____________________________________________________ DISCLAIMER:The characters and situations of the television program "The x-files" are thecreation and property of Chris Carter, FOX Broadcasting and Ten-Thirteen productions ,No copyright infringement is intended. TITLE:桜色の時間 後編 SPOILOR:none AUTHOR:cat ____________________________________________________ _ 僕は待っていた。 あの日、僕が君にプロポーズした桜の木の下で。 僕は君が来るのを待っていた。 ーーー桜色の時間 後編ーーー ***XF課*** 「やめて!!」 スカリーはそう言って、モルダーの頬を叩いた。 モルダーは我に返ったように、腕の力を緩めた。 スカリーは素早くモルダーから離れ、今にも泣き出しそう な瞳で彼を見つめた。 「・・・すまない」 モルダーの言葉を聞くと、スカリーは彼に背を向けた。 「モルダー、私たち暫く離れて仕事をしていた方が いいわ」 とても冷静な声でそう言うと、スカリーはオフィスから 出て行った。 「・・・スカリー」 モルダーはそう呟いて、力なく自分の席に座った。 ***公園内桜の木の前*** スカリーはモルダーにプロポーズされた桜の木の前 に立ち、木を見つめた。 桜の木は花も葉もついていなく、冬の寒空の下で哀しそう に、不安気に、そこに立っていた。 彼女は木の幹に触れ、木を抱き締めるようにもたれ、 そっと目を閉じた。 「スカリー」 突然誰かに肩を捕まれ、スカリーは驚いたように 相手を見た。 「どうした?そんな顔して・・・君らしくないぞ」 そう言って彼は優しくスカリーに微笑みかけた。 スカリーは呆然と彼を見つめた。 「スカリー。僕は10年後も、20年後も・・・その 先の未来を君と過ごせたらと思う」  そう言うと彼は、真剣な瞳でスカリーを見つめて言った。 「僕と結婚してほしい、ダナ」 彼はとても穏やかな瞳でスカリーを見つめた。 「・・・モルダー」 スカリーは涙に瞳を曇らせた。 「何があっても、何年経っても、僕は君を愛し続けるよ、 ダナ」 とても優しい声でそう言うと、モルダーはスカリーの唇に 情熱的なキスをした。 「モルダー」 スカリーはそう言って、彼の体を抱き締めようとした時、 彼の姿は消え、そこにあったのは哀し気な桜の木だけだっ た。 「・・・モルダー、モルダー!!」 彼女が辺りを見回した時には、モルダーはおろか、人の気 配は全くなかった。 「・・・今のは幻?それとも・・・」 スカリーは呆然と桜の木を見つめた。 ***XF課*** スカリーはオフィスを出たきり戻っては来なかった。  どうして僕は彼女にあんなことを? そんな疑問が彼の頭の中をかけ巡っていた。 モルダーはその日一日中仕事が手につかず、ずっと その事を考えていた。 「・・・モルダー捜査官!!」 突然、モルダーを呼ぶ声がし、彼は顔を上げた。 「・・・副長官・・・何か?」 スキナーは少し呆れたようにモルダーを見た。 「心ここに有らずか、モルダー」 「えっ、何の事です?」 「私はここに来て、君に気づいてもらうまで、5分もかか ったという事だよ」 「・・・すみません。考え事をしていたので・・・」 「考え事とはスカリーのことかね?」 「・・・いえ、それより副長官は僕に何か用ですか?」 「スカリーの事できた」 モルダーはスカリーの名を聞いて、微かに指先に力を入れ た。 「彼女に何かあったんですか?」 