DISCLAIMER// The characters and situations of the television program "The X-Files" are the creations and property of Chris Carter, Fox Broadcasting, and Ten-Thirteen Productions. No copyright infringement is intended. ----------------------------------------------------------------------------------------------------- −前書き− なぜかお正月にこんなネタを思いつきました。 シャレです、ハッキリ言って(苦笑) しかも、シャレのくせにめちゃくちゃ長い(さらに苦笑) お読みになった後、後悔なさるかもしれません...怒らないでくださいね(^^;) ----------------------------------------------------------------------------------------------------- 中学生らしき一人の少女が、息を切らしながら走っている。 時間から推測して、どうやら学校からの帰りのようだ。 腕時計をチラチラと気にしながら、一生懸命に走る。 「もう...今日も怒られちゃう...」 ----------------------------------------------------------------------------------------------------- Title: がらすのかめん −XF Version− (1/X) Category: XF / ガラスの仮面 Crossover Spoiler: None Date: 1/23/00 By Amanda ----------------------------------------------------------------------------------------------------- 「ただいまぁっ!!」 「Dana!! 早く帰ってこいってあれだけ毎日言ってるのに、なんでわかんないんだい!?」 「ごっ、ごめんなさい!!」 「まったく、着替えて早く出前に行っとくれ。ラーメン3つ、近くのMAX劇場だよ」 「MAX劇場!?」 出前先の名前を聞いた途端、Danaは目を輝かせ、 「行ってきまぁす!!」 と、嬉々とした表情で店を出ていった。 「ダメですよ、店長。あの子に劇場の出前をさせたら帰ってこないんだから」 「しまった、そうだったな...」 Dana・マヤ・Scullyは、どこにでもいる、ごく平凡な女の子。 幼い頃に父親と死別し、母親のマーガレットがDanaを女手一つで育てている。 マーガレットは、あるチャイニーズレストランのしがない住み込み店員で、 学校が終わるとDanaも出前を手伝っている。 決して裕福とは言えない環境の中、親子二人でつつましやかに暮らしている。 しかし、Danaには一つだけ困ったクセがある。 何よりも演劇が好きで、一旦見始めると、熱中するあまりに周りが見えなくなってしまうのだ。 つい先日も、ほんの3ブロック先にあるWMM劇場へ出前に行ったっきり4時間も帰ってこず、 店長から大目玉を食らったところだった。 しかし、その演劇熱が彼女の人生を大きく揺るがす事になるとは、誰が予想したであろうか。 ----------------------------------------------------------------------------------------------------- 彼女はまた、近所の子供達相手に「演劇ごっこ」をするのも大好きだった。 出前先で見た劇や、家で見たテレビドラマを真似するという簡単なものだが、 子供達のウケは良く、いつも彼女は子供達の笑顔に囲まれていた。 その日もDanaは公園で、子供達にせがまれて「演劇ごっこ」をやっていた。 「ねえねえ、お姉ちゃん。今日はどんなお話なの?」 「今日はね、ゆうべテレビで見た日本の時代劇よ。『水戸黄門』っていうの」 「助さん格さん、もういいでしょう」 「静まれーい!!」 「この紋所が目に入らぬか!! こちらにおあすお方をどなたと心得る。  