================================================================= この小説の登場人物・設定等の著作権は、全てクリス・カーター、1013、20世紀フ ォックス社に帰属します。 また、この作品は作者個人の趣味によって創造されたものであり、他のいかなる作品・作 者様の著作権等を侵害するものではありません。 【警告】本編の2人とは、かなりかけ離れています。不快感を覚える方もいらっしゃると思いますので、そういう恐れのある方は      このままページを閉じてください。広い心で読んでくださる方のみでお願いします。m(;∇;)m 設定はS4です。 「Two agents」 Author:honeybee ********************************************************** 彼女は昨夜眠れなかった。三日前に若い恋人が突然プロポーズなどしてきた。“とうとう来たか”などとぼんやり思いながら、 結婚などさらさら考えてなんかいなかった彼女は「少し考えさせて。」と微笑みながら、どう断ろうかと考えはじめていた。 自分より5才も若い恋人は、少し神経質そうな笑顔を彼女に向けて「ゆっくり考えてくれてかまわないよ。」と優しく言った。 まさか断られるなどとは少しも考えてないだろう。そう思うと、彼の事が少し可哀相にも思えてきたが、だからと言って自分がその男 と結婚するのは無理なのだ。 彼とは半年付き合った。きっかけが何だったのかすでにはっきりとは思い出せないが、若くてハンサムな弁護士は彼女にとって充分魅力的 に映った。彼とのデートは楽しかったし、セックスも良かった。だけど、男のほうが真剣になり始めると、彼女はとたんに逃げたくなる。 いつもそうだ。今回も“そろそろ潮時かも”と思い始めていたやさきの彼のプロポーズだったのだ。「タイミングの悪い奴!!」とか小さく 悪態をつきながらイライラした気分で地下駐車場を足早に歩いていると「Hey!!good morning.Scully!」聞きなれた相棒の声がした。 振り向くと、柱の陰でにやりと笑うモルダーがいた。朝っぱらから女と抱き合ってたりする。“相変わらずね”という一瞥をくれて片手を挙げ、 さっさと立ち去った。 彼はその瞬間に彼女の機嫌の悪さを悟った。そしてその理由も。彼女の考えなどすぐわかる。 そろそろそういう時期なのだ。彼は一度だけ紹介されたことのある、彼女の一番新しい恋人の顔を思い浮かべ、密かにほくそえむ。 “所詮あんな腰の砕けた奴に、彼女のお守りは無理なんだ”彼女が聞いたらすごい剣幕で怒鳴られそうな事を思いながら、立ち去る後ろ姿を見送っていた。 しかし、当面の課題はこの腕の中の女のほうだ。さっきからメソメソと泣きっぱなしの、つまらない女をどうにかなだめなければならない。 少し好みのタイプだったのでデートに誘い何回か寝たりもしたが、付き合っているというつもりはなかった。女のほうもそれくらい承知の上だと 思っていたのに…このザマだ。さっきから彼の胸にへばりついたまま離れない女の肩をゆっくりと掴んで引き剥がし、 「スージー、君との事は良い思い出だよ。」と、この場ではとてもベストだとは思えない言葉を思いっきり優しく囁いてみる。案の定、女のほうは“信じられない” という表情でポカンと彼の顔を見上げていたが、除々にその表情が険しくなり、「バカにしないで!!」と叫びながら彼の頬に平手打ちを食らわした。 殴られても少しも痛くはないが、口の端が切れたのか喉の奥にじんわりと伝う鉄の味が、彼を酷く不快な気分にさせる。 それでも彼は涼しい顔で「じゃあな。」と一言言って、女から離れた。後ろで女が何かわめいていたが、もうそんな事はどうでもいいことだ。 