____________________________________________________ DISCLAIMER:The characters and situations of the television program "The x-files" are thecreation and property of Chris Carter, FOX Broadcasting and Ten-Thirteen productions ,No copyright infringement is intended. TITLE:桜色の時間 中編 SPOILOR:none AUTHOR:cat ____________________________________________________ 「僕と結婚して欲しい、ダナ」 桜の木の下で彼は私にそう言った。 あまりにも率直な言葉。 私を真っ直ぐに見つめるヘーゼルの瞳。 いつもとは違う彼の真剣な表情。 私は彼の真剣な想いを知った。 ーーー桜色の時間 中編ーーー ***XF課*** 退院してから一週間が経ち、僕は記憶の戻らないまま、 元の生活に戻った。 「モルダー、まだいたの?」 スカリーはそう言ってオフィスに入って来た。 「えっ、ああこの事件のファイルを読んでいたんで・・・ 君こそどうしたの?こんな時間に」 モルダーはファイルから視線をスカリーに移した。 「忘れ物を取りに来たのよ」 スカリーは彼女がいつも使っている机からファイルを 取り出して言った。 「そうか」 「何の事件のファイル読んでいるの?」 「UFO、うず虫男、吸血鬼、超能力者・・・とかの 事件さ」 モルダーはそう言って笑みを浮かべた。 「なるほど、あなたの興味をひきそうな事件ばかりね」 「ああ、これ全部僕らが捜査したなんて、驚きだよ」 「あら、そう?」 「ああ、そうだよ、どうやら僕はこの7年間XFに どっぷりと浸かっていたようだね」 「そうね、第三者から見れば異常な程、あなたはXFに 終着していたわ」 「だろうな・・・事件の報告書を見ればわかるよ。 あぁ〜、どうして覚えてないんだろ」 モルダーは悔しそうにため息をついた。 「その内思い出すわよ。それじゃあ、モルダー私は 帰るわ」 「あっ、待って。僕も帰るよ」 モルダーはそう言って、椅子から立ち上がり、コートを 着た。 「スカリー、一緒に帰っていいかい?」 モルダーは遠慮気味に言った。 「えっ・・・別に構わないけど」 「それじゃあ、行こうか」 帰り支度を終えるとモルダーはそう言って、スカリーと 一緒にオフィスを出た。 ***バー*** 「それで、あなたは下水道の中で、うず虫男と格闘したわ け」 ほろ酔い気味のスカリーが言った。 「えっ、下水道!?」 モルダーはスカリーの話に顔をしかめた。 「そう、下水道だったわ」 そう言って、スカリーは目の前のカクテルを空けた。 「・・・XFってハードな捜査なんだなぁ〜、僕はこの 7年そういう事ばかりやってきたのかい?」 「そうね。あのたもよくやるわよね」 そう言ってスカリーは笑った。 「他に聞きたい事件とかある?」 「いや、もういいよ。これ以上聞くのが恐くなってきた」 モルダーはそう言って笑った。 スカリーはカクテルのお代わりを飲むと、思い切ったよう に言った。 「・・・ねぇ、あなた病院で桜の木見つめていたじゃない ?あれって何か思い出したの?」 スカリーの言葉を聞くと、モルダーは暫くグラスを 見つめてから、口を開いた。 「・・・ああ。思い出したというより、思い出しそうだっ たんだ」 そう言って、モルダーは切なそうに目を細めた。 「何を?」 「さあ、何かな?よくわからないけど・・・急に胸の奥 が熱くなったんだ」 モルダーはそう言い、どこか遠くを見つめていた。 「恋でもしてたのかな?記憶を失う前に」 モルダーは自分の気持ちを茶化すように笑った。 「・・・モルダー、あなた、もし、記憶を失う前に恋人が いたとしたら・・・今もその人の事愛せると思う?」 スカリーはカクテルを見つめながら言った。 「えっ、さあ、それはわからない。まっ、でも、きっと 僕の片思いだったのかも」 「あら、どうしてそう思うの?」 スカリーはモルダーを見つめた。 「だって、もし恋人がいたら、僕が意識をとり戻した 時に一番に僕に会いに来そうだろ?・・・僕が目覚めて 最初に会ったのはパートナーの君だったし、きっと僕は 仕事一色で恋愛なんてしていなかったと思うんだよ。そう だろ?スカリー」 モルダーは軽く笑って、スカリーを見た。 「・・・ええ、そうね」 スカリーは曖昧な笑みを浮かべた。 ***スカリーの部屋*** スカリーはスーツを着たままベットに倒れ込み、ぼんやり と天井を見つめた。 「・・・モルダー」 スカリーはそう呟き、瞳を閉じた。 ****** 「・・・ダナ」 とても優しい声で彼は私の名を呼び、ベットの中で私を 抱き締めた。 