DISCLAIMER:The characters and situations of the television program"the X-Files" are the creations and property of Chris Carter,Fox Broadcasting, and Then-Thirteen Productions.No copyright infringement is intended. v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v このお話は“Only Sky 〜hero〜”を前編として続いております。 こんなイミのわからない話とはいえ“あんなトコで終わったら気になるやんけ”なーんて 思ってくださった方に読んでいただけると、とっても嬉しいです。 前編でもう懲りたと思う方はこれ以上先に進まない方がいいですっ!! 不幸になっちゃいますよう・・・ゼッタイ。 “それでもイイワ”という方だけお読みくださるようお願い申し上げます! v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v.v      【THE X−FILES】        TITLE ”Only Sky 〜truth〜”                WRITTING BY Ema Minuki ガチャッ ひょこっとモルダーが顔を出した。 「――どうやら無事ご帰還のようね」 スカリーが顔だけドアの方に向けて言った。 彼女の向かいにはガード教官――フィリアが頬杖をついて座っている。 二人ともあんまり笑顔なのでモルダーはちょっと面食らってしまった。 「僕がいない間に随分と親睦が深まったみたいで寂しいな」 「あなたもグレッグと宇宙旅行を楽しんでたみたいじゃない?羨ましいわ」 モルダーは口だけでちょっと笑って答えた。 「なかなか有意義な経験だったよ。水星からスーパーマンの惑星クリプトンまで回ってきた。 スーパーマンの私生活まで覗ける旅なんてまず無いだろ?しかも饒舌なライトスタッフが 一緒だったしな」 「それは良かった」 片眉を上げてしれっと言うスカリーの態度にフィリアが吹き出した。 「おもしろいわね、あなた達って。  さてと、そろそろ仕事に戻らなきゃ。もうすぐ会議なのよ。でもここはあまり人も近付  かないし、よければゆっくりしていってちょうだい」 そう言って腕時計を見ながら立ち上がる。 「それじゃまたね、ダナ。――モルダー捜査官、あなたって楽しい人ね」 含み笑いを浮かべてモルダーを見た後、目で挨拶を送るスカリーに小さく手を振って部屋 を出ていった。 ドアが閉まるのを確認し終わると、モルダーはそっとスカリーを見下ろす。 「・・・何を言ったんだ?」 「真実ってヤツよ」 そう言うなりスカリーはソファーに座り直した。 「・・・で?グレッグとの二時間から収穫はあったの?」 足を組み替えて、すぐ横の窓に寄り掛かったモルダーの方へ向き直る。 「まあ・・ね、推測の域を越えていないけど。――聞きたいかい?」 「・・・・・・」 何か言い返そうと開きかけた口を必死に閉じた後、ためらいがちに小さく頷いた。 そんな彼女の態度に、モルダーは目を見開いた。 「どうしたんだ?珍しいじゃないか」 いたずらっぽい笑みをして、さっきまでフィリアの座っていた場所に腰を下ろす。 「じゃあ、君の気が変わらない内に・・・」 手を組んでずいとスカリーに顔を近付ける。 「単刀直入に言えば、彼―キャンベル教官は何かを見たんだ」 「・・・何か?」 スカリーも背もたれから体を起こして姿勢を正した。 「やっぱり、彼ほどの腕の持ち主が、あんなところで墜落事故を起こすのは不自然だ」 「だからって、何を見たって言うの?・・・UFOとか言うんじゃないでしょうね?」 スカリーの返答に、モルダーは“予想通り”とばかりの表情を作る。 そして今度は自分の膝に頬杖をついて話を再開した。 「何もUFOとは言わないさ。・・・いや、でもそうかもしれない。  たぶん彼は一介の国民が見てはいけない物を見てしまったんだ」 「どういう事?もしかして、その何かに・・・撃墜されたとでも言いたいワケ?」 