DISCLAIMER// The characters and situations of the television program "The X-Files" are the creations and property of Chris Carter, Fox Broadcasting, and Ten-Thirteen Productions. Also the song "Bring Her Back" sung by Human Nature do not belong to me, either. No copyright infringement is intended. ----------------------------------------------------------------------------------------------------- −前書き− このFicは、映画「You've Got Mail」(邦題:ユー・ガット・メール)を モチーフにした作品ですが、Meg RyanやTom Hanksは登場しませんので、 あしからず、ご了承くださいませ(^^;) 始めに、この素敵なアイデアを提供、およびリクエストしてくれた アイーマちゃんに、心から感謝します。 ----------------------------------------------------------------------------------------------------- Title: Dear My Friend Category: MSR(...Maybe) Spoiler: "Pilot", "3", "One Breath" and some other episodes from 1st, and 2nd season Inspiring: "You've Got Mail"(Starring Meg Ryan and Tom Hanks) Date: 10/13/99 By Amanda ----------------------------------------------------------------------------------------------------- 「Welcome!!」 AOL(アメリカ・オンライン)を立ち上げると、こんな歓迎の言葉で出迎えてくれる。 Fox Mulderが常とする、寝る前の日課の一つに、この「Welcome!!」という熱い歓迎を 受ける事が含まれる。普段の生活で、こんなにも熱烈な「Welcome!!」を最後に聞いたのは いつの事だったか。そんな事を彼が覚えているとすれば、それは宝くじで特賞を当てるに 匹敵するほどの驚くべき事かもしれない。 とにかく、彼は毎日その愛想の良い「Welcome!!」に快感を覚えながら「新着メール」の ボタンをクリックする。 「You've Got Mail!!」 そのコールを聞くとMulderは、ふと柔らかい笑みをもらす。ちょっとしたきっかけで インターネット上にて知り合った「Mel」からのメールをクリックした。 To: summy@aol.com From: mel@aol.com Date: 2/28/92 Subject: Move Dear Summy; Hi, 元気にしてる? 実は今日、勤務先で部署異動の内示を受けたの。 具体的に異動先なんかはまだ知らされていないんだけど、とりあえず来週、私は組織内の どこかへ飛ばされるというわけ。正直言って、楽しみ半分・緊張半分といった感じだわ。 今のセクションでの仕事も気に入ってるの。 研修とか講演で、みんなに指導をしたりしてるんだけど...まあインストラクターみたいなものね。 ここでは、自分が持つ能力や知識を最大限に生かすことができるわ。でもそれだけじゃない。 同時に人の能力や意識の向上に貢献する事ができる。これって、最高に素敵な事だと思わない? 次のセクションでは、どんな仕事に就けるのかしら? 分かったらメールで知らせるわね。 それじゃあ、またね Mel P.S. 歯磨き粉のチューブ、あなたは真ん中から押す? それとも、下から押して使う? ----------------------------------------------------------------------------------------------------- 「Welcome!!」 AOLを立ち上げると、こんな歓迎の言葉で出迎えてくれる。 Dana Scullyが常とする、帰宅後一番の日課は、この「Welcome!!」という熱い歓迎を受ける事だ。 こんなにも熱烈な「Welcome!!」なんて、最近受ける機会も減ったわね、と、アカデミーでの 指導でろくにプライベートな時間も取れなくなってしまっている自分に対して、Scullyは 深いため息をついた。 とにかく、彼女は毎日その愛想の良い「Welcome!!」