"The X-Files"are the creations and property of Chris Carter, Fox Broadcasting, and Ten-Thirteen Productions. No copyright infringement is intended. TITLE   『Blue Lilies』 AUTHOR    Ran ・ アメリカ テネシー州 上空 04:00PM 小型のセスナの中で、Scullyがノートブック型のパソコンに報告書を打ち込んでいる。 「大丈夫、Mulder?」 気分が悪そうな様子のMulderを気遣ってScullyが声をかけた。 「ああ、ちょっと」 Mulderがうつろな視線で外を見ると、下には深い森が広がっている。 「時間がかかっても、車で帰るんだったよ」 「馬鹿言わないで。明日の朝いちばんで、報告書を提出するようにSkinnerに言われてい るのよ。車じゃ、間に合わないわ」 Scullyはパソコンから目を外さずに答えた。 「それに、Dr. Carterとのデートの約束もあるんだろ?」 ScullyはMulderの言葉を無視して、報告書を続ける。 Mulderは大きくため息をつくと、憂鬱そうな顔で外を見た。 その時、「なんだ、これは!」と操縦士が大声を出した。 「どうした?」Mulderが身を乗り出し、Scullyも顔を上げた。 「計器がおかしいんです!」 計器類の針がめちゃくちゃに動いている。 「だめだ」と操縦士は叫ぶと無線機を取り上げた。 「こちらPQR65、非常事態発生、至急応答せよ」 「こちらPQR65、非常事態発生、至急応答せよ」 無線機は応答しない。 何かに引きずられるように、機体が降下していく。 「二人ともベルトを締めて!不時着します!」 操縦士が二人を振り返って叫んだ。 ・森の中、09:00PM 不時着した飛行機の中で、Mulderが頭を振り、こめかみを押さえる。「痛う」 「うーん」Scullyがうめき声を上げた。 「大丈夫か Scully、Scully」 Scullyはゆっくりと上半身を起こした。 暗闇の中、Scullyの顔をのぞき込んだMulderは彼女の額ににじんでいるのを見つけた。 「大丈夫か」とMulderがやさしく額の傷に触れた。 「ベルトのおかげで助かったわ、操縦士はどう?」 Mulderが運転席を覗き込んで、計器類に倒れ込んでいる操縦士の首に手を当てる。 「だめだ、彼は死んでる」 「そう」Scullyがため息をついた。「残念ね」 * ************************************* 二人はとりあえず、操縦士の遺体を少し離れたところに移し、安全を確認して、 再び小型機の後部座席に戻ると、Mulderが無線機を調べ始めた。 「だめだわ、つながらない」 Scullyが携帯電話のスイッチを切る。 「無線もだめだ」 Mulderが無線機から顔を上げた。 「懐中電灯が無事でよかった」 「誰か、この飛行機が墜落するところを見たかしら?」 Scullyが不安そうに尋ねる。 「わからない」 「Mulder,実はコンパスもきかないの」 Scullyが取り出してみせたコンパスの針は、ただくるくると回るだけだった。 「この辺りの磁力がなんらかの影響を受けているのかもしれないな」 Mulderが続ける 「X-FILESによれば、実はこの辺りでは1904年頃におかしな現象が起きているんだ」 「UFOでも出たの? 住人と宇宙人が付き合ってたとか?」 Scullyがちゃかしたので、Mulderは苦笑した。 「太陽が消えたのさ、真っ昼間に突然、約15分間真っ暗闇になった。その後は何事もな かったように太陽が戻ったそうだよ、皆既日食ではないことは、専門家が証明しているし、 同じ現象はウイスコンシン州でも起きている」 「そんなこと…」 Scullyが言いかけると、 「ありえない?」とMulderが引き取った。 「もちろん、街ぐるみで嘘をつく、という手はあるね。でも、それこそありえるかな」 「まあ、いいわ。少なくともこれで、明日の朝、Skinnerに報告書を出せないんだから。 気を悪くした彼が探してくれるかもしれないし」 「そうだな、でも、僕たちを抹殺したいと思っている人間も多い」 Scullyが同意する様にうなずいて、外を見る。 月すら出ていない夜で、真っ暗闇の中にうっすらと木の影が見えるだけだった。 「携帯電話や無線機やらの文明の利器なんて、壊れてしまえば何の役にもたたないのね。 こういう状況になるたびに私達人間なんて、この自然の中ではたいしたもんじゃないんだ と思うわ」 不安そうなScullyの表情を見て、Mulderが彼女の肩に手を回した。 