DISCLAIMER// The characters and situations of the television program"The X-Files" are the creations and property of Chris Carter,Fox Broadcasting, and Ten-Thirteen Productions. No copyright infringement is intended. =-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= おことわり:2作目なのですが、自分で事件を起こすところから書いてみようと思ったのが運の尽き。       ながーい話になりそうです。       とりあえず、前編です。       作中のモルスカは、私が勝手に想像して書いた二人なので、もし読んでくださった方の       イメージを壊してしまったら申し訳ないので、それでも良いというかただけ、お読み下       さい。       また、事件に関しては拙い点が数あるとは思いますが、ご容赦ください。       もし、感想やアドバイスをいただけたらうれしいです。       e-mail  creoblue@ymail.plala.or.jp   =-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 「Give a puzzle to guess」(前編)  by Hiyo Date 99/05/08   Mulderは、いつものように遅い時間にFBIのビルを出た。 雨上がりのせいか、ちょっと湿った外の空気を思いきり吸って、ほっと一息つく。 エアコンに通されていない、外の空気は心地よい。 しかも、さっきまでの雨のおかげでいつものほこりっぽさもないような気もする。 少しだけ生きかえった気分に浸りながら、Mulderはそぞろ歩いた。 お腹もちょうどいい具合に減ってきたし、今晩の食事をどこですまそうかな?などといい気分で 考えていた時、突然後ろから声をかけられた。 「君がFBIのFox Mulderか?」 思いがけない展開にびっくりしたMulderは、すばやく後ろを振り返った。 すると、そこにはMulderより少しだけ身長の低い、しかしがっしりした体つきの男が立っていた。 街灯の光で相手の顔をじっくりと見てみたが、Mulderの記憶に無い顔である。 「失礼だが?」とMulderが聞くと、男はふところから名刺を取り出した。 「フリーのジャーナリストをやっているHarold Martinだ。」 Mulderはその名前に、どこかで聞き覚えがあるような気がした。 そういえば、たまに新聞や雑誌でみかける名前である。 たまに政府の姿勢に対する強烈な批判の記事や、どこから手に入れるのかわからないが、驚くよ うなすっぱ抜きの記事を得意としているということまで思い出した。 その辛らつさは、社会的には敵も多く作るだろうが、Mulderとしては小気味よさを感じていた。 「ああ…」とMulderが話しかけた時、男はびくっとしてすかさずあたりを見回した。 「ここでは、まずい…」とHaroldは、まるでなにかに怯えているように言う。 「なにが…?」 「こっちへ」と彼は路地の小さな枝道に入った。 Mulderは一瞬どうするか迷ったが、一応服の上からホルスターの中の拳銃を確認し、ボタンをは ずしておいてから、彼に付いて路地裏に身をすべりこませた。 少し歩くと彼はゴミ箱にまるで身を隠すように立っていた。 とりあえず、Mulderもそれにならうことにする。 そして、まわりを鋭く観察しながらHaroldに話しかけた。 「追われているのか?」 「あんたのことはある人から紹介されて知った。」 彼はMulderの言葉に畳み掛けるように言った。 「紹介?誰が?」 「それは言えない。そういう約束で教えてもらったのだから。」彼は早口に答える。 「言えないって…」 「聞いてくれ!時間がないんだ。」 ことごとくMulderの言葉を遮るHalordに抗議の言葉を発しようとしたが、それもできない状態だ。 