作品を読む前のご注意: この小説の登場人物・設定等の著作権は、全てクリス・カーター、1013、20世紀フ ォックス社に帰属します。 また、この作品は作者個人の趣味によって創造されたものであり、他のいかなる作品・作 者様の著作権等を侵害するものではありません。 なお、この作品はモルダーとスカリーをメインとしたラブ・ストーリーです。こういう主 旨を受け入れられない方は読まずに引き返してください。 この作品について否定的・不愉快な思いを抱く方がおられましても、どうか個々の趣味と いうことでご理解下さいますようお願いいたします。 以上、全ての件で了解を得られる方のみ、この先へお進みください。 注)今回はちと暗い話デス………しかもラブラブじゃない…… Title:「one mirage night in the rain:前編」 Auther:Aya ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― <レストラン 5/23PM10:00> 外は雨。絶え間無く降り続く。 そぼ降る雫が、辺りを冷たく濡らしていく。 シーフードが美味しかった。 でもスカリーは悲しかった。 これがおそらく、彼に会える最後の時間だから。 「私、そろそろ帰らなくちゃ。もう遅いし。明日も仕事でしょ、モルダー。」 それは最後の挨拶。 貴方と話す、最後の言葉。 貴方には貴方の、私には私の、明日がやってくるのだもの。 努めて明るく振舞って、スカリーはモルダーにそう告げた。 モルダーは黙ってスカリーを見つめる。 彼女の心を深淵を覗こうとするかのように。 ……どうして、貴方はそんなに切ない瞳で私を見るのかしら。 貴方にとって、私って一体どんな存在だった? なぜ、私の心を決心を、こんなに揺さぶらせてしまうの? 「いや、帰っちゃダメだ、スカリー。」 どうして君は泣きそうな顔で、別れを告げるんだ? ここでそのまま行かせたら、もう僕達が会うことは無いだろう。 君はそれで良いのか? そんなことに、僕が耐えられると思うのか? スカリーは精一杯微笑んだ。 糸を緩めると泣き出してしまいそうだけど。 「これ以上一緒にいると、恋人同志だと思われるわよ。」 そうよ。 そう思われては、いけないわ。 私は貴方の重荷になりたくない。 だって、私は、貴方に………貴方に……? スカリー。 君は嘘をついている。 君が嘘をつくときの瞳を、僕は知っている。 なぜ、嘘をつく? なぜ君は、僕の手の届かないところへ自ら進んでいくんだ? モルダーはスカリーのグリーンアイを見透かすように見つめ続ける。 視線を外すと、彼女がすり抜けて行ってしまいそうだったから。 「………僕と、君とは、恋人同志だったんだ。」 彼の目の前のスカリーは、ふふっと笑った。 それは今にも壊れてしまいそうな、ガラスの微笑み。 これは嘘、ね。 どうしてわかってしまうのかしらね。 私、貴方のことがとてもわかる。 そして、貴方の下から去らなければいけないことも。 スカリー、スカリー。 こんなに目の前に居るのに、どれだけ遠いのか。 どうして僕を見ないんだ? 君の瞳が映しているのは一体何なんだ? そして、彼女の口から発せられた言葉。 「冗談はやめて。貴方の恋人はダイアナさんじゃないの。」 辛くて長い沈黙の帳。 ――――ここで話は、2日前に遡る。 <FBI本部モルダーのオフィス 5/21PM1:25> スカリーはいつに無く憂鬱だった。 外は雨。せっかくのお気に入りの靴が濡れてしまったし。 目の前の書類。さっきからやってるのに、一向に片付かない。 でも。 それが原因で無いことは、彼女自身もよくわかっていた。 ダイアナ。 その名前が頭に思い浮かんだ時、彼女の手は止まってしまった。 いけないわね、ダナ。 これは今日締め切りの書類なのよ。 早く書いて持って行ってあげないと、担当の人が可哀想だわ。 “一体、彼にとって何人目の恋人かしら?” 今日はデスクワーク。朝から、そう決めたんだから。 “一体、彼にとって私は何なのかしら?” …………くだらない、想像だわ。 