この話の登場人物、設定その他総てのX−FILESに関する権利は 20世紀Fox、1013、CCに帰属します。 “X-Files de ふる・こ〜す”100,000Hit記念 ひよ様、おめでとうございます☆ ---------------------------------------------------         “蒼”     -LA SIRENE C'EST TOI, ET MOI...-           text by 翳假(えいか) --------------------------------------------------- 2000 Summer  -Los Angels  どうしてこんなに暑いのだろうか・・・ モルダーは空に燦々と輝く太陽を恨めし気に見上げた。 夏のロサンゼルスは日差しがきつ過ぎる。 普段、空調管理の行き届いたオフィスで過ごす事の多い モルダーにとって、陽気な天候はただの厄介なモノでしかなかった。 “それにしてもついてない” モルダーは視線の先を空から彼の相棒に移しつつ、 今日何度目か分からないため息をついた。 XF課の二人がロサンゼルスについたのは3日前の夜だった。 その日の朝、いつもの様に定時に少し遅れてオフィスに 到着したモルダーを待っていたのは、呆れ顔のスカリーと 渋い顔をしたスキナー、それにロサンゼルス支局がFBI本部に 持ち込んだ不可解な事件のファイルだった。 深夜、帰宅途中のビジネスウーマンを狙った連続通り魔事件。 一見、よくありがちな事件だったが他と違ったのは その犯人が"透明人間"だった事。 被害者の口から出る犯人についての証言は どれもまちまちであったが、一つだけ共通していたのが 「目に見えない何かに襲われた」と言う事だったのだ。 普通、通り魔事件などの被害者は 不意をついて襲われる為にパニックに陥って 犯人の風貌を覚えていない事が多い。 今回の「目に見えない何か」も、被害者がパニック状態に なっていただけで、他の目撃証言を集めれば犯人の目星は すぐにつくだろう、とロサンゼルス支局は高をくくっていた。 しかしいざ捜査を始めてみると、どの目撃者も被害者と同じく “犯人は見えなかった”と言う証言をしたし 現場には証拠らしい証拠は何も残されていなかった。 捜査に行き詰まった支局が結局事件を持ち込んだのは、 FBIの何でも屋的部署・・・XF課だった。 二人はその日の内にロサンゼルスへと飛んだものの、 モルダーはこの事件を捜査する事に乗り気ではなかった。 いつもの彼ならば、喜んで飛びつきそうな事件であるのに 何故浮かない顔をしているのか、スカリーは不思議がったが モルダーはロサンゼルスに行くのがどうしても嫌だった。 それと言うのも以前、−スカリーがXF課に配属になる前−ロサンゼルス 支局に今回と同じ様に捜査協力を依頼された事にあった。 モルダーはその事件でも、彼お得意の“XF的事件解決法”を持ち 出して事件の担当捜査官と激しく対立し、結局XF課は事件から はずされてしまったのだ。 そして、その担当捜査官は今ではロサンゼルス支局の局長と なっている。 それでもこうしてL.A.にいるのは“ロサンゼルスに行けば 嫌でも彼に会う事になる!”と訴えるモルダーを スカリーが呆れ顔で見上げて 「何を子供みたいな事言ってるの?コレは仕事なのよ?好き嫌いで  事件を引きうけるか引きうけないかなんて決められないわ。」 と言ったからだ。 “あぁ。あの時もっと強く反対すべきだった・・・  そうすれば今頃はD.C.で・・・・” モルダーは再び大きなため息をついた。 視線の先の相棒は、この暑さの中で汗の一つもかかずに ダークグレーのスーツをきっちりと着こなしている。 その颯爽とした姿はL.A.でも人目を引いているようだった。 そんな彼女の背に向かって、モルダーは心の中で呟いた。 “君のせいだぞ・・・スカリー” 二人はL.A.に着いた翌早朝から早速捜査を始めたが 事件はその日の夜にあっけなく解決した。 犯人は“見えない何か”ではなく“カラス” 手口は“鈍器での殴打”では無く“大き目の石の落下” 動機は“女性への恨み”では無く“いたづら” カラスが口にくわえた大きめの石を、道を歩いていた女性の真上から 落として、女性達の叩頭部に命中させていたのだ。 