____________________________________________________ DISCLAIMER:The characters and situations of the television program "The x-files" are thecreation and property of Chris Carter, FOX Broadcasting and Ten-Thirteen productions ,No copyright infringement is intended. TITLE:桜色の時間 前編 SPOILOR:none AUTHOR:cat ____________________________________________________  心に強く印象に残っている光景がある。 満開の桜の木の下で僕は君にプロポーズをした。 君は目を大きく見開いて僕を見つめていた。 そして、僕が不安気に君を見つめると、         君はゆっくりと微笑んだ。 −−−桜色の時間−−− ***結婚式前日・スカリーの部屋*** 「いよいよ、明日ねぇ」 そう言って、スカリーは僕の隣に座り、僕の肩の上に頭を 乗せた。 「えっ、何が!?」 僕はあえて知らぬ顔で聞いた。 「・・・わかってるくせに」 スカリーは僕を見つめた。 「君の口から聞きたいんだ。何か夢を見ているみたいで ・・・、信じられなくて」 僕の言葉を聞くとスカリーは悪戯っぽく笑った。 「いいわ、じゃあ言ってあげる。明日は私とあなたの 結婚式の日よ」 僕はスカリーの言葉を聞くと、彼女を強く抱き締めた。 「僕はなんて幸せなんだろう!!」 「ちょっと、モルダー苦しいわ」 そう言ってスカリーは幸せそうに微笑んだ。 ***翌日・教会*** 「ダナ、おめでとう」 そう言いながら、スカリーの兄ビルが控え室に入って きた。 「ありがとう!!ビル」 純白のウェディングドレスに身を包んだスカリーは、こぼ れ落ちるような笑顔を浮かべた。 「あいつの事がいやになったら、すぐ戻ってこいよ」 「ビル、ダナは戻ってこないわよ」 ビルに続いて、母親のマーガレットが入ってきた。 「何たってダナは7年越しの恋を実らせたんですもの、 フォックスから離れるわけないわ」 「ええ、ママの言う通りよ、ビル、残念ながら モルダーと別れるなんて事はないわよ」 スカリーは輝く程の笑顔を浮かべた。 「ダナ、あなたはきっと、幸せになるわ」 マーガレットはそう言って微笑んだ。 「ええ、きっと幸せになるわ」 ****** 式開始まで後5分だというのに、その日、モルダーはまだ 教会に現れなかった。 「・・・遅いわね」 スカリーは大きなため息をついた。 「スカリー!!」 血相を変えたスキナーが控え室に入ってきた。 「・・・副長官!?」 スカリーは突然、胸騒ぎを感じた。 「スカリー、落ち着いて聞くんだ」 「・・・副長官、まさかモルダーの身に・・・」 スカリーは込み上げてくる不安を押し殺しながら、スキナ ーを見た。 「・・・モルダーが事故にあった」 険しい表情を浮かべたスキナーは、静かにそう言った。 ***病院*** スカリーが病院に行くと、人工呼吸器につながれたモルダ ーがいた。 その姿はあまりにも痛々しかった。  「モルダー、モルダー!!」 スカリーはモルダーの側に行き、彼の手を握った。 しかし、モルダーの意識はなく、何の反応もなかった。 「ご家族の方ですか?」 モルダーの治療を担当した医師が、重たい表情で、スカリ ーに話しかけた。 「・・・彼の婚約者です」 スカリーはありったけの理性を集めて、そう答えた。 「そうですか。私は彼の治療を担当したDrゲイリーです 」 「・・・彼の容態は?」 スカリーは静かにそう言い、担当医を見つめた。 「・・・脳の損傷が酷く、危険な状態にあります」 スカリーは担当医の言葉を聞くと、張り詰めていた 感情が一気に爆発し、その場にゆっくりと倒れた。   ***一週間後・病室*** モルダーの意識は未だに戻らなかった。 「モルダー、また来たわよ」 スカリーはそう言って、ベットの側に座った。 「モルダー、今日はいい天気よ。風がとても気持ちいいわ 。そうだあなたも、風を感じてみる?」 そう言って、スカリーは病室の窓を開けた。 その瞬間、病室は初夏の香りを感じさせる爽やかな風で 包まれた。 「ねぇ、今日の風は気持ちがいいでしょ?」 スカリーはそう言って、モルダーの手を握った。 「・・・私たちの結婚式の日から今日で一週間が 経つのね」 スカリーは思い出したように呟いた。 「あぁ、6月の花嫁になりそびれちゃったわ、モルダー この責任はとってもらうわよ」 そう言って、スカリーは笑った。 「・・・今日ね、モルダー、あなたの担当医が・・・ 人工呼吸器を外さないかって言ったの」 スカリーは涙を堪えながら言った。 「ねぇ、モルダー、そろそろ起きてよ、これ以上私を 不安にさせないで・・・」 スカリーの声は涙で掠れていた。 ***半年後・スカリー家*** モルダーは人工呼吸器を外したにもかかわらず、奇跡的に 意識不明のまま生き続けていた。 「ダナ、いい加減、奴の事は諦めろ」 ビルが静かに言った。 「・・・諦めるって?一体何の事よ」 スカリーはきょとんとした表情でビルを見つめた。 「今日病院に行って、担当医に聞いたんだ、もうモルダー は目覚める事はないって」 ビルはスカリーを見つめた。 「・・・だから、何?臓器移植を待っている人たちにモル ダーの臓器を配れというの?」 スカリーはビルを睨んだ。 「ああそうだ。おまえは医者だろ?そうする事が一番 いいってわかっているはずだ」 「やめて!!そんな話聞きたくないわ!!」 「ダナ、現実を見ろ!!奴は、モルダーは死んだも同然 なんだ!!!」 「いいえ、彼は、モルダーは、生きているわ!!!」 スカリーは体中から声を張り上げ、ビルを睨んだ。 ***病室*** 「あなたは生きているわ、例え意識がなくても、心臓が 力強く打っている、体温だってあるわ」 スカリーは眠ったままのモルダーの胸に頭を乗せた。 「・・・モルダー、今日はクリスマスイブよ、私、ちゃん とあなたにプレゼント用意したわ、だから、お願い、 あなたも私に何かちょうだい、お願いよ、モルダー、目を 開けてくれるだけでいいから・・・」 スカリーはそう言って、モルダーの胸の上で泣き崩れた。 ****** 「・・・ごめんなさい、重かったわね」 暫くして落ち着きを取り戻すと、スカリーはモルダーの胸 から顔をあげた。 「モルダー、あなたはどうしたいの?お願い、教えて」 スカリーはモルダーを見つめ、彼の唇にそっと指で触れた 。 「もし、このまま目覚めないのなら、私は医師として、 あなたの臓器を、移植を待っているドナーたちに提供しな ければならないわ。あなたは本当にそれでいいの?」 スカリーは溢れる涙に声を震わせながら言った。 「お願い、モルダー・・・いいえ、フォックス、あなたの 答えを聞かせて・・・NOなら、いますぐ目覚めてよ」 ***翌日・スカリー家*** 「ダナ、起きてたの?」 スカリーがリビングのソファーに座って、クリスマスツリ ーを眺めていると、マーガレットが起きてきた。 「・・・ええ」 スカリーは静かに呟いた。 「ねぇ、ママ、私はどうすればいいの?ビルの言う通り モルダーの臓器を、ドナーに提供するべきなの?」 スカリーは不安気にマーガレットを見つめながら言った。 「・・・ダナ」 マーガレットはスカリーを抱き締めた。 「・・・モルダーの命で救われる人がいるのなら、臓器を 提供するのが一番いいと思うのはわかっている。でも、 モルダーは・・・フォックスは・・・まだ生きているわ、 彼を抱き締めると、温かいの、心臓だって力強く打ってて ・・・今にも起き上がって、私にいつものジョーク を言いそうなの・・・それでも、彼は死んだも同然だと 言うの?」 