THE Xファイルの著作権は、全てクリスカーター       20世紀FOXに帰属します。       本作は、著者の想像、楽しみ、自己満足のみに書かれたもので       営利目的、著作権侵害を目的にはしておりません。 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 【僕を呼ぶ声・前編】        「ダナ、前から言おうと思っていたんだけど・・・」        「なあに?」        「うん・・・それはね・・・」 いつもの土曜日、いつもの場所でモルダーとスカリーは同じ時間をすごしている。 今日は、スカリーが借りてきたビデオを見る約束だった。 先週はモルダーが、借りたビデオを見たが、案の定スカリーからクレームが来た。 「モルダー、お願いだからこんなビデオはやめてって、いつも言っているでしょう?」 「君にはこの良さが分からないだけだよ」 「分かっているわ、この監督が偉大な監督だってこともね。  でも人には、好き嫌いがあるの、私は苦手な方なのよ」 「よく言うよ、いつもこれより酷い物を見ているくせにさ」 モルダーはウインクしながら、ビデオをデッキに入れる。 嫌がるスカリーを無理やり横に座らせ、彼女の肩を抱きながら 期待と興奮で顔は、輝いている。 テレビの画面に大きく題が映し出された。 「DAWN OF THE DEAD ZOMBI」 30分もしないうちに、スカリーはモルダーの手を解き寝室に行こうとする。 慌ててスカリーを止めようと立ち上がるが、テレビの画面も気になって、 右往左往してしまう。 『来週は、私が借りてくるわ、いい!?』 と、スカリーの言葉を聞き、愛想笑いをするしかなかった。 そして・・・一週間後の土曜日・・ リビングでは、スカリーが楽しそうにビデオ鑑賞会(?)の準備をしている。 ワインとチーズ、アイスクリーム、そしてモルダーの為に、ひまわりの種・・ スカリーはキッチンで、それらをトレーの上に用意していたが、ふと 視線が気になった。 モルダーのへーゼルの瞳が、例の上目遣いでソファー越しに、自分を 見つめていた。 「どうしたの?モルダー」 「ダナ、今日のビデオは又今度にしようよ」 「何故?」 「だって、先週君は、先に寝室に入っていったんだよ。  ビデオが終わってベッドに行くと、もう君は寝ていた・・・」 「だから、なんなのよ」 スカリーには、彼が何を言いたいのか分かっていたが、苦手だと言っている ビデオを無理に見せようとしたのだから、少しはモルダーに意地悪したくなる。 「今晩は、ずっとダナを抱きしめていたいんだ」 敵もスカリーの弱点をすかさず突いてくる。 彼の甘い言葉に、一瞬クラッとなったが、ここで負けていたら、来週又 苦手なビデオを見せられてしまう。 「駄目よモルダー、約束でしょう?」 スカリーは、ニコっと微笑みビデオデッキの電源を入れた。 モルダーは仕方なく、スカリーの肩を抱きもう一方の手で、彼女と手をつないだ。 (まあいいか・・・今はこれで我慢しよう) 画面にタイトルが映った。 「カリフォルニア」 「何?こんな映画知らないけど」 「そう?じゃあちょうどいいじゃない、面白いわよ」 「う〜〜ん」 モルダーは退屈そうにソファーに座りなおし、スカリーの横顔を見た。 (こんな映画を見ているより、早くセクシーな瞳で、僕を下から見上げて欲しいな) モルダーは、左斜め下に目を落とすと、スカリーの白い胸元がチラッと見えた。 (こんな胸が大きく開いたセーターをわざと着て、僕を誘惑しているのか?) (仕事中の服だって、たまに吃驚するくらい見えそうな時がある) (僕は嬉しいけど、他の奴が見たらどうするつもりなんだい、ダナ) 気が付くと、スカリーがジロッとモルダーを横目で睨んでいた。 