DISCLAIMER:The characters and situations of the television program"the X-Files" are the creations and property of Chris Carter,Fox Broadcasting, and Then-ThirteenProductions.No copyright infringement is intended. v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v この物語は思いっきりフィクションです。 本文中の設定・人物・国名・建物・専門用語・etc・・・は一切信用してはいけません。 しかし実在のものを拝借させてもらっている部分もありますので、何かしらの点で気分を 害された場合は本当に申し訳ありません。 しかも二人がちっとも甘くない上に意味不明の事件もの(とも言い難い)です。 イメージも本編からかけ離れてる上にモルダーも少々情けないときています。 “それでもイイワ”という方だけお読みくださるようお願い申し上げます。 (・・しかしここまで言われて読みたくなる方がいらっしゃるんでしょーか?) v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v       【THE X−FILES】        TITLE “Only Sky 〜hero〜”                WRITTING BY Ema Minuki 澄み渡る濃紺の空に吸い込まれるように散らばる白い雲。 頬をかすめれば僅かに春の香りを残す心地好いそよ風。 響いては掻き消えていく耳に痛い排気音も今日ばかりは空と一体化しているように思える。 最高の天候に気候、少しまぶしいくらいの陽射しに目を細めながらも必死に大空を舞うい くつもの白い影を追う。 「最高のトレーニング日和だな!さすがに今日は生徒が羨ましくなるよ!」 誰に対するとも言えぬ言葉がいつでも騒々しい管制塔に対抗するような声音で響く。 横で自分と全く同じ感想を抱く同僚に微笑み返しながら、こんな日は自分達以外にも多くの 人々、いや、生物が同じ思いを抱えて空を見上げるんだろうな、自分達は空を近くに感じら れるだけ感謝すべきかもしれない。 ・・・少々詩的な自分の感想に思わず苦笑してしまう。 “コントロール・タワー!!聞こえますか!!こちら42期飛行練習生レンド・ファウス!!  着陸許可どうぞ!!” 「タワー了解!!着陸どうぞ!!どうだ、ファウス!初めての単独飛行は?  いいだろう、教官のいない空は自由で!」 “冗談じゃないですよ!目の前の計器と操縦桿を握るのでいっぱいいっぱいなのに自由を堪能  する余裕なんてあるわきゃないでしょう!?うあぁっ、話しかけないでくださいよ!” 室内に明るい笑い声が響く。 ファウスか・・・。こりゃまだまだ訓練が必要。 「ハハ!口ウルサイ教官でも単独飛行の生徒にとっちゃ青い空よりも愛しい存在みたいだな」 「あ〜、キャンベル教官はいいよなあ、今頃試験飛行とはいえこの空をエンジョイしてんだろな」 その教官の名に驚いて思わず聞き返してしまった。 「試験飛行?」 とたん、管制塔のメンバーが顔を見合わせた。 「おととい入ってきた新機の試験飛行だってはりきって飛んできましたよ。 そういえばもう結構経つなあ」 「そーとー楽しんでるようですね、まあ、あれほどのウデがあれば今日みたいな日は最高で  しょうよ。ねえ、ガード教官?」 心底羨ましそうにこちらに話しかける彼。しかし、なぜか笑い返すことができなかった。 なぜだろう・・・? “タワーへ!!着陸完了!!・・・いやったぁ〜、俺生きてますよう〜!!” 間の抜けた生徒の声にまた笑い声がこだまする。 そんな声も耳には入らなかった。形のない悶々とした黒い予感が頭から離れようとしない。 青い青い視界を見張ることしかできなかった。 そして数分後、予感がはっきりと形になる。 キャンベル教官のBC−2が音信不通。             墜落地点・・・AR−16−B7 >><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>> ダナ・スカリーは黙りこくっていた。 助手席の窓越しに映り行く晴れやかに明るい山道を見つめる事に全神経を集中させる。 集中力なら常に自信があるつもりだ。日頃の解剖や報告書製作は今日のための集中力養成訓練 だったのね。 と、ぼんやり考えながらもひたすら瞳は緑を追う。 「・・・スカリー」 視界を一つに絞る事でそのモノとの一体化は可能かしら? 「なあ、スカリー」 自分には珍しい若草色のパンツスーツをいつものブティックではない店で衝動買いしてしま ったのも自然との一体化を気分的にも高める為だったんだわ。 「まだ怒ってるのか?」 ・・・人間は服装で気分が左右されるって本当なのね。あまりの集中促進効果に周りの音も 気配も感じられなくなってしまったわ。 「僕が悪かったよ、スカリー」 ・・・・・・おっと。50メートル先のウシの表情まで見えるようになったわ。