−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− DISCLAIMER: The characters and situations of the televisionprogram        "The X-Files"are the creations and property of Chris        Carter,Fox Broadcasting,and Ten-Thirteen Productions.        No copyright infringement is intended. !!: 二人は恋人同士ではありません。予めご了承下さい。 Title: 安眠法 By: 銀太 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 眠れない夜。 そんな時、どうすればいい? 例えば、こうする。 ほんのちょっとだけ、ワインを飲んでみる。 ほろ酔い気分に乗じて、安らかに眠れるかもしれない。 それでも眠れない夜。 そんな時、どうすればいい? 例えば、こうする。 思い切って、熱いシャワーを浴び直してみる。 身も心もすっきりして、爽やかに眠れるかもしれない。 それでも眠れない夜。 そんな時、どうすればいい? 例えば、こうする。 羊の数を一匹ずつ順番に、数えてみる。 たくさんの羊と共に無心になって、いつの間にか眠れるかもしれない。 そうだ、そうしてみよう。 ---羊が一匹。 ---羊が二匹。 ---羊が三匹。 ---羊が四匹。 ---羊が五匹。 無心に羊を数える。そうよ、無心に。 だけど……… ふと、雑念が混じる。 羊じゃない動物が紛れ込んだりする。 例えば、そうね。 ……淋しそうな仔犬。 捨てられたような瞳で、私を見つめるの。 ……嬉しそうな仔犬。 心底楽しそうな瞳で、私を見つめるの。 そうして、不思議なことに、仔犬はこう言うの。 “一緒にUFOを探しに行かないか?” ---羊が六匹。 ---羊が七匹。 ---仔犬が八匹。 …………違った。 ---羊が八匹。 ---羊が九匹。 ---仔犬が十匹。 …………違うってば。 「………やっぱり眠れないじゃない」 rrrrrrrr! rrrrrrrr! ベッドサイドにあった電話が鳴り響く。 たじろいだけれど、こんな時間の電話だ。 ---01:27 誰からかなんて、火を見るより明らかだ。 深くため息を吐き出して、私は受話器を取った。 眠れなさで気だるい身体を無理矢理起こし、 すっかり冴えてしまっている目をわざとらしく擦ってみながら。 「スカリー」 少々無作法な応対になってしまったけれど、気にも留めない。 こんな時間にかけてくるんだもの。それはお互い様。 聞こえてくる声がどんなものか想像しながら返事を待つ。 『眠れない』 …………驚いて、思わず息を飲む。 突然何を言い出すのかと思った。 ------“眠れない”、ですって? 『……スカリー?』 ------どうして今日に限ってそんな用件なの? 「……それで、どうして私に電話してくるわけ?」 『どうしてって』 「私はあなたと違ってちゃんと眠っていて、こんな時間に電話をしたら、非常に  迷惑をこうむるかもしれない…って思わない?普通」 『ああ……そう言われてみれば。……で、今もそうだった?』 「……当たり前でしょ」 そう言ってから、受け答えに一瞬の間を空けてしまったことを後悔した。 案の定、彼は訝しげな声音で問い直して来た。 『…ホントに?』 ホントは…………眠れないのよ。私も。 「…………いいえ」 『…なぁんだ。じゃあさ、提案があるんだけど』 彼はホッとしたように、弾んだ声で話し出す。 私は、“提案”という言葉に身構えた。 『一緒にUFOを探しに行かないか?』 ---仔犬は、嬉々とした瞳でこう言うの。 「……モルダー。眠れない時に、どうしてそういう提案が浮かぶの?」 『その“眠れない時”を楽しく過ごす為さ』 私は呆れてため息をついた。 「お互い大人しく、眠る為の努力をすべきだわ」 『…じゃ、こうしよう。ゲームをするんだ』 …ちっとも“じゃ”って内容じゃないんだけど。 でも、ま、聞くだけ聞きましょ。 「……ゲーム?」 『そう。これから、しばらくの間、僕らは電話で喋り続けるんだ』 「…何を?」 『何をってことはないよ。適当な話題で、好きなように話すんだよ』 「…それで?」 『話してる途中で眠くなって、先に眠った方の負け』 「はぁ?」 私は、モルダーの楽しそうな声を聞きながら、首を傾げる。 ニヤニヤしながら話しているだろう彼の顔が目に浮かぶ。 「ねぇ……私達は眠れないんだから、先に眠った方が勝ちじゃない?」 『スカリー、君は眠れないことが全くもってよろしくない、と思ってるんだな』 「だって……そりゃあそうでしょう?」 モルダーはクックック、と、さもおかしそうに笑う。 受話器越しだから、妙に耳元でその声が聞こえて、くすぐったい。 