作品を読む前のご注意: この小説の登場人物・設定等の著作権は、全てクリス・カーター、1013、20世紀フ ォックス社に帰属します。 また、この作品は作者個人の趣味によって創造されたものであり、他のいかなる作品・作 者様の著作権等を侵害するものではありません。 なお、この作品はモルダーとスカリーをメインとしたラブ・ストーリーです。こういう主 旨を受け入れられない方は読まずに引き返してください。 この作品について否定的・不愉快な思いを抱く方がおられましても、どうか個々の趣味と いうことでご理解下さいますようお願いいたします。 以上、全ての件で了解を得られる方のみ、この先へお進みください。 注)全員すっかり別人デス………(苦笑) Title:「one mirage night in the rain:後編」 Auther:Aya ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― <モルダーのアパート 5/23 11:00PM> モルダーはビールの缶を片手に椅子に腰掛けた。 首に引っ掛けたタオルで乱暴に髪の毛の雫を跳ねさせる。 ようやく部屋の肌寒さを感じる感覚が戻ってくる。 ソファに視線を投げると、そこには彼女の小さな体。 いまだ目が覚めないのか、スカリーはぐったりとソファに横たわったまま、動かない。 多分、彼女は怒るに違いない。 もしかしたら、泣き出すかもしれない。 モルダーは瞳を閉じて缶を持ち上げ、冷たい側面を自分の目の上に当てた。 窓外の雨音だけが、部屋に響く全て。 **************************************** 「どうして逃げるんだ、スカリー!!」 滝のようなどしゃ降りの中、レストランから飛び出して行ったスカリーを必死で追いかけ た。 彼女がタクシーを呼び止める寸前、その手首を強引に捕らえる。 細くて柔らかい、簡単にへし折ってしまえそうな華奢な手首。 「離してちょうだい、モルダー。」 彼女は夜の闇よりも暗い目でしかし決して僕の方は見ようともせずそう告げた。 体が小刻みに震えている。寒さか、……怒り……か。 「嫌だ、と言ったら?」 スカリーはゆっくりとモルダーと視線を合わせた。 吸い込まれそうなくらいに哀しい色を湛えた瞳。 流れているのは雨雫なのか、それとも……… 「貴方の、側に、居たく、ないの………」 モルダーは、スカリーの手首を掴んだ方の自分の手に力が篭るのがわかった。 君がいけないんだ、スカリー。 君が、僕を、拒絶するから。 そして、僕はこの後をあまり覚えていない。 なぜ、こんなことをしてしまったかの理由なんて尚更だ。 気がついたら、彼女は気絶して僕にもたれかかっていた。 **************************************** 外は相変わらず、嵐のような大雨。 モルダーはもう一口、ビールを煽った。 とりあえず、彼女を濡れたままにしては置けないな。 モルダーはほとんど空になった缶を机に置くと、クロゼットからバスローブを取り出した。 「スカリー、スカリー」 軽く肩をゆすりながら呼びかけたが、応答は依然として、ない。 仕方ない。 「Sorry………」 彼女に言ったのか、自分の心の疚しさがそう言わせたのか。 小声で呟くと、モルダーはブラウスのボタンに指をかけた。 上から順にゆっくりと外していく。 徐々にスカリーの白い肌が顕わになる。 柔らかな双球を包む、薄青のブラジャー。 その下腹に見える赤い痣。 指でなぞって、そっと口付ける。 ごめん、僕は君を傷つけるようなやり方しか出来ない。 手早くスカートも脱がせると、バスローブで体を包み込んだ。 その小さな痩せた体は、大きなバスローブにすっぽりと包み込まれてしまう。 乱れた髪の毛を手のひらで整えて、またそっとソファに横たえる。 青白いその顔は氷の彫像。暖かい、ice queen。 バスローブ越しにその体を抱きしめてみる。 ゆっくりと、胸に耳を寄せる。 とくん、とくん。 スカリーの規則正しくゆっくりな心臓の音が聞こえる。 