おそれ多くも先の副将軍、水戸光圀公にあらせられるぞ!!」 「いいぞー、お姉ちゃん! カッコイイ!!」 子供達の拍手を受けながら、Danaは一人芝居を続けていた。 「レナード!! あの少女は?」 「さ、さあ...奥様、どうされましたか?」 そこにたまたま通りかかった、50代ぐらいかとおぼしき一人の女性。 彼女はDanaの姿を見て、雷に打たれたような衝撃を受けた。 「見つけたわ、私の宝...」 そう言って、女性はDanaに近づいていった。 「おばさん、だあれ?」 子供達のそんな声など、全く耳に入っていない。 興奮したような表情で彼女はDanaに話しかけた。 「あなた、どこでそのセリフを?」 「え?」 「素晴らしいわ、名前を教えてちょうだい!!」 「そ、そんな...」 見知らぬ人に執拗に名前を聞かれたDanaは怖くなり、逃げるようにして公園を走って いってしまった。 あの子なら、私の夢をかなえてくれるわ きっとかなえてくれる 女性はDanaの後ろ姿をじっと見送っていた。 ----------------------------------------------------------------------------------------------------- Danaは母親にひとつだけ隠し事をしていた。 「本格的に演劇をやりたい」 しかし、苦労してDanaを育ててきたマーガレットは、娘に演劇女優という道を決して許さなかった。 「あんた、何夢みたいな事言ってんだい!? バカな事言ってる暇があったら、さっさと宿題でも  やってきな!」 しかし、母親に反対されても、Danaの演劇への情熱はますます強くなるばかり。 そんな思いが、ついにDanaを動かした。 ある日、彼女はマーガレットに内緒で、ある場所へと赴いた。 きっかけは、新聞に載っていた広告だった。 「研究生募集 見学随時 劇団ロンパールーム」 話を聞くと、どうやらすんなり入団できるという訳ではないらしい。 入団テストもあるし、何より入団金や授業料など、破格のお金が必要なのだ。 「うち、貧乏だし...やっぱりダメか...」 ガッカリして劇団の事務所を出たDana。 その時、数メートル離れた窓から、何やら声が聞こえてきた。 劇団員達が練習をしていたのである。 「ああ、あそこで練習してるんだわ。見てみたい!!」 背の低い彼女にとって、その窓は少し高すぎた。 だがそんな事は苦にもせず、彼女は半ばぶら下がるような格好で窓から中を覗いてみた。 同じ頃「劇団ロンパールーム」の正面門に、一台の高級ベンツが停まった。 後部ドアから、高価そうなダークスーツをバッチリと着こなした、 なかなかハンサムな男性が姿を現した。 「これはこれはMulder社長...ようこそいらっしゃいました」 「今日は見学に来たんだ。CC芸能グループのスターの卵達がどんなものなのかをね」 「いやはや、早くも偵察ですか? さすが抜け目がなくていらっしゃる」 Fox・真澄・Mulder 国内でも有数のエンターテイメント商社と謳われる「CC芸能」の社長である。 「CC芸能」は、演劇・映画・テレビ・その他あらゆる娯楽産業の担い手として 手広く活動を行っている。「劇団ロンパールーム」は、その活動の一環として CC芸能が出資・運営する劇団なのである。 このFoxという男、父親である前代の社長からこの会社を譲り受けたのだが、 若手と言えど、かなりやり手の人物だと評判が高い。ワンマン社長と呼ばれていた父親の、 更に上をいくのではないかと、裏では密かに噂されている。 そのやり手男、Mulderがドアをくぐってホールに向かおうとした時、 窓辺に張り付く一人の少女が、彼の視界に入った。 「あの子は?」 わずかとはいえ、普段なら何もない窓の端から頭が見えているのである。 当然、その頭に気づく団員達もいるだろう。 また「劇団ロンパールーム」には、エリート意識の強い団員が多く、名俳優を目指して 毎日しのぎを削るような熾烈な競争を強いられる毎日を送っているようだ。 そんな環境の中でなら、必死に壁に食らいついているDanaに向かって、 見るからに獰猛な番犬を放つぐらい、なんともない事のように思う人間がいても おかしくはない。 ワンワンワン!! 放たれた番犬は、容赦なくDanaの足に噛み付く。 「きゃーっ!! だ、誰か助けて!!」 その叫び声に、中にいた団員達が一斉に顔を出す。 