DISCLAIMER// The characters and situations of the television program"The X-Files" are the creations and property of Chris Carter,Fox Broadcasting, and Ten-Thirteen Productions. No copyright infringement is intended. =-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= おことわり:クリスマスFicをみなさんに公募しておきながら、実はぎりぎりまで自分はできていません       でした。(苦笑)       なんとか書き終わってホッとしていますが、せっかくクリスマスだというのに驚くほど       いちゃいちゃしていない、事件Ficと成り果てました。       しかも事件Ficと言っておきながら、自分で簡単に「それはないだろう!」とツッコミを       10以上はあげられる設定の甘さ。       途中で気付いたものの、もう他の妄想ができず、結局強引に押しきりましたので、広い心       で読んでくださるとうれしいです。(すでに言い訳してるし・・・)       作中のモルスカは、私が勝手に想像して書いた二人なので、もし読んでくださった方の       イメージを壊してしまったら申し訳ないので、それでも良いというかただけ、お読み下       さい。       そして、もしよかったら感想やアドバイスをいただけたらうれしいです。       e-mail  creoblue@ymail.plala.or.jp   =-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 「Fuse」  by Hiyo Date 99/12/23 パーティ会場の中央では高さ4mはあろうかと思われるような巨大なツリーが聳え立っていた。 まるで、ロックフェラー広場から移植してきたかのようだ。 しかし、その場にいたFox Mulderはその大きさやデコレーションの豪華さよりも、どうやってこの木が、 ごてごてと飾り付けられながらもバランスを保って立っていられるのか?という事のほうがずっと気に なっていた。 相当深く埋まっているのか? どうも枝のはりだし具合を見るとそんな気もしてくる。 実際、かなり地上に近い位置でも大きな枝振りを見せていた。 しかし、誰が考えたのか?せっかくの木の幹が、わざわざ同じ様な色の茶色いテープでぐるぐる巻きに されて、その上に下品な色使いのリボンがところどころに貼ってあるという、おかしなデザインには 共感できなかった。 そんなことをぼんやりと考えていると、耳にしたイヤホンから声が流れてきた。 "そちらではまだ不審者や不審物は発見されないか?" 本部からの声だ。 「はい、異常ありません。」とMulderは胸元に隠してあるマイクに向かって、表面はさりげなさを装い ながら答えた。 普段はめったにする機会のないタキシードの蝶ネクタイがとても息苦しく感じられ、指を突っ込んで 少しだけゆるめてみる。 ほっと息をついたのも束の間、"コホン"と後ろから咳払いが聞こた。 Mulderは慌てて、振り返る。 そこには予測した上司の姿はなく、代わりにいつもと違ってドレスアップした相棒の姿を見付けた。 限りなく黒に近いような、濃紺のシルクのワンピースで、少しだけ肩口が大きめに開けてある。 その為、彼女の白い肌がいつもよりその白さが強調されているような感じだ。 そして、しなやかな生地は風のように彼女の動きと共に揺れ、時折はっとするようなからだのラインを 露わにした。 しかし、タイトではないうえ、穿いている靴のヒールの低さをも見ると、いざと言う時には自由に 動ける服なんだろうなと推測される。 普段はめったに見る事のできない、フェミニンな雰囲気にMulderは一瞬目を細めた。 しかし、思った事を素直に言っても、なかなか本気にはしない相棒の姿は簡単に予想できたため、 あえて批評を述べるのは避けることにする。 「そんなだらしのない格好をしていたら、すぐにチェックが入るわよ。」 そんなScullyの言葉に、Mulderは大げさに眉をひそめてみせて、しぶしぶタイをきちんと直した。 「こんな事くらいでチェックされても、すでにこのイヤホンを付けている時点で、僕等がパーティ客 でないってことはまる分かりだろう?」 「それはそうだけど…」とScullyは肩をすくめてみせる。 「せっかくのタキシードが台無しよ。」 「好きでこんな格好をしているわけじゃない。構うもんか。」 「…ああいえば、こう言うのね。」 ここは最近完成したばかりの新興住宅地の一画である。 僻地なわりには豪奢な建物が多く、なんでも第一線を退いた金持ちが老後にゆっくりと過ごせる場所 というのが売りらしい。 また、この新興住宅地の宅地計画は市の再開発プロジェクトの一環であったので、できあがりに あたって大きなイベントがいろいろと行われた。 そして今日のパーティは祝賀関連のイベントの中でもっとも大きな、この新しい町の町長主催の クリスマスパーティである。 しかし、ただのパーティならFBIが駆り出されるわけはない。 パーティの始まる直前に、本気ともいたずらとも判断のつかないものだったが、殺人予告の電話が 入ったのだ。 そのターゲットというのが… その時、戸口の方が一変して騒がしくなった。 二人してそちらに目を向けると、たくさんのフラッシュを浴びて本日のこの大げさ過ぎるかと思わ れるような警備へと至ってしまった原因の張本人が入ってきた。 Willson上院議員。 上院の中でもいろいろな方面に多大な影響力を与えている大物である。 いずれは大統領候補かとも気の早い人の間では囁かれていた。 そして、また小さなどよめきが響いて、目をやると今度はこのパーティの主催者である町長が 入ってきたということがわかった。 しかし、相変わらずその前の喧騒が続いており、その存在はほとんどかき消されているといった 感じである。 聞くところによるとこの町長とは幼馴染であったらしい。 