何故そんなことをカラスがしたのか、又どうしてそんな事が 出来たのかは分からないが、事件の起きていた地区はカラスの 多い事で有名な地区だった。 目撃証言が取れなかったのは、夜の闇に色の黒いカラスが一体化 してしまって気付きにくかったのと “まさかカラスが犯人だなんて”と言う人々の意識のせいだった。 まるで冗談のような結果報告をする“ロサンゼルス支局長”に モルダーは何か言おうとして、言う言葉が見つからず 思わず口を開けたまま立ち尽くしてしまった。 そんな彼にスカリーは 「モルダー、今度は“何故カラスが女性ばかりを  狙ったのか”を解明したら?凄い謎だわよ。」 と皮肉を言っただけだった。 彼女にはいつも暴走してとんでもない事ばかりする パートナーがいるので、こんな事にはなれっこだった。 そして、“支局長”は彼女の言葉にニヤリと笑い 「ご苦労だったな」とモルダーの肩を大げさにぽんぽんと叩くと モーテルのモルダーの部屋を後にした。 事件のばかばかしさと彼の勝ち誇った態度に すっかり生気を抜き取られたようになったモルダーは 「明日の飛行機のチケットが取れたわ。今夜はゆっくり休みましょう。」 と言うスカリーの言葉に従って、そのままベットに倒れこみ 珍しく朝まで熟睡したのだった。 が、そのことさえも今朝 「それだけでも、L.A.に来た甲斐があったんじゃない?」 とスカリーにからかわれる格好の材料となってしまった。 “そう言えば、昨日からスカリーにからかわれてばかりいるな・・・” モルダーはそう気付いて苦笑した。 L.A.に来るのが嫌だった自分とは対照的に、スカリーは初めから L.A.滞在を楽しんでいるようだった。 現に飛行機までの時間潰しにと出かけたこの散歩も 彼女の提案であった。 夕方のフライトの時間まで、モーテルでのんびりしようと 二度寝を決め込んでいたモルダーは彼女に叩き起こされて 真昼のL.A.の町へと出たのだ。 「モルダー!モルダー!!」 物思いにふけり始めた彼は、急に現実に引き戻される。 「何をぼっとしてるのよ。人にぶつかりそうになってばかりで  危ないわよ?」 少し前を歩いていたはずのスカリーは、いつの間にか自分の すぐ目の前に立っていた。 「まだ“彼”のことを考えて、悔しがってるの?」 そう言う彼女の顔は、かすかに笑っている。 またからかわれたらしい・・・ 何がこんなにも彼女を陽気にしているのだろう? 僕にはつらいだけの、この明るい日差しか 時折、やしの葉を揺らす心地よい風か それとも・・・ 「スカリー・・・、それよりも君こそどうかした?  さっきまで僕のことなんかお構いなしにさっさと  歩いていたのに。何かあったのか?」 悔し紛れとごまかしに、逆に問うて見る。 まさか、彼女のことを考えていたなんて言えるわけが無い。 「水族館があったのよ。中に入ろうと思って、貴方の方を振り向いたら  貴方ってば、ぼっと突っ立ってるんですもの。  慌てて戻って来たってわけ。」 「そうか、それは悪かったな。で、水族館にはいるのかい?」 「ええ。良いでしょ?まだ、飛行機には時間があるし。」 「ああ、構わないよ」 水族館の中ならば、冷房が効いているはずだ。 外を歩くよりはずっと良い。 二つ返事で了解すると、モルダーは水族館の入り口の階段に 足をかけた。 ++++++++++ 水族館の中はモルダーの思った通り、空調が効いていて 程よい涼しさだった。 チケットを買って、エントランスを抜けた途端 そこかしこに設置してあるベンチの一つに座り込んだモルダーを よそに、スカリーは一人で魚達のいる水槽を覗いて歩いていく。 色とりどりの綺麗な熱帯魚の泳ぐ姿はスカリーを夢中にさせた。 小さな体で気ままに泳ぐその様が、彼女には小気味良く感じられて 次から次へと水槽を覗いては、小さな歓声を上げる。 一息ついて、汗も引いたモルダーが彼女を探して視線をさ迷わせた 時も、彼女はまだ魚に見入っていた。 普段、無表情か氷のような微笑を浮かべている事の多い彼女が 目を輝かせて、うれしそうに魚達に話しかけている姿を見付けた時 モルダーの顔にも自然と笑みがこぼれていた。 彼女が見つめる水槽が変わるたびに、その水槽の水の微妙な 色加減に反応して、彼女の瞳もまた色を変えている。 深い海のような蒼からクリスタルのように澄んだ青へと、 様々な変化を見せる彼女の瞳は、彼の心に 甘酸っぱい切なさを感じさせた。 胸の奥を何かにぎゅっと掴まれたようなその感覚に モルダーは覚えがあった。 