アレはきっと肉牛ね。 再び車内にエンジン音だけが響き渡る。 さっきまでエンジン同様に響いていた蚊の鳴く声がピタリと止んだ事によって彼女の集中力 が僅かに乱される。 ・・・・・・・・・ちょっとやり過ぎたかしら? すっかり静かになってしまった隣に思わず顔を向けたくなる衝動に駆られる。 そうよね、いつまでもこのままでいるわけにもいかないもの。そろそろちゃんと話を・・・ 「あんまり長い間一点を見続けようとすると寄り目になって元に戻らなくなるぞ」 っっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!! ものの1秒で彼女は再び自然との一体化に成功した。 ・・・しまった。 気付いた時にはもう遅いとはこの事か? 一方、運転座席では彼女の相棒ことフォックス・モルダーが弱り果てていた。 カドゥナー空港から走り続けて2時間53分ーいや、4分になるか? スカリーは一言も話さない。 動かず眠らずひたすら窓の外を凝視している。 モルダーはちらりと彼女に目を向けてヒマワリの種を口に放り込む。 相変わらず彼女は人形のように手の位置すら変えずにピシッと座っていた。 2分前の僕の発言から新たなオーラが加わったように見えるのは気のせいだと信じておこう。 しかしスカリーがこれほどまでに怒った理由は間違いなくモルダー自身にあった。 もともと彼女は今朝初めて空港で会った時には不機嫌な顔を隠す素振りひとつ無く、昨日の 留守電に彼が吹き込んだ突然の荷造りの用意の理由と、仕事内容の追求を機関銃のごとくま くしたてていたのだ。 だが彼はその銃弾をことごとくかわしながら、目的地名と捜査の為であるという事しか告げ なかった。 機内でも彼女の攻撃は続いていたが彼は爆睡を決めこんでいた。 到着してからさわやかな目覚めを終えた瞳を彼女に向けたものの、もはや彼女は目ひとつ、 顔ひとつ彼に向けようとしなくなっていた。 目的地までは車で3時間以上かかる。いくらなんでも3時間以上黙って座り続けるのは眠ら ない限りは無理だろうとタカをくくっていたが、彼女はしっかりやり遂げた。 マネキンとも見えてしまう彼女を見たレンタカーのオヤジやガソリンスタンドのバイトか らモルダーは明らかに不審の視線を受け取っていた。 僕にそんなシュミはないぞ・・・ 「スカリー、降りないのかい?化粧室は?・・・・・・行ってくるよ」 「スカリー、腹減らないか?・・・・・・何か買ってくるよ」 ピタリとも動かない彼女の態度からますます不審の視線が痛くなる。 彼らの視線は“助手席にマネキンを乗せて話しかける変人”・・・イヤ、もはや“変態”に 投げかけるモノに変わっていた。 僕のニックネームも返上近しか・・・? しかも堂々と化粧室に向かう姿や横でホットドックの香りをちらつかせる自分の姿が彼女の 怒りに拍車をかけてる事などもちろん気付いていない。 泣きたい気分だ・・・ モルダーの方がこの状態に限界を感じていた。 乗車してから最初は10分間隔・7分間隔・5分間隔・今では2分間隔と彼女に話しかけて いるが彼の声はむなしくエンジン音に溶け込むだけだった。 息苦しくなった白いワイシャツの襟元にぐいと指を突っ込む。 ふうと大きく深呼吸して息を整え、これまでに散々使い続けた単語を再び張り巡らす。 「スカリー、本当にすまなかった。ちゃんと捜査内容を話さない僕が悪かったよ。  もう君もわかってると思うけど、内容を前もって話せばきっと君は反対すると思ったんだ。 でもどうしても君に協力してもらいたくてこんな方法をとってしまった。 本当に反省してる。もうすぐ目的地に着くから改めてちゃんと話すよ」 最後の言葉に力を込める。 「だからそろそろ許して欲し・・・・・・・っ!!!!?」 突然視界に黒い影が飛び込んだ! 刹那ブレーキを踏む。 キキキィーー! しばし静寂が車内を支配する。 「小鹿か・・・」 まだ斑点の消えない小鹿が愛らしくこちらを覗きこんでいた。 ハンドルにもたれ掛かって胸をなでおろし・・・てからハッとする。 「スカリー!大丈夫か!?」 彼女は下を向いたまま動かない。 「・・・もうイヤ」 ボソッっとしたつぶやきがかすかに耳に届く。額を押さえているところを見ると窓にぶつけ たらしい。 「額・・・どうかしたのか?」 恐る恐るモルダーが彼女の方に手をやろうとした瞬間ガバッ! 彼女が顔を上げて一気に叫ぶ。 「もう一体何なの!?冗談じゃないわよ!悪いのはアナタでしょっ?  何で私がこんな目に遭わなきゃならないの!?」 ゼーハー・・・ 全て吐き出した後、改めてモルダーを睨みつけてやる。 彼はスカリーの剣幕に一瞬たじろいたものの、心配なさそうな相棒の声にひとまず安心して ニヤッと笑う。 「よかった!今の騒ぎで僕の相棒に魂が戻ったよ。バンビに感謝だな?」 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 車は相変わらず山道を進む。 スカリーは冷え切ったホットドックを口に入れながら指についたケチャップをどうするべき か考えていた。 「しかし参ったよ、衛兵にでも転職できそうな勢いだったな」 そんな彼女に紙ナフキンを渡してやりながら微笑みかける。