スカリーは込み上げてくる涙に、顔を歪ませた。 「ダナ、あなたの望むようにしなさい、きっとフォックス だってそれを望んでいるわ」 マーガレットは優しく言い、スカリーを守るように抱き締 める腕に力を入れた。 「ママ・・・」 ***病院*** 「・・・決めました」 スカリーはしっかりとした態度で担当医に言った。 「本当にいいんですね、スカリーさん」 担当医はスカリーの突然の返事に驚きの表情を浮かべた。 「彼の命で誰かが助かるなら、私も、彼も、後悔は ないと思いますから・・・」 「そうですか、それではこの書類にサインをお願いします 」 担当医はそう言って書類を渡した。 ***病室*** 「モルダー、さっき書類にサインしたわ」 スカリーはベットの横に座り、眠っているモルダーに 話しかけた。 「・・・これでよかったのよね、モルダー」 スカリーは自分を納得せるように呟いた。 「・・・モルダー、愛してるわ、例えあなたと永遠に 会えなくても・・・私はあなただけを・・・愛し続ける」 そう言うと、スカリーはモルダーの唇と自分の唇を重ねた 。 「・・・愛してる」 唇を離すとそう囁き、スカリーはモルダーの胸の上に 頭を乗せ、彼の心臓の鼓動を聞き、静かに目を閉じた。 ****** スカリーが目を開けると、病室の中は薄暗かった。 「あら、私ったら、眠っちゃったのね」 そう呟いて、起き上がると、スカリーは病室の様子が いつもと違うことに気づいた。 「・・・モルダー?」 スカリーはそう言って、窓の側に立っている人物の方を 向いた。 スカリーの声を聞くと、窓の外を見つめていた彼は、 ゆっくりとスカリーの方を向いた。 スカリーは月明かりに照らされた彼の顔を見ると、 彼に駆け寄り、抱きついた。 「・・・モルダー、あなたなのね、本当にあなたなのね」 スカリーの言葉を聞くと、モルダーはスカリーから離れ、 不安気な表情で彼女を見つめた。 「・・・モルダー!?」 不自然なモルダーの態度に、スカリーも不安気にモルダー を見つめた。 「・・・君は、誰なんだ?」  スカリーはそう呟いたモルダーの言葉に大きく目を見開 いた。 「モルダー、あなた・・・」 ***一時間後*** 「・・・記憶喪失ですな」 医師は重たい表情で言った。 「記憶喪失?そんな・・・どうして?」 スカリーはあまりにも唐突な医師の言葉に、戸惑いを 隠せなかった。 「モルダーさんは事故で、脳の損傷が酷く、それで 記憶の一部を失ったと思われます。しかし、幸いにも他の 機能については正常に働いていますので、元の生活に戻る 事は可能です」 「・・・記憶の一部と言うと、どれくらいの事を覚えて ないんですか?」 「まだハッキリした事はわかりませんが、おそらくこの 7、8年間分の記憶を失っていると思われます」 スカリーは医師の言葉に、表情を強ばらせた。 「・・・7、8年間分・・・それじゃあ、今の彼の記憶の 中に私はいないんですね」 「・・・はい、今の患者にある記憶は明らかにあなたに 会う前のものです」 「・・・それで、治る見込みはあるんですか?」 「明日にでも記憶を取り戻すかもしれませんし、又は 10年後に取り戻すかもしれません・・・もしくは永遠 に戻らないかもしれません」 医師は苦渋の表情を浮かべた。 「・・・それってつまり、何時モルダーの記憶が戻るか わからないということですか?」 「・・・簡単に言ってしまえばそういう事です。とにかく 治療方としては、患者と話す事です。しかし、たくさん の事は言わないで下さい、患者は混乱してしまいますから 。患者の今の記憶にあった話しをしてして下さい」 ***3日後・病室*** 「こんにちわ、モルダー」 スカリーはそう言って、モルダーの病室に入った。 「やあ、え〜と、君は・・・」 「スカリーよ、ダナ・スカリー」 「・・・スカリーか、そういえば聞き覚えのあるような気 がする」 そう言ってモルダーは優しく微笑んだ。 「あら、それは嬉しいわ。