===========================================     これはあくまでも作者の個人的な楽しみに基づくものであり、この小説の登場人物・設定等の   著作権は、すべてクリス・カーター、1013、20世紀フォックス社に帰属します。      Hiyo様のHPのトップページを眺めていて思いついたものですが、初めの構想はどこへやら、   全く違うものになってしまいました。   でも、HP開設記念にこの物語を捧げます。(捧げられても困るって?) ===========================================  ・・・・・・ 本日のMENU ・・・・・・           APPERTIZER    "予告"            SOUP    "誓い"            FISH   "金魚"           ROAST   "日常"             SALAD   "戸惑い"          DESSERT   "約束"      COFFEE OR TEA   "確信"         A LA CARTO   "後悔日誌"      スカリー、僕はもう限界だ。  君の気持ちが知りたい。  でも、どうすれば、いい?    APPETIZER "予告" またしても、休暇を消化しろ、と人事から文句を言われたモルダーは"仕方なく"今日、旅行に  出かけることになっていた。  そう、旅行にでも行かせてしまわないと、又明日にでも、地下のオフィスに来るに違いないのだ。  荷物をトランクに放り込み、モルダーは不本意そうに車に乗り込んだ。  「モルダー、忘れ物は無いわね。留守中は私が管理しておくから、心配しないでね。」  「心配なんかしてないよ、スカリー。君がいれば安心だ。ゆっくり溜まったレポートを仕上げてくれ。」  よく言うわ。だったら、電話してこないでよ。貴方から離れると、電話に悩まされて仕事が進まない  から困るのよ。  「じゃぁ、楽しんできてね。」  「あぁ、金魚の世話を頼んだよ。」  わかったから、早く行きなさい。  「はいはい。」  「スカリー、愛してるよ。」  又冗談言って。馬鹿にしてるわ。いい加減に止めないと、セクハラで訴えるわよ。  「そんなこと言ってくれなくても、金魚はちゃんと見てあげるわよ。」  「帰ってきたら、プロポーズするからね。」  まだ言うか、この男は・・・・!  「・・・・わかりました。行ってらっしゃい。」  「・・・・僕は本気だ。いいね?」  「・・・・!?」  へっ、何ですってぇ?  モルダー、ちょっと待ちなさい!  ・・・・私の願いは届かなかった。彼は急発進して行ってしまった。    SOUP "誓い"         スカリー、君の心が見えなくて  僕はそれに耐え切れず  言ってはならない言葉を口にした    真実を追究する事  それが僕らの仕事、僕らの目的  成し得た時には君も僕も救われる  そう信じていた  その真実が少しずつ見え隠れし始めた  すると僕はとたんに不安になった  全ての真実が白日の下に曝された時  その後の長い道のりを君はどう歩いていくのか  僕から離れて独りでいってしまうのか  だとすれば僕は一生涯救われる事はない  君は僕と共に、僕のそばに  君を離さない、離れられない  愛している  そんな言葉では伝えきれない程  愛している  真実にかけて僕は誓う  君だけが僕のパートナーだ  人生をかけたパートナーだ        FISH "金魚"  スカリーはモルダーを見送った後、早速彼の部屋に行き、金魚にえさを与えた。  すうっと水面に上がってきて、大きな口を開けて、一心にえさを食べる金魚。  が、スカリーの目には、水槽が映っているだけで、彼女の思考は中を舞っていた。  一体どういうつもりよ、いつものようにからかってるのね。  ・・・・でも、いつもと違って目が笑っていなかった。    スカリーは戸惑っていた。  そうしてこのことに戸惑う自分自身にも戸惑っていた。    そんなそぶり、今まで見せたことなんて一度も無いわ。  やっぱりジョークなのよ。  でも・・・・。  「こんばんは、君がダナ・スカリーだね。」    