スカリーはなかなかやって来ない相棒を待ちながら、さっきの女が誰だったのか思い出していた。凶悪犯罪課のスージー・テイラー捜査官。 なかなかの美人だ。“彼女は嫌い、下品だもの。でもモルダーの好みだわ”だけどすぐ彼女の思考は、今夜会わなければならない 恋人への言葉選びに占領される。“面倒臭い。早く来てよモルダー”近くのゴミ箱を軽く蹴った。だんだんと頭の中がぼやけていく気がする。 遅刻したくせに悪びれもせず、モルダーは笑顔でオフィスにやってきた。唇の端の切り傷がなんだかマヌケなので、スカリーも怒る気をなくす。 彼は彼女の視線に気付き、頬の傷をちょっとさわってにやりと笑う。 彼女が去った後、彼とスージーの間でどんな会話が交わされたか容易に想像することができたが、面倒臭いのでそのことに触れるのは やめた。彼女が小さくついた溜め息を気にするふうでもなく、彼は嬉々としてスライドを引っ張り出した。 カシャカシャと切り替わるスライドには、何人かの女性の死体が映っている。ここ何日かの間にDC郊外で起こった連続殺人事件だ。 スカリーには、これがXファイル課の仕事とはとても思えなかったが、彼は相変わらず奇妙奇天烈な自説を繰り広げている。「この殺し方は 吸血鬼の仕業だよ、スカリー。後で死体の検死解剖を頼むよ。僕の説が正しければ血が抜き取られた後が何処かにあるはずなんだ。」 モルダーのうかれたような熱弁を適当に聞きながら、彼女は漠然と相棒の顔を眺めていた。吸血鬼とか宇宙人とか、ついでにチュパカブラだろうが、 今の彼女にはどうでもいいことなのだ。それよりも今夜の事を考えると頭が痛い。それでも、彼の仕事の時の情熱的な目は好きだ。 “セクシーだわ、モルダー。でも言ってる事は変よ。ああ、だからspookyだったんだ、忘れてたわ。“そして時々彼は、その熱い視線を彼女に向けたりもする。 ひどく頭が痛いのに、その目で見られると彼を抱いてみたいという衝動が沸き起こる。“たぶん今日の私はバカになってるのよ… 他に考えなければいけない事があるのに…ちっともまとまらない”彼女は静かに目を閉じて、自分の指がモルダーをどう熱くするかを考えた。 “やっぱり、私はバカになってる”モルダーはスカリーの視線が、スライドではなく自分に向けられていることに気付いていた。 横目でこっそり盗み見る彼女は、口が半開きで目の焦点があっていない。“おいおいスカリー、朝からその顔は卑怯だよ。さっきスージーに殴られたばかりなのに、 このままだと君にまで殴られる事をしてしまいそうだ。いや、君なら銃で撃ちかねない…“彼女の目が閉じたので、彼はゆっくり彼女に近づいた。 ”今なら“と、よこしまな事を考えてみたりもしたが、撃たれるのは嫌なので仕方なく我慢する。「スカリー?」思いの他間近で聞こえたモルダーの声に スカリーはぎょっとして目を開けた。「気分でも悪いのか?」理性を総動員して、心にもないことを聞いてみる。「いいえ」と笑顔で答えたものの、 自分の妄想をモルダーに悟られたのではないかと少し慌てた。彼のほうも理性と煩悩がないまぜになった感情を、コントロールしようと頑張っていた。 “そうだ、事件のことを考えよう。これは絶対吸血鬼だ。吸血鬼…スカリーの首筋は綺麗だ…すべすべしている…“ 結局のところコントロールなどできるはずもなく、くらくらしながら彼女の首に手をあてた。 スカリーは彼のしなやかな指を首筋に感じながら、”ああ、やっぱりこの男はセクシーだわ“と思う。二人の視線が合った。モルダーがにやりと笑う。 唇の傷がひきつって痛そうだと彼女は思った。「恋人に何て言うつもり?」モルダーは彼女の唇から、どんな残酷な言葉があの若造に吐かれるのか 聞いてみたかった。“お見通しなわけね”「あなたは、相変わらず別れ方がヘタね。」