スカリーは自分を叱り付けると、また書類との格闘を再開した。 彼女には書類に埋もれてしまいたい理由があるのだ。 つい昨日のこと、時間は何時だったか……覚えていない。 “「貴女は彼に、相応しくないわ。」” モルダーのオフィス。 彼女がやってきたのは偶然。 彼女と出会ったのも偶然。 そのときモルダーが席を外していたのも偶然。 でもその対立は、必然。 スカリーは今までに対峙したどんな相手よりも、彼女のことが怖かった。 怖い?怖いですって? 一体、なぜ?! そして、彼女に恐れを感じる自分の不甲斐無さに憤った。 「どうしてそんなことが、貴女にわかるのかしら?」 彼女は表情を崩すことなく、スカリーをにらみつけた。 冷たく青い憎しみの炎。 「だって貴女は彼に反対しかしない。彼の障害になっているわ。自分では気づいていない  ようだから、私が代わりに言ってあげてるの。彼から手を引いて。X-ファイルの担当を  降りて。それが彼の、モルダーの望みでもあるわ。」 “私の方が彼のことをよく知っているわ” 声には出されなかった無言の圧迫。 スカリーは黙って踵を返した。 彼女の声は、聞きたくない。 今まで、自分の心の中で考えつづけたことに結論を出せと責めたてるから。 「……モルダーに確かめるつもり?」 そんなこと、するはずないでしょう!!! 彼女――――ダイアナは意地悪く笑った。 「何て言うのかしら?貴方の元恋人のダイアナさんが私を苛めるの、とでも?……彼は女  なら、誰にでも優しいのよ。もういいかげんに気づきなさい。彼が大切に思っているの  は、貴女じゃない。貴女はX-ファイル課の………モルダーのお荷物だわ。」 スカリーは目を伏せて、キッと唇を結んだ。 悔しくて、叫びたかった。 奪わないで。 どうか私から、彼を取らないで。 言えたらいいのに。そう言ってしまえたらいいのに。 壊れるくらい強く願ったら、願いはかなうのかしら? でもそれは、私のプライドが許さない。 彼と一緒にいるためのプライド。 私が捜査官ダナ・スカリーであるための。 そして、スカリーは書類に没頭する。 何も考えたくない。 頭の中を文字の配列で埋め尽くしたい。 そうしたら、何も考えなくて済むから。 ……気づきたく無いことも、気づかなくて済む、から……… 書類のインクが滲んだ。 これは、雨に濡れてしまったせい。 また、書き直し。 いいのよ、時間なんていくらでもあるわ。 でも、お願いだからこれ以上降らないでちょうだい。 私の、雨。 スカリーは書類を書き上げた。 彼女は疲れていた。 彼女の集中力を奪ってしまうほどに。 外は激しい雨だった。 見通しが悪い闇夜だった。 そして――――――――――彼女はその夜、事故に遭った。 スカリーは毎日祈り続ける。 神はある意味、彼女の願いを聞き届けたのかもしれない。 搬送された病院で気がついた時。 スカリーはなぜ自分が悲しかったのかを、どうしても思い出せなかったのだ。 <FBI本部スキナーのオフィス 5/22AM10:25> AM9:00。 スカリーはまだ来ない。 AM10:00. スカリーはまだ姿を見せない。 めずらしい。 スカリーが遅刻をするなんて。 ……何もなければ、いいのだが。 次の日、連絡も無しに欠勤したスカリーを心配しているモルダーのもとに、 スキナーからの呼び出しがきた。 「モルダー捜査官、入りたまえ。」 スキナーの手元の薄っぺらい紙切れ。 彼は事実をモルダーに伝える役。 それが辛いことでも、彼は伝達役なのだ。 「スカリーが事故に?」 「ああ、そうだ。」 モルダーは即座に立ち上がると部屋から出て行こうとする。 「モルダー捜査官!!まだ話は終わっていない。席に戻るんだ。」 仕方なく、モルダーは再び席に戻ったが座ろうとはしなかった。 ふう、と一息つくと両手を腰に当て、所在無しにあちこちを眺めまわす。 「それで、容態は?一体いつ事故に遭ったんです?彼女は今、どこに?」 「容態は悪くない。しかも、奇跡的にもかすり傷程度しか負っていないそうだ。事故に遭  ったのは昨夜、帰り道での事らしい。もう退院して、今日は自宅待機の命令を出してい  る。