DISCLAIMER// The characters and situations of the television program "The X-Files" are the creations and property of Chris Carter,Fox Broadcasting, and Ten-Thirteen Productions. Also the following movie and songs do not belong to me, either. *"How Can I Not Love You" sung by Joy Enriques *"I'm Your Angel" sung by Celine Dion and R.Kelly *"Ghost" starring Demi Moore and Patrick Swayze No copyright infringement is intended. ------------------------------------------------------------------------------------------ −前書き− このFicは、冒頭でScullyが銃弾に倒れ、命を落とすところからお話が始まります。終始シリアス な作風ではありませんが、このような展開に少しでも嫌悪感を抱かれる方は、お読みにならない事を お勧め致します。また、これは筆者の個人的な想像の産物である事をおことわりしますと同時に、 お読みいただける皆様には上記の設定に対しての寛大なご理解をお願い申し上げます。 また、このFicは某有名映画をベースにした作品であり、いつもとは趣を変えて様々なカテゴリー の味付けを加えてみました。モルスカのラブラブ、モルダーの苦悩、シリアステイスト、陰謀もの、 そしてお約束の爆弾コメディ(笑)等々。そしてアダルトは....?? ------------------------------------------------------------------------------------------ Title: Heartbeat (1/4) Category: MSR, conspiracy, angst, and comedy Spoiler: None Inspiring: Ghost Date: 6/09/00 By Amanda ------------------------------------------------------------------------------------------ can not touch 触れられない can not hold 抱きしめる事も can not together 一緒にいる事もできない can not love 愛せない can not kiss キスだってできない can not have each other 互いを手に入れる事もできない must be strong 強くなって and we must let go 諦めないと can not say 口にする事もできない what our hearts must know 心でわかってる事を how can I not love you どうしたら愛さずにいられるのだろう what do I tell my heart 自分に何て言えばいい when do I not want you いつになったら欲しがらずにいられるのか here in my arms 腕の中に君を how does one walk away どうしたら逃れられるのだろう from all of the memories すべての思い出から how do I not miss you どうしたら恋しがらずに済むのか when you're gone 君がいない時 「頼んだぞ」 「任せなって」 「狙いは分かっているな?」 「なあ、何度それを言ったら気が済むんだ? 相棒の方だろ!?」 「わかっていればいいんだ、外すなよ。本当は、お前のような頼りない奴に依頼するなんて事は 避けたかったんだがな」 「俺の腕を信じてないのか? 俺はな、100m先からでも、お前のそのニコチンだらけの前歯だけを 撃ち抜く事だってできるんだぜ」 その言葉が、妙に心に引っかかった。 Dr.アストンからもらったニコチンガムなんて、あんなもの、効きやしない。誰だ、タバコが社会 の敵だなんて言い出したヤツは? 見つけたら、体中にヤニを塗りたくってやる。 そんなくだらない事を頭の片隅で考えながら、CSMは口にくわえていたタバコを指で挟み、 ふうっと大きく息を吐く。白い煙がゆるゆると輪を作り、空気に混ざって姿を消した。 