「モルダー」 私は彼の名を呼び、私のお腹の前で組んでいる彼の手に触 れた。 「ダナ、愛してるよ」 耳元で囁かれた甘い言葉。 私は彼の方を向き、彼を見つめた。 そして、彼はそっと、私の唇に彼の唇を重ねた。 ***** 「・・・モルダー」 瞳を開けると、彼の姿はなかった。 ベットの側にある時計を見ると、2時間近く自分が 眠っていた事に気づいた。 「・・・夢か」 そう呟いた瞬間、彼のいない切なさが涙となって流れた。 「・・・モルダー」 ***スキナーのオフィス*** 「報告は以上です。副長官」 モルダーはそう言ってスキナーを見た。 「そうか、ご苦労だった。この件について私は 言う事はない、もう下がりたまえ」 スキナーの言葉を聞くと、モルダーとスカリーは 椅子から立ち上がり、ドアに向かって歩いた。 「・・・スカリー、君は残ってくれ」 スカリーはスキナーの言葉を聞くと、立ち止まった。 「それじゃあ、僕はドアの外で待っているよ」 モルダーはスカリーにそう言って、スキナーのオフィスを 出た。 スカリーはモルダーがいなくなると、スキナーの側に 行った。 「何か?副長官」 「スカリー、なぜモルダーに本当の事を言わない?」 「・・・本当の事?」 そう呟き、スカリーはさっぱりわからないという表情で、 スキナーを見た。 「・・・君たちが婚約していた事だ」 スキナーは一呼吸おいて、静かに言った。 スカリーはスキナーの言葉を聞くと、一瞬、顔色を変えた 。 「言いたくないなら、無理に答えなくてもいい。 ただ、君たちの事が気になるんだ。特にスカリー、君の 辛そうな表情がね」 スキナーは父親のような優しい瞳でスカリーを見つめた。 スカリーは暫くの沈黙の後、思い直したように言葉を 発した。 「彼の気持ちを束縛したくないんです。今の彼にとって 私はただのパートナーです。しかも彼の今の記憶の中では 私は知らない人間です。だから・・・」 スカリーはそう言って、辛そうな表情を浮かべた。 「・・・スカリー」 スキナーは微かに震えているスカリーの肩に、そっと触れ た。 「・・・モルダーは私の事を全く覚えていないんです。 私はずっと、その事を考えてました」 スカリーは潤んだ瞳でスキナーを見つめた。 「そして、思ったんです。私の存在は彼にとってそんなに 大きな存在じゃなかった・・・私と過ごした7年間は 彼にとって・・・記憶に残る程重要ではなかったと」 スカリーは涙に声を詰まらせ、床を見つめた。 「スカリー、そんな事はない。モルダーは君の 事を誰よりも想っていたんだから」 「・・・気休めを言うのはやめて下さい」  スカリーはスキナーから視線を外したままで、呟いた。 「気休めなんかではない。モルダーが誰よりも君を 愛していたのは君が一番わかっている事じゃないか」 スキナーはスカリーの両肩を掴み、自分の方を向かせた。 「・・・じゃあ、どうして彼は私の事を覚えてないの? どうして私と過ごした7年が記憶から消えてしまったの! !!」 スカリーはそう叫び、心の中にあった不安をスキナーに ぶつけた。 「・・・スカリー」 スキナーはスカリーの頬に触れ、涙を優しく指で拭った。 「・・・どうして」 涙に震えた声で呟くと、スカリーはスキナーの胸に 顔を埋め、泣き崩れた。 「スカリー・・・」 スキナーは今にも壊れてしまいそうなスカリーを優しく 抱き締めた。 ***XF課*** スカリーはオフィスに戻ると何事もなかったように PCに向かった。 「・・・スカリー」 「何?モルダー」 スカリーはモルダーの方を向かず、PCの画面を見つめた ままで言った。 「・・・スキナーの話は何だったの?」 「別に、大した事ではないわ」 「そう」 モルダーはスカリーの言葉に物足りなそうな返事をした。 「・・・ねえ、スカリー、もう一つ気になる事が あるんだけど」 「何?」 スカリーは尚も、PCの画面を見つめ続けた。 「君の瞳、赤いけど・・・大丈夫かい?」 そう言って、モルダーはいつの間にかスカリーの側に 立ち、彼女の顔に軽く触れ、自分の方に向けさせた。 「えっ」 スカリーは予想外のモルダーとの接近に、戸惑った。 「スカリー、スキナーと何かあったのかい?」 モルダーは心配そうにスカリーを見つめた。 「・・・何でもないわ」 平静さを装ってそう言うと、スカリーは再びPCの方を 向いた。 ***バー*** 「私に話があるとは何だね?」 モルダーが一人カウンター席に座って飲んでいると、スキ ナーが現れた。 「・・・あなたに聞きたい事があります。副長官」 モルダーは真剣な眼差しでスキナーを見つめた。 「何かね」 スキナーはバーテンにビールを注文すると、モルダーの方 を向いて、言った。 「・・・スカリー捜査官の事です」 「彼女がどうしたんだね?」 「・・・今日あなたのオフィスで彼女があなたに抱き締め られているのを見ました」 スキナーはモルダーの言葉に一瞬、表情を曇らせた。  