明日のニュースの見出しとしては「幼馴染が町長としておさめる僻地のニュータウン完成パーティ にその存在を忘れることなく掛けつけた大物議員」とでもして、ハートフルな記事を出して、次の 選挙への宣伝にしようとしていそうな感じだった。 やがて人の波とフラッシュの渦が会場の中央で止まったかと思うと、なにやら声が響いてきた。 何を話しているかはここまで聞こえなかったが、様子を伺うとどうやら2人がニッコリ笑って握手 を交わしながら、報道陣に向かってなにかのコメントを発表しているようだった。 「いよいよご登場か…」とMulderはげんなりした顔で呟いた。 「僕達の楽しいクリスマス休暇を奪った張本人だと思うと、次には絶対に彼に投票しないと思うよ。」 「選挙なんてそんなふうに選ぶものではないでしょ?それにあなたの選挙区ではないじゃない?彼…」 あくまでも真面目にとりあうScullyに思わず吹き出しそうになったMulderだったが、なんとか顔を 引き締めて神妙に答えてみせた。 「丁寧な選挙の意義と明確な理由付けをありがとう。」 「どういたしまして…」 そして、パーティが始まった。 オープニングのセレモニーは、大きなツリーのてっぺんにある星の中のロウソクの点灯式だった。 どうやってあの位置にあるロウソクに火をつけるのか?とMulderは興味津々で見ていたが、結局は なんのことはない、釣り下がっていた導火線に火をつけると、木に飾ってあるいくつかのロウソクに 火をつけながら経由して、最後にはてっぺんに辿り付くというしくみだった。 その時にはまわりの照明が一旦落とされて、それなりに幻想的な雰囲気になりあたりからため息がもれた が、照明がつくやいなや、その存在感はきらびやかな電飾へと簡単に奪われてしまった。 そんな様子を見て、一気に興味を失ったMulderはScullyに話しかけた。 「もしあれがうまくつかなかったらどうやっててっぺんに火をつけたと思う。?Scully」 まわりを見まわしてみたが、はしごらしきものすらない。 「あんなに簡単な仕掛けなら失敗する事はないでしょ?」とScullyはMulderと違って常にまわりに気を 配りながら答えた。 「あんなでっかいツリーにしてはロウソクなんて役不足だよね。僕なら・・」 「黙って、Mulder。」 思わず手でMulderを制したScullyに対して、彼は悪びれる様子もなくにやにやと笑う。 「私はパーティの主催者でも管理人でもないのよ。提案するなら少なくとも私以外の人にしてちょうだい。」 そういって、すたすたと別の場所へと歩いて行ってしまった。 その後姿をなんとなくぼうっと追っていると、ひとだかりから少し離れた所で、なんだか楽しそうに一人 笑いながら、ツリーをじっと見ている男が目に入った。 自分と同じ様にあの下品なツリーを笑っているのかもしれないが、あそこまで一人で笑えるほどとは思えない。 ワンレングスの黒い髪で、片方だけ見える目はなんだかとても神経質そうな感じである。 なんだかMulderの勘にひっかかり、ちょっと考えた上、声をかけてみようと決めて歩き出したその時だった。 突然視線の端に赤い塊が飛び込んできた…と思った瞬間、足になにかがぶつかる。 びっくりして、そちらに目をやるとその赤い塊と思われたものは、真っ赤なドレスを着た、4,5歳くらい と思われる小さな女の子だった。 くるくるとカールされた髪の毛は背中まであり、ドレスとおそろいの生地で大きな赤いリボンでとめてある。 白いタイツに黒いエナメルの靴といったいでたちは、いかにもこのくらいの子供が来て行くパーティドレス といった感じだ。 そして、顔立ちはちょっとそばかすのある愛嬌のある可愛い顔だったが、その子供らしい大きく透き通った 目には、今にも涙が溢れそうだった。 その子に一瞬注意が行ってしまって、男から視線を外したのが悪かったのか、次にさっきの場所を見たとき には男の存在は確認できなかった。 はっきりとなにをしたわけでもないしなにが怪しいというわけでもない…そう思って、Mulderは彼をあきらめ て女の子に声を掛けた。 「慌ててどうしたんだい?サンタにクリスマスプレゼントをもらいそこねたのかな?」 そう言ってMulderはスッとしゃがみ込み、子供の目線を自分と合わせる。 子供は一瞬声を掛けられてびっくりしたようだったが、掛けられた言葉に対する安心感からかみるみる涙を 溢れさせて訴えた。 「パパと…パパと一緒に来たのだけれど、どこかに行っちゃったの!」 「パパと…?名前は?」 「Joan…」 父親の名前を聞いたつもりが、少女の名前でMulderはちょっと苦笑いをする。 「OK、joan。パパはどんな格好をしていた?」 「おじちゃんと同じような服…」 タキシードはここにいる男性の殆どが着ていた。 Mulderは少しだけ考えて、彼女をすっと抱きかかえたかと思うと、そのまま肩車をしてやった。 「…?!」 Joanは突然の視線の高さにびっくりした様子だったが、すぐにそのいつもとは違う世界に興味を持ったらしく、 あっという間に泣き止んだ。 「パパが見えないかい?」 「すごい!パパの肩車よりうんと高い!!!」 Joanは、うきうきとした声で答える。 するとまわりの客の視線がいっせいにMulderに集まった。 "これですぐに見つかるだろう。"そう心の中で思った瞬間、イヤホンから声が流れてきた。 「Mulder。目立つような事は避けるのが鉄則だろう!」 普段一緒に仕事をしない、なにかとがなりたてるのが得意そうな作戦部長が予想どおりの声を掛けてくる。 Mulderは黙ってイヤホンを外して、ポケットにしまった。 すると、すかさずScullyが再び駆けよってきた。 「Mulder、あなた…」 そう声を掛けられたと同時に頭の上で歓声があがった。 「パパ!!!」 「Joan!」 目の前に現われたパパと呼ばれた男は、見るからに人の良さそうな雰囲気を漂わせていた。 金色のゆるやかな巻き毛に、やさしそうな細目の青い瞳で丸い眼鏡をかけている。 「いったいどうして…?」 「このおじちゃんがパパがいないって言ったら肩車をしてくれたの!」 Mulderよりは20cmは背が低そうなそのパパは、娘をMulderの肩から危なっかしくうけとりながら、それで もしっかりと抱きとめてにっこりと笑って御礼を言った。 「ありがとうございました。お迷惑をお掛けしたようで…」 「いえ…」 「私は、Joanの父の…」 「あのね!