嫌だ。 彼女がいなくなるなんて、考えられない。 どんなに彼女が泣き叫んでも、僕は決して手放さない。 足に鎖をつけて、籠に閉じ込めてでも。 二度と彼女の瞳が僕の方を見ようとしなくても。 たとえ彼女の心が手に入れられなくたって、 僕のそばに居てくれさえすれば。 彼女の暖かい体温を感じながら、モルダーはゆっくりと暗闇の中に落ちていった。 <モルダーのアパート 5/24 0:20AM> ぱたぱたぱた……… ………?何の音かしら? ふっと目が覚めた。 辺りが暗い。 体を動かそうとしても、動かない。 何かが重くて…………… 少しだけ顔を浮かせて下を見ると、 「………モル………?」 モルダーが眠っている。 まるで子犬のように、丸まって。 私、一体どうしたのかしら? しばらく、頭の中で今の状況を整理してみる。 ここはどうやら、彼のアパート。 私はバスローブを着ていて、モルダーが胸の所で眠っている。 いいえ、そもそも何で私はここにいるのだったかしら? 夕食を彼と一緒に食べて……私は飛び出して……彼に追いかけられて……。 その瞬間、さっきの出来事が頭の中にフラッシュバックした。 **************************************** 容赦無く体中に叩きつけられる雨飛沫。 その轟音に負けないように、私は叫んだ。 彼への拒絶を。 せいいっぱいの、嘘を。 「貴方の、傍に、居たく、ないの。」 そう言った瞬間モルダーの顔が険しく凍り付き、手首が折れるほど強く握り締められた。 私は怖かった。 モルダーの、犯人を追い詰める時のような、鋭い眼差しが。 そして悲しかった。 この期に及んでまだ、嘘を吐き続ける自分が。 ……こんなに、貴方の側に、居たいのに。 一瞬、彼が涙を流しているように見えた。 次の瞬間、私の体はモルダーに強く抱きしめられる。 そして、強い衝撃。 ………私の視界は、暗転した。 **************************************** ……私、気絶させられたのだわ。 でもそれにしても、一体それから今までに何が……? 私は途方にくれて、胸にのしかかっている彼の寝顔を見つめた。 困ったわ。 なでたくなってしまう。 かろうじて動かすことが出来た右腕をそっと彼の顔に持っていく。 バスローブから少しだけ覗かすことが出来た指で、髪の毛を梳いてみる。 少しだけ濡れた感じのする、柔らかな髪。 私はそれだけで、落ち着いた気分になれる。 私はこの人が好き。 彼のことを愛している。 間違いなく。 もし、願いが叶えられるなら、 「私は、貴方の側に、居たい………」 モルダーがその時、ゆっくりと目を開けた。 その視線がスカリーの顔の方へと動き、二人の瞳と瞳が交差する。 「あ………」 スカリーは慌てて指を引っ込めようとしたが、モルダーによって捕まえられてしまった。 「スカリー、気がついたのか……良かった……」 それだけ言うと、モルダーはまたバスローブに突っ伏した。 勿論、スカリーの指は捕らえたまま。 「モルダー、あの………」 “頭の中が真っ白というのは、きっとこういう時の事を言うんだわ” と、心のどこかで私が呟いた。 聞いてた?聞かれていた? いつものポーカーフェイス。 でも、僕にはわかる。 彼女の心臓の跳ねる鼓動が。指先まで伝わってくる、緊張が。 スカリー、今のは空耳じゃないよな? ここには僕と君しかいないんだぞ? 「スカリー、僕は絶対にここをどかない。君が辞表を撤回すると、僕の側から離れないと  約束するまで。決して………離さない。」 彼の声が、体を伝わってまるで直接耳に届いているよう。 窓を叩く優しい雨音とモルダーの低い呟くような声。 私を優しく包み込む、暖かさ。 スカリーはそっと瞳を閉じて、ふぅと息をついた。 心臓がドキドキする。 絶対に、この音が聞こえている筈なのに。 「どうして………」 モルダーは姿勢を変えないまま、唇の端を上げて微笑んだ。 掴んだままのスカリーの指先を、わざと齧ってみせて。 「君には、わかっているだろ?