「いや、大した事ではないんだが、暫くXFを離れて スカリーには別の事件の捜査をしてもらう事になった。 その事を君に伝えようと思ってね」 スキナーの言葉を聞いた時、モルダーの心はそのショック に大きく動揺した。 「・・・暫くって・・・どれ位なんですか?」 「おそらく3、4ヶ月ぐらいだ。その間君は一人でXFを 捜査する事になるが・・・知っての通りFBIの規定では 捜査は必ず二人一組でしなければならない」 「つまり、スカリーがXFを離れている間、僕に新しい 相棒をつけるという事ですか?」 「ああ、そういう事だ。それで誰と組みたいか君の希望 があったら聞こうと思ってね」 「・・・希望ですか・・・希望はスカリー捜査官です。 彼女以外の捜査官と組む気はありません」 モルダーは真っ直ぐにスキナーを見つめた。 「どうして、そう思うのかね?今の君には彼女と組んでい た7年間の記憶がないのではないか?それなら誰と組んで も同じなんじゃないかね?」 スキナーは不思議そうにモルダーを見つめた。 「・・・確かにそうですが・・・でも、僕の中の何か がそう強く望んでいるんです」 モルダーは自分の中にある想いを口にした。 スキナーは驚いたように微かに眉を上げ、じっとモルダー を見た。 「・・・何か?僕の言った事は可笑しいですか?」 モルダーは不安気にスキナーを見た。 「いや、その・・・君のスカリーへの想いに改めて 驚かさせられてね」 「と、いうと?」 「つまり、その・・・」 スキナーはその後の言葉を意識的に飲み込んだ。 「君はスカリーに自分の気持ちを伝えたのかね?」 「・・・いえ。仕事上だけの関係の彼女に、そこまで 言うことは迷惑になると思いましたし・・・、それに 彼女には恋人がいたと聞いていたので・・・」 「・・・なるほど。そうか、だが、モルダー、もしこの先 もずっとスカリーとパートナーを組んでいきたいと望むな ら、自分の気持ちを彼女に話すべきだな」 「えっ!?それは一体どういう事です?」 モルダーはスキナーの言った意味がわからないというよう な表情をした。 「つまり、全ては君次第だってことだ」 そう言って、軽くモルダーの肩を叩くと、スキナーはオフ ィスから出ていった。 ***スカリーの部屋*** Trrrr・・・。 スカリーが部屋に帰ってくると、電話のベルが鳴っていた 。 「はい」 スカリーは受話器を取った。 「やあ、僕だ、スカリー」 受話器越しに聞こえてきた声は、スカリーの心を動揺させ た。 「・・・モルダー、どうしたの?」 スカリーは動揺を隠すように、わざとそっけなく言った。 「今日、オフィスから出ていったきり、戻ってこなかった だろ?どうしたのかなと思って・・・」 モルダーは少しためらいがちに言った。 「・・・ああ、アカデミーから呼ばれていたから、行って たの」 スカリーはとっさに嘘をついた。 「そうか・・・」 「そうよ」 二人は相づちをうちあうと、それっきり何も言わず 黙った。 スカリーはモルダーの沈黙に不安と、息苦しさを感じたが 、電話を切る事も、何かを言う事もできずに、呆然と受話 器を耳にあてたままだった。 「・・・スカリー」 重たい沈黙を破るように、モルダーはスカリーの名を口に した。 「何?」 「いや、その・・・スキナーから聞いたよ、君がXF以外 の事件を担当するって」 「ええ、そうなの」 「・・・もしかして僕のせい?僕が君にキスしたから・・ ・だから君は・・・」 「違う!違うわ、あなたと関係ないわ」 スカリーは自分の気持ちを隠すように、強く否定した。 スカリーの勢いに圧倒され、モルダーは少し間を 置いてから言った。 「・・・そう、ならいいんだ。それじゃあ、おやすみ スカリー」 「・・・モルダー、まって」 スカリーは意を決したように言った。 「何だい?」 