「恐いかい?Scully」 「少し、寒いわ」 Scullyは内心、Mulderの行動に驚きながらも、理由を口にして、ゆっくりと体を預けた。 「森はあまり好きじゃないの、ここ、変な虫、いないわよね」 「大丈夫そうだよ」 二人は以前、森で未知の昆虫に襲われて、死にかけたことがある。 「あの時はひどい目にあったわ」 Scullyが低く笑いながら言った。 自分よりも重傷だったScullyが医師達の治療を受けているのを見ながら、彼女を失うかもしれない不安にさいなまれた自分をMulderは思い出していた。 絶対にScullyを死なせたくないと、心から思った、あの気持ちは何だったのだろうと、 Mulderは考えていた。 また、Scullyが誘拐され、Samanthaとの交換を要求された時も、なぜ自分は彼女の救済 を第一に考えていたのだろうか、と。 自分の監視人だと考えていた彼女が、いつの間にこんなにかけがえのない存在になったの だろう、こうして体を寄せ合っても不愉快ではない関係になったのだろう、とMulderは 森を見つめながら考えつづけた。 休暇中のキャンピングカーの中で、彼女と同じベッドで夜を過したが、その後、二人の関 係が特別なものになったようにも思えない。 休暇が明けてオフィスに戻ると、彼女は以前と変わらない態度だったので、Mulderはと まどいながらも、自分の態度を決めかねていた。 「しばらくこうしているといい」 MulderがScullyの肩に回した手を引き寄せた。 「あなた、腕がしびれるわよ、Mulder」 「かまわない」 Mulderの腕の温かさを感じながら、このまま彼と特別な関係になることに、Scullyは迷 いを感じていた。 自分が理論的で理性的な人間だと信じてきたものの、彼との特別な関係が、自分の仕事に 対する判断を迷わせることがあるのではないかと。 お互いに対する愛情を認めてしまえば、冷静な判断を失わせかねないのではないかと。 「僕は、自分の信念を通すためなら、これまで何もかも犠牲にしてきた。名誉も昇進も友 情も恋愛も、だ。それでもいい、と思ってきた」 長い沈黙の後で、Mulderが話し出した。 「人から何と思われようとかまわない。でも時々、自分だけがどんどん偏狭になっていく ような錯覚にとらわれることがあるよ、Scully…自分が少しおかしいんじゃないかと… 時々、誰かに“君は正常だ”と、言ってほしくなることがある」 黙って彼の話を聞いていたScullyは彼が泣いているのではないかと思って顔を見上げた。 すると、Mulderはじっと、外を見ていた。その暗闇の中に何かを探すように。 「じゃあ、私が言うわ……大丈夫、Mulder、あなたは正常よ、大丈夫」 “本当に?”という顔でMulderがScullyを見る。 「ちょっと…面倒な性格だけど、背も高いし、とってもハンサムよ。 事件の関係者が女 性なら、半分はあなたのとりこになるわ、私が保証してあげる」 Mulderの腕の中で、話しながら、Scullyがクスクス笑う。 「ありがとう、いつも君には助けられる。君をX-FILESに転属させてくれた誰かに、本 当に感謝してるよ」 つられたようにMulderが笑顔になった。 ・ 森の中 07:00 AM 森の中がぼんやり明るくなっている。 Mulderは一瞬、自分がどこにいるのかわからずに、周りを見回した。 自分のとなりにいたはずのScullyがいなくなっているのに気がついて、飛行機を飛び出す。 「Scully!」森に向かって大声を出すMulder。 「ここよ、Mulder」とScullyの声が応えた。 木のかげからScullyが顔を出した。「こっちへ来て」 Scullyに近づいて、彼女の指さすほうを見ると、そこは一面の真っ青な花畑だった。 「すごいな」 一旦、顔を見合わせた二人は花畑に向かって歩き出した。 * ********************************* 「これは…百合かしら?、でも見たことのない色だわ」 Scullyはしゃがみこんで、花を見つめる。 百合の花に似たそれは、毒々しいほど鮮やかなブルーだった。 「新種なのかも知れない、君も僕も普段は花なんかと無縁の生活だからね」 と、Mulderは花に顔を近づけてにおいをかぐ。 「そうね、でも、不思議な色だわ、考えてみるとこんなにあざやかな青い色って花にはな かなか見ないもの」 Scullyは立ちあがると、手についた泥は叩き落としながら、ふとMulderの顔を見て「花 粉がついたわよ」と笑いながら指で鼻の先を触れた。 