この作品に出てくるキャラクターは、FOXに属します。 しかし、キャラクター・基本設定のみを拝借して、筆者が個人的に作り上げた フィクションであり、実際の「The X-Files」とは関係のないものです。 ご了承くださる方のみ、お読みください。 また、アダルトなシーンが多少入ってくることを、警告させていただきます。 /-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/- crystal triangle -chapter 3- うっしーず2号 「こんなことって・・・こんなことって・・・・今更・・・・」 Scullyはどうすればいいのかわからず、呆然と唇だけで呟いた。 もちろん、Mulderを愛している以上その言葉は体中にしびれが走るほどに嬉しかった。 だがそれを聞いていったい自分はどうするのだと考えると、彼女には自答できなかった。 ここにいてはだめだ。 Mulderの強い視線に怯えたもう一人の彼女が言う。 このままでは崩れてしまう、と。 あの腕にしがみついてしまう、と。 彼だけを見つめているScullyのひどく弱い面が出てしまいそうだった。 「・・・Scully・・・」 沈黙に耐えかねたMulderが腕を伸ばしかけた瞬間、Sucllyはそれを振り切って、部屋を 飛び出した。 行く先に困って、とりあえずもう誰もいなくなったラボに駆け込む。 鼓動が高すぎて息がつまりそうになる。内から鍵をかけるとその場に座り込んでしまった。 涙が勝手に溢れてきて、Scullyの頭は立て続けに起きた出来事で埋め尽くされていった。 Mulderが自分を好きだと言った。・・・ずっと見ていた、と。 幾度も頭の中で考えては打ち消して来たまなざしで。 無条件に喜ぶ心が、なぜ自分の想いを伝えなかったのかと責め立てる。 こんなにも好きなのにどうしてなのだろう? 心のどこかがそんな自分を許せずにいた。 それでもあの自分の態度は、自分もまた彼を好きだと言ったも同然だ。 取り乱した心が落ち着きを取り戻してくると、Skinnerの顔が浮かんできた。 今になってやっと彼の存在を思い出す自分に、自己嫌悪が胸を駆け抜けていった。 まるでそんな彼女の心を見透かしたように携帯電話が鳴り始める。 静けさの中に響くベルの音に驚きながら、彼女には誰がかけてきているか分かっていた。 泣き声の自分の「hello」を聞いたらきっと慌ててしまうに違いない、優しい人。 どうしていいかわからず、ぎゅっと目を閉じる。その目尻から、また一滴。 いったい誰のための涙? 卑怯な自分を浮き彫りにするように、涙は溢れる。 やがてベルは止み、静寂がやんわりと彼女を包んだ。 そして彼女は途方にくれる。 ずるい自分をもてあましながらも、やりきれない孤独に耐え切れない自分を感じて。 /-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/- あきらかに泣いたのだと分かる顔をいつもより数段厚い化粧で精一杯隠して、Scullyは Skinnerのアパートメントの前に立った。 合鍵もあったけれど、敢えてドアを力なく二回ノックした。 彼女には、分厚いドアの向こう側の足音が聞こえる気がした。 「Dana・・・?事件では・・・」 言葉の続きをScullyは抱きつくことで遮る。 腕を懸命に伸ばして、顔を見られないようにSkinnerの胸に体全部を預けるように倒れこむ。 突然の来訪と、意外な態度にSkinnerは驚いてただただ彼女の背を撫でるばかり。 自分から離れようとしないScullyをそっと部屋に招きいれて、どうにかドアをしめた。 尋常でないことが起きたのだろう。 それくらいしか分かることはなく、顔を上げない仕草から彼女が泣いてきたのだろうことくらいは 彼にも読めた。 仕方なく彼女を抱き上げて、リビングまで連れてゆく。ソファーにそっとおろしても、まだ彼女は 顔を上げない。