この町はパパが作ったのよ!」 父親に会えてすっかりと余裕を取り戻した少女は、彼の腕から身を乗り出してMulderに自慢気に話した。 そんな娘の様子に苦笑しながら、男はさらに続ける。 「Steven Blackと言います。町を作ったというのは大袈裟なんです。」 「設計を?」 「はい、この町の開発計画に加わらせてもらい、私のやっている小さな事務所はなんとか生き延びたと言う 感じなんですよ。」と手を差し出した。 「もっとも、大きな事務所の下請けですがね。」 そう皮肉を言いながらもウインクをしてみせる、愛嬌たっぷりの男をなんだか面白く思って、Mulderも にっこりと笑い返しながら、答えた。 「Mulderと言います。彼女はScully。こちらの会場もあなたの設計ですか?」 すると男はとんでもないといった感じにかぶりをふった。 「私ではないです。町長の知り合いの業者らしくて我々は一切タッチしてません。まあ、こんな掘建て小屋。 地震がきたら一発で潰れる保証付きですよ。基礎工事もろくにしていないテントのようなものですから。」 「ずいぶんと辛らつですね。」 「いや、本当ならこの会場も私達が計画して、違う場所にもっときちんとしたものを着工する予定だったん ですが、町長の権限とかでいつのまにか知らない業者が…」 そこまで言って、つまらない話だったというように自分で自分の口を押さえてみせた。 「失礼しました。ところであなたは…」 そう言われかけたとき、突然後ろで悲鳴が聞こえた。 さっとMulderとScullyが振り返ると、一斉にFBIの仲間が一ヶ所に向かって突進しているのが見えた。 「なにかあったんですかね?」 「失礼します。」とMulderが踵を返そうとした時、後ろから声がかかる。 「ジャーナリストですか?」 「いえ、FBIです。」 するとStevenは一瞬冗談かと笑いかけたが、Mulderが懐から出したIDを見ると目を丸くした。 「えふびーあい?」Joanが聞きなれない言葉を父親に聞いていたのを耳にしながら、MulderはそのままScully と人だかりへと駆けて行った。 「君には黙秘権がある…そして…」 MulderとScullyが駆け寄ると床に押し倒されている男の廻りを数人の同僚が囲んでいた。 もう一方では、同じように数人の男に取り囲まれている議員の姿があった。 守られていたのだろう。 うつぶせにさせられた男は権利を読み上げられた後、2人に抱きかかえ上げられるようにして、さっさと外で 待機しているパトカーへと連行されたようだった。 「ご苦労だった。これで解散する。」 さっきMulderに怒鳴った部長が皆に声をかける。 「議員、ご無事でなによりでした。」そう言って議員に会釈をすると議員は満足そうに頷いた。 部長が玄関へと歩き出すとき、Mulderに気付いてふと足を止める。 「大活躍だったな。Mulder。」 「なにがでしょうか?」 「犯人は君が子供を肩車して、皆の注目を浴びたところで隙をついて刺そうとしたみたいだ。」 "大活躍"と言う言葉とはうらはらにその顔は怒りに満ち溢れている。 「君が犯人にチャンスを与えてくれたおかげで、こんなに早くに解決したよ。おかげで今日は家族と過ごせそ うだ。」 「それはどうも…」 Mulderは相手にしないとばかりに自分も車へと戻ろうと、とりあえず預けてあったコートを受け取り着込んだ時 に部長に止められた。 「待て。君はまだここで待機だ。」 「え?」 そばにいたScullyと顔を見合わせる。 「一応犯人が捕まったからもう大丈夫だとは思うが、まだなにがあるかわからん。念の為だ。パーティが終わる まではここで待機。終了後、明朝には報告書が提出できるようにしておく事。」 そういってとっとと、他のメンバーを引きつれて会場を後にした。 「なんてことだ!今日は寝るなってことかい!」さっそく怒り始めるMulderに対して、Scullyは意外と冷静だった。 「確かにまだなにがあるか分からないと思わない?だってあまりにもずさん過ぎるわ。」 「襲ったやつの頭が無さ過ぎるんだろう?」 そうMulderが怒りながら、ふと顔を上げたとき、視線の端に老人が町長になにか訴えている姿が入った。 町長はうっとおしそうな顔で、ジェスチャーであっちに行けといわんばかりの態度だった。 やがて町長のそばに彼のボディーガードらしき男が現われ、簡単に追い払われてしまう。 Mulderはその老人に対する町長の態度も気に食わなかったし、なにかが頭の中で響いて気がつけば Scullyを置いて、その老人へと話しかけていた。 「どうしたんですか?」 すると老人はじっとMulderを見つめて、つまらなそうに呟いた。 「あんたに言ったところでどうなる話でもない。」 「どうでしょう?僕がジャーナリストだとしても?」 さっそく、先ほどStevenに誤解された職業を語ってみた。 こういうときにはおおいに役に立つ。 「本当か?じゃあ、あの町長の非人間的なところを書いてくれ!わしらの訴えを見事に踏みにじって…ずっと ここを愛してきた村の者も追い払い、最後の頼みまで無視したんだ!」 「ずっとこちらに住んでいらしたんですね?いったいなにをされたのですか?」 すると老人はやっと聞き手をみつけたとばかりに話し始めた。 事の次第はこうだった。 もともとこの土地には人口百人程度のちいさな村があった。 彼らは農業を営みながらささやかな生活を送っていた。 しかし、あるときこの村に近くの町から大きな道路がのびる事が決定する。 実際はここに延びてくるわけではなくこの先のさらに大きい町に向かうものだが、その中継点として交通の便 がかなりよくなると思われるこの場所を市が目をつけた。 幸い、あまり人口もおらず、気候も年中を通して温暖なこの地は新しく町として経て直すのに最適だった。 老後の金持ちの安住の場所という設定で、開発が始まる。 その総責任者兼町長としておさまったのは何度も国会議員を目指してはいるものの落選し続けている、今の 町長だった。 野心家の彼はさっそくなチャンスとばかりに精力的に計画に参加し、その為に邪魔になった農民にはつぎつぎ と立ち退きを命じ、ときにはいやがらせまがいのことまでしてあらかたを追い払った。 最後まで抵抗を続けていた老人たちの仲間も、ついには太刀打ちできず、一部のものを残してこの地を去る事 になったのだが… 「あのツリーの木をどう思うね?」 