DISCLAIMER// The characters and situations of the television program"The X-Files" are the creations and property of Chris Carter,Fox Broadcasting, and Ten-Thirteen Productions. No copyright infringement is intended. =-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= おことわり:今回を後編にするつもりだったのですが無理でした。       しかも、前編で伏線を引き忘れていたりしたために、ちょっと強引な展開になってしま       いました。       しかも、せっかくのFan-Ficなのに甘さがまるでないかも?(もちろん設定ではなく、       モルスカの雰囲気の事です。)       とりあえず、中編です。       作中のモルスカは、私が勝手に想像して書いた二人なので、もし読んでくださった方の       イメージを壊してしまったら申し訳ないので、それでも良いというかただけ、お読み下       さい。       また、事件に関しては拙い点が数あるとは思いますが、ご容赦ください。       もし、感想やアドバイスをいただけたらうれしいです。       e-mail  creoblue@ymail.plala.or.jp   =-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 「Give a puzzle to guess」(中編)  by Hiyo Date 99/05/20 がっしゃーーーーん!!!!! 地下の駐車場の丸柱に車のぶつかった音が響きわたった。 OPEL VECTORAの鼻面が見事にひしゃげている。 それでも、なお後退してさらにMulderに狙いをつけた。 いきなり目の前に現れた車にびっくりしたMulderだったが、持ち前の運動神経の良さを発揮して、普通 の人なら思わず立ちすくんでしまう瞬間に、ちゃんと飛びのくことができた。 あと一瞬遅ければ、車と丸柱の間にはさまれていたに違いない。 ただ、運悪く飛びのく先をちゃんと確かめなかったため、Mulderは頭から植栽に飛び込む形になった。 顔を傷だらけにしながらも、慌てて通路に出た瞬間、もう一度自分を狙うVECTORAとにらみ合う形になっ てしまったのだった。 ここは、FBIの隣にあるビルの地下駐車場。 たまたま、FBIの駐車場が他の支局から会議できていた連中のせいで、いっぱいになってしまったために 停めたのだが、まさかこんな目に遭うとは思いもしなかった。 相手は、自分が誰だかわかっていて狙っているのか? それとも、たまたまここで遭った相手と思って狙っているのか? どうにも判断がつかない。 一番考えられるのは、昨日の事件がらみの相手だが、昨日の今日でMulderのことを敵はつかんだのだろう か? しかし、ゆっくり考えている暇はない。 逃げなければ… 「ブォン!」と相手は空ぶかしをして今度こそという勢いだ。 ただ、幸いな事に、まわりに車などの障害物がたくさんあるため、こんなところではMulderにぶつけられ る確立は低い。 大抵は一回勝負の方法だが、Mulderが運悪く車の前に踊り出てしまっため、殺人者にはもう一度チャンス ができてしまった。 一方のMulderは逃げられる自信はあったが、どうやって相手を捕まえるかを考えていた。 逮捕して事情をはかせれば、この件に関する疑問がかなり手早く解かれるのではないだろうか? Mulderはホルスターから拳銃をとりだし、相手のタイヤの車に狙いを定めた。 …その時、突然Mulderの背後から車がやってきた。 新手かと思い、慌てて振り返ってみると、どうも家族連れのようで事件には関係ないような風体だった。 しかも、その後に2台ほど続いている。 どうしたらいいのか、一瞬判断にあぐねた時に、「キキキッ!」っとタイヤのきしむ音がしたかと思うと、 VECTORAが猛然とした勢いで、バックをしている最中だった。 出口まではそれほど遠くなく、ここから抜け出るのは容易だったようで、あっという間に姿が見えなくな った。 Mulderは軽く舌打ちをすると、拳銃をしまって、後続車に道を開けた。 車の中から何があったのかと問い掛ける声には答えず、一目散に自分の車に走り出し、エンジンをかけて 発進した。 多分あれほど目立つ状態になった車では、手配をかければすぐに見つかるだろうが、敵もそれをわかって いるに違いない。 当然盗難車だったろうし、すでに乗り捨ててあるだろう。 一応の捜索は依頼したが、これはもう、一刻もはやくLunaのところに行くしかないと言う結論に達した。 車を運転しながら、先ほどデータベースで検索した電話にかけてみる。 2、3回のコールの後に懐かしい声が聞こえた。 「FBIのMulderです。」 「…Fox?」電話を出た瞬間の声とは違って一気に低くなった。 「そうです。実は昨日亡くなったHalord Martinの件でお話が…」 すると、相手が電話の向こうでため息をついた息遣いが聞こえた。 「ごめんなさい、Fox。あなたを巻き込んでしまったようね。」 「あなたでしたか?Halordに僕を紹介したのは…」思ったとおりだった、とは口にださない。 「ええ…でも、彼は殺されてしまったわ。」そう答えるLunaの声はとてもか細かった。 Mulderは、胸が痛んだがとりあえず言葉を続ける。 「いまから、伺ってもいいですか?」 「それはかまわないけれど…」しばしの沈黙。 「あなたも狙われるわ、気をつけて。」 「さっき、もう襲われましたが。」とMulderが答えた瞬間、相手の息を飲む音が聞こえる。 「大丈夫、かならず行きます。」そう力強く言って電話を切った。 そして、かれこれ20分くらいたったころだろうか。 Mulderの携帯電話が鳴った。 運転する手を休めることなく、電話を取り出して答える。 「Mulder。」 「…」相手からの応答はない。 「誰なんだ?」少しいらいらも重なって、思わず鋭い口調で聞くと相手は思わぬ陽気な声で答えた。 「…やあ、Jake。なにをいらいらしているんだい?」 「は?」聞き覚えのない声だった。 「Jake、冷たいじゃないか。昨夜は俺をおいて帰ってしまうなんてさ。」 と相手はさらに重ねてくる。 「僕はJakeじゃないんだが。」間違い電話らしい。 はやく切りたいが、また間違えて何度もかけてこられても、うっとおしいので一応説明した方がよさそう だと思い、すぐにも電話を切りたい衝動を抑える。 「え?だってその声は確かにJakeだよ、間違えるわけないじゃないか。」 (間違っているんだよ、ばかやろう。)と言いたいのを押さえてMulderは答えた。 「とにかく、この電話は僕のもので、何度かけてもJakeとやらは出ないよ。今度はちゃんと番号を確かめ て。もし同じなら、Jakeが嘘を教えたのか、君が聞き違えたんだよ。」 