===========================================================================================   この作品は、あくまでも作者の個人的な楽しみに基づくものであり、この小説の登場人物、    設定等の著作権は、すべてクリス・カーター、1013、20世紀フォックス社に帰属します。 注意! この作品には、僅かですが性的描写を匂わせる部分があります。        (ほんとに匂わせただけ(^^;))        こういったものに嫌悪される方、また適当な年齢に達さない方はすぐさま        ウィンドウを閉じて下さい。 ===========================================================================================    このFicは、夜な夜な集ったチャットでのやり取りの中で、諸先輩方から叱咤激励されて    生まれたものです。途中までは前にアップされたものと全く同じです。    はっきりいって、「おとな」な作品にはなっていないけれど、anneにはこれが限界だ・・・・。    という訳で、これを以って「おとな」委員会への面目を果たせたと今は安堵しております。    会長以下他の委員の方々、これで許してね。 ===========================================================================================  " Y2K ver.2 "         by anne   今年はいつもの年と違って年の瀬だと言うのにまだ局内には忙しく働く人々が立ち動いていた。  例の『2000年問題』というやつのせいだ。そして僕らはというと、いつもと変わりなくスキナ  ーに"早急に"というメモ付きでレポートを突っ返されて、その手直しに必死になっていた。いや、  正確には僕だけが手直しを要求されたのだが。    「モルダー、ここの写真はどうしたの? 枚数が足りないわよ。」  「ほら、タイプミスよ。早く直しなさい。」  「ここの説明がなってないわね。もっと論旨を明確にして、客観的に判断出来るようにならないと。」  「これは図入りでないと解かり難いわ。何とかなさい。」   これまたいつものように君の鋭い意見が僕の働かなくなってきた頭に突き刺さった。   君は僕の先生じゃないんだよ、スカリー。それに上司でもない。確か僕は君の先輩だった筈なの  に。レポートのミスを一々指摘されていては立場がないなぁ。・・・・そんなもの、君の前ではとっ  くに捨ててしまっているけれど。   初めはただ煩わしいだけだった君の科学への信仰。でも結局のところその君の科学に幾度となく  僕は助けられてきた。それは感謝してもし足りないほどだよ、スカリー。でも・・・・。  「あぁ、まだ旅費の清算も済ませてないのね。だらしがないったら、全く。」     呆れ果てたようにそう言って君は、御丁寧に赤ペンで添削した僕のレポートをぽいっとこちらに  放って寄越して、今度はすぐさま伝票の整理をし始めた。   全く、素敵だよ。そうやって隙のないスーツで身体を包み、仕事に余念のない君。邪魔っけに髪  を耳に掛ける仕草がとても愛らしい。     「モルダー、へらへら笑っていないで、早く仕事を片付けて。」   君のつれない声が飛んできた。   こうしてただ、君を見ていられる事が僕にとってどれほど嬉しい事だか、きっと解かってないん  だろうね。    「スカリー、今日のご予定は?」   無駄な努力だという事は重々承知の上だ。でも今日という日には聞かずには居られない。だって、  千年に一度の日、なんだぜ?    「予定なんて入れられないわよ。いつ呼び出されたもんだか解ったもんじゃないわ、特に今年はね。  でも、まさかここで年越し決定とは、なんて事かしら。」   君は壁にある時計を見上げて大袈裟にため息をついて見せた。僕のせいだと言いたいんだろう?  「それは僕にとっては幸運だね。こうして評判の美人と仕事が出来る。」  「・・・・馬鹿言ってないで早くして。」   ますます冴え冴えとした冷たい声に凍えそうだ。でも、仕事に捕まってこんなに嬉しいと思った  事はない。君とこうして特別な瞬間を迎える事が出来るのだから。  