Xファイルの著作権は全てクリスカーター、20世紀FOXに帰属します。 本作は作者の想像、楽しみのみに書かれたもので、営利目的、著作権侵害を目的としていません。 *************************** 「SECRET」 携帯の着信が鳴る・・・ 「スカリー」 「僕だよスカリー」 「モルダー、今どこにいるの?朝一で会議があるのは知っているでしょう?」 「ごめんよ、実は出られそうにないんだ、悪いけどスカリー、スキナーには上手く  ごまかしておいてくれないか?」 「モルダー、又そんなこと言って・・一体どこにいるの?それだけでも教えてくれな  くちゃ困るわ」 「あっ!ごめん、急いでいるから」 「待って!モルダー、モルっ・・・うぅんもう・・・」 又モルダーの悪い病気が始まった、とスカリーは溜息をついた。 今まで数え切れないくらいモルダーの単独行動には、頭を悩ましてきた。 今朝の会議だって、一週間も前から連絡済なのにモルダーは、まるでさっき聞いたかの ように、平気でドタキャンしてしまう。 スキナーに言い訳を言う言葉も出尽くしてしまった。 さあ、今回の欠勤の理由は何にしようか? 病欠?いやモルダーは毎日のようにスキナーと顔を合わしているから、突然病気になるのも変だ。 自宅のアクシデント?う〜んこれも以前、ウォーターベッドが破れて水浸しになった時 理由に使ったばかりだ。 どうしよう・・・・ スカリーは考え込んだ。が、ふと疑問にかられた。 (どうしていつもモルダーの欠勤理由を考えなくちゃならないの?モルダーが悪いんじゃない、 私はいつもモルダーの尻拭いをしているわね) スカリーは机の上の【FOX MULDER】と書かれたネームプレートを、指でパチン とはじいて倒し「ウフフッ」と微笑んだ。 スキナー副長官室 スカリーはいつものように、いつものイスに座る。 しかし、いつも横にいるモルダーは今日はいない。 スキナーは時計をチラッと見て、その視線をスカリーに移した。 「スカリー捜査官、モルダー捜査官はどうしたのかね?」 「は、はい、あの実はモルダーの自宅のお隣が、大変な事になって・・」 「大変な事?」 「夫婦喧嘩が昨晩からひどくて、『殺してやる』なんてセリフも出て来たものですから  モルダーが仲裁に入っています。ええ、今もで、す・・」 「それなら、地元の警察に任しておけばいいじゃないか、どうして、モルダーが仲裁に 入らなくちゃならないんだ?大体、彼に夫婦の微妙な感情がわかるのか?」 「私もそう言ったのですが、お隣のご夫婦にはお世話になっているらしいからと・・・」 「夫婦には夫婦にしかわからないものなんだ。  スカリー捜査官、会議は午後からにしよう、だからモルダー捜査官に余計な事に頭を 突っ込まないで、早く出てくるように言いたまえ」 「わかりました、失礼します」 スカリーは廊下を歩きながら自分に腹立たしかった。 今日と言う今日は、モルダーの勝手な行動をスキナーにぶちまけてやろう、と思ったのに いつのまにか、彼をかばってしまっていたからだ。 (結局は彼のあの上目使いに、私は弱いのだわ・・) 先程のモルダーとの会話で、『ごめんよスカリー』と言われた時、いつものSWEETな モルダーの表情を想像したのが、間違いだった。 「うーん!スカリーのバカッ!」 思わず声に出してしまい、通りがかった局員が驚いてスカリーのそばを飛び退いた。 スカリーは、『何かあったの?』と、すました表情で地下のオフィスに急いだ。 携帯の呼び出し音が鳴る・・・ 「モルダー」 「モルダー、私よ。スキナーには貴方がお隣の夫婦喧嘩の仲裁に入っているから、遅刻  するって言っておいたわ。会議は午後に延びたの、その時間だったら来れるでしょう?」 「な、なんだって?僕が夫婦喧嘩の仲裁?スカリー、もう少し上手い理由はなかったのか  い?