とりあえず、ここは相手の思うように話させてみる事にした。 「ここに、この国の政府の許されざる犯罪の証拠がある。」 「?」思いもよらなかった記者の言葉にびっくりして相手を見つめる。 そんなMulderの表情を汲み取った彼はおもむろにB4くらいの大きさの封筒を差し出した。 それを受け取り中を確かめてみると、一枚のコピーされたらしい送付票と、直径1cmくらいと思 われる長さ30cm位の棒が出てきた。 漏れてくる街灯の明かりだけではよくわからず、懐からペンライトを取り出してそれに当てて見 る。 メタリックな金属のわりには重さがまるで感じられない。 しかし、犯罪の証拠などというものになり得そうにはない、たいして特殊なものでもないように 思えた。 たとえば空洞のアルミの棒かもしれない。 「これが?」Mulderは軽い失望感を感じながら、一応相手に確かめてみる。 「生物兵器とやらに関係するものなのか?それとも…」 すると彼はその質問には答えず、怯えたような表情でMulderを見返していた。 「これのせいで、俺の仲間はもう3人死んでいる。」 「なんだって?いったい…?」 「時間がない。とにかく聞いてくれ。」 男はそれから、Mulderに質問をする隙をあたえず、一気にしゃべりはじめた。 「死んだ3人はいずれも俺と同じように、フリーのジャーナリストだった。俺達は仕事上ではそ の性質のためにライバルだったが、仕事を離れればいい仲間だった。」 そう言って、Halordは彼らの名前を挙げた。 確かに新聞等でよく見かける名前でもあり、記事も同じジャンルのものを得意としていたような 気もする。 「そんな俺達の間で、たまに話題になっていたのが“Seyfert”と呼ばれる計画だった。」 「“Seyfert”?」Mulderにとっては初耳だったので、思わず聞き返す。 「政府間の秘密裏に行われる取引のうちの一つだ。」 Halordはさらに続けた。 「これは、この国に利益をもたらす技術や情報、または産物を相手国の望むものとを交換取引す るものなんだ。」 その説明を聞いてMulderは思わず笑った。 「なにを大げさなことを?そんなことは政府だけに限らず、民間の会社同士でもやっていること だ。」 そんなMulderの反応にHalordは勝ち誇ったように言い返した。 「たとえばその内容が、倫理的に背いていても?」 「なに?」 「今回の取引はアメリカで逮捕された超一級テロリスト8人と某国の開発した生物兵器なんだよ。 これでも大手を振って発表するのが可能だと?」 驚いたようなMulderの表情に満足したように、Halordは頷いて先を続けた。 「これを最初に手に入れたのはDaniel Beckだった。未だにどういうルートかはわからないが、判っ ているのは彼がこれを手に入れて、10日後に死んだということだけだ。そして次に渡ったやつは 7日後に死んでいる。その次が5日後。そして…」 HalordはMulderに渡した封筒を気味悪そうに見つめてつぶやいた。 「俺の手に入ってからは2日たった。」 「なぜ君の手に渡ったんだ?」 「これを渡してくれた奴は、俺とはとくに仲が良かった。お互いにこんな仕事をしているだけに、 いつなにが身の上におこるかわからない。だが、志半ばで終えるよりもいざという時には、お互い に仕事を引き継げるよう約束ができていた。これは俺たちだけでなく後の二人も同じだ。だから奴 もその前に死んだ二人のうちのどちらかから引き継いだんだと思う。」 Halordの語気は一気に熱を帯び始めた。 「こいつを見つけたのは、やつの貸し金庫の中だった。奴の訃報を聞いて尋常ではない感じを受け たし、他の二人がすでに死んでいたのも知っていたから、ひょっとすると仕事がらみで殺されたの かと思い、早速預かっていた鍵を使って開けてみた。すると、このわけの判らない棒や送付票と一 緒に置かれてあった奴の取材メモを読んで鳥肌がたったよ。そして、確信した。奴らは殺されたん だってことを…」 「殺されたっていったいどうやって…?」 「爆死だよ。車に乗ろうとした瞬間にこっぱみじんさ。ついでに言うと最初の奴は溺死。