この作品はあくまでも作者の個人的な楽しみに基づくものであり この作品の登場人物、設定などの著作権はすべて、クリス・カーター、 1013、20世紀フォックス社に帰属します。 TITLE :    - Jacquelin -      by yuria     * この作品は - Room 42 -「モルダーの休日編」のSpin offとなっております。       *  このFicのアイデアをいただいたFEWさんに感謝を込めて * 〜〜 * 〜〜 * 〜〜 * 〜〜 * 〜〜 * 〜〜 * 〜〜 * 〜〜 * 〜〜 * 〜〜 * アパートのエントランスに若い女性が急ぎ足で入ってくる。 身長は170cm位だろうか、ブルネットの髪は優雅に肩のあたりで軽くウェーブしている。 細いストライプのはいったブラウンのスーツに上品なベージュのロングコートをはおり、 大きめのショルダーバックをかけた彼女はmailboxへと近づき、 手紙を2〜3通そこから取り出した。 膝丈のスカートからパンプスをはいたスラリと長い足がのぞいている。 彼女は手紙の束をパタパタともてあそびながら、ずらりと並んだmailboxの前を 行ったり来たりしている。 そして1つのmailboxの前で立ち止まり、あたりをキョロキョロと見回して 誰もいないことを確かめると、身をかがめてその中を 狭い差し入れ口からのぞき始めた。 差し入れ口が狭い上に薄暗いので、中のものは何も見えない。 あきらめて身を起こすと、背後からいきなり声をかけられた。 「Excuse me. そこは僕のmailboxだったと思うが...」 濃紺のスーツに白いYシャツ、仕立てのよさそうな黒いロングコートを着た長身の男性が 彼女のすぐ後ろに立って、まっすぐに見つめている。 その顔立ちは穏やかでヘーゼルの瞳は優しげだが、何もかも見透かされてしまいそうな、 どこか油断のならないものも感じられた。 「42号室の人ね。  私のmailboxにあなたの手紙が間違えて入っていたから返しておいたわ」 彼女は悪びれるふうもなく、とっさにこう答えた。 彼は眉を少し上げて無言でうなずくと、小さな鍵をmailboxに差し込んだ。 彼女は、中に手紙が入っていますようにと心の中で祈った。 mailboxが空なら彼女の嘘がバレてしまう。 しかしそんな思いをよそに、彼女の目は鍵を開ける彼の指に釘付けにされていた。 『なんて綺麗な指。。。』 繊細なほどに長く美しい指がmailboxの鍵を開ける様子は、 何故かとてもセクシーに映った。 彼が中から数通の手紙を取り出すと、彼女は我に帰ったように彼を見上げて とびっきりの笑顔を作った。 彼も彼女を見おろすと、 「Thank you.」 と、礼儀正しい微笑を返した。 どこか淋しげな目をもった彼は、微笑むとガラリとその印象を変えて、 人懐こい少年の顔をのぞかせた。 「Jacquelin Cuyler  Jacquelinと呼んで。Jackyと呼ばれるのは好きじゃないの」 そう言って彼女は右手を差し出した。 「Fox Mulder」 そう言うと、彼も右手を出して握手を交わした。 彼女は彼の手を見つめずにはいられなかった。 彼の手は大きくて暖かく、彼女のほっそりとした手をすっぽりと包んだ。 「Foxと?」 「いや、Mulderのほうがいい。Foxと呼ばれるのは好きじゃない」 彼はそう言って、ニヤリと笑った。 「この前エレベーターの中で会ったわね」 彼は彼女の言葉に無言でうなずくと天井を見上げ、きまりが悪そうに笑った。 「スーツ姿じゃなかったから、すぐにはわからなかったわ。  普段着のあなたは、とても若く見えるのね」 「それは僕の口元についていたケチャップのせいでは?」 Mulderは手紙をコートの内ポケットへ入れて、エレベーターの方へ歩き出しながら言った。 Jacquelinも急いで彼の横に並ぶと、彼がぶら下げている小さなビニール袋に目がとまった。 「金魚のエサ」 彼は彼女の視線に気づくと、そのビニール袋を軽く持ち上げながら言った。 そしてボタンを押してエレベーターを待つ。 「金魚を飼っているの?  日本のポストカードに描いてあるような?」 彼女はパっと目を輝かせて言った。 彼はうなずきながら開いたエレベーターのドアを左手で軽く押さえて、彼女を先に促がした。 「私も一人暮らしで淋しいからペットを飼いたいと思ってるの。  でも昼間は家にいないから、犬や猫は世話ができないし...。  金魚だったら私にも飼えるかしら?」 エレベーターの扉が閉まるのを待たずに、彼女は早口でしゃべりだした。 「...たぶん」 MulderはJacquelinの勢いに押されながらそう言って、彼女の階と自分の階のボタンを押した。 「Mr.Mulder、もしよければ見せてもらえない?」 「Mulderだ。...これから?」 Mulderは眉をちょっと上げて聞き返した。 「あ...ごめんなさい。そうよね、失礼よね。今の忘れて!  好奇心が強すぎるって、よくママに注意されるの。  もう大人なんだから、少しは自分を押さえなさいって」 そう言って彼女は肩をすくめた。 「僕もママによく言われる」 神妙な顔でうなずきながらMulderが言った。 Jacquelinが、もの問いたげに彼の顔を見上げたのと同時に Mulderはニッと笑って続けた。 「散らかってるよ」 「いいの?」 抱きつかんばかりの勢いで顔を近づけてきた彼女に、Mulderは軽く肩をすくめて微笑んだ。 