しかし、だ。」 思わず、言葉を切るスキナー。 モルダーは、いらいらした感情を隠しきれなかった。 「しかし、何です?早く言って下さい副長官。」 スキナーはモルダーの顔を一瞥した後、手元の書類に視線を落とした。 まるで、彼の顔を見たくないかのように。 「彼女は覚えていない、と。」 まるで事務的な通達のように、淡々と声だけが部屋に響く。 「X−ファイルや………君のこと、を。」 モルダーは一度だけ、天を仰いだ。 そして、仰いだまま、声を絞り出した。 「……それでも、彼女がいなくなる、よりは。」 今度こそモルダーは、上着を手に出ていった。 スキナーも彼を止めなかった。 昨日からの雨は、まだ止まない。 <FBI本部モルダーのオフィス 5/22PM3:12> 不意の来客。 スカリーではないかと、少しだけ期待していた自分に気づく。 扉が開けられたところには、懐かしい顔があった。 モルダーは彼女を懐かしい古巣へ招き入れた。 「スカリーさんのことで、話があるの。」 ダイアナは勧められたスカリーの椅子に深く腰をかけると、モルダーの瞳を見つめて話を 切り出した。 モルダーは2、3度軽く頷くと、話を促す。 「……私、彼女が事故に遭う直前に、ここで話をしたの。」 じっとモルダーを見つめるダイアナ。 彼の表情をうかがう、その瞳は鋭く暗い。 「その時に彼女は言ってたわ。私はもうX-ファイルに関わりたくないって。」 関わりたくない? 「スカリーが……?」 深く頷くダイアナ。 「彼女が、私に、………X-ファイル課の後任を任せたい、と。」 まさか、スカリーが。 そんな筈が無い。 そんな理由(わけ)が無い。 「………本当か?」 嘘だと言ってくれ。 頼むから、僕から彼女を奪わないでくれ、ダイアナ!! 「……ええ。私が貴方に嘘をつくと思うの?フォックス……」 貴方は渡さない。 誰にも渡さない。 医者上がりの小娘にも、誰にも。 貴方を手に入れるためなら、私は何でもするわ。 「だから、彼女は忘れてしまったのよ。X−ファイルや……貴方のことを。」 だって、彼女は貴方に相応しくないもの。 「今、スキナー副長官に話をして、彼女の後任の件を考えてもらっているわ。」 ダイアナはすっとモルダーに近づくと、体を寄せた。 「彼女は辞表も出すそうよ。」 <FBI本部職員通用口 5/23AM8:45> 昨日より、さらに強さを増した雨は、スカリーの顔と体を容赦無く濡らす。 冷たい。 その冷たさに、スカリーはようやく頭がはっきりしてきたような気がした。 彼女は昨日、不意にかかってきた電話を思い出す。 相手はFBI副長官。 声が外の雨にかき消されて、よく聞こえない。 「ごめんなさい。もう一回言っていただけます?」 「スカリー捜査官、君が転属を申請したがっていたと言う意見を聞いた。」 「転属……ですか?」 私が、転属を希望? そうだったかしら? でも……私は一体何の仕事をしていたの? 「ああ、別に返事は今すぐでなくても良い。明日、出勤できるようならX−ファイル課に  足を運んでみてくれ。……君の、職場だ。」 「わかりました。」 濡れた体を引きずって、彼女は自分の仕事場へと向かう。 その雨は彼女の体と服のみならず心にまでしみこんで、全ての動きを封じてしまおうとで もしているかのようだった。 “FOX MULDER” 金文字のプレートのついた扉。 何だか懐かしい気分がしたのはなぜ? 文字をそっとなぞってみる。 そして、意を決して扉を開ける。 そこに居たのは。 「あら、スカリーさん具合はもういいの?」 気分が悪い。 もしかしたら、風邪を引いてしまったのかもしれないわ。 体も、心も、こんなに重くて……… スカリーは彼女の胸の名札を見た。 ダイアナ。 痛い……胸が痛い、名前。 「何か御用?」 ダイアナはそっけなく言うと、また手元の書類に目を落とした。 「副長官が、ここが私の仕事場だと。」 「残念だけど、もうここは貴女の担当じゃないわ。」 「でも………」 ダイアナは視線を上げた。 正面からぶつかる視線。 渡さない。 貴女なんかには渡さない。 