横に自分も腰掛けて、Skinnerはその強情な顎をそっと持ち上げた。 想像以上に泣きはらした瞳が、そこにはあった。 「・・・なにか・・・あった・・・?」 返事の代わりに唇が触れた。 かすかに震えた体を摺り寄せ、なかば押し付けるようになおもキスをねだる。 「抱いて」 小さな声が呟く。 「今夜だけは何にも聞かずに抱いて」 今度は泣き声交じりに。 もはや「どうして」とも聞けずに、Skinnerは彼女をソファーにそっと横たえた。 いつもより一層痛々しい瞳の青が頼りなげに濡れて彼を射抜く。 一瞬だけでも全てを忘れさせてやりたい。 一時の快楽が正しい彼女への処方箋だとは、もはや彼だって考えてはいなかったけれど。 それでも、触れ合う肌が、彼女を溶かしてゆくような甘い声が、今は救いになるような気がして。 「目を閉じて。痛いだろう?」 耳元で低く呟いてから、そうすることを強いるようにまぶたに口付けた。 自分の精一杯の愛が、彼女を癒す力をまだ持っているのかどうか、自問しながら。 唇をさけるかのように、まぶたから鼻筋、そして耳からうなじへと唇を沿わす。 静寂に耳を澄ましながら行為を進めてゆくと、溜息にも似たScullyの吐息が漏れてくる。 安心にも似た、絶望にも近い、そしてうっとりとした音色。 その響きの複雑な色合いが彼の思考を揺らしてゆく。 切なくて切なくて。 掻き抱いても掻き抱いても、彼女の全ては手に入らない。 Skinnerの中で全てを諦めたような重く、それでいて甘い感情が渦を巻いてゆく。 こんなに愛しても? その問いかけは決してしてはいけないと分かっているから、愛撫ににじみ出る。 丁寧に服を脱がしてやり、ベッドからそっと落としてゆく。 肌を守る全ての衣類を奪われたばかりの身体はまだ寒さに震えるように堅い。 その肌を確かめるように、指で、唇でなぞってゆく。 けれど今夜のSkinnerは、胸元に指を触れてさえ、その膨らみの頂きを唇に含んでさえ、まだ 彼女の唇に近づけなかった。 Scullyの肌が熱を帯びてゆく。 シーツの衣擦れの音はがSkinnerが動くたびにそっと軋むスプリングの音に掻き消される。 それでも彼女の吐息が確実に間合いを短くしてゆく様は彼の耳に届いてゆく。 何人も銃で人を殺してきた無骨な指は今、意地悪く彼女の体を弄る。 銃で狙うより、確実な方法で、彼女を追い込んでゆく。 もちろん、死ではない高みに。 「Walter・・・お願い・・・」 部屋の温度より、シーツの中の温度が上がったころ、哀願するようにとうとうScullyが瞳を 開いて、言葉をもらした。 濡れた彼女の腰に、自分を繋げ行きながら、満足とも絶望ともいえない吐息を彼はついた。 もう彼の表情を読むほどの余裕など、持ち合わせているわけもないScullyの甘い声に、その吐息が 吸い込まれ消えてゆくことさえも計算されている。 今、彼女を征服しているのは自分なのだ。 ・・・彼女の躯を。彼女の心が宿っている肉体を。 たった一つの、それが彼にとっての優越感。 男にとって、それほど誇らしく、悲しい優越感はないのかもしれない。 けれど、だからこそ犯すことの出来ないものを感じもするのだ。 自分を見る責めるように哀しげな、Mulderの茶色い瞳を、ここ最近感じないわけではない。 苦しいか? 苦しいだろう? けれども、君にはまだ分からないだろう。 彼女を見るだけで、今日君たちの間に起きたであろう出来事が、私には想像がつく。 そしてそれでも私には、彼女を抱くことが出来てしまう。 ここにはもう来るなと、言ってやることすらできずに・・・・・・・・・ 「・・・っ・・・Walter・・・」 不意に、もはや快楽の持って行き場を無くしたSucllyがしがみついてきて、彼の思考も止まった。 泣きはらした顔で、愛する女にただただ哀願されたら、誰だって何も考えられなくなるもの。 甘く、暗く、そして深い夜は沈んでいった。 なんの問いかけも、答えもないままに。 /-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/- 「・・・何があったって言うの?Fox・・・そんなふさぎこまないで答えてよ」 Dianaは懇願する口調でMulderに訴えた。Mulderはずっと遠くを見る瞳をしたままでぬけがらの ようなからだをベッドに横たえて天井を見上げていた。 ここしばらく、仕事がたてこんでいたDianaは家にもろくに帰らずに任務をこなしていたので、 久しぶりに見たMulderの姿にうろたえることしかできなかった。 自分を覗き込むようにしてみるDianaに、やっとMulderは瞳を向けた。けれど、その瞳が自分を 見ていないだろう事は、Dianaにもすぐにわかった。 「いろいろ・・・だね。いいことなのか悪いことなのか・・・局で彼女を見るたびに分からなく なる・・・。どうしてお互いの気持ちは見えるのにすれ違うんだろう?・・・想うことって、 今の僕らにはそんなに罪なことなのかな・・・」 淋しい微笑みが、求めているのはScullyだけだと痛いほどに伝える。Dianaは息を殺して彼を 見つめた。 「・・・言った・・・の?彼女は・・・?」 何も分からないので、ただただ疑問符をならべることしかできなかった。それを思い出させることは Mulderを傷つけることかもしれないと、分かっていてもそれを聞かずにはいられなかった。 「Scullyの中に・・・確かに僕が見えた・・・だけどその僕はScullyを苦しめて傷つけるんだ ・・・僕の目を見ようとしない・・・ただの友達にはなれない、愛し合うことは・・・」 その言葉に続きはなかった。 まさにどこへ行けるでもない関係だった。 でもこの関係をこれ以上続けることなど、出来はしないこと。 だからDianaは意を決したように口をひらいた。 「お互いの気持ちが見えたのでしょ?それならもう、変な気を使わずに捕まえてあげなさいよ。 彼女はそれを待ってるはずよ。あなたたち、もっと素直になって幸せになってもバチはあたらない と思うわ。抱きしめてあげなさいよ・・・もう十分に傷ついたじゃない?愛することは傷つくこと じゃないわ。心のままに動いてみなさいよ」 もうこんなスレ違いばかり繰り返しているのを見つづけているのはたくさんだと、Dianaは思った。 お互いのことばかり考えて傷ついて・・・そうまでしてたどり着こうとしている真実は、きっと 彼らにとっては悲しい事ばかり。 いっそ全てを言ってあげられたら・・・。そうは思うものの、それはできない。 せめて全ての意味でお互いを唯一無二の存在としたならば、打ちのめされた後にも、また日が昇る かもしれない。 「・・・そうなのかもしれない・・・こんなことずっとは続けられないし・・・」 Mulderの瞳に色が戻ってきたことに、Dianaは胸をなでおろした。 これでうまくいく・・・と。 自分が愛する彼の本当の心を思うと、それはまた余計強く感じられる喜びだった。 Skinnerのことが脳裏を掠めたが、彼もScullyを本気で愛しているのだからきっと理解して、 自ら道を開いてゆくだろうと彼女は思った。 「ありがとうDiana・・・君はいつだって僕を否定しないで受け止めてくれてた」 静かに、笑顔を刻んでゆくMulderの迷いのない表情を、Dianaはとてもいいかおだと思った。 自分と付き合っていたときの、がむしゃらでそして誰にも救えない孤独な影はもうない。 尖っていた彼の心をDianaは無条件で受け止めてやることでしか、愛を示す方法を知らなかった。 けれど、愛情は本当はそんなところにあるものでないと、彼は気付いたのだ。 彼女も知っていた。 -----きっとあのときから、自分たちは傷を舐めあっていたのだ 「私には、あなたを否定する理由なんかなかったからよ」 笑顔を彼に向けながら、Dianaはそっと呟いた。 