彼女の階についてエレベーターの扉が開いたが、 彼はスっと手を伸ばしてボタンを押すと扉を閉めた。 Jacquelinは自分の目の前にいきなり彼の手が伸ばされて、一瞬息を止めた。 次の階につくと,Mulderは自然な仕草で彼女を先に降ろした。 そして自分もエレベーターから出ると、首をクイっと部屋の方へ傾けて彼女に示し 先にたって廊下を歩いていった。 Mulderは部屋の前に立ち、コートのポケットに手を突っ込んで鍵を探しながら 朝出たときに自分の部屋がどんな状況だったかを、頭の中ですばやく思い出していた。 カウチにはTシャツとジーンズが脱ぎ捨てられ、その前のテーブルには読みかけの本や 新聞、仕事の書類、飲み終わったミネラルウォーターの空きボトル。 そうだ、それに昨晩観たビデオが置いたままになっている。 まずい。。。 そんなことを考えながら鍵をとりだして、ドアに差し込もうとした時に 彼のcell phoneが鳴り出した。 スーツの上着の内ポケットからcell phoneを取り出し 彼の後ろに立っているJacquelinに 「Excuse me.」 と断って、彼女から少し離れて電話に出る。 「Mulder。  今、部屋の前の廊下だ。鍵を鍵穴に入れようとしてるんだ」 Mulderはそう言うと鍵を持った右手をcellに近づけて、チャリンと鳴らしてみせながら チラっとJacquelinを振り返った。 彼女は手持ち無沙汰に手を後ろで組んで、自分のパンプスのつま先を見つめているが 彼の電話に興味を持っていることはあきらかだ。 Mulderは再び彼女に背を向けて話し始めた。 「今から?。。。明日の朝では?  。。。ああ、そうだ。僕が君に検査を頼んだんだ。  。。。わかってる。急がせたのは僕だよ」 そう言いながらMulderはcellを少し耳から離して両目をつぶった。 早口な女性の声がcellを通して聞こえてくる。 「OK、Scully。ちょっとまって」 そう言うと彼はcellを左肩と頬の間に挟んで、手首の時計を確認した。 そしてcellを持ち直すと、 「15分で行く」 そう言ってcellを切った。 上着の内ポケットにそれをしまいながら、彼はすまなそうな顔でJacquelinに振り向くと 彼女はニッコリ笑って、肩をすくめてみせた。 「忙しいのね」 「Ah...ごめん」 「いいのよ。でも、次は必ずね」 Jacquelinはいたずらっぽく笑った。 「女の人ね、今の電話」 二人は再びエレベーターの方へと歩きながら、JacquelinがMulderに尋ねた。 彼が意外そうに軽く微笑んで無言で彼女に質問する。、 「私のところまで聞こえたわ、彼女の声。すごい剣幕だったみたいね」 彼女はエレベーターのボタンを押して彼の無言の質問に答えた。 Mulderはそうかと言う風にうなずいて言った。 「彼女は仕事のパートナーなんだ。僕なんかと違っていつも真面目に仕事に取り組んでいる。  ほとんどいつも彼女が正しいよ」 さりげなく彼が電話の女性を庇ったことを、Jacquelinは敏感に感じとった。 2人はエレベーターに乗り込み、Mulderは彼女の階と自分が降りる1Fの ボタンを押した。 扉が閉まりエレベーターが下降を始めると、彼女はまっすぐにMulderに向きあって言った。 「Mulder、今日はお話ができて嬉しかったわ。  ほんとはあなたの手紙が間違えて入っていたなんて嘘。  私はあなたに興味があったの」 扉が開くと彼女は少し背伸びをし、Mulderの頬に軽くキスをして 風のようにエレベーターを出て行った。 突然のキスにあっけにとられた顔のMulderを乗せて エレベーターは1Fへと向かった。 Jacquelinは誰もいない静かな廊下を靴音を響かせて ゆっくりと歩きながら囁いた。 「Mulder、次のキスは頬じゃないわよ」 そして、にっこりと微笑んだ。 彼女は部屋の鍵を開けながら考えた。 それにしても彼の手、大きくて力強いけれど、すらりと伸びたまっすぐな指、 そして神経質なほどに綺麗に切りそろえられた爪。 今まで会ったどの男性よりも、彼は美しい手をもっている。 Jacquelinは、ぼんやりと考えながら部屋に入り、コートを脱いだ。 そしてまたFox Mulderのことを考え始める。 上品な顔立ち、物静かな話しかた、育ちがよさそうな立ち居振舞からみると きっと高学歴にちがいない。 パートナーだと言っていた、いかにも強そうな女性に振り回されているのかもしれない。 『かわいそうなFox, いえ、Mulderだったわ。  私だったら彼のことをもっと優しく受け止めてあげられるのに。。。』 彼女は腕時計を外してキッチンテーブルに置き、 手を洗いながらまだ考え続ける。 今度の休日には金魚を買いに行こう。 そしてその後のことは、それからゆっくり考えればいいわ。 Jaquelinはていねいに石鹸の泡を洗い流しながら、 満足げに微笑んでいた。                      - end - 〜〜 * 〜〜 * 〜〜 * 〜〜 * 〜〜 * 〜〜 * 〜〜 * 〜〜 * 〜〜 * 〜〜 *  最後までお読みいただきまして、ありがとうございました                        * yuria *                           e-mail: yuriaduchovny@hotmail.com