スカリーは飛び上がった。  誰!誰なの!  咄嗟に上着の下に手を差し入れていつでも銃を取り出せるようにする。    「ボクはここだよ。」  チャポン・・・・。水のはねる音。  まさか・・・・金魚が・・・・!?  「そのまさかだよ。驚かせてごめんね。」  心を響かせる声。テレパシーってやつかしら?  ・・・・いいえ、モルダーじゃあるまいし、信じないわ。誰かいるんだわ。  「違うよ、ボクは君の目の前にいる金魚だよ。」  スカリーはまじまじとその金魚を見た。  あなたが話し掛けてるの?  心の中で呟いてみる。  「そうだよ、信じてくれよ、ダナ。」  気のせいか、モルダーと喋っているように感じられるわ。  飼い主に似るって本当なのかしら。  「そうかな。でも、今はそんな事はどうでも良いんだ。君と話がしたかった。」  どうでもいいこと無いでしょうに・・・・。でもあまり不思議とも思えない私もおかしいわ。  「答えて。君は彼のことどう想っているの?」    いきなり何なのよ。どうって・・・・仕事のパートナーよ。それ以上でも、それ以下でもないわ。  「それは残念だな。彼は確かに君をパートナーとしてみてるよ。でもそれだけでも無さそうなのにな。  毎日毎日ボクは彼の話を聞いてるんだよ。それもほとんど君のことだ。ボクを見ながらぶつぶつ  愚痴をこぼしてさぁ、おかげでボクは眠れなくて困ってるんだ。何とかしてくれよ。」  何とかしてくれって・・・・睡眠薬でも欲しいわけ?  「彼はね、いつだって君のことしか考えてないんだよ。可哀想なくらい、君に惚れてるんだよ。結婚  したいとさえ思っている事、君は知ってた?」  金魚に弁護してもらうなんて、情けないわよ、モルダー。  「情けないだろ、そのとおりだよ、ダナ。でもそうさせてるのは君の責任だ。違うかな?  真面目な人なんだね。でもそれも度を越すと困りものだ。少しは彼の事、考えた事あるかい?  何とか君に気付いてもらいたくって必死になってるよ。ホント、滑稽なくらいにね。  彼なりにアプローチをしても、君は気付かないんだね。それとも、気付かない振りをしているの?」  だってあの人はいつも冗談めかして、"愛してる"だの、"結婚してくれ"だのって・・・・。  まともに聴こえたためしが無いわ。今日だって、帰ったらプロポーズするなんて言って。  ジョークよ、そうに違いないのよ。  私のことなんて仕事の上の小うるさい相棒くらいにしか考えてないのよ。  「そんな事無いんだよ。ボクは知ってるんだ。毎日そこのカウチの上で、君の名前を呼びながら  クッション抱いてるよ。」  ・・・・おかしいんじゃないの?それじゃ、スプーキーじゃなくてただの変態よ。    「本当だよ。40前の男のやる事じゃないよな。ところで、少しは期待して良いんだね。」  何よ・・・・!  「君も、彼を愛してるって事さ。そして、ボクには近々安らかな眠りが訪れるって訳だ。」   モルダーに対する気持ちは、これは愛じゃないわ。     「だめだめ。君を見ていて判ったよ。そんなこと言ってても無駄さ。彼はね、旅行から帰ってきたら、  君に想いを告げるつもりでいるから、それを快く受けてやってくれ。  それでボクはゆっくりと眠ることが出来る。」  ・・・・!  チャポン・・・・。  水のはねる音。  スカリーは自分が眠っていたのに気が付いた。  あらためてじっと金魚を見つめたが、もう何も聞こえては来なかった。  ROAST "日常"  「ダナ、ごめんなさいね。お料理の手伝いさせちゃって。」  「そんな。妹として、当然よ。」   今日は、兄のビルの誕生日だ。  スカリーはその誕生パーティーに招待されていた。大きなチキンの仕込を手伝って、今オーブンに  入れたところだ。焼きあがるまで他の付け合わせを兄嫁のタラと一緒に作る事になっていた。  「ところで彼はどうしたの?」  「彼って誰よ。」  「ほら、貴女の仕事のパートナーだっていうフォックス・モルダーさんよ。」  「今、旅行中なの。」  「残念ね、お呼びしたかったわ。」  そう無邪気に言うタラに、スカリーは目を見開いて見せた。  「冗談じゃないわ。ビルとモルダーの仲は最悪なのよ。」  