「モルダー。」  「うん?」  「貴方の方こそ、何か用でもあったのかしら?」   今、僕の顔は皮肉に歪んでいるに違いない。  「いや、何もないね。」  「そう。」   こちらを見る事もせずにひたすらPCに向かう姿にはちょっと呆れてしまう。仕事しすぎだぞ。   僕は時間を確認してから君に話し掛けた。  「スカリー、今日は何の日だか知ってるかい?」  「大晦日、よ。明日は新年。何もこんな日にここに居る事もないのにね。」  「何処かへ行きたかったのかい?」  「ん・・・・一番の思い出の場所かしら。」  「それは何処?」   君はこちらをようやく見上げて悪戯っぽい笑みを浮かべてこう言った。  「内緒。」   こうやって時折垣間見せてくれる君の素顔に僕がどれだけ虜になっているか知っているかい?     「スカリー、そら、あと10分だよ。」  「モルダー、伝票ちゃんと揃えてって言ったのに!」  「ごめん・・・・。それは僕がやるから置いといていいよ。」  「置いておくと、いつまでも清算されないのよ。」  「・・・・ごめん、スカリー。」  「あと少しなのよ、ちょっとはやる気を出して。」     僕はひたすらうな垂れた。時計の針はあと5分のところを指している。   ほんの少しでも希望がある限り、僕は望みを掛ける。  「ねぇ、スカリー。年の変わり目に何をするか知ってる?」  「・・・・何が言いたいの、はっきり言って。この忙しい時に・・・・。」   機嫌は最悪。やっぱり、だめだろうか。  「新年には側に居る人とキスしていいんだよ、誰とでも。」  「つまり、貴方としろと?」  「・・・・僕らはそうするのに十分親しい間柄だと思うんだけど。」  「良きパートナーではあるわね。感謝なさい。こんな日に残業してまで手伝ってあげてるんだから。」  「・・・・そうだね。君には感謝し通しだよ。」   相棒としての君は完璧だよ、スカリー。でもその鈍さ加減は戴けないな。   ため息をつきたいのは僕の方だ。どんなに真剣に言ったところで君にはなかなか伝わらない。簡  単にあっさりとジョークにしてくれる。   もう時間がない。セクハラだと言われようがこの際実力行使してみるか。   新たな幕開けまであと2分。  「ふぅ・・・・」   大きなため息をついて君は腕を伸ばした。そんな姿にも見惚れてしまいそうだ。そう言うと、ま  た怒られるな。       と、不意に君は立ち上がってこちら側に廻って来た。  「どうした?」  「あと、少しで年が明けるわね。」   時計を見上げてから、僕の真正面に立った。ちょっと首を傾げて上目遣いに僕を見る。  「あぁ、次のミレニアムの始まりだ。」   澄んだ君の視線を受けて、思わず抱き締めたい衝動に駆られてどうにか思いとどまる。今、この  関係を壊したら、きっと後悔するのは目に見えている。この君への持て余している感情を僕はどう  すればいいのかは解らない。でも、こうして君が側にいるだけでも満足すべきなんだろうね。  「私たち、・・・・十分親しいのね。」   思いも寄らなかった嬉しい誤算だ。はにかみながら君は顔を寄せてきた。君の手に誘われて自身  の頭を君に釣り合うように垂れさせた。動揺を隠す為に、わざと目を閉じて無理に口を突き出した。  君は笑って僕の顔の向きを変えさせた。   時計の針はもうすぐ重なる。  「A happy new year, Mulder.」   そういう言葉を聞きながら、君の唇を頬に感じた時だった。     バンッ   そんな音を遠くで聞いたような気がした。その瞬間僕らは闇の中にいた。   目を見開いていても瞼を下ろしていても全く同じなくらいの漆黒の闇。   1mm先だって見る事は出来ない暗さ。   例のY2K絡みで停電を引き起こしたようだ。今日は局にはいつもの年と違ってたくさんの人間  がいる。すぐにも復旧するだろう。しかし。   改めてここは地下だと思い知らされる。窓から洩れる月の光もない。目が慣れていないせいかも  しれないが、この都会の真ん中でこんな闇に出会う事は恐らく考えられない。   僕と君の、二人の息遣いだけが世界の全てだった。   今、世界は終わったのかもしれない。   でも君はここに居る。   そう思うだけでなんだか安心出来た。   僕は声を出すのを恐れた。   声を出すことで、君が消えてしまいそうに感じて。   しばらくは距離を保ったまま向き合っていた、と思う。