ああそうだお見舞いにこれ持っ てきたのよ」 そう言ってスカリーはひまわりの種をモルダーに渡した。 「ありがとう!よく僕の好物がわかったね」 「そりゃあ、あなたとの付き合いが長いんですもの」 「えっ、僕と付き合いが長い?一体どれくらいなんだい? 」 「・・・あなたとパートナーを組んでもう7年になるかし ら」 「・・・7年!?そんなに・・・」 モルダーはそう呟いて、下を向いた。 「どうしたの?私、何か変な事言ったかしら?」 「いや、君のせいじゃないんだ。ただ・・・7年もパート ナーを組んでいる君を、思い出す事のできない自分が 歯がゆくて」 モルダーは苦しそうな表情で、スカリーを見つめた。 「・・・モルダー、慌てる事はないわ、少しづつでいいか ら、これからゆっくりと思い出せばいいのよ」 スカリーはそう言って、微笑んだ。 「ありがとう・・・スカリーさん」 スカリーはモルダーにそう呼ばれた時、胸の奥に痛みを 感じたが、表情には出さなかった。 「・・・モルダー、スカリーでいいわ、あなたに”さん” づけで呼ばれると・・・調子が狂うわ」 そう言って、スカリーは自分の感情を隠すように笑った。 「えっ、ああ、わかったよ。ところで僕の退院は何時に なるんだい?」 「明日よ、その時迎えに来るわ、それじゃあ、モルダー 明日ね」 そう言って、スカリーは病室を出た。 ***夜・スカリーの部屋*** スカリーはベットに入ると、今日会ったモルダーの 事を思い出していた。 『ありがとう・・・スカリーさん』 モルダーの言ったその一言が何度もスカリーの耳に響いて いた。 私を見つめるモルダーの瞳は、確かにモルダーなのに、 モルダーじゃない別人に見つめられた気がした。 私に微笑みかけるモルダーの笑顔は、確かにモルダーなの に、モルダーじゃない別人に微笑みかけられた気がした。 私の名を呼ぶ声は確かにモルダーなのに、 モルダーじゃない別人に呼ばれた気がした。 そう、モルダーは初対面の他人を見るように、 知らない人間を見るように、私を見た。 スカリーはモルダーの自分に対する態度に、枕を濡らした 。 ***翌日・病室*** 「モルダー、迎えに来たわよ」 そう言って、スカリーが病室に入ると、モルダーの姿は なかった。 スカリーは不安な思いにかられながら、廊下に出て、看護 婦を捕まえた。 「そこの病室にいた人はどうしたの!?」 「えっ、モルダーさんの事ですか?」 「そうよ、彼はどこに行ったの?」 「さっき庭を散歩していましたけど・・・」 スカリーは看護婦の言葉を聞くと、すぐにその場を去った 。 ***裏庭*** 「モルダー!!モルダー!!」 僕が庭を散歩していると、誰かが僕を呼んでいた。 「モルダー、ここにいたのね」 僕の姿を見つけると、彼女は僕の方に走って来た。 「やあ、スカリー、どうした?そんなに血相を変えて?」 「・・・何でもないわ」 そう言って彼女は不機嫌そうに僕を見た。 「ここで何をしているの?」 「木を見ていたんだよ」 「木?」 「そう、あの桜の木を見ていたんだ」 僕が指で示すと、スカリーは不思議そうに見た。 「どうして桜の木を・・・今は花だって咲いていないし」 「さあ、どうしてかな。僕にもわからない。ただ突然、 桜の木が見たくなってね」 そう、僕は何かを桜の木に感じていた。 それが何かはわからないけど・・・。 とても幸せな何かを・・・。 To be continud. 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 後書き 変なところで切ってすみません。 リクエスト箱のアイーマさんのリクエストを見て、 このficを思いつきました。ネタをくれたアイーマさん ありがとうございます。 ここまで、拙いficにつき合ってくれた方、 ありがとうございます。 ご意見、ご感想など頂けると嬉しいです。 catwalk@clio.dricas.com 以上catでした。