次の奴は 転落死。いずれも死体の損傷が激しくて本当の死因は未だにはっきりしていない。」 確かにそのすべての死はあまりにも不自然だ。 「そのメモっていうのは?」 「いまは俺の家に置いてある。」そういって相変わらず辺りを見まわしている。 「連中はこれが俺の手にあるというのを気づいたらしい。昨日からつけられている。もう、これの せいで怯えるのはいやなんだ。俺の扱えるレベルではない。本当は今すぐにでもあんたにすべて渡 して忘れてしまいたいくらいだ。けれど…」そこまで言ってHalordは言葉を切った。 「土壇場になって、あんたが奴の命を奪った原因を確実に捜査して公表してくれるような人なのか 確かめてからじゃないと渡せないと思った…都合のいい話だが。」 Mulderが相手を見つめると、彼はさらに続けた。 「奴の最後の仕事だったからな…本当は俺にできることなら遺志をついでやりたかった。だが人間 守るものが増えると弱くなるものでね。」 そこで、Halordは初めてはにかんだような笑顔をみせた。 「Wifeに来月赤ん坊が生まれるんだ。」 その笑顔にMulderは、状況を忘れて微笑み返したくなったが、肝心な事を聞いていなかったことを 思い出す。 「…なぜ、僕を信用した?」 「人を見る目はあるつもりさ。それにあんたの経歴も調べさせてもらった。」Halordはそういって 軽く唇をなめた。 「君を紹介してくれたのは、俺にとっては100%信頼できる人物だったからな、少し用心深すぎたか もしれん。ただ…」そういって、相変わらずまわりを伺っている。。 いったい、なにが彼をそうさせるのだろうか? 「用心するにこしたことはない…明日会おう。」 そう言い残すとHalordは、路地から飛び出して行った。 すべてが突然すぎて混乱してしまい、走って後を追う気にもなれず、Mulderは手渡された封筒をじっ とみていた。 その時カタンとどこかで音が鳴った。 慌ててまわりを見まわすと、上の方で誰かが干しっぱなしで忘れていただろう洗濯物を取り込んで いるのが見えた。 思わずびくっとしてしまった自分にMulderは苦笑し、路地裏から外に出た。 そこにからはもう、Halordの姿は確認できなかった。 いくら、物が手元にあるとはいえ、半信半疑のMulderだった。 しかも、一体誰が自分を紹介したというのだろう? それとも、これこそが自分にかけられた罠でありえる可能性だってある。 しかし、本当の話なら、あの時彼を追わなければならなかったかも? 頭の中でいろいろなことがぐるぐるまわる。 さっきまで感じていた空腹感はどこかにいってしまっていた。 いまの短い会見の中であったことを反芻しながら自分の思考に埋没しはじめる。 そこで、しばらく立ちすくんでいたが、とりあえずこのままここにいてもしょうがないということに やっと気づいた。 そして、家に帰るべく機械的に手を挙げて、目の前にとまったタクシーに乗り込んだ。 ほっとため息をつき、封筒の中の送付状を確認するべく、手を入れてみるともう一枚の小さい紙が手 に触れる。 とりだしてみると、どうやら彼の名刺らしかった。 最初にもらったものとは違い、自宅の住所まで書いてある。 なにげなくそれを眺めると、そこに書いてあった住所はなんとなく見覚えがあった。 しばらく考えた後、その住所はMulderの自宅のわりと近所だったことを思い出した。 このまま帰るなら彼の家の前を通る事になる。 これから彼の家を尋ね、メモとやらを受け取ろうか、それとも明日を待つべきなのか…と考えている と、車が急にスピードダウンした。 前を見るとなんだか渋滞しているのがわかる。 「なにがあったんだろう?」と、タクシーの運転手がつぶやく。 確かにこんな時間に渋滞する事などめったにない。 なにかあったのかと考えるのが当然だ。 「すみませんね、だんな。お急ぎでしたか?」人のよさそうな運転手が聞いてくる。 「いや、そうでもないんだが…なにかあったのかな?」 「…そうですね。ちょっと仲間に聞いてみましょうか。」そういって運転手は無線機を手に取った。 しばらく相手を探していたようだったが、やっと事情を知っていそうな相手をつかまえたらしかった。 