「・・・その・・・桜の木」 スカリーは出かかった言葉を飲み込み、頭の中に浮かんだ ものを言葉にした。 「桜の木?」 モルダーは、不思議そうに、スカリーの言った言葉を、繰 り返した。 「・・・ほら、以前あなた、桜の木が印象深く記憶に 残っているって言ってたじゃない・・・もっと詳しく 聞きたいなあと思って」 スカリーは何とか話を続けた。 「・・・えっ、ああ、そうだな。僕の心に浮かぶ景色 があるんだけど・・・」 「その景色の中に桜の木があるのね」 「ああ、そうなんだ。その桜の木は満開の花が咲いて・・ ・・そして、穏やかな春の日に、桜の木の下に幸せそうな 笑みを浮かべている女性が立っているんだ」 モルダーはその情景が目の前にあるかのように話した。 「・・・女性ってどんな人なの?」 「・・・ぼんやりとしか見えないから、どんな顔を しているかわからないんだけど・・・」 「けど、何?」 「なぜか彼女の事を思い浮かべると、心が幸せで満たされ る」 モルダーはとても穏やかな口調で言った。 「・・・そう、きっとあなたの心の中の恋人なのね」 「まあ、そうかな、それよりどうして聞きたがったんだい ?」 「えっ・・・その、私にも桜の木の思い出があって」 「聞きたいな、話してよ、スカリー」 「・・・そうね、私、以前にある人に聞かれたの」 「何て?」 「どういう場所でプロポーズされたいって」 「それで何て答えたんだい?」 スカリーはその頃の事を思い出して、”クス”っと笑って から言った。 「ちょうどその時、満開の桜の木が目に入ったの。だから 私、その人に、今日みたいな穏やかな日に、満開の桜の花 が咲く、この木の下でプロポーズされたいって言ったの。 そしたらその人・・・」 「どうしたんだい?」 「・・・私を真剣な瞳で見つめて言ったの・・・僕と結婚 してほしい、ダナって・・・」 スカリーはその時の幸せな気持ちを思い出して、涙ぐんだ 。 「・・・なるほど、それは素敵な思い出だね、スカリー」 「ええ、とても・・・」 そう呟くとスカリーは切なそうに目を細めた。 ***モルダーの部屋*** モルダーは電話を切ると、カウチに横になった。 「桜の木か・・・」 そう呟くと、モルダーはため息を一つつき、スカリーの話 を思い出した。 『私を真剣に見つめて言ったの・・・』 彼女はとても幸せそうに話した。 やはり、彼女の中には、まだ亡くなった恋人で一杯なんだ ろうか。 殴られて当然か・・・。 モルダーはスカリーに平手打ちをくらった頬に触れ、昼間 の自分の行動に苦笑した。 「なぜあんな事をしたんだろう?そして、なぜこんなに彼 女の事が気になるのだろうか?」 モルダーは胸につもる想いを口にし、瞳を閉じた。 ****** 「スカリー、今日はいい天気だぞ、歩かないか?」 そう言って、僕は公園を指した。 「もう、本当あなたって呑気ね。どうするの?今日中に 書かなくちゃならない報告書はまだできてないのよ!」 彼女はいつものように僕を叱るように見上げた。 「息抜き、息抜き」 そう言って、彼女の手をとり、僕は彼女を公園の中に引っ 張っていった。 最初は不満気に僕を見ていた彼女だったが、公園の中で美 しく咲いている花たちを見て、彼女は穏やかな笑みを浮か べた。 「・・・もう、春なのね〜」 そう言って、彼女は大きく伸びをした。 「なあ、スカリー」 「何?」 「もし、誰かにプロポーズされるとしたら、どういう場所 でされたい?」 「えっ、何、突然」 彼女は不思議そうに僕を見た。 「いや、その、ちょっと聞いてみたいなあと思って・・・ 」 僕は誤魔化すように笑った。 「う〜ん、そうね〜」 そう言って、彼女は周りを見渡し、桜の木を見つけた。 「わあ〜、見事な桜色!」 彼女は桜の木に駆け寄った。 「ああ、本当、見事だな」 僕もゆっくりと彼女の跡を歩き、桜の木を見上げた。 