「奴を生き地獄に突き落とすんだ。いいな、彼女を殺せば、奴は死んだも同然だからな」 ------------------------------------------------------------------------------------------ 「やめなさい!! 自分が何をしているのか分かってるの?」 「うるさい、だまれ!!俺に指図するな!!」 私達の前に立ちはだかる男は、すっかり自制が効かなくなっていた。彼の手には、こちらに しっかりと狙いを定めた黒い銃が納められている。 彼、本当に撃つわ 私には、そう確信が持てた。それがなぜかは私にもわからない。前にも度々こんな場面に出くわした からかしら? それとも「虫の知らせ」ってやつかしら? 「もう一言でも余計なことを言ってみろ。貴様の腹に風穴があくぞ」 「落ち着けクライチェック、もう一度よく考えるんだ」 「うるさい、そんなに殺されたいか!!」 ズギューン!! まるで野獣が吠えるようなおぞましい音を立てて、男の銃口から弾丸が発射された。 一瞬の出来事だった。そこが既に使われなくなっていた、古びた工場跡だったからかもしれない。 いつもと比べて異様なほど大きな反響音に反応して、私は思わずギュッと目をつぶった。本当は こんな事、あってはならないんだけど。 死ぬのが恐かったのかしら? 恐いだなんて....バカバカしい 「Scully!!」 相棒の、私を呼ぶ声が聞こえた なんなのよ、そんなに気が狂ったような声なんか出して 「Scully, 大丈夫か!?」 大丈夫よ、私は なに、そんなに私の事が心配なの? 「貴様、何をする!!」 私の頭が本来の思考能力を取り戻す前に、相棒は寸分のためらいもなくクライチェックに向かって 発砲した。しかしその弾丸は彼を捕える事ができず、まんまと逃げられてしまった。 ちょっと、どうしたのよMulder!? いつものあなたなら、こんなの外したりしないじゃない 「Scully!!」 彼は再び私の名前を呼んで私の足元に近寄り、地面に屈んで、そこに横たわっていた「あるもの」 を腕に抱いた。驚きのあまりに声が出ないというのは、まさにこの事を言うのだろう。彼が腕に 抱いたものは他ならぬ「私」だったのだ。よくよく見ると、私の左胸は撃ち抜かれ、黒のスーツに コーディネートしていた白いブラウスに、真っ赤な血がベットリとついていた。 相棒は、真っ青になった私の顔をのぞき込んでいた。彼の腕の中にいる私の息は浅く、瞳孔も 焦点が定まっていない。 「Scully, すぐに救急車を呼ぶ。目を閉じちゃダメだ」 右手で私の身体を抱き抱えたまま、左手でもどかしげにポケットからセルを出し、 911を呼び出す。 「....Mulder,」 息も絶え絶えの私が、か細い声で彼の名前を呼んだ。 「....私....どう....しちゃったの?」 「大丈夫、僕がついてる。絶対に助けるから」 「....Mulder, 私....」 私は血まみれになった左手で、そっと彼の頬に触れた。 「....ゴメンね....あなたに....最後までつき合えなくて」 「何を言ってるんだ。明日になったら君はすっかり良くなって、病院のベッドで僕にこう言って るんだ。『Mulder, 科学で証明できないものなんてないのよ』ってね」 私は唇の端をかすかに持ち上げて弱々しく微笑むと、そのまま静かに呼吸をとめた。 「Scully....?」 左手に握っていたセルを下に落とし、両腕で私を強く抱きしめて、なおもMulderは私の耳元で 叫び続けるのだった。 「Scully, Scully....返事してくれ、僕をおいていくな!! SCULLY!!」 もしかして私、死んだの? ------------------------------------------------------------------------------------------ 「銃創患者、左胸です。意識不明、呼吸停止、現場で挿管、エピを2ミリグラム投与....」 「Scully!! 死ぬんじゃないぞ!!」 Mulderが呼んだ救急車に乗せられて、傷ついた私の体は病院の緊急治療部に運ばれた。私も一緒 に救急車に乗り込んできたのだが、どうやら私の存在がみんなには見えていないようだ。私が どれだけ「助けて!!」とわめいても、誰も私の声に耳を傾けないばかりか、まるで私がそこに いないかのように行動しているのだ。 私の頭上から金色に輝く一筋の光が差し込んできた。春の木漏れ日のように、それは私の体に 暖かく、そして優しく照りつける。その心地良さに身を任せかけた時、廊下の向こうにMulder の姿を見つけた。私が緊急治療を受けているその場面を食い入るように見つめる彼の表情があまり にも辛そうだったので、私は光の帯から逃れ、彼に向かって歩き始めた。 