第一、僕の隣は中年親父の一人暮らしだ」 (貴方に人の事が言えて?) 「とにかくモルダー、必ず会議までには来て貰わなくちゃ私が困るわ」 「わからないけど、努力はしてみるよ」 「でも、一体今どこにいるの?」 「・・・あれっ?聞こえないよ、スカ・・リー、おかしい・・な・・っ・・・」 プチッ! 「モルダー!モッ!ん〜もうばかっ!」 電話は突然切れてしまった。 スカリーは、何かモルダーの様子が変だと、感じ始めていた。 いくら彼でも、居場所ぐらいは明らかにしていてくれるし、携帯の電波が届かない所に いるのなら尚更、自分だけには教えてくれる。 何かの事件に巻き込まれているのではないか? それとも、情報を入手して一人で調べようとしているのではないか? スカリーは再び携帯を取り出した。 Tru ru・・・・・ 3回、5回、10回・・・呼び出し音だけが鳴るだけで、いつものくぐもった声は 聞く事は出来なかった。 スカリーは、慌ててコートを手にし、部屋を出て行った。 暗闇の廊下にスカリーのヒールの音が高く響く・・・ ドアの前で立ち止まり、ブザーを押すと監視カメラが自分を写しているのを感じる。 ガチャ!ガチャ!ガチャ、ガチャ・・・ 一体鍵をいくつ付けているのだろう、鍵をはずす数分ももどかしくて、ドアの向こうに いる者に「早くして!」と、怒鳴りつけたのも、いつものスカリーらしくない 「お待たせ、スカリー」 「フロヒキー、メカやコンピューターならお得意のあなた達の鍵は、いつまで経っても  原始的なのね」 「おやスカリー、今日はご機嫌斜めかな?」 スカリーはTLG達を見つめた、いや睨み付けたと言ってもいいだろう。 フロヒキー、バイヤーズ、ラングリーの3人は、スカリーの一睨みに緊張が走った。 こんな時のスカリーがやばいのは、モルダー以上に知っている。 以前、スカリーの腕組みと仁王立ち、片眉上げには気をつけろと、モルダーに忠告 したのは、TLG達なのだから・・・ でもモルダーは、「へっ?そうなの?」と言って、笑っていた。 スカリー分析結果が正しかったのを、たった今認識した。 「貴方達なら知っているわね、モルダーが何処に行ったのか」 3人は顔を見合わせた。 「モルダーがどうしたんだい?」 「又、失踪したのか?」 「単独行動か?」 「モルダーがXファイルじゃなく、私にも黙って行動を起こす時は、いつもあなた達の  情報を元に動いているから聞いているのよ。教えて、モルダーは今何処にいるの?」 「スカリー、それじゃ僕達がモルダーの単独行動をフォローしているみたいじゃないか」 「違うとは言わせないわよ」 今日のスカリーには、一段の迫力がある。 バイヤーズとラングリーは、一抹の不安を覚えた。 こんなスカリー、アイスクィーン&クールビューティーに弱いフロヒキーの存在だ。 「ある情報をモルダーに知らせたら、あいつ夜中から車を飛ばして行ったんだよ」 バイヤーズとラングリーは、やれやれと、うなだれた。 「どんな情報なの?」 「それはいくら君の頼みでも言えないんだよ、スカリー」 「でも、何処に居るのかぐらいいいでしょう」 「悪いね」 「モルダーから口止めされている?」 「心配ないよ、あいつの事だ、夜には戻ってくるさ」 「夜!?それじゃ困るのよ、大事な会議があって、スキナーに待って貰っているのに」 スカリーの表情が又、激しくなっていく。 「まったくっ!モルダーったら!」 そんな捨て台詞をはいて、スカリーはTLG達の顔も見ず、部屋から出て行った。 TLG達は、ハア〜っと溜息をついた。 「モルダーの奴、本当に大丈夫なんだろうな」 「たぶんな、何かあっても仕方ないよ、あいつが自分から行きたいって、言ったのだから」 「それプラス、スカリーのおかんむりだ、モルダーもつくづく大変だな」 TLG達は、モルダーのこれからの安否を気遣っていた。 