多分こうして二人で過ごすのは、これが最後だろうと互いに分かっていながら、何も言葉にせず MulderはDianaのアパートメントを後にした。 保険みたいなもの。 人間の弱さが心を強くしておくための、保険。 この世のどこかに、自分に優しい人がいる。 つなぎとめたりはしないけれど、そういう人がいるということ。 誰だって、そんなほんの少しのよりどころが欲しいのだから。 /-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/- 「Dana、Dana!起きなさい。君の電話を私が取るわけにはいかないだろう?」 このところ疲れが目立つScullyのために、今夜はSkinnerの方が彼女の部屋にきていた。 珍しくあっさりと寝入った彼女を起こすのが可哀想で、しばらく放っておいたが、いっこうに 鳴り止まないベルを聞いていて、Skinnerはある考えにいきつき、彼女を揺り起こしたのだった。 「Dana・・・この電話は取ったほうがいい・・・」 何度か肩を揺すると、やっとベルの声がScullyの耳にまで届いたようだった。 「ん・・・ごめんなさい、Walter・・・寝てしまってたみたい」 呟きながら彼女はごそごそと起き上がり、Skinnerの腕を離れて電話へと向かった。 「もしもし?」 受話器を取ってから、彼女は初めて自分の声が大きく響くような時間になっていることに 気がついた。時計を見ると1時をまわっていた。 こんな遅くにまさか・・・? 相手が声を出すべく息を吸い込んだ音がして、やっと、彼女はSkinnerと同じ考えに辿り着いた。 「Scully・・・起こしちゃったかな・・・?」 その声が鼓膜に触れた瞬間、ScullyはSkinnerに背を向けていた。 「・・・何?」 自然に声が低くなる。聞きなれた声に受話器を持つ手が震えるのを感じて、彼女はSkinnerに 見えないよう祈りながら、その小さな背中で腕を隠した。 「良かったら・・・うちにきてくれないか?・・・Scully、もうこんなこと続けるのはやめよう。 これ以上自分に嘘をついていたくないんだ・・・まってるから・・・」 それだけ言うと、彼は電話をきった。決して事件が起こったときの命令するような口調ではなく、 静かな、それでいて有無をいわせない言葉たちだった。 切れた電話の発信音の中でその声を幾度も繰り返して、Scullyはしばらくそこを動けなかった。 行くべきだと心は知っていた。 行って確かめるべきだと、想いを伝えるべきだと。 Mulderの気持ちは今、不思議なほどまっすぐ、痛いほどに感じることができた。 けれどそこでいつものように、ためらいと罪悪感がScullyを支配し始める。ここでMulderの所に 駆けつけることは、そのままSkinnerとのことが彼女の気まぐれだったということになってしまう。 そうではない。 彼女は強くそう感じる。 Mulderとは違う意味で、ScullyにはSkinnerが必要だった。 「Dana?・・・どうかしたのか?いつまでも受話器を持って・・・」 Skinnerの声をすぐ背中で感じて、Scullyは慌てて受話器を置いた。振り向くことが、顔をあげる ことが、できないでいる。 「何でもないわ・・・間違い電話・・・わざわざ起きたのにって・・・腹がたっちゃって・・・」 普通を装うとするScullyの声の語尾の震えにきづかないSkinnerではなかった。 とうとうきたかと、胸の疼きを感じて、そのまま後ろから細い肩を抱きしめる。 「Dana・・・」 行くな、ここにいろ・・・。 言いたかったし、そう言うつもりでもいた。けれどScullyへの想いが逆に彼の唇の動きを止めさせた。 言葉を閉ざしたSkinnerの胸のうちを感じて、Scullyは思わず強く言い放った。 「行かないわ、Walter・・・。私はここにいるの・・・ここに・・・」 最後の言葉は半ば自分に言い聞かせるようだった。 