が、彼女は手を拭きながらにべ もなく答えた。 「そうね、女性志願者オッケーかしら?衛兵なら少なくとも窓にアタマをぶつける心配はな  さそうだものね」 モルダーは苦笑しながら慌てて視線を前に戻す。 ・・・同じ失敗を2度繰り返すような事があったら本気で転職しそうだな、こりゃ。 空の色が変わり始めると共に風が出てきたようだ。 空を横切る影に目的地が近いことを確信した。 「で、いつになったらその目的地に着くのかしら?」 「もう目前ですよ、上を御覧ください隊長殿」 ちっとも懲りない部下に一瞥くれてから窓越しの空を見上げてみる。 桃から橙色のグラデーションを施した空に雲ではない白い物体がいくつもチカチカと浮かん でいる。 あれは・・・飛行機? 「今回の捜査依頼は”skyart aviation”、航空学校からだ」 だだっ広い敷地にそびえる建物が見えてきた。 目的地はすぐそこだ。 >><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>> 帰ってしまった太陽の後を継いで月がおびただしい数の星を引き連れてきた。 本来ならこの夜空に見惚れるのが先のはずだが今回は順番が逆転していた。 薄暗い滑走路に輝く誘導灯と着陸灯の美しい調和にまず心奪われるのが先だ。 この時間ともなると飛行機の姿は見えない。昼間は迷惑なほどの騒音が支配するであろう 滑走路も、闇の訪れと共に沈黙している。その中を青や赤や黄のきらめきが花のように幻想的 な空間を生み出していた。 もう少し暗ければもっとハッキリ見えるのに・・・ 窓ガラスに部屋の明かりが反射してしまって、あまりよく見えない。 代わりにハッキリ見えるのはガラスに映るつまらなさそうな自分と今更スーツの皺を気にし てキョロキョロしてるモルダーの姿だけだった。 彼に聞こえない小さな溜め息を吐いた後、改めて部屋を見回す。 待合室・・・とでも言おうか?古さは感じるものの小奇麗に片付いており、真ん中に置かれ たソファーセットの座り心地もまあまあなので嫌いな雰囲気ではない。 壁に掛けられたいくつもの記念写真。 左から順に年代を感じるもののあどけない青年達の輝く表情だけはいつの時代も変わらない ようだ。 知らず微笑を浮かべ、一人一人の顔を追ってみる。 ・・・? 青年とはいえ大きくたくましい体が並んでいる中、一回り小さな体で窮屈そうに顔を覗かす 子がいた。しかし表情だけは誰よりも一際明るく見える。 女の子かしら? この写真で女の子はこの子だけのようだ。その表情から負けん気の強さまで伺えて思わず微 笑みを誘われてしまう。 ガチャッ ようやく待ち構えていた扉が開く。 「お待たせして申し訳ありませんでした。私が学校長のローラン・バルナックです。  ええと・・・」 「フォックス・モルダーです。こちらはダナ・スカリー捜査官」 相棒の声にハッとして慌てて立ち上がり手を差し出す。 人の良さそうな口髭のバルナック学校長と一通り挨拶を交わすと、再びソファーに腰を沈め、 話を続ける。 「遠い所よくいらっしゃってくださいました。時間も時間なので早速本題に入らせていただ  きたい。ああ、でもおおまかなことは確か手紙で・・・?」 バルナック校長がモルダーの方にモノ言いた気な視線を送る。 スカリーも一緒になって彼を下から見上げてみる。 「はい、確かに。  しかし確認の為に、もう一度最初から説明をお願いしたいのですが」 こちらに目もくれずいけしゃあしゃあと答える相棒に思わず尊敬の念を抱いてしまいそうだ った。 事の起こりはこうだ。 1年前の今頃、長いことこの学校に勤務していたゲイン・キャンベル教官が新しく納入され た機体の試験飛行により墜落事故を起こし、死亡した。 原因は未だ不明だが、とりあえず彼の操縦ミスと判断するより他なかった。 が、その事が主ではないらしい。 以後、キャンベルの交信が途絶えた地点から先に踏み込むと、それこそ原因不明の耳鳴りや めまい、ひどい頭痛に襲われると、生徒達の間で噂になった。 単独飛行訓練生の恐怖からくる思い込みだと考えた何人かの教官は騒ぎになる前に自ら噂の 真相究明に乗り出したが、全員蒼い顔で帰ってきた。 噂は本当だったのだ。 ベテラン教官が同じ目に遭った、などという話は噂好きの生徒達にたちまち広がり一時大騒 ぎになった。 しかもキャンベル教官の評判が生徒・教官の間であまり良くなかった事から“キャンベルの 呪い”と囁かれるようになり、気の弱い生徒や彼にいい思いを持たなかった生徒は完全に信 じ込んでしまっている為、遂には飛行訓練を嫌がる者まで出てきた。 生徒を鎮める為にもとりあえず一時的に“例の地点”に踏み込む事は禁止している。 しかし、精神的な心配事は訓練に影響を与えるので、できるなら原因を突き止めたいとの事だ。 「そういう訳なんです。しかし、FBIの方が本当に来てくださるとは思いませんでしたよ」 「いえ、このような事は僕らの専門ですから」 専門ねえ・・・? 横から同意を求める視線を感じたが、スカリーはあえて見ないようにする。 コンコン 突然の規則正しいノックが会話を中断させた。 