……ダナ。」 そうでなければ、そんなに仕方なさそうな顔はしないよな? 君のいつもの表情。 それは、僕を肯定してくれる時。 本当に。……いつもこうなんだから……。 ……勿論、わかるわ。 私、貴方のことがとてもよくわかる。 ……悔しいけど。 「貴方には、本当に、苦労させられるわ………」 可愛くない言い方。 でも、貴方ならわかってくれるわよね? この言葉の裏に隠された、本当に私が言いたかったことを。 いつも通りの、少し呆れたような表情。 困っているけど仕方なさそうな瞳。 スカリー、やはり僕は君を手放すわけには行かないよ。 君無しでは、僕は僕でいられないのだから。 モルダーはゆっくりと、腕の力を抜いた。 窓ガラスを雨が優しく叩いている音が聞こえる。 モルダーはスカリーの耳元まで体を伸び上がらせて、囁いた。 「心配しなくても、何もしてないよ。……君の怒るようなことは。」 スカリーは少しだけ彼を睨み付けた後、ふわりと微笑む。 二人はどちらとも無く顔を寄せると、静かに唇を合わせた。 それは音の無い誓いの言葉。 これからの約束の証。 ゆっくりとモルダーの腕がスカリーを包む。 スカリーもそっとモルダーの体に腕を回した。 優しくそぼ降る雨音の中、二人の影が一つになっていく………。 <FBI本部モルダーのオフィス 5/24 9:20AM> 曇り空。 雨音がしないくらい静かに、霧雨が辺りを包む。 僕は彼女と決着をつけなければならない。 これは僕のふがいない過去との決別。 僕の隣には、スカリーしかいらないのだから。 オフィスに到着したモルダーをダイアナが微笑んで迎える。 「モルダー、この事件のファイルなんだけど………」 ダイアナが差し出してきたファイルを右手で静止して、モルダーは正面から彼女と向き合 った。 ただならない形相に、ダイアナは目を見開いた。 「ダイアナ、これは僕とスカリーの仕事だ。」 だから、君は手を触れないでくれ。 君の居場所はここには無いんだ、ダイアナ。 きっぱりと確実な、拒絶。 それは彼女の存在を否定する別れの言葉。 ダイアナの顔色が変わっていく。 そして次の瞬間、彼女は持っていたファイルをモルダーの顔に投げつけて怒鳴った。 「私がどれだけ貴方のことを想ってきたか、気づいていないわけじゃないでしょう!?」 今にも辺りの書類をひきちぎりそうな勢いで、ダイアナは叫んだ。 モルダーはあくまで冷静に、彼女の口元に視線をあわせる。 「ああ、わかっていた。でもダイアナ、それでも君のやったことは許せないんだ。君は彼  女や僕や副長官すら陥れようとした!」 モルダーの口調と表情が、徐々に険しさを増して行く。 「君は彼女を冒涜している!!」 クッと唇を強く噛んで僅かに下を向いたダイアナが再び顔を上げたときには、その表情か ら険しさは消えていた。 代わりに浮かぶのは、懇願。 自分の手から零れていきそうな水を何とか留めようとするように。 「貴方を愛しているのよ。貴方が必要なの。彼女に盗られたくなかったのよ!!」 それは昔のままのダイアナ。 共にXファイル課で仕事をしていた時のまま。 でも今、彼の心を支配するのは。 いつまでも、人は昔のままではいられないんだ。 でも、そんな僕に昔の信念を取り戻させてくれるのは。 変わらず、一つの未来を一緒に見つづけてくれるのは。 「……僕の、本当に必要としている人は、スカリーただ1人だ。」 ダイアナは目を閉じた。 私は負けた。 わかっていたかもしれない。こうなることは。 いくら耳を塞いでも目を背けても、いつかはこの言葉を突き付けられる事も。 「でも、それでも私は、勝ち目の無い勝負を挑んだの。もしかしたら、貴方が振り向いて  くれるかもって……」 一筋の涙が頬を伝った。 決別の合図。 過去との別れ。 ダイアナは目を開けると、モルダーの脇を静かに通りぬける。 すれ違い際、彼女はそっと呟いた。 「さよなら、フォックス。」 そのまま行こうかと思ったけれど、やっぱりダイアナは振り向いた。 もし、なんて言葉は私には似合わないけど。 過去の選択を悔やみたくないから。 