に慰められながら「新着メール」 のボタンをクリックする。 「You've Got Mail!!」 そのコールを聞くとScullyは、ふと柔らかい笑みをもらす。ちょっとしたきっかけで インターネット上にて知り合った「Summy」からのメールをクリックした。 To: mel@aol.com From: summy@aol.com Date: 3/1/92 Subject: Don't Say "Smile!" Dear Mel; 僕に内示が出ても、きっと僕は受けないだろうな。もっとも、今の僕に異動を迫るヤツなんて いないと思うけど。僕は環境の変化に順応しにくいタチでね。それに、周りも僕を快く 思っていないようだし。結局のところ、一人で作業している今の状態が、一番ベストだ ということだ。 とにかく、君が異動先でもうまくやっていけるように願っている。 ところで、君は日本に行ったことがあるかい? 僕は以前、日本のマクドナルドへ行ったことがあるんだが、そこでとても奇妙な体験をしたんだ。 カウンターの上に、でかでかと掲げられたメニューを見ていると、その中に「スマイル」 という項目があったんだ。興味をひかれて僕はこう言った。 「スマイルを一つくれ」と。 すると、店員は妙な顔をした。そしてこう答えたんだ。 「スマイルというのは、お客様に対するサービスの一つで、食べるものではありません」とね。 彼女の顔には「バカにするな」と言いたげな表情が浮かんでいたね。周りの客はクスクス笑ってるし。 僕はすっかり「いい笑い者」だったよ。 日本のマクドナルドへ行く時は気をつけて Summy P.S. 歯磨き粉のチューブ? 真ん中から押すけど、君は? ----------------------------------------------------------------------------------------------------- 「Mulder捜査官の補佐として、君にX-Fileを担当してもらいたい。 事件内容と調査結果をレポートにして提出してくれ」 「私にX-Fileの信憑性を確かめろと?」 「君に事件を科学的に検証してもらいたいのだ」 「誰もいないよ。FBIの鼻つまみ者だけだ」 「Mulder捜査官、Dana Scullyです、よろしく」 「僕の所に回されるとは...一体どんなヘマをしたんだ?」 「君は地球外生命体の存在を信じるかい?」 「理論的にはNoだわ」 To: summy@aol.com From: mel@aol.com Date: 3/7/92 Subject: First Impression Dear Summy; あなた、チューブを真ん中から押すの!? それって、落ち着かないわ。 まあ、人それぞれだから、いいんだけど。 気にしないでね、聞いてみただけだから。 私は下から押すけど。 今日は異動先着任の初日だったの。 異動先を今日聞かされたんだから、それも変な話よね。 どんなセクションかって? そうねえ、実を言うと、イマイチ「つかみどころがない」と言うか、私が予想していたのとは 随分イメージが違ったわ。 私の先輩になる人が、ちょっと変わってるっていうのか...すごく...奇抜なアイデアの持ち主なの。 普通の人じゃ、到底考えつかないような事を、当然の事のように話すのよ。 多分、今日の私は一日中、間抜けな顔をしてたはずだわ。こんな訳の分からない事に 出くわしたのは初めてよ。「これが私の新しい仕事!?」って、思わず叫びそうになったわ。 ちょっと不安はあるけど、それなりに頑張ってみようと思ってるの。 私がここに配属されたのも、それなりの意味があるんだろうし。 またあなたに愚痴ってしまうかも...なんてね、私は大丈夫よ。 明日から早速出張なの。 先輩の足を引っ張らないようにしないとね。 Mel ----------------------------------------------------------------------------------------------------- 「オレゴン州の21歳の女性。死因は不明。検死をしても無駄だったが、腰に赤い斑点が 残っていた。他にもオレゴンでは変死者が4人出てる。全員が高校の同窓生だ。 死因はどれも科学的に説明がつかない。それなら未知の世界に可能性を探すべきだよ」 「どうやって起訴するんだ? あのビリー・マイルズの証言でか!? 宇宙人だの、 鼻に通信装置を入れられただの、一体誰が信じると思う?」 To: mel@aol.com From: summy@aol.com Date: 3/25/92 Subject: My Partner Dear Mel; 出張が事のほか手間取ってしまった。長い間返事を出せなくてすまない。 僕の所にも、新しいスタッフが配属された。利発そうな、いかにも優等生タイプの女性だ。 基本的に僕は一人で仕事をしたかったし、何事も始めが肝心だろう? そんな訳で、僕のセクションがどんな仕事を扱っているのかを、その時に扱っていた事例を 使って説明したんだ。