「だって、貴女といずれは結婚するんでしょう?だったら、なおさら来てもらって、あの人と仲直り  してもらわなきゃ。」  「それこそ冗談じゃないわ!結婚なんて考えても無いし、ビルがモルダーと仲直りなんてするわけ  無いわ!」   スカリーは完全に声が上ずっていた。焦って手にした野菜の皮を上手く剥く事が難しい。  「私の見込み違いなの?ダナ、本当に有り得ない事なの?」  「ビルはモルダーを一生許さないわよ。義姉さんは楽観的過ぎるわ。」  静かな調子でタラは言った。 「違うのよ、結婚のこと。」  「・・・・だって、私はモルダーを愛してないもの。仕事上のパートナーとしては最高だと思ってるわ。  でも、これは愛じゃない。モルダーだってそう考えているはずよ。」  「そうかしら。貴女が病気になった時の彼の様子は普通じゃなかったもの。彼を見ていると切ない  ほど、貴女を愛しているふうに思えたのに。」  「まさか・・・・!」  昨日の夢の中の金魚といい、義姉の話といい、どうして愛だなんていうの?  「だって、愛ってこう、もっと燃え立つものがあってもいいと思ってる。でも、モルダーに対して、そういう  ふうに感じた事は一度も無いのよ。義姉さんはどう?ビルを勿論愛しているんでしょう?」  タラはにっこり笑った。  「そうねぇ、ビルはとっても仲の良い友達でもあるわ。」  「・・・・まさかとは思うけど、それはもう兄を愛してないって事?」  タラはいっそう優しく微笑んだ。  「貴女は結婚した事が無いのよ、ダナ。結婚すれば解るわ。愛はドラマじゃない、日常よ。友達に  なれない人を愛しつづける事は出来ないわ。」  「・・・・」  「恋だのなんだのって時期はすぐ冷めるのよ。後に続くのは長い年月。静かな想いにだんだん  変わっていくものなの。  ダナ、貴女と彼はもしかしたら、貴女のいう燃え立つような時期があったのかもよ。でも、お互いに  仕事に差し障るからとその想いを押さえてきた。そうじゃないかしら?  そしてそれを乗り越えて、今は言わば理想的な関係にあると思うの。素敵な人じゃない?  よほど、信頼し合ってるのね、見ていてわかるもの。  ただのパートナーだとか、友達だとか、それだけではもったいないわ。 きっと、人生のパートナー  としても最高だと思えるわよ。」  義姉の言葉には何か強く訴えるものがあった。  スカリーは何も言えず、黙って野菜の皮を剥き続けた。  SALAD  "戸惑い"  モルダーはこの旅行中、一度も電話をしてこなかった。  おかしな事に、それがかえって気になって仕方なかった。  今ごろ何をしているのか、何を考えているのか。  こんなにもあの人からの電話が待ちどおしいなんて。  思ってもみなかった事。  これはモルダーが本気である証拠?  冗談だと、そうとしか思ってなかった私を試しているの?  私に貴方をどう思っているか考えて欲しいということ?  モルダーは私にとって、どういう存在なんだろう。  勿論仕事上のパートナーではあるわ。  でも、それだけじゃ、なかったのかも。    そうね、大切な友達。  なんでも相談できる人。  信頼のおける唯一の人とも言える。  その証拠に彼には嘘は通用しない。  それはあの人も同じ。  私には嘘をつけないはず。  真夜中の電話。  突然の深夜の訪問。  考えてみれば、とても失礼な事よね。  でも、私達は平気でそれをする。    一人でいるより二人のほうが楽に感じられる。  黙って仕事するより、議論のやり合いの方が楽しい。  同じ次元で笑い、同じ次元でものを考え  お互い、そこにいるのが当たり前になっている。  そう、ものを食べる事より衣服を着る事より  呼吸する事さえも、二人でいることの自然さにはかなわない。  この気持ちは、この想いは"愛"と言えるのかしら。  私はモルダーを愛しているのかしら。  義姉の言葉が頭から離れない。  "愛はドラマじゃない、日常だ"と。  それが正しいのなら、私はモルダーを愛しているのかもしれない。  彼は私にとって、もうずっと"日常"なのだから。      スカリーは金魚を見つめる。  今日は何も言ってくれないのね。    ガチャガチャ・・・・。鍵を開ける音が響いた。  帰ってきたのだ。  