でも、それでも一回だけ。 「………私、彼女になりたかった…………」 もう彼女に会うことは無いだろうから。 絶対に、スカリーの前では口にしたくなかった言葉。 最後の思い出よ。私と、貴方の。 モルダーは振り向かずに、そっと決別を告げた。 「……君に、幸運を。」 二人の間に真っ白で深い霧がかかって、お互いの姿を見えなくさせる。 ダイアナが歩を進め、そっと扉を閉じた。 部屋の扉と、二人の間の最後の扉を。 <FBI本部 5/25 11:20AM> 快晴の青空。 今までの雨が嘘のような、綺麗な青。 ところどころ雨露を含んだ緑が、きらきら輝いている。 スカリーの辞表は結局、スキナーの机の中から出ることは無かった。 何事も無かったかのようにXファイル課に復帰したスカリーの耳に、ニュースが届く。 突然のダイアナの辞職。 昨日、モルダーが彼女と会っていたことを、スカリーは何となく気づいていた。 その時に何があったのかまで知る術は無いけれど。 でも、きっと必ずモルダーを信じていていいのだと彼女は思う。 とんとん、と資料を揃えてスカリーは机に向かっているモルダーに言った。 「さ、モルダー。そろそろ出発しましょう。」 「ちょっと待て。」 左手の人差し指を一本立てて、彼は席から立ち上がった。 そしてスカリーの正面に並んで立つ。 彼女は自然に彼を見上げる形になった。 何だかいつもより、ますますニヤニヤしてるみたい。 嬉しいんだよ、スカリー。 いつも当たり前だと思っていた日常が、こんなに嬉しいなんて。 君が目の前にいることが。 君とまた一緒に仕事が出来るのが。 「その前に君に見せたいものがあるんだ。」 「まだ資料が?あまり時間がないわよ。」 モルダーは黙って、ポケットに右手を突っ込む。 そしてスカリーの左手を取って、にっこりと笑った。 「ちょっとした、復帰祝いさ。」 するっと薬指にはめられた、細い金の指輪。 手に取ったスカリーの指先に軽くキスをして、モルダーは微笑んだ。 「受け取ってもらえるかい、スカリー?」 これは本当の約束。 今までと、そしてこれからずっと永遠に続く。 まっすぐに私を見下ろして微笑んでいる、嬉しそうな子犬。 受け取らない、なんて私が言うと思ってないんでしょう? なのにわざわざ、そんな風に聞くんだから。 スカリーはその指輪を見つめ、心で呟いた。 モルダー、ちょっとこれ緩いわよ。 口の端に笑みを浮かべて、スカリーはモルダーを見上げた。 その瞳が優しく細められる。 「……私、貴方と出会えて良かったわ。」 モルダーの指がそっと彼女の頬を伝って顎まで届き、軽く上向きにさせる。 スカリーは瞳を閉じた。ほんの少し爪先立ちになって。 モルダーは少し顔を傾けて、柔らかい唇にキスをした。 右手は彼女の後ろの髪を、左手は彼女の腰を抱いて。 そして唇を離し、視線を合わせる。 最後にスカリーは、軽くモルダーの頬にキスをした。 貴方と再び出会えて、一緒に仕事が出来て、あなたの側に居られて ……本当に嬉しいのよ、モルダー。 僕こそそうだよ、スカリー。 いや……… モルダーは彼女の肩をぽんと叩いて扉を開け、スカリーの方に振り向いた。 「さあ行こうか、my only,Dana=Katherine=Mulder。」                                      Fin Afterword〜いわゆる後書きその5.5〜 これ書いた時は異様に沈んでいたのですよね。だから後書きも暗くって……(苦笑) なんと、ダイアナが悲劇の女になってます。我ながらムカツク。 もし今これを書きなおすとしたら、絶対にヤツは消してやるのに。 何考えてたんだかなぁ、昔の自分。 ちなみに何だかこれも指輪ネタの一環だったりしてます。 本人、読み返すまで気づいてなかったのですけど(笑)指輪好きだね………。 ご感想・ご意見は danafox@geocities.co.jp(ポスペOK) mulderscully@mail.goo.ne.jp http://www.geocities.co.jp/Hollywood/7095 に頂けたらうれしいデス それでは今回もお付き合い頂けて有難うのAyaでした。 --------------------------------------------------------------------------------- Caution(警告!!): ここより下の作品は、「ええ〜い、いくらフィクションっつったって、こんなに上手くいく ばっかりなわけがないじゃないかよっ」という作者のひねくれた根性が産み出した、もう 一つの結末です。幸せな結末だけでいい!って人は、読まない方がよろしいかと……。 この作品について否定的・不愉快な思いを抱く方がおられましても、どうか個々の趣味と いうことでご理解下さいますようお願いいたします。 以上、全ての件で了解を得られる方のみ、この先へお進みください。 注)後味悪いデス(苦笑) Title:「one mirage night in the rain:後編α」 Auther:Aya ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― <レストラン 5/23 10:00PM> 「どうして逃げるんだ、スカリー!!」 ひどいどしゃ降りの中、レストランから飛び出して行った彼女を必死で追いかける。 僕は走って、彼女の手首を強引に捕まえる。 「離してちょうだい、モルダー。」 彼女は夜の闇よりも暗い目でしかし決して僕の方は見ようともせずそう告げた。 「嫌だ、と言ったら?」 スカリーはキッとモルダーと視線を合わせた。 赤い色を湛えた瞳。 怒りの色。絶望の光。 流れているのは雨雫なのか、それとも……… 「貴方の、側に、居たく、ないの!!!」 その時、何かが壊れるような音がしたのは気のせいなのか? そして僕は、僕の手から力が抜けるのがわかった。 彼女はそのまま走り去って行った。 雨の雫が、ただひたすらに僕を濡らしたが、不思議に全く冷たさを感じなかった。 もしかしたら。 僕はその時、泣いていたのかもしれない。 <スカリーのアパート 5/24 2:30AM> スカリーはふっと目を覚ました。 時計を見る。 昨日の夜の事が、まるで夢のよう。 窓を叩く、激しい雨音が部屋中に響き渡っている。 「……でも、確かに現実………」 自分の声が力なく雨音にかき消された。 どうやら、帰ってきてそのままテーブルで寝てしまったみたい。 どうしようもない、焦燥感。 体中を蝕む、倦怠感。 スカリーは震えた。 「寒い………」 これは体の冷たさなのかしら……それとも……… 「ベッドで寝なくちゃ……風邪を引くわ……」 私の新しい人生。 新しい明日。 新しい毎日。 私は一体何をしたいのかしら? いいえ! 私は何もしたくない。 彼はもういないのに。 涙がまた一筋頬を伝った。 ……それでも。 「私は、生きていかなくちゃ……一人で。」 悲しい決意。 その時、何かが音を立てて崩れた気がしたのは何故だろう? その音にも耳を塞いで、スカリーはベッドに潜り込んだ。 深い眠りの海だけが、彼女を癒す場所………。 <スカリー退職2年後 某街路 6/14 12:14AM> 気持ちよく晴れた、少し蒸し暑い位の陽気。 こんな日は、ふとFBIにいた頃のことを思い出す。 未練が無いと言ったら、それは嘘。 今でも、あの頃の仕事をもう一度やりたいと、あの頃の日常に再び帰りたいと思っている 自分が居る。 それでも彼女に退職を決意させたのは。 “辛かったのよ……私がどんなに愛しても、一生私の傍に来てくれない人の隣に居るの   が。” これは多分、逃げ。 自分を正当化するための嘘。 一緒に居られなかったのは、私の弱さ。 私が彼から逃げ出した。 彼は、私を、必要としてくれていた筈なのに。 そんな考えを振り切るように、彼女は歩き出した。 何回も何回も考えてきたこと。 私は逃げ出す方法を選んだのだから、 だから、逃げつづける。自分の居場所がある限り。 皮肉にも、その瞬間。 「スカリー?」 グレーのスーツ。白のカッター。 彼女の目の前に現れた、懐かしい顔。 