辞めるなら今のうちだという含みを持たせてね。 しかし、彼女は僕に向かって、勇猛果敢に挑んできた。 彼女の内側からほのかににじみ出ている、あの確固たる自信はなんだろう? 僕は、そこに興味を持ったんだ。 実際のところ、僕が扱っている仕事は、精神的な負担がかなり大きい。だがしかし、 必ずしも第三者がその仕事に理解を示してくれるものでもない。今回の出張でも、 その傾向は如実に表れた。 彼女にとって、今回の出張はいい経験になったのではないかと思っているんだ。 今後、彼女が僕と仕事を続けるのか、もしくは辞めるのか、それは彼女次第だ。 しかし、僕は確信している。 彼女はきっとうまくやる。 なぜかそんな気がするんだよ。 Summy ----------------------------------------------------------------------------------------------------- 「ユージーン・テュームスは、人間の肝臓をエサにしているんだよ、Scully。  五人の人間の肝臓を食した後、30年の眠りにつく。そして30年後、彼はまた 肝臓を求めて活動を始めるんだ」 「Mulder, そんなの絶対にあり得ないわ」 「こんな事をしてると、君は出世の道を絶たれてしまうな」 「...出世よりも、あなたが大切よ」 To: summy@aol.com From: mel@aol.com Date: 4/19/93 Subject: Respect Dear Summy; Hi, その後、新入りの彼女とはうまくいってるの? 私は今、まるで転校生のような気分を味わってるの。毎日が初めての経験、 と言うか、こんな仕事をしない人なら、一生感じ得る事のできないものだわ。 私のパートナーは...やっぱり「変わった人」 独特なものの考え方(あれは、ほとんど直感に近いと私は思ってるけど)は相変わらず健在。 理論的な性格の私とは、事あるごとに対立してるの。 これだけ性格が合わないんだから、普通ならいやになるはずなんだけど、不思議と そうは思わないの。 よく分からないけど、私は彼を尊敬している。あの情熱を秘めた瞳や、強い信念... 決して恋愛感情ではないけれど、彼の何かが、私に尊敬の念を抱かせる。 とにかく、彼はすごい人。 彼なら信頼できそう。 そう思ってる。 Mel ----------------------------------------------------------------------------------------------------- 「僕だ。X-Fileは閉じられた」 「え?」 「さっきSkinnerに言われた。上の方からそういう指示が下りてきたそうだ。 僕達は別の部署に転属になる」 「Mulder、異議を唱えるべきよ、そうすれば...」 「いや、もうおしまいだ」 「これから...どうするの?」 「僕は絶対に諦めない。諦めやしないよ。真実がそこにある限りはね」 To: mel@aol.com From: summy@aol.com Date: 5/24/94 Subject: Our Destiny Dear Mel; 君はこんな風に思った事はないかい? 歴史はすべて、起こる前からシナリオが準備されていたんじゃないかって。 南北戦争やケネディの暗殺も、すべては起こるべくして起こった事なんじゃないかって。 そして僕の頭には、こんな考えが浮かんだ。 歴史上の出来事だけでなく、人類全てに、各々のシナリオが用意されているのかも しれないってね。 でもこれは「運命」とは違う。 『今日は朝六時に起きて、七時に出勤して...』 こんなささいな行動が、すべて成り行きではなく、誰かによってそうさせられて いるんじゃないかと思う時がある。 もしこれが本当なら、立派な「策略」だ。それも、とてつもなく大きい。 それに比べれば、僕がパートナーに「今日の君は、昨晩ビデオで見たAV女優よりもセクシーだ」 と言って困らせてやろう、などという趣味の悪い企みとは訳が違う。 僕のそんな思いは、とどまる所を知らない。 話は変わって、ここのところ、パートナーとは離れて仕事をしているんだ。 別に喧嘩をしたわけじゃないけど、いろいろあってね。 彼女と離れてみて、一つ分かった事がある。 僕はいつの間にか、彼女を本当のパートナーとして頼り始めているって事をね。 この一年、彼女はとてもよくやったと思う。彼女の仕事への熱意は、正直言って、 僕も舌を巻くほどだ。 口に出しては伝えていないが、僕は彼女に感謝している。 彼女は実に驚くべき人だ。 この僕に「僕はいいパートナーを持った」と思わせる事のできた『やり手の人物』なんだからね。 Summy ----------------------------------------------------------------------------------------------------- 「Scully, 奴等が来たんだよ。