「ツリー?」そう言ってMulderは悪趣味なデコレートをされたツリーを見た。 「あれは村の神木だったんだ。それは気持ちのいいくらいまっすぐと伸びたいい木だった。わしらがここを 立ち退く時、あれだけは切らないでくれと頼んでそれだけはあの町長も快諾した。」 「じゃあ、あれは実際に生えている木なのですか?」不自然な枝振りを思い出して問い返す。 「違う!」老人は怒りを露わに答えた。 「町長は切ってないというがな。生えている場所も違うし、高さがない。」 「場所?高さ?」 Mulderが聞き返すと老人は大きくうなずいた。 「あの木はこんな道沿いの場所でなくてもっと奥まったところにあったんだ。ここら辺は…そうちょうどガソリン スタンドがあったところだ。」 「町の区画整理のしなおしで、道路が変わったのでは?」 「それはない、ここの前の道は村のメインストリートでむかしから広い上に変わっていないんだ。それにまだ、 根性のある村のものが数組、ここの廻りで生活しているんだ。彼らの話によるとあたり一体に巨大な幕を張って 内密に作業が行われたらしいが、隙間から見たものは切っていたと断言している。」 そして老人は続ける。 「第一、あの木の高さはあの倍近くはあった。それがなんて憐れな姿に…」 確かにあれでは神木も形無しだ。 しかしそれであの不思議さの謎がわかる。 あんなに低い位置から枝が突き出ているのは下の方が切られたか埋まっているかのどちらかだと理解した。 「実際にここは公園となるはずだった。最初に紹介された設計事務所の所長さんはいい人で我々の話を理解して くれたのだが…急遽ここが会場となってこんなかたちになって彼らも驚いていたらしい。町長の知り合いの業者 に甘い蜜を吸わせるためだったんだろうがね。さっきそこで会ってStevenに話を聞いたんだ。」 名前を聞いてさっきの女の子の父親だと察した。 確かに彼ならそういった事を大切にしそうだなと思われる。 そして、この会場が急遽場所に決まって自分の預かり知らぬところで話が進んで驚いているとも… 「いまさらどうこう言っても始まらんが、信頼したわしらがばかだった。こうやって時代は移っていくんだろ うね…」と老人は、訴えた事によってすっきりしたのか淋しげに笑う。 「まあ終わった事だ。こんな話、世間の人はつまらないと思うだろうね。書いても書かなくてもどちらでも いいよ。」 そう言って、Mulderの前から立ち去って行ってしまった。 いつのまにかScullyがそばに立っていて、Mulderに話しかけた。 「Mulder…」 「Scully、町長がこの場所にこだわったのはなぜだと思う?」 「この場所?」 「そう…」 Mulderは歓談している町長をじっと見つめながら頭の中でいろいろと考え始める。 「ガソリンスタンド…そういえば私、こんな話をラジオで聞いて小さい頃驚いた事があるわ。」 「ラジオ?」 「そう。当たり前だけどガソリンスタンドの下って大きなタンクが設置されていて、場合によっては建物の 面積の3倍くらい抱えているところもあるみたいよ。その頃、近所のガソリンスタンドの前を通るたびに "爆発したらこわいわ。"って思ってたもの。」 その頃の事を思い出しているのかScullyはちょっと笑う。 しかしMulderはそれどころじゃなかった。 巨大なタンク…爆発したら確かに凄いだろう。 例えばそれがガソリンでなく、ダラスでの連邦ビル爆破事件の時に使われた超高性能の液体爆薬アストロ ライトのようなものだとしたら… そしてすでに起爆装置が設置してあったとしたら? ScullyはMulderが考え込み始めたのを慌てて遮った。 「ごめんなさい。バカな事を言ったわ。Mulder、可能性を狭めないでもっと広い目で考えて。」 しかし、Mulderの考えは怖いほど動機やその他の面でもぴたりとはまる。 まだ、立ち退かないこの付近の住民は爆発と共に消えてなくなるかもしれない。 このパーティの出席者は、すでに家を購入済であるが、もし万が一全員死亡したら、また新たなオーナー へと家も転売できる…? そんな悪魔のような考えが次々と出てくる。 「だからMulder。ここにタンクが埋まっているって決まっているわけじゃないでしょ?」 「…Scully。ここは基礎工事もなにもしてないんだよ。その可能性は充分にある。」 「みなさん!」 マイクを通して町長の声が流れる。 「残念ですが、今の騒ぎでFBIに呼び出されましてね。残念ながら議員と私はここで失礼します。まだまだ 料理もたくさんありますので、どうぞゆっくりとしていってください。本日はありがとう!」 いっせいに辺りから拍手が起こる。 町長と議員はにこやかに手をふりながら会場を退出し始めていた。 途中で知りあいらしき人と愛想良く挨拶を交わしている。 「実に自然な退出だ…」と呟きながら、その行く先を見守っていたMulderだったが、その町長に出入り口 付近で最後にスッと寄っていった男の姿を見つけて目を見開いた。 最初の点灯式の後、ツリー見て一人笑っていた男だった。 何事かを町長と話して、すっと反対側の出入り口へと向かう。 「ちょっと気になることがあるんだ。すぐに戻る。」 「気になる?なに?Mulder。」 問い返そうとするScullyを置いて、Mulderは出入り口から外へと出た。 いつの間に降ったのか、まわりはうっすらと雪化粧をしている。 驚いて空を見上げるが雲らしきものは一片もない。 ちょっと横を見るとそれは人口雪であることが分かった。 大きなモーター音を響かせ、降雪機がまわっているのが見える。 多分外に出てきた客への演出なのだろう。 Mulderはちょっとだけ見なれぬものに見とれていたが、すぐにはっと気付き男の姿を探した。 男は会場横にあった小さな小屋のようなところへと入っていった。 電気もついてないようなところで、ますます怪しい感じである。 そこで、Mulderも続こうとしたが、その時また足元になにかがぶつかった。 「おじちゃん!雪を見た?すごいね!」 Joanだった。 Mulderは小屋から目を離さないまま、彼女に言った。 「こんなところにいたら風邪を引くよ。早く中にお入り。」 するとJoanは自分を見ようともしないMulderに抗議をする。 「平気よ!コートだって着てるし!」 