「ああ、なんだかな。その道の通り沿いにあるマンションが火事らしい。」 「火事?」 「そう、原因はわからないがとにかく火の勢いがすごくて、消防車が3台くらい囲んでいたよ。俺は 反対方向だったし、ちょうど通行止めをされる前だったからすぐに通り抜けられたけれど、今はどう かな?」 「これだけ動かないと通行止めの真っ最中かもな。」ぼんやりとその会話を聞いていたMulderだった が突然、あるいやな予感がした。 「そのマンションの名前ってわかるかい?」 突然会話に入ってきた客に運転手はすこしびっくりしたようだったが、すぐに聞いてくれた。 「ああ、たしか“White Catle”とかいうこのあたりじゃちょっとした高級マンションさ。」 その返事を聞いたMulderは名刺を見直す。 …予感は当たっていた! 「悪いがここで降ろしてくれ!」 Mulderの剣幕に驚いた運転手は、見つめ返した。 そんな反応の悪い彼に、Mulderは懐から財布を取り出してお金を押し付け、タクシーから飛び出した。 Mulderが慌てて駆けつけた時には、もうそこは火の海だった。 やじうまをかき分けて、なんとか刑事らしき人のところまで辿りつく。 「出火元はどこの部屋だ?」 すると刑事はMulderを振り返り、胡散臭そうに手を振った。 「そんなのは君に関係無いだろう。危ないから下がっていたまえ。」 そんな刑事の反応に、ふところからIDを取り出して見せた。 刑事は驚いてMulderを見返す。 「FBIにはまだ連絡はしていなかったと思うが。」 「いや、知り合いの家がここにあるんだ。教えて欲しい。」 すると刑事は同情したような顔をして、懐から手帳を取り出して調べてくれた。 「…えっと、火元と思われるのは、Harold Martinの部屋だ。けっこう有名な記者らしい。」 やっぱり、という思いがMulderを駆け巡った。 思わず目をつぶり、つい声が震えそうになるのを押さえてMulderはさらに聞く。 「原因は?」 「それはまだわからんが、すごい爆発音があったらしい。」 「爆発?」 「ああ、それとともに火が出たんだが、それがかなりの勢いで通常の火事でみられるような火じゃな いんだ。」そう言って刑事はあごをしゃくった。 つられてみると、10階建てのビルの上の方はすごい勢いで燃えている。 「出火場所は6階、にも関わらずあっという間に上の方まで火の海だ。なにかすごく燃えやすい物質 があったとしか思えない火のまわりの早さだ。そのせいで上の方の住民は助けられなかった…」 刑事はとてもくやしそうに最後はつぶやいた。 「これじゃあ、放火だったとしても原因を見つける事ができるかどうか…」 そんな刑事の言葉を最後まできくことなく、Mulderはすでにその場所を離れようとしていた。 頭の中ではたくさんの疑問と、どうしたらいいのかという対策を練るのでフル稼動している。 それが、飽和状態になりそうだったとき、Mulderは再びタクシーを止めていた。 「ジョージタウンへ行ってくれ。」 時計を見るともう1時を回ろうとしていた。 一瞬だけ躊躇したが、とりあえずドアをノックしてみる。 案の定、すぐには反応がなかったがしばらくするとカチリと音がしてドアが開いた。 「いいかげん言い飽きた台詞だけど…」 青い瞳がMulderの顔にそそがれる。 「何時だと思っているの?Mulder。」 「一時過ぎだよ、Scully。いつもよりは少しは早いだろ?」 いけしゃあしゃあと答える相棒に、ガウン姿のScullyは軽く肩をすくませて見せたが、すぐに彼を部 屋に招き入れた。 中は真っ暗だった。 「Scully、僕のためには明かりもつけてくれないのかい?」 「ちがうのよ、Mulder」 どうやら彼女も手探りで動いているらしい。 「よくわからないけれどこの部屋の配線がどうかなってしまったのか電気がつかないの。」 「電気が?」 「そう、寝室やキッチンは大丈夫なんだけれど…待ってて、いま蝋燭を探すから…」 一生懸命蝋燭を探している彼女の姿がなんだか微笑ましかった。 先ほどまでの緊張がやわらぐ。 そうこうするうちに部屋の中央でぽっと明かりがついた。 