TLG達に逢った後、スカリーはある公園前に車を止めた。 自分を見つめ直す時にいつも来る公園だった。 そして、モルダーから初めて告白されたのもこの公園だった。 運転席から小さな池に沿って、ベンチが並んでいるのが見える。 たくさんあるベンチの中からでも、スカリーはどのベンチで、モルダーと 情熱的なくちづけを、幾度となく繰り返したか、今でも言い当てる事が出来る。 「スカリー、僕達には時間が必要だったんだ」 彼の腕の中で、私は小さく頷いたわ。 仕事のパートナーとして、信頼関係を結ぶのにも時間がかかった。 彼を男性と見るようになって、気持ちが通じ合うのにさえ時間が必要だった。 そして、恋人と呼べるようになった今でも、照れくさくなって彼の顔を まともに見る事が出来なくなる位、胸が苦しくなる時がある。 彼だって、捜査中に私の事を、『ダナ、どう思う?』なんて呼びかけるし・・・ FBIとしての私達と、いつも私の家で週末を過ごす私達・・・ けじめをつけられる時が来るのは、いつかしら?・・・ そして今、彼を心配するこの気持ちは・・・ 『スカリー』?それとも『ダナ』? 携帯の向こうから聞こえる彼の声は、いつも私の耳元で優しく囁く声と同じなのに 彼の体温が感じられない、というだけでこんなにも私を不安にさせる。 どちらでもいい・・・今すぐここに彼を連れて来て・・神様・・ そして、私を強く抱きしめて欲しい・・・ 気が付けば、スカリーの頬に暖かいものが流れていた。 自分でも吃驚してしまい、慌てて手の甲でそれを拭う。 (私は、こんなにも彼の事を愛していたんだわ) その時、携帯の着信音が鳴った。 「スカリー」 「僕だよ」 「モッ、モルダー!」 「ん?スカリーどうしたんだい?風邪でも引いた?」 スカリーの微妙な声の変化を、モルダーは聞き逃さない。 「ち、ちがうわ、そんな事よりモルダー!本当に午後には帰って  来るんでしょうね?」 「それがもしかして、夕方頃になるかも知れないんだ。だからスカリー  会議には出られそうにない、もうこうなったら、謹慎処分を覚悟だよ」 「冗談言っている場合じゃないでしょう、フロヒキーから聞いたわ  何かの情報を調査しているんですってね!」 「情報?あっ・・・そうか、そう情報が入ってね、今その事で大変なんだ」 「どうして私にも言ってくれなかったの?」 「君にはとても耐えられないと思ったからさ、それにこの調査は僕一人で十分  いや、僕にしか出来ない事なんだよ」 「・・・・モルダー・・」 「何?スカリー」 (早く帰ってきて・・・逢いたいの・・) 「スキナーには、もう言い訳は通用しないわよ」 気持ちとは裏腹に出た言葉だった。 「分かっているよ、あっ、じゃあスカリー、又かけるから・・・」 プチッという音が聞こえてから、スカリーは携帯を切った。 何とも言えない気持ちにふるいを起こさせ、FBI本部に車を走らせた。 午後の会議は、もうすぐ始まる・・・ PM1:00  スカリー一人でスキナーの部屋に入る。 スキナーは、スカリー一人なのを認めると、怪訝な顔をした。 「モルダー捜査官は?」 「申し訳ありません。モルダーは今日、来られないそうです」 「何?まだ夫婦喧嘩の仲裁に入っているのか?いい加減にしたまえ」 「どうやら、離婚するような話になって、今度は慰謝料の計算を任されたとか・・」 スカリーの言葉に、部下思いのスキナーは、流石に声を荒げた。 「スカリー捜査官!!君が付いていながらなんと言う事だ!モルダーには  捜査官としての自覚があるのかね!  もう今日は中止にする、気分が悪い」 「すみません、Sir」 「明日モルダーが出てきたら、すぐに私の所に来るように言いたまえ」 スキナーが怒るのも無理はない。 捜査官としての自覚が空っぽだ。それはスカリーも認めるしかない。 この調子では、モルダーの謹慎処分は免れないだろう。 