「失礼致します」 ハッキリとした口調がドア越しに聞こえる。 入って来たのは隙の無いパンツスーツに身を包んだ女性だった。 女性の平均より少し高い位の身長に、腰まで届きそうな見事なブロンド、白過ぎる肌に少々 キツめの赤いルージュがとてもよく映えていた。 姿勢が良いせいか何とも言えぬ威圧感を感じてしまう。 「初めまして、モルダー捜査官にスカリー捜査官ですね。ようこそいらっしゃいました」 意志の強そうな唇から凛とした声音が洩れる。彼女はまぎれもない美人だった。 「彼女はフィリア・ガード教官です」 ・・・教官!?彼女が? 「アハハハ!驚くでしょう?こんな若い美人が教官とはねえ。しかしひとたび生徒を前にす  れば泣く子も黙るオニ教官!浮いた噂ひとつ流さない!  まさにガード(防御)教官なんですよ、アッハハハハ・・・」 「なるほど・・・」 バレバレに彼女がお気に入りらしいバルナック校長の様子と、モルダーのつぶやきにガード 教官が少々頬を紅潮させてうつむき、小さくセキ払いをする。 スカリーもモルダーと同意見“なるほど”だった。 容姿や身なりから判断するに秘書か、はたまたありがちな創立者かどこかのオエライさんの 御令嬢という結果になりそうだったが、彼女を取り巻く雰囲気はそんな甘いモノではなかっ た。教官ならば内なる彼女のパワーに説明がつく。 ただし、モルダーの“なるほど”が自分の意見に対してか、それとも校長の意見に対してか どうかスカリーにはわかったものではなかったが・・・ そしてこの学校の簡単な説明とたわいもない会話が続いた。 そして彼女が最年少の教官長であることと、今回の捜査依頼を申請した張本人であることが わかった。 窓の外は完全に闇に包まれている。 ひとまず今日は2キロほど離れたタウスの街のモーテルに宿泊し、明日から本格的な調査に 入って欲しいと頼まれた。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「ずいぶん大人しいな?やっぱり転職の件、本気なのか?」 「・・・しつこいわよ、モルダー」 カラカラ笑うモルダーに声のトーンを3オクターブほど下げるつもりでうめく。 そんな彼女に対してわざとらしく身震いしてみる。 「いや、ごめん。  僕の予想ではてっきり車に乗った途端に君の新たな攻撃が展開されるものだとばかり思っ  ていたからね。FBI捜査官にとって自分の予想が外れる事程ツライものは無いだろ?」 「―――と、言うと?」 逆に質問を返された為、少しばかり口の辺りを手で覆って真面目に考える素振りを作る。 目をやった運転席のガラス越し遠くに小さな明かりが見えた。 「そうだな、つまりその――  “どーゆー事なの、モルダー!?あれが事件ですってえぇ!?   信じられないわッ!空なんてまるっきり私達の管轄外じゃないの!一体全体どうやって   捜査しようってのよ?おまけに何よ、゛キャンベルの呪い゛ってぇ?耳鳴りがどうした   ってゆ〜のよ!それとも私に生徒・教官全員の耳をいじくらせたいのっ!?もう少し   現実的に考えるって事を学んで欲しいものだわっ!!”」 スカリーの声色のつもりなのかノリノリで発する大声が相当気色悪い・・・。 ついスカリーの顔に笑みがこぼれる。 やっと見せてもらえた彼女の笑顔にますます調子に乗ってしまう。 「“はるばる遠くからムリヤリ連れて来られたのにィ〜、三時間以上も昼寝も化粧室も  ガマンさせられた上にオデコにコブまで作らされて、こんな事ってあんまりだわっ!!  あ〜んな冷え切ったまずいホット・ドック1個で足りるもんですかぁっ!!  それに私、マスタードたっぷりが好きなのよねえぇ・・・”」 バシッ! かなり本気で膝を叩かれ、ようやく気持ち悪い口調を閉ざす。 「――という具合に君が怒るもんだと思ってたから拍子抜けしたよ」 「そこまでわかっているのなら何も言う事はないわね。私を衛兵に転職させそうになった  理由もよくわかる気がするわ」 さっきとは打って変わって真面目な口調でこちらへ首をかしげるモルダーに彼女は告げる。 「そいつは嬉しい。やっぱり僕の相棒は物分かりが良くて助かるよ」 「私もよ。いつのまにか私の相棒はテレパシーが使えるようになったみたい。  私の望む事全てわかるみたいだから、今日の夕食は彼のオゴリよ、きっと」 ・・・・・・やられた。 果たしてどちらが単純と言えようか・・・? 次第にポツポツとした明かりが視界を照らし始めた。 >><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>> 改めてここ、skyart aviation航空学校の地上から見上げる空の色は格別だという事に 気付いた。 昨日の夜とはまるで違う。 幻想的だった空間は、まだ耳に慣れない排気音と共に活気のあるモノに変わる。 当然ながら、生徒達の賑やかな声も教官の怒鳴り声も騒音に混じる。 しかし、若さ溢れる学生達の生き生きした表情は見ていて飽きる物ではない。 二人は管制塔の頂上から全てを見下ろしている。 とてつもない規模の広さだ。 寮や教室のある建物を含めればどれくらいになるのだろう・・・? 