「どこ見てるのよ、ちゃんと前を見なさい!」 スカリーに言われて、モルダーは慌ててビデオに集中する。 始めは何の話しかわからなかったが、見ていくうちにだんだん引き込まれていった。 どうやら、カップルが旅行の費用を安く上げる為に、同乗者を探していたが、都合よく 同じカップルで見つかり、4人一緒に車で移動するロードムービーらしい。 しかし、同乗したカップルにはある秘密があった・・・ 秘密にようやく気づいた主人公達は、彼らから逃げようとするが、タイミングよく いつも見つかり「俺達から逃げるんじゃねえ」とか言われて、オロオロする始末・・・ モルダーは、だんだん苛ついていくのが分かった。 「こんな奴らから逃げられないなんて、おかしいじゃないか」 「でも、すんなり逃げられたら、話が続かないわ」 「それはそうだけど・・・第一この主人公の男の方、情けないと思わないかい?  少しは反撃も必要だよ、それに、ベッドテクは僕のほうが断然上手い!  顔だけだな、コイツは・・」 自信満々のモルダーの言葉に何も言えず、スカリーはワインを口にした。 その時、スカリーはある事を思い出した。 「モルダー、ごめんなさい、言うのを忘れていたわ」 「何?」 目はテレビに釘付けのまま、スカリーの次の台詞を待った。 「私が卒業したメリーランド大学で、同窓会があるの、だから来週の土・日は  一緒にいられないわ」 その言葉に、モルダーの視線は初めてスカリーに向けられた 「えっ!?聞いてなかったよ、そんな事」 「だって、言ってなかったもの」 「ダナ、それってもしかしていい大人が『やあ、どうしてた?』なんて  自分の近況を話し合って、その場限りの友情を確かめ合う集まり?」 モルダー独特の言い方に、スカリーはちょっと眉をしかめた。 「それに君は、行くつもり?」 「当然行くわよ、昔のお友達に会って、たのしくおしゃべり  したいわ」 「週末僕に一人で過ごせって言うのかい?」 珍しくモルダーは、しつこくこの事に突っかかってくる。 いつもなら、束縛を嫌う彼ゆえ、スカリーにも寛大な気持ちを持っている筈だった。 スカリーの眉が段々上がっていく・・・ 「だからごめんなさいって、言っているでしょう?」 「僕を一人にしてまで行きたいんだ。  そうか!昔付き合っていた男に会うのが楽しみなんだろう」 とうとう、スカリーの忍耐も最高レベルまで達してしまった。 「モルダー!あなたがなんと言おうと、私は行きますからね!」 スカリーの爆発で、さすがのモルダーも黙りこくってしまった。 しばらく、お互いの顔を見つめ合い、そして二人の言い争いなど 関係なく進んでいくビデオに視線を戻す。 モルダーは、ひまわりの種を、スカリーは、チーズを黙々と食べている。 「ねえ、ダナ」 モルダーの声は今の今まで喧嘩していた事など嘘のように、こだわりなく スカリーを呼びかける。 それがモルダーの不思議な所だと、スカリーは思っていた。 もしかして、この人って空気が読めない人? マイペースだといったら、それまでだけど、さっきまで私達は口喧嘩していたのよ それなのに、私を呼ぶ彼のSWEETな声・・・ まるで、私だけが悪いみたいだ。 何事もなかったようにモルダーは続ける。 「ダナは、この男デビッド・ドゥカブニーが好きなんだね  だから、これが見たかったんだ?」 「ちがうわ、私はもう一人のブラッド・ピットが好きなの!  デビッド・ドゥカブニーなんて好みじゃないわ!」 これじゃあ、私一人ヒステリー起こしているみたいじゃない・・・ スカリーが出発する土曜の午後。 小型のバッグに、着替えや服等を詰めて、家の前に止めている車に それを乗せていると、背後からクラクションが聞こえた。 