−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− DISCLAIMER: The characters and situations of the television program        "The X-Files"are the creations and property of Chris        Carter,Fox Broadcasting,and Ten-Thirteen Productions.        No copyright infringement is intended. !!: 二人は恋人同士ではありません。予めご了承下さい。     この作品は、『リクエスト箱』のリクエストbPを元にしたものです。     Title: P from P −Present from Poorboy− Spoiler: The Unnatural By: 銀太 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 「プレゼントなの」 彼女はきっぱりとそう言った。 女性の店員がにこにこしながら問い掛ける。 「どなたへのプレゼントですか?」 「…………父よ。地味めなラッピングにして」 ちょっと困った顔をしてから、彼女が答える。 そう言いながら店員に渡した代物は……キレイな紺色のネクタイだった。 店員は彼女の表情をじっと見つめて、そっと囁く。 「もっとお洒落なラッピングにしてもいいんじゃないですか?」 「…何故そんなことを?」 片眉を上げて不機嫌そうな彼女の言葉に、店員はクスリと笑った。 「いえ、別に。…じゃ、こんな包みでいいですか?」 店員が差し出した落ち着いた淡いブルーの包みを見ると、 彼女は小さく息をついてから頷いた。 「ええ、いいわ。リボンはその黄色にしてちょうだい」 「わかりました」 ------なんで僕は隠れてるんだ? 帰りがけ、暇つぶしにぶらりと立ち寄ったデパートでスカリーを見つけた。 声を掛けようとして耳にした彼女の言葉で、僕は思わず身を潜めてしまった。 “プレゼントなの” プレゼント? ネクタイ……ってことは、男には違いないだろう。 まさかとは思うけど、まさか……ね。 そう言えば、明日は確かに10月13日だけど。 あり得ないだろう。僕に、だなんて。 甘い期待を抱くのはよそう。 ……違った時にショックだ。 でも待てよ。 僕にじゃないんだったら、本当は一体誰に? “父よ”だなんて、嘘までついて。 気になる……それなのに。 ------なんで僕は隠れてるんだ? 彼女は僕に気付かないまま、店を出て行った。 ** 「ねぇ、スカリー。今日って何日だっけ?」 さりげない、つもり。 嫌だなぁ、女々しいったらありゃしない。自分でも分かってるんだ。 でも、気になって仕方ないんだよ。 彼女はPCから顔を上げると、頬にかかる髪を耳にかけながら振り返った。 「13日よ。あ、そういえばあなたの誕生日ね。おめでとう、モルダー」 何も意に介することなく、さらっと彼女はそう言った。 僕は呆気に取られて数瞬言葉が返せなかった。 そんな僕を見つめて、彼女が首を傾げた。 「…何?どうしたのよ」 「いや…あの……ありがとう」 「どういたしまして」 彼女は口の端を小さく上げて微笑むと、またPCに向き直った。 しばらく僕は彼女から目が離せなかったが、 彼女はといえば、裏腹に全く何も変わった様子はなく、 そのままいつも通りの手付きでキーボードを叩いていた。 次第にまぁいいか、と思えてきた。 だけど。 少しでも期待した自分が馬鹿だった、と考えるなりやるせなくて、 さっき彼女の漏らした小さな微笑みばかりが脳裏に焼き付いてしまった。 ** 結局、何事もなく一日が終わろうとしている。 もう二時間もすれば、今日が終わって、明日になる。 ---年に一度の10月13日が過ぎ去って行こうとしている。 薄暗い部屋のカウチに寝転んで、 ちらつくテレビを眺めながら大きく深い溜め息をつく。 ……何も変わらない。いつも通りの夜。 いつも通りの誕生日。 今晩、彼女に紺色のネクタイをもらった奴は、一体誰だ? 全く、幸せ者め。 僕にもその幸せを分けてくれ。 ……いや。 その幸せを僕にくれ。 “分けてくれ”…なんて言わない。全て、欲しい。 「………スカリー……」 呟いた瞬間、それへの応えのようにドアがノックされた。 「!」 飛び起きた僕は、期待1割、確信9割でドアを勢いよく開けた。 嬉しいことに、案の定、彼女だった。 