「あっ、犬が!!」 「どうしたんだ!?」 ちょっとしたパニックに陥っている状態の中、窓から一人の団員が飛び出した。 それと当時に、この出来事にたまたま遭遇したMulderも走り込んでくる。 「こら!! あっちへ行くんだ!!」 勇敢にも番犬を追い払った団員とMulder。 団員はDanaと同じぐらいの歳だろうか。 「君、大丈夫?」 「え...は、はいっ!!」 「血が出てるじゃないか。医務室で診てもらおう」 ----------------------------------------------------------------------------------------------------- 「それで、ずっとあそこで僕達の事を見てたの!?」 「ええ、そうなの。すっかり夢中で...」 「バカだなあ、頼めば入れてくれるのに」 「私、ここに入団したかったんだけど、お金がなくて...」 「そうだったのか...」 あんなところで何時間も... ただ劇団の練習を見るためだけに... 団員の男の子と少女の会話を聞いていたMulderは、すぐさま医務室のインターコムを押した。 「ああ、受付かい? やあキム。頼みがあるんだけど...そうか...わかった、ありがとう」 インターコムでの会話を終えると、応急処置を終えた少女に顔を向けた。 「君、名前は?」 「あ、Dana....Dana Scullyです」 「Danaか...」 誠実そうなその笑顔に、Mulderはなぜか心が暖まるのを感じた。 「君の見学許可を取ったよ。あんな所で見るよりきっと勉強になる」 「え、でも...」 「遠慮するな。見たいんだろう?」 「はい、ありがとうございます」 「じゃあ、ペンドレル君、Ms. Scullyをお連れしてあげなさい」 「わかりました、社長。さあDanaちゃん、こっちだよ」 ペンドレル・優・桜小路 −Mulderと共に犬を退治した勇敢な青年− は、 Danaの背中を押して医務室を出ていった。 Dana Scully... あのキラキラと輝く瞳 何かに向かって一途に情熱を燃やす目だ Mulderは、少女のその瞳を思い出し、優しく顔をほころばせた。 ----------------------------------------------------------------------------------------------------- 「さあ、ここでゆっくり見ていきなよ」 「どうもありがとう」 団員達が練習をしていた部屋に通されたDana。 そんな彼女に、団員達の目は冷たかった。 「何、あの子?」 「平凡そうな子ねえ、劇団に入りたいんだって?」 「あんな子、ムリムリ。何ができるのよ」 「でも、Mulder社長に話しかけてもらってたわよ」 「ここの見学も、社長が直々に頼んだらしいし」 「なんか生意気よね」 そんなひそひそ話が、そこかしこから聞こえてくる。 「はいみなさん、お稽古の続きですよ」 その空気を一瞬にして変えたのは、演技指導の先生の一言だった。 「じゃあ、今度はアニーの番ね。『逃げた小鳥』をやってみて」 「はい先生」 自分の部屋で飼っている小鳥がカゴから逃げて、それをつかまえるという、 至ってシンプルではあるが、なかなか難しい課題だ。 順番に団員達が、パントマイムで『逃げた小鳥』を演じる。 そんな中、Danaの視界に、部屋の隅にじっと立っているレオタード姿の少女が入った。 そこでDanaは一瞬息をのんだ。 「もしかして...マリタ?」 マリタ・コバルービアス・姫川といえば「演劇界のサラブレッド」と言われている 少女である。映画監督の父と、有名な舞台女優である母の間に生まれたマリタ。 生まれながらの美貌とスレンダーな肢体、そして親譲りの確かな演技力は、早くも 「未来の大女優」などと囁かれ、その名を馳せていた。 へえ、マリタはここの劇団員だったんだ 私と同い年...なんてキレイなんだろ!! すっかり見とれていると、突然団員の一人が声を上げた。 「先生、その子にもやってもらいましょうよ、『逃げた小鳥』を」 「えっ!?」 「あなた、ここに入るつもりで来たんでしょう? それならできて当然じゃないの?」 「あの...私...」 パントマイムどころか、演劇経験すら皆無の彼女にとって、それは青天の霹靂だった。 団員達の執拗な攻撃は続く。彼らの言葉を真に受けた先生もが、彼女に目を向けた。 