「明日には電気屋さんに来てもらうわ。」 「…よかったら僕が見てみようか?」なんとなく、この部屋に電気屋といえども誰かが入るのがいや な感じがしてMulderは思わず提案してしまった。 Scullyは手を止めてMulderを見つめた。 「…あなた、何しに来たの?」そう答えたScullyの言葉にMulderはわれにかえる。 「実は…」 「待って、Mulder。お茶でも入れるわ。ご飯は食べたの?」 「いや、まだだけど…」 「だめよ、Mulder。ちゃんと夜はご飯を食べなきゃ。待ってて、サンドイッチくらいならすぐに用意 できるわ。」 そう言って彼女はキッチンに立った。 キッチンの方はちゃんと明かりが付いているようだ。 自分の為に食事の用意をしてくれている相棒をぼーっとみながら、Mulderはしばし先ほどまであせっ ていた事件の事を忘れていた。 「さあ、Mulder。食べてちょうだい。」 ScullyがMulderの横に座った。 差し出されたものをとりあえず口に運んでみると、やっぱり本能には勝てなくてお腹がすいていたん だなと実感しつつ、あっという間に平らげた。 その様子を満足げに見ていたScullyは、皿の上がかたづいたのをみるとおもむろに話を切り出した。 「それで、いったいなにがあったの?Mulder。」 やっと事件についての話に水が向けられて、Mulderはいままでにあったことを話し始めた。 懐の中から渡された封筒をとりだして机の上に置き、中身についても説明をした。 Scullyは真剣にMulderの話に耳を傾けている。 「…それで、結局詳しい話が書いてある取材メモは焼失してしまったおそれがあるのね。」 「おそれと言うより、100%なくなってしまったと思う。だから肝心な内容はわからずじまいさ。」 今日の事はすべて相棒に伝えた。 話ながら自分でもう一度あらましを、反芻してみる。 その最中にも、あのマンションの火事の情景が目の前をちらつき、忘れることができない。 Scullyはしばらく黙って、考え込んでいるふうだった。 「私の結論を言わせてもらうならば。」しばらくして、Scullyはおもむろに口を開いた。 「Mulder。確証がないのに彼の話に躍らされてはいけないわ。」 …いつものScullyだ、Mulderはため息をついた。 はっきりとした証拠をつきつけられないと決して信用しない。 「でも、現に4人とも死んでいるんだよ、Scully。」 「だからと言って…」Scullyは困ったような顔をしてMulderを見つめる。 「正直言ってその話は、政府云々のあたりからして荒唐無稽過ぎて信じられないわ。」 あくまでも冷静な態度がMulderの癇に障る。 その瞬間に憤りが一気に高まった。 「どうして信じないんだ?Scully。4人もの命を奪われているのが何よりの証拠じゃないか!」 別れ際の彼のはにかんだ笑顔がMulderの脳裏によぎる。 そして、ここに来る前までに感じていた感情がぶりかえす。 あの時、自分がもっと彼を信用していたなら…あきらかに狙われていると言った彼を一人で帰さなけ れば…ちゃんと追っかけていれば…後悔先に立たずというのはまさにこの事だ。 …そう、Mulderの中ではいつのまにか彼の死を自分の責任のように感じていたのだ。 Scullyはそれを長い付き合いの経験から敏感に感じ取っていて、とりあえずMulderを落ち着かせるた めに、すぐには話にのらない態度をとったのだった。 しかし、今のMulderにはそんなScullyの気遣いなど感じようがない。 「なぜ、いつも信じない?!Scully!!!」 「Mulder、お願いだから落ち着いて!冷静になってちょうだい!」 「僕はいつでも冷静だ!」そう言い捨ててMulderは勢いよく立ちあがった。 その拍子に蝋燭の燭台が倒れて、あたりが真っ暗闇になる。 しまったと思いつつ、あわててそれを起こそうとするMulderの目に、信じられない光景が入った。 さっき、Halordから預かった封筒から光が漏れているのに気がついた。。 Mulderは燭台のことは放っておき、封筒に飛びつく。 恐る恐る中を確かめて見ると、例の金属の棒が青光りしているのが目に入った。 