彼に、貴女は、相応しく、ない!!! 「あら、貴女はここをやめたがっていたじゃないの。」 そうだったかしら? 「……いいえ。そんなことは………」 それは違うわ。 でも気分が悪くて、あまり考えられない。 反論出来ない。 ………悔しい……。 だって、こんなに懐かしいのに。 心が体が、戻りたいと叫んでるのに。 スカリーはとぼとぼと濡れた体を引き返させた。 決して止まない雨。 私の外も、私の中も。 それは私自身を激しく濡らす。 その時、モルダーのオフィスでダイアナは静かにペンを置いた。 そしてゴミ箱に、今書いていた書類を乱暴に投げ入れた。 その表面には、ぐちゃぐちゃのペンの跡………。 ああ、でも、そうだったかもしれないわ。 彼女の言うように、私は新たな人生を歩みたかったのかも。 この胸の焦燥感は、そう言うことだったのかも。 スカリーはその足で、辞表を作成し提出した。 <FBI本部モルダーのオフィス 5/23PM2:25> スカリーは部屋の中に静かに立っていた。 誰もいない、沈黙のオフィス。 これでいいのよ。 私は後悔なんか………してない。 でも、最後にここを見ておきたかった。 瞳に焼き付けておきたかった。 そう、それだけ……よ。 その時ふいにドアが開いた。 スカリーはびっくりして、2.3歩後ずさる。 モルダーはフィールドワークのあまりの悪条件にうんざりしていた。 もう、髪の毛もシャツの袖もズボンも何もかもびしょぬれである。 しかし、扉を開けると、スカリーがいた。 驚きで見開かれた、綺麗なグリーンアイ。 モルダーは彼女を見て、嬉しそうに微笑んだ。 「やあ、スカリー。気分はどうだ?」 懐かしい、笑顔。 気持ちが“きゅっ”となる。 「ええ。モルダー……さん、大丈夫よ。」 「はは、やめてくれ、モルダーさんだなんて。」 君に会えて嬉しいよ。 君が戻ってきてくれて嬉しいよ。 僕がどれだけそう思っているか、君に伝えられたら良いのに。 モルダーはスカリーの髪の毛に軽く触れて手のひらを滑らせた。 スカリーは全く嫌だと感じない自分に驚いていた。 ましてや、それが嬉しいだなんて。 「ああ、そうだ。再び初めてやってきた感想はどうだい?また、握手から始めようか?」 ……初めてじゃないの。 「でも、ここは貴方のオフィス、よね?私がいた痕跡がないわよね?」 「スカリー?」 「だから、ここで私が働いていたという証拠は無いわ。」 さっきのダイアナの言葉。 さっきはあんなに否定したかった言葉。 私を追い詰める、言葉。 スカリーのただならない様子に、モルダーは少し目を曇らせた。 しかし、次の瞬間には優しく微笑んで、スカリーを見つめる。 「……証拠なら、ここにあるさ。」 モルダーは手のひらをスカリーの頬に移した。 そして空いているほうの手で、軽く自分の心臓を叩く。 「君が覚えていなくても、僕が覚えている。」 そうだ、僕が覚えている。 君が忘れてしまっても、もう二度と思い出さなくても。 どうしてこんなに懐かしいの? 胸が締め付けられるよう。 スカリーはそっとモルダーの顔に指を伸ばした。 あたたかい、彼のほっぺた。 私はこの人を知っている。 ずっと前から、知っている。 「ここは確かに君の仕事場だ、スカリー。」 心に降り注ぐ、暖かく柔らかな言葉。 「僕達は、パートナーなんだ。」 彼を信じたい。 本当は何が正しいの? 君無しでは、僕はここまで来れなかった。 今の僕がいられるのは、スカリー、君のおかげなんだ。 本当は君を解放するべきなのかもしれない。 いつまでも僕の元に縛り付けておいてはいけないのかもしれない。 でも、僕は君にパートナーであって欲しい。 それは僕の我侭。それは僕の、原罪。 ふいにモルダーの両腕がスカリーを抱きしめた。 「モ、モルダー………?」 彼女の小さな体は、簡単に彼の腕の中にすっぽりと収まってしまう。 「すまない……」 ほんの微かに彼の口から漏れた言葉。 それは、決して空耳じゃない。 なぜ?どうして貴方が謝るの? 「とても体が冷たいわ、モルダー。」 こんなこと、喋りたいんじゃないわ。 何か、何かもっと言うことがあるはずなのに。 