外傷室で私をなんとか生き返らせようとしていたドクター達の動きが緩慢になった。チームの 中の一人が壁の時計にチラリと目をやり、口先だけで何かをつぶやいた。それが死亡時刻の宣言 だというのは簡単に察しがつく。 外傷室の外から事の次第を見守っていたMulderは、人目を気にする事もなく、涙を流し始めた。 ドクターがポン、と彼の肩を優しく叩く。いつまでも泣き止まない彼に、私はそっと近づいた。 『Mulder、泣かないで』 私はそう言って、彼の手を握ろうとした。しかし、私の手はMulderの手をスルリとすり抜けた。 ? もう一度、もう一度。何度彼の手に私の手を重ねても、それは彼の手の温かさを微塵も感じる事なく 通過していくだけだった。私の声が、私の姿が、私の手が、彼には全く感じられないのだろうか。 私は繰り返し彼の名前を発して、なんとか気付いてもらおうと試みた。 『あんた、無駄な事はよしなって』 そんな時、私の後ろからこんな声が聞こえた。それが私に向けての言葉である事を理解するのに 少し時間がかかった。振り向くと、そこには一人の老人が立っていた。 『あんただよ、そう、あんた』 『私が....見えるの?』 『ああ、あんたは死んだんだ。生きてる人間に死人は見えないんだよ。声も聞こえないし、 触れる事だって無理さ。早く死後の世界に慣れるこったね』 『あなたは....誰?』 『わしか? わしは妻を迎えに来たんだよ。ほら、あそこに』 老人が指し示した方向に目を向けると、若い頃はさぞ華麗な顔つきをしていたのだろうと思われる 老婦人が、安らかな顔でストレッチャーに横たわっていた。程なく彼女の上から、再びさっきの 「金色の光」が下りてきた。 『カレンは実に優しい人だったからな。見てごらん、暖かい光が彼女の魂を導いている』 『生前が優しい人であれば、あの光が魂を迎えに来るってわけ?』 『優しいだけに限らんよ。行いの良い人生を送ってきた魂には、あの光が迎えに来るんだ』 『行いの悪い人生を送った魂はどうなるの?』 『....それは知らない方があんたのためだと思うがね。それよりも、死後の世界での生き方を 覚える方が先だ。扉は簡単にすり抜けられるようになるから、心配せんでも大丈夫だ』 死人同士は姿が見え、会話ができるようだ。それを理解した瞬間、私は自分の死を現実のものと して実感したのである。 どうやら私は、本当に死んでしまったらしい。 ------------------------------------------------------------------------------------------ まさか自分自身の葬儀を間近に見る事になるとは、さすがのScullyも想像だにしていなかった。 Scullyが銃弾を受けた数日後、母・マーガレットやスキナーを始め、親族や生前親しかった友人、 同僚が、牧師の弔辞に静かに耳を傾けていた。 「Dana Katherine Scullyは、自身の人生を全うし、天に召されたのです....」 気丈にも涙一つ見せないマーガレット。彼女を慰めるかのように、そっと母親の肩に手を置く兄の ビル。彼らのやるせない仕種や表情が、余計にScullyの心を締めつけた。 『ママ、兄さん....ごめんなさい。パパとメリッサと、その上私まで....』 参列者達が次々にマーガレットと二言三言の言葉を交わし、その場を去っていく。Scullyはその 一部始終を見守っていた。 ついにMulderは、最後まで姿を見せる事はなかった。 ------------------------------------------------------------------------------------------ 通い慣れたアパートへやってくると、Scullyお目当ての部屋のドアは開けっ放しになっていた。 事件以来、Mulderの姿を見た者は、ただの一人もいなかった。スキナーには休暇願いが提出されて おり、FBIには全く姿を見せていない。とは言え、決してアパートの電気が灯る事はなく、ひっそり としている。それはまるで、彼の存在自体がなくなってしまったかのようだったが、Scullyには 彼が一人きりで暗い部屋に閉じこもっている事が手に取るようにわかっていた。 『まったく不用心なんだから。ドアぐらい閉めなさいよね』 と彼女は小さくつぶやくと、ふとそんな憎まれ口さえも、もう彼に伝える事はできないのだという 寂しさが彼女を襲った。今まではそれが普通だったのにという思いの現れが、己の死を強引に理解 させた自分自身の心が、まだ本当に納得をしていない事を物語っていた。 わずかに見え隠れする複雑な心の底を無理やりよそへ押しやるようにして、Scullyは相棒の部屋へ 一歩入ってみる。