先程訓練場はガード教官の案内によりほぼ見学させてもらう事ができた。 見慣れない訓練に励んでいる学生や、ちょっとした博物館に近い飛行展覧室など、全てが 物珍しかった。 だが、何より驚いたのはガード教官の豹変振りだ。 ひっつめてアップにした髪、ピッタリとした白いTシャツの胸元にホイッスルを3つほど 下げ、少し汚れたジーンズ、そして黒のサングラスといったいでたちだった。声のトーン も大きさも昨日の三倍は低く大きく、男性顔負けの迫力に生徒達もタジタジのようだった。 そんな彼女を目の当たりにした時はモルダーもスカリーも一瞬誰かと思った。 彼女の所まで連れて来てくれた事務員のMr.バーナーは二人に笑いながら言った。 「すごいだろう?彼女。skyartのNo1鬼教官として有名なんだよ。でも不思議と生徒に は大人気なんだ。まあ、アッサリとしてるし、何より美人だからね」 こちらに気付いたガード教官が駆けて来る。手前でサングラスを外しこちらに微笑みかけた。 少し落ちた前髪が汗に濡れて額に張りついている。だがそれもまたワイルドな彼女を一層 美しく見せていた。 なるほど、怖いという感覚よりも憧れが先に立ちそうだと思えた。 「ごめんなさい、お見苦しい所を。行きましょうか?案内するわ」 ニッコリと微笑む彼女のライトブラウンの瞳に、スカリーはどこかで逢った事のあるよう な感覚を持った。 「どうしたんだ?スカリー」 彼女の後を追いながらひょいとこちらを覗き込むモルダーにスカリーは顔を上げる。 「ねえ、彼女誰かに似てないかしら・・・?」 「え?偶然だな、僕もそう思ってた。でも誰なんだか思い出せないな」 モルダーも?じゃ、同僚の誰かかしら?それとも捜査上の? でもあんな美人なら自分もモルダーも忘れることはまずナイはず・・・ いままでの知人達の顔が脳裏に浮かぶ。が、あまりイイ顔が浮かんでこない。 同時にイヤな記憶まで甦ってきそうで何だかムカムカしてきた。 ちらと彼を一瞥してみる。 何とも言えないムカムカの理由を考えるのもゾッとするのでこの思考はここまででシャット ダウンしておこう・・・ 管制塔は相変わらず無線の音やら何やらで騒がしかった。 管制員は皆明るく親切でガード教官とも親しそうだ。 突然目の前を飛行機がよぎる。見事だ。 だが、操縦しているのが生徒だと思うと少し不安も感じるような気がした。 ガード教官から聞いたここの生徒の課程を思い出す。 飛行機操縦科学生は3期に別れて入学し、8ヶ月間の学科教育を受講する。そしてシングル エンジン機を使用してフライトトレーニングを開始、4ヶ月で自家用ライセンス相当のテク ニックを身につける。 続く8ヶ月はフライト課程、ここではプロパイロットとしてのより高度なテクニックや判断 力をマスターするのが目的である。 そして最終課程はより複雑で高性能な機材でのオペレーションや計器飛行をマスターする。 キャンパスでの8カ月間のフライトトレーニングを行い、この間に、ようやくエアライン・ パイロットとして歩み出すことになるようだ。 パイロットへの道は相当厳しい。 テクニック以前に健康状態も常に普通以上でなければならない。 それでもこの空に憧れて入学する学生はいつまでも後を絶たないらしい。 しかも治安が良い事を売りにしている為、全国でも割と有名所だそうだ。 確かにタウスの街は夜でも余裕で出歩ける雰囲気を持っていた。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 今度はキャンパスに案内してもらう。 寮とつながっているので、学生から直接話を聞くことを許可された。 ただし、キャンベル教官についての評判はひどいものばかりだった。中には名を聞くなり 逃げ出す生徒もいた。 「どうかしら?何か参考になった?」 興味津々にこちらに目を向けるガード教官にモルダーが答える。 「どうかな?まだわからないよ。  ・・ただ、キャンベル教官については生徒が言うような悪人には思えないね」 その言葉にかなり驚かされたのか彼女が目を見開く。 「・・・でもなぜ?今話を聞いた生徒達は悪口しか言わなかったわ」 モルダーは苦笑しながら彼女を見た。 「“生徒”が“教師”に対して抱く感想なんて皆同じようなものさ。  口ウルサくて、おっかない。僕にだって身に覚えがある。  しかも表現がヘタな人間はいくら生徒の為を思ってした事でも煙たがれる一方。  それは君が一番わかるだろう?」 ガード教官は少しうつむきがちに呟く。 「そうよ・・・、教官なんて損な役回りよね。  でも、さっきキャンベル教官については教官の中でも嫌われてたって話もしたはずよ。  それについてはどう思うの?」 なぜそこまで突っ込んで聞きたがるのか謎だったが、とりあえずモルダーは自分の意見を 快く話す事にした。 「いや、キャンベル教官については管制長から話を聞いてたんだ。 彼はアンドリュース空軍基地を除隊して教官になったそうだね。たいした凄腕だろう?  当然上からの人望もお厚く、昇進の話も随分前から出ていたようなのに断り続けて、 あえて生徒と関わる役職を選んでいた。そこでナワバリを占められちゃ他の教官はおも  しろくないのもわかる気がするよ。  ・・・でも、彼とは君も管制長も仲は悪くなかったみたいじゃないか?」 彼女はしばらくモルダーを見つめると、曖昧な笑みを残して再び前に向かって歩き始めた。 >><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>> 「ここはグレッグ・ウォルターの部屋よ。彼はもう最終課程まで行ってるの。  キャンベル教官とは普通の子達よりは仲が良かったわ、何か話が聞けるかも。  ・・・でもひとクセあるから気をつけて」 ひとクセ? スカリーがその言葉に訝しんでいる内にドアが開く。 その瞬間、ココは何処・・・?状態だった。 顔にスコンと当たった物の正体を確認してちょっとゲンナリする。 皿を2枚重ね合わせたようなモノ。 ここまで言えばわかるだろう・・・ ソレ以外のバリエーションに続き、戦闘機やらスーパーマンやらはたまたグリーンマンまで が悠々と飛びまわっていた。 壁紙などどこにも無く、全てが土星や金星に埋め尽くされている。 「初めまして。話は伺っています。  僕がグレッグ・ウォルターです。すごいなあ、FBI捜査官なんでしょう?」 この無法地帯のような場所に全くもって似つかわしくないさわやかな青年が、こちらににっこり と微笑みかけていた。 「あっ、スイマセン。良かったらバッジみせてもらえませんか?  ・・・うっわあ、本物だ!やっぱりミヤゲモノとは違うなあ」 モルダーは何とも言えない表情を向けつつ、ちょっと興味のある部屋を見回してみた。 僕のオフィスも負けたもんだな・・・ うっ!!こ、これは!? 思わず手に取ってみる。 「ああ、ひょっとしてご存知なんですか?通称エリア51シップ!  あのエリア51でアメリカ空軍と宇宙人グレイが共同で開発したといわれるタイプなんですよ」 知ってるも何も僕が見たヤツだ・・・ 「コレもエリア51がらみで“インデペンデンス・デイ”に登場した小型円盤なんですけど、 操縦性がいい上に、バリアーも装備したさすがのオーバーロードのテクノロジーなんですね。 けど、UFOらしくないのがちょっとツライですね・・・で、」 もうスカリーの理解をはるかに越えた世界だった。 にも関わらず自分の相棒のはずの男は興味深げにフンフン頷いている。 はあぁ〜 何だか一気に疲れてきたわ。 頭をぐるんとひと回ししてみる。と、後ろからクスクスと笑い声が聞こえてきた。 「どうやら時間がかかりそうね。ねえ、ここは彼に任せて私達はコーヒーでもどう?」 願っても無い彼女のお誘いに乗る事にしよう。 バタン!! 彼女と一緒に宇宙空間を後にした。 後は勝手にやってちょーだい・・・ 「なあ、キャンベル教官は君から見てどんな人間だったんだ?」 マーシャン・ウォー・マシンを弄びながら、モルダーはグレッグにそっと尋ねる。 「そうだなあ・・・ヘンな人でしたよ。  うん、ヘンな人でした。でも僕は得意じゃないけど苦手じゃなかったし。  あ!それは“宇宙戦争”の火星人の円盤マ〜シャァン!!  うん、決して理不尽な叱り方はしなかったし。いっつも怒ってて怒ってました。  アレ?それって理不尽なのかな?でもあの人って怒らずにしゃべれなかったみたいだし。  やっぱ火星人の円盤は今見ても古さを感じませんよねえ?」 ・・・・・・・。 どこからどこまでがキャンベルの話なのかどこからどこまでがマーシャンの話なのかわかっ てしまう自分に拍手がしたい。 コイツも相当ヘンなヤツだ・・・大丈夫か? 「あんまりいっつも怒ってるから皆嫌ってたみたいだけど、でもいっつも怒ってる人ってホ ントに怒っててもコワくないから僕はあえてキャンベル教官に志願してたんです。 客観的に見ると結構面白いですよ、あの人」 ヘンに説得力のある理由にモルダーは思わず考え込んでしまった。 その後小さな呟きが耳に響いた。“もういないけど” 「――確かにイイ人とは言い難かったけど、僕は嫌いじゃなかった。ウデは誰よりも凄かっ たし、生徒の安全にやたらと気を遣う所なんかはね。・・・ただ、ヒーローに憧れてただけ  なんですよ」 棚の上のスーパーマンの人形をそっと掴んでこちらに掲げる。 「僕の子供の頃の夢はヒーローでした。スーパーマンみたいなね。  彼は空を飛んでどこにでも行ける。何だってできるんだ!――そう思ってました。 でも大きくなって僕はパイロットを知った。ヒーローにはなれなくてもこの空を支配できる  なんて最高だと思ったんですよ!  初めてのフライトトレーニングの時、あまりの興奮にキャンベル教官にこの話をしたんです。 絶対怒鳴られると思ったのに、彼、何て言ったと思います?」 モルダーは柱にもたれ掛かりながら、静かに首を振った。 「“誰だってヒーローになれるさ。俺はもうなってる”。  あの時は何の冗談かと思いましたけどね、あの嫌われモノ教官が。  でもヒーローの第一条件って何といっても正体を明かしちゃいけない!コレでしょ。  けれど人々の平和を影ながら守る!ナゾの仮面をつけてがんばるんですよ」 「彼はへんくつの仮面を被ってこの学校の平和を守ってたって?」 グレッグは笑いながら真っ青なシーツのかかったベッドに腰掛けた。 「さあ?