いきなり核心を突いた言葉に、モルダーはしばし空を見つめてから、はっきりと頷いた。 「って、誰に!?一応、キャンベル教官の操縦ミスとされてるのよ」 「さっき、グレッグの部屋で空軍基地を示した地図を見たんだ。それでピンと来た」 真剣に言ってるらしい彼に、スカリーは腕組みをして口を開いた。 「つまり、軍の仕業だって言いたいのね。・・・で、その根拠は?」 「ないよ、そんなもの。僕の直感だ」 モルダーは腕を頭の後ろに組み、ソファーに寄り掛かかる。 さらっと答える彼にスカリーはあからさまに大きく息を吐いた。 「モルダー・・・、それって大変な事なのよ、大問題よ?何の証拠も無いのにそんな事  言うもんじゃないわ。まさか軍用機が民間機を撃墜するなんてこと・・・」 「それはどうかな?これまでに似たような話はいくつも聞いた事がある。もちろん、  証拠なんてどこにも無いけどね。と、言うより無くて当たり前だ。それこそ君の言う  大変な事に、軍や政府が証拠を残すワケがないだろ?機密の為なら、奴らには何でも  アリだ」 「でも、訓練範囲内で起こった事だわ。あまりにもムチャクチャよ。それに、耳鳴りの  件とはどう結び付くのよ?」 モルダーは立ち上がって窓の外を見た。そのまま話を続ける。 「ここの訓練空域はあそこに見えるサルバンの山脈を境にしているらしい。だが、結構  いい加減なもので、訓練に起伏をつける為に山脈を越えた少し先まで飛ぶ事を許して  いるそうだ。あの山を越えると、かなり視界が開けて遥か遠くまで見渡せるらしいよ。  何かが見えてもおかしくないほどにね。  それから、耳鳴りの件に関しては君はどう思うかわからないけど、僕はキャンベル教  官から送られる一種の“危険信号”じゃないかと思う。彼は表面上はともかく、生徒  思いのようだったからね。生徒達に二の舞はさせたくないんだろう」 突拍子も無いモルダーの意見に、スカリーは返す言葉も無く絶句してしまった。 しかし、彼の意見は頭っから否定できない事もない。彼の意見に証拠が無いのと同じ様 に、キャンベル教官の墜落が操縦ミスだという証拠も無いのだ。しかし・・・ 突然、人の話し声が微かに聞こえてきた。こんな話を聞かれては大変な事になる。 「今日は帰りましょう。ここはマズイわ」 「・・・ああ」 二人は少し薄暗くなった部屋を後にした。 >><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>> モーテルの部屋に戻った後も、スカリーはモルダーの話が頭から離れなかった。 もちろん、信じている訳ではない。 彼の言ってる事はあまりにもいいかげん過ぎる。何の裏付けも根拠も無いのだ。 ただ、もしも、もしもこんな事が本当だとしたら、フィリアはどう思うだろう・・・? 彼女の為にも謎は解決したい。少しでも彼女の力になってあげたい。何となく彼女の 抱えている思いは他人事のように感じられないのだ。 そして、自分の相棒の顔を思い出す。彼は事件や謎を解決する為なら手段を選ばない。 “真実”を求める為なら自分の命の危険をも顧みない。それがモルダーだ。 スカリーはこれから先を思うと頭を抱えたくなってしまった。 気分転換にシャワーを浴びようと思い、ジャケットに手をかけると、常に在るべき物の 所在を感じなかった。慌てて体中を探ってみる。 あれ・・・?無い、・・・無い!!・・・・・・IDが無い!!! スペシャル超特急で今日一日の記憶を辿る。 ・・・そうだっ!!あの待合室でフィリアにおふざけで見せてと言われて、そのまま話 が盛り上がってしまった。その後モルダーのとんでもない話を人に聞かれそうになった 為にさっさと部屋を出てってしまったのだ。たぶんあの机に・・・ スカリーは自分のこんな失敗が信じられなかった。FBIがIDを忘れていくなんて聞 いた事が無い!気を抜き過ぎた自分を思いっきり罵った。 急いで取りに戻らないと!! 車のスペアキーを引っ掴んで、隣の部屋に聞こえないよう、そおっとドアを閉める。 当然、こんな事をモルダーに言えるワケがないっ! 彼が自分の部屋を訪ねない事を祈って、スカリーは走り出した。