「あら、入団希望なの? それじゃ、やってもらおうかしら?」 「ほら、先生も見たがってるわよ。まさかできないなんて言わないわよね?」 どうしよう!? 見るに見かねたペンドレルが止めに入る。 「Danaちゃん、イヤならいいんだよ」 「....いいえ......私、やるわ」 「Danaちゃん!? 大丈夫なのか?」 「ええ、心配しないで」 とは言ってみたものの、パントマイムなんて言葉さえ、今日初めて知ったほどだ。 どうしていいかわからないまま、部屋の中央にフラフラと歩いて行くDana。 隅では、さっきの姿勢のままのマリタがじっとDanaに視線を向けている。 やるしかない えい、もうどうにでもなれ!! なかばヤケになったDanaは、大きく深呼吸をして神経を集中させた。 ここは、私の部屋 テーブルがあって、勉強机があって、食器棚があって、そして...鳥カゴ。 そうよ、あそこにいる鳥が逃げちゃうんだわ Danaはゆっくりと動き出した。 鳥カゴを開けて...鳥が逃げる...鳥はテーブルに止まり、シンクへと飛び、タンスの上に... タンスの上に... Danaは動きを止めた。 「何やってるの、あの子?」 「鳥を追いかけなきゃいけないのに、あそこに突っ立ったまんまよ」 「緊張で頭の中が真っ白なんじゃない?」 「そうかしら?」 近くでDanaの事をからかっていた団員の一人に向かって、マリタがボソリとつぶやいた。 「え? どういう意味、マリタ?」 「あの子の目を見てご覧なさい。あの子は鳥を追ってるわよ」 「!!」 「体は動いてないけど、目で鳥を追ってるの。それだけじゃない、私には、あの子の視線だけで、  鳥が今どこに止まっているのかも理解できるわ。目で演技してるのよ」 マリタの言葉を聞いて、その団員の顔は真っ青になった。 しかし、そんな事にも気付かない他の団員は、一斉にDanaをはやし立てる。 「おい、早くつかまえろよ!」 「何ボーッとしてるんだ?」 「あの...だって...鳥がタンスの上に止まったままで、私、どうしたらいいか分からなくて...」 その言葉を聞いた瞬間、部屋中が大爆笑に包まれた。 「おいおい、どうしたらいいか分からないってさ!!」 「先生」 しかし、その一言で、再び部屋の空気が静まる。 マリタだった。 「何ですか?」 「あの、私が彼女の続きを演じてもいいでしょうか?」 「え? あなたがこんな初歩の課題を...」 「いいんです。それにこの人、鳥を捕まえられないみたいだから」 「...それじゃあ、やってみて」 マリタはDanaを一瞥した後、顔をくいと上に向けた。 タンスの上の鳥に向かって人差し指を出し、口笛を吹き始めたのだ。 しばらくして、マリタの指先がわずかにピクンと揺れた。 鳥が止まったのだ。 そして彼女は口笛を吹き続けながら、鳥をカゴの中に入れる。 カシャン カゴの蓋が閉まる音が、Danaにはハッキリ聞こえた。 「マリタ、見事だわ!!」 部屋中が、今度は拍手の音に包まれる。 その中でたった一人、Danaだけがガクガクと膝を震わせていた。 演技って、ああいうものなんだ。 それに比べて、私なんて...やっぱり才能ないんだ。 恥ずかしい。消えてしまいたい!! 練習の後も、ロッカールームではDanaの事で話は持ちきりだった。 「あのDanaとかいう子、ほんっとにおかしかったわよね」 「マジでうろたえてたよ、鳥を捕まえられないってさ」 「バカみたい」 あざけるような笑い声に耐えかねて、マリタが言い放った。 「バカなのはあなた達の方だわ」 「それ、どういう意味よ、マリタ?」 「ホントにうろたえてたって事は、それだけあの子の演技が本物に近かったって事よ。  あなた達は野次を飛ばすのに熱中してて気付かなかったでしょうけど、私には見えたわ。  あの子が追ってた鳥がね」 ロッカールームは沈黙に包まれた。 「それに、パントマイムって言葉さえ知らなかった人間があそこまでできたのよ? 普通は  おろおろするのが関の山でしょ? 一体この中の誰が、あそこまで根性を持ってるって言うの?  あの子が入団しなかった事に感謝するのね。もしあの子がいたら、あなた達、一生主役は 回ってこないわよ」 マリタはそう言い残して、ロッカールームを後にした。 