これが証拠だ。これに全てが入ってる」 「...入ってるはずなのに...全部消えちまってる」 「...嵐で電圧に変化が起きて、それで磁気が消えてしまったのかも。 また振り出しだわね」 「X-Fileはなくなったけど、まだまだやる事はある...君もいるしな。まだ諦めないぞ」 To: summy@aol.com From: mel@aol.com Date: 5/27/94 Subject: Decision and Coincidence Dear Summy; 私は、運命は「偶然と選択の積み重ね」だと思っているの。 私が今の仕事に就けたのだって、これまでに遭遇した偶然が、積み重なってできた結果。 組み合わせによっては、何千通り、何万通りとあるはずの人生の選択肢の中で、 今の私が形成されるために選ばれた選択肢は、その中のたった一通り。 運命とか偶然って、受け身的な表現だけど、私は、これが生まれる前からあらかじめ 決められていたとは思っていないわ。私はいつでもベストを尽くして、 その場に「偶然」起こった事に対して、自分なりの「選択」をしてきた。 その「偶然」と「選択」が、自分の「運命」になっていくのだと思うの。 もし、この世に「人生」という名の準備されたシナリオがあるとするならば、 そのシナリオの作者は、他でもない自分自身だと思う。たとえ自分が下した選択が、 実は他人からの見えない力によるものだったとしても、私はそれを 「自分の考えで決断を下した選択」だと思いたい。そして、後でそれを振り返って確かめた時、 自分は精一杯やったのだと納得できるように生きていたい。 そうじゃないと、寂しすぎる。 そうでしょう? ところで、あなたのパートナーはようやく努力が実を結び始めたようね。 あなたはなかなか考え方が深いし、何よりも孤独を好む人のようだから、 彼女の事、心配してたのよ。 大切にしてあげてね。 彼女はきっと、あなたを信頼しているはずよ。 私には分かるの、私も彼女と同じだから。 私と彼女は似ている。認められたくて必死になってるの。 その努力、ちゃんと分かってあげてね。 あなたからずっと、パートナーの事を聞かされてきたから、なんだか他人じゃないみたい。 会ってみたいわ、その彼女に。 Mel ----------------------------------------------------------------------------------------------------- 「Mulder, 私よ。信じられない事が起きたの。ドゥエイン・バリーの中から 取り出された例の金属片には、バーコードのようなものが刻まれていたの。 走査してみたら、連続番号が出てきたわ。一体何なの!? まるで...彼の管理番号みたい。 ......助けて、Mulder!! Mulder!!」 「動くな!! 彼女はどこだ?」 「俺は自由だ。もうどこへも行くもんか!!」 「彼女はどこだ!? 答えろ!!」 「連れてった」 「誰が!?」 「奴らだよ。俺の身代わりだ、ざまあ見ろ!!」 To: mel@aol.com From: summy@aol.com Date: 8/9/94 Subject: What Should I Do? Dear Mel; 今日はつまらない事ばかり書いているんだ。 読まずに捨ててもらっても構わないよ。 僕のパートナーが消えた。 自宅から連れ去られたんだ。 どうして君に、こんな話を書いてるんだろう? いや、君だから、こんな話を書いているのかもしれない。 僕は今、何をしていると思う? 何もしていない。 実際には、何かをしていても記憶に残っていないんだ。 パートナーを連れ去った男は逮捕され、死んだ。 奴は、精神を病んでいてね、自分がかつて、エイリアンに連れ去られた 事があるという妄想を抱いているんだ。初めて連れ去られて以来、彼は度々 エイリアンに呼び出されていると言う。そこで彼は、自分の身代わりを探した。 僕のパートナーは、そのターゲットにされてしまったんだ。 奴が逮捕された時、僕は彼と対面した。 彼の腕には、精神病棟のものだと思われる、IDリストバンドが巻かれていた。 そこには血がついていて、パートナーの髪の毛が張りついていたんだ。 僕はそれを見た時、言いようのない怒りに支配された。 そして、彼に向かって何回も尋ねたんだ。 「彼女に何をした!?」 「彼女を傷つけたのか!?」 彼は僕に謝った。 「仕方なかった。彼女を身代わりにせざるを得なかったんだ」と。 なぜ謝る? なぜ彼女にこんな事を? 少しだけ落ち着いた今、僕はその時の事を思い返している。 一つ気づいた事があるんだ。 僕が、誰かのためにこんなに怒りを覚えたのはいつ以来だろうってね。 僕はあの時、自分が誰なのか、何をしているのかさえ分からなくなった。 それほどの怒りを感じたんだ。