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 息せき切って待合室に駆け込むと、探していた物が案の定、机にポテンと転がっていた。 今日ほど写真写りがサイアクの自分が載ったIDを愛しく思った事はない・・・ スカリーはそれを取り上げて今度こそキチンとしまう。 一安心して、スカリーはもと来た廊下を歩き始めた。 生徒達も寮に帰ってしまったようで、人通りは全く無い。 モルダーに気付かれるとやっかいなので、早く戻ろうと思って足を速めた途端、人の怒鳴り声 が聞こえてきた。 驚いて、足を止める。それ以前にその声に聞き覚えがあったのだ。 フィリア・・・? すぐ先にある大きな扉の向こうから聞こえるようだ。 「納得できません!!どういう事ですか!?」 「だから何度も言ってるだろう?私にはどうする事もできないんだよ!国務省からの突然  の命令なんだ!」 「だからって、何の理由があって国務省が捜査打ち切りの命令を下すんですか!?」 ――捜査打ち切り!? スカリーは思わずドアに近付いた。 「私にはわからないよ。ただ、我々の勝手な判断だけでFBIを呼んだ事について、大変  なお叱りを受けた。例の現象についても話したが、取り合ってもらえなかったよ。  それどころか、訓練空域の境界線を僅かとはいえ越えている事に突っ込まれてしまった。  今すぐに処置をとらねば大変な事になる!・・・わかってくれ、もともと我々の違反か  ら始まった事なんだ。いくら安全地帯とはいえ、教育者として軽薄過ぎた。  例の地点の手前で、新たに訓練空域を定めよう。さらに狭まってしまうが、別に訓練に  影響を与えるほどでもない」 「でもっ・・・・!!」 「これは命令だ」 フィリアの声が聞こえなくなった。どうやら争いの相手はバルナック校長のようだ。 が、再びフィリアの静かな声が聞こえた。 「・・・わかりました。私からFBIの方々にお話します。  でも、その前に私自身で原因を突き止めさせて頂きます・・・!!」 バタンッ!! スカリーの横のドアが勢い良く開いた。 「ダナッ・・・!?」 「フィリア!・・・あの、ごめんなさい、話し声が聞こえて・・・」 フィリアは構わず歩き始めた。スカリーは急いで後を追う。 「それじゃ、打ち切りの話も?」 フィリアは歩きながらスカリーに顔を向けた。 「ええ・・・、本当にごめんなさい、立ち聞きするつもりは」 「いいのよ。謝るのはこっちの方だわ。せっかく来てもらったのにこんな事になっちゃって」 そう言いながらも心ここに在らずの彼女に、スカリーは尋ねた。 「ねえ、突き止めるって一体どうする気なの?」 「決まってるでしょう?例の地点に踏み込むのよ!そもそも私は真相究明に行ったチームに  加えてもらえなかったのよ!?それなのに、こんな結果は納得いかないわっ!!  あんなバカげた噂の真相、私が突き止めてやるわ・・・!!」 スカリーは彼女の危機迫る表情に本気を感じ、立ち止まった。 そして先を急ぐ彼女の後姿に叫んだ。 「待って!!」 スカリーの大声に思わずフィリアは振り向く。 「私も連れてって・・・!!」 >><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>> 「タワー!!こちら、ガード・・・フィリア・ガードよ!!離陸するわ!!」 “タワーより!!・・・って、ガード教官!?どうしたんですか!?もう時間が” 「いいから離陸許可を出して!!あなたには迷惑かけないよう、後で取り計らうから!  ・・・お願いっ!一刻を争うのよ!!」 “わ、わかりました!離陸どうぞ!!” こんな様子の離陸を、スカリーは冷や汗もので経験した。 暮れかかった空に飛び出してから、もう10分ほど経つ。 乗り慣れない小型飛行機の振動、管制員からの追及を逃れる為に、フィリアが自ら遮断し たヘッドホンのような無線機、黙り続けるフィリア・・・これら全てが暗くなりつつある 視界に味方する為、スカリーの恐怖が一層掻き立てられる。 大丈夫かしら・・・? フィリアはあの時普通の状態ではなかった。本来なら彼女を止めるべきであったのに、勢 いに任せてこんな方法を取ってしまった自分に今日二度目の叱咤を下す。 