ドレスとは対照的な真っ白なコートだった。 しかしその生地は薄くてとても防寒に役に立っているとは思い難い。 「僕くらいの厚いコートじゃないと風邪を引くよ、おちびちゃん。ほら、鼻が出てる。」 そういって、コートのポケットからハンカチを取り出して渡すと、Joanは慌ててそれを掴んで拭った。 「レディに失礼ね!」 こんな年端のいかない小さな女の子でも、もうレディだと主張するのがなんだかおかしくて、Mulderは 思わず目を向けて笑ってしまう。 「なにがおかしいの!」 「いや、失礼。でも、せっかくのレディも風邪をひいちゃ台無しだよ。僕は用事があるから…早く会場 にもどるんだよ。」 「もう!」とJoanはすたすたと会場の入り口へと向かって歩き出した。 Mulderはそこで気持ちを切り替えて、先ほど男が消えた小屋へと近付く。 そしてホルスターから銃を取り出した。 そっと入り口に近付く。 その時、一瞬会場の出入り口が目に入り、Joanがまだこっちをみているのに気がついた。 こちらは暗闇だからもう自分の姿は見えないだろうが、まだあんなところにいるのか? そんな一瞬の気の緩みが原因だった。 次の瞬間にまず肩に激しい痛みを感じた。 持っていた銃を取り落としてしまう。 慌てて拾おうとした瞬間、今度は後頭部に激しい痛みを感じて…あっという間に力が抜けたかと思うと そのままずるずると小屋の中へとひっぱり込まれてしまった… 「起きろ!」 頬に圧迫感を感じたかと思うと、次には顔に激しい衝撃を感じた。 気がつくとMulderは後ろ手に縛られ、地べたに転がされていた。 要するに男に顔を踏まれて蹴られたのだとすぐに認識する。 「おまえは、一体…」 「最初から俺に目をつけていたな、FBI。」 その時、真っ暗な小屋が一瞬明るくなる。 それは男が煙草に火をつけたライターの明かりだった。 その明かりに照らし出された顔は、あのツリーを見て一人笑っていた男だとすぐにわかった。 「なにをたくらんでいるんだ?」とMulderが聞くと、明かりは消えて声しか聞こえなくなる。 「ちょっとね、大きな花火をしかけたんだよ。」 楽しそうに響いてくる声は不気味な含みを持たせているように感じられた。 「地下のガソリンタンクにか?」 「…ほほう…」男の声に驚きが混じった。 「へえ、他のFBIは見事にあの殺し屋騒ぎにとびついて、帰って行ったがあんたはあんなにばかじゃない らしいな。」 「おいてけぼりをくらわされただけだよ。」 その言葉をジョークと受け取ったのか、暗闇に男の笑い声が響く。 Mulderは頭の痛みと、肩の疼きで気が遠くなりそうだった。 必死に意識を保ちながら、できるだけ冷静に聞く。 「いつ爆発するんだ?」 「あと…20分くらいかな?ロウソクが燃え尽きたら終わり。」 「…あのツリーのロウソクか!!!」 「へえ…」ますます男の声がおもしろそうに響く。 「そうだよ。あの木を真っ二つに切って中をちょっとくり貫いたんだ。そこに導火線を仕込んだ。大変 だったけどね、自分の演出を思うとぞくぞくするよ。」 「…あの木は下のタンクにまで届いているのか…演出だって?」 Mulderが聞きとがめると男は自慢げに話した。 「みんなで最初に点灯式をしただろう。なんてきれいだろうって顔をしていた。あれが自らの命の灯だ ってことを知らずにさ…くっくっくっ…」 男は心底おかしそうに笑った。 Mulderは胸が悪くなりそうな思いで暗闇の中の声のする方を見つめる。 「おまえだってここにいれば死ぬんだろう?」 すると男は笑うのを止めて答えた。 「もう時期離れるよ。最初から僕に目をつけていた君とちょっと話しをしてみたくて、煙草一本分だけ お相手してやったんだ。」 「依頼者は町長か?なぜあんなまどろっこしい方法を選んだんだ?」 「聞きたいかい?」 自分の犯罪に酔っている人間の特徴的な、自慢したいという心にうまく火がついたらしい。 その声に得意気なニュアンスが走る。 「ああ、おおいに興味あるよ。」 そう言いつつ、体調を確かめるべく石かなにかで殴られた肩を少し動かしてみた。 途端激痛が走る。 どうやら、骨にひびが入ったかもしれない。 「じゃあ、もう一本分だけ相手をしてやるよ。」 そんなMulderにお構いなしに男は続けた。 そしてまた、ライターに火がつく。 その一瞬で、Mulderは男が銃を持っておらず、そのまわりにも置いていない事を確認した。 「なにをやっているの?」Scullyはなかなか戻ってこないMulderにしびれを切らして、会場内を探しま わっていたところ、出入り口付近で外を見て佇んでいた、先ほどMulderが肩車をしてやっていた少女を 見つけた。 「寒いでしょ?さあ、中にいらっしゃい。Joanだったわね?」 Scullyがそう言って手を差し出すと、すっかりと冷えて冷たくなった小さな手が握り返してきた。 一瞬、過去のクリスマスの思い出が横切り、少し胸が痛くなる。 「おじちゃんにこれを借りて返そうと待っていたの。」 「おじちゃん?ああ、Mulderね。これを借りたの?」 優しく問うとJoanはこっくりと頷いた。 「ええ、ずっと待っているのに、お外の小屋に入っていったきり出てこないの。」 Scullyはその言葉にぴくんと反応する。 もしや、Mulderは…嫌な予感がしてちょっとだけ感じていた感傷は一瞬にして心の奥へと引き込み、 仕事のモードへと頭が切り替わった。 「どこにあるの?教えてくれる?」 「あっち…」 Joanが指を差した方は真っ暗でよく見えなかった。 しかし、嘘はついていないように思える。 「教えてくれてありがとう、Joan。さあ、パパの元へとお行きなさい。」 「でも…」 「大丈夫、あとでおじちゃんを連れて行ってあげるから、ね?」 「わかった。」…とJoanは会場の奥へと駆け出して行った。 Scullyは、Joanがいなくなり、辺りにもだれもいないのを確認するとハンドバッグから携帯と銃を取り出す。 そして一瞬悩んだが、携帯はバッグに戻して代わりにペンライトを取りだし、隅に置いた。 「まだ、状況がわからないし…」と呟き、銃を構えてそっと小屋へと近付いて行った。 なにもない真っ暗な空間かと思われたが、窓から覗いたときちょうど、中で明かりが灯った。 一瞬にして、誰かがいるのだということを確認する。 "ごくん"と息を飲んで呼吸を整えた。 