すると、しばらくの沈黙があって電話は切れた。 謝りの言葉もなしか… 少し、憤慨したMulderだったが、とにかく今は急いでいるのでそんなことを怒っている場合ではない。 気を取り直して、運転に集中しようとする。 その時、後ろの方でけたたましいクラクションの音が聞こえてきた。 バックミラーに目をやると、車線変更を繰り返しながら近づいてくる一台の車を発見した。 よく見ると、その車は全面にスモークが貼ってあって、中の様子を確認する事のできない怪しげな車であ る。 (まさか、さっきの駐車場の車の仲間か?) そう、思いついた瞬間、Mulderは全身に激しい衝撃を感じた。 その怪しい車は、Mulderにおいつき、体当たりしてきたのだ。 この道は、他に車がいないわけではない。 一般車両はたくさん通っているのに、こんなところでまさか大胆にも襲われるとは思わなかった。 (それだけ敵も必死ってことか。) むちうちになりそうな、次から次へと襲ってくる衝撃にMulderは耐えながら、この状況の打開策を考えて いた。 (いったい、どうしたら…?)車を止めようかとも思ったが、それこそ敵の思うつぼである気もする。 とりあえず、ぶつけてくる車からダメージを減らすべく巧みに運転を続けていたが、相手のしつこさはず っと変わらなかった。 …しばらくそんなカーチェイスを続けていると、今度は遠くからサイレンの音が聞こえてきた。 そして、あっという間にパトカーが2台姿を現わす。 多分これだけ派手なことをしていたので、誰かが通報してくれたのだろう。 そのパトカーを見たとたん、敵はいきなりエンジンをグンと唸らせて、Mulderを抜かしていってっしまっ た。 一台のパトカーはそれを追い、もう一台はMulderに路肩に止まるように指示を出した。 車から降りると警官が銃を持って近づいてくる。 「なにがあったんだ?こんな一般道でカーチェイスなんて何を考えてる?」 Mulderは、自分の懐を指差し、手を入れても良いか相手に聞いてIDを取り出した。 「FBIだ、実は犯人に追いかけられていてね。」 「…は?」警官は思わず聞き返す。 「…あの逆ではないのですか?」FBIだとわかったとたん、警官の態度は変わったが、言葉の内容に首を 傾げているようだった。 (まあ、普通は逆だよな。)とMulderも思ったものの、詳しい説明をする気には毛頭なれず、警官に指示 をした。 「とにかく、さっきの車を捕まえたら、ここへ連絡してくれ。じゃあ。」そう言って相手に名刺を渡し、 Mulderはまた車に乗り込んだ。 Mulderは念の為に少し遠回りをすることにした。 一応運転しながらあたりの様子を気にはしてみるが、先ほどとは違って交通量も少ないので不審な車がい たら目に付くはずだった。 今の所はなにもない。 きっと駐車場から仲間につけられていたのだろうと納得して、とりあえず目に付いたガソリンスタンドに 入った。 ガソリンを入れながら、Lunaの家までどのルートで行こうかと考えているとまた携帯電話が鳴った。 ひょっとすると先ほどのやつが捕まったのかと思い、慌てて電話に出る。 「Mulder。」 すると、また相手は沈黙だった。 さっきのJakeを探しているやつなら今度は切ってやると思った矢先、意外にも女性の声が聞こえてきた。 「Foxy?」一瞬、どきっとしたがよく聞くと自分の名前ではない。 「失礼だが?」 「ひどいわ、私の声を忘れたって言うの?」と、いきなり相手はまくしたて始めた。 内容的には、どうも痴話喧嘩のようだったが、Mulderにはそんな事を言われる相手に覚えがなく、皆目 見当がつかなかった。 おまけに、こちらが言葉をはさむタイミングすらない。 どうしようかと考えあぐねているとやっと相手の声が収まる。 「聞いてるの?Foxy!」 「とりあえず、それは僕の名じゃないんだがかけまちがいでは?」 「…あなた、Foxyではないの?」 「残念ながら。」 「…なんてこと!」そう言って電話は切れた。 今日は間違い電話に縁があるらしいと思い、深いため息をついた。 見るとガソリンは満タンになっており、Mulderは気を取り直して出発する事にした。 車に乗り込み、道に戻る。 しばらくは順調に運転していたが、そのうちに後ろの方からすごい勢いでやってくる車が目に入った。 振り返ると先ほどのと同じような全面スモーク貼りの怪しげな車である。 (いったいなぜ?!) 一番に考えたのは、車に発信機等が取り付けられている可能性だった。 それならありえる。 最初の敵は自分を駐車場で待ち伏せしていたのだから、自分の車もわかっていたはずだった。 しまったと思いつつ、今は相手をまくことを考えなければならない。 今は山道にいた。 うねうねしているのが幸いして、相手も思うようにスピードが出せないようだった。 どうする、どこかで降りて勝負をかけるか? そう思っていたところ比較的直線の道に入った。 相手はここぞとばかりにスピードを上げてくる。 つられてMulderもスピードを上げたが、その時道の影にあった標識が目に入った。 さらにスピードを上げる。 そして、いきなり減速してターンを決めた。 後続車は、突然の行動についていけず、そのままMulderを追い越す。 …そして、「がしゃーん!」という音と共に火柱が上がった。 Mulderは、心臓の鼓動を抑えながらもう一度反転して先を急いだ。 彼が見た標識は"この先急カーブ"。 案の定、相手はMulderを追いかけるのに必死でみていなかったようだ。 Mulderがその場を通りすぎた後も、谷底からはしばらく火が上がっていた。 コツコツコツ…廊下を歩いてくる音がする。 中の部屋にいた男は、じっと窓から見える海を見ていたがくるりと振り返って、ドアの方を見た。 予想通り、間髪入れずにノックの音が響く。 「入れ。」男は椅子に座って相手を待った。 部屋の中は木貼りの壁で大きなデスクと応接セットが置いてある。 そのデスクにいる男は、真っ黒なスーツを着ていて、ちょっと痩せ型で背は高い。 顔はアジア系で、目が小さいが眼光は鋭かった。 「失礼します。」中に入ってきた男はすこしおどおどしていた。 その様子をみてとり、失敗したというのを悟る。 「あの…」 「次の手はうったのか?」男は無表情に問う。 「は、あの…」 「"友人"から連絡はあったか?」 「はい、こちらから連絡をしたところ至急、次の手を打つとのことで…」 「あまり恥をかかせるな。」 おどおどしていた男はさらにびくっと肩を震わせ、何度も頷いた。 「まあ、向こうもあの物体が"鍵"になっていることは知っているから、取り戻させたいと思って いくらでも協力はしてくれると思うが。」 「はい、ただ今度はもしよければ向こうでけりをつけたいと。」 すると、男は一瞬怒りの表情を顔に漲らせたが、すぐにもとの表情に戻った。 「…ばかにされたものだ。まあいい。好きにさせろ。どうせ"本体"がなければどうしようもない のだから。」 「わかりました。」男は礼をして早々に部屋を立ち去ろうとした。 「待て、黄文(ホアンウェン)。」 まさか、呼びとめられるとは、思ってなかった黄文はびっくりして振り返る。 