「実は、向うに人の家らしきものがあるの、電話が借りられるかもしれないわ」 * ********************************* 「The Ford養蜂場」壊れかけたような看板の前をMulderとScullyが通りすぎて、さら に小道を歩くと、大きな母屋が見えてきた。 「うちに何かご用?」 その時、後ろからふいに話し掛けられて、二人は驚いたように振り返る。 そこには、女性が立っていた。 こんな森の中にいるには、妙に美しい、真っ白い肌に透き通るようなブルーの瞳、鮮やか なブロンドを無造作に後ろにまとめている。 「実は昨夜、飛行機がその先に不時着してしまって、困ってるんです。よろしければ、電 話をおかりできないかと思って」 Mulderが礼儀正しく答えた。 「そうですか、でもうちには電話がないんです」 女性が冷たく答える。 「ああ、では車をお借りできませんか?私達、FBIのものです。必ずお返ししますから」 ScullyがFBIのIDカードをサッと提示したが、女性は驚いた様な様子もなく「では、姉 に相談を。どうぞ」と母屋に向かって歩き出した。 二人はちょっと顔を見合わせ、女性について歩き出した。 ・ Ford家 リビングルーム 10:00 AM 「なんだろう、ちょっと変な感じがする」 女性が部屋を出ていくと、ソファに座ったMulderがScullyの耳元でささやく。 「そうね、何かしら。それに、彼女の目の色、あの花の色に似ていると思わない?」 「花の精?」 Mulderがわざと大きく目をみはる。 「かもね。そのうち、虫達が出てきて、みんなで歌ったり踊ったりしてくれるわよ」 めずらしくScullyが調子にのって答えた。 「それにしても無愛想だな」 「世の中はいろんな人がいるってことよ」 と、片方の眉を上げてScullyがMulderを見る。 「こんなに困っている人間を見たら、普通はもう少し親切にしないかい? それに、昨夜、 君が言ってたんだよ、女性関係者の半分は僕のとりこだって」 あんなこと言うんじゃなかったとScullyが後悔した時、突然、ドアが開き、さきほどの 女性が別の女性を伴って入ってきた。 もう一人も同じような鮮やかなブルーの瞳と金色の髪をしているが、少し年上のように見 える。 「姉のMaryです。Anneから話しは聞きましたわ、お困りだそうですね」 二人の姉妹はお互いの手を握り合ったまま、MulderとScullyの正面のソファに座った。 「すみません、出来ればお車をお借りできないかと」 と、Scullyが切り出す。 「ごめんなさい、車はずいぶん前に故障してしまって」 MulderとScullyが不思議そうな顔をするのを見たMaryは、 「うちはご覧の通り養蜂場をやっておりますの。町から週に一度、集めた蜜を町から取り に来てもらってます。その時に必要な買い物も頼んでしまうものですから、特に車や電話 が必要ないのです」 弁解するように続けた。 「ちょうど明日、ここへ来る予定になっておりますから、今晩はここでお休みになったら? 二階のお部屋をお貸ししますわ」 その時、突然、大きな稲光がしたかと思うと、急に部屋が暗くなり、雨が激しい勢いで窓 ガラスをたたき出した。 驚いたようにScullyが窓を見上げる。 「まあ、ちょうど天気も悪くなってきたようですわ、どうか、そうなさって」 Maryが、うっすらと笑う。 「じゃあ、お言葉に甘えて」 Mulderが答えた。 Scullyは“気味が悪い”と抗議したかったが、Mulderはこちらを見ることもしない。 「では、Anne、お部屋にご案内を」 Maryに促されてAnneが立ち上がった。 「あ、ところで…」とScullyが口を開く。 「ここに来る途中で、青い花を見たんですけど。あれは何ですか?」 Maryが何の事かわからないというような不思議そうな顔で首をかしげる。 「さあ、なんのことかしら? 私達、あまり家の外には出ないものですから」 Anneがさっさと歩き出したので、仕方なく二人は後に続いて部屋を出ていった。 ・ Ford家 二階 客間 11:30 AM 古めかしい部屋にMulderとScullyを案内すると、Anneは何も言わず、パタンとドアを 閉めて出ていった。 「ずいぶん使ってないみたいね、この部屋」 ベッドカバーをポンポンと払ってから、ベッドに座ってScullyが言った。 「あ、雨が上がってる…」 と窓から外を見ながらMulderが呟く。 空は真っ青に晴れ上がり、先ほどの激しい雨や雷がうそのようだった。 そして少し離れたところに、この雨でさらにいろ鮮やかに、あの真っ青な百合の花が見事 に咲いているのが見えた。 「通り雨だったのかしら」 Scullyが答えた。 「でも、なんだか変な感じがしない?