SkinnerはそのScullyの言葉に、代わりになるもののない愛しさと、だからこそ切ない諦めを覚えた。 「・・・Mulderだろう、Dana。・・・行っていい・・・いや、行かないとだめだ」 ゆっくりと言葉を区切りながら、Scullyの耳元で囁く。自分の腕に手をかけるScullyの指先が、 細かく震えるのが分かった。 「どうして・・・Walter・・・どうして・・・?」 小さく首を振りながら彼女は独り言のように問い掛けた。温かさとSkinnerの想いが抱かれた肩から 伝わってくる。 「・・・行かせたいわけじゃない・・・いつかこんな日がきたら行くなと言うつもりでいた。今まで 君を抱きしめる勇気がなかったような奴のところに行かせる筋合いはない・・・と。でも君が自分で ここにいると言った時、ああそれは違うんだと分かった。・・・行くんだ、Dana・・・傷ついただけの 恋にするのは哀しすぎる。・・・そうでないと、君は一生私の腕の中で後悔する事になる」 そう言って、Skinnerは腕を解いてみせた。ひんやりとした部屋の空気が彼女を抱く。 振り向いたScullyの表情はあきらかに戸惑っていた。 「・・・でも・・・Walter・・・こんなひどいこと・・・私、あなたのことが大切なのに・・・」 想いの中に迷い込んだ瞳がSkinnerを見る。疼く胸の痛みを押さえ込むようにして、その揺れている 青色をまっすぐに見つめて言った。 「いいんだ。私はもうこれ以上、自分の胸の中で別の男への想いを紡ぐ君を見たくない。私が見たいのは 君のほんとうの表情だけだから・・・」 「Walter・・・ごめんなさい、ごめんなさい・・・」 淡々と言葉を選んでゆくSkinnerに、Scullyは耐え切れなくなってその首にしがみつくように抱きついた。 それ以上の言葉は、何も言えなかった。言えば言うほどにごまかしになってしまいそうで、怖かった。 そうして彼女はゆっくりと体を離すと、自分を見つめているSkinnerの頬にそっと触れた。 瞳にはもう、迷いはなかった。 目を閉じて、そっとまだ優しい瞳で自分を見つめている彼の唇に触れると精一杯微笑んで見せた。 「・・・鍵は、そのままあなたが持っていて。ここにはMulderはこないから・・・」 小さく呟いて、彼女は寝室を去った。やがてクローゼットを閉める音が聞こえて、そしてこの家の主人が 出て行ったことを示すドアの音が響いた。 「・・・愛しているよ、Dana・・・それだけだ、他に何もいらない・・・」 Skinnerはベッド脇に立ちすくんだまま、いつかScullyに返した言葉を思い出して呟いた。 /-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/- 「ここにはMulderはこないから・・・」 Scullyは先刻Skinnerに呟いた言葉を心で繰り返していた。 なぜあんな言葉が出たのだろう。彼があの家にきた回数など数えられないほどだ。 それでも・・・あの家にMulderが彼女の肩を抱いて入ることはないような気がしたのだ。 いくら考えても、あの家で、あのベッドでくつろいでいるMulderを見つけることはできなかった。 愛しているのに、こんなにも想っているのに、なぜなのか彼女には自分でも分からなかった。 きっと鍵はかかっていない。彼女にはわかっていた。 夜もふけているのでそっとドアを開ける。やはり、あっさりとドアは彼女を招き入れた。 伝えずに通じ合っている想いがここにある。 そう感じて、Scullyは初めて小さく微笑んだ。 「・・・来てくれたね・・・信じていたけど、やっぱり嬉しいよ・・・」 Scullyは目の前に立ったMulderを見た。静かな茶色の瞳が、同じ想いを持って自分を待っていたことを 伝える。振り向いて部屋の奥に向かったMulderの後について部屋に入ると、Scullyはわけもなく潤む 自分の目を感じた。 何度も来た部屋が、まるで違うものに思える瞬間。 