そのうちあまりの暗さに耐え切れなくな  ったのか、君の手が僕を探っているのが解かった。僕は君の手を引き、そのまま自分の胸の中に手 繰り寄せた。   何故、だろう。君も一言も発さないままに何も抵抗しないままに、自ら僕の背中にそっと腕を廻  してきた。   僕は彼女の腰と肩に腕を廻して力を込めて抱きしめ返していた。   闇の中では魔法が続く。   少し苦しげに君が微かに唸ったのを聞き、ようやく少し力を緩めて今度は背中を辿って頭を、顔  を、頬を探り出した。   今、君の瞳は何処を見ているのだろうか。   僕はすぐ目の前にあるだろう君の深い碧い瞳を思い出しながら、微かに震える君に接吻けた。  拒否される事を恐れていたが、君は僕の予想を越えて、熱っぽい唇で答えてくれた。   僕の思考はその時、弾き飛んでいた。   新たな千年紀へという特別な瞬間は、こうして今までにない君との温もりを与えてくれた。   僕はおそらく初めて真剣に神に感謝した。   君と交わすキスはより深く甘いものへと変わっていった。   僕は口付けた状態で君のジャケットを脱がしにかかった。   すると君は自分でそれを振り落として、今度は僕のを取り払ってくれた。僕は君のブラウスを、 君は僕のネクタイに手を掛けて、肌に直に手を触れさせた。   吸いつくような君の肌が僕を呼んでいた。     相変わらず視界はゼロに等しかった。   その中で君の肌がオーラに包まれたようにぼうっと光って見えるような気がしていた。   見た事のない筈の君の裸体。   僕の中ではそれが存在していた。   そうして確かめるように、君の身体のあちこちを掌で弄り、舌を滑らせ印しを付けて僕の瞼の裏  のキャンバスをよりはっきりとしたものへゆっくりと完成させていった。   君の息遣いがだんだんと大きくなっていく。   何も見えない中で、お互いの身体の形を、向かう想いを確かめ合った。   どんな表情をして僕を見ているのか、解からないままに僕はぎこちなく君への侵入をはかる。   手で探って僕の頭を引き寄せて軽くキスをしてから君は、僕を招き入れてくれた。   吐息交じりの君の息遣いが押し殺した喘ぎへと変化した。   今宵、空から女神が君に降臨したのだ。   君を狂わせて僕の想いを遂げさせるべく。   その証拠に君はこうして闇の中で光り輝いている。   僕はただひれ伏して、君の輝きの影となる。   陰と陽。互いに満たない部分を満たし合う。   僕は君を愛している。永遠に。   そうして僕らはひとつになった。   停電してからどれだけの時間が経ったのか、僕らは相変わらず闇の中で触れ合ったままでいた。   さっきまでの激しさとは違う、柔らかな互いをいたわり合う想いの中で。   やがて僕はゆっくりと身体を起こして、君の頬を探ってキスをした。   頬はゆるりと笑っているように感じられた。   その事に安心して、未練ながら君から離れて自分の服を整え始めた。   同じくして、君がいるほうから衣擦れの音が聞こえた。   そして。   魔法の時は終わった。   不意に光が戻ってきた。   コンピューターが再び立ち上がろうと軽い機械音を立て始めた。   君はというと、四つん這いの格好で靴を探っているところで、僕を見上げて恥かしげに頬を染め  た。靴を揃えて立ち上がり、こちらへ歩み寄った君にはもう女神の姿はなく、捜査官としての君が  いた。   ただ、乱れた髪に僅かに女神の名残を残して。     「モルダー、」   君のいつもの声。ちょっと上擦り加減ではあるけれど。    「シャツのボタン、掛け違ってるわよ。」   そう言って照れたように僕とは目を合わせずにそれを直してくれた。   僕は君がボタンをはめ直してくれるのをじっと見ていた。   それが終わると今度は僕が、「髪がクシャクシャだ。」と言って、手を櫛替わりに梳いてやった。   君は僕を振り仰ぎ、他の奴が見たら笑顔とは絶対に気付かないような微かな笑みを洩らした。   あまりの愛しさに僕は君を再び胸の中に収める。  「・・・・A happy new millennium, Scully.」   正直言って、非難めいたことを一言も言わない君を僕は恐れていた。さっきの感触は確かに今、  この手に抱いている君のものだ。でも、あれは僕だけが感じた幻だったのだろうか。 僕は触れてはいけないものに触れてしまったのだろうか、やってはいけないことをしてしまった  のだろうか。  