ふと窓の外に目をやると、モルダーの言っていたサルバンの山脈らしきものが目前に迫 ってきた。飛び出して大分経つはずなのに、やっと境界線に差し掛かるとは。 訓練飛行空域とはいえ侮れないものだとスカリーは思った。そしてこの先が例の・・・ 「ごめんなさい、あなたまで巻き込んでしまって」 離陸以来黙り続けていたフィリアの声が無線越しに聞こえた。 「私が自分で言い出した事だわ。それより・・・大丈夫?」 様子を伺うスカリーの優しい声音に、彼女が僅かに顔を歪める。 「・・・私、何やってるんだろう?あんな啖呵を切った上に飛行訓練時間を破って、おま  けに無線まで遮断して!私がこんな事をしたところで何かが解決する訳でもないのに」 「フィリア・・・」 「キャンベル教官がいたら、間違い無く叱られるわね、教育者失格よ。本当にごめんなさい・・・  私、今日の自分が信じられないわ」 彼女の瞳にはありったけの自責の念が込められていた。 「私も今日同じ事を思ったわ。実はさっき、待合室にFBIのIDを忘れて来てしまったの。  信じられる?FBIだっていう証明書をよ?私だって自分が信じられなかったもの。  でも、急いで戻ったらちゃんとあったわ。だから・・・大丈夫よ。今すぐに戻ればね」 フィリアが薄く微笑んだ。 「何だかあなたには励まされてばかりね。  ・・・そうね、戻りましょう。今すぐ戻って謝れば罰も軽くて済むかも!」 そう言って、無線を再び繋げたその瞬間!! スカリーはとてつもなく不快な感覚に襲われた。一気に目眩、頭痛が思いきり伸し掛かかる。 何、この感覚!?・・・もしかしてこれが!? 今まで経験した事の無い位の酷い気分に見舞われて、体が言う事を聞かなくなってくる。 「ダナ――!?どうしたの!?」 突然のスカリーの異変に気付いたフィリアが声をあげる。 フィリアは大丈夫なの・・・!? 視界が少しずつ霞む――もうろうとしてくる思考を振り切って、フィリアの方を向いた。 が、その時彼女は呆然と遠く前方を見つめていた。スカリーも彼女の視線を追ってみる。 刹那、シャッっと青白い光が霧のように飛び散り、暗い空に跡を残す。 今の・・・? キイイィィィィィィン・・・ 考える間も無く無線機から聞こえる、えもいわれぬ大音響がスカリーの頭の芯を強く突いた。 必死に悶えたところで目の前の光を奪っていく闇に勝つ事ができそうにない。 最後の力を振り絞って、歪んでいる景色の中にいるフィリアを探す。 彼女は無線機に手を掛けて、何かを必死に叫んでいた。 “キャンベル教官っ・・・!!” 最後に聞こえたのはフィリアのこの言葉だった。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「ダナ、気分はどう?」 「ええ・・・もう大丈夫みたい」 時計の秒針の音がやたらと頭に響く。ここは待合室だ。 スカリーが意識を取り戻した時、すでに飛行機は着陸していた。 今は気分も大分良いが、あの時の感覚は思い出したくも無いほどだ。原因はもちろんわからない。 当然、あの後何が起こったのかもわからない。 わかっているのはフィリアだけはあの感覚に襲われなかった、という事だけだ。 「一体、何があったの?」 「・・・・・・・・・・・」 フィリアは顔も上げずに黙っている。 そんな彼女の横顔を、スカリーはじっと見つめた。その隙に、自分の無け無しの記憶を探る。 薄れて行く意識の中でも――見た物がある。ハッキリと瞳に焼き付いている物がある。 あれは一体何だったの? 頭の中をリフレインするあの光景、自分に襲いかかった例の現象。 これじゃあまるで・・・!! “彼は一介の国民が見てはいけない物を見てしまったんだ” “キャンベル教官から送られる一種の゛危険信号"じゃないかと思う” モルダーー!!?ちょっと待ってよ、冗談でしょう?・・・こういう時はまず、落ち着かなきゃ。 スカリーは深呼吸で頭のリセットボタンを押した。そしてうなだれたままのフィリアに近寄る。 もしも私の記憶が確かなら、フィリアも見ていたはずよね。 「ねえ?私、意識を失う前にある光を見たような気がするの。たぶんあなたも見・・・」 「ダナ!!!」 スカリーの言葉に被ってフィリアが突然叫んだ。 「信じてもらえるかしら?