いつの間にか、彼女は僕にとって かけがえのない存在になっていたんだいう事を、痛いほど思い知らされたよ。 僕は今日、久しぶりに夜空を眺めた。 彼女が連れ去られたと思われる空をね。 月も星も、いつも通りに輝いていた。 でも、僕にはそんな光さえもがつらかった。 「光」って、「希望」を表わす存在じゃなかったかな? 悪かった。 つまらない事を書いてしまったね。 Summy ----------------------------------------------------------------------------------------------------- 「少なくとも、今夜はハメを外したい気分だ」 「...失ったのね、誰か親しい友達を...」 「私は彼らと血を舐めあうの。一種のゲームのようなものよ。でも、もう疲れたわ。 ......守ってくれる?」 「その金のクロス、魔除けのつもり?」 「友達の物だ」 「ああ、大切な人の物ね」 To: mel@aol.com From: summy@aol.com Date: 8/16/94 Subject: Out of Control Dear Mel; 今日、僕は久しぶりに一人で仕事をした。 「慣れとは怖い」とはよく言ったものだな。 つい一年前までは一人が普通だったのに、今ではパートナーがいないとダメになってしまった。 いつもは言い合いばかりしているんだけど、彼女の厳しい声がないと張り合いがない。 いつの間に、こんな自分になってしまったのか? そう考えると、自分で自分がおかしくて仕方がない。 仕事で接触した女性が、僕にこう言った。 「誰か親しい友達を失ったのね」と。 僕はそんなにひどい顔をしていたのかな? 初めて会った人にまで、そんな事が分かるほどに。 彼女は、こんな事も言った。 「私を守ってくれる?」と。 僕に守ってほしいと頼んだんだ。 僕は、彼女を抱きしめてキスをした。 そして、彼女を抱いた。 もっとも、その場限りのもので、今では彼女も違う世界の人となってしまっている。 彼女が「守ってくれる?」と言ったあの時、 僕には、彼女の後ろにパートナーの姿が見えたんだ。 恐怖に満ちた顔を僕に向けて「助けて」と叫んでいた。 彼女を助けたい 僕の元に戻ってきてほしい その一心で、気がつけば僕は見知らぬ女性の中にいた。 でもその時、僕の心の中にはパートナーしかいなかった。 もしかしたら、僕は彼女の事を... ----------------------------------------------------------------------------------------------------- 「重体です。深い昏睡状態で、意識は全くありません。言葉をかけても刺激を与えても反応がない。 実は、FBIからの連絡で知ったのですが、彼女には生前発効の遺書が...」 「どんな内容です?」 「延命治療の中止に関する具体的な記述です」 「Scullyは...尊厳死を望んでた」 「証人はあなたですね、Mulderさん?」 「このDNAは活性を失っている。Scullyの人体実験は終了して、今や有害な廃棄物なんだ」 「彼女は...助かるのか?」 「彼女の免疫系は破壊されている。それに、この毒素を排除するには、健康体でも難しい。 Mulder、残念だが...」 「僕には君が、もっと生きたいと言ってる気がする。君ならできるはずだ。 僕がいても何の役にもたたないが...ここにいるよ」 To: mel@aol.com From: summy@aol.com Date: 8/21/94 Subject: Her Life Dear Mel; 暗い話ばかり書くから、きっと君にまで愛想をつかされたんだろうな。 でも、今の僕には何をしていいのか、何をすべきなのか、まったく分からないんだ。 ここにこうして自分の気持ちを書きとめる事で、自分の気持ちを整理しているんだと思う。 君にはいい迷惑だけどね。 パートナーが帰ってきた。 すっかり変わり果てた姿で。 ドクターも、僕の友人も、そして彼女の家族さえもが、望みを捨ててしまっている。 昏睡状態の彼女を不憫に思って、「楽にしてやれ」と言うんだ。 確かに、彼女をこれ以上苦しめる権利は、僕にはない。 彼女も、生前から尊厳死を望んでいた。 逝かせてやるべきなのかもしれないのだが、僕はそれを認めたくない。 彼女が「もっと生きたい」と言ってるように聞こえるんだ。 これは僕の一人よがりな考えなのかな? ただの自分勝手な考えなのかな? 君には、僕が女々しい奴に見えるだろう? 情けない奴だと呆れているんだろう? でも僕はもう彼女なしでは駄目になってしまったみたいだ。 悔しい事にね。 一人で生きていけると思っていたのに。 こんな歌を知っているかい? 今の僕にぴったりの曲だ。 笑ってしまうぐらいね。 