家具も間取りも、全てが前と変わりないのに、まるで違う人の部屋へ入ったような 錯覚を覚えた。 こんな部屋だったかしら? 部屋の中をぐるりと見渡し、最後に相棒の姿が視界に入った。ついこの間までパートナーとして行動 を共にしていた相棒は、カウチにもたれて両足を投げ出し、両手でバスケットボールを抱えて床に 座り込んでいた。瞳はじっと一点を見つめたままだ。 Mulder, 何を見てるの? Scullyは彼の隣に座り、その横顔をじっと見つめた。疲れきった表情。おそらく全く睡眠をとって いないのであろう彼の目はどんよりとしていて、何も映し出していない事がうかがえる。どうにかして 慰めたいと思っていると、突然Mulderが、手に持っていたバスケットボールを精一杯の怒りを込めて 向かいの壁に打ちつけた。 ダン!! 激しく、荒く、そしてもの悲しげな音を立てて壁にぶつかったボールは、コロコロとドアの方向に 転がっていく。そのボールの行方を見守る事さえもせず、Mulderは両膝を抱え込んで顔を埋めた。 くぐもった鳴咽が漏れてくる。思わずScullyの右手が彼に向かって伸びるが、その手は虚しく空を 切るだけだった。彼に触れたい一心で何度も何度も手を伸ばす。Scullyは、頬が濡れているのを感じた。 涙は出せても Mulderには触れる事ができないのね こんなに近くにいるのに.... 生きた気配さえ感じられないMulderを見つめたまま、自分の無力さに対して悲しみと怒りが大きく込み 上げてきたその時。 「ボールに八つ当たり?」 ドアの近くで聞き知った声がした。見るとそこには先程のバスケットボールを手にしたダイアナが 立っていた。 「Hi, Fox」 ゆっくりとしたペースでヒールの音をコトンコトンと立てながら、ダイアナは部屋へ入ってきた。 彼女が近づいても、Mulderは顔を埋めたまま動こうとしない。そんな彼の隣に、ダイアナは腰を 下ろした。 そう、Scullyが座っている場所に。 無論ダイアナにScullyの姿は見えないので、Mulderに近づく彼女の体は、Scullyの体をもろに 通過していく。その瞬間、ゴーッともガーッともつかない鈍い音が、Scullyの耳をつんざくように 鳴り響いた。 自分の体をダイアナが通り抜けていくその感触は、何とも言えない奇妙な体験だった。 何....今の? なんだか....突然頭から波をかぶったみたいな.... なんて息苦しいのかしら? もしかして、ドアをくぐり抜ける時ってこんな感じなの!? じょ、冗談じゃないわ!! ああ、手でドアが開けられたら、こんな感触、二度と味わわなくて済むのに.... Scullyの体を通り抜けた事など露ほども知らないダイアナは、Mulderにそっと話しかけた。 「彼女を失った事は本当に残念だと思ってるわ」 「.......」 「確かに、彼女とはあまりウマが合わなかったけど。でも、私だって辛いのよ、Fox」 「.......」 「あなたのこんなひどい姿、見たくないわ。彼女が死んで....」 「『死んだ』なんて言うな!!」 突然のMulderの大声に驚いて、ダイアナはビクッと身を縮めた。 「....悪かったよ、怒鳴ったりして。でも僕にはまだ信じられないんだ....あんな事になるなんて.... あの時....あの時どうして彼女を救ってやれなかったのかと思うと....」 そこから後は言葉が続かなかった。ダイアナは、ただただ鳴咽を漏らすMulderを右手でそっと 引き寄せ、優しく髪を梳いてやった。 「あなたのせいじゃないわ、Fox」 実際のところ、彼女の心中は複雑だった。かつては互いに愛し合った仲の相手が、今は別の女を 想って涙を流している。物理的に存在がない分、彼の心の中でのScullyの存在は、これまでとは 比べ物にならないほど大きくなっている。ダイアナはそれを痛いほど感じていた。 彼女と同じく、Scullyの心中も複雑だった。かつては互いに愛し合った仲の女が、今や自分が 命さえも差し出せるほどの相手に触れ、その心を癒そうとしている。物理的に存在がないために、 Mulderに手を差し伸べるという簡単な事さえもできなくなってしまった。Scullyはその事実を 痛切に感じていた。 その場にいるのが息苦しく感じられ、Scullyはたまらず部屋を後にし、外に出た。涙で冷たく なった頬を、風がそっと触れる。一緒に寂しさも拭い去ってくれるような気がして、涙を跡形も なく乾かしてくれる事を、彼女は願わずにいられなかった。 しかし、その願いが叶えられる前に、Scullyの瞳は別のものを捕らえた。 『...クライチェック?』 ------------------------------------------------------------------------------------------ 周りに細心の注意を払いながら、クライチェックは建物の中へと姿を消した。