「…その顔の痣はどうした?」 彼の顔には、まるで殴られた後のように、数ヶ所の紫の痣があった。 「…少し下でいざこざがありまして…」その言葉に男の眉が少し上がる。 「またか?」 「申し訳ありません。なぜか今回、日が経つにつれて船員達のストレスが膨らんで行くようで、 あちこちでケンカが始まるのです。こんなのは初めてなのですが…」 「まさかおまえも、そんなくだらない騒ぎに参加したわけじゃあるまいな。」 男の顔がさらに険しくなったのを見て、黄文は慌てて答える。 「いえ、私は止めに入っただけでして…」 「言い訳はしなくていい。ちゃんと管理しておけ。そしておまえが管理する立場にあるという事 を忘れるな。」そう言って男は、さらに睨みをきかせた。 「剣光(ジャンガン)が死んだ今、おまえが代わりにするのだ。統率を乱すものは許すな。そし て、当然裏切りも許すつもりはない。…おまえはよくわかっているだろうが。」 その言葉に、彼の死に様を思い出して、黄文は体を震わせた。 「…かしこまりました。」そう言い残し、今度こそと早々に部屋から出ていった。 その後ろ姿を見送りながら、男はため息をついた。 まったく、なっていない。 長旅をするのは今回が初めてというわけではないのに、なぜ今回に限ってくだらない争いに走る のだ? 取引の大きさに興奮気味なのか?それとも… 男は船底にある物体を思い出して、少し気味が悪くなった。 "…あんなものを目の当たりにしたせいかもしれん。はやく、おさらばしたいものだ。" 頭の中に語りかけてくる"奴ら"。 ここ2、3日やっとなくなったと思ったのに、今度はなぜか船員の間にいざこざが目立ち始めて いる。 まだ、やらなければならないことは、山ほどあるというのに、一難さってまた一難じゃないか。 もろもろの雑事をいらだたしく思った男だったが、とりあえず今は物体に関する思考を遮断して、 再びMulder追跡の事を考えることにした。 果たして"友人"は、うまくやれるのだろうか? 「…念の為に次の手も考えた方が良さそうだな。」 そう口のなかで呟き、次の対策を練って指示を出すために、部屋を後にした。。 とりあえず、二度も追いかけられたMulderは車を変える事にした。 今は発信機など探している余裕はない。 慎重にまわりを伺いつつ、みつけたレンタカー屋で自分の車の保管を頼み一台借りた。 元の車の惨状を見た店主は、不安そうな顔を隠さなかったが、IDを見せて黙らせる。 現金で支払い、カードも使わなかった。 これで、やっとLunaの家を目指せると思い、運転を始めたときだった。 また、携帯が鳴る。 「Mulder。」 「Mulder君かね。」聞いた声だった。 「君もいいかげんしぶといね。」ふーっと煙を吐き出す息遣いが聞こえる。 途端にCSMの顔が浮かんだ。 「…何の用だ?」声を聞いただけで、胸が悪くなるような不快感に包まれる。 「用がなければ、かけてはいけないのかね?」 「あんたと悠長に話している場合じゃない。」そう言って携帯を切ろうとするMulderに慌てて CSMは言った。 「Mulder君、君が今持っているものだが。」 「なに?」こいつが絡んでいたとは…Mulderは驚いた。 「君が持っていても意味がないと思うんだよ。そこで良かったら取引をしないか?」 「取引?」 「そう。君の望むものを私ができる範囲でなら与えようじゃないか。」 CSMは、そう言ってまた煙を吐いたようだった。 息遣いで判る。 今、目の前に彼がいなくてよかったとMulderは思う。 「応じなければどうなる?」 「…そうだな、例えば君に不幸が訪れるっていうところでどうだろう?」 「不幸?」 「…そう、いつ何時それはやってくるかわからない。例えばほら、君の目の前に突然ヘリコプ ターがあらわれて襲われたりとかね。」 「…いったい何を…!?」 バックミラーに突然光が映った。 先ほどまで、車など一台も見当たらなかったのにと思いびっくりしていると、それはどうも車 ではないらしい。 そのうちバリバリという音が響いてきた。 「ヘリコプター!?」なぜ?という疑問で一杯になる。 発信機ではなかったのか? 「どうしたんだね?Mulder君。」 電話のむこうからCSMの楽しそうな声が聞こえてくる。 「もう不幸が訪れたのかね?」 「いったい、なぜ?」 「われわれはいつも君から目を離すことはないんだよ。どうするかね?ヘリに例の物を渡して その事を忘れるなら、君はもう少し長生きできると思うが…」 その時、Mulderの頭にひらめいた。 (携帯電話だ!) そう、以前もニューメキシコで奴からの電話のすぐ後に、ヘリがあらわれて襲われた。 Mulderは直接見たわけではなかったが、拉致されたナバホ族の少年に聞いたところ、ヘリには 奴も乗っていたとのことだった。 携帯電話の回線を追われていたとは… 発信元の電波がはっきりしていれば、着信先を特定するのはCSMの持っている力を使えば、 なんてことないことなのだろう。 その時、前方にトンネルがあるという標識が見えた。 Mulderはある考えを思いつき、覚悟を決める。 「悪いがもう僕を追わせない。」そう言い捨てて携帯の電源を切った。 そして、猛スピードでトンネル向かう。 ちらっと後ろを振り返ると、ヘリは一台だけのようだ。 (いける!)そう心の中で叫んだ瞬間、後部のガラスがぱりんと割れた。 途端に左肩に激痛が走る。 どうやら銃撃されたらしかった。 ハンドルを持つ手の力が一瞬抜けたが、なんとかトンネルの中に突入することができた。 もう戻る事はできない。 Mulderは左肩を押さえながら、ハンドルを握る手にぎゅっと力を入れた。 ヘリはいつでも、Mulderが出てきたら攻撃できるように出口で待っていた。 しかし、いくら長いトンネルとはいえ、10分たっても出てこないのはおかしい。 そこで、ヘリを下ろして2人をトンネル内に突入させた。 しばらくして、ヘリにもぬけの殻だと連絡が入る。 ヘリを操縦していた男は、はっと気づき慌ててもう一度道の反対側に戻った。 しかし、すでにMulderの車をみつけることはできなかった。 彼はトンネルに入ったとみせかけてすぐに後戻りをしたのだ。 そして、一番近い交通量の比較的多い道路にもぐりこんでいた。 ヘリの操縦士はあまりの子供だましのような手に簡単に引っかかってしまった自分を呪い、上司 にどう報告したらよいのかとしばし思案にくれた。 もう、真夜中をとっくに過ぎている。 Luna Ellisonは、久方ぶりに時計を何度も見返している気がした。 彼が来ると言ってからかれこれ、8時間以上経った。 車でくるならせいぜい2、3時間ぐらいでつく距離だ。 まさか彼の身にもなにか?とずっと考えていたが、とうとういてもたってもいられなくなり、FBI に電話をすることにした。 Mulderの携帯の番号を聞いておけばよかったと後悔する。 そう考えながらたちあがった矢先、ドアがノックされる音がした。 あわてて、玄関に駆け寄り、覗き穴を見る。 けれどもそこには姿がない。 幻聴?そう考えながらLunaは、おそるおそるドアを開けてみる。 すると何かに当たった。 のぞきこむとそこには男が座りこんでいた。 