一時も忘れたことの無い、忘れられる筈も無い人。 こんなに切ない気持ちになるのは、久しぶりだから? 相変わらず、変なネクタイね? 「まぁ、モルダー。お久しぶりね。」 久しぶり……2年ぶりだよ、スカリー。 君がいなくなって。 君と会えなくなって。 君が僕の前からいなくなったあの日、僕がどれだけ後悔したかわかるか? 嬉しいわ。 貴方に会えて、嬉しいわ。 この嬉しい気持ちを貴方に素直に伝えられてたら、私達は変わっていたと思う? 相変わらずの子犬の微笑みで、モルダーはスカリーに話しかけた。 「会えて嬉しいよ。最近仕事はどうだい?」 「まぁまぁ、ね。やりがいのある仕事よ。」 辺りさわりの無い会話。 社交辞令。 昔から、変わらないわね。 そしてこれからも変わらないのね。 ううん、貴方のせいじゃない。 私が、変われないの。 君を変えるだけの力が、僕にあれば良いのに。 僕の力が足りないばかりに、僕は君を苦しめているのか? モルダーは下を向いて一瞬迷った後、スカリーのほうを向いた。 「スカリー、僕は君を待っているよ。いつまでも。」 「モルダー………」 スカリーは瞳を伏せた。 それは、聞きたくて聞きたくなかった、最愛の人の最愛の言葉。 モルダー、どうして2年前に言ってくれなかったの? 私の中ではあの日のどしゃ降りの雨、まだ降っているのよ。 でも私には私の、貴方には貴方の、明日が待っているわよね? これは変えられない、事実。 そうじゃないと、………悲しすぎるわ。 スカリーは瞳を開いた。自分の言葉に耳を塞いで。 今までも、そしてこれからも。 ……それが、私への、罰。 スカリーにも、そしてモルダーにもわかっていた。 これからも自分達の進む道が交わることは、決して無いことを。 「それじゃ、行くわ」 スカリーは微笑んで言った。 さりげない挨拶。 でも、これが一番私達らしい別れ方。 少し言葉に詰まった後、モルダーも優しく微笑んで言った。 「ああ、また、いつか。」 そのいつかがいつ来るかなんてわからないし、約束も出来ないけど。 でも時々思うんだ、スカリー。 もし、2年前にあのどしゃ降りの雨の中、走って行く君の手を離さなかったなら 僕らの未来は変わっていただろうか? そして、二人はお互いに背を向けて歩き出した。 自分達の明日を目指して、二度と振り返ることなく。                                      Fin Afterword〜いわゆる後書き5.75(笑)〜 私は死にオチ、別れオチが好きではありません。 (注:この発言は別れオチ・死にオチの作品を冒涜するつもりのものではないデス!) 感動はすっごくするんだけど、なんだかこう、ものすごく辛い気持ちになってしまうんで すよね。下手したら、その作品を二度と鑑賞できなくなってしまうくらい……。いくら現 実離れしてよーが、やはり物語にはきっちりとハッピーに終わって欲しいと思っています。 でわ、なぜこんな結末を付け足したかと言うと……単に思いついたから(笑)なんですね。 眠りながらFicのあらすじをぼーっと考えてる時に、「どうしてこんなにハッピーエン ドなんだっ」とか思ってしまいまして。しかし、悲しい終わり方はしたくなかったので、 番外ならまあいいかみたいな。ほら、砂糖の味を引き立たせるために塩を入れるみたいに、 ハッピーさをより強調するためには、アンハッピーなのも必要……なわけないってな。け れどあくまで基本ルートは婚約してラブラブな方デス、はい。 あ、しかしこの番外ルートでも、ダイアナは彼に振られています(笑)モルは一人X―フ ァイル課で頑張ってるんですね。二度と戻ってこないことがわかってる、スカを待ちなが ら。 よろしければご感想などを danafox@geocities.co.jp(ポスペOK) mulderscully@mail.goo.ne.jp http://www.geocities.co.jp/Hollywood/7095 まで寄せていただけると、嬉しいです。 最後まで付き合ってくれた