振り返ると、運転席で『ニッ!』と唇を横に広げただけで、笑顔に なっていないモルダーの姿があった。 スカリーは、怪訝な顔でモルダーに近づき、腕組みをしてみせた。 「モルダー、どうしたの?」 モルダーは、運転席の窓を下げながら又『ニッ!』と笑った。 「やあダナ、今から出るのかい?」 「見れば分かるでしょう?モルダーこそ何しているの?」 「ん・・・散歩だよ」 「散歩?車で?」 スカリーの問いに曖昧に頷き、話題を変えようとわざと大きな声を出した。 「ダナ!良かったら僕が送っていくよ!」 「いいわよ、近くだし一人で行けるわ」 「まあそう言わずに、運転に疲れたら君の美貌が衰えるよ」 そう言い終らないうちにモルダーは、スカリーの車からさっさと荷物を 取り出し、自分の車のトランクに入れてしまった。 そして、満面の笑みを浮かべ、助手席のドアをスカリーに開けてあげる。 スカリーもそこまでされたら無下にはできない。 素直にモルダーの車に乗り込む事にした。 「散歩なんて嘘でしょう?」 10分ほど走った頃、沈黙を破ったのは、スカリーからだった。 「嘘じゃないよ、車で散歩さ」 「そういうのは、散歩とは言わないのよ、ドライブでしょう?」 「そうとも言うね」 スカリーは内心ホッとしていた。 あの些細な事で口喧嘩をした夜、少しの苛付きを抱えながら、モルダーの愛を 受け止めた。 モルダーは、いつもの様に抱き締めてくれて、囁き、愛を一杯くれたけど スカリー自身は何か消化不良気味で、燃え尽きる事は出来なかったのだ。 今日までの仕事でも、モルダーはいつもと変わらず、突拍子のない事を言ったり スカリーをからかう事を楽しんでいたかと思うと、「I WANT TO BELIEVE」 のポスターをじっと見つめている。 スカリーの方がぎこちなく彼に接してしまっていた。 そんなスカリーも今日の自分は、自然にモルダーと会話できる。 彼のとぼけた答えに、突っ込んでいる自分がいる事にスッとこだわりが 無くなった様な気がした。 ふと、後ろの座席を見ると、モルダーの物と思われる、ボストンバッグが置いてある。 スカリーは一瞬『まさかね・・・?』と思ったが、念の為、運転席にいる素敵な横顔を 覗き込んだ。 「モルダー、あのバッグは?」 「あ?あれは僕のだよ」 「何が入っているの?」 モルダーは、スカリーをチラッとみてから、悪戯っぽく微笑んだ。 スカリーの不安は的中しそうだ。 彼がこんな仕草を見せるときは、何か良からぬ事を考えている証拠なのだ。 「ダナのパートナーとボディガードも兼ねて、一緒に行ってもいいだろう?」 「モッ!モルダー!急に何を言い出すの?」 「駄目かい?ダナ・・・」 ここで又、モルダーお得意の子犬顔が出た。 スカリーは、その顔を見ただけで胸がキュンと、まるでティーンネイジャーの様に 苦しくなる。これで、ギュッと手でも握られたら、スカリーの身体の力は 抜けてしまうだろう・・・ 今回も、スカリーの惨敗だった。 「いいけど、マナーは守ってよね!」 そう言い返すのが、精一杯のスカリーの意地だった。 2時間も走らないうちに、車はスカリーが予約したホテルに着いた。 始めモルダーは驚いて、ホテルマンにキーを手渡しながらスカリーに聞いた。 「近くなのにどうしてホテルなんか泊まるのさ、日帰りできるだろ?」 「いいのよ、どうせパーティーで遅くなって、帰るのが嫌になるから  部屋を取る事にしたの、でもシングルの部屋にあなたも泊まれるのかしら?  フロントで聞かなくっちゃ」 スカリーは、フロントで聞いてみると、規則で無理なようだ。 しかし、一つだけ空いている部屋があるらしい。 