「…Fox?」 声を掛けると彼は肩を押さえながら立ち上がった。 「お久しぶりですね、Luna。」 「Fox!どうしたの?そのケガ!!!」 すばやく血のにおいを嗅ぎ取った彼女はMulderに肩を貸しながら、家に招き入れた。 Mulderは、おぼつかない足取りながらもなんとか歩いた。 とりあえず、一番手前にある客用の寝室に運び込み、ベッドに座らせ服を脱がせる。 顔は傷だらけで、肩には拳銃の弾の貫通したような痕があった。 首の動かし方を見ると、どうやら傷こそはないもののむちうちのように痛めているようだ。 「Fox、一体何が?!」 驚くLunaにMulderは弱々しく微笑む。 「いや、電話の後に2、3回襲われてね。最後の奴には銃で撃たれた。」 「なんてこと!!!」 慌ててベッドサイドの電話に手を伸ばしかけたLunaだったが、それをMulderに遮られた。 「追われています。救急車はまずい。」 「わかっているわ。」そう言って彼女は番号を押した。 「Hi、Ellisonよ。お願いがあるの。ケガ人がいるわ。至急輸血用の血液を調達してもらえないかし ら?」 そして、二言、三言交わすと電話を切った。 「大丈夫、知り合いの医師よ…それに。」 とりあえず、肩の止血をしながらLunaは続ける。 「私も医者だわ。」 「…そうだった…」医者と言う言葉にScullyの顔が一瞬よぎったが、Mulderが覚えていたのはそこま でで、すぐに目の前が真っ暗になり意識を失った。 一方のScullyはかなりあせっていた。 Mulderを見送った後、これからの対策を自分なりに練ってみようと思い、とりあえずコーヒーを入れ ていた。 朝からずっとラボで立ちっぱなしだった彼女は、束の間の休息をして、頭を働かせなおそうとした矢 先だった。 はじまりは、Mulder宛ての電話。 ごく近くの警察署から電話で、依頼されていた車が見つかりましたという事だった。 Scullyはわけがわからなかったが、まず事件に関する事に違いないと思い、入れたてのコーヒーを横 目に、警察署へと向かった。 そこで、見事に前のへこんだ車を見せられて事情を聞くと、Mulderを襲っていた盗難車だということ が目撃者の証言からわかった。 びっくりして、その目撃者に話を聞くと、Mulderは顔中血だらけだったというのだ。 Scullyは慌ててMulderの携帯電話に、コールしてみたが電源が入っていないのか電波が届かないのか、 まったくつながらない。 不安にかられてMulderの捜索を依頼し、警察に待機していると時間が経つにつれ、次から次へと彼ら しき人物が襲われていたという証言や、Mulderを襲った後乗り捨てたらしい車が一台と、Mulderがむ かったと思われる先で、車が転落して爆発したとの情報を受け取る。 そして今度は明け方頃、いままでMulderが向かっていると思われた正反対の場所で、Mulderの車では ないが、銃痕と大量の血痕がついたレンタカーがみつかったというのだ。 ただ、状況が状況なだけにひょっとすると関連があるかもしれないと思ったScullyはすぐに指示を出 していた。 「Mulderの血なのか至急調べて!」 Scullyは、もう立っているのが不思議なくらい肉体的にも精神的にも疲労度はピークに達していた。 しばらくして、結果が出たが、それはまぎれもなくMulderの血液であり、しかもかなりの量があって、 これだけの出血では、生死もあやういと言われた。 目の前には一枚の送付票のコピーがある。 主のいないMulderの椅子に座り、Scullyはそれをじっとみつめた。 そこには、Mulderの分析のメモがあるが、証拠の写真等はすべてMulderが持っていってしまった。 Scullyに残されたのは送付票のみだった。 Mulderのメモには「この住所は現存しない。アメリカ内の住所かどうかも怪しい。」と書いてある。 でも、Scullyにとってはこれが唯一の糸口だった。 問題の物体はMulderがもっていってしまったからだ。 じっくりと送付票を観察する。 宛名も住所も見たこともない地区だった。 というより、こんな書き方では無事に相手に届くかどうかもわからない。 第一、かろうじてそれぞれの枠内に字がおさまっているという感じで、線からはみだしてしまってい る部分もあり、殴り書きのような字だった。。 唯一読めるのは「U.S.A」と書いてあるところで、とりあえずアメリカに届いたとしても、これが無事 に相手に届くかというのは、別問題だった。 そして、差出人の住所もアルファベットの羅列にしか見えず、あて先が不明だったとしても持ち主に 送り返される確立はゼロだろう。 じゃあ、いったいこれにはなんの意味があるのか? これが英語だと思ったのがまちがいだったのか? …あらためて送付票を見直すと、ふと疑問が浮かんだ。 (これはいったいどこの会社のものかしら?) そういえば、見た事のない送付票だった。 よく、一般的に使われている会社のものとは違う。 これに、もしMulderが言われたように政府間の取引材料を送ったものなら、この送付票で相手がどこ の国かは特定できる筈だ。 Scullyは早速、データベースを検索してみた。 ほどなく、結果が出る。 (中国?) それは、中国の会社のものらしかった。 しかし、中国では言語にアルファベットは使われない。 それとも、中国の人が見ればわかるというのだろうか? 少しだけ光明が見えた気がしたのに、とたんにわけがわからなくなってしまった。 あらためて、考え直してみる。 …届かない荷物、返されない荷物。 そこにどんな意味があるというのだろうか。 とりあえず、Scullyはその送付票を持って、中国人の捜査官を尋ねてみる事にした。 もう、昼近くになっていた。 ラボに顔を出すとGaryがいた。 「やあ、Dana。…ひどい顔をしてどうしたんだ?」 GaryはScullyを一目見るなり、びっくりした顔で近づいてきた。 そこで、Scullyは昨日から一度も化粧すら直していなかったことに気づく。 「化粧をしていないと、そんなにひどいのかしら?」と、一応無理に笑って見せる。 「そうじゃなくって…顔色が悪いんだよ。昨夜、寝ていないのかい?」 心配そうにGaryはScullyを覗きこむ。 「大丈夫。それより…」と、Scullyは送付票を差し出した。 「Dana、僕は筆跡鑑定はやったことがないよ。」 「違うの。あなたの知り合いで中国系の人っていないかしら?」 「中国?…ああ、それなら隣のラボの助手をしているWonがいるが…」 「紹介して欲しいの。」 「構わないけれど…」なにかまだ問いたげな目をしたGaryだったが、すぐに電話をしてくれた。 「すぐ来てくれるらしいよ。」 「助かったわ。ありがとう。」 そう言ってGaryを見上げた瞬間に、Scullyはめまいを覚えてふらついた。 慌てて彼が支えてくれなかったら、倒れていたかもしれない。 「Dana、大丈夫なのか?」 支えつつ、Scullyを椅子に座らせた。 「いったい君の相棒はなにをやっているんだ?君一人をこんなに苦労させて。」 (Mulderは行方不明なの。)