その質問には答えず、彼の唇の傷をなぞりながらスカリーも不敵に微笑んだ。 「そもそも僕と彼女は付き合っちゃいないさ。」「男は単純でいいわ。煩悩だけだもの。」そう言って、彼女は笑いながらモルダーの手を首からやんわりとはずす。 「おいおい、人を獣みたいに言うなよ。」彼は大げさに驚いてみせて、はずされた手をそのままスカリーの腰にまわして抱き寄せた。 モルダーの胸から、あの女の残り香がかすかに香り、スカリーは少しむかついた。それでも「ねぇ、何て言うつもり?聞かせてよ。ん?」耳元で囁く 彼の甘い声とは裏腹の、その子供じみた瞳の色に“なんて表情なの!!”と感動すら覚え、彼を抱きたいとまた思う。“ああ、神様!” スカリーはモルダーの腰に廻していた腕にぎゅっと力を入れて、彼の下半身を強く自分にひきよせたりして「それを今考えているのよ。」と、 少しだけ胸を反らし気味に彼の顔を見上げる。モルダーは彼女に押し付けられた自分の体の熱さを気にしながら、「なんだ、まだ決めてなかったのか。」 とつまらなそうにつぶやいた。彼の熱さを充分に感じながら、スカリーは壊れた頭でまたバカな妄想に溺れようかとも思ったが、「とにかくラボに行ってくるわ。」 そう言って、するりとモルダーから離れた。とにかく検死をしなければならないのだ。そして今夜の事も考えなければ。“山猫みたいだな、スカリー”自分の腕から 突然抜け出した彼女を見送りながら、モルダーは小さくてしなやかな、そして用心深い獣の姿を思い浮かべていた。“君も僕も、まるで飢えた獣だ。 いったい何に飢えているのやら…“解りきっている答えが可笑しくて、薄く笑いながらまだ熱い体の一部を静めようと「さぁ、仕事だ。」と少し大きく 口に出してみた。それでも、やっぱり笑いは止まらなかった。 モルダーの熱を体に残して、ぼーっとした頭のままラボに入ると、すでに死体が銀色の台の上に寝かされていた。 まだ若い女性。これといって目立つ外傷はなく、その体は呆れるほど白かった。バカな考えばかりで支配されていた頭の中が、 ゆっくりと浄化されるのを感じる。スカリーはその証しにラテックスの手袋をパチッパチッと大きな音をたてながらはめた。 彼女はこの音が好きだ。この音を聞くと、自然に自分にスイッチが入るのが解る。それまでどんな煩わしい事を考えていようと、とたんに頭は クリアになり科学者となる。“少しの間、今夜のことは忘れられる”そう思うと、解剖する手つきまで軽やかになってくる気さえしていた。メスを握るのは楽しい。 確かにこの女性の血液は、通常の人間の1/3以下にまで減っている。だからと言って、吸血鬼だとは思わないが、確実に猟奇殺人であること だけは確かなようだ。丁寧に死体を調べていたスカリーは、足の付け根に小さな穴を2つ見つけて「ちっ」と小さく舌打ちをした。 それは、何者かの牙がささった跡だった。穴に残された、牙らしき物のかけらを慎重に取り出しながら、“ふん、モルダーの言う通り、 これはXファイルの仕事だわね。”少し不機嫌にそう思った。彼女にとっては、それがXファイルかそうでないかというのは単に事件性の違いくらいにしか 思っていない。それよりも殺人という行為が許せない。だから、犯人が吸血鬼だろうと、すぐ隣にいるかもしれないサイコな奴だろうと、 捕まえる為ならどんなハードワークもいとわない。ただ…これがXファイルな事件だとわかった時の、モルダーの得意げな顔を見るのが少し癪にさわるのだ。 “やっぱり、僕の思った通りだったよ、スカリー”言いそうなセリフまで思い浮かんでしまう。「ちっ」彼女はもう一度舌打ちをした。 だからと言って、Xファイル課の仕事が嫌な訳ではない。こう見えても、今では結構気に入っていたりもする。 “それでもやっぱり、相棒の嬉しそうな顔は癪にさわる、今日みたいな日は特にね。”