それをそっと触ってみる。 意外にもそれは熱くなく、逆にひんやりとしていた。 封筒から取り出すと横で相棒が不思議そうに見ている。 Mulderもそれをじっと見てみたが、思わず驚きの悲鳴をあげそうになった。 その棒の内部でまるで波のようになにかが揺らめいているのがわかった。 「これは一体?」Scullyの口からも疑問の声が出る。 「わからない。さっき受け取った時にはこれほどの光は感じなかった。」 そう、少しの発光体があるのは感じたが、まさかこんな…まるで水中照明で照らされた夜のプールの 青い水面に似た感じだ。 絶えず、中でなにかが流動しているのがわかる。 「Scully、来てくれ。」そう言ってMulderはキッチンへ向かった。 棚下に据え付けられている蛍光灯の前でそれをかざすと、さっきまでの幻想的な光は見られなくなり、 一変して鉄のような冷たい金属面に変わった。 しかも、相変わらず重量感がない。 横でのぞきこんだScullyは、それをじっと見ていたが何も言わなかった。 「感想は?Scully、これは何だと思う?」 Scullyは、じっとMulderの顔を見つめて、その物体を彼の手からとってみる。 そして言葉を選ぶようにしながらゆっくりと答えた。 「…あなたのマジックじゃないなら…」Mulderは軽く両眉をあげて見せ、次の台詞を促した。 彼の目は先ほどまでの機嫌の悪さが全く消えて、好奇心の塊のような光を放っている。 Scullyはあきらめたように小声で答えた。 「私の知っている限りでは、初めて見る物体だわ。」 その言葉にMulderは満足そうに頷いた。 「地球外から運び込まれたのかな?」本気とも冗談ともとれる表情で聞いてくる。 そんな台詞は予測済みだったScullyは、さして驚く風もなくキッチンから外に出る。 「とにかく、明日ラボでそれを調べてみるわ。結論はそれからでも遅くはないはずよ。」 Mulderはやっと相棒が協力してくれる気になったのを見て、満足した。 おかげで、明日からの捜査方針も決まり、すっきりしてきた。 「わかった、僕は殺されて4人について洗ってみる。それぞれの殺され方は違うがなにかが見つかる かもしれない。」 そう言って玄関へと向かった。 「ありがとう、Scully。助かったよ。さっきはつい…すまなかった。」 「なんのことかしら?Mulder。」見送りに来ながら、Scullyはとぼける。 もう、ここを尋ねてきた時のような、激しい後悔や焦燥感といったものは自分の中から消えていた。 すべての事をどのように処理して、次になにをするのがベストかという当たり前の冷静な選択をする だけの余裕が戻っていた。 相棒との短いやり取りの中で、ちゃんと自分が取り戻せている。 彼女はまったく、自分の取り扱い方を心得ているようだ…そう思うとなんだかおかしくなった。 「Scully、おかげで今夜はぐっすり眠れるよ。」 「それはなによりだわ。明日の朝、オフィスで会いましょう。」 「明日?」 そう言って、壁際の時計に目をやる。 時刻はすでに3時を過ぎていた。 「今日の朝だよ、Scully。あと、もう6時間後さ。」そう言うとScullyは一瞬なにかを言いかけたが、 それをやめて玄関のドアノブに手をかけた。 「おやすみなさい、Mulder。」 「おやすみ、Scully。」 そう答えて外に出かけたMulderだったがふと思いついて、立ち止まった。 「そういえばね、Scully。その棒の事だけれどここに置いていっても大丈夫かな?」 「どういうこと?」怪訝そうにScullyが問い返す。 「それの争奪戦でいままで4人死んでいるからさ。」と、MulderはScullyの顔色を伺いながら進言し てみた。 「だったら、持って帰ってくれる?Mulder。」とScullyは片眉をあげてみせる。 「ええ?Scully。僕が狙われてもいいのかい?」 「じゃあ、あなたは私が狙われてのいいと思うの?」 「君は信じてないんだろ?」ちょっとからかうようにMulderが聞き返すとScullyは黙ってしまった。 「僕達はパートナーだよね、Scully。」 「その“パートナー”って部分が“一蓮托生”って聞こえるのは気のせいかしら?」 