とは口が裂けても言えない。 (生死すらわからないの。)とは、もっと言えない。 口に出してしまった瞬間に、自分が平静でいられる自信がなかった。 「彼は彼で、仕事をしているわ。」と、とりあえず答える。 すると、GaryはScullyの肩に手を置いた。 「Dana、君は今の仕事に満足しているのかい?」 Scullyがそれに答えようとした瞬間、ドアがノックされた。 GaryはScullyの肩から手を外して、ドアに向かう。 二言、三言交わした後、アジア系の顔をした、少し若い感じの男がGaryと一緒に入ってきた。 「Scully捜査官ですね。僕は、隣のラボで助手をしているWonと言います。」 「初めまして…早速なんだけれど、これを見てもらえるかしら?」 送付票を彼に渡した。 Wonは、それを見て少し眉をひそめたが、何かの言葉を発した。 「え?なんですって?」 「中国語ですよ。英語で言うとこのあて先のところに辺りに"交渉に応じる。本体を持ってくるよ うに。これはアメリカにとって、たいへん貴重なものとなるだろう。"と書かれてあって、受取人 のところ辺りに見てのとおりの日付と"仲間はこの日に約束の場所で解放する"って書いてありま す。」 あまりにも簡単に読まれてしまって、Scullyはびっくりしてしまった。 「これは中国語なの?」 「発音すればですが。」 「どういうこと?」 「例えば、あなたたちが他国語を勉強する時、発音をアルファベットで表記しませんか?それです よ。」 …そういわれるとずっと前、プッシャーの事件の時に見た、英日辞典を思い出した。 「これは暗号なの?」 「うーん、中国語を知らなければ確かに暗号とも言えるかもしれませんがね。でも、中国人や、そ の言葉を勉強している人なら気づけるでしょうが、そうじゃなければわからないと思いますよ。」 そのWonの言葉を受けて、Scullyは仮説を立て始めた。 まず、言葉の意味を知ったことによって、自分達が惑わされていた事実に気づいた。 この送付票が、荷物を送るという意味のなさないものなら、本来は白紙だったのかもしれない。 ただ、そこに丁度スペースがあるからといって、メモを書くだろうか? …いや、書いた本人も気づかないうちに書かれる方法がある。 例えば、自分の仮説どおりに白紙の送付票だったとしよう。 送付票はたいてい何枚かの綴りになっていて、下の部分はカーボン複写ができるようになっている。 そこの上で、発音のメモを書いたとしたら、メモ用紙をのけたあとも表面は白紙のままで中の綴り の部分にはしっかり文字が写っているはずだ。 なまじ、「U.S.A」だけが読めたために惑わされてしまったようだ。 そう考えれば、線から文字がはみ出しているのも頷ける。 きっと、これを書いたのは中国語ができる人物だが、言葉を伝えるものはきっとできなかったに違 いない。 直接、テロリストと会わないと言う事は、地位がかなり上の人物か、直接目通りをするのを好まし く思っていない事情のある人間だろうと推測される。 そして、"これ"とは、あの不思議な物体をさすのだろう。 そこで、ふとMulderがHalordに教えられたという、計画の内容を思い出した。 しかし、あれは未知の金属であり、生物兵器などというものとは無関係に思える。 しかも、テロリストに対して"仲間"という表現を使うなら、交渉相手は中国政府ではない。 受け取り主はどうかわからないが、少なくとも送り主はテロリストの仲間ということになる。 果たして、そんな彼らが、アメリカがやっと捕らえた凶悪テロリストと交換してまでも欲しがるよ うな、生物兵器を開発できるのであろうか? だが、あの未知の物体だけで相当な研究材料になる。 さらに"本体"が存在するとなると確かにテロリストの仲間と交換する価値はあるかもしれない。 果たして本体とはなんなのか? 大きさはどんなものなのか? 手で運べる?それとも簡単には運べないものなのか? Scullyは、少しだけだが、考える糸口がつかめてきたような気がして、Wonにお礼を言い、思考をめ ぐらすために、再び地下に降りて行った。 再び、Mulderの席に座ってみてつぶやく。 「いったい、どこにいるの?Mulder。」そして、これでかけるのは何度目だろうと思いつつ、無駄だ ろうと思いつつMulderの携帯に電話をかけた。 苦しい、体中が火照っている。 あまりの苦しさとのどの乾きにもうろうとしている中で、Mulderは目を開けた。 額に白い手が置かれる。 ひんやりしていて心地よかった。 「Scully。」 きっとまた怒っているのだろう。 ぼうっとしてよく見えないが、自分がこういった状況に陥った時にはいつも傍らにScullyはいる。 「すまない、Scully。」 なにを謝っているのかよくわからないが、彼女にはいつも心配をかけてばかりいる。 彼女の心配そうな顔は、見なくても心の中に鮮明に思い浮かぶ。 「もう少し休ませてくれ。」そのあたりで、Mulderは口を開くのもやっとの状態だった。 「ちゃんとそばにいてくれよ。」 "わかったわ"そう言ったのかはわからないが、手をぎゅっと握り返され、Mulderは安心して再び眠り についた。 遠くでガタガタという物音が聞こえた。 Mulderはその音で目を覚ました。 さっきは夢をみていたのか? 一瞬自分がどこにいるのかわからなかったが、ゆっくりと考えると次第に蘇ってきた。 ここは、Lunaの家だ。 時計は昼過ぎをさしている。 サイドテーブルに目をやると携帯電話が置いてあった。 Lunaが気をきかせて置いておいてくれたのだろうか? 撃たれた左肩をかばいながら、それを手にとってみる。 電源は切ってあったが、ふとScullyのことを思い出して電源を入れてみた。 その瞬間にベルが鳴る。 Mulderは、"しまったかも?"とながら思い電話のディスプレイを見た。 するとScullyの電話番号が出ている。 Mulderは安心して、電話に出た。 「Mulder?」Scullyのびっくりしたような声が聞こえてきた。 たった一日聞いていなかっただけだが、とても長い間聞いていなかったような気がする自分に戸惑う。 そして、電源を入れた瞬間にかけてくる相棒のタイミングの良さに少しうれしくなる。 「そうだ、絶妙のタイミングだよ、Scully。心配かけたかい?」 「心配ってあなた…」Mulderの明るい声に思わず絶句したScullyだった。 しばらく、呆然として二の句が告げなかったScullyだったが、やがて自分を落ち着かせるように大きく 息を吸った。 Mulderはその雰囲気に察して、受話器を耳から少し離す。 「Mulder!あなたいったいどこにいるの!?どれだけ探したと思ってるの!?ケガはどうしたの!?ど うして無事なら連絡をくれないのよ!?」次から次へと言葉がぽんぽん飛び出す。 Mulderの声を聞いて安心した途端、心配だった事柄が次から次へと溢れ出てきた。 言葉の切れたところをようやくMulderは見つけて、やっと口をはさめた。 「すまない、Scully。でも、僕もやっとさっき気がついたところなんだよ。」 「気がついた?大丈夫なの?Mulder。」 「ああ。」