こんな事。・・・あの時、聞こえたの。キャンベル教官の声が。  “何やってる?教官自ら規則を破るとは何事だ!?”ってね。その後、こう言ったの。  “お前を信じて頼もう。二度とこの先には踏み入るな。生徒もだ!・・・危険だ”って。  それだけ。どうやって戻って来たのか、私もよく覚えてないの。夢でも見たのかと思った。  ・・・でも、耳の奥に残ってるのよ、彼の声が!」 彼女自身、半信半疑のようだ。だが、きっぱりとした声で続ける。 「でもね、何だか吹っ切れた。たとえ夢でも彼から話を聞く事ができたんだもの。  呪いなんかじゃないって事もわかった。きっとこんな話、誰も信じてくれないと思うけど、  “私だけ”はわかってる。ダナ、あなたの言う通り彼は皆にわかってもらいたいなんて思っ  てないみたい。彼は生徒達が安全ならそれでいいのよ。・・・だから、私に出来る事は一つ  だけ、彼の代わりに生徒達を守る事だけよ」 そう言って、記念写真の前に立ち止まった。 「・・・それから、私はずっとキャンベル教官が事故を起こした理由ばかり気になってた。  あんな場所でヘマをするような人じゃないもの。ずっと原因を突き止めたかった。  もしも彼の事故死に裏があったとしたら、絶対に許せない!・・・ってね?  でも、それだけだわ。今更わかったところでどうにもならないのよね。何をしたところで彼  は帰ってこないんだもの。私のやり場の無い怒りが大きくなるだけなら・・・  真実なんて知らない方が幸せかもしれない」 スカリーは何も言わずにただ、彼女の話を聞いていた。 フィリアはわざと私の質問を遮ったに違いない。彼女は間違い無くあの光景を見ていた。 そして彼女の中を様々な想像が駆け巡った。 しかし彼女はその想像をひとつに絞ることよりも自分の教官としての立場を選んだ。 彼女は自分で答えを出したのだ。これ以上私が踏み入る事じゃない。 「ごめんなさい、勝手な言い分ね・・・。あなた達には何て謝ったらいいのかわからないわ。  せっかく捜査に乗り出してくれたのに」 心底申し訳なさそうに謝るフィリアに、スカリーは首を振った。 「いいのよ、あなたの所為じゃないもの。それに・・・わかる気もするわ、その気持ち」 穏やかな雰囲気がふんわりと広がる。 「でも、私の方こそごめんなさいだわ。勢い良く付いて行ったのに何の役にも立たなくって」 きまり悪そうに微笑むスカリーの言葉を、フィリアは慌てて遮った。 「そんな事ないわ!あなたがいなかったら、あの興奮状態のままどうなってたかわからない  もの!本当よ!?」 必死で訴える彼女にスカリーは笑ってしまった。 「モルダー捜査官にもちゃんと話して、謝らなきゃね。どうすればいいかしら?」 「モルダーには私から話すわ」 「でもそんな訳には・・・」 「いいの。私から話したいの」 少し驚いたが、真っ直ぐに自分を見据えるスカリーにフィリアは頷いた。 >><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>> コンコン 控えめにドアをノックする。が、しばらく待ってもモルダーは出て来ない。 もう一度強めにノックすると、ようやくドアがゆっくり開いた。 「スカリー?すまない、ウトウトしてた」 モルダーはネクタイを外したワイシャツ姿に、少し髪を乱して登場した。 目を擦って、とりあえずスカリーを部屋に通す。 「どうしたんだ?・・・って、もうこんな時間か」 腕時計を見ていっぺんに目が冴える。 「ちょっと話があるの。その・・・TV消してもらえるかしら?」 目線をあさっての方に飛ばしながら言うスカリーにハッとして、慌ててムフフ番組全快の TVスイッチに手を掛ける。 この調子じゃ、私が出かけてた事も気付いてないわね・・・ スカリーは一気に気が抜けて、何を話そうとしたのかど忘れしそうになってしまった。 「で、何だ、話って?」 痛い視線を逃れようとして、そそくさと窓の方へ寄って、天気なんて確認してみる。 そんなモルダーの後姿に、スカリーは本題をぶつけた。 「捜査が打ち切りになったわ」 途端、モルダーが顔つきを変えて勢い良く振り向いた。 「捜査打ち切り!?・・・どういう事だ?」 