モルダーは、チェックインしながら(ダナの横で眠りたいんだけどなあ〜) と、子供みたいな事を思っていた。 部屋に入りまずスカリーは、シャワーを浴びる。 パーティーまでまだ2時間ほどある。 その間に、髪をアップして、化粧をして・・・香水も・・ こうして、女性として精一杯お洒落するのなんて、何年ぶりだろう? いつも、モルダーを同等に行動するため、最小限のたしなみしか できない。仕事中の私は、彼に女の部分を見せないように必死なのだ。 それはモルダーを恋人と呼ぶようになってから、ますます自分に厳しくなっていく 逆にモルダーは、私を守りたいという感情が、強くなってきたらしい。 でも私は、彼には頼らない。何がそうさせるのか分からないけれど そうしなくては、いけないような気がする。 そんな気持ちが分かるのか、モルダーはあえて私を、遠くから見守ってくれている。 心地よく私を自由にしていてくれる。 私が『スカリー捜査官』でいる限り・・・ 熱いシャワーを浴びて、バスローブで部屋に戻ると、モルダーが長い足を いつものようにテーブルに投げ出して、テレビのアメフト試合を見ていた。 「自分の部屋に荷物を置きに行かないの?」 「ん?必要ないね」 振り返ったモルダーは、次に濡れた髪を拭いているスカリーをじっと見ている。 「僕もシャワーを浴びてくるよ」 「そう?」 「さっぱりしてから、君をエスコートしなくちゃね」 「モルダー!?まさかあなた、パーティーに出る気なの?」 「もちろん!その為に来たんだから」 「でも洋服は?そんなジーンズ姿じゃ出られないわよ」 すかさず、モルダーは自分のバッグから、タキシードを取り出し 『ほらっ!あるだろう?』と、得意げな顔をした。 すっかり準備が整った。 スカリーは、胸元に宝石をちりばめ、動く度にそれが光に反射して 彼女の顔を輝きだしてくれる、真っ白いロングドレス。 その為、アクセサリーは、いつものクロスのペンダントにした。 髪は彼女の美しいうなじが見えるアップにして、ラメをふりライトに キラキラと反射して、とても綺麗だ。 ドレスアップしたスカリーを見て「うわぉ!」と、思わず感嘆の声を 上げたモルダーも、黒のタキシードが長身の彼をより際立たしている。 こんな時のモルダーは、スカリーもうっとりする位本当に素敵だった。 普段もスーツ姿のモルダーを初めて見た女性の目は、余りの美しさに感動して 濡れてしまうほどだ。 しかしそんな彼から、異星人だとか、政府の陰謀だ、等の話が出てきたのなら ほとんどの女性は、落胆の表情を見せてしまう。 もしモルダーが、女性のエスコートを完璧にサラリとやり遂げる事が 出来たのなら、彼の人生は違ったものになるに違いない。 スカリーの口から自然にその言葉が出た。 「モルダー、素敵よ」 「ダナ、君も綺麗だ」 モルダーは、耐えられなくなりスカリーを抱き寄せた。 グロスで濡れたスカリーの唇が、モルダーの冷たい唇と重なり合う。 モルダーのスカリーを抱き締める腕に力が入る。 「だ、だめよ、モルダー、もう出なくちゃ、時間だわ」 「じゃあ今晩必ず・・・」 スカリーは、モルダーの唇に付いた、自分のレッドグロスを指で拭き取ってあげた。 「行きましょう、私のボディガードさん」 二人が出て行ったあとの部屋は、スカリーの甘い香水の香りと、モルダーの ヘアトニックの匂い・・そして情熱的な口付けの、のこり香・・・ ホテルのパーティールームを借りきり、メリーランド大学の同窓会は 開かれていた。 まず最初に声をかけてきたのが、今回の幹事でもあるロバート・スミスと サンドラ・アッシュだった。 「ハーイ!ダナ!お久しぶりね」 「ダナ、よく来てくれた」 スカリーはその声に振り向いたとたん、満面の笑みを浮かべ二人とハグをした。 