最後に、こんな切なさを感じたのは何時だったろう・・・ そう、あれは確か高校生の時。 学年で一番輝いていた、素敵な女性に恋をしてた。 あの頃、彼女を校内で見つける度に感じていた感覚。 “あの感覚?” モルダーはそこまで考えるとはっとした。 “まさか、あの時と同じように『彼女』に恋をしていると  でも言うのか?” その考えを否定するように大きく頭を振ってみる。 “いいや、そんなはずはない。彼女は親友だ、しかし…” 「モルダー,モルダー」 顔を上げると、水槽を覗き回っていたスカリーが 先程と同じように、すぐ目の前に立っている。 「またぼっとして。どうしたのよ?今日は本当におかしいわよ。  具合でも悪いの?」 先ほどとは打って変わった心配そうな顔をしている彼女を見て、 再びモルダーは胸の奥が“きゅっ”と痛んだ。 “何故なんだ?何故こんなにも・・・” 「モーテルに戻って休む?」 「いや、大丈夫だよ。ここがあまりにも涼しくて  眠くなっちゃっただけだから」 「そう?・・・じゃ、次のフロアーへ行きましょう」 大丈夫だという言葉を聞いた途端に、彼女の顔は再び ぱぁっと明るくなる。 自分の心配ばかりしているけど、今日の彼女は子供みたいだ。 彼女の後を追って、ベンチから立ちあがったモルダーの頭に ふとそんな考えが過ったのだった。 ++++++++++++ 次のフロアーは円形状で、入り口以外の部分は360度全て 水槽に囲まれた部屋だった。 平日の真昼と言う事からか、この部屋には二人以外に 誰もいなかった。 水槽の中には、大小様々な魚達が泳いでいる。 「ココは海の中を見ようって部屋かな?」 回り全てを水槽に囲まれて、モルダーは自分が海の中に いるような感じがしたのだ。 深海のように、ほの暗くて静かな空間は L.A.に来て以来ざわついていた彼の心に、落ち着きを取り戻させつつあった。 「確かにそんな感じの部屋だけど…ココはジュゴンの水槽ですって。」 手に持っていた館内図を見てスカリーが答える。 「ほら、見て。そこにいるわ」 大きな体で自由に泳ぐジュゴンの姿をそこに見止め スカリーは水槽に近づいていく。 コツコツとガラスを軽く叩いては、ジュゴンの気を引こうとする 彼女の瞳は、先ほどと同じ深い蒼色に変化している。 そして、上から水の中にさし込んでいるかすかな光が 魚達が泳ぐたびにその角度を変えて、彼女の瞳にも光を生んでいた。 子供のように無邪気な顔をしてジュゴンに夢中になるその瞳に 吸い寄せられるように、彼は彼女を見つめた。 彼女が何度目かにガラスを叩いた時、それまで彼女の事など 気にも留めずに泳いでいたジュゴンが、ふと彼女の方へ 寄ってきた。 ガラス越しにジュゴンと向かい合い、まるで話しをしているような その横顔は、モルダーの心に三度懐かしい切なさを生んだ。 「君はジュゴンと話しが出来るみたいだね。  君達が向き合っているのをみると、本当は君は  ジュゴンなんじゃないかって疑いたくなるよ。」 スカリーはモルダーの言葉にふくれ顔で振り返る。 “しかし、ふくれた顔すら彼女は美しい。” そう思った時、彼は確信した。 自分の感じた切なさが高校生の時と同じものだと。 「私がこんな“大きな体”をしているって言いたいのね?  そりゃ私は決して細身じゃないし、ジュゴンは愛嬌があって なかなか可愛いけど。。。それだって、ジュゴンに似てるって  言われて嬉しい女性はいないわよ?」 「スカリー…。僕は君の事を“人魚みたいだ”と言ったんだよ。  それでも不満かい?」 「人魚ぉ?モルダー…言い訳になってないわよ。」 「その昔、海でジュゴンに遭遇した人間が。そのあまりにも美しい  泳ぎ姿を見て人魚だと思い込んだと言う話しは知らないのかい?  僕はそのジュゴンと話す君は、まるで人魚のようだって言ったんだよ。  ディズニー映画に出てくる、海のお姫様のようだとね。」  それは、彼にとって最大の告白であった。 自分の感じた切なさが、愛であると確信した彼の。 さっきまで心地良かった空調は、水族館に入ってから既に小一時間 経過した二人には肌寒く感じられるようになっていた。 スカリーは肩を竦めて腕をさすると “ここはちょっと涼しすぎるわね…” と呟いてモルダーから視線を逸らせると、再び水槽の中の ジュゴンを見つめる。 彼の言葉をどう受け取ったら良いのか、どう答えて良いのか スカリーには分からなかった。 