Dana Scully... あの子とは、またどこかで会うような気がするわ... ----------------------------------------------------------------------------------------------------- ロンパールームでの一騒ぎ以来、Danaはすっかり落ち込んでいた。 「ああ、『好き』と『できる』は違うんだ、やっぱり...」 いつもは子供達の笑顔でいっぱいの公園で、彼女は一人でブランコに腰掛けていた。 あの時の私、すっごく格好悪かったんだろうな。 Danaの事、みんな「バカみたい」って思ったはずだわ。 ペンドレル君も...。 「こんな所で何してるの?」 突然話しかけられたDanaは、ビックリしてその声の方に顔を向けた。 「元気ないわね、どうしたの?」 いつぞやの女性だった。 「ああ...おばさん...」 「今日は子供達との演劇ごっこはお休みかしら?」 「あのね...私、演劇をやりたいと思ったんだけど、やっぱりダメなの」 演劇をやりたい Danaのその一言を聞いて、女は体をわずかにピクリと反応させた。 「どうしてダメなの?」 「才能ないし...」 「そんなの、やってみないとわからないわよ。私はあなたが子供達に見せていた劇、  とても気に入ったけど」 「ホント?」 「ええ、できたら今ここで、私に見せてくれないかしら?」 「ここで?」 「そう、なんでもいいわ」 「じゃあ...この前、出前先で見た『椿姫』っていう劇でもいい?」 「もちろん」 最初こそ、気恥ずかしそうにセリフを喋っていたDanaだったが、 話が進むに連れていつもの調子を取り戻し、「大女優Dana」になった気分で 「椿姫」を演じていた。そんな彼女を、女は黙って見つめる。 「アルフレッド、今度はいつお会いできますか?」 「この椿が枯れた時に...」 えっ? 一瞬、女は目を疑った。 あの子が...「椿姫」に見えた... そんな二人を、遠くから見つめていた者達がいた。 車で通りかかったらしい彼らは、公園で「演劇ごっこ」をしている二人に 呆れたような視線を投げかけていた。 「まったく、ファウリーさんも懲りないお人だ、今度はあの子か。しかし、なぜあんな子に  目をかけたんでしょうな? 発声も姿勢もまったくなっとらんじゃないか。往年の大女優  『ダイアナ・月影・ファウリー』もあそこまで落ちぶれたか。Mulderさん、『つれない天女』は  もうあなたの物ですな。ハッハッハッ...!!」 CC芸能の演出家、カーシュ・小野寺が勝ち誇ったように笑っているのを後目に、 Mulderはその光景から目を離せないでいた。 おや、あの子はこの前の... もしやファウリー捜査官があの子に?    ...カットカットカットォッッッッッッ!!!!    Amandaァァッッッ!! 今はファウリー「捜査官」じゃないでしょっ!?    もっかいやり直しっ!!    すんません、ではもう一度...(汗) おや、あの子はこの前の... もしやファウリー先生があの子に? いや、まさか...。 Mulderは、自身の心が、何かしらざわめいたような気がした。 「Dana、面白かったわよ」 「ホントに? 嬉しい!!」 Danaは、興奮したようにほっぺを紅潮させて笑顔を見せた。 「ねえDana、本当に演劇を諦めちゃうの?」 「え?」 「あなた、とっても輝いてたわよ」 すごく楽しかった 何よりも今、体中を駆けめぐっているこの感覚 心が、体が熱い 他に何の取り柄もない私が、こんなに充実感を感じている!! 「...私...やるわ」 意を決したように、Danaはしっかりと言葉を選んだ。 「演劇をやりたいの」 ダイアナは、ニッコリと笑顔を浮かべて言った。 「そう...じゃあうちの劇団に来ない?」 「え? おばさん...」 「そうよ、私もかつては女優だったの。ある日、本番中に天井からライトが落ちてきてね、  右半分の顔を潰されてしまったのよ。それで私の女優生命は絶たれてしまった...」 「そうだったの...」 「もう遠い昔の事だけど。ちょうど来月から私の劇団をオープンさせる事になったの。  やる気があるなら、あなたに是非来てもらいたいわ」 「でも、うちは貧乏でそんな余裕はないし...」 「大丈夫よ、特待生制度を設けているから。もしあなたさえ良ければ、考えてみてちょうだい」 ダイアナはDanaの小さな肩に両手を置き、しっかりと目を見据えて言った。 