『慣れてみると、眠れないってのは案外楽しいもんだよ。昼間じゃ考えない  ようなことまで考えちゃったりしてさ』 「……私はあなたの“妄想”に付き合ってるほど暇じゃないのよ」 『暇じゃない、だって?君は眠れないんだろ?それを“暇”と言わずに何と言う  つもりだい?』 「さっきも言った通り、眠る為の努力をする時間よ。決して“暇”ではないわ」 ますます笑い出すモルダーに、苛立ちが募る。 けれども。 『スカリー、それって屁理屈って言わないか?』 「!………」 その一言で、私は半ば自棄になった。 ---いいわよ、付き合ってやろうじゃないの。 眠れないことに楽しみすら見出す、この万年不眠症男に! 「……わかったわよ。やるわ、その“ゲーム”」 『よし、じゃ、ルール。10秒間返事がなかったら眠ったってことで、負け』 「いいわ。で、負けたらどうするの?」 『そうだなぁ……じゃ、今日の昼飯奢るってのでどう?』 「…ええ、いいわよ。あ、でも、カフェテリアは嫌」 『へぇ、何故?』 「だって、モルダー。最近、不味くなったと思わない?」 おどけたように問い掛ける彼に、私は思いのほか真剣に答える。 『ふぅん、そうかな?…例えば何が?』 ……そして、予期せず“ゲーム”は始まった。 「例えば……そうねぇ………」 眠れない夜。 そんな時、どうすればいい? 例えば、こうする。 ほんのちょっとだけ、ワインを飲んでみる。 ほろ酔い気分に乗じて、安らかに眠れるかもしれない。 それでも眠れない夜。 そんな時、どうすればいい? 例えば、こうする。 思い切って、熱いシャワーを浴び直してみる。 身も心もすっきりして、爽やかに眠れるかもしれない。 それでも眠れない夜。 そんな時、どうすればいい? 例えば、こうする。 羊の数を一匹ずつ順番に、数えてみる。 たくさんの羊と共に無心になって、いつの間にか眠れるかもしれない。 それでもなお、眠れない夜。 そんな時、どうすればいい? ------答えは簡単。 眠らなければいい。 …と言うのは、ちょっと語弊がある。 つまり、眠れない時が楽しければいい。 その為に、 例えば、こうする。 他に眠れない人を探す。 ……差し当たって、彼に電話をするのだ。 そうしたら、眠れるかどうかに関わらず、充実した時が過ごせるかもしれない。 どれほど時間が経ったのか、 ふと会話が途切れた時、私は小さく息をついた。 「…もうっ、今日は寝不足確実ね」 『……………』 「モルダー?」 彼の返事は、なかった。 それから10秒経っても、1分経っても。 ……万年不眠症の彼が、眠っている。 それに自分が貢献できた気がして、なんだかすごく嬉しかった。 ---03:07 夜更かしの最高記録に近かった。 もちろん、捜査中にある、徹夜の日には敵うわけもないけれど。 …それにしても、よかった。 まだしばらくは眠れるじゃない?ねぇ、モルダー。 「………お休み、モルダー」 ……どんな顔で眠っているのかしら。 また、悪い夢にうなされたりしないかしら。 不安に思ったけれど、 瞬間、幸せそうな仔犬の寝顔が脳裏をよぎって、思わず吹き出してしまった。 クスクス笑いながら、私はそっと囁いた。 「モルダー……言っておくけど、カフェテリアは嫌よ」 微笑んで通話を終了させ、受話器を置くと、 私も、手元の明かりを消してベッドにすっぽりと収まった。 横たわった私は、2時間ほど前とは打って変わって満たされていた。 …穏やかで優しい充足感に。 ワインを飲むよりも、ずっと心地よくて、 熱いシャワーを浴びるよりも、ずっと身体の芯が温かくて、 羊を数えるよりも、ずっとずっと自然な感覚。 …ただ、彼と話していただけなのに。 眠れない夜。 そんな時……… ------最初からこうすればよかったのかしら? 今さらだけど、とてもよく眠れそうな気がした。 ------明け方近く、小さな仔犬と一緒に眠る夢を見た。 ブラウンの柔らかくて美しい毛並みを撫でると、 仔犬は、眠たげにヘイゼルの瞳を揺るがせて私に擦り寄って来る。 私は、不眠症の仔犬が悪い夢を見たりしないように、きゅっと抱き締めてやる。 そうすると、仔犬は安らかに落ち着いて、目を閉じた。 ぽかぽか暖かい陽だまりで、私達は身を寄せ合って眠った。 ---妙にリアルで、幸せな夢だった。 −The End− −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− <アトガキ> こんな内容のない話ができてしまったのは、 『War of the Coprophages(害虫)』にて、 夜中に虫がいるような感覚に襲われて眠れないモルダーが、 スカリーに突然「眠れない」などという電話を掛けていたせいです。 それでは、ここまで読んで下さった方、本当にありがとうございました。 このFicが寝苦しい熱帯夜の気休めに少しでもお力添えできることを願って…。 −−銀太−− ◎ご意見・ご感想・リクエストなど頂けたら幸いです。 disposer2@yahoo.co.jp