心臓がどくどくと音を立てて鳴り響いている。 息が上がりそうなほどの喜びを押し隠して、僕は平静を装った。 「…やぁ、どうした?こんな時間に」 黒いカジュアルパンツにブラウス、そして焦茶色の薄手のコートと言う、 なんとも素っ気ない格好の彼女は、両手を後ろに組んだまま僕を見上げて、 ちょっとだけ赤い顔ではにかんだ。 「Happy Birthday、モルダー」 そう言って彼女が組んでいた手を解くと、隠されていた箱が現れた。 不思議と、淡いブルーの包装ではなく、黄色のリボンもかかっていない。 むしろ、細長くて薄い形の箱ですらなかった。 僕は訝しげにその箱を見つめた。 彼女の手のひらに少し余って乗るぐらいの、正方形の小さな箱。 僕の視線に気付いて、スカリーは淋しげに眉根を寄せた。 「………欲しくない…?」 僕は慌てて首を大袈裟に振って、その箱を受け取った。 「とんでもない!ありがとう、スカリー」 「……どういたしまして。……今日二回目ね、この会話」 安心したように微笑んだ彼女がとても可愛くて、 つられて笑顔になってしまう自分がここにいる。 ……なんだか気恥ずかしくて、曖昧な笑みを浮かべながら彼女を招き入れた。 「コーヒーでも淹れるよ」 「私が淹れるわ。今日はあなたが主役だもの」 僕をリビングに押しやりながら、彼女が歌うように言う。 「そう?…じゃ、お言葉に甘えて」 ニヤリと笑って言った僕に、彼女も片眉を上げる。 「甘えるのは今日だけよ」 「一応そういうことにしておくよ」 僕は肩を竦めた。 ** 珍しく、コーヒーのいい香りが漂うだけで、 殺風景な自分の部屋の品格が上がった気がする。 でも、彼女がここにいるということの方が、 そのことのよっぽどの原因であるのは、僕自身が良く知っている。 そう、彼女がいるだけで、この部屋には人間味が溢れるのだ。 普段は少しもない暖かさが、突然に広がる。 彼女がくれたプレゼントは、まだ開けないままテーブルに乗っている。 コーヒー片手におしゃべりに明け暮れて、すっかり日が変わろうとしている。 ワインじゃないあたり、色気の欠片もないが、まぁ仕方がない。 ふと、時計に目をやった彼女が僕に振り返った。 「ねぇ、モルダー。そろそろ……それ、開けてみない?日が変わってしまうわ」 「そうだね。開けていい?」 「バカね、いいから言ってるのよ」 クスクス笑いながら、彼女は僕に箱を渡してくれた。 受け取って銀色のリボンを解きかけたところで、僕は手を止めた。 そっと彼女に向き直ると、僕は静かに言葉を紡いだ。 「実はね……」 「……なぁに?」 真面目くさった僕の顔を見ると、彼女は少しだけ不安げに目を見張った。 「昨日、デパートで君を見たんだ。その……紳士服売り場で」 「!」 「……買ってたものって、……これじゃなかったよね……」 「…………」 彼女は驚いたのか、小さく息を飲んだ。 「……だから、何…?」 「え……」 確かにそうだ。 こんなこと、彼女に言ってどうするんだろう。 自分でもわからなかった。 全くもって、嫉妬に狂った馬鹿な男。 ……とでも思われてるんだろうか。いや、どうとでも思ってくれ。 気になって仕方がないのは、紛れもない事実。 彼女が何か言うのを僕は待った。 何も言わずに。 否、言えずに…と言うのが正しいかもしれない。 しばらく僕を探るように見つめていた彼女だったが、 やがて観念したように顔を背けた。 「………物々交換だったのよ」 「へ?」 彼女の口をついて出た予想外の言葉に、僕は間の抜けた声を上げた。 「物々交換?」 彼女はこっくりと頷くと、僕の手にしている箱を指差した。 それに促されて、僕は止まっていた手を動かし始める。 銀色のリボンを解いて、クリーム色の包みを開いて、 真っ白い箱をそっと開く。 そして現れたのは……… 「……スカリー、これ………」 “Josh Exley” ------そうサインされた、古ぼけた野球ボール。 目を見開いた僕を眺めると、憮然とした彼女が溜め息をついた。 「たまたま、行きつけのお店のオーナーが持ってたの。……何でも、小さい頃、  球場に入り浸りだったんですって。エックスリーとよく喋ってたらしいわ」 プアボーイだった、ってわけか。 偶然なのか、何なのか。 ……そういうこともあるもんだ。 「どんな価値があるのかよくわからないけれど、とりあえずたくさん持ってたか  ら、一つもらえないか打診したの。それで、数日粘った結果、物々交換で一つ  譲ってもらえることになったのよ」 この間---僕が彼女に野球を教えた日、 僕はアーサー・デールズ弟が僕にしたあの話に感動していた。 