「待ってるわ」 ----------------------------------------------------------------------------------------------------- 「何度来ていただいても同じです。答えは『ノー』ですよ」 ダイアナは、Mulderとカーシュ・小野寺に鋭い視線を浴びせた。 数日後、二人は直々にダイアナの自宅を訪問していた。 互いに張り合い始めてから、何年になるだろう? その昔、ダイアナは押しも押されぬ大女優だった。 生前にホセ・チャンが書き下ろし、ダイアナがタイトルロールを演じた名作 「つれない天女」は、何百回と上演され、各マスコミがこぞって絶賛の評論を書きたてた。 後に彼女が女優生命を絶たれた時には、国中が哀しみに包まれたほどだ。 チャンは死ぬ間際に「お前が次の『つれない天女』を育てるのだ」という言葉を残し、ダイアナに 「つれない天女」の上演権を譲った。彼女は、かつて愛したチャンの言葉を守るべく、幻の名作を 復活させるにふさわしい女優を探し求めていたのだ。 しかしながら、そんな名作の上演権が他人の手中にあるまま、というのは、 大商社CC芸能にとってはもちろん面白くない話であり、いつかそれをこの手に...と、 Mulderの父親はやっきになっていた。しかし、夢が実現しないまま父親はやむなく引退。 その意志は現在、息子のFoxが受け継いでいるという訳である。かくして、「つれない天女」 の上演権をめぐり、彼らは随分前からいわゆる「犬猿の仲」の関係にあるのだ。 「チャンは私に『つれない天女』を残したんです。それをむざむざ他人の手になど...」 「しかし、これからどうなさるおつもりですか? あれを演じられる人材など、どこを探したって  見つかるもんじゃないでしょう、ファウリーさん。幸いうちには、マリタ姫川という、  才能ある若手女優がいます。どうです、ファウリーさん? 『つれない天女』をうちに任せて  いただけませんか?」 「いいえ、人材は私が探します」 ダイアナはきっぱりと言い放ち、席を立った。 「来月、私が代表となって劇団を作ります」 「何ですって!?」 「施設も資金も、既に準備ができています。あとは来月のオープンを待つばかり...」 「い、いつの間に...!!」 「カーシュさん、私ももう決して若くはありません。時は熟したんです」 「もしや先生、あなたはあのDana Scullyをお育てになるんですか?」 カーシュとダイアナの会話にじっと耳を傾けていたMulderが、突然Danaの名を出した。 「Dana Scully? ああ、あの子...」 ダイアナは、唇の端を上げてフッと笑った。 「ファウリーさん、よりによってなぜあの子なんです? 見るからに平凡そうな子じゃないですか。  声をかけずに失礼かとは思いましたが、先日、公園であの少女が『椿姫』を演じているところに  たまたま出くわしましてね、少し拝見していたんですよ。決して舞台栄えのしない容姿、  それに、演劇経験も全くないんでしょう? マリタと比べればあんな子、かすんでしまいますよ!!」 「...カーシュさん? あなた、Dana Scullyが本当に平凡な少女だとお思いなんですか?」 そう言って、ダイアナは高らかに笑った。 「あの子はね、『椿姫』を一度見ただけなんです」 「えっ!?」 「それなのに、3時間20分ものセリフを一言一句間違えずに、しかも役者達の細かい動きまで  丸暗記してしまっているのですよ」 カーシュとMulderは青ざめた。 恐ろしい子よ、あの子は!! ----------------------------------------------------------------------------------------------------- 「ねえ、母さん」 「なんだい?」 「......」 「なんだよ、この子は? 言いたいことがあるならハッキリ言いなさい」 「母さん、私、演劇やりたいの」 「まったくこの子は、まだそんな事言ってるのかい? 美人でもないし、なんにも取り柄のない  あんたが、女優になんかなれるわけないだろう!? ほら、さっさと出前に行ってきな!!」 やはりマーガレットはとりつく島もない。 本来ならここで諦めてしまうDanaだったが、今回ばかりは違った。 ダイアナのあの一言が、まだ耳に残る。 「待ってるわ」 やっぱり私の道は演劇しかない。 Danaの人生の歯車が大きく回転を変えた一瞬だった。 その夜 マーガレットが寝静まった頃、Danaがむっくりと起きあがった。 