完全にドアが開き切るよりも早く、スカリーはドアの前に立って彼を待った。  そこには、スカリーを見てちょっと戸惑ったふうのモルダーがなにやら抱えて立っていた。  DESSERT  "約束"    「や、やぁ、スカリー。来てるとは知らなかった。」  「入って、モルダー。」  「あ、あぁ。」  「貴方のうちなのよ、遠慮せずに入ったら?」  僕は焦った。  とりあえず、荷物を置いて落ち着いてからスカリーを訪問しようと思っていたのに。  先制パンチを食らったようなものだ。  あんなこと言ってしまって、いつものように電話も出来なかった僕は情けなくも少し後悔していた。  「とにかく、入りなさい。」  僕の気持ちを知ってか知らずか、スカリーは業を煮やしたように、低い声になった。  「スカリー、これお土産だよ。それとこれ。」  意を決して抱えていたものを彼女に渡し、荷物を持って部屋に入った。  「あら、ハーブね、ローズマリーに、セージと、それから・・・・ミントもタイムもあるわ。良い香り。」  「君が好きそうな香りだと思ったんだ。こっちは・・・・なんだっけ?気持ちが和らぐとかいうお茶だ  そうだよ。」  「私がいつもつんけんしてるって事かしら?でも、ありがとう。このカモマイルの香りが特に好き  なのよ。」  良かった。機嫌も良さそうだし、出掛けの出来事には触れずにおこう。  しばらく花束(草束か)に顔を埋めていたスカリーは急に思いついたようにそれを置いて僕の  ほうに向き直った。  「モルダー、どうして電話くれなかったの?」  予想外のことをスカリーが言ってきた。  電話しなかったことで感謝されるかと思っていたのに。  少しは気にしてくれていたのか。  「君の仕事の邪魔はしたくなかったんだ。本当だよ。」  「・・・・嘘。私に嘘ついても無駄よ。」  「・・・・」  「貴方、私にプレッシャーをかけたのね。」  「スカリー、プレッシャーだなんて。そんなつもりはないよ。」  「じゃぁ、どういうつもりだったのよ。又からかってやった、してやったりって訳?馬鹿にするのも  ほどほどにしてちょうだい。」  いつもの数倍冷たい口調。まるで今にも涙がこぼれ落ちそうな潤んだ瞳。  僕は驚いた。ここにきて、君に初めて僕の言葉が届いたらしいと気が付いた。  いつだって冗談でしか受け止めてくれなかったのは君なのに。  「・・・・僕はいつだって本気だったよ、スカリー。」  彼女はふいっと後ろを向いてしまった。どうしたって言うんだ、君らしくない。  しかし・・・・。  今こそ、この想いを君に伝えなければ。後でもっと後悔するに違いない。  「スカリー、聞いてくれ。僕は・・・・君を愛している。これは本当だ。信じて欲しい。」  僕の言葉を撥ね退けるように、彼女は胸を抱えるようにして腕を組んで目線の先の壁を見つめて  いた。  「君は・・・・君にとって僕は、只の仕事上のパートナーかもしれないが、僕にはそれだけでは無いんだ。  いつも行動を共にして、いつだってそばにいるのが当たり前になっていて、だから、今までこうして  はっきりと僕の気持ちを伝える事は出来なかった。」  もう止める事は出来ない。このまま引き返すわけにいかない。  このまま君に正直に話すよ。その上で君に・・・・拒絶されたら・・・・。  僕の見当違いだったと金魚にでも愚痴をこぼそう。・・・・正気を保っていたら、だが。  「・・・・確かにいつも一緒だったわ。だったら・・・・からかってないではっきり言えば良かったのに。」  スカリーは感情を出さないように抑揚のない口調で呟いた。  僕は不謹慎にも顔が緩んでしまう。  「まさか、これでも君の事は良く解っているつもりなんだよ、僕への気持ち以外はね。」  「どういうこと?」  「僕のダナ・スカリーは生真面目なんだ。きっと局の職務規定を持ち出して、ハナから僕のことなんて  考えてはくれないよ。チャンスもくれずに僕の気持ちは潰されただろうね。」  「貴方のダナ・スカリーは感情の無いアイス・クィーンて訳ね。」  言葉尻が揺れていた。  笑っているのか、泣いているのか。  「いいや、感情が無いだなんてとんでもない。僕にはわかるよ、君は本当は感情豊かな人だ。でも、  それをきちんと操作する事を自分に課しているんだ。  