そう思いながら胃の内容物を少し乱暴に確認した。 “ハンバーガーとフレンチフライ…お腹空いた…”軽い目眩を覚え、彼女は壁の時計を見た。もう夕方に近い時間だ。 “どうりで”彼女は、横たわった死体と時計を交互に見比べて、「お腹が空いた。」今度は口に出して呟いた。 そしてまた面倒な事を思い出し、頭が痛くなった。彼女の頭は、またバカな妄想をはじめた。“今度はモルダーの指が私を熱くするのよ…” 現実逃避を繰り返す。 モルダーは自分のオフィスで事件の資料を読んでいた。頭の端にチラッと、さっきのスカリーの大胆な行動がよぎる。 その瞬間、昨夜のスージーとの濃厚な情事を思い出し、“くそっ、もう少し機嫌をとっておけば良かったかな…”などと少し後悔してみたりする。 体に未練はあるものの、機嫌をとるのはうっとうしい。ほんとうに獣かもしれないと思いながら、何か新しいアダルト・ビデオでも買おうと 心に誓った。“それにしてもスカリーはまだか?別に色っぽくなくても、大胆でなくてもいいから早く帰ってこいよ。さっきの続きをしよう“ いくら熱心に事件資料を読んだところで、検死報告を聞かなければ前に進まない。いや、というより早く顔が見たいだけなのかもしれない。だって腹が減ったのだ。 空腹とスカリーに何の因果関係があるのか彼自身にもわからないが、とにかくすごく空腹で、何故だかスカリーに会いたいのだ。 “まったく、欲望の塊だ。死んだらきっと地獄に落ちるな。信仰心もないので、地獄も何もあったもんじゃないが、そこがもしリトル・グリーンマンだらけなら 結構楽しいかもしれない。そしたらスカリーも呼ぼう!!彼女ならエイリアンにだって説教しそうだけど“モルダーの壊れた思考回路は、激しい電話の ベルで遮断された。せっかくの楽しい想像を止められて、思わず電話を睨んでみたが“もしかしたらスカリーかもしれない”と思い直し、 受話器を取った。「Xファイル課だ。」「Hi、モルダー捜査官?」電話の主はスカリーではない女だった。「そうだけど、君は?」「私メアリーだけど。 わかるかしら?」モルダーの頭に総務課の金髪美人が浮かんだ。「Hi、メアリー、もちろんだよ。何か?」彼は優しい声で答えた。 「スージーと別れたんでしょ?良かったら、お昼を一緒にどう?」“まったく、女っていうのはお喋りだ”腕時計を見ると、12時を少し過ぎたところだった。 そんな楽しそうなお誘いに乗らないわけがない。モルダーはイスに掛けた上着をひっつかみ、すました顔でオフィスを出た。 頭の中で「煩悩」という名の蛇がむくむくと起きだした。 FBI内のカフェは混雑していた。ちょうど昼時なのだから当たり前なのだが、どこを見てもなんとなく知った顔ばかりなのは少々うざい。 モルダーはメアリーの腰に手をあてて、開いてる席にうながした。背中に視線を感じ、振り向くと恐ろしい形相のスージーと目が合った。 彼は一瞬ひるんだが、すぐに肩をすくめメアリーに視線を戻す。彼女はちらっとスージーを見た後に、にっこりと笑顔を向けてくれた。 “彼女の笑顔は良い、でもこの顔は何処かで見た事があるな。“モルダーも微笑んだ。昼食に選んだサンドイッチはまずまずだが、メアリーのお喋りには退屈 しはじめていた。彼女の意味もなくぱくぱくと動く口を見ながら、“帰ったら金魚に餌をやらなくちゃ”とか考える。そして思い出した。 メアリーが誰に似てるかを…。彼はコレクションのアダルト・ビデオの中の、妙に動物的な動きで腰をくねらす女優を思い浮かべ、少しにやけた顔で 彼女を見た。“メアリーのほうがスタイルがいい”モルダーの不自然な笑みに彼女が困惑の表情をうかべ、首をかしげて彼を見た。 彼女のそんな様子を見ても、彼は取り繕うでもなく「今夜空いてる?」