そう答えて、何があったかを伝えるべきかなとも思ったが、よけいな心配をさせるだけかも しれないと思い、短い返事だけにした。 すると電話の向こうで深いため息が聞こえた。 「…とにかくあなたが無事で良かったわ。」 「心配してくれた?Scully。」ちょっとうれしそうにMulderが聞く。 そんなMulderのからかいモードを感じたScullyは、とりあえず無視することにして、話を続けた。 「Mulder、事件の背景が少しわかったの。」 そう言ってScullyは自分の調べ上げたことを報告した。 「とにかく、あなたのところへ行くわ。どこにいるのか教えて。」 そこでMulderはいつものように、来てもらおうと住所を言いかけたが、ふと気づいてそれをやめた。 「いや、Scully。ここまで調べてくれただけで充分だ。もうこれ以上、君は関わらない方がいい。」 いままでの敵のしつこさと、おまけにCSMまで関わっているとわかったからには、彼らがどう出てく るのか見当もつかない。 「どうして?私はあなたのパートナーでしょ?」Scullyには相棒の突然の変わりようを理解できなかった。 「連中はこれを取り返そうとかなり必死だ。君まで危ない目にあわせられない。」 「けれど…」いつもは、どんなに危険な状態であっても自分を必要としない事はなかったMulderがいっ たいどうしたのだろう? さらに、どういう事なのか聞くべく、Scullyが口を開きかけた時だった。 「Fox、起きたの?」と、後ろから女の人の声が聞こえてきた。 「誰なの?」と、Scullyは敏感に反応する。 「昨晩、命を助けてくれた今の僕の主治医だよ。」 「え?」主治医という言葉にScullyは思わずとまどってしまう。 「それにまだ何も聞いていないんだが、事件に関して詳しく知っていそうなんだ。協力してもらえる約 束はすでにとってある。」 「…わかったわ、Mulder。その彼女がいれば大丈夫なのね。」 その固い声にMulderははっと気づく。 「Scully、なにか誤解していないよな。」 「なんのことかしら、Mulder。」 「いや、だから…」 「私はこっちでできるだけのサポートをするわ。そちらは彼女によろしく。」 「違うんだ、Scully。彼女は今回の件での当事者で、君も知ってるLuna Ellisonっていう…」 その名前にScullyは聞き覚えがあった。 アカデミーでのMulderとのロマンスの噂も聞いた事があった。 「ほんとうによくわかったわ。」 ぞっとするような冷たい声のScullyに、Mulderはびっくりする。 「Scully、僕のパートナーは君だけだ…もしもし?」 電話は切れていた。 「あらあら、痴話喧嘩かしら?」と水と薬を持って入ってきたLunaはにこやかに笑った。 「なにを言っているんです?」とMulderは憮然とした表情で答える。 Scullyまで"あの噂"を知っていたのかと思うとびっくりした。 当時は鼻にもひっかけていなかったが、ここまでたたるとは思いもよらなかった。 「ねえ、Fox?」 「なんですか?」 「"Scully"って、あなたの噂のパートナーでしょ?」 「…なぜ名前を知っているんです?」MulderはギョッとしてLunaを見た。 すると彼女はカラカラ笑いながら答える。 「それは、あなたが熱でうなされている時に、やたら口走っていた名前だったから、いやでも覚えちゃ ったのよ。」それを聞いて、今朝の夢を思い出し、Mulderは少し決まりが悪くなった。 「それから、あなたの車は悪いけれど遠くに運んでもらったわ。」 「え?」 「あの車は、あんな状態になってしまって目立ちすぎるわ。敵に見つかったらまずいと思ったの。勝手 な事をしてごめんなさい。」 そうは言うものの、Lunaの判断の正しさは明らかであり、Mulderはただ頷く。 「さあ、薬を…その前になにか胃に入れたほうがいいわ。」 「それより、今回の件であなたの知っている事を教えていただけませんか?そのために来たのですから。」 するとLunaはじっとMulderを見て答えた。 「もちろんそのつもりよ。私の知っている事はすべて話すけれど…」 そういいつつ、Mulderの肩の具合を調べる。 「まず、医師としての忠告を聞いて欲しいわ。まず体力を戻す努力をしなさい、Fox。話はその後よ。」 きっぱりと言うLunaを見て、なんとなくアカデミー時代の彼女の授業を思い出してしまった。 「わかりました、先生。」少しおどけて返事をして、そっと彼女の顔を見た。 確か10歳くらい上だったろうか? 今も当時と変わらず美しい。 ブルネットの髪に、少し紫がかった美しい瞳。 その瞳は、彼女の意思の強さをあらわすようにきらきらと輝いている。 ただ、やはり顔に刻まれた年輪をみると年月がたったんだなと改めて感じた。 「私がDaniel Beckと知り合ったのは、アカデミーをやめてからだったわ。3年くらい前だったかしら?」 と、Lunaは切り出した。 「ある共通の知人のパーティで知り合ったの。前から彼の事は、彼の書いた記事を好んで読んでいたから 知っていたわ。そして、実際に会って話してみたら私達はとても気が合ったの。」 Lunaは持っていたコーヒーカップに視線を落とした。 しばらくそれを見つめてその時の事を思い出していたようだった。 「私はその時、開業医をしていたの。毎日忙しかったけどそれなりに充実していたわ。そして、彼もジャ ーナリストとしていろいろなところを飛び回っていたわ。だから、なかなか会えなかったけれど私にとっ ては丁度良いテンポの恋愛ができたわ。それに…」 顔を上げてMulderを見た。 「もう、結婚とかを考えたくなかったからその辺りもぴったりだったのね。」 Mulderはその言葉の意味するところに察しはついていたが、あえて聞かなかった。 するとLunaは話を続けた。 「けれど、私の方がだんだん彼だけでなく、彼の仕事にも魅かれていったの。そして彼の手伝いをしたい と思った。幸い私には、FBIにいたころに培った人脈がまだ残っていて、それを駆使することは彼の仕事 を手伝うのにかなり役に立ったわ。私達は私生活だけでなく、仕事の上でもパートナーとなった。」 そこからのLunaの話を要約するとこうだった。 今となってはわからないが、Danielが取材中に偶然、前からたびたび話題にはなるがその内容は知られて いない"Seyfert"に関する詳しいことを聞く事ができた。 その内容はMulderの聞いたとおりのことだったが、Danielはテロリストと交換する"荷物"を運んでいる船 がわかったらしい。 そこで、"Seyfert"の内容を知った彼は、これを世間に公表するための、決定的な証拠を見つけるべく、船 が停泊する港を調べて潜入したのだ。 彼に協力してくれた船の乗組員は剣光(ジャンガン)という名前で、テロリストの組織では若いながらも、 わりと上の方の地位にいたらしかった。 しかし、最近の活動がどんどんエスカレートしていくにつれて、組織から抜けたくなっていたらしい。 そこで、彼を安全に逃がす手段を与えるという約束と引き換えに、Danielにいろいろと教えてくれた。 