「あっ、そうだ!ここがいいなあ」 「えっ!?何がだい?」 「・・・だから、あなたの質問の答えよ」 そう言って、スカリーは少女のような笑みを浮かべた。 「今日みたいな穏やかな日に、満開の桜の花が咲く、この 木の下で言われてみたいなあ・・・」 スカリーは眩しそうに桜の木を見つめた。 「なんてね、ちょっと少女趣味だったかしら」 スカリーは僕を見つめて苦笑した。 「スカリー、もし、僕が君の望みを叶えるって言ったら、 君はどうする?」 僕は悪戯っぽくスカリーを見た。 「えっ、それって、まさか・・・」 スカリーはそう呟いて、僕を見つめた。 「・・・僕と結婚して欲しい、ダナ」 彼女の生き生きとした表情を見ていたら、自然とその言葉 が僕の口から出ていた。 彼女は驚いたように大きく目を見開き、僕を見つめた。 まるで僕の心の中を探るように。 僕が不安気な表情を浮かべると、彼女はとても穏やかな笑 みを浮かべた。その笑みの美しさに僕は息を飲んだ。 ****** 「・・・スカリー」 モルダーはそう呟いて、瞳を開けた。 目の前には薄暗い部屋に浮かぶ、天井があった。 モルダーはカウチから起き上がり、呆然とテーブルを 見つめた。 「・・・今のは夢か?・・・夢にしてはあまりにもリアル だったような・・・」 そう呟くと、頬に暖かいものが流れた。 モルダーは自分の瞳に触れ、自分が泣いている事に気づい た。 「・・・どうして、涙が・・・」 涙を拭った指を見つめながら、モルダーは自分の心に自問 自答した。 ***公園内桜の木の前*** モルダーは明け方に見た、夢の中の微かな記憶を辿った。 「・・・あっ!?」 そして、その桜の木を見つけた時、彼の胸は高鳴った。 「・・・まさか、あれは・・・現実?」 モルダーは桜の木を見つめたまま、呟いた。 「でも、まさか・・・」 ***XF課*** スカリーがオフィスに行くと、モルダーの姿はなかった。 そして、彼の机の上に、スカリー宛の手紙が置いてあった 。 スカリーは封筒を手にとり、読むべきか、読まないべきか 、迷っていた。 ****** 「・・・スカリー、スカリー捜査官!」 誰かが彼女の名前を呼んでいた。 「えっ、あっ・・・副長官」 スカリーは驚いたように、スキナーを見つめた。 「君までも心ここにあらずかね」 スキナーはやれやれ、といったような表情を浮かべた。 「・・・それで、君を悩ましているのはその手紙かね、さ っきからじっと見つめていたが・・・」 「・・・その、読むべきかどうか迷っているんです」 「なぜ?」 スキナーは父親のように、優しくスカリーを見つめた。 「なぜって、それは・・・いえ、何でもないんです。それ より副長官はなぜここに?」 スカリーはいつもの冷静な態度でスキナーを見た。 「・・・その、君に謝らなくてはならない事があってね」 「何です?」 「・・・実は今朝早く、モルダーが私のオフィスに 来たんだ・・・」 ****** 「副長官、お聞きしたいことがあります」 「何かね?」 「副長官は以前、僕にスカリーの婚約者は亡くなった と言っていましたが・・・それは本当に真実なのですか? 」 モルダーはとても深刻な表情をしていた。 「どういう意味だね?モルダー捜査官、私が嘘を ついていると言いたいのかね?」 私は眼鏡を外して、モルダーを見た。 「はい」 モルダーは迷いのない表情で言った。 「その根拠は何だね?」 「それは、僕が・・・スカリーの婚約者だと思うから」 モルダーはためらいぎみに言った。 「・・・急に思い出したというわけか、だが、それは本当 に真実だと思うか?それぐらい自信を持てるのかね?」 「そう言われると自信は持てませんが・・・でも、もし 違っていても、僕は自分の気持ちに気づいたんです」 「というと?」 「僕はスカリーを愛してます。