スカリーは言葉を選んで自分が経験した事、フィリアとキャンベル教官の事をそれとなく 説明した。が、あえて謎の光については省く。彼には話さない方がいいと思ったのだ。 モルダーは黙って話を聞いていたが、スカリーの話が途切れると、おもむろに口を開いた。 「どうしていきなり国務省が絡むんだ?」 「わからないわ。私はもちろん、フィリア達すらね」 「僕の推測もあながち間違ってなさそうって事かな」 そう言って、新たに自分の推理を築こうとする彼に、スカリーは堪り兼ねて言った。 「・・・もうあきらめましょう。キャンベル教官の事はすでに事故死と結果が出て、一度  は解決してるの。今回は死傷者も出てない単なる調査依頼なのよ?相手側に正式に打ち  切りを申し出されたら、私達にはどうしようもないわ」 モルダーは意外だとばかりにスカリーを見た。 「軍や政府の陰謀に民間人が巻き込まれたのかもしれないんだぞ?ガード教官の為にも  僕らが真実を暴くべきじゃないのか?」 「どうやって?またどこかの基地に不法侵入でもするつもり?いつも無事でいられるとは  限らないのよ?奴らには何でもアリだって言ったのはあなたでしょう?真実を暴く前に  あなたがどうにかなったら何の意味も無いじゃない!」 気持ちが高まる・・・彼とのこんな言い争いは日常茶飯事のはずなのに。 「あなたはいつもそう!勝手にいなくなったり、ムチャしたり、その度に周りがどれだけ  心配するか考えた事ないの!?」 「心配なんて・・・」 「する人がいないなんて言わせないわよ。あなたはFBIに必要な捜査官なの!そう思っ  てる人は何人もいるわ。一人残されたあなたのお母さんは?それに・・・!」 “私は?”と、言いかけて口をつぐんだ。 雰囲気からスカリーの言いたい事を察したのか、モルダーが力無くベッドに腰掛けた。ゆ っくりと手で顔を覆う。スカリーも息を整えて、隣にそっと座って話を続けた。 「――それに、フィリア自身が言ったのよ、“真実なんて知らない方が幸せかもしれない”  って」 「なぜだ?愛する人を奪われた理由を突き止めたくないのか?・・・それに、真実を求め  るのが僕らの仕事だろう?」 「私達の仕事は真実を求める事であると同時に人々を苦しみから救う事でもあるのよ。理由  を突き止めても失った物は戻ってこない。いたずらに真実を求めたところで、必ずしも  皆が救われるとは限らないわ。・・・フィリアはその事を知ってたのよ」 モルダーはあの時のグレッグの表情をふと思い出した。 しばらく二人は黙った。 「それは現実から目を逸らすって事か?」 静かに言うモルダーの言葉が少しだけ痛かった。 「厳しい事言うわね・・・確かにそうだわ。でも、全ての人間があなたと同じような感覚  を持ってる訳じゃないもの。わかっていても割り切れない部分があるものよ。  そこのところはわかってあげて?」 スカリーは軽く微笑んでポンポンとモルダーの手を叩いた。ゆっくり立ち上がってドアに 向かう。 パタン スカリーはそのままドアに寄り掛かって考えた。 モルダーに思わず怒鳴ってしまった時、何故か自分とフィリアが重なって見えた。 “誰にもわかってもらえないまま去ってしまったキャンベル教官”について悲しんでいた フィリアが、先の自分を見ているような気がしたのだ。彼女には偉そうな事を言ったもの の、モルダーには同じ目に遭って欲しくない。だからこそ自分の口から彼に言っておきた かった。 もしもこの先、モルダーが同じように原因不明で命を落としたら私はどうするだろう・・? やはりフィリアと同じように目を逸らしたくなるかしら? ・・・いいえ、何が何でも原因を突き止めるでしょうね。政府だろうが軍だろうが関係なく! ここまで考えて自分自身が可笑しくなってしまった。 これじゃ、モルダーに言った事と矛盾してるわ。・・・いつのまにか私も普通の人の感覚じゃ なくなっちゃったみたいね。 ドア越しに自分をこんな風にした張本人を見据えて、コンと軽くドアに八つ当たりした。 >><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>> 空港へ向かう前に必ず学校へ寄って欲しいとフィリアから連絡が入った。 学校に到着すると、グレッグともう一人の男子学生が出迎えてくれた。 