僕には隠さなくてもいい。そんな窮屈な思いをしないで欲しい。もっと楽にして、ありのままの君を  さらけ出して欲しい。それがどんな姿をしていようと、僕は平気だよ。」  高まる想いに、僕は思い切って彼女の方に一歩踏み出した。  「君を愛しているから。・・・・スカリー、君の気持ちが知りたい。君はどう思っている?」  沈黙が部屋を支配する。  君は何を考えている?僕は読み違えていたのか?  君の中に僕は確かに存在していると思っていたのに。  それとも・・・・。  「あの時、プロポーズすると言った事が引っかかっているのか?・・・・確かに、あの時そう言って  しまったけれど、やっぱり今はまだ出来ない。」  僕は背を向けたままの彼女に近づいた。  「君も解っているはずだ。二人で、真実を暴くまでは結婚は無理だ。君を悩ませたのなら謝るよ。  でも・・・・。」  彼女の細い肩に手を置いた。小刻みに震えている。  僕に応える事が出来なくて泣いている?   そっと、そのまま引き寄せた。君の髪が僕の顔をくすぐる。  良かった、君は逃げない。だとすれば・・・・。  「でも、そのときが来たら、僕と結婚してくれるね。」   やはり後ろを向いて黙ったまま。  これは拒絶か。これが怖くて僕は電話出来なかったんだ。  「約束してくれないか、スカリー。」  君の答えを知らしめてくれ!  「・・・・私ね、今気が付いたわ。」  涙を堪えて絞りだしているかのような小さな声。  「?」  「言わなくてはいけないことを思い出したの。」  震えてはいるが明るさが混じった。しかし、僕には彼女の考えている事がわからない。  「何を?」  「・・・・お帰りなさい。」  僕の腕に彼女の小さな手がそっと触れた。  それは今まで僕が聞いたことのあるどんな愛の言葉よりも甘く胸に響きわたった。  僕は悟った。彼女は僕に答えをくれたのだと、僕を受け入れてくれたのだと。  「ただいま、ダナ。」  心をこめてそう答える。ようやくこちらに振り向いた彼女は、美しい瞳を涙で濡らしたまま、とびっきり  の笑顔を僕に向けた。  「ダナ、・・・・。」  愛してるよ。僕の全てをかけて、君を愛してるよ。  それは言葉にはならなかった。言葉にする必要もなかった。  お互いの眼差しが絡み合い、どちらからともなく求め合って、唇を重ね合わせた。  どれほどの時間が流れただろうか、僕は腕に中に収めたままの彼女に囁く。  「なぁ、さっきの返事を聞かせてくれないか?」  「あのね、いきなりプロポーズはないでしょう。」  静かな調子で返してきた彼女は僕を諭すように言った。  「物事には順序ってものがあるのよ。だから、ね、とりあえずお付き合いから始めましょうよ。」  いつもの彼女だ。ずっと優しい調子だけれど。安心するやら、ちょっと残念やら。  「・・・・ごめん。」  少し先走りすぎたようだ、気落ちして僕はうなだれる。  それを慰めるかのごとく僕の頬に暖かい手を触れさせて、彼女は小さな声でこう呟いた。  「いいのよ。・・・・きっとそうなるから。」     COFFEE OR TEA  "確信"  「お願いよ、モルダー。逃げないからちょっと離れてくれない?これじゃ、お茶も淹れられないわ。」  モルダーはスカリーを長い間抱きしめていた。今までずうっとしたかったことが叶ったのだから、  簡単に離れる気にはなれなかったのだ。  「嫌だ。君は僕のそばにいるんだ。」  「今までだってずっとそばにいたわよ。別に変わりはないはずよ。」  君らしい物言いだ。モルダーは笑った。  「変わりないだって?こんな風にしたら、今までの君だったら僕は殴られてるよ、きっと。」  「モルダー!」  照れ隠しにスカリーはモルダーも良く知っているトーンで叫んだ。  ちょっと恐れをなしてモルダーはしぶしぶ手を緩める。しかし、体を離そうとはしない。  「ダナ、君って柔らかくって気持ちいいね。」  「そう?そこのクッションとどっちが気持ちいいかしら?」  スカリーはカウチにあるクッションを指差した。  するとモルダーの顔色が一変した。スカリーもまた、当たっていたらしいと悟ると驚いた。  金魚は本当のことを言ってたの?あれは夢じゃなかったの?  