「外が雨だったからな。」 スカリーはぎゅっと彼を抱きしめた。 体の温もりを分け与える様に。 ああ、このまま体温を全て彼に預けて、死んでしまえたら、いいのに。 「スカリー、君まで濡れてしまう………」 それでも、君は僕を許してくれるに違いない。 その小さな両手を精一杯広げて。 その大きな慈愛の心で。 モルダーはそっとスカリーの髪にキスをすると、戒めを解いた。 「すまなかった、スカリー。今晩、一緒に食事に行こうと誘いたかったんだ。君の好きな  レストラン、だろ?」 彼が提案したレストランは、確かに彼女のお気に入りのところだった。 <レストラン 5/23PM10:00> 先に沈黙の霧を払ったのは、モルダーだった。 「なぜ、ダイアナが僕の恋人だと?」 彼の言葉は優しくて、残酷。 私を崖の縁まで追い詰める。 「何でって………何となく、わかる……わ。」 胸に押しつけられるように広がる悲しみの感情。 これは一体何? これは一体何? スカリーはモルダーの視線に耐えられなくなってそっと俯いた。 あくまでも優しいその視線が、今の彼女には痛い。 モルダーは指を組むと、口元に持っていった。 今の君に、僕の言葉は届かないのだろうか。 去り行く君の足を留める術は、僕には無いと? 何をすれば、僕の心が君に届く? たとえ君を縛り付けてでも君の足を撃ち抜いてでも、僕の元から去らせたくないのに。 「頼む。何とか辞表を撤回してくれないか。僕のパートナーは君しかいないんだ、スカリ  ー。」 僕のパー………は君し…………ないんだ……カリー……… それは、いつか聞いたことがある響き。 よせては引く小波のように脳裏に蘇る言葉。 “それでも恋人だって言葉は否定してくれないのね?” “………壊れるほど願っても、この想いは叶わないのね……………” しかし、スカリーはそれに耳を塞いだ。 心のどこかで警鐘が鳴らされている。 思い出してはいけないのだ。 これは、思い出したら、私の精神が、 こ、わ、れ、る。 彼女は何とか顔を上げ、笑顔を作ることに成功した。 それは拒絶の笑顔。 今にも泣き出しそうな、嘘笑顔。 君の嘘が聞こえる。 君の悲鳴が聞こえる。 なのに、僕には何も出来ないのか? 君のために、何ができるんだ? 言ってくれ、スカリー。 僕に向かって、叫んでくれ!! 「ごめんなさい、モルダー。でも、どうしても撤回出来ないの。」 彼が見つめている。 私をじっと、見つめてる。 昔、こうして見つめられたことが無かった? 次の言葉は言ってはいけないような気がする。 でも言わなくちゃ。 貴方に、私は、相応しくない、わ。 「私、新しい人生を、歩んでみたいの…よ。」 その途端、彼女の両目から堪えきれなかった涙があふれ出た。 「だから、どうか、私のことは……忘れて……お願い……」 スカリーはまた、自分が思っても見ないことを口にしたのがわかった。 忘れてですって? 忘れたいのは自分なのに。 でも、一体何を忘れたいの、私は? …………そう、何もかも全て、だわ。 スカリーは席を立って、そして走り去った。 もう一刻も、ここに居たくなかった。 胸が痛いから。 それが何の痛みなのかわからないのに。 雨は、また一層、 激しさを増して、降り続いている。                       To be continued――― Afterword〜いわゆる後書きその4.5〜 ひよしゃんに捧げるFIC第一弾!(もういらねーって言われそう(笑)) HP開設おめでとうございます〜。ささやかながら私からの愛の結晶を……ぐはっ!(←殴) 改めて読み返してみると、話の運びが荒いですね。 でももう手直しはしない(笑)。直し出すとキリ無さそうだし。 この頃の方が、毎日一生懸命FIC書いてたな〜と懐かしく思い出します。 ……と言ってもついこないだなんですけど……。 ご意見、ご感想等は mulderscully@mail.goo.ne.jp http://www.geocities.co.jp/Hollywood/7095 までお願いします。 最後までよんでくれて有難う、のAyaでした。