この作品はあくまでも作者の個人的な楽しみに基づくものであり この作品の登場人物、設定などの著作権はすべて、クリス・カーター、 1013、20世紀フォックス社に帰属します。 TITLE - Room 42 -       <モルダーの休日編>                       by yuria        * 〜  モル好き限定Ficでございます。          ご承知の上、お読みくださいませ。 〜 * 〜〜〜*〜〜〜*〜〜〜*〜〜〜*〜〜〜*〜〜〜*〜〜〜*〜〜〜*〜〜〜*〜〜〜*〜〜〜*〜〜〜*〜〜〜* モルダーのアパート     12:29 pm グレーのTシャツにジーンズをはいたモルダーがキッチンの冷蔵庫の前にしゃがんで 中を覗きこんでいる。 いつもの休日と同様、髪は軽くとかしてあるものの髭はそっていない。 そのため彼の頬から顎にかけて、青い影ができている。 冷蔵庫に入っているのは、数本のミネラルウォーターのボトルと 口の開いたオレンジジュースのパック、 3日前に賞味期限がきれたミルクに、ひからびたチーズがひとかけらのみ。 モルダーは冷蔵庫の扉に左手をかけて、なすすべもなくしゃがみこみ 何か見落としている食料はないものかとガランとした冷蔵庫を 途方にくれて見つめている。 おもむろにミルクに手を伸ばすと、パックの中を覗きこみ、匂いをかいで 決心したかのように立ち上がりミルクのパックを持ったまま、 足で冷蔵庫の扉を閉めた。 大きなマグカップに半分ほどブラックコーヒーを注ぎ、賞味期限切れのミルクを マグカップのふちまで、なみなみと入れてカフェオレをつくった。 それを用心深く一口飲んでシンクの脇におき、今度はキッチンの棚を捜し始める。 上の段からカビた食パンのはいったビニール袋がでてきた。 モルダーはうっと顔をしかめ、迷わずそれをごみ箱に放り投げた。 中段の奥から、いつ買ったのかも忘れてしまったクラッカーの箱を発見する。 箱を開けて、ひと口かじってみる。 完璧に湿気ている・・・。 彼はシンクに口の中のものをペッペッと吐き出して、 蛇口に口を近づけて水を出し、口をゆすぐ。 グレーTシャツの肩のあたりで濡れた口もとをグイっとぬぐい、 クラッカーの箱をカビた食パン同様、ごみ箱の真上からにボコンと落とす。 彼はしばらく未練げにごみ箱の中のクラッカーを見つめてから、 思い切り良く、さっき賞味期限切れのミルクで作ったカフェオレをシンクに流し キッチンの椅子の背にかけてあった黒のバルキーのセーターを着て、 グリーンのジャケットをはおり、部屋から出て行った。 2ブロックほど先のホットドッグスタンドで、ホットドッグとコーヒー、 フレンチフライを買って、スタンド前の公園へぶらぶらと歩いて入る。 公園の入り口から続く木立に囲まれた小道を抜けると、 広々とした芝生がひろがっている。 そこには、つかの間の冬の昼下がりを楽しもうとカップルや親子連れ、 キックボードにのった若者たち、犬を連れた老夫婦などがおもいおもいに、 日の光を満喫していた。 それぞれに家があり、家族があり、大切な人がいる。 若い夫婦は子供を育て、老夫婦はお互いをいたわりながら、ゆったりと暮らし、 若いカップルは愛を交し合い、子供はコロコロと犬と戯れる。 そんなあたりまえの生活をしている人々を、 暖かいホットドッグの包みを抱えたままで、 モルダーは眩しそうにしばらくの間見ていた。 あたりを見回して、隅にある空いたベンチを見つけて座り、平和で穏やかな光景を見ながら 買ってきたホットドッグとフレンチフライをほおばる。 冬の柔らかな陽だまりが心地よく、今日はそれほど冷たく感じない風が 彼の柔らかい栗色の髪をなびかせた。 風のために前髪がパラリと額に落ちた彼は、実際の年齢よりもとても若く見えた。 いつものスーツを脱いでジャケットにセーター、ジーンズ姿というせいもあるが 彼が時折見せる少年のような表情、特にそのいたずらっぽい瞳が、 彼を若く見せている大きな理由でもある。 朝昼兼用の食事を終え、コーヒーをすすりながらのんびりと 久しぶりの休日の午後をすごす。 彼はすこし眩しそうに眉を寄せて、芝生に寝転ぶ若いカップルが 自然にキスを交わすのを見て、ニンマリした。 モルダーは長い足を組み、右手にコーヒーカップを持って、 左手はベンチの背にゆったりと広げている。 カップルから少し離れたところでは、首に赤いバンダナを巻いたダルメシアンが 飼い主が投げたフリスビーを猛然と追っている。 犬がフリスビーをジャンプしてキャッチした時、モルダーはヒュ〜っと口笛を吹いた。 そして飲み終わったコーヒーカップをクシャっとつぶして立ち上がり、 昼食のごみと一緒にベンチの脇のごみ箱へと投げ入れて、公園を後にした。 