彼女を返して 僕の元に返してくれ 彼女を返して 僕の元に返してくれ 君なしの夜がまたやってくる 疑問にさいなまれる時間がまたやってくる 君の事ばかり気にかけていた 泣かせるつもりなんてなかった 教えてくれ なぜ彼女が去らなきゃならなかったのか どこに行ったら安心できるんだろう どうして落ち着けないんだろう 彼女を返して 僕の元に返してくれ もう一度この腕で抱きしめられるように 彼女を返して 僕の元に返してくれ この心へと返してくれ ----------------------------------------------------------------------------------------------------- 「ママ、Foxじゃないわ。Mulderよ」 「気分はどう?」 「何も覚えてないの。ドゥエイン・バリーが...」 「もういいんだ。君にプレゼントを持ってきた。『スーパーボウル』のビデオだ」 「生きてて良かった」 「もう休んだ方がいい。今日はどんな様子か見に来ただけだから」 「Mulder...あなたの声が力になったわ」 To: mel@aol.com From: summy@aol.com Date: 8/23/94 Subject: Coming Back Dear Mel; 今日、パートナーの意識が戻ったんだよ。 僕の元に戻ってきたんだ。 早速病室に行って、顔を合わせてきた。 久しぶりに言葉を交わした。 強さをたたえたあの瞳で、彼女は僕を見る。 僕はかすかに身震いをした。 彼女の視線が、こんなにも心地のいいものだったとは...。 お帰り よく頑張ったね。 Mel, 僕の気持ちを君へのメールに託したおかげで、僕はなんとか心のバランスを保ってこれた。 君には本当に迷惑をかけたね。 Summy ----------------------------------------------------------------------------------------------------- 体調が少しづつ回復の兆しを見せていた頃、Scullyは病室でラップトップのパソコンを立ち上げた。 久しぶりに聞く「Welcome!!」が、今日はとても耳に優しく感じる。 「You've Got Mail!!」 いつものコールを耳にして受信トレイを見ると、メールが数通たまっている。 差出人は..."Summy" わずかに唇の端を上げて、Scullyは微笑む。 そうよね、随分メールを出していなかったものね 彼からのメールを順にクリックして、そのひとことひとことをじっくりと心で味わいながら 読んでいく。そのうちに、顔から徐々に血の気が引いていくのがScully自身にも感じられた。 スクリーンから目を離して、ポツリとつぶやいた。 「Mulder...あなただったの?」 To: summy@aol.com From: mel@aol.com Date: 8/28/94 Subject: Sorry, and Sorry... Dear Summy; 随分長い間、メールを出していなかったわね。 ごめんなさい。 決してあなたに愛想をつかしてた訳じゃないのよ。 勝手な言い草だけど、それだけは分かってほしいの。 あなたはきっと「なぜ?」って聞きたいでしょうね。 私が長い間、あなたにメールを出さなかった訳を。 しばらく家にいなかったの。 いえ、出張とか旅行とか、そういうのじゃなくて。 変な話、自分でも分からないの。 何て言えばいいのかしら? 突然意識を失ってしまった、とでも言えば説明がつくかしら? まさかね、そんな言い訳で納得なんてできないわよね。 あなたのメールを読んだわ。 大変な思いをしたのね。 支えてあげられなくて、本当にごめんなさい。 私があなたを支えなくちゃいけないのに。 私があなたを守らなくちゃいけなかったのに。 私はあなたに迷惑をかけてばかり。 私はあなたを困らせてばかり。 「ごめんなさい」って言葉以外に、どんな言葉があるのかしら? 知っていたら教えてくれる? これじゃ、パートナー失格ね。 ごめんなさい、Mulder Scullyは、泣きながら「送信」ボタンをクリックした。 ----------------------------------------------------------------------------------------------------- Scullyが少しづつ回復の兆しを見せていた頃、Mulderは自宅でパソコンを立ち上げた。 相棒が帰ってきてからの「Welcome!!」は、いつもよりまして心地がいい。 「You've Got Mail!!」 久々のコールだった。スクリーンを見ると、未読メールが1通、受信トレイから顔をのぞかせていた。 差出人は..."Mel" Mulderは満面の笑みを浮かべる。 そうだな、僕ばかり出していたもんな "Mel"からのメールをクリックして、そのひとことひとことをじっくりと心で味わいながら 読んでいく。そのうちに、顔から徐々に血の気が引いていくのがMulder自身にも感じられた。 スクリーンから目を離して、ポツリとつぶやいた。 「Scully...