アレ以来その話はしてないから。まあ、僕の勝手な解釈ですけどね。  ただ、“衆人が皆善をするなら、己一人だけは悪をしろ。逆もまたしかり。英雄とは自分  だけの道を歩く奴のことだ”って言葉を聞いた事があったんで。彼にピッタリでしょう?  ・・・何とも態度の悪いヒーローだったけど、呪いなんて残さないと思う」 最後のセリフは確信があるかのようにハッキリ言った。 「けど、・・・ひとつだけ気になる事があるんです」 グレッグはそう言って顔を上げた。 「何だ?」 モルダーは彼の正面にそっと移動する。 「見てしまったんです。その、・・・彼のキーホルダーを」 モルダーは頷いて、彼の言葉を促した。 グレッグはモルダーをじっと見たまま続けた。 「それが・・・・・・“スパイダーマン”だったんです」 全く予想もしない単語の出現に、モルダーは一瞬目を丸くする。 「・・・え?」 「彼のポケットからはみ出ていたのを偶然見てしまったんです。あれは恐らくスパイダーマン!」 「・・・・・・」 「――スーパーマンは異星人ですが、常に地球人と違う己の能力に苦悩しているという、何とも  謙虚なヒーローの中のヒーローなのです。それに対して、スパイダーマンは普通の人間の成り  上がりの上に、最近じゃ結婚生活とヒーロー家業の板挟みで苦悩しているというのですよ?  何と庶民的な!!・・・・・・・・・ま、嫌いじゃないんですけどネ。  しかし、こんな庶民的ヒーローを、キャンベル教官が本気で支持しているのかと思うと、もう  気になって気になって・・・。今となっては明かされる事の無い最大のナゾです」 「・・・・・・・・・あっそ」 モルダーはすでにグレッグの傍らを離れて、あるモノに視線を奪われていた。 ――空軍基地を全て示した地図がある。 もう一つ、エリア51シップに目をやる。 モルダーは一気に思考を切り替え、今までの情報を脳裏に羅列させた。 アンドリュース空軍基地の曲技チーム除隊者、そんな腕を持つ彼が訓練範囲で墜落事故なん て明らかにおかしい。機体の整備状態は万全と記録に残っている。 しかし、原因不明の大爆発で機体も遺体もこっぱ微塵・・・原因特定も出来ないほど。 その時周りに他の練習機は偶然なかった。 ・・・そして原因不明の耳鳴り。 グレッグはモルダーの視線の先に気がついたのか、一緒になって眺めていた。 モルダーはくるりと振り向いてグレッグに訪ねる。 「なあ、そんな実力を伴ったヒーローの事故原因を考えた事はあるかい?」 突然の質問にグレッグは数秒沈黙したが、ニッと笑って言った。 「イヤ。  明らかに何かがあったと思いますよ、確かにね。でももう考えないようにしてます。  ・・・わかってもしょうがないよ」 何故だ・・・? そう聞きたかったがグレッグの顔を見たら聞けなくなった。 気を取りなおしてモルダーはずっと気になっていた事を口にしてみる。 「アレは何だ?」部屋の角にある物体を指さして。 「ああ、アレは僕の中での最高傑作。“未確認地上物体”ですよ」 みかくにんちじょうぶったい・・!? 最初と同じような表情に戻ったグレッグは、ソレを引きずってきた。 「これが右のレバー、左のレバー。うまく利用すれば小回りがききますよ。ああ、シ  ートベルトはホントにいるのか謎だけど一応しといてください。  あっ、それから1回50セントにつき3分、まあ、2時間は飽きないですね。  ――どうします?」 ・・・・・・・・・・・・・・・・。 その後2時間モルダーは戻らなかった。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――   昨日と同じ待合室も打って変わって昼間は騒がしい。 生徒は入室禁止のようで姿は見えないが、排気音だけがひっきりなしに響いている。 「あの子の話についていけるなんてなかなかやるわね、あなたのパートナー」 湯気の立った紙コップのコーヒーをスカリーに手渡した。 「でも意外だったわ。UFOマニアのFBI捜査官もいるのね」 「・・・FBIにだって色んな人間がいるわ」 おいしい。 温かいコーヒーを一口すすった後、楽しそうな彼女に顔を向ける。 「ふふっ、何だか苦労してそうね。  グレッグは少し変わってるけど優秀ないい子なのよ。彼は他の子みたいにキャンベル  教官を嫌ってなかったの。かと言って仲が良いわけでもなかったみたいだけど・・・  けど彼も“キャンベルの呪い”については全く信じてないみたい」 「彼も、って・・・あなたも?」 スカリーの真っ直ぐな視線から逃れるように彼女がそっと目を逸らす。 ゴオオオォォォ・・・・ 目の前を飛行機がとてつもない速さで横切る。 彼女はくいいるような瞳でその光景を見つめていた。 そんな彼女を横目に、ふと昨日の記念写真が再び目に付いた。 あの女の子・・・ 立ち上がり、写真の前まで行ってみる。 「ねえ、もしかしてこの子って・・・」 「ああ、それ?よくわかったわね、私よ。もう何年前になるのかしら」 やっぱり!彼女と最初に出会ったのはこの写真だったのね・・・ 懐かしそうに目を細めている彼女にスカリーは微笑んだ。 「今と全然変わってないわよ、その目とか!」 「そう?若く見えるのなら嬉しいわ。  ・・・彼よ、キャンベル教官。大分若いけど、むっつり顔は最近と同じ」 トントンと真ん中に佇んでいる男の人を叩く。 「あなたも彼に教わってたのね」 「ええ・・・、この頃からウデ以外は評判が悪くてね、怖くて厳しい鬼教官で有名だったわ」 「今のあなたみたいに?」 スカリーの明るい質問にガード教官が苦笑する。 「あの頃はまだパイロットを目指す女の子が珍しかったから。私、この学校で最初の  女生徒だったの」 「それじゃ、色々と苦労したんでしょうね・・・」 気の毒そうなスカリーの視線に彼女がとんでもないとばかりに手を振った。 「いいえ、全然!物珍しいせいか私、とっても大事にされてたの。教官も周りの生徒  も気を遣ってくれてて正にお姫サマ扱いだったわ。おまけに大好きな飛行機の勉強が  できたんだもの。苦労なんて・・・彼だけだったわ」 再び彼女の視線が写真の男性に移る。 「彼だけは一切私を特別扱いしなかったのよ。他の教官が甘く見てくれた事も絶対やら  されてた。彼の授業は私にとって地獄だったもの。  周りの男の子達よりも私には厳しかったと今でも思ってるわ。  彼が大嫌いだった!・・・でも甘かったのは私だったの。学校を卒業してからやっと  気付いたのよ、この世界の厳しさにね。  私、めちゃくちゃ後悔したもの、もっとちゃんとやってれば良かったって。  こうなること、彼だけがわかってたみたいね・・・」 彼女はうつむいた。 泣いてるのかしら・・・? と、思ったらふっと顔を上げて話し続けた。 「でもくやしくって!あの憎っき鬼教官の思い通りになっちゃうなんて絶対ヤだったの!  こうなったら何がなんでも一流パイロットになって教官の資格取って、絶対に彼を  見返してやる!って思ったのよ。  そしてまたここに帰ってきた・・・笑っちゃった。  あの人全然変わってないんだもの。でも、優しい言葉一つかけてくれなかったけど、  私がここまで来れたのは彼のお陰だってやっと思えるようになれたわ。  ――そう思ったらゼーンゼン怖くなくなっちゃった。同じ立場になっても相変わらず  エラそうだったけど、今は彼の気持ちもわかるから」 穏やかな彼女の表情にスカリーは微笑む。 「でもホンットに表現がヘタなのよ、あの人!普通に言えば済む事まで怒鳴り口調で話  すんだもの。そこさえ直せば生徒達だって少しは変わるのに。  だから絶対私が矯正してやるうっ!っていっつも口を酸っぱくして注意してたのよ!」 笑顔とも泣き顔ともつかない表情でこちらを見る彼女につい聞いてしまった。 「・・・愛してたの?」 途端、彼女の顔が僅かに曇る。 「――わからないわ・・・、彼とは親子ほど離れていたし。  それに・・・そんな事考える前に、あんなこと・・・」 彼女の悲しげな瞳がうっすらと濡れ始めた。 「本当にバカよ、あの人は!誰よりも飛ぶ事が好きで、誰よりも生徒の事だけを考えて  た本当はすごく優しい人なのに、誰にもわかってもらえないまま原因不明の事故死!  挙句に“呪い”を残したなんて噂まで立てられて!そんなワケないじゃない!生徒を  街で見かけても安全装置の説明を1からさせるような人よっ!? モルダー捜査官の言う通り。・・・本当、教官なんて損な役割よね」 「――でもあなたはわかってるじゃない、彼の事」 突然のスカリーの声に彼女は驚いて濡れた瞳を上げた。 「人の心を理解するのってとても難しい事よ。自分をわかってくれる人に出逢う事もね。  全ての人に理解してもらうのは不可能よ。・・・でも、彼にはあなたがいたじゃない! ――あの変わった男のコもね。十分だわ。彼だってきっとそう思ってるはずよ」 真剣なスカリーの瞳に彼女は何か思案した後、そっと目を擦った。 「ありがとう・・・  ずっと誰かに聞いてもらいたかった。ここにはそんな話のできる友達はいないもの」 「私でよければ。あいにく私の相棒も当分宇宙から帰還しそうにないのよね」 ドアに目線を送っておどけるスカリーにガード教官は声をたてて笑い出した。 教官の仮面を脱いだ彼女の本当の笑顔だ。 「ねえ、あなたとは気が合いそうだわ。よかったらダナって呼んでもいい?」 「あら、私もそう思ってたところよ、フィリア」 クスクスと笑い合いながら互いに冷え切ったコーヒーを取り上げる。 クシャッ! 味気ない紙コップのかすれる音に二人はまた笑った。 >><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>>Go!〜truth〜<<>><<>><<>><<>><<>><< ハッ・・・・!!まさかこんなイミのない青春メロドラマシーンで終わるとは・・・ よくわかりませんが、PCに“メモリー不足じゃ”って怒られてしまいました。 分ける程の話じゃないんで、正直焦っております。 さてさて、皆様の素敵な想像力で私の平凡な結末よりもイイモノが浮かんでしまわれては 何とも恐ろしい!!・・・ので、その前に後編へ行きたいと思います。 よろしければお待ちしております。 とりあえず、ここまででもおつきあいしてくださった皆様には本当に感謝しています!              ありがとうございました!!  Ema