だから、もし彼女が僕の 婚約者ではなかったとしても・・・僕は彼女を婚約者 から奪い取るつもりです!」 モルダーの瞳の中には強い光が宿っていた。 「いいだろ、君がそこまで言うのなら、一つだけ教えよう 。君が指摘した通り、スカリーの婚約者は生きている。 君のライバルの名は直接スカリーから聞くことだな」 モルダーは私の言葉を聞くと、急いで私のオフィスから 出ていった。 ****** 「という訳で、君に頼まれて婚約者は死んでいると言った が、今日モルダーに生きている事を言ってしまった」 スキナーはすまなそうにスカリーを見た。 「それじゃあ、モルダーは自分が私の婚約者だということ に気づいたんですか?」 スカリーは驚いたようにスキナーを見た。 「いや、彼の記憶はまだ完全には戻っていない。だから、 その部分は言わず、ただ生きているとだけ伝えた」 「・・・そうですか」 スカリーはそう返事をすると、放心したようにモルダーの 席に座った。 「読んでみたらどうかね?その手紙モルダーからだろ?」 スカリーが再び手紙を読むべきかためらっていると、スキ ナーが言った。 「えっ」 「時には自分の気持ちに、素直に行動してみるのも、いい んじゃないかね?」 そう言うとスキナーは優しい笑みを浮かべた。 「・・・副長官」 「おっと、余計な事だったかな、それじゃあ、スカリー」 そう言うとスキナーはオフィスから出て行った。 「・・・素直にか」 そう呟き、暫く手紙を見つめてからスカリーは思いきって 封筒を開けた。 ***公園内桜の木の前*** 僕は待っていた。 彼女が来るのをこの桜の木の下で待っていた。 スカリーが急いで桜の木の前に行くと、冷たい雨の降る 中、傘もささずに、ずぶ濡れになっている彼の姿があった 。 彼は愛しそうに桜の木を見つめていた。 スカリーは彼のそんな姿を見て、胸の奥が切なさで一杯 になった。 そして、ふいに彼が後ろを向いた時、お互いの目があった 。 その瞬間、時が止まったような静けさが二人を包んだ。 「やあ」 沈黙を破るようにして、彼が言った。 「・・・あの、ごめんなさい、遅れて」 スカリーは戸惑いがちに口を開いた。 「いや、少しも遅れていないよ」 そう言って、彼は優しく笑い、スカリーに一歩近づいた。 「私、その・・・」 スカリーは彼を目の前にして、何て言ったらいいかわから なかった。 「スカリー、君に僕の気持ちを聞いてもらいたいんだ」 彼は真剣な表情でそう言い、また一歩、スカリーに近づい た。 「・・・この桜の木を見ていて気づいたんだ。僕がなぜ こんなにも君に惹かれているか・・・そして、なぜ僕の記 憶の中に印象的にこの桜の木が焼き付いていたか」 そう言って、もう一歩スカリーに近づくと、彼は彼女を そっと抱き締めた。 「ダナ、君だったんだ。僕の記憶の中に焼き付いていた桜 の木の下の女性は・・・君なんだよ」 彼はそう言って、ヘーゼルの瞳で愛しそうに、スカリーを 見つめた。 「・・・モルダー、私、私・・・」 スカリーは彼の言葉を聞いて、胸の中が彼への想いで一杯 になり、アイスブルーの瞳に涙を浮かべた。 「こんなに近くにいたのに・・・すまない、気づかなくっ て」 モルダーはスカリーの頬を両手で包み込むように触れた。 「・・・ダナ、もう一度君に結婚を申し込みたい」 モルダーは不安気な瞳でスカリーを見つめた。 スカリーは何も言わず、ただ彼を見つめた。 「お願いだ、ダナ、何か言ってくれ」 モルダーの言葉を聞くと、スカリーは彼から離れ、桜の木 を見つめた。 「・・・あなたは記憶をとり戻したから、私にまたプロポ ーズをするの?」 スカリーは桜の木を見つめ、モルダーに背を向けながら言 った。 「違う!