そう言いつつも、彼女はドアの前から身を引いた。 それにならって、Mulderはもう一度部屋に戻る。 「ただ単に部屋に戻るのが面倒くさいんでしょ?Mulder。」 「そういう事。」そう答えながらもそれだけじゃないって事は、Mulderは自分でもわかっていた。 自分の部屋にいるのと同じくらい、ここの空間が落ち着けるのだ。 それに… 「それに君だって、さっき“泊まっていけば?”って言おうとしたろ?」 Scullyは一瞬、驚きの表情を見せたがすぐに顔をひきしめる。 「こんな時間から帰るんじゃろくに眠れないだろうから、“仮眠していったら?”って言おうとはし たわ。」 あくまでも事務的な表現を使おうとするScullyにMulderは思わず笑う。 「意味は同じだろ。」 「ニュアンスが違うわ。」と、わざと大まじめな顔をして答えたScullyだが、目は笑っていた。 「いま、毛布を持ってくるわ。」 「明日の朝は僕が起こしてあげるよ、Scully。」さっそく、ジャケットを脱いで、ソファの上に横に なったMulderは請合う。 その言葉に苦笑しながらも、Scullyは寝室に毛布を取りに行った。 次の朝、起きた二人はそれぞれ別の場所に出て行った。 Scullyは例の物体を持ってラボへ向かう。 Mulderは死亡したジャーナリストの捜査を担当した、それぞれの所轄署へと向かった。 あらゆるアプローチを試みたが、すべてが失敗に終わり、次にやってみる手も考えつかなかった。 「一体なんなの?これは??」Scullyの頭の中には疑問符ばかりだった。 例の物体の発光現象はおろか、この質量のない感じもどうしても謎だった。 せめて削ってサンプルでもと最後の手段に出たが、これもどうやっても傷ひとつつけることができな い。 軽さだけでいったら、これを折り曲げるなんてとても容易な事のような気がしたのだが、このラボに 存在する、どんな装置を使っても変形することはなかった。 一緒に検査に協力してくれた、Forsch捜査官も首をひねっている。 「Dana、悪いがこれ以上はなにをしたらいいのか思い浮かばないよ。」 「私も同じよ、Gary。途方にくれるってこういうことなのね。」 昨夜は正直言って、たかをくくっていた。 ラボにさえ持ちこめば、何らかの答えが得られるだろうと… けれど、その見通しは甘かった。 目の前の不思議な物体を睨みつける。 「悪いが限界だ。腹が減ってきたよ。買出しに言ってくる。」そういってGaryは机から離れた。 「ねえ、Gary。」 「ん?」 Gary ForschはScullyにとって割と話はしやすい人物だった。 けれども、いまからしようとしている質問はなかなか聞きにくい。 しかし、躊躇している場合ではない。 「あなたは、これが地球上に存在しない物体だと思う?」 「…なんだって?」 「つまり…」Scullyはごくっとのどを鳴らした。 「地球外から運び込まれた可能性ってあると思う?」 すると、Garyは案の定、びっくりしてScullyを見つめ返した。 「それは…Dana、当然隕石とかの意味じゃないよね。」 改めて聞き返されてしまうと、自分の言った言葉の馬鹿さ加減に気づき、Scullyはやっぱり言うん じゃなかったかしらと激しく後悔した。 そんなScullyの様子をみてGaryは答えた。 「その可能性は100%ないとは言いきれないが…」 予想外の答えに驚いてScullyは相手を見た。 「僕としては地球上でまだ誰にも発見されていなかった物質を誰かが見つけて加工したか…」 彼はそう言いながら白衣を脱ぐ。 「どこにも発表されていない新しい技術で創造したと考えるほうが現実的だと思うがね。」 Garyはそう言い残してラボから出て行った。 ラボに一人残された形になったScullyは、小声でつぶやく。 「どちらの可能性も私の理解を超えているわ…」 一方のMulderは、すでにオフィスにもどっており、各署から集めてきた現場の写真を眺めていた。 報告書と現場の写真を交互に見ながら、自分の疑問点や思った事を羅列していく。 例の送付票もとりたてて、なにか特徴があるわけではない。 