多分、かなりの確率でMulderが中で拉致されているのだろうと推測される。 そっと扉に近付き、ドアに耳を当ててみた。 すると少しだけ会話が聞こえてくる。 「まどろっこしいとは心外だな。僕は最高の演出だと思うんだけど…」 知らない男の声だ。 何人中にいるかわからないので、もう少し耳をそばだてた。 「やはり、町長が依頼主か?」 「彼はいい依頼主だよ。僕ののぞみどおりの物を全部揃えてくれて、なんでも好きにさせてくれた。そのうえ 大金まで払ってくれて、たまらないよ!」 笑い声が聞こえる。 どうやら、中にはMulderともう一人しかいないらしい。 Scullyは覚悟を決めて、ドアに鍵がかかっていないのを確認して勢い良くドアをぶち開けた! 「FBIよ!動かないで!!!」 ペンライトの先にタキシードの見知らぬ男が浮かび上がる。 どうやら、丸腰のようだった。 すっかりと安心しきっていて銃など手に持ってなかったようである。 次に床に転がっているMulderを発見した。 「Scully!こいつが犯人だ。予想通り地下のタンクに爆発物が!」 「解除方法を教えなさい!」 Scullyは銃の狙いをぴったりとつけながら、相棒の縄を解いた。 「起爆装置があるわけじゃないんだ。解除方法なんてないよ。」 途端に形成が逆転したのを察して男の声は一気に弱くなる。 「どういうことなの?Mulder。」 「あのツリーのてっぺんのロウソクが溶けた瞬間、その下に仕込んである導火線に火が移って爆発するんだ!」 「一体どうしたら?」 「…はしごもなかったし…よじ登るしか…」 「やめてくれ!!!!」 男が突然叫んだ。 Mulderは懐から手錠を取り出して、男にかけながら問う。 「どうしてだ、君の芸術が完成しないからかい?」 「違う…あの木は1度真っ二つに切ったと言っただろう?」 「それが…?」 「あの木はちょっと計算がしてあって、今以上に不可がかかると幹にぐるぐる巻いてあるテープが切れて ロウソクは一気に下に落ちる仕掛けになっている。」 「なんだってそんなややこしいことを!」 「Mulder!落ち着いて!!!」 ScullyはMulderの腕を掴んだ。 「はやく会場の人を避難させなければ!あと何分あるの!?」 「あと…15分くらいかな?もう逃げないと…」 あれだけの人を殺すのはなんとも思わなくても、やはり自分は死にたくないようだ。 「きさま…」 「Mulder、早く!」 Scullyに急かされて、Mulderは男を睨み付けてから会場へと走り出した。 「おいっ!これは…!」 遠くで男が叫ぶ声を聞いたが、もう構ってはいられなかった。 出入り口付近のガードマンに声をかける。 「爆弾がある!至急会場内の客を避難させるんだ!あと、あっちに手錠をかけられた犯人がいる。絶対に 逃がさずに警察につきだせ!」 「はあ?」 「FBIだ!早くするんだ!」 懐から取り出して見せたIDの効果は一発のようで、それまでは不審げだったガードマンもそれをみるなり 、途端に本当だと気付いて慌て出した。 「どのくらい離れればいいんでしょう!」 「わからん!できるだけ遠くだ!爆発まであと15分しかない!!!」 「こちらはFBIのDana Scullyです!爆発物を発見しました!大至急応援を頼みます!!場所は…」 Scullyはいつのまにかハンドバッグを持ってきて、Mulderの横で走りながら携帯をかけ始めた。 会場内に飛び込んだMulderは、すぐに叫ぶ! 「皆さん。落ち着いて聞いてください!この会場内にから大至急出てください!爆発物が発見されました! あと15分で爆発します!」 すると一瞬どよめきがおこったかと思うと、悲鳴や怒号と共に会場内が大パニックとなった。 3つほどある出入り口に我先にと人がどんどんと集まる。 案の定、団子になってしまった人は簡単に出ることができない。 ガードマンとScullyとで必死で誘導するうちに、警察も5分ほどで駆けつけてきた。 "これは遠くまで逃げられないかもしれない…"心の中でそう思った時、誰かがMulderの腕を掴んだ。 「おじちゃん!」Joanである。 そばには父親がついていて、早くと手を引っ張っているが動こうとしない。 「Joan!早く逃げるのよ!」とScullyが促す。 すると、手にしていたハンカチをMulderに渡して、引っ張られながら二人に叫んだ。 「パパが作った町が…壊れるの?」 「そんな事ないよ。さあ、早く!」 子供はそんなおとなの嘘に敏感である。 ここから数百メートル先の家も狙っての事ならかなりの爆発力があると思われた。 「パパの町を守って!!!」 悲鳴のような少女の声が耳に残る。 これで一般客はとりあえず、会場内からはいなくなった。 しかし、威力によってはまだまだ無事が保証されたわけではない。 とにかく、自分たちも逃げなければ…とScullyに言おうとした。 けれどさっきまですぐそばにいた彼女の姿はない。 びっくりして、あわてて周りを見渡す。 するとなんとパーティ会場の裏へと走り出す彼女の姿を捉えることができた。 「どうする気なんだScully!!!」 Mulderの叫びが聞こえないのか、Scullyは一目散に走っている。 Mulderは肩の疼きを押さえながら立ちあがった。 そして、Scullyの後を追おうとする。 すると、そばにいた警察官に手を捕られた。 「危険です!一刻も早くここから遠ざからなければ!」 「君は今、彼女が走って行ったのを見なかったのか?!」 そういって、もどかしげに警官の手を振り払うとScullyの後を追った。 警官はやはり自分の身がかわいいらしく、Mulderとは逆の方向へ走り去って行くのを、視界の隅で確認した。 なんとか会場裏の駐車場に辿り付くと、Scullyがちょうど大きなトラックに乗り込もうとしているところだった。 それは人口雪を降らせる為に用意された給水車だった。 しかし、Scullyがなにをしようとしているのか皆目見当がつかない。 「Scully!どうするつもりなんだ!」 するとその声に、Scullyは気付いて一瞬動作を止めた。 だが、走り拠ろうとするMulderを待つ事なく、大きなトラックのエンジンをかけた。 Mulderがドアに辿り付き中に入ろうとしたが、鍵が掛かっている。 「Scully!どうするつもりなんだ!ここを開けるんだ!」 するとScullyは窓を開けて叫び返した。 「あなたは早く避難して!