服を着、昼の間に準備したバッグを手にして、そっと部屋を出る。 「ごめんなさい、母さん。私やっぱり演劇がしたいの」 ----------------------------------------------------------------------------------------------------- 朝日が昇る頃 ダイアナが運営する「劇団尽き果て」の正面玄関をノックする音が聞こえた。 「...Dana!? どうしたの、こんな時間に?」 「夜遅くに出てきたから電車もなくって、線路沿いに歩いてきたの。あの、特待生制度がある って聞いたから...おばさん、じゃなくってファウリー先生、私を是非劇団に入れて下さい!!」 「それで、お母様には了解を得たの?」 「....はい」 ごめんね、母さん。 「わかりました。それでは特待生として、あなたの入団を許可しましょう」 「ありがとうございます!!」 ----------------------------------------------------------------------------------------------------- Danaの本格的な練習が開始された。 演劇経験が全くない彼女にとって、何もかもが驚きの連続だった。 毎日の発声練習、バレエ、日本舞踊、立ち方から歩き方まで、徹底的に訓練を受ける。 アメンボ赤いなあいうえお あんたのお顔は赤ら顔 ナメクジのろのろなにぬねの ナメコとナマコはどうちがう そんな意味不明な発声練習の日々が続くある日、一人の女が鼻息も荒く 「劇団尽き果て」に乗り込んできた。 「ちょっと、うちの娘をどこにやったんだい!?」 「すみません、勝手に入られても困ります!!」 「娘を連れて帰るんだよ。母親なんだから、それぐらいの権利はあるはずだろう?」 聞き覚えのある声... もしかして 「Dana!! やっぱりここだったんだね、随分探したんだよ、この親不孝者!!  ほら、さっさと帰るよ」 「母さん...私、行かない。ここに残るわ」 「なんだって!?」 「どうしても演劇をやりたいの。何の取り柄もない私が、やっとやりたい事を見つけたの。  だから母さん、お願い。わかって...」 「あんたが演劇なんかできるわけないだろ!! さあ、荷物をまとめておいで!!」 バシッ!! その時、大きな音が部屋中に響きわたった。 ダイアナがマーガレットに平手打ちをくらわせたのだ。 「お言葉ですが、お母さん。この子を何の取り柄もない子にしてしまっているのは  あなたではありませんか?」 「はっ、自分の子供の事は、母親が一番よく知ってるよ」 「いいえ、この子には演技の才能があります。お母さん、なぜこの子の可能性に賭けて  やろうとしないんですか? 独断でこの子の才能の芽を摘まないでやってください」 「何を偉そうに!!」 マーガレットはカッとなり、手近にあったやかんをつかんだ(←そんな物がどこに?・笑) Danaの前に、盾のように立ちふさがっているダイアナに向けて、マーガレットはすごむ。 「いいかい、これは脅しじゃないよ。これ以上私にさからったら、このやかんの中味を  あんたにぶちまけてやる。わたしゃ本気だよ!! さあ、そこをどいとくれ!!」 「母さん!! なんて事するの!?」 「いいえ、どきません!!」 バシャッ!! ドロッ... やかんの中から、真っ黒な液体がダイアナめがけて飛び散った。 液体は、彼女の体内に容赦なく入り込んでいく。 ダイアナの皮膚の下で液体がうごめき始め、瞳の中でも黒い液体が泳ぐ。 ついにダイアナが倒れた。 きゃあぁぁぁぁぁっっっっっ!! Danaは、こん身の力を込めて叫んだ。 「先生!! しっかりしてください!! 私のために...ごめんなさい...」 「大丈夫ですよ、Dana...」(←普通なら大丈夫じゃないハズだ・笑) 真っ黒な液体をかぶったまま、ダイアナはゆらりと立ち上がった。 「...顔は....顔は女優の命です。もしここで、この子にケガをさせるような事があれば、  この子の一生はめちゃめちゃです...」 ゾッとするようなダイアナの視線。 マーガレットは怒りと同時に、ダイアナに対する敗北感さえ味わったような気がした。 「あんたなんて...あんたなんて、もううちの子じゃないよ!! 勝手におし!!」 キッときびすを返し、マーガレットは急ぐようにその場を走り去っていった。 