解放を希望しているテロリストの中には、中国マフィアの大物の愛人の息子もいて、奪還成功のあかつき には巨額の金が彼らに入るという事。 それを資金にして、よりテロ活動が大規模になる可能性が高いという事。 そして、なによりも仲間を大切にする彼らにとっては、謎の物体よりは仲間の方が大事らしいという事。 ただ、その物体とは… 「Fox、私は未だに信じられないのだけれど、とりあえず彼から聞いたことをそのまま話すわ。」 そう前置きをして、Lunaはとんでもない事を言った。 「あの物体は、生物兵器とは何の関係もない。本当はUFOの鍵でもあり、動力源でもあるというの。」 「…なんだって?!」 あまりの予想外の事にMulderは思わず身を乗り出した。 「乗組員の話だと、中国の山に落ちたUFOを村民から話を聞いたテロリストたちが捕獲したらしいの。 そして、その情報を次の日には聞きつけたアメリカから、取引の要請があったんですって。テロリスト達 は格好の交渉材料と思って飛びつこうとしたけど、要求が要求だけにアメリカも慎重になって、現物を見 からということになったらしいわ。」 テロリストの要求は、仲間8人の解放だけでなく百万ドルを払えとのことだった。 だったら、とりあえずそれが本物である証拠を見せろという事になり、UFOが落ちた時にそばに落ちて いたあの物体を、テロリストのリーダー格の男が直接アメリカに持って行ったらしい。 確かにあの物体だけでも相当なインパクトがあるので証拠としては充分だった。 ただ、その交渉時に相手は直接姿を現わさずに、部下のらしき男へ返事を託してきた。 けれど、その部下は中国の言葉をしゃべることができなくて、伝える言葉をメモしてそれを読んだだけだ った。 しかし、その言葉はテロリスト側の要求をすっかりのむ返事だったので、彼は満足して国に戻った。 そして、封筒から物体を取り出すときに、剣光が送付票の上にうっすらとした文字の跡を見つけ、2枚目 に写っていた文字まで見つけた。 たぶん、物体が入れてあった封筒の上で、アメリカ人の部下の男が発音を書いたらしい。 最初は、テロリスト側も送るつもりで送付票を貼ったのだが、物の重要性に気がついて結局自分で運んだ ため、封筒ごともって帰ってきたので偶然に手に入れたものだった。 その送付票存在を教えてもらっていたDanielは、それを案内された部屋で探し当て、なにかの証拠になる のではと思い、もっていたハンドコピー機でコピーをしたらしかった。 「なぜ、それが動力源だとわかったのですか?」 「それが…また信じられない話なんだけれど。」と困ったようにLunaは続けた。 UFOに乗っていた異星人はなんと、その中で生きているらしかった。 彼らは当然、地球人と会話はできないが、ただテレパスのように直接心に伝える事ができるらしい。 それと同時にテロリストの心も読んで、自分達の末路を知って助けを求めたというのだ。 彼らが言うには、その棒はUFOの中に二つ存在し、とりあえず一つあれば彼らが生活していく糧を作った り、身の回りのものを動したりはできるのだが、もう一つないとUFOをとばすだけの力がないということ だった。 しかし、それを知ったテロリストは逆にそれさえ彼らから引き離しておけば、彼らは身動きがとれないとい うことも知ってしまったのだ。 そして、逃げられる心配もなく、死んでしまう心配もなく彼らをアメリカまで運ぶことができる。 まさに"鍵"だった。 「そして、これを潜入した部屋で見つけたDanielは、動かぬ証拠として持ち出そうとした時に、隣の部屋か ら自分を呼ぶ声が聞こえたと言っていたわ。それにつられてドアの窓を覗くと…」 そこで言葉を切って、Mulderを見つめる。 「"彼ら"がいたんですね?」 Lunaは頷いた。 「頭の中の声は、なんとかこの扉を開けて"鍵"を返して欲しいって訴えたらしいの。その時協力してくれた 剣光が入ってきて…」 彼がなんとか引きとめていた見張りをこれ以上は引きとめられないということだったらしい。 そこで、とりあえずコピーした送付票と例の物体を持って逃げ出したとの事だった。 ただ、二人一緒に逃げるのは目立つので、ばらばらに逃げ出したが、結局、剣光は一週間後に捕まってしまっ たらしく、死体となってゴミ置き場で発見された。 そして彼には激しい拷問の後があり、彼からDanielの名前は当然漏れただろうと察した彼は、念の為に仲間同 士の約束にのっとって、証拠と取材メモを約束の貸し金庫にとりあえず預けたらしかった。 ただし、UFOのくだりはあまりに話の真実味を損ねるために、書かなかったらしいが。 そして、彼なりの証拠固めの取材を続け、なんとか形になったところでLunaの元へ事情を説明するための電話 をかけ、その後新聞社に話を持って行くために車に乗りこもうとした時に、取材した資料と一緒に車が爆発し てなにもかもが燃えてしまったという事だった。 ただ誤算は、彼を殺害した後に家探しをしたが、例の物体を見つけられなかったという点だった。 そこで、当然テロリスト達はDanielの身辺を調べ上げた。 そして、次に例の物体を託された彼の友人が、取材メモを見て取材をし始めた事によって、彼が持っていると 思い込み殺してしまう。 しかし、物体だけは巧妙に隠されていて、そのありかはいつもわからない。 そんなふうで次々と殺され、とうとう最後のHalordの元へ渡ったのだった。 「Halordとは、他の殺された2人よりも私は仲が良かったの。そして、きっと彼にはこの事件は手におえない し、また殺されてしまうよりはと思い、事件の性格を考えてあなたを紹介したの。ただし、あなたにあわせる 顔がないと思っていたから私の名前は伏せてもらったわ。」 そこまで話してLunaは沈黙した。 「そういうことだったのですか…」とMulderが相槌をうって彼女の顔を見ると目が潤んでいるのがわかった。 「すべての殺害現場の写真に、あなたは写っていた…様子を確かめたかったのですね?」 すると、彼女は静かに頷いた。 「こわかったわ、次々と殺されていくのを見ていて。けれども、原因はわかっていても私にはなにもできなか った。でも、現場には行かずにはいられなかったのよ。」 頬に涙が伝う。 「ごめんなさい、Fox。あなたまで巻き込んでしまったわ。アカデミー時代、あれだけ迷惑をかけておいて、 また今回こんなことになって。でも、あなたしか浮かばなかったの。」 「Luna…」そう言ってMulderは彼女の肩にそっと手を置いた。 Lunaは顔を上げて、なんとか微笑んで見せる。 「…あの時、恋した相手があなただったらよかったのに…」 そこで、Mulderはずっと聞きたくて聞けなかった事をついに口にした。 「Larryとは?」 Lunaは、その名前を聞いて、答えるのに一瞬躊躇をみせたが言葉は途切れなかった。 「あなた達が卒業したと同時に別れたの。もっとも"あの事"があってからは、ずっと気まずかったのだけれ どね。」 彼はアカデミー時代の、Mulderのいい仲間だった。 お互いにライバルでもあり、いつも刺激しあっていた。 しかし、卒業してからは離れた場所で働くようになってから、あまり顔をあわせていない。 