君だったのか?」 ----------------------------------------------------------------------------------------------------- コンコンコン 病室のドアをノックする音がして、Mulderが顔をのぞかせた。 「Scully, 調子はどうだい?」 Scullyは、彼に背を向けたまま、顔を見せようとしない。 そんな彼女の姿を見て、Mulderはベッドの端に手をかけて腰掛けた。 「Scully? 眠ってるのか?」 「Mulder...もう...あなたに...顔なんて合わせられない」 泣いている時特有の鼻声で、Scullyが後ろ向きのまま答えた。 「どうして?」 「だって...私はあなたを...あなたを支えてあげられない、弱い人間なの。 いいえ、あなただけじゃないわ。自分自身さえも守る事ができない、どうしようもない人間なの」 常に自分で自分自身を追い立て、奮い立たせる事を忘れない彼女の背中から、Mulderは 目を離す事ができなかった。この小さな体の中に、苦しみや悲しみ、たくさんの 辛い感情を閉じ込めている。 何がここまで、彼女を追いつめるんだ? 何がここまで彼女を...? 「Scully」 Mulderは優しい声で彼女の名を呼んだ。 「Scully...こっちを向いてごらん」 その言葉に促されるように、Scullyはゆっくりと相棒の方に顔を向ける。 「君にやってほしい事がある」 「...何?」 「メールチェックをしてほしい。今ここで」 「ここで? 今すぐに?」 「そうだ」 サイドテーブルにあったパソコンをMulderから渡され、何が何だか訳が分からないまま、 Scullyはパソコンを立ち上げ、AOLにアクセスする。 「Welcome!!」 歓迎の声への反応もそこそこに「新着メール」のボタンをクリックする。 「You've Got Mail!!」 未読メールが1通 差出人は..."Summy" Scullyは一瞬、チラリとMulderの顔を見て、メールをクリックした。 To: mel@aol.com From: summy@aol.com Date: 8/29/94 Subject: Wish Dear Mel; 今日は君に頼みがあるんだ。 僕は君に支えてもらってばかりいる。 僕は君に守ってもらってばかりいる。 僕は君に迷惑をかけてばかり。 僕は君をを困らせてばかり。 こんな僕だけど いつまでも僕のパートナーでいてくれるかい? Summy 「...奴の願い、きいてやってくれないかな?」 「Mulder...」 今にもこぼれ落ちそうなぐらいに涙をためたScullyの瞳が、今日初めて、 まっすぐにMulderの瞳を捕らえた。 「こんな私で...いいの?」 頼りなさそうに尋ねる彼女に、Mulderはとびきりの笑顔を作った。 「君じゃないといやなんだよ、奴は」 そう言って、彼女を暖かく胸に包み込んだ。 なめらかな指で、Scullyのつややかな髪をすいていく。 「君との口論が、奴の密かな楽しみなんだよ」 Mulderの声が体に響く。 それは雨が地面に染み込むように、すんなりと体に心地よく溶けていく。 「私が退院して職場に復帰する時が...楽しみね」 「ああ、お手柔らかに頼むよ、パートナー」 彼とならやっていける。 彼女とならやっていける。 この人となら... 互いの体の温かさを感じながら、また一つ、二人の絆が深まった。 The END −後書き− コメディから一時的に路線変更(!?) 秋らしく、ちょっとしっとり系のFicに挑戦してみました。 時間の経過を表すため、そして、その時その時の彼らの心情をメールに書き表すために、 ダイジェストみたいな形で、いろんなEpisodeの様々なシーンを随所に挿入してみたんですけど... どのEpiのセリフかおわかりいただけましたか?? 初期の頃の「二人の気持ち」を推し量るのって、すごく難しかった...。 S6まで進み、Shipper的なシーンが多く存在する現在の二人に馴染んでしまうと、 「恋愛感情(!?)」という面に関して、初期の頃の二人にはもっと抑制が効いていたんだ という事をつい忘れがち。 「ここまで書いてしもうたらShipperや!!」「これやったら今と変わらへんやん!!」 と、抑制を効かせるために、書いては消し〜書いては消し〜...(笑) "Summy"がメールに書いていた歌の歌詞。あれは、オーストラリア出身の男性グループ、 Human Natureの「Bring Her Back」という曲です。優しい曲調で、これまた秋にピッタリ。 こんな曲、モルはどこから仕入れてきたんでしょうね?(笑) 最後にアイーマちゃん、あなたの妄想(!?)で、このFicは生まれました。 書いていて、とても楽しかったよ。リクエストしてくれてどうもありがとう!! 感想や、ご意見等をいただければ嬉しく思います。 Amanda aiko@mti.biglobe.ne.jp