「私の一番の思い出の場所はね、モルダー、・・・・ここ、だったの。」   君は僕の胸に顔を埋めたままそう言うと、僕の背中に廻した腕にいっそう力を込めた。  「・・・・君も相当な変わり者だな。千年に一度の瞬間をここで迎えたかったのか?」  「そうよ。貴方と出会った場所だもの。全てはここから始まったのよ。」   僕らはこれから始まるのかな。でも、本当のところは。君はどう思っている?   僕のちょっとした不安をよそに、君はいきなり僕から離れて軽く伸びをした。  「行きましょう。」   僕は少々面食らい、君を見つめた。  「え、何処へ・・・・? まだ仕事は終わっていないしそれに・・・・。」  「どうせ、さっきの停電でここ数時間のデータは飛んでしまっているわ。それにメインのコンピュ  ーターともアクセス出来ない筈よ。明日改めてやり直しましょう。だから、今から新しい千年紀の  夜明けを見に行かない?」  「でも、・・・・。」  「何? モルダー。」  「あの、・・・・。」 「何なの? はっきりと言って。」  「・・・・」   僕には君にはっきりと問う勇気は無かった。どう聞けばいいのだろう? さっき、僕の腕に抱か  れていたのは君なのか、とでも。   しばらくじっと僕の顔を見ていた君は、ゆっくりと胸の前で腕を組む。   そのお決まりのポーズのまま、怒ったような悲しいような表情をした。  「モルダー、私が意に染まない相手と何の抵抗もなしに黙ってああなったとでも思っているの?」  「スカリー、・・・・。」   すっかり僕の考えを読んでいたらしい。さすがは長年のパートナーだ。でも、肝心な事には気付  いてくれなかったな、今までは。  「貴方だからよ。貴方だからこそ、と思ったのに・・・・、どうしてこんな事を言わせるのよ。」     ごめん、スカリー。僕は君に対して自信が無いんだ。   事実、君と最後の一線を越えてしまったことよりも、君に僕の想いが届いていたらしいことに驚  いていた。だから、つい、つまらない事を口走ってしまう。  「じゃ、今度は君を見ながら・・・・させてくれるかい?」   案の定、君の眉がこれでもかというくらいに吊り上った。   でもすぐに君の瞳の光が柔らかくなった。ここにいるのはいつもの素っ気無い有能な僕の相棒で  はなく、素顔の君だ。   僕にだけは素顔を見せて欲しい。今まで、心底そう思ってきたよ。でも、これからは・・・・。   ちょっと恥かしげに微笑んで、君は胸の前の組んでいた腕を解くと、今度は僕の首に絡ませた。    「ねぇ、モルダー。年の変わり目に何をするか知ってる?」   君は僕の耳元まで伸び上がってそう囁いた。   今度は君の瞼がゆっくりと下ろされて待ちわびるような表情を見つめながら、僕らはもう一度新  年の挨拶を交わし合った。      The End   後悔日誌 20000107     はははー。とうとうやっちゃったよ。     ・・・・真剣に"後悔"していたりして・・・・。     何だ、これは。ちっとも「おとな」していないじゃないか。     と、お怒りの皆さん、あなたは正しい。     でも、「暗闇の中で」という状況設定の誘惑には勝てませんでした。(^^)     真の闇の中に、身をおいたことがありますか?     anneは、とあるお寺でそれを体験しました。 「戒壇巡り」(と言うんだっけ?)と言って、多分、仏様の胎内を表しているのでしょう、     本堂の下をぐるりと廻るのです。全く日がささない、灯りもない中で壁を伝って歩いて     いくのですが、これは怖い。物凄い恐怖と閉塞感です。     お化け屋敷も何のその、人の気配が周りにあるからいいですが、一人だと気が狂いそうに     なっていたと思います。     途中にただ一箇所、小さく格子のはまっている中に、蝋燭のぼんやりとした明かりだけで     仏像が見えるところがありました。     こうやって見せられると、普段は不敬な私でも信心深くなってしまいます。          Y2K、何事も影響が無くて良かったです。でも、ある程度の備えをしていたので、     「何か」起こって欲しかったなぁ。人間ってつくづく現金なものだ。        ご意見ご感想などありましたら、掲示板もしくは下記までお願いします。     ccd32241@nyc.odn.ne.jp