君を愛しているから、君が僕にとってかけがえの ない人だから・・・君が愛しいんだ、とても、こんな気持 ちになったのは君しかいない・・・僕は記憶を失って、君 に初めて病院で出会った時から、君に惹かれていたんだ・ ・・でも、君には恋人がいるって聞いていたから自分の気 持ちを見ないようにしてきた・・・でも、もうそれも限界 なんだ・・・君を心の底から愛してしまったんだ」 モルダーは自分の胸の中にある全ての想いを吐露した。 「正直言うと、僕の記憶は戻ってない・・・だから、僕が 本当に君の婚約者だったかどうかは、自信がないけど、で も、僕のこの気持ちに偽りはない」 そう言って、モルダーはスカリーに近づいて、彼女の右肩 を掴んだ。 彼女の肩は微かに震えていた。 スカリーは桜の木の方を向いたまま、彼女の右肩を掴んで いる、モルダーの右手の上に左手を軽く乗せ、彼の手を愛 しむように、握った。 「・・・モルダー、一つだけお願いがあるの」 スカリーは涙で微かに震える声で囁いた。 「・・・何だい?」 「・・・一分でも、一秒でもいいから・・・私より長く 生きて・・・もう一度あなたを失ったら、私、生きていけ ないから・・・だから、お願い、モルダー」 そう言って、スカリーはモルダーの方を向いた。 「・・・ああ、約束する。絶対に君より長く生きるよ」 モルダーは力強くスカリーを抱き締めた。 ***3ヶ月後、桜の木の下*** 「汝、フォックス・ウィリアム・モルダーは病める時も、 富める時も、生涯死が二人をわかつまで、ダナ・キャサリ ン・スカリーを妻とすることを誓いますか?」 穏やかな春の日に、満開の桜の花が咲く木の下で、神父は 花婿に言った。 「誓います」 白いタキシード身にまとったモルダーが言った。 「汝、ダナ・キャサリン・スカリーは病める時も、富める 時も、生涯死が二人をわかつまでフォックス・ウィリアム ・モルダーを夫とすることを誓いますか?」 「誓います」 純白のウェディングドレスに身を包み、輝くように美しい スカリーが言った。 「神の名の元に二人を夫婦とします。それでは誓いのキス を」 神父の言葉を聞くと、二人は幸せそうな笑みを浮かべ、お 互いを見つめ合い、そして、口付けを交わした。 その時、モルダーは頭の奥の方で何かを思い出した。 ****** 「モルダー、どうしたの?さっきから黙ってて・・・」 式を終え、呆然と桜の木を見つめているモルダーに、スカ リーが言った。 「・・・スカリー、君は僕に初めて出会った時、何て言っ たか覚えてるかい?」 「えっ、何、突然」 スカリーが唖然としていると、モルダーは彼女の耳元に、 そっと囁いた。 「・・・モルダー、あなた記憶が・・・」 スカリーはモルダーの言葉を聞くと、目を大きく見開いた 。 そんなスカリーを見て、嬉しそうにモルダーは笑った。                       THE END ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 後書き(言い訳(?)) 中編を書き終えてから1月以上・・・お待たせいたしまし た(えっ、誰も待ってないって?)なんとか後編を書き終 わらせました。随分と間をあけて書いていたので、もしか したら、前編、中編と矛盾した部分があるかもしれません が・・・お許し下さいませ。 この話書いてて、途中まではすらすら書けていたのですが 、後編に入って全然書けなくなりました(汗) そんな訳で暫く置いておいたんですが・・・う〜ん、あま りいいできとは言えませんね(すみません、力不足です) やっぱり記憶喪失ものは私には難しいです。 こんな駄作を最後まで読んでくれた方、心の底から感謝し ています。本当につき合って頂き、ありがとうございまし た。 ご意見、ご感想など頂けると嬉しいです。 catwalk@clio.dricas.com 以上catでした。 2000.7.13.