もっとも、モルダー自身は、そんな処分など何とも思っていないのかもしれない。 スカリーは、重く沈んだ気持ちで地下室に向かった。 それから何時間経ったのだろう。 モルダーの机に向かい、引き出しの中を見たり、乱雑に置いてある書類を 流し読んだりしていた。 不思議に思ったのが、いやに綺麗に削られた鉛筆の数の多さだった。 (モルダーって、几帳面だったかしら?) 週末を過ごすようになって、彼が脱ぎ散らかす洋服を集めに回るのには苦労した。 洗面所を使えば、水浸しにするし、トイレの便座はいつも上げたまま・・ 歯磨きでゆすいだ水を飲み込んだ時は、『キャー!』と、叫び声を上げてしまった。 それからは、洗面所はいつも一緒に使うようにして、見張るようにしていた。 そんなスカリーの気持ちを知っているのか、知らないのか、モルダーは後ろから スカリーを抱き寄せ、キスをせがんでくる。 「モルダーやめて、今は歯を磨く時間よ」 「ダナとキスした方が、ずっと綺麗になる」 「だめよ、『親しき仲にも礼儀あり』って言葉があるでしょう?キスはあとで・・」 「そんな言葉知らないなあ〜『ダナのなかにはモルダーあり』って言うのは  さっき経験したけどね」 スカリーは言葉の意味を理解するのに、数秒かかったが次の瞬間、顔を真っ赤にして モルダーに振り返った。 「モルダー!なんて事いう・・・んん・・」 最後まで言い終わらないうちに、モルダーの唇で言葉はふさがれて・・・・ いつもモルダーは、私をからかって面白がっているのよね。 そして私も、彼の巧みな作戦に引っ掛ってしまう・・・ モルダー、あなたは寂しくないの? たとえ1日でも、あなたがいないだけで、私はこんなにもせつないのに・・・ 頬杖をつき、モルダーのネームプレートを指で弾いていると、 着信音が鳴った・・・ 「スカリー」 「スカリー、僕だよ。やっと帰れそうなんだ」 「本当!?調査の方はうまくいったの?」 「ああ、完璧さ、途中で少しだけアクシデントが起きたけどね」 「どうしたの?」 「それは君の顔を見て報告するよ、それより・・・ダナ」 突然の言葉にスカリーは、鼓動が早くなったのを感じた。 「寂しくなかったかい?」 「と、とんでもない!お陰でこの部屋を片付けられてすっきりよ  寂しいどころか、モルダー、あなたのせいでスキナーから大目玉よ  久しぶりにスキナーの怒鳴り声を聞いたわ、あの調子じゃ謹慎処分  じゃなくて、休職処分になってもおかしくないわ」 「そうか〜それは大変だな〜」 「モルダー、分かってるの!?休職処分になるのよ!」 モルダーの事の重大さを把握していない台詞に、スカリーはだんだんイライラしてきた。 まったく、彼の脳細胞の中はどうなっているのか、一度覗いてみたくなる。 「休職処分になったら、ダナの家で主夫でもしながら君の帰りを待つ事にするよ」 「モルダー!ふざけないで!私はあなたの事を心配して言っているのに!!」 突然、部屋のドアが開いた。 そこに立っていたのは、少し顔を傾けて微笑んでいるモルダーだった。 「心配してくれるのは、仕事の事だけかい?」 「モルダー・・・」 モルダーは携帯電話をポケットにしまいながら、片手でスカリーを抱き寄せた。 「僕自身のことは心配じゃない?」 急な展開にスカリーの思考回路は、ヒート寸前だ。 突然現れた彼は、本当にモルダーなの? 今自分の腰に手を回し、強く抱きしめてくれているのは? でも、やわらかな髪、吸い込まれそうな瞳、薄いくちびる、優しく囁く声 そして、美しく長い指・・・ みんな、私が知っているモルダーだわ。 モルダーは、スカリーの顎を人差し指で、クイッと上げ、ただいまのキスをする。 「ただいま、ダナ」 「おかえりなさい、モルダー」 彼に抱きしめられ、彼の体温、においを感じた時、初めて安堵感が スカリーの気持ちに蘇って来た。 