どうやら空港まで飛行機で送ってくれるらしい。レンタカーは学校の方から責任を持って 返すとの事で、もう一人の学生に鍵を手渡した。 「って事は君が操縦するのか?」 ちょっと不安げなモルダーの質問にグレッグが笑い出した。 「違いますよ、訓練空域をカンペキに越えてるんで。操縦するのはガード教官です。僕は単な  る付き添いです。・・・ちなみに“例の地点”も通りませんから御安心ください」 スカリーは何気に気を遣ってくれているグレッグに微笑み返したが、フィリアがあの出来事の 後、どうなったのか気になりだした。 「ねえ、私、先に行ってフィリアと話してくるわね」 そう言って走り出した彼女の背中を見送った後、グレッグが空を仰いだ。 「今日は良い日ですね、雲ひとつないや。最高のフライトが経験できるかもしれませんよ!」 「そうだな、ヒーローが飛んでてもおかしくなさそうな空だな」 モルダーの言葉にグレッグが“あなたも結構ノッてくれる人ですね”と、嬉しそうに笑った。 「ヒーローか・・・、僕はなれそうもないな」 少し自嘲を含んだモルダーの声に、グレッグは“信じられない”という顔付きで食い付いた。 「何言ってるんですか!?あなたこそ本物の陸上のヒーローでしょうが!もしかして今回の事  を気にしてるんなら大間違いですよ。少なくともガード教官はあなた方が来てくれたお陰で  吹っ切れたって言ってました。あの人、お礼代わりにどうしてもあなた方を空港まで送りた  かったらしくって、今朝方までゴキゲンで許可の申請に走り回ってたんですよ。  ・・・僕もアゴでコキ使われましたから」 「君も手伝ったのか?」 「ええ、“あなた、モルダー捜査官と仲いいんでしょ!?”ってね」 参ったという視線を向けてグレッグは話し続ける。 「僕もあなたが来てくれてよかったです。あんな話が出来たのはキャンベル教官以来ですよ。  よかったらまた“未確認地上物体”に乗りに来ません?」 無邪気に言う若い友人にモルダーは神妙な顔を近付けて囁いた。 「ヒーローには世間体もあるんだ。・・・あの時の事は誰にも言うなよ」 「は・・・・・・?  それってあなたが“未確認地上物体”にハマって〇〇ドルもスった二時間の事ですか?」 きっぱりはっきりデカい声で言うグレッグの頭を軽くこづいてやった。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「モルダー捜査官、本当にごめんなさい!謝っても謝りきれないわ」 中に入るなり、フィリアがモルダーに平謝りしてきた。スカリーも同じくバルナック校長に 捕まって謝られているようだ。 「いや、君が謝る事じゃない。もう気にしてないよ。  それに・・・君も色々と大変だったんだろう?スカリーから聞いたよ。」 「ありがとう、でも私は大丈夫よ。大したお咎めも受けずに済んだの。  ・・・ダナが言ってたわ、あなたは本当に仕事熱心で、真実を求める為にいつも一生懸命だって。  そんなあなたに来てもらったのに、こんな事になってしまって心から申し訳なく思ってるわ。  それから、打ち切りの件だって私からあなたに直接お話するのが筋なのに、ダナに任せてしまっ て、彼女にも合わす顔が無いくらいよ」 ここまで真剣に謝られると、モルダーも弱ってしまう。彼女はきっとこういう事はキッチリ しないと気が済まないんだろう。 “彼女って誰かに似てないかしら?”モルダーはスカリーの言った事を突然思い出した。 ――誰かってもしかして・・・ 「でもね、モルダー捜査官!いくら仕事の為とはいえ無理はしちゃいけないと思うわ。きっと  私にはわからない色々な事件があるんだと思うけど、真実は突き止めた本人が無事でいて、  初めて暴かれるものよ。ダナには私と同じ思いはしてもらいたくないのよ。  ・・・ってアナタ聞いてるの!?モルダー!!」 ドスの聞いた最後の一言でモルダーは我に返った。慌てて降参ポーズを取る。 美人が睨むと迫力だ。が、この感覚にはとっくに慣れている。 「ああ、肝に命じておくよ」 モルダーの言葉を聞くと、彼女は満足そうに笑って向こうへ駆けて行った。 間違い無い・・・ ようやくバルナック校長から解放されたスカリーがモルダーの方へ戻ってきた。 