「しばらくぶりね本当に。二人ともどうしていたの?」 「僕は郊外で、開業医としてやっているよ」 ロバートは、首もとのネクタイを乱れてもないのに直す仕草をして答えた。 「私は結婚して、2児の母親よ、ダナ、あなたは?」 「アカデミーで教職をしていたけど、今はFBI捜査官よ」 「大変じゃない!ダナ、あなたは昔から研究が好きだったから、てっきり そんな仕事をしているのかと思ったわ」 サンドラの言葉に、スカリーは少しだけ笑った。 何も言葉を返さないスカリーに、ロバートとサンドラは妙な空気を感じ取った。 スカリーにそれが分かったのだろう、慌てて横にいたモルダーを紹介する。 「こちらは、フォックス・モルダー。FBIのパートナーなの」 ロバートとサンドラは、今の雰囲気を変えるかのように、大袈裟にモルダーと 握手した。 モルダーは、ロバートを見て『どこかで見た顔だ』と思った。 でも思い出せない。 サンドラは、モルダーを眩しい様な眼差しで見つめていた。 スカリーがそれを見逃すはずが無い。 「私、喉が渇いたわ、サンドラ、飲み物はどこにあるかしら?」 「ああ、ごめんなさい。こっちよ」 スカリーとサンドラが連れ立って歩いていく後ろを、男二人がついて行く。 ロバートは自分より20cmも高いモルダーを見上げながら、話し掛けた。 「ダナとパートナーを組んでどれぐらい?」 「ん〜どうだったかな?忘れた」 意外な返事に、ロバートは拍子抜けして苦笑いをした。 「FBIって、お堅いのが揃っているのかと思ったけど、ジョークもなかなか じゃないか」 モルダーは、真面目に答えたつもりだったのにジョークだと言われて、返答に困った。 「じゃあダナとは、仕事上のパートナーだけなのかい?」 今度は、自信満々に・・ 「いや、彼女とはステディな関係だよ、そうじゃなかったらここには来ない」 ロバートの表情がサッと変わり、今度はモルダーの腕をグィッとつかんだ。 突然の彼の行動に流石のモルダーも驚き、その腕を外そうとしたが ロバートの力は思いのほか強いものだった。 「さっきのジョークのお礼に忠告しておくよ この機会に、ダナと親しくなりたい奴がいるぜ。大学にいた時から ダナを好きだったらしい。」 「どうしてそんな事を知っている?」 ロバートは、意味深な笑みを浮かべた。 「それは、僕だからさ」 そう言い放って、ロバートは足早にモルダーの傍から離れていった。 残されたモルダーは、小さく溜息をついた。 ちょうど、両手にシャンパンを持った男性が通りかかり、何も言わずモルダーは 彼の手からシャンパンを奪い取り、一気に飲み干した。 「彼、ハンサムね」 「えっ?」 「あなたのパートナーのフォックスよ」 「ああ・・そう?」 サンドラの表情は、高揚したように赤くなって、なにやら興奮気味だった。 「そう?って、あなた毎日あんな素敵な男性と一緒に仕事をしていて 何も感じないって言うの?」 「そうね・・・仕事中の彼は別人だから」 「仕事中の彼は・・・ええっ!?もしかしてあなた達!?」 スカリーは、『うふふん』と少し得意げな顔をして見せた。 サンドラはさっきまでの表情とはうって変わって、ガックリと肩を落として 溜息をついた。 「そうよね、何もないほうがおかしいわよね。第一このパーティーに二人で来る 位だからそうなのよね・・・」 「サンドラ、あなたには素敵な旦那様と子供達がいるじゃない」 「素敵かどうか・・もう何年もたてばお互い空気みたいな存在になって 付き合っていた時の情熱はどこに行ったのか・・」 「でも、今こうやって何事もなく過ごせるのは、まぎれもなく幸せな証拠よ」 「ダナ・・・彼とうまくいってないの?」 