恋が始まるときは、そういうもの。感触を思い出すように、何度か瞬きをした。 そして彼がそっと腕を伸ばしてくる。肩に、触れる。 本当に、そこにいるのがScullyなのかを確かめるように、ゆっくりと腕の中に彼女を収めた。 「・・・Mulder・・・」 そっと呟くと、Mulderは思い切りその体を抱き締めた。 「Scully、もう言ってもいいね?・・・その・・・君を、愛してるって・・・」 彼女の答えは小さな頷きと、Mulderの肩に沿わせた指の柔らかな動き。 「愛してる・・・長い間すれ違ってばかりだったし・・・君のことを傷つけてしまったけど・・・ それでも・・・」 長かったすれ違いも、つかめなかった互いの愛情も、今は嘘のようだった。 彼女を、今、抱いているのはMulderだった。 その事実を今更のように感じて、Scullyは満たされた想いに体を震わせた。 「・・・」 肩に額をちょんとのせて、吐息をつくとMulderの温かさが自分を包むのを感じた。その吐息にこたえるかの ように、Mulderは彼女の髪をそっと撫で、その髪に唇をつけた。 幸せで満たされた空気を二人で感じ合うことに、今更のような照れくささを感じて二人はしばらくただ 抱き締めあっていた。 ふと、鼻をくすぐるMulderの匂いに、Scullyは目を細めた。 よく知っているはずの匂いが、こんなに近くにある。 こうして自分はMulderの腕の中で彼の匂いに染まってゆくのだろうと思ったその瞬間、いつのまにか 当たり前になっていたSkinnerの匂いを思い出した。 「・・・あ・・・」 こんなに幸せな気持ちで、それをSkinnerが望んでくれていることもわかっている。けれど、Mulderの 腕の中で、自分はずっと彼の匂いを思い出すだろうと、彼女は思った。 誰かの傷と引き換えにした記憶。 忘れられない安心の匂い。 それはまるで透明な壁。 何もかも見えているのに、壊すことの出来ない・・・・。 Mulderの肩から、Scullyの手が滑り落ちてゆく。 「どうかしたかい?」 うつむいたScullyの肩をおさえてMulderが尋ねる。 空気が変わってゆくのを感じて、それはそのまますぐ先の未来を彼に予感させた。 「・・・やっぱり・・・だめだわ。・・・私・・・ここにはいられない・・・」 「・・・Scully・・・」 詰まった声が、Mulderの中の予感を事実に変えた。 「ごめんなさい・・・Mulder・・・でも・・・」 「Skinnerのことかい?」 言いづらそうに言葉を捜している様子に、Mulderは目で溜息をついて言った。Scullyは小さく・・・ 本当に小さく首を縦に動かし、けれどすぐに顔を上げた。 「でもそれだけじゃないの。・・・あなたの腕の中にいるのは今の私にとっては幸せなことだけれど、 もう一人の私・・・X-Files課のDana・Scullyには許せないことなの・・・。ごめんなさい、私は やっぱり・・・あなたの恋人であるよりも相棒でいたい・・・。私には、両立はできないわ」 それは、Mulderには痛い言葉だった。 が、同時にScullyの正直でまっすぐな気持ちを目一杯感じて、それを責める気にはなれなかった。 「やっぱり・・・離れていくんだね・・・」 それでも小さくそう呟いた。 嫌味でもあてつけでもない、ただ切ないだけの響きだった。 「Mulder・・・」 「分かってはいた・・・多分心のどこかで・・・僕には君を愛することしかできないんだって。 安らげてあげること、大事に守ったりすること・・・そんなことはきっと僕にはできないんだって。 だから自分を責めなくていい。これは僕のせいなんだ、もっと早く抱き締めて二人の道を重ねてしまう 勇気がなかった僕のね・・・」 沈黙がながれた。 互いの気持ちを永遠に見つめるかのように。 Mulderにも、Scullyにも、お互い以上に愛せるものがいないことは分かっていた。 