たまに顔を合わせることもあったがLunaとの事は聞かなかったし、むこうも言おうとはしなかったので、ど うなったかは知らなかったのだ。 ただ、一度だけ"あの時の恩は必ず返す。"と飲んでいた席で突然宣言されたことがあったぐらいだった。 だが、やはり別れていたのかという思いはあった。 Lunaは、Mulderから顔を背けて、濡れた瞳をさりげなく拭う。 そして、もう一度Mulderのほうに顔をむけると、彼が複雑な顔をしているのを見て取ったLunaは話題を変えた。 「あなたはどうなの?Fox。」 照れ隠しのように今度は微笑みかけながら聞く。 「え?僕ですか?」アカデミー時代やLarryを思い起こしていた時に、突然ふられてMulderはびっくりした。 「アカデミー時代は、大学時代の失恋のせいか女性に興味はないみたいに、勉強ばかりしていたあなただけ れど…」とLunaはからかいの口調で言う。 「そんな、女性に興味がないわけはないですよ。」Mulderはちょっとむっとして答えた。 「今だってちゃんと…」と、言いかけて途中でやめる。 「ちゃんと…何?」 「…なんでもないです。」そう言ってMulderはため息をついた。 すると、Lunaは笑い出す。 「Fox、まるで今のあなたって、高校生のようだわ!」 「失礼じゃないですか、Luna。」 「…だって…」怒るMulderがよけいにツボをついたらしく、Lunaはさらに笑った。 先ほどまでの暗い雰囲気が一変したのはよかったが、やはり笑われているMulderとしては気分は良くない。 「…僕らの関係は、そんな一筋縄ではいかないんですよ。それだけです。」 「さっきの"Scully"って人ね。あなたのパートナーの…」 Mulderはそこで、Scullyを怒らせた事を思い出した。 なぜ、いつも女性がからむと彼女とこうなってしまうのだろうか。 「ちゃんと気持ちは伝えたの?」とLunaはさらに聞いてくる。 冗談めかして言ったことは何度かあるが、いつも相手にはされない。 かといって、まじめにいまさら告白なんてできるわけがない。 けれど、今までのいろんな事件を通して、お互いにただのパートナーではないことはわかっているはずだ。 しかも、ただの男女の関係でもない。 もっと、根底の魂の結びつきのようなものを感じている。 しかし、ひょっとするとそう感じているのは僕だけなのだろうか? だから、さっきのようなちょっとした事で、いつもScullyは怒ってしまうのか? 「彼女はなにも言わなくてもわかっていてくれているはずなんだ。」とMulderは、まるで自分自身に言い聞 かせるように答えた。 「わかってくれているはずなのに、なぜ…?」 先ほどのScullyとの会話を思い出し、すこしやるせない思いになってしまったMulderは、情けなくそうつぶ やいた。 すると、そんなMulderを見つめていたLunaは、少しだけ迷ったふうだったが意を決したように、口を開いた。 「それは、あなたがちゃんと言わないからよ。」と、Lunaはきっぱりと言った。 「あなたは甘えているわ、Mulder。」 「…!」Lunaの容赦無い言い方にMulderは、絶句する。 そんなMulderに向かって彼女はさらに重ねた。 「なにも言わなくてもわかるだろうなんて、都合がいい話だわ。なんの為に言葉があると思っているの?」 そこまで言ったところで、Mulderを見つめるLunaの目は少し優しさを戻した。 そして、諭すように続ける。 「相手の思考を楽観的に期待している状況…これを甘えと言うのよ、Fox。いい?気持ちなんて伝わらない わ。伝えたい事はちゃんと言葉にしなさい。それがどんなに難しい事だとしても、それ以外に方法はないの よ。」 言葉を失ってしまったMulderを見て最後にLunaは優しく言った。 「あなたには、そういう後悔をしてほしくないの。私みたいな…」 そして、立ちあがって"お茶を入れてくるわね"と言い残し、部屋を出ていった。 「"友人"からその後、連絡はないのか?」いらだったように男が聞いた。 「はい、Mulderが追跡に気づいて携帯の電源を切ったらしいのです。」と黄文は答える。 すると男は、しばらく考えた後に命令した。 「よし。やつのパートナー、Dana Scullyを誘拐しろ。」 「え?」 「調べたところによると、FBIでも、なにより仲間を大切にするそうだ。パートナーが捕らえられたなら、 やつは必ず捕り返しにくるはずだ。女の居所をすぐに調べて連れて来い。以上だ。」そう言い残し、男は 部屋へ戻って行った。 ScullyはMulderとの電話を切った後、しばらくどうしたらいいのか悩んだが、思いきって席から立った。 Mulderの"主治医"という言葉やLunaの登場にかなりのダメージを受けている自分を感じていた。 全身を、ものすごい脱力感が支配している。 彼と連絡が取れる前までの、怒涛のように過ぎた時間は何だったのだろう。 Mulderが無事であったことの喜び、と同時にこれ以上事件に関われなくなってしまったことへの無力感。 なぜ今回、Mulderは自分に協力を求めなかったのか? それほで、Lunaという人の能力が高いのだろうか? それとも…? そこまで考えたところで、Scullyはそれ以上考えこみそうになるのを防ぐために他に目をむけてみる事 にした。 "今、自分にできる仕事に集中しなければ"と思ったが、目の前にある仕事はというと、事務処理ばかりで ある。 だた、Mulderに"待機してサポートする"と言った手前、オフィスにいるべきかもとは思ったが、とにかく 気分転換をしたかった。 そこで、一旦家に帰り、着替えをして、できればシャワーも浴びよう思う。 携帯電話さえあればとりあえずなにかあっても連絡はつくだろうと解釈して、オフィスを後にした。 久しぶりに出た外はとても眩しかったが、あたりの風景は妙にぼやけてみえる。 Scullyは自分の目が涙で滲んでいるとは思いたくなかった。 「疲れのせいよ。寝不足だし。」と自分に言い聞かせるように、わざと声に出してみる。 そして、道路に出てタクシーを捕まえることにした。 少し離れたところにタクシーの姿をみつけて手を上げる。 乗りこむために、一歩道に踏み出した時に、目の前に邪魔をするかのように一台の車が止まった。 思わぬことにびっくりしながら、移動しようときびすを返した瞬間、ぱたんとドアの開く音がしたかと思 うと、後ろから抱きすくめられた。 そして、声を出す間もなく、顔に何かをあてがわれる。 つんと鼻をつく薬品のにおいを嗅いだ瞬間、Scullyは抵抗するまもなく気が遠くなってしまった。                                           <つづく> =-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= ここまでお付き合いくださった方、本当にありがとうございました。 きっと、設定の甘さ等、いろいろとあらがあるとは思いますが、どうぞ許してください。 そして、もしよろしければ、後編もおつきあいいただけると、とてもうれしいです。