「あのクッション、まさかダナ・スカリーっていう名前じゃぁ、ないでしょうね。」  「そうだよ、なぜ知ってるの?」  まさか、誰も知っているはずはない。モルダーは焦って疑問に疑問で答えた。  「・・・・そこにいる金魚に聞いたのよ。」  モルダーは目を見開いた。  「スカリー!君も随分変わったね。金魚と話す君を見てみたいよ。」  「馬鹿言わないで。言ってみただけよ。」  怒ったようにモルダーを冷たい視線で睨みつけた。それくらいではモルダーは堪えない。  それどころかより一層力を込めてスカリーを抱きすくめる。  「モルダー、いい加減にして。」  うっとおしそうにそう言うと、モルダーを押し戻そうとした。が、相手は鍛えられたFBIの捜査官だ、  所詮スカリーの力でどうなるものではない。  そこで、彼女は作戦を変える。  諦めたふうに装ってモルダーの首に腕を絡みつかせた。嬉しそうに目を細める彼を溢れんばかりの  愛情を湛えた瞳で見つめ返し、耳元まで伸び上がって囁いてみる。さっきは照れが先に立って  言えなかった言葉を。  「私も愛しているわ。」  ちょっぴり腕の力が抜けたよう。安心したのかしら。  スカリーは微笑んだ。嘘は言っていない。  「だ・か・ら、・・・・お茶を淹れさせてね。」  思ったとおりだ、モルダーの力が抜ける瞬間を見逃さず、するりと彼の腕の中から抜け出した。  「ダァナァ、・・・・。」  不服そうなモルダーを尻目にスカリーはキッチンに立った。  幸せな気分が彼女の心に広がった。  スカリーの中に在った戸惑いは今は確信へと変わっていた。  今までとは違う、確かに彼を愛していると感じられた。  今までも、そしてこれからも彼は私の日常だ。  当たり前のように思っていたが、そうではない。  私も彼もお互いに愛し合っていたからこそなのだ。  そんなことはずっと昔からわかっていたのに、今まで見て見ぬ振りをしていたのだ。  そして、今、あらためて気付いただけだ、彼を愛していると。    「コーヒーにする?それともお茶?」  スカリーがモルダーに声を掛けた。モルダーは自分の寝床であるカウチに腰をおろして、スカリー  の替わりにクッションを抱きしめていた。  「何でもいいよ、君の好きなので。」  少し拗ねた調子で言うのを聞きながら、スカリーはコーヒーの用意をし始めた。  「ボクの言ったとおりだったろ?ダナ。」  "あの"声が聞こえる。  はっとして振り向いた。又、金魚?  しかし水槽の金魚は悠々と泳いでいるだけだった。   「・・・・貴方のくれたハーブティーを淹れるわね。」  空耳よ、金魚が喋る訳ないのよ。  スカリーは心を落ち着かせるカモマイルの香りの中でそう思った。         ・・・・・・ The end ・・・・・・                               A LA CARTO  "後悔日誌  19990901"    読み手を引き摺るように、色々視点を変えて書いてみましたが、如何だったでしょうか?     予告 スカちゃんの視点     誓い モルの胸中(擬似ポエム?)     金魚 スカと金魚の対話     日常 スカとタラとの会話     戸惑い スカの胸中     約束 モルの視点     確信 読者もしくは作者の視点    難しいのは、やはり、モル君ですね。    男の気持ちは所詮女の私にはわかりませんもの。    少々こじつけ的な強引な展開ですし、何とかならんのか!と思えるキスシーンも    まだまだ子供の私にはこれで精一杯でした。    まぁ、ストーリーとしては他愛のないお話ですが、少しでも楽しんで貰えれば    私としても嬉しいです。    でも、おとな化委員会への道のりは果てしなく遠い・・・。       ところで、タラがスカリーに語る台詞"愛はドラマじゃない、日常よ"ですが     私の今一番お気に入りの漫画から引き出してきたものです。    さぁ、わかった人いるかなぁ?    正解者には、Hiyo様から素敵なプレゼントが・・・・ってないですからね。    催促しないように!        御意見御感想などありましたら、掲示板のほうへお願いします。    本日の料理人はanneでした。