彼がMulderの部屋へ 行くに違いないと察知したScullyもまた、彼の後を追って再びアパートへと入っていった。 二人は同じエレベーターに乗り込んだ。 数年前にX-Filesセクションが閉鎖されて以来、彼とは政府の陰謀がらみの争いを通じて敵対関係に あった。その彼と、二人っきりで同じエレベーターに乗っているのだ。クライチェックに姿が見えて いないとは言え、Scullyは落ち着かなかった。彼はひとつひとつ数を刻んでいく、エレベーターの 階数を示すランプをじっと見つめている。 一体何をしようとしているの? 自分を撃った彼が、今度はMulderの元へと足を運んでいる。Scullyは、心の中に存在するありったけ の不安が、今にも体の外へ溢れ出ていきそうな気がした。 エレベーターが止まり、ドアが開く。廊下に視線を移したクライチェックが、無表情のまま前へ歩き 出した。Scullyもその後を追う。Mulderに危険を知らせたいという、たった一つの思いに支配された 彼女だったが、同時にその思いがどう願っても通じない事はわかっていた。それだけに、Scullyの 心に跳ね返ってくる歯がゆさは余計に辛さを増す。 待ってクライチェック!! Mulder、逃げてちょうだい!! クライチェックがドアにそろりと耳を近づけ、ドアノブに左手をかけて右にひねる。 しかし、わずかにビクッと体を硬直させ、その手を止めた。ドアの向こうから女の声が聞こえてきた のだ。 「.......大丈夫.....あなたは....Fox.....」 「くそっ、ダイアナか!!」 独り言のように小さく罵り声を上げ、クライチェックは急いで踵を返して、エレベーターへと逆戻り を始めた。その歩くスピードの速さにScullyは一瞬戸惑ったが、なぜかそうした方がいいような気が して、慌てて彼の後を追った。 ------------------------------------------------------------------------------------------ 必死になってクライチェックの後を追いかけるScully。しかし彼女の努力は及ばず、大きな通りに 入ったところで、逃げ足の速い彼は途中で視界から消えてしまった。 どこへ行ったのかしら? 息を弾ませながらScullyはキョロキョロと辺りを見回した。すると、通りを隔てた向かい側に立ち 並ぶ数々の店の中から、彼女はある一軒の店に目を留めた。それはお世辞でも奇麗とは言えないような 薄暗いくたびれた店だったが、なぜか彼女の目は、それを捕らえて放さなかったのだ。 『霊媒師アダムの店』 色合いは地味だが、まるでムンクの「叫び」を思わせるような奇抜なデザインの看板に、そう書かれて いた。 霊媒師.... その言葉に引き寄せられるように、Scullyはフラフラと店に近づいていった。 ------------------------------------------------------------------------------------------ ドアの潜り抜けにも少しずつ慣れてきたScully。『霊媒師アダムの店』に入り込むと、香の独特の 匂いが鼻孔をつく。少し離れたドアの向こうから、どうやら霊と交信中とおぼしき霊媒師の妙な声が 聞こえてきた。 「うぬぬぬ....そなたの先祖はすぐ近くにきておるぞ」 「本当ですか!?」 「ああ〜〜〜〜〜っっっっ!! い、いかん!! これは...!!」 「先生、お気を確かに!!」 生前はもっぱら「科学で万物を立証する人種」だったScullyも、今やゴーストの身。言うなれば、 自分自身が超常現象の立場に置かされているのだ。 霊媒師って、本当に霊と交信ができるのかしら? もし本当だったら、あの部屋の中は霊でワンサカしてるはずよね 彼女にしては珍しく、興味本位でアダムのドアを潜り抜けた。しかしそこには、アダムの他に二人の 人間の姿があるだけだった。 あら、3人だけ? しかも人間....なんだ、霊なんていないじゃない やっぱり霊媒師だなんて嘘なのね いとも簡単に嘘を見破ったScullyの存在を感じ取る事もなく、アダムは「霊がそこに!!」と必死で わめき散らしている。彼の迫真の演技にすっかり騙されて肝を抜かれた残りの二人は、あんぐりと 口を開け、その場から微動だにできない状態だった。 少し話がそれるが、人間というのは、時に意外な一面を持つ事がある。例えば一見お堅く見える人が、 誰もかなわないほどの「筋金入りジャニーズファン」だったり、例えば一見控えめな人が、いったん マイクを持たせると放さないほどのカラオケ好きだったり。 今まさにScullyは、そんな「ある人物の意外な一面」と対面していた。 