次の瞬間、空気がふわっと動く感じがしたかと思うと 彼女の肩に何かかが掛かる。 驚いて振り向くと、モルダーのスーツの上着が自分の肩に 掛かっていて、彼の手が自分の腕をしっかりと握っていた。 「寒いんだろ?」 彼女が問うより先に答えた彼の表情はとても真剣で、 スカリーはますます混乱する。 「ありがとう、でも大丈夫よ。」 L.A.に来て以来、ずっと様子のおかしかったモルダーだが今日は ますます変だ。 一体どうしたと言うのだろう? 彼から離れなければ、スカリーの中の何かがそう警告する。 このままでは… 「次の部屋へ行きましょう。」 しかし、彼の視線から逃れ様としたスカリーの行動は無駄なモノであった。 彼の側から離れて、ジュゴンの部屋を出ようとした瞬間に 彼女は彼のたくましい腕によって、抱きすくめられた。 「スカリー聞いて欲しい…僕は今まで君の事をパートナーであり  親友だと思ってきた。性別など超越した、すばらしい友人だとね。  でも、L.A.に来てその考えが変わったよ。  何故今ごろ、しかも僕の嫌っているこのL.A.でそうなったのかは  分からないが。 僕は君が…」  piriririririri,piririririri.... 音に反応して腕の中のスカリーが、ビクッとしたのを感じて モルダーの言葉は途中で途切れた。 「だから、僕は君が…」 モルダーは着信音を無視して、言葉を続けようとしたが しつこくなり続ける電話にそれをあきらめ、スカリーを腕の中から 解放すると携帯を耳に当てる。 「モルダー…」 「モルダー捜査官?私だ、ロサンゼルス支局長のエドウッドだ。  夕方のD.C.行きの飛行機をキャンセルして、至急支局へ来てくれ。  例の事件に新しい可能性が出てきたんだ。」 「何だって?…分かった、すぐ行く。」 大きなため息をついて携帯を切るとモルダーはスカリーに告げる。 「例の事件に新しい可能性が出てきたらしい。  至急、支局に来るようにとの命令だ。」 既に、捜査官の顔を取りもどしていたスカリーはそれにうなずくと 早足で水族館の出口へと向かっていった。 モルダーはそんな彼女の後ろ姿を見て再びため息をつく。 “一世一代の大告白だったのにな...” 水槽の中の“人魚”は、彼の気持ちを知ってか知らずか つぶらな瞳でこちらを見つめていた。 “こんど又、君に会いに来るよ。そして、その時こそ彼女に…” 「モルダー!モルダー!!」 水の中の人魚とそう約束を交わしていると、彼を探すスカリーの 声が聞こえ来た。 慌ててエントランスに向かうモルダーが ジュゴンのいる部屋の入り口で、もう一度水槽の方を振り向くと 人魚はまだ、彼の方を見ていた。 彼女と目があった瞬間、水の中で輝く10万もの泡にスカリーが 包まれてる様がモルダーの脳裏に浮かんだ。 “やっぱり、スカリーは君と同じ『人魚』なんだよ” そして、彼は部屋を後にした。 -end-sdg --------------------------------------- -memo- ・LA SIRENE C'EST TOI, ET MOI...=君はマーメイド、僕は… ・BachのSechs Bagatellen OP.126-1が私の中にある、水族館の場面のイメージです。 今回のFicを書くにあたってanneさんには大変大きなヒントを頂きました。 ありがとうございます。 又、素敵な副題を考えてくださったのはton2さんです。ありがとうございます。 おまけに、お二人の提供してくださったその他のTaitol案をご紹介。 -by anneさん- 『バブルの向こう』 最後の泡の部分に掛けてのTaitol案。凄く印象的でした。 -by ton2さん- 『サファイアの瞳 〜 COMME UNE SIRENE AUX YEUX DE SAPHIR 〜』 訳;サファイアの瞳をした人魚のように Scullyの瞳の色が想像できます。 『Tu as des yeux, des yeux de saphir qui me fascinent, qui m'attirent.』 訳;君の瞳 そのサファイアの瞳が 僕の心をとらえて はなさない かなりお気に入り、凄いロマンティック♪ 『LA SIRENE C'EST TOI、LE POISSON C'EST MOI.』 訳;君はマーメイド、僕はサカナ 凄くかわいらしい感じです。