彼女は君に似てるんだよ、スカリー・・・ 飛行場に出ると、頭上をかすめる排気音と風圧が一気に襲って来た。 しかし、そんな事も気にならないほど空は深く青い。 そんな空をモルダーが見上げていると、横から小さな、けれど騒音に負けてない声が聞こえた。 「モルダー、・・・その、昨日は興奮しちゃってごめんなさい。何て言うか、あなたはもっと  自分を大切にするべきだと思ったの。でもね、別に真実を求めようと励むのが悪いって言って  る訳じゃないのよ?・・・だってそれがあなただし、私達の仕事でもあるし。  でも、でも、真実を求めてもいい事ばかりじゃないって事や、引き際も大事だって事をもう  少し考えた方が・・・」 “こういう事はきっちりしないと気が済まない彼女”第一号がしどろもどろと真剣な顔で話す ので、モルダーは下を向いて吹き出してしまった。 スカリーはなぜモルダーが笑い出したのかわからず、少々不機嫌になってきた。 モルダーは下を向いたままスカリーに言う。 「ちゃんとわかってるよ。・・・いつも君が僕を心配してくれてる事、いつも君が、君だけが  僕を見ててくれてるから、僕は安心して真実を追いかけられるんだ。  ・・・君がいてよかった」 そう言ったところで、少し照れくさいが顔を上げる。が、 彼女はいなかった・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 彼女はすでに遥か前方で飛行機に乗り込もうとしているところだ。 ・・・どうしていつもこうなるんだろう?まるでマンガだ。 「何やってるんですかあ!?スカリー捜査官は乗り込んじゃいましたよ!ガード教官はとっく  に待機してるんで急いでくださいね!!」 横をドタバタと遠慮なく通り過ぎるグレッグを見たら、何だかアホらしくなってきた。 空はくやしい程青く、風は憎らしいほど爽やかに全てを包み込む。 真実を逃し、告白を聞いてもらえず、頭に来ているはずなのに――なぜか心は温かかった。 その理由も何となくわかっている。 真実も逃してしまったけれど、せっかくの告白も聞いてもらえなかったけれど、フィリア、 グレッグ、キャンベル教官、そしてスカリー、皆それぞれの思いやりという収穫があった。 たまにはこんな終わり方の“Xファイル”もいいかもしれない―――― ダッ!っとモルダーは飛行機目掛けて駆け出した。 空は青い、吸い込まれそうに深い。何だか気分がハイになってきた。 考えてみれば、何をするにも頭上には必ず空がある。僕の求める真実も、僕の告白も全て空 は揺るぎ無い位置で見ていた。 「なあ、グレッグ!!」 飛行機に乗り込む直前の彼を呼びとめる。 「はいぃ!!??」 「スーパーマン・・・ヒーローは本当にいるかもしれないぞっ!!」 「ハアァァ!!??突然何を言い出すんですかあ!?」 逆風にビュンビュン吹かれても何とか返事を返す彼に、モルダーは思いっきり笑顔で叫んだ。 「真実は空だけが知ってるんだ!!」 >><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>><<>>The END<<>><<>><<>><<>><<>>>      このようなとんでもなくムリのあるお話を最後まで読んでくださった皆様へ     ほんっとうに感謝感激!声を大にして御礼を申し上げたいですっ!!   改めて初めまして。私はEmaと申すものです。 皆様の素晴らしいFICにのめり込んでしまった結果、ついに自分で書くという無謀な行為を 働いてしまいました・・・ 本当に考えナシの設定なので、“何が言いたい?”と思われた方や“つっこみたい”という衝動 に駆られた皆様には心からお詫び申し上げます。 しかし駄作ながらも何とか書き上げる事が出来たのは、皆様の素敵な作品があったからこそです! ありがとうございました!!!!!書いててとっても楽しかったです♪ 濫用(参考)文献 ・エリア88・トップガン・Lightning vol.47,1998・竜馬がゆく!・運輸省航空大学校HP もしも御意見、御感想などを頂けてしまった日には、私は幸せ死にしそうですう! m-koike@gc4.so-net.ne.jp