、ScullyはMulderの腕の中で泣き出した。 彼女の髪を優しくすいて、微笑みながら彼女をなだめるMulder。 「大丈夫だよ...もう大丈夫だ」 突然、一筋のスポットライトが彼らを照らし出し、マイクを通した男の声が、クラブ全体に 響き渡った。 「Hey, You!! とうとうやったじゃないか!! やっぱり人間は素直が一番だろ、Mulder? ...Dee, 良かったね。ちょっと寂しいけど、でもこれで良かったんだよね。 でも、また僕の事をダシに使ったら、今度は君を無理やりにでも押し倒してやるからな!!」 見ると、スポットライトの器材の所でNickがマイクを握りしめ、ニッコリして二人に親指を立てた。 「これ、僕からのプレゼント。まあごゆっくり」 そう言うと、クラブいっぱいにバラードが流れ始めた。 「Scully」 Mulderは、少し距離を置いて彼女に手を差し出した。 照れくさそうに、Scullyはその手の上に、自分の手を重ねた。 Sometimes I wish that I could turn back time 時を戻せたらと思う時があるよ I check myself 'cause I was way out of line 僕が道をはずしたのがいけなかった I only hope that we can start all over again 今はもう一度やり直したいだけ I must admit that I was more than wrong 悪かったでは済ませられないよね I used your heart like a stepping stone 君の心を踏みにじったりして Please forgive a fool who doesn't know what to do どうかこの愚か者を許してほしい And I wish that I could have just one more chance もう一度だけチャンスが欲しい And I wish that I could be your pillar of strength 君を支えられるような男になりたい And I pray that you will see that what I'm sayin' is true この言葉に嘘がない事を 'Cause I pray 分かってもらいたい I wish for you 僕が望むのは君だけだから In my mind I can see your face 瞼に浮かぶ君の顔に You're on the breath every word I say 心を込めて話しかけるよ If there's anyone to place blame on-it's me こうなったのは僕の責任さ Baby can't you see? Baby, 解ってほしいんだ And I wish that I could have just one more chance もう一度だけチャンスが欲しい And I wish that I could be your pillar of strength 君を支えられるような男になりたい And I pray that you will see that what I'm sayin' is true この言葉に嘘がない事を 'Cause I pray 分かってもらいたい I wish for you 僕が望むのは君だけだから I wish for you 君だけを望んでる I wish for you 君だけを望んでる Oh baby I wish Baby, お願いだから I really miss you baby 寂しくてどうしようもない I think about you baby all night long 一晩中君の事ばかり考えてる I really need you baby 君が必要なんだ I wanna hold you baby この腕で君を抱きしめたい Stay (won't you stay) with me 僕から離れないで Just stay with me ずっと一緒にいて欲しいんだ And I wish that I could have just one more chance もう一度だけチャンスが欲しい And I wish that I could be your pillar of strength 君を支えられるような男になりたい And I pray that you will see that what I'm sayin' is true この言葉に嘘がない事を 'Cause I pray 分かってもらいたい I wish for you 僕が望むのは君だけだから I wish for you 君だけを望んでる I wish for you 君だけを望んでる Oh baby I wish Baby, 僕が望むのは For you 君だけだよ 「Scully」 「なに?」 「『今日は僕の言う事をきいてもらう』と言ったの、覚えてるかい?」 その言葉を聞いて、Scullyはふと不安そうに顔を曇らせた。 「何をすればいいの?」 「この場で、君の中から、今日限りDeeの存在を消してもらう」 「Mulder...?」 「色っぽいDeeに会えなくなるのは寂しいけど...もう必要ないだろ、彼女の存在は? だから、彼女が生まれたこの場所で、彼女自身に彼女の存在を消してもらおうと思ってね」 Scullyは何も言わず、ただコクリとうなずいた。 もう大丈夫 Scullyは、Mulderの胸に額をつけた。 そう、もう大丈夫 Deeはいらない 君だけを望んでる 僕が望むのは 君だけだよ ----------------------------------------------------------------------------------------------------- −二週間後− 終業の時間になった。 Mulderが相棒の方を向いて尋ねる。 「Scully, 終われる?」 「ええ、ちょっと待って」 「今日はどんな君を見せてくれるのか、楽しみだよ」 「バカね、それは私のセリフだわ」 ニヤリと笑って、Scullyがパソコンの電源を落とす。 「じゃあ行こうか」 Whether you're a brother Whether you're a mother You're staying alive Feel the city shrieking And everybody freaking But you're staying alive, staying alive Ah, ah, ah, ah, staying alive, staying alive... 「ほら、そんなに固くならないで、リラックスしなきゃ」 N-Tranceによって新しく生まれ変わった「Stayin' Alive」が、Mulderをからかうように リズムを刻んでいる。「Saturday Night Fever」のジョン・トラボルタが今のMulderの姿を 見たら、きっと彼は床をのた打ち回りながら笑うに違いない。 ぎこちない動きのMulderを見て、Scullyはクスクス笑いながら指導をする。 自分の分身「Dee」から解放されたScullyは、授業料が無料という 超お得な『クラブダンスインストラクター』として、「Explosion」で Mulderの個人教授を引き受けていた。 「『踊る』って意識するからダメなのよ。音楽を聞いて、リズムを全身で感じ取るの。  ルールなんてない。思ったように体を動かすだけでいいの」 ついこの前、同じセリフでNickにダンスを教えられたのが、嘘のように懐かしい。 あの時の彼の笑顔を思い出すと、Scullyは少しだけ、胸がうずいた。 Nick...また...会いたいな... 少年のあどけなさを残していた彼を、心の中でいとおしむ。 今度あなたに会う時は あなたに本物の笑顔を見せてあげたい 私の「本物の笑顔」を... 「Scully, こんな感じ?」 Mulderの声で、Scullyは現実に引き戻された。 目の前では、Mulderが見よう見まねでわずかにステップを踏んでいる。 「私の真似しなくてもいいのよ。あなたにはあなたのスタイルがあるんだから。 それを表に出してみて」 「くそ〜、難しいんだなあ」 「難しいと思うから難しいのよ。ほら、肩がいかってる!!」 Mulderの真剣な唸り声と、Scullyの楽しそうな笑い声が 今日も「Explosion」に気持ち良く響いていた。 The END −後書き− ...なんなんだ、これは!? 書いているうちに、どんどん始めの妄想から脱線し続け、最初に考えたプロットなど、 見事に跡形もなくなってしまいました(笑) 「モルスカにディスコを踊らせてみよう」 そう思い立ったのが今年の7月。でも、なかなかいい話が浮かんでこない。 あれこれ考えている間にも、私の頭では「Saturday Night Fever」よろしく、 二人がきらめくミラーボールの下で踊り狂う...これって...すごい構図だわ(笑) 実に苦節3ヶ月(!!) これまでで、一番手こずったFicでした。 このFicの完成にあたって、私の最高のBuddy, かんなちん&アヤに...Thanx A LOT!! 最後に、Ficの中で使用したゴキゲンな(!?)Dance Music達をご紹介しておきます。 出てきた順番で挙げておきますね。 感想や、ご意見等をいただければ嬉しく思います。 Amanda aiko@mti.biglobe.ne.jp Man! I Feel Like A Woman / Shania Twain Knock on wood / Mary Griffin Love Will Come and Go / Vonda Shepard Stomp / Big Fun Be My Lover / La Bouche Saxuality / Candy Dulfer It's Gotta Be You / Backstreet Boys Stranded / Lutricia McNeal Wishes / Human Nature Stayin' Alive / N-Trance