あの姉妹」 「こんな人里離れたところにいるには、美人すぎるってことかい?」 Mulderはぼんやりと花畑を眺めている。 「そうじゃなくて、何と言うのかしら、何か隠していることがあるって感じがしない?」 「実は両親を殺して、庭に埋めたとか?」 Mulderがちゃかすように答えたので、Scullyが思わず微笑んだ。 「それにこの部屋って…」 Scullyの声の調子が変わったので、Mulderがベッドに座った彼女を振り返った。 「…ベッドがひとつしかないわ」 “ああ”というようにMulderが肯く。 「問題ないだろ、あのキャンピングカーにもベッドはひとつだったよ」 「でも、この部屋にはあなたが横になれそうなソファはないし、それに、あの、Mulder、 確かにあの夜は、私とあなた…」 Mulderが近づいてきたので、思わずScullyは立ち上がった。 「僕と何?」 「少しロマンテイックだったけど…」 「ロマンテイック?どうしたの?いつもの君らしくないよ」 Mulderがどんどん近づいてくるので、Scullyはなんでもないという様に手を振りながら、 後ずさり、とうとうチェストのところまで追いつめられた。 「Mulder、あなたちょっと変よ、どうしたの?」 「ちょっとおかしなな気分なんだ、さっきの花の花粉のせいかもしれない…」 Mulderがチェストに手をついたので、Scullyは彼の手の間にすっかり閉じ込められるよ うな格好になる。 「Mulder…大丈夫?」 「どうかな」 MulderがScullyの唇をじっと見詰めると、Scullyにキスするようにゆっくりと体を近づ ける。 Scullyがそれを防ぐように彼の胸に手をあてたが、Mulderは右手でさっと払うとそのま ま彼女を抱きしめた。 「あの花粉には、何か特別な作用があるのかもしれないよ、Special Argent Scully」 Scullyの耳元にささやく。 「Mulder…駄目よ、やめて、私、まだ…」 Mulderの形の良いやわらかな唇が、腕の中のScullyの耳にやさしく触れた。 そして、Scullyが思わず頭をそらした瞬間、いきなり周りが真っ暗闇になった。 二人が反射的に窓を見る。 あの花畑が青く輝いているのが、遠くからでもはっきりと見通せた。 MulderがScullyから離れてすばやく窓際に走ると、MaryとAnneが家から青く輝く花 畑のほうへ走っていくのが見えた。 「二人が!」 彼の言葉で、Scullyがきびすを返してドアのほうへ走り出す。 「だめだわ、鍵がかかってる!」と叫ぶ。 後から来たMulderが何度か激しくドアに体当たりしたが、ドアは動かない。 「Mulder、離れて!」 Scullyが銃を抜いた。 パンパンパンという音で、ドアノブがふっとんだ。 「行きましょう!」 Mulderがすばやく懐中電灯を点けると、二人は部屋を走り出た。 * ********************************* 玄関から外に出ると、真っ青な光を目指すように空からさらに明るい光を放つ物体が近づ いてくるのが、見える。 Mulderは懸命に走ったが、近づくと、光はさらにまぶしく、目を開けていられないほど になった。 「Scully、あれは…」とMulderが後ろを振り向いた時、自分の少し後ろで、呆然と目を 見開き、薄く口を開けて立ち尽くすScullyの姿を見つけた。 「どうした、Scully、大丈夫か?」Mulderが叫ぶ。 しかし、Scullyは全く表情を変えず、Mulderには明るすぎて直視できない光を、まっす ぐに見詰めている。 Scullyの目の色が光に吸い込まれていくように見える。 「Scully!」 MulderはScullyに駆け寄って、光から守るように、胸にグッと胸に抱きしめた。 「大丈夫か?」 Scullyは答えない。 再び、一瞬周りが暗闇になり、今度はさらに明るい光が強くなった。 Mulderは自分も強く目をつぶった。 * ************************************* やがて、Mulderが薄く目を開けると、風景はすっかり元に戻っていた。 空は青く晴れ上がり、白い雲が浮かんでいる。 ただ、あの青い花畑だけがあったところが、まるで今、掘り起こしたように土色に変わっ てしまっていた。 「Scully?」 Mulderは腕の中のScullyにそっと呼びかける。 気がつくと彼女は、Mulderのシャツがくしゃくしゃになるほど強い力でしがみついてい た。 「私…こわかったわ、Mulder」 弱々しいScullyの答えが返ってきた。 Mulderが体を離すと、まだ、Scullyはぼんやりした表情をしている。 「大丈夫か?」 