と誘いながら、テーブルの上の彼女の手を優しくにぎり優しい眼差しで見つめながら、 “スカリーに会いたい”などと、脈絡もなく考えていた。そして、頭の中の女優が、だんだんとスカリーの顔に変わっていくと、 彼はもうメアリーの事なんかどうでもよくなっていった。だから彼女の返事が返ってくる前に「用事を思い出したから。」と下手な言い訳をして席を立つ。 メアリーは呆然とモルダーを見送った。後ろでスージーがケラケラと笑っていた。“彼女から誘われることは、二度とないだろうな”ちょっと残念に思いながら、 頭の中ではスカリーの顔をした女優が、激しく動き甘い声をあげている。「なんてこった…。」彼は頭を振りながらオフィスへと戻って行った。 ふとどきな妄想をするには、カフェテリアは騒がしすぎて明るすぎた。 スカリーはものすごく空腹だったが、カフェに入る前に外の空気を吸おうと思った。まだ辛うじて空は青い。ポケットの中からくしゃくしゃに なったたばこを出して、一本くわえ火をつける。ニコチンと一緒に新鮮な空気も吸い込んでみた。煮詰まっている時にはタバコに限る。 首をかくんと空に向け、ぷぅ〜と煙を吐いた。煙と一緒にバカな妄想も吐き出した。吐いた煙がゆらゆらと立ち昇り空気に溶けていくのを見ながら、 “そうか、私禁煙してたんだっけ”唐突につまらないことを思い出して、せっかくの気分が台無しになった。 しょうがないので、タバコを消して吸殻をどうしようかと指で弄びながら、ふてくされた顔でカフェに向かった。 こんな時間なので、中はガラガラだ。窓際の席にゆっくりと腰をおろし、頬杖をついてサラダをつついた。“ノンオイルのドレッシングはあまり美味しくない、 ああ、そんな事より今晩の事だわ”彼女はこめかみを押さえ、考え込んだ。言うべき事は、とっくの昔に解っている。ただ、気が重いだけなのだ。 その言葉を告げた時の恋人の反応が…。泣かれるかもしれない。何か恨み言の一つも言われるだろう。彼女は何度も同じ経験をしている。 だけど、そういう付き合いがやめられない。 そして彼女はモルダーのことを思って笑った。彼女が持っている検死報告を彼に見せたら、どんな反応をするだろう。 結局、この殺人は吸血鬼などというバカみたいなものじゃなかったのだ。牙のかけらは、調べると犬の歯だった。 体に残っていた血液中からは睡眠薬が見つかり、わきの下には注射痕も見つかった。これはまぎれもなく、どっかのサイコ野朗による猟奇殺人なのだ。 何故血を抜かなければならなかったのかは解らない。儀式的なものか、エクスタシーを感じる為か、どっちにしろこれはもうすぐ自分達の手から離れる。 彼の嬉しそうな顔を見なくてすむと思うと、スカリーは少しだけ気が晴れた。何処から見つけたのか、スージーが嫌な笑みを浮かべて近寄ってくる。 スカリーは露骨に嫌な顔をしてやった。鈍感な彼女は、そんな事は気にもせずニヤニヤ笑いながらスカリーに言った。 「モルダーったら今日のランチはメアリーと一緒だったのよ。今朝、私と別れたばかりなのにね。最低だと思わない?」口ではそう言いながらも、 彼女の表情にはスカリーに対して勝ち誇ったような視線を送る。“私はモルダーと寝たのよ”そう言いたいようだ。うんざりした。 局内で自分とモルダーがどんな噂をされてるか知っている。いつも2人で行動してるのだから、しょうがないことなのかとも思う。 けれど、いちいち否定してまわるのは面倒なので、そのまま放ってるだけなのだ。第一、人の口に戸は立てられない。 現にスージーは、スカリーから彼を寝取ったと思っているらしい。くだらない女を相手にするくらいばかばかしい事はないが、スカリーは朝嗅いだ残り香と 同じ香りのする彼女が嫌いだった。「あら、おかしいわね。彼はあなたと付き合った覚えは無いって、私には言ったわ。」そう一言いうと、席を立った。 