私は私に出来ることをするわ!」 そう言ってトラックをとうとう発進させた。 ぐおん!と重たげなエンジン音が轟く。 さすがにそれ以上は追いすがれなかったMulderは道を開けた。 Scullyが勝算の無い事をするわけがない。 信じてはいたが不安は拭えない。 彼女の考えはすぐにわかった。 トラックで導火線付のツリーをなぎ倒そうというのだ。 しかし、トラックは確かに重量級だが運転席は驚くほどもろい。 普通のセダンのように、なんのクッションも無くものにぶつかれば、1番最初にダメージを受けるのは運転席だ。 勢いをつけてつっこめば、乗用車などとは比べ物にならないほどの破壊力を繰り出すが、しかし…運転席が無事 なのだろうか? Scullyのトラックは、先ほどまで人が優雅に歓談をしていた場所のあらゆるものをなぎ倒して進む。 美しく盛りつけられた料理や、会場を彩っていた数々の花々もいまとなっては障害物でしかない。 すんでのところで飛び降りるのかもしれない…そう思った矢先だった。 暗闇の中、ツリーのてっぺんで火花が走るのを見た。 いよいよ導火線に火がついたらしい。 そして、Mulderが思わず唾を飲み込んだ瞬間、なんとScullyのトラックが出し抜けに回れ右をしたのだ! 「え?」 思わぬ動きに驚きが口を出た瞬間、トラックの後ろ部分が大きく揺れた。 振り子の要領で、お尻をふった形になる。 "ばきっ!!!"と大きな音が耳に響いたかと思うと、デコレートされていた大きなツリーは、電飾の光の孤を描き ながら一瞬にしてドスンとなぎ倒された。 勢いのついた車体の攻撃を受けては4メートルのツリーもひとたまりもなかったようだった。 Scullyは最初からそれを狙っていたらしい。 確かに運転席から飛び降りるより確実な方法だし、破壊力もある。 そして、タンクは破れてあたりは水浸しとなったため、導火線の火が生きている事はまず無いように思われた。 Mulderは爆発をさけられた安堵感と、そんな中でも冷静に計算をして着実な行動をとったScullyに舌をまいた。 放心状態で立ち尽くしていると、Scullyがトラックから降りてきた。 フェミニンなドレスにはまったく不釣合いなその乗り物だが、今のScullyには妙に似合っている。 誇らしげなその顔の頬は紅潮して、軽く息を弾ませていた。 すっかり冷たくなった空気の中で、白い雲をたくさん浮かせる。 「どう?Mulder。」 そう問いかけられた途端、Mulderは一気に体から力が抜けてその場に座り込んだ。 Scullyはびっくりして、慌てて駆け寄る。 次の瞬間、首筋に彼女の暖かい指先を感じてMulderは心底ほっとしていた。 「…がぬけた…」 「え?」 Mulderの脈をとっていた手を離して、Scullyが聞き返す。 「腰が抜けたよ。Scully。最初から狙っていたのかい?」 するとScullyは満足そうに微笑んで答えた。 「当たり前でしょ?勝算の無い事を私がすると思うの?」 その目は、大仕事をやり終えた充実感からかきらきらと輝いていた。 Mulderはそんな相棒を心底誇らしく思った。 「なにか言いたい事がありそうね?」とScullyはにっこりと笑った。 Mulderは素直に賞賛の言葉を捧げようかと思ったが、口からは別の言葉が出ていた。 「Scully家ではクリスマスにはツリーをなぎ倒すならわしがあるのかい?」 するとScullyは一瞬きょとんとしたが、すぐに不服そうな顔になってMulderを睨んだ。 「たまには誉め言葉くらい言えないの?」 その顔があまりにも子供の誉めてもらえなかった時のふてくされた顔のように見えてしまったのがおかしくて Mulderは思わず吹き出す。 「失礼な人ね、Mulder。」 「くっくっく、悪かったよ、Scully。誉めてあげるよ。」 「誉めてあげる?」 やはり「あげる」の言葉にひっかかったScullyはさらにMulderを睨む。 Mulderはできるだけ神妙な顔をして見せてからおもむろに言った。 「その素敵なドレスと無骨なトラックとを見事にコーディネイトさせて、美しいなって思わせてくれるのは 世界中探したって君くらいだと思うよ。」 ScullyはMulderのひねくれた賞賛に大きなため息をついてみせたが、すぐに吹き出してしまった。 それにつられてMulderも笑い出す。 ひとしきり笑った後に、"さあ、行くわよ"そんな言葉を言外に示すように、Scullyはそっと手をさしだした。 Mulderはその手を握り返し、勢い良く立ちあがる。 「腰なんて抜けてないじゃない。」Scullyは笑いながら、彼を引っ張るように歩いた。 「これでも怪我人なんだよ、Scully。おてやわらかに頼むよ。」 先ほど首に感じた暖かさは錯覚だったのか、冬の冷気にすっかり熱を奪われたScullyの手のひらは一転して冷たい。 Mulderはその彼女の手毎自分のコートのポケットに突っ込んだ。 驚いて振り返るScullyに、にやりと笑いかけてみせる。 「手袋がわりだよ。あたたかいだろ?」 「もう片方は冷たいのだけれど。」とScullyは反対側の手をひらひらと振って見せた。 そんなScullyにMulderは笑いながら答える。 「そっちは自分でなんとかしろよ。僕のもう片方のポケットは開いているけど、つっこんだら2人で歩けなくなるぞ。」 「あら、本当?」 といきなりScullyはMulderの前に立って、反対側のポケットにも手をつっこんだ。 ちょっと抱き合うような形になって、Mulderの歩みがとまり、驚いた顔でScullyを見つめた。 彼女の甘い香りが鼻腔をくすぐる。 「確かにそのとおりだわ!」そんなMulderの表情を見てとってから軽やかに笑い声を立て、再び彼をひっぱるように 歩き出した。 2人の前を数台のパトカーが行き来していた。 おまけに万が一に備えて来ていた消防車もあったが、それはそろそろ立ち去りそうな雰囲気だった。 遠くの赤と青のライトをぼうっと見つめながら、Mulderはため息をつく。 「とんだクリスマス・イブだったな。僕達は神に見放されたのかもよ?」 「そんな事ないでしょ?すべてが無事だったんだし。」 Mulderの横で同じ様に喧騒を少し離れた所で立って眺めながら、Scullyは答えた。 「でも、何時に帰れるのかしらね。」 そう言いつつ時計を眺めて、「11時」とつぶやいた。 