公園からの帰り道、モルダーが両手の親指をジーンズのポケットにひっかけて 長い指を腰にあててぶらぶらと歩いていると、 向かい側からハイティーンのカップルがやってきた。 体にピッタリとフィットした派手なオレンジのタートルネックのセーターに タイトなブルージーンズをはき、白いダウンジャケットを着たブロンドの少女が、 じっとモルダーの顔を見つめて、すれ違う時に微笑みかけてきた。 手をつないで隣を歩いている青年が彼女を軽くつつく。 モルダーも微笑み返して少女を見送った。 彼が気を良くしてまた歩き出すと、すれ違ったカップルが クスクスと笑いあっている声が、背後で聞こえた。 アパートに着くと、彼はメールボックスから手紙を何通か取り出し、 エレベーターのほうへ小さく口笛を吹きながら近づいていく。 するとちょうど扉が開いて若い女性が一人乗り込むところだ。 今日は慌てないでのんびり過ごそうと決めたはずが、 いつもの癖でモルダーはエレベーターに向かって走り出し、 左手を閉まりかけたドアにつっこんで、無理やり乗り込んだ。 「Thank you.」 モルダーはそう言って、すこし息を弾ませながら エレベーターの扉をはさんで若い女性の反対側に立った。 彼女はモルダーの部屋のワンフロアー下の住人で、 お互いに言葉を交わしたことはないが、会えば会釈をする程度には知っている。 若いが落ち着いた雰囲気をもつブルネットのこの女性は、 彼女が降りる階につく間、チラチラと彼の顔を見つめている。 モルダーも視線を感じ、所在無いふうにモゾモゾと体を動かし、 彼女をちらりと見やって、ぎこちない笑みを返した。 ちょうどその時彼女のフロアーに着き、扉が開いた。 彼女はモルダーの脇を通り過ぎる時、彼を見上げクスっと笑いながら 小指で彼女の口もとをポンポンっと2回軽くふれて出て行った。 モルダーはハっとして、手の甲で口もとをぬぐってその手を確かめると はたしてそこには、赤いケチャップがついていた。 『しまった、ホットドッグを食べた時だ!』 モルダーは慌てて、今度は手のひらで口もとをゴシゴシとこすった。 仕上げにジャケットの袖で口をこすりながら目を上げると、 振り向いた彼女と目が合う。 「なんてキュートなの!」 彼女はそう言うとニッコリ微笑んで、カツカツと足音を響かせて廊下を歩いていった。 モルダーが絶望的な顔で両目を閉じるのと同時に、エレベータ−の扉が閉まる。 エレベーターの中で彼はなんとかポーカーフェイスを作り直し、 次のフロアーで降りた。 郵便物を脇にはさんで部屋の鍵を開け、そのまま無表情に部屋に入り、 乱暴にドアを閉めると大またで窓際のデスクに近づき、 鍵と郵便をそこへ放り投げた。 そしてキッチンへ向かい、シンクの上に備え付けてあるキッチンペーパーを 一枚とると、口を拭きながら洗面所へ入り、鏡に顔を近づけて ケチャップが他についていないかを入念にチェックした。  キッチンへ戻り冷蔵庫を開け、オレンジジュースのパックに口をつけてゴクゴクと飲んだ。 そしてまたそれを戻し、扉を閉める。 力まかせに閉めたので、バタンという大きな音とともに 冷蔵庫の上にのっていた何本かの空のミネラルウォーターのボトルが ガラガラとハデな音をたてて床に転がった。 彼は勘弁してくれというように天井をあおいでため息をつき、 転がったボトルをまた冷蔵庫の上へとのせた。 それからジャケットを脱ぎカウチに放って、デスクの上の郵便を手にとった。 不要なDMをポイポイとごみ箱に放り込んだあと、 デスクに軽く座って請求書の封を手でビリビリと破り、読みはじめた。 ブラインド越しの柔らかな冬の日差しが逆光となり、 モルダーのほっそりとした頬や逞しい顎の輪郭、それに続く首から広い肩のラインを、 くっきりと浮かびあがらせている。 彼は右ひざを少し曲げ、椅子の座面にその足を軽くかけた。 斜め45度に向けた彼の顔は、うっすらと影になり日の光で長いまつ毛が薄茶に見える。 そしてふわふわと柔らかい彼の髪も、太陽の光を受けていつもよりひときわ明るい 栗色に輝いている。 読み終わった請求書を、ひょいとデスクの上へ戻し、 最後に残った郵便を手にとる。 それはタテ10cm、ヨコ20cmほどの小さな茶色い小包で差出人は、 ニュービデオ・コーポレイション。 その名前を見たとたん、モルダーは嬉しそうにニっと笑った。 それはビデオの通信販売の会社で、彼はそこから1ヶ月に数本のビデオを買っていた。 誰かと一緒に見れるものから、一人でなければ見られないものまで その会社のレパートリーは広かった。 さっそくその包みをびりびりと破り、中から1本のビデオを取り出す。 