「母さん!!」 ごめんなさい ごめんなさいごめんなさい!! 母親の後ろ姿を追おうとしたDanaを、ダイアナが止める。 「待ちなさい!!」 ビクッと体をこわばらせたDanaは、今にも泣きそうな顔をダイアナに向ける。 「先生...ごめんなさい」 そう言った瞬間、彼女の目から大粒の涙がこぼれ落ちた。 「ごめんなさい、私のためにこんな...」 「いいんですよ、Dana。あなたが無事で良かったわ」 「母さんが...私、先生に嘘ついた。母さんから許可なんてもらってなかった...  許してもらえなかったから、内緒で家を出てきたの。ホントにごめんなさい...」 いつまでも泣き止まないDanaを、ダイアナは優しく抱き抱えた。 「もう泣かなくていいのよ...」 続く...のかな?(苦笑) 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜 −おまけ・作成秘話−    あずさ監督、やっとできましたぁ...    おっそいわねぇ、待ちくたびれたわよ!!    あずさ監督とは、このFicの統括者、いわゆる「ドン」である。    フルネームを「とくながあずさ」といって、かつて「用なしOL奮闘記ドラマ」として    人気を呼んだ「ショムニ」にも出演されていた、ちゃきちゃきのお姉さんである。    今回、私はこの、女優兼声優兼歌手の戸田恵子さんに似たあずさ監督の下について 「がらすのかめん −XF Version−」の脚本を書くことになったのである。    ...それで、やかんの中をブラックオイルにした訳ね、Amanda?    はい、オリジナルでは熱湯だったんですけど...(ビクビク)    そう...まあいいわ。あなたのパロディセンスなんて、所詮こんなもんだわね。    はぁ...あの、あずさ監督?    なんなのよ?(←うざったそうに)私、今から満帆商事のネズミ駆除作業しなきゃ    いけないの。忙しいのよ!!    それで、このFicはこのまま採用でいいですか?    あぁん? いいんじゃないの? それより続き!! さっさと書いちゃいなさいよぉ。 後40巻分も残ってんだからね!!    は、はい...    こうして、なんとか「ガラスの仮面」第1巻のパロディ処理作業が終わったのだった。    あずさ監督、コワイ...私、きっとストレスで5kgは痩せられるだろう。     ----------------------------------------------------------------------------------------------------- −後書き− この続きが果たしてどうなるのか...書いてる本人にさえわからない状態です(苦笑) 続くかもしれないし、これでおしまいかもしれない...まったく、とんでもないFicを 書いたもんだ(^^;) では、もうおわかりかとは思いますが...キャスト及びその他固有名詞のご紹介(登場順)です。 ダナ・スカリー:北島マヤ マーガレット・スカリー:北島ハル レナード・ベッツ:源造 ダイアナ・ファウリー:月影千草 劇団ロンパールーム:劇団オンディーヌ フォックス・モルダー:速水真澄 CC芸能:大都芸能 ペンドレル:桜小路優 キム:劇団ロンパールーム受付(Amandaのオリジナルキャラ) マリタ・コバルービアス:姫川亜弓 カーシュ副長官:小野寺一 「つれない天女」:「紅天女」 ホセ・チャン:尾崎一連(「紅天女」作者) 劇団尽き果て:劇団つきかげ Special Appearance 徳永あずさ:本人(「ショムニ」で戸田さんが演じているキャラ) −補足− なぜダイアナ=月影千草なのか、と思われるかもしれませんね。 当初は彼女を高宮紫織(真澄の婚約者)にキャスティングしていたのですが、 以下の理由から急きょ変更しました。 ・意外性が欲しかった ・Danaにダイアナの事を「おばさん」と呼ばせてみたかった ・「中年女性(!?)の執念」という点で、千草とダイアナに共通項を見つけた というわけで、じゃあ紫織さんは誰が...? いやいや、一応決まっているんです。 でも、登場は随分先の話なので、ホントに日の目を見るかどうかは不明なんですけど(^^;) こんな所までおつき合いいただき、本当にありがとうございました。 Amanda aiko@mti.biglobe.ne.jp