「邪悪な霊よ!! そなたの目的は何じゃ!? くおぉぉぉ〜〜〜っっ!! ウォルター!!水を!!」 「は、はい先生!!」 アシスタントはあたふたとコップ一杯の水をアダムに手渡し、彼の額に滲んだ汗を丁寧に拭って、 かいがいしく世話をしている。Scullyは、その大柄なアシスタントの足元から上へ上へと視線を移動 させた。 .....!?!?!? 開いた口が塞がらないとは、おそらく今のScullyの事を言うのだろう。 ス....ス........スキナーーーーーッッッ!!!! アシスタントは、我らが上司、ウォルター・スキナーだったのだ。見てはならないものを見てしまった ような気がしたScullyは、あまりの衝撃的な場面に目を白黒させながら、思わず大声を上げた。 『Nooooooooo〜〜〜〜〜〜〜ッッッッ!!』 ビクッ!! タイミング良く、それと同時にスキナーの大きな体が驚いたような反応を見せ、彼は視線をキョロ キョロと部屋中に泳がせた。その目は不思議そうな、それでいて落ち着かない表情をしている。 「....せ....先生。今....何か聞こえませんでしたか?」 演技に気持ちを込めすぎて疲れたのか、息を切らしながらアダムは答えた。 「はぁ...はぁ...何が聞こえたというのだ、ウォルター?」 「女性の叫び声が...」 「叫び声? 空耳ではないのか?」 「....それならいいんですけど」 何ですって? スキナーの一言は、Scullyに衝撃を与えた。 もしかして....聞こえたの? スキナーに? 私の声が?? もしやという思いが一秒毎に募っていき、Scullyの喉はカラカラに乾いていた。この、世にも 楽しい....もとい、世にも不思議な現象を解明すべく、彼女は部屋の壁をつたいながらそっと 移動して、スキナーの背後に忍び寄った。 『もしもし、副長官?』 耳元でそっと囁いてみた。再びアダムのアシストに神経を集中させていたスキナーは突然ガバッと 顔を上げ、ますます落ち着かない表情を浮かべた。額には脂汗がうっすらと滲んでいる。 やっぱり聞こえるぞ!! しかも....Scullyの声に似ている.... スキナーの心臓の鼓動は、たちまち速く音を立てて刻み始めた。そんなスキナーの様子を見て、 Scullyはスキナーが自分の存在を感じ取っているのだと確信した。 あともう一押し... スウッと息を吸い込み、再びスキナーに近寄った。 『ふくちょ〜〜〜かぁぁぁ〜〜〜〜んんっっっっっ!!!』 「ぎえっっっ!!」 あの冷静沈着なスキナーが、あまりの驚きにあろう事か手に握っていたグラスを放り出し、アダムの 顔に思い切り水をぶちまけた。 「どっ、どうしたウォルター!?」 師匠の呼びかけさえも聞こえていないのか、スキナーは両手をぶんぶんと振りまわし、ひたすら叫び 続けた。 「うわっ、寄るな、話しかけるなScully!! 生きてたのか!? 声がするのになぜ姿がないんだ!?」 「もしやウォルター? 霊の声が聞こえるのか!? よし、免許皆伝だ!! 君も霊媒師として、そして 私のパートナーとして頑張ってくれたまえ」 「せ、先生!! 聞こえないんですか!? Scullyがいるんですよ、この部屋に!! 霊媒師の免許なんて いりません、気味悪いぞScully!! やめてくれっ!!」 『副長官、どうか落ち着いて下さい。ふくちょうかんっっ!!』 Scullyは必死になってスキナーをなだめ、なんとか普通の大きさの声で通じるようにまで落ち着か せた。 『Sir,本当に私の声が聞こえるんですか?』 「...Scully,本当に君なのか?」 ...to be continued −後書き− 「DCレポート」という番外編は作っていたものの、Ficを書くのは実に3ヶ月ぶりです(笑) このネタ、実は半年以上も前から頭の端にあったものなんです。普通ならじわじわとイメージが 膨らんでくるんですが、今回は全然ダメ(苦笑) いつもならだいたいのオチまで考えて書き始める 私が、今回は初めて「見切り発車」で作成開始。不安要素盛りだくさんですわ〜(汗) いきなり暗い展開での導入なので、「こんなのを投稿するなんてヤバイんじゃ....?」と思いながら 書いています。しかも一発で収まりきらず、次回へ持ち越し(^^;) 極力「後味の悪い暗さ」が出ない ように努力はしていますが....どうなる事やら!? 読みながら「これってどっかで見た事ある展開やな」と思われた方も多いかと思います。そうです、 今回は、一時大人気となった映画「ゴースト」をモチーフにしてみました。って事は、今後は あーなってこーなって、ほんでもって次はあーなってそーなるの?....いや〜、どーだろう? 「続きが気になる」なんて方、いらっしゃるのかしら? 密かにそんな不安を抱きつつ、次回へ続きます。 Amanda