「いいえ、とてもうまくいっているわ」 「あんな素敵な人とうまくいかないなんて、ばちがあたるわよ」 サンドラの言葉にスカリーは、にっこり微笑んだ。 その微笑とは裏腹に、スカリーは何かを叫びだしたい気持ちにかられていた。 そう・・あのまま研究を続けて、教鞭を取り医者として生活を続けていたら 今の私はいない。 今の私・・・何ものかに誘拐されてチップを埋め込まれ、それが原因で 不妊症になり、ガンまでも経験してしまった。 私だけではない、身代わりに姉も殺された。 サンドラは、モルダーが恋人だと言うと、羨ましそうに私を見た。 もちろん、モルダーと気持ちが通じ合えたのは、この上なく幸せだけれど サンドラ・・・私の方こそあなたが羨ましい・・・ パートナー、子供達と何気ない平凡な日々を暮らせる事が、今のスカリーには 決してやってこない日常の様な気がして「来なきゃよかった・・・」 と、後悔してきている。 もしFBIに配属されなかったら、私はここにどんな人生を持って立っていただろう? 「ダナ?」 聞きなれたくぐもった声に気づき、ハッとした。 「ダナ、大丈夫かい?」 「モルダー・・な、なにが?」 「いや、大丈夫ならいいのだけれど」 「モルダー、ごめんなさいね、あなたを一人にして・・」 「いや全然構わないよ、お陰で驚くような情報が手に入った」 モルダーが余りにも真剣な表情で言うので、スカリーは(又根拠のない摩訶不思議な事 でも聞いたのだろう) と、思い聞き返した。 「それは、Xファイルなの?」 「ああ、今まで聞いた事のない情報だ。まさしくXファイルだね」 「でもモルダー、せっかくの週末に仕事なんてしたくないわ」 「僕だって、Xファイルなんかに邪魔されたくないよ」 モルダーは、肩をすぼめて茶目っ気たっぷりに笑った。 その時、部屋の照明が薄暗くなり静かな音楽が流れ始めた。 その音楽を聴いて、次々とカップルが手を取り合いダンスを踊りだす。 モルダーも当然のように、そして照れくさそうにスカリーに手を差し出す。 「おいで・・」 スカリーは少し驚いた表情で、しかし自然に手を重ねていた。 曲に合わせ、二人がダンスをし始めると、一気に回りの注目を集めたようだった。 当然だろう・・スカリーは輝くばかりに美しいし、彼女をエスコートするモルダーの スマートな容姿に女性陣の瞳を奪っていたのだから・・・ 「これで二度目ね」 「えっ!?」 「あなたとダンスするのは・・」 「そうだったかな?スカリー!案外上手いじゃないか」 「失礼ね、ダンスぐらい踊れるわ」 「僕は君に足を踏まれるのを覚悟で誘ったんだけどなあ」 「そういうモルダーだって、ダンスなんて縁がなかったはずでしょう なかなかのリードね」 「じゃあ今度FBI局内で、ダンス大会があった時、出てみるかい?」 スカリーは素っ頓狂な声をあげて、モルダーを見上げた。 「ダンス大会!?そんなのあるの!?」 「あれっ?知らなかったのかい? 毎年5月にスキナーの提案でやる事になったんだよ」 「嘘よ、モルダーったら!」 「ほんとだよ、信じられないのだったら、君は見ているといいよ。 僕はスキナーと踊るから」 スカリーの頭の中は、モルダーとスキナーが、チークやサンバ、タンゴを 踊っている情景が浮かんだ。 そのとたん、『プッ!』と吹き出して笑い出した。 モルダーは、繋いでいたスカリーの手をグッと強く握り、こう囁いた。 「ダナ、やっと笑ったね」 笑顔も束の間、スカリーの表情はくるくる変わる。 彼の考えている事が手に取るように分かり、思わずモルダーの胸に顔を伏せていた。 もう考えまい・・・スカリーは思う。 考えてもどうなるものじゃない。 それより、こんなに私のことを理解してくれる彼がいるのだ。 彼がいるお陰で、ここまでやって来れた。 