それは官能のラブストーリー部門に入る古いTVシリーズで、 1本のビデオに1話完結で、30分のストーリーが3本入っている。 彼はこのシリーズがお気に入りで(彼に言わせるとこのシリーズは完成度の高い作品らしい) ビデオも何本か持っている。 それもすべて通信販売で買ったものだが・・・。 モルダーはさっそく新しいビデオをデッキに入れ、カウチに寝転んで その官能のラブストーリーを見始めた。 ビデオを見終わった頃には、もう部屋の中は薄暗くなっていた。 時計を見ると、5:39pm。 彼はカウチから起き上がり小さく伸びをすると、部屋の電気をつけてブラインドを閉めた。 そして少し考えてからデスクの上の電話をとり、 指が感覚で覚えてしまったほどの番号をダイヤルする。 5回目の呼び出し音で相手が出た。 「It's me....   今家にいるんだ。  仕事の資料を見てたらちょっと君に聞きたい所があって・・・。  今から夕食でも食べながら話せる?  Ah...いいんだ。大丈夫だよ。急ぎじゃないから・・・。  月曜にオフィスで会ったときにでも。あー、気にしないでくれ。  そういえば忘れていたけど僕もこれから人に会う約束があったんだ。  ・・・そう、・・・・そうだね。  じゃあ、お母さんによろしく。」 モルダーは電話を切ると、大きなため息をついて椅子に座り込んだ。 そしてデスクの上に両肘をついて、その優雅なほどに長い10本の指で 顔のほとんどを覆った。 人差し指と中指のあいだから覗いている2つのヘーゼルの瞳を のぞいて・・・。 そして恨めしそうに、夕食の役に立ちそうもないキッチンの冷蔵庫を振り向き、 しょうがないというように軽く左右に首を振って立ち上がり、 カウチに引っ掛けてあったグリーンのジャケットをまた着込んだ。 そして電話を留守電にセットすると、デスクの上の鍵をつかみ ドアへと歩き出した。 するとその時、電話のベルが鳴りだした。 モルダーはドアのところで振り向いて、電話を見つめる。 3回ほどベルが鳴ったところで、彼の声で愛想のない 留守電のメッセージが流れる。 そのあと相手の声が聞こえてきた。 「モルダー、私よ。そこにいるんでしょ。  いるのなら電話に出て。  ・・・モルダー?・・・いないの?」 モルダーはその声が聞こえてくるやいなや、ダっとデスクへと走った。 その途中でカウチの脇に転がっていたバスケットボールにつまずいて、 あやうく倒れそうになったが、すんでのところで体勢を立て直し、 デスクにたどり着いた。 しかしその時いやというほどカウチの前のテーブルに 左足のすねをぶつけて、しばらく痛みで声が出なかった。 「・・・モルダー、ほんとに留守なの?」 モルダーは左手ですねを押さえながら、右手でようやく受話器をとった。 「...Yeah.....ah...なんでもない。今出かけようとしていたところなんだ。  いや、大丈夫だ。...ほんとに?お母さんと食事だったのでは?  ああ、わかった。迎えに行こうか?...わかった。  いや、それは僕が用意するよ。チャイニーズ?いや、違うよ。ほんとだ。  じゃあ、あとで。」 モルダーは満面に笑みを浮かべて電話を切ると、 もどかしげに、袖にケチャップのシミができたグリーンのジャケットを脱ぎ捨て、 洗面所へ飛び込み髭をそり始めた。 さっぱりしたところで、クローゼットからだしてきた黒の革ジャンに着替えて部屋を見回し、 さっき見たビデオをラベルが見えないように棚の奥にしまいこみ、 テーブルの上にちらかっていた雑誌や新聞を集めて ひとまず全部ベッドルームへと移動した。 それからバスケットボールを拾い上げて部屋の隅へとほおった。 ボールはトントンとバウンドしたあと コロコロと水槽の棚の足元へと転がっていった。 そして満足げにもう一度部屋を見回すと、キーチェーンのリングに長い人差し指を入れて それをグルグル回しながら部屋を出る。 静かな廊下にモルダーの口笛と足音、 それにあわせた鍵のチャリンチャリンという音が、だんだん遠ざかって行った。                             - end - 〜〜〜*〜〜〜*〜〜〜*〜〜〜*〜〜〜*〜〜〜*〜〜〜*〜〜〜*〜〜〜*〜〜〜*〜〜〜*〜〜〜*〜〜〜*     。。。。がんばれモルダー。。。。 * この作品の中のモルダーの部屋と実際の部屋とでは、間取りが       多少違います。     < リクエストを下さった方々、ありがとうございました。       ご期待にそえるといいのですが・・・。>                   - yuria - yuria@duchovny.i-p.com Jan. 2001