真実なのか、そうでないのか、はっきりとはわからないが、 それにしても、僕はジョシュ・エックスリーという選手に敬愛を抱いた。 あの日僕は、確かに彼女にデールズの話を聞かせたが、 ジョシュ・エックスリーに関しては、それほど詳しく話したわけではなかった。 どうせ、エイリアンの“エ”の字を聞いただけで、 彼女は聞く耳を半分も持たなくなるのは目に見えていたから。 そもそも、彼女が無関心な野球の話題でもあったわけだし。 「ねぇ、スカリー」 僕はまじまじとボールを眺めながら尋ねた。 彼女は首を傾げる。 「何?」 「僕は君に、ジョシュ・エックスリーが好きだ、って言ったっけ?」 「あら、好きじゃなかった?」 「いや、そんなことないよ。好きだけど……そう言ったかなぁって」 スカリーはきょとんとして、僕を見つめる。 「言ってないわ」 「じゃ、どうしてこれを……」 「言ってないけど、」 僕の言葉を遮って、彼女はにっこりと微笑んだ。 「あの時のあなたの話す様子を見てれば、そんなことすぐにわかるわよ」 「…!」 ---興味なさそうに聞いてたくせに………… そう思った途端、じわりと心の底から温かい何かが広がった。 ふんわりと優しい、スカリーの温かさによく似ている。 「お誕生日おめでとう、モルダー」 「スカリー……」 ……君は僕を喜ばせる術をちゃんと知ってるんだな。 「ありがとう…!」 勢い余って抱き締めた彼女の、 呆れたように苦笑した声が耳に響いて心地いい。 「ちょっと……大袈裟ね、モルダー。ただのボールなのに、何がそんなにいいの?  やっぱり私にはわからないわ」 -----そんなことに関するお礼じゃないんだけどな…。 何かちょっと見当違いな彼女の発言も愛おしい。 僕は彼女から身を起こすと、ニヤリと笑みを浮かべた。 「わからない?じゃ、もう一度教えてあげようか?誕生日プレゼントにさ」 「この間もらったばっかりだわ」 「この間のは、今年の2月の分だよ。今度は来年の2月の分。今度こそホームランを  打たせてやるよ。この前は最高でも3ベースヒットだったからな」 「ランナーもいないのに、3ベースヒット?」 「3ベースヒット級の当たりってことさ」 カウチに座り直しながら、今度は彼女が悪戯っぽく笑った。 「残念だけど、今日はお手伝いしてくれるプアボーイがいないわ。だから、どちらか  がピッチャーをやらなくちゃね」 僕はその言葉にしばらく口をつぐんだが、すぐに彼女に向き直る。 「この間のプアボーイは、一時間10ドルで雇ったんだ。ねぇ、スカリー。君の買った  高級ブランド物のネクタイだったら、何時間雇えるかな?」 「…モルダー、彼はもうプアボーイじゃないのよ?とっくにね。今となっては、立派  な雑貨屋さんのオーナーだわ」 「構うもんか」 「勝手なこと言って…」 彼女は呆れたように僕を見つめて、やれやれ、と呟いた。 「全く……しょうがない人ねぇ。あなた一体何歳よ」 肩を竦めて満面の笑みを浮かべた僕に、 溜め息をつきながらも、彼女は柔らかい微笑みを返してくれた。 それさえも、僕にとっちゃ誕生日プレゼントなわけで……。 ------今夜僕は、一体いくつの幸せをもらっただろう? 10ドル紙幣で幸せをおくれ、プアボーイ。 高級ブランドネクタイで幸せをおくれ、プアボーイ。 幸せは安くない。金じゃ買えない、と人は言う。 …当たり前だよ、安いわけがない。買えるわけがない。 僕の幸せは決して安くない。 ---“ダナ・スカリー”という名前までついた幸せは、 金なんかじゃ買えないんだ。 絶対にね。 −The End− −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− <アトガキ> 初めまして、こんにちは。銀太と申します。 先日初めて参上させて頂いたひよさまのサイトにて、 リクエスト箱を発見し、麗しく微笑ましい実話に感動して、 思わず投稿させて頂いてしまった次第です。 (その割には、あまり内容を踏襲しているとは言えない気がするんですが(爆)) それにしても、すっかり時期外れのモルダーお誕生日Ficになってしまいました。 それでは、ここまでお付き合い頂けた方、本当にありがとうございます。 不束な新参者ですが、どうぞよろしくお願い致します。 ところで、『The Unnatural』のPoorboyくんって、可愛いと思いませんか? ……あ、思いませんか; −−銀太−− ◎ご意見・ご感想、リクエストなど頂けたら幸いです。 disposer2@yahoo.co.jp