ハンディコピーでコピーされたものであるし、肝心な宛先や差出人の住所はすべてでっちあげだった。 ただ、気になるのはあと5日後に必着と書いてあるくだりぐらいだった。 もう、2時間もそうしていただろうか。 いいかげんうんざりしながら、写真をボーっと眺めていた時、なにかがMulderのなかでひっかかった。 あらためて、今度は拡大鏡を使って丁寧に見てみる。 それぞれの現場に集まった野次馬の顔を一人一人確かめて見ると、やっと見知った顔を見つける事が できた。 「Luna Ellison…」その名前を口にすると同時に、アカデミー時代の思い出が蘇ってくる。 一度、目的の顔を見つけ出すと他の写真で彼女を探し当てるのは簡単だった。 4件ともにきちんと映っている。 …これは、偶然ではない。 Halordの言っていた信頼できる人物とは、彼女のことだったのか? 彼女なら、紹介はするが自分の名前は出すなと言ったことに頷ける。 と言う事は、すべての事情を知っているのかもしれない。 まだ、アカデミーで教官をやっているのだろうか? Mulderはさっそく、データーベースを検索してみた。 現住所をみるとそこは、別荘地でかなりの山奥だという事がわかった。 ここからなら、車で3時間ほどであろうか。 アカデミーはすでに辞めていた。 やっと、ひとつの突破口が見つかった気がして少し安心した。 しかし、彼女を尋ねるのも少し気が重い。 もちろんそれが現在のベストの選択なのだろうが…彼女は自分に関わりたくないから、名前を出すな と言ったのだろう。 Mulderは覚悟を決めかねて、しばらく電話とにらみ合った。 …そこへ、Scullyが戻ってきた。 「やあ、Scully。そっちの調子はどうだい?」 顔も上げずに問い掛けたMulderに対し、彼女は返事とも唸り声ともとれる声を発して、いつもの席に 座った。 彼女の顔はまるで覇気が無い。 いつもとちがう雰囲気を敏感に感じ取ったMulderはさらに聞いてみた。 「どうしたんだ?Scully。」 Mulderのその言葉に彼女はじっと下を向いていたが、例の物体をMulderの机の上においてくやしそう に答えた。 「残念ながら、この物体の正体は今の科学では…いえ、とりあえずここのラボではわからなかったわ 。」 「わからない?」Mulderは怪訝そうにScullyを見る。 「そう、わからないの。お手上げだわ。」 そう言ってラボでの一件を一通り報告した。 Mulderは昨夜、“地球外からの…”と言ったのは、あくまでも冗談のつもりだった。 いったいどういうことなんだろう? これは本当に生物兵器などというものと関連があるのか? 机の上に置かれた物体を手にとってしばらく眺めたが、やがてそれをかばんのなかにしまってジャケ ットを手にした。 「Scully、僕は今からちょっと心当たりのある場所に行ってくるよ。」 Mulderの突然の言葉に驚いた彼女だったが、すぐに立ちあがった。 「私も行くわ。」そう言ってブリーフケースに手を伸ばす彼女に、思わずあせりながらMulderは答え た。 「いや、僕一人で充分だよ。」 「でも…」 Scullyが「あの噂」を聞いていたならあまり会わせたくはなかった。 真実ではないが、無用な誤解はされたくない。 「君にはとりあえず、オフィスに待機していて欲しい。なにかわかったらすぐに連絡する。」 MulderがきっぱりというとScullyは別段いぶかしむこともなく、「いってらっしゃい。」と声をかけ てくれた。 その時のScullyにはこの後Mulderがどんなめにあうかを、そして自分の身になにが迫っているかなど は、なにも想像していなかった。                                                                             <つづく> =-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= ここまで、お付き合いくださった方、ありがとうございます。 一応、次回は後編となる予定ですが、ひょっとすると中編になってしまうかもしれません。 また、よろしくお願いします。