ただ、一瞬のすれ違いが世界を切り分けてしまったことはどうしようもない事実だということも、 お互いに知っていた。 どちらからともなく、目を閉じて体を寄せ合う。 ただ抱き合うだけの仕草は、それでも想いを伝え合うには十分だった。 Mulderはもう二度とその腕が抱くことはないであろう恋人に、ただ一度のくちづけを求めた。 何も言わず、ほんの少し体を離すことによって。 Scullyも唇を動かさないままに、ゆっくりと目を閉じた。その目尻から細い筋が出来てゆくのが Scullyの抑えられなかったMulderへの想いだった。 ぎこちなく肩をおさえてゆく。Mulderは自分も瞳を閉じながらそっと唇を重ねた。 永久に肌を重ねることのない二人の、最初で最後の切ない恋人としてのくちづけだった。 「・・・さよならMulder、・・・ずっと愛してる・・・」 涙の跡は頬に残されていたが、表情は晴れやかだった。Mulderはその肩から手を離さなければならないことを 悟り、腕をゆっくりと下ろした。 「・・・じゃあ来週、地下室で」 そう言って微笑んで見せたのはMulderの精一杯だった。Scullyはその言葉にもう一度微笑むと、Mulderに 背を向けた。 どんなに愛して、愛し合っていても、叶わない想いだってあると、こんな風に終わってもなぜか二人の 間に悔いはなかった。 これからもずっと一番近くて、一番遠い存在にお互いはいるのだろう。 二人で真実を追い求めてゆくこと・・・それが二人を結ぶ一番大切で一番の障害となった絆だった。 /-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/- 夜明け前。 SkinnerはScullyの家と別れを告げようとしていた。 「さようならDana・・・ずっと愛してるけれど・・・」 静かな部屋に向かって最後に呟くと、扉を閉めて鍵をかけた。 やはりこの二人はどこか似ている。同じ言葉で自分の心を閉じようとしていた。 外に出て何歩か踏み出すと、Skinnerはポケットにしまいかけた鍵を握って立ち止まった。 部下の鍵だから、仕事柄、持っていなければならないはずのもの。 けれどこれをもっている限り、いつまでもScullyのことを現在形に引きずってしまいそうだった。 なくしたということにして、新しい鍵をもらっても何も変わらないかもしれないけれど・・・。 少なくとも、それは新しい、正確に言えば元に戻った二人の関係の中で発生した鍵にすぎない。 そう思って鍵をもった手を振り上げた瞬間。 「それをなくしたらしばらく苦労するわよ?」 聞き間違えようにも、間違えようがない声がした。 驚いてあたりを見渡す。くすくす笑いとともに、車の陰からScullyが姿をあらわした。 「ただいまWalter。・・・待っててくれなかったのね、ひどいわ」 いたずらっぽく言うと、Scullyの瞳がSkinnerを覗き込んだ。 帰ってきたと、あなたのもとに戻ってきたと、言葉にはせずに。 Skinnerにはまったく事情はわからなかったが、彼女が自分の意思でここに戻ってきたことだけは 理解した。 見詰め合う沈黙の後、Skinnerはやっと口を開いた。 「・・・遅かったからな。寝ぼけて私の家の方に帰ったかと思ったよ、Dana」 その言葉で、Scullyは彼が分かってくれたことを感じて、思い切り笑ってみせた。 「ごめんなさい。せっかくだから、早朝に似合いのおいしいミルクティーをごちそうするわ」 「・・・私はどちらかというとコーヒーがいいのだが、君はしらなかったかな?」 「だめ。私が飲みたいからミルクティーでいいの」 はしゃいだ口調で小さな女の子がするように、彼に腕をからませる。 Scullyの笑顔が、自分だけに向けられていることを感じて、Skinnerも笑って彼女に腕を 引っ張られつつ家の中へと入っていった。 太陽が昇るころには、紅茶の香りと穏やかな笑顔が二人をつつんでいた。 