「そして、オフィスに戻ってきた彼女の瞳は赤かった」 「・・・つまり、何が言いたいのかね?モルダー」 「率直に言います。彼女が泣いていた原因はあなたなん ですか?」 スキナーはモルダーの質問に暫く黙った後、笑い出した。 「なぜ、笑うんですか?」 モルダーはスキナーを睨んだ。 「・・・いや、すまない。君の質問があまりにも突飛だっ たから・・・。つまり君は私とスカリーが恋愛関係に あると言いたいのかね?だとしたら、君は誤解している」 「誤解!?」 「ああ、誤解だ」 「じゃあ、どうして彼女は泣いていたんですか?どうして 彼女は悲しそうなんですか?」 「・・・悲しそう?」 「彼女は、スカリーは時々、酷く辛そうな、悲しそうな表 情をするんです。それがとても痛々しく見えて・・・」 モルダーはそう言って、目の前のグラスを空けた。 「・・・悲しそうか、確かに今、彼女は悲しみに満ちて いる」 「どうしてですか?」 「・・・恋人を失ったんだよ」 「えっ」 モルダーはスキナーの言葉に、表情を変えた。 「あれは、彼女の結婚式当日だった・・・彼女はウェディ ングドレスに身を包み、最愛の男が来るのを待っていた」 スキナーはそう言うと、眼鏡を外した。 「しかし、彼女の最愛の男は来なかった」 「どうしてですか?」 「・・・彼は交通事故にあったんだよ」 そう言うと、スキナーは辛そうにモルダーを見つめた。 「それで、彼は・・・」 モルダーの言葉を聞くと、スキナーは再びグラスを見つめ た。 「・・・彼は亡くなった」 そう静かに言うと、スキナーは一気にグラスを空けた。  「・・・そんな」 モルダーはスキナーの話にショックを受け、言葉を失った 。 「・・・他に私に聞きたい事はあるかね?」 沈黙を破るようにスキナーが言った。 「・・・いいえ」 「そうか、それなら私はこれで失礼させてもらうよ」 そう言って、スキナーは眼鏡を掛け、カウンターにお金を 置いて席を立った。 「・・・そうだ。モルダー、一つ聞いていいかね?」 「何です?」 「君はどうしてスカリーの事を聞いたのかね?」 「・・・それは、パートナーだから、あんな辛そうな 表情をする彼女が心配だったんです」 「なるほど、パートナーだからか、本当にそれだけかね? 」 「えっ、どういう意味です?」 「・・・いや、何でもない。それじゃあ、モルダー」 そう言い残して、スキナーはバーを出た。 ***モルダーの部屋*** 『・・・本当にそれだけかね?』 スキナーの言ったあの言葉の意味は? モルダーはカウチに座り漠然と、考えを巡らせた。 どうしてそんなに気になるのか? 彼女の事も、スキナーの言葉も。 僕にとって彼女は一体・・・? 記憶を失う前の僕は、彼女の事をどう思っていたのだろう か? モルダーは必死に思いだそうとしたが、何も浮かばなかっ た。 ***XF課*** 「おはよう、スカリー」 僕はいつものように、彼女に声を掛けた。 「・・・おはよう、モルダー」 そう言って、僕を見た彼女の瞳には今日も、微かに涙の 跡が残っていた。 毎晩、亡くなった恋人を思って泣いているのだろうか? そう思った瞬間、何だか胸の中が切なさで一杯になった。 「・・・モルダー!?」 僕は彼女に近づき、衝動的に彼女を抱き締めていた。 「・・・スカリー、暫くこのままでいさせてくれ」 怪訝そうに僕を見つめる彼女に、僕はそう言って、抱き締 める腕に力を入れた。 「モルダー、何かあったの?」 「・・・君の話を聞いた」 僕は腕を緩めて、彼女を見つめた。 「私の話を?」 「ああ。君の亡くなった恋人の事を聞いたよ」 僕の言葉を聞くと、彼女は表情を険しくした。 「・・・その話はしたくないわ」 そう言って、彼女は僕に背を向けた。 「ごめん。ただ、君の悲しそうな表情が気になって・・・ 君が心配なんだよ」 「・・・お願いだから、そんな事言わないで・・・」 肩を微かに震わせ、掠れた声で彼女は言った。 「スカリー」 僕はそっと、彼女の肩に触れた。 「やめて、私に優しくしないで!!」 彼女は僕の手を払い、再び僕の方を向いた。 「・・・今、あなたに優しくされるのが、どんなに 辛いか・・・あなたにわかる?」 そう言って、彼女は苦しそうに僕を見つめ、瞳を濡らした 。 「・・・スカリー」 僕は彼女の頬に触れ、彼女を見つめた。 「・・・モルダー」 僕の名を呟き、彼女は僕を見つめた。 そして、僕の視線と、彼女の視線が絡み合った瞬間、 僕は彼女の唇に自分の唇を重ねた。 To be continued. 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 拙い文章を読んで頂き、有り難うございました。 ご意見、ご感想など頂けると嬉しいです。 catwalk@clio.dricas.com 以上catでした。 2000.6.8