彼女の悔しそうな顔を目の端で捕らえながら、“私も彼女と同類だわ”と思った。“またあらぬ噂を立てられる” オフィスに戻ると、モルダーが嬉しそうに寄って来た。このバカ男のおかげで、さっき嫌な思いをしたばかりのスカリーは、その顔にでさえ腹が立つ。 それでも検死報告を読み、ひどくがっかりしたような彼を見ると気分も幾分良くなり、「残念だったわね。」と優しい言葉も出てきたりする。 彼の肩に乗せたスカリーの手を、モルダーはいきなり掴んで引き寄せた。彼の興味はすっかりスカリーに移っていた。“まるでガキね”と 彼女は苦笑しながら「痛いわ。」と小さく言ったが、手を振り解くことはしない。それに気を良くしたモルダーはスカリーを抱き寄せ朝と同じ質問をしてくる。 「で?決まったの?何って言うか。」瞳の奥が笑っているのが解る。“何がそんなに可笑しいのだろう?”と疑問に思うが、まぁいい。 こいつはそういう奴なのだ。彼女が一番良く知っている。“本当は朝から決まってたのよ。”にっこり笑って、両手でモルダーの胸を軽く押しながら ゆっくりとデスクまで進み、彼をイスに座らせた。彼の瞳が何かを期待して輝きはじめる。頭の中で女優が喘いでいる。 スカリーはすこし屈んでモルダーのネクタイを掴むと、ゆっくり自分のほうへ引き寄せた。「何がそんなに聞きたいの?」上唇を舐めながら甘く囁く。 彼は、にやりと笑い「残酷な言葉だよ。」と囁いた。「酷い男…。」彼女はますますネクタイを引く。彼の上半身が背もたれから離れ2人の顔が近づいた。 「ねぇ、何て言う?」「シンプルで、残酷な言葉。」「だから何て?」「あなたを…愛してはいなかったと…。」「酷い女だ…。」「でも、あなたは嬉しそうだわ。」 見つめ合っていた2人の目がかすかに笑った。先に瞼を閉じたのは彼。彼女の息が熱く伝わる。“でも、まだよ、モルダー”…と…スカリーは彼の鼻の頭を ぺロリと舐めた。モルダーがびっくりして目を開く。「メアリーとのランチは楽しかった?」にやりと笑って彼女が聞いた。“やっぱり女はお喋りだ!!” 「ふん…例えて言うなら、金魚の餌とアダルト・ビデオだ。」モルダーは答える。“何言ってんだか”腕組みして片眉を上げてみたが、 彼のすました顔を見てると笑えてきた。二人してケラケラ笑った。とりあえず、今日のところ彼女の気は晴れた。恋人の顔を思い出すと少し憂鬱だが、 自分が蒔いた種は自分で刈らなければならない。彼女はちゃんと解っているのだ。だから、まぁいいか。口接けくらいしてもらえると思っていたモルダーは、 少し残念そうではあったがそれでも彼は満足だった。だって、彼女は奴を愛していのだ。そんな事はとっくに解ってはいたけれど、とにかくご機嫌だ。 相変わらず頭の中では女優があえいでいるが、その顔はもうスカリーではない。今日どんなビデオを買おうかと考えるとわくわくした。スカリーが突然言った。 「ねぇモルダー、どうして私には机がないの?」 モルダーはほとんど聞いていない。もはや彼の耳には女優の喘ぎ声しか聞こえていないのだから…。spooky…。                   〜〜〜〜Fin〜〜〜〜 あとがき この2人、かなりいっちゃってます。(笑) 特にスカリーは「タトゥー」の時の5割増しくらいの勢いで、いっちゃってます。(笑) モルダーは3割増し?普段が普段だから…ははは…でもプレイボーイ風味。(←風味ってなんだ?) モルが最後のスカリーの言葉をちゃんと聞いててくれれば、スカちゃん刺青いれなかったかもしれないのにね。(笑) ってそういう問題ではないか。(汗)と、言う訳で設定はS4です。 この何日か後、S4のエピソード「タトゥー」に繋がる…かもしれない。(笑) それでは、最後まで読んでくれてありがとうございました。 honeybee☆ mitti14@excite.co.jp