MulderがScullyの顔を両手で包んで、のぞき込んだ。 「ええ…多分」 「目は? 何ともない?」 Scullyは何度か瞬きをしてみせた。「大丈夫みたい…」 その時、バラバラという音と強い風が二人を包んだ。 Mulderが再びScullyを強く抱いて、腕を自分の顔を庇うように上げてから上を見上げる と、ヘリコプターが降りてくるところだった。 「MulderとScullyだな」 ドアが開いて、男が呼びかける。 二人はハッとしたように離れると「そうだ!」とMulderが大声で答えた。 「支局の者だ、乗ってくれ!」 男の言葉でにMulderはScullyを促し、二人はヘリコプターに向かって駆け出した。 ・ FBI本部 ワシントンD.C 9:00 AM MulderとScullyは、朝いちばんでSkinnerの部屋に呼ばれた。 二人は部屋に入ると、不機嫌そうな顔で報告書を読む上司の前に座った。 「とにかく、無事で良かったな、二人とも」 報告書から顔を上げたSkinnerが口を開いた。 「ところで…」 Skinnerが少し言いにくそうに、咳払いする。 「支局のヘリが着いた時、二人で抱き合っていたという噂は本当か? Mulder」 Scullyが赤くなって目をそらした。 「本当か、というご質問にはYesとお答えするほかありません」 Mulderが答えると、Skinnerが大きくため息をついた。 「それは、君たちに関する噂を肯定するということなのか?」 「信じていただけるかどうか、わかりませんが、あれ空から…」 と、Scullyが言いかけた時、 「どういう噂も特に否定するつもりはありません」 Mulderがさえぎるように答えた。 「そうか…よくわかった、他にいい訳することはないんだな」 Skinnerは報告書をパサッと閉じると、確認するように言った。 「はい」と、Mulderが答える。 「では、さがって結構だ。仕事に戻りたまえ」 「ご心配をおかけしました」 Scullyの言葉で、二人は立ち上がって、部屋を出ていった。 Skinnerは二人の出ていったドアをしばらく見つめていた。 後から入ってきたMulderがオフィスのパタンとドアを閉じると、Scullyはすばやく振り 返った。 「どういうこと、Mulder、なぜSkinnerにあの光の事を言わないの」 「言ってもどうにもならないよ、いつもの君なら信じないようなことだろう」 Mulderはおもしろそうな顔で、自分のデスクに近づいてよりかかる。 「まあ…だいたい私達に関する噂って… あなた気にならないの?」 「人の噂を気にしても仕方がないよ、Scully、僕はそれをいちいちいい訳して歩く趣味は ないね、君には悪いけど」 Scullyは思わず黙り込む。 「なあんて…実は喜んでるんだ、これでおおっぴらに君とキスできる」 おどけて言ったが、Scullyが何も答えないので、「冗談だよ」と、Mulderが弁解するよう に微笑んだ。 「もう、いいわ」 Scullyもつられるように微笑んだ後、ふと、真面目な顔になってMulderをじっと見る。 その後、自分の足元を見るように目をそらした。 「Mulder…実は、ちゃんとお礼が言いたかったの、よく覚えていないけど…あの時、あの 光るものが近づいてきた時、あなたが側にいてくれて…その、本当に助かったわ。ありが とう。あれが何かだったかはともかく、私にはとても恐かったの。」 Scullyはそこまで言って、Mulderが優しい表情で自分を見詰めているのに気がついた。 「なに?」 「今のお礼はいらない。僕らはパートナーなんだから…それに、僕の方こそいつも君に心 配をかけてる」 「でも、あなた、私がいなかったら、あの光を追いかけて行けたわ」 「人生は長いよ、Scully。彼らにはいつかまた会えるさ」 Mulderが周りの壁に張られた写真やメモを見るように目をそらして、 「君に何かあるほうが、今の僕には辛いからね」 と、思い切ったように続けて、Scullyを見つめた。 二人の間にやさしい沈黙が続く。 Scullyの携帯電話が鳴り出した。 「電話だよ、Scully」 MulderがScullyから目を離さずに教える。 「知ってるわ」 Scullyはちょっと考えるような表情をしたが、結局は電話をそのままにして、Mulderに 近づいた。 「実は、私…」Scullyが何かいいかけた時、Mulderが両手で彼女の頬を包んだ。 「知ってるよ」 Mulderが小さくつぶやく。 Scullyの電話が鳴りつづけるなか、二人の唇がやさしく触れ合った。 やがて、Scullyの両手がMulderの背中にまわって、それは情熱的なキスになっていった。 The End