もしかして、会場にいる中で一番幸せなのは、この私なのかもしれない・・ モルダーの広い胸の中で、心地よく揺れて陶酔していた時、 「Excuse me」と誰かが声を掛けた。 ロバートだった。 「失礼・・モルダーさん、代わっていただけますか?」 こんな時、断るのは失礼に当たる。 モルダーも紳士だ。スカリーに軽く頷いてロバートに手を渡した。 「悪かったね、邪魔をして」 「い、いえいいのよ」 そう言うしか仕方ないじゃない。 まさか、「嫌よ」なんて言える訳ない。 ロバートのダンスエスコートもたいしたものだった。 さすが、エリート街道を進んできた事だけある。 「ダナ、随分綺麗になったね」 突然のロバートの言葉にスカリーは、目を見開いた。 「ロブ!な、なによ急に!」 「ああ、懐かしいなあ、君の口から『ロブ』って言葉、何年ぶりだろう」 「さあ、どうでしょうね、年数の事は考えたくないわ」 「それは、アカデミーの頃からの年?それとも、FBIに入ってからの年?」 「ただ、女性に年齢を聞くなって事よ」 ロバートは、スカリーのウエストに回している手をグッと力を入れた。 それに驚きスカリーは反射的にロバートの体を避けようとしていた。 しかしロバートは、それを無視するかのように話を続ける。 「単刀直入に言うよ、ダナ、僕の仕事を手伝ってくれないか?」 「ええっ!?」 「郊外だと言っても、これがなかなか忙しくて僕一人じゃ手が回らない だから君にお願いしたいのだけれど」 「でもロブ、私には仕事があるわ」 「分かっている、急にFBIを退職するのは大変だろう、だから半年待つよ それなら、ゆっくり準備も出来るはずだ」 「・・・・」 ロブは続ける。 「ダナの夢は医者だと聞いていたのだが違ったかい? 実際、僕も驚いた、まさかFBI捜査官になっていたなんて」 「ロブ、それは私自身も驚いているわ」 「今からでも遅くはないよ、もう一度夢を追いかけてみたらどうだ? 僕がお手伝いする。当然医者をしながら、研究にも精を出せばいい」 ロバートの誘いは、スカリーにとって充分魅力的だった。 夢・・何度見ただろう・・ 小さな頃からの夢だった。両親もそのつもりで育ててくれた。 でも気が付いたら、FBI捜査官の自分がいた。 スカリーはそっとロバートの手を振り解き、呟いた 「ごめんなさい、疲れたわ」 「じゃあ返事を待っている」 と、ロバートはスカリーに名刺を手渡した。 何杯シャンパンを飲んだだろう。 遠めにスカリーとロバートが踊っているのを見て、気にならないと言えば嘘だ。 ロバートの挑戦的な言葉が、頭から離れない。 踊りながら、ロバートはスカリーを誘っているに違いない。 彼女の事は信じている。が、アイツの歯の浮くような口説き文句をスカリーは どんな顔で聞いているのだろう。 気づくとスカリーがこちらに向かって歩いてくる。 「モルダー、もう帰りましょう」 「えっ?もう?」 「彼に足を踏まれて、痛かったわ」 「O・K!」 スカリーの大きく開いたドレスの背中に手を回してモルダーは、表に出て タクシーを拾った。 そんな二人の様子を、ロバートはじっと見つめていた。 何かおかしい・・・モルダーの鋭い勘がそう言っていた。 帰りの車の中でも、ホテルに戻ってからもスカリーの表情に影が見える。 何故?あいつに何か言われたか?口説かれたから? それとも、他の事? そんな事を示唆しながら、モルダーは努めて明るく振舞った。 「ダナ、シャワーを浴びてくる?それとも一緒に入ろうか?」 「やーよ!モルダーと入るとゆっくり洗えないもの。 それに、そこらじゅう泡だらけにするし、シャワーはぬるいし 風邪引いちゃうわ」 スカリーは、そんな捨て台詞を言いながら、浴室に消えていった。 思い切り栓をひねり、痛いぐらいの勢いでシャワーを浴びる。 