end. /-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/- /-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/- <<後書き>> かけ離れすぎて最後には宇宙のかなたに飛んでいった感もおおいにあるこのお話し(自爆) きっと中で演じてたご本人たちもさぞや不本意だったことでしょう(笑) 読んで不快になった方、本当にごめんなさい(ぺこり) ただただ私の妄想の賜物にすぎませんので、出来れば気にせず記憶から抹消してくださいね(^^;) では履き違えついでに、裏話を交えたキャストのかたとの会話を-------- <モルダー> モル「やいうし2号!なんだよこの僕の役!!」 うし2「・・・何よ、気に入らないの?」 モル「あったりまえだろ! 僕はXFの中ではヒーローなんだぜ?こんななっさけない役いやだ!」 うし2「・・・モル・・・あんた本編XFの中でも情けないじゃない?」 モル「なんだとー!?」 うし2「だいたいね、あんたくさい台詞がにあわなさすぎんのよ!私がどんなに苦労してあんたの 台詞を変更したと思ってんの?!!」 モル「何・・?台詞を変更・・・??」 うし2「は!・・・何でもないのよ!」 モル「・・・なんか怪しいな・・・。なんか隠してるだろ」 うし2「何でもないわ!」(PC台に置いてあるノートをささっと隠す) モル「なんだそりゃ?」(さすがFBI、うし2からノートをひったくる) うし2「きゃーやめてーーー」 モル「・・・・これは・・・・あの脚本には原作があったのか?!」 うし2「・・・い、いまどき何にでも原作とか元ネタがあるってお約束じゃないの!」(ひらきなおったか?) モル「・・・こんなモンから僕たちの脚本が生まれたなんて・・・・」(呆然) <スキナー副長官> スキ「うし2号・・・モルダーから聞いたぞ、あれはパクリらしいな」 うし2「違いますよ!もともと私が高校生の時に書いたものなんでパクリじゃなくってセルフカバーって 言ってくださいよ!!」 スキ「でも私たちのための書下ろしではないのだな?」 うし2「・・・そうです・・・」 スキ「書き写したわりにはえらく時間がかかってないか?」(睨み) うし2「・・・いえそれは原作と設定が違うのでいろいろ苦労して・・・。だってあなたたち本来 主要キャラが3人しかいないんだもん!大変なんですよ」 スキ「・・・原作とやらを読んだが・・・ひどいシロモノだな・・・。第一私の役が元の話とすいぶん 立場がちがうではないか」 うし2「だってー仕方ないじゃないですかー。あう役がなかったんですから。じゃあなんですか? スキさまがモルがやった役をやれたとでも??またはスカリーの役を?」 スキ「・・・スカリーの役は・・・どうかと思うぞ・・・」 うし2「じゃ、いいじゃないですか? 一番おいしい役どころだと思いますよー」 (これ以上なにかいわれないように肩をぽんぽんたたいて逃げさる牛2号) <スカリー> スカ「・・・私もけっこういろんな役をやってきてるけど・・・原作とほとんど台詞が変わっていないのは 私だけって状況もすごいわね。本来、私の役の台詞を一番変えなきゃいけないはずなのに・・・」 うし2「いえいえ、スカちゃん・・・ていうかDanaちゃんは原作に一番近いイメージですよ?」 スカ「・・・嬉しくないわ・・・」 うし2「・・・ですよね・・・。でも麗しき主人公!いいと思いますけどねー」 スカ「・・・この原作見るまではそう悪くないかなって思っていたんだけど・・・これ見ちゃうと ちょっと考えるわ・・・」(ためいき) うし2「そ、そうですか??」(焦る) スカ「・・・言葉使いに気をつけるわ・・・・」(もう一度溜息をついて立ち去る) てなわけで、最終的にはえらく長くなっちゃいました。 こんなろくでもない話でも読んでくださった方に感謝いたします。 感想とか、BBSにでもいただけたらうれしいです。 うっしーず2号