「ダナ、これを君に・・・」 モルダーは、コートのポケットから、小さな箱を取り出しスカリーに差し出す。 「???」 「開けてみてくれないか?」 言われたとおり、包装紙をはがしてみるとそこには・・・・ 「モ、モルダー・・・これは・・」 箱からは、とても素晴らしいグリーン色したエメラルドのネックレスが出てきた。 スカリーが驚いてモルダーを見つめると、彼は少し悪戯っぽい少年のような 表情で微笑んだ。 「これがフロヒキーから貰った情報さ」 スカリーはネックレスを顔の前にかざしてみた。 そのエメラルドは、殺風景な部屋には不釣合いだが、逆に一段と輝きを増している。 「モルダーすごく綺麗だわ」 「だろ?苦労したんだから」 「あなた、これを手に入れるために夜中から車を飛ばして?」 「実を言うと本当はフロヒキーが君にプレゼントしようと考えていたらしいんだ  でも、そんな事僕が許すと思うかい?  だから、無理やり彼から聞き出した『何処に行けばいいんだ!』ってね」 「まさか彼を・・・」 「そりゃ少しは脅かしておかなきゃ、これからもこの僕がいるのに、あいつ  抜け駆けするかも知れないだろ?」 スカリーは、モルダーがフロヒキーを攻めているところを想像して、クスッと 笑ってしまった。 「でもさ、聞けばニューヨークで有名なジュエリー店で、限定品だったんだよ  だから、この寒空の下、夜中から並んで11時のオープンと同時にやっと  買えたのさ」 「じゃあ、アクシデントって?」 「いくら僕でも人間の生理現象には、かなわなかった」 スカリーはクスッと笑う。 「笑い事じゃないよ、本当に焦ったよ」 「それでどうしたの?」 「ごめん、それだけは言いたくない・・」 モルダーが珍しく恥じらいを見せたから、スカリーはそれ以上聞くのをやめた。 「でも、ニューヨークって電波は大丈夫なのに、あの時何故、電話が切れたのかしら」 「実は、あの時わざと電話を切った」 「なっ!何故?」 「あのまま話していたら、君に逢いたくて飛んで帰りたくなるし、ダナの質問攻めに  負けそうな気がしたのさ」 スカリーはモルダーの話を聞いているうちに、彼の不可解な言動が理解できた。 いくら聞いても居場所を教えてくれなかった。 フロヒキーの意味ありげな言葉。 『これは、僕にしかできない事なんだ』と、モルダーは言っていた。 全て、私の為に普段アクセサリーなんて見向きもしない彼が、わざわざニューヨークまで 行って、徹夜してまでプレゼントしてくれた。 一体、どんな顔でこのネックレスを買ったのだろう。 モルダーの優しい気持ちが嬉しくて、スカリーは胸の奥から、熱いものがこみ上げてきた。 「モルダー・・・ありがとう・・私何て言ったらいいか・・」 モルダーは、ネックレスを取り、スカリーの後ろに回ってそっと付けてあげる。 「ダナの瞳の色と同じこれをどうしてもプレゼントしたかった」 「モルダー・・・あ・わ、わたし・・」 スカリーは、こぼれそうになる涙を必死で止めようとしていた。 後ろからギュッと抱きしめ、首筋にキスをしながらモルダーは、ささやいた。 「ダナ・・僕の前では我慢なんてしなくていいんだよ」 モルダーは、スカリーを自分の方に向かせ、俯いている彼女の顔を覗き込んだ。 彼女の濡れた瞳は、クロスのネックレスの横で輝いているエメラルドのそれより 数十倍、数百倍以上に美しく、モルダーの顔を映し出している。 モルダーは、指でスカリーの涙を拭ってあげた。 「ダナ・・・愛しているよ」 「私もよ、モルダー」 二人は、熱い口づけを交わした。 スカリーの脳裏に突然ある人物が浮かび上がった。 パッとモルダーから身体を離し、慌てだした。 「モルダー!スキナーの所に行ったほうがいいわ」 「え?今から?どうせ、休職処分だろ?」 