どうして迷う事があるの?私はFBI捜査官。モルダーと これからもずっと真実を追究するのよ。 真実がわかるまで、やめられない。 そうでないと、今までしてきた事が無になってしまう。 それに、モルダーと離れる事なんかできない・・・ 彼と私は、固い絆で結ばれているのだから、ダナ・・もう答えは決まっているのよ。 スカリーがバスローブで濡れた髪姿で出てきた時、モルダーはタキシードのまま ベッドで眠りこけてしまっていた。どうやらシャンパンが効いたらしい。 そんな彼の横に腰を下ろし、モルダーの肩を揺さぶる。 「モルダー!シャワーを浴びなきゃ駄目よ、起きて」 「ん〜〜ん・・」 モルダーはまるで子犬の様に無防備な顔で眠っている。 スカリーは微笑みながら、額に落ちていた前髪をそっとすくい上げる。 思い直して、上着だけでも脱がさなくては、と思った。 自分より体格のいいモルダーを脱がすのは、慣れたものだった。 ふと、上着のポケットに何かのメモが入っているのを発見した。 開いてみると、女性の名前と電話番号が記され『今晩電話してね』 と、書かれてある。 「モルダー!!これは何!?」 大きな声に自分でも驚いたぐらいだ。 驚いたのはスカリーだけではない。モルダーも吃驚して目を見開いた。 「ん〜?スカリーどうしたのさ」 「あなたのポケットにこれが入っていたわ」 モルダーは、寝ぼけまなこでメモを覗いた。 寝起きの彼の頭は、敏捷に反応しない。 しかし、最後の言葉を読んで初めてニヤッと笑った。 「ふ〜ん、なかなかお洒落だね」 「どこが?こんな事するなんて・・私といたのは誰の目にも明確でしょう!?」 「知っている人?」 「知らないわ。モルダー・・あなた喜んでいるの?」 「嫌がる奴なんていないと思うけど?」 突然、スカリーがメモを投げて、ベッドの横に仁王立ちになった。 モルダーを見下ろしている。 「ダナ、怒っているのか?」 「怒ってなんか!嫌じゃなかったら電話するのね!?」 「電話するとは言っていないじゃないか。ただ僕も捨てたものじゃないな と思ったのさ」 「そうよね、あなたは私がロブとダンスをしている時、女性に声ばかり 掛けられていたわ」 スカリーの言葉にモルダーは、少し顔色を変えた。 そして、ベッドから立ち上がりネクタイを外しながら、スカリーの真正面に立つ。 「ロブ!?ロブって誰だ?」 「ロバートよ、ダンスしたでしょう」 「そうか、君はあいつの事をそう呼んでいるんだ」 「そうよ、だって学生時代からのお友達だもの、当たり前でしょう」 「お友達か・・・お友達ね・・」 「何よ!?」 「少なくとも向こうはそう思ってないらしい」 「えっ?」 モルダーは、脱いだ服を自分のバッグに入れだした。 「モルダー、何をしているの?」 スカリーが不安そうな声で聞いたのを、モルダーは十分分かっていた。 でも今の感情を押さえる事が出来ない。 納得したはず。自分の中で消化したはずだ。 それなのにこんなに興奮するとは、あいつだからか? あいつの言葉に翻弄されているのか?心理分析のプロが情けない・・・ モルダーは何も言わず、スカリーの部屋から飛び出した。 「モルダー!!」 スカリーの自分を呼ぶ声を背中に感じながら・・・・                            To be continued・・ *********************************: 読んで頂いて有難うございました。 少し後味の悪い終わり方でしたが、二人の事だからすぐに仲直り するだろうと思います。 後編も頑張って書きますので、宜しくお願いします。                       BY Melody ×××(キスを三回)