「こんなに底冷えするくらい寒いのなら、本物の雪のひとつもふればいいのに。そしたら…」 「ホワイトクリスマスだけど…こんな星空も捨てたものじゃないわ。」 見上げると、冴え凍るような空気の中、夜空には街ではお目にかかれないくらいの星が瞬いていた。 まだまだ、新興住宅地で、しかも人口密度の低いここでは、外灯も少ないせいか暗くて空気も澄んでいる。 Mulderは大きく頷いたが、すぐにぶるっと震えて背中を丸めた。 「しかし、今はなによりもあったまりたいよ、Scully。ここがかたづいたら飲みにいかないか?」 「飲みに?あなたのその格好で入れてくれるお店はあるかしら?」 Mulderはタキシードこそ着てはいたものの、コートの下から覗く生地はどろどろに汚れている上に顔は傷だらけで、 お世辞にも大丈夫とは言い難かった。 「だったら、僕の家でもいいよ。なんなら君んちでもいい。」 するとScullyは、呆れたように答えた。 「なぜあなたにそんな事を決める権利があるの?」 「君の武勇伝をじっくり拝聴させてもらうよ。姫を救い出した勇者の気持ちはどんなんだい?」 するとScullyは吹き出した。 「あなたが姫なの?」なにを想像したのか大いにウケている。 「君が勇者だよ、確かに勇気がある。」 とMulderが真面目な顔で答えるとScullyは笑うのをやめた。 言葉の続きを待っているのか、Mulderを見つめている。 「あのツリー、すでに導火線に火がついていたって知ってたかい?」 「え??」 思わぬ問いかけにScullyは目を見開く。 「だって、あと5分は余裕があったはず…」 「彼の予告時間?ロウソクの火なんて風や湿度によって思い通りには燃えないよ。それに導火線に火がついた時 の火花も見たしね。」 するとScullyは、相当驚いたようで固まってしまっていた。 「Scully?」今度は逆に彼女をおどろかせてやれたのがうれしくて、にやつきそうになったMulderは、なんとか それを押さえて顔を覗き込んでみた。 するとScullyは、はっと焦点をあわせる。 「ま、まあ助かったんだからよかったんじゃないの?」 声が裏返る様子にとうとうMulderは吹き出した。 「僕の勝ちだね。きみのおごりだよ、Scully。」 「なによ、それ…」 まだ、ショックが抜けきらないのか弱々しい声ながらもしっかりと異議は唱える。 「わかった。じゃあ君の家で君が僕をもてなしてくれればいいよ。」 Scullyはあまりに一方的なMulderにいつもどおり抗議の言葉を発しかけたが、うれしそうににこにこしている 相棒の顔を見ると、なんだか言えなくなって気が付けば"いいわ"と頷いていた。 その時2人を遠くから呼ぶ声がする。 どうやら一旦帰った作戦部長が大慌てでやっと戻ってきたらしい。 そこで2人はそちらへと向かい始める。 「プレゼントも用意してあるんだ。」とMulderはScullyの隣で歩きながら囁いた。 「本当?」驚いた顔で見つめ返すScullyにMulderはにっこりと笑って見せる。 実はなにも用意はしていない。 なにも持っていない自分から贈ることのできるプレゼントは… Mulderは、そこで思い付いた考えに思わずにんまりとした。 その時のScullyの表情が手に取るようにわかる気もしたが、結果は残念ながら2種類浮かんだ。 前者か後者か… 「なににやついているの?Mulder。」不審げに顔を覗き込むScully。 「いや、なんでもないよ。さっさと仕事をかたづけよう!」 そう張りきったように答えて、今度は走り出すとScullyはそんな珍しく仕事に意欲を見せた相棒の姿に首を振り ながら、自分はゆっくりと歩いて行った。 "冷蔵庫になにか残っていたかしら?"なんて考えながら…                                          <終わり> =-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= ははは、すみません。 ひよ得意の「皆様に想像してね♪」ってラストにしてしまいました。(苦笑) クリスマスだという事で、甘いものも書きたいと思いつつ、しばらく書いていなかった事件ものも書きたいと 思ったら、殆ど事件Ficとなりました。 以前書いた「Give―」の印象が強いのか「事件が得意ですよね?」とよく言われるんですが、実はあれしか 事件物は書いたことがないのですよ。(知ってました?(笑)) でも、もともとミステリ好きで書ける書けないは別にしても、読む面でも事件物は好きだったので今回は そちら方面で進めました。 あとは、とにかく「強いスカリー」を書きたかったのです。 最近よく、スカリーがモルダーの事やダイアナの事で「しゅーん」としてしまう作品を良く読んでいて そういったお話にはそれぞれ、スカちゃんに感情移入して「ああ、つらいよねー。でもモルはもちろん スカちゃんが1番なんだからさー。そんなに落ち込まないで!」なんてとっぷり浸り、スカちゃんが 勝利した瞬間ものすごい快感を味わえるのですが、自分が書く時にはあまりスカちゃんをつらい目に 合わせたくなくて「仕事に張り切る元気なスカちゃん!」を書きたいなと思ったのがきっかけです。 そして、いつもとは逆にモルダーをちょっとした仕草でどきどきさせてしまうような・・・ そしたらいつのまにかその形が「トラックで辺りをなぎ倒して進むスカちゃん」となり、こんな話に なりました。(なんだか私の思考回路の単純さが思いっきり露呈したような気もしますが・・・) 相変わらず長い話ですが、ここまでお付き合いいただけた方、本当にありがとうございました。 さて、私の好きなクリスマスソングですが・・・ トップページで流している曲、聖歌の「まきびと羊を」(First Noel)です。 この曲は、私が小学生くらいのころなにかのテレビを見ていた時に、出演者全員で歌っていたのを 聞いて、ずっと繰り返される同じようなフレーズがしっかりと頭にやきついてしまいました。 そして、これをクリスマス近くに聞くと「ああ、クリスマスだなー」ってしみじみ感じてしまうんです。 好きなんだか、しみつていしまっだけなのかはよくわかりませんが・・・(苦笑) ・・・というわけで(?)みなさまはどんなクリスマスを過ごされるのでしょうか? どうぞ、楽しい日をおすごしくださいね♪