「でも今から行って、謝れば謹慎処分で済むかも知れない」 「いいよ・・・明日行く事にする、それよりダナ、今の続きを・・」 モルダーが再びスカリーを抱きしめ様と、自分に引き寄せようとしたが、スカリーは スルッと、逃げてしまう。 「ダナ、君も意地悪だなあ〜やっと君を抱きしめる事が出来るのに・・」 「いいから!早く!!」 「寂しかったんだよ、ダナは?」 「はいはい、私も寂しかったわ」 スカリーは、学校に行くのを嫌がる子供をなだめる様にして、モルダーを部屋から 連れ出した。 モルダーも小学生みたいにふてくされた表情で、スキナーのオフィスに向かった。 スキナーの部屋の前で、自分より30cmも高いモルダーの髪の乱れを直し 徹夜の疲れが見え隠れするネクタイや、服装を正した。 (もうダナからスカリーになっている、ほんとに真面目なんだから) モルダーの心の呟きなど聞こえるはずもなく、スカリーはドアをノックした。 スキナーを前に、モルダーはバツの悪そうな顔をして、大人しく座っている。 スキナーは、しばらく無言で読みかけの書類から目を外さなかった。 その沈黙が、スカリーは恐かった。 眼鏡の奥から、スキナーの目がモルダーを捕らえる。 「モルダー捜査官、今日の事はどう弁明するつもりかね?」 「はい、申し訳なく思っています、Sir」 「覚悟は出来ているのか?」 「もちろんです」 「ふむ・・・で、隣夫婦の慰謝料の計算は出来上がったのか?」 スキナーの言葉にモルダーは、少し首を傾げ、隣のスカリーを見る。 「あっ、あの当然です」これはスカリーの声・・・ 「じゃあ、それも付けて、反省文を提出したまえ  それと、モルダー捜査官は、2週間の謹慎処分だ。以上!」 「慰謝料の計算書も付けてって・・・何故ですか?」 「スカリー、会議をサボるという大変な事をしでかす位だから、さぞや  立派な計算書が出来たかと思ってね、是非見せてもらいたい」 スキナーの目線がスカリーの首の辺りを捉えていた。 それに気が付いてスカリーは慌てて、モルダーに付けて貰ったネックレスを 隠すようにした。 少しだけ、スキナーが笑ったような気がした。 「スカリー、慰謝料の計算ってどういう事だい!?」 廊下を歩きながらモルダーは、スカリーを問い詰める。 「あなたが午後も遅れるって言うから、隣夫婦の慰謝料の計算を  任されている、って言ってしまったのよ!」 「冗談だろ?計算書なんて書ける訳ないだろ、そんな夫婦なんて  実在しないんだから・・・」 「じゃあどうするの!?提出しなくちゃスキナーは、納得しないわよ」 「まったくぅ・・・」 モルダーは、おでこに手をやり考え込んだ。 「手伝うわ」 スカリーの言葉を聞いて、パッと顔を輝かせ、彼女の背中に手を回した。 「今晩さっそく家に行くよ、いいだろ?」 「いいけど・・・」 「でも、たちまち計算書どころじゃなくなるだろうな、そうだろう、ダナ?」 モルダーの上目遣いの表情を見てスカリーは、ふぅーっと溜息をついた。 (やっぱり弱いわ・・・・やれやれ・・・)                                             THE END ************************************    ひぇ〜モルダーって、本当にこんな事が出来るのでしょうか?    そして、キザな事も言ってくれるのでしょうか?    書きながら「ないない!」と、自分にツッコミ入れていました。    スカリーの家で、居る筈のない夫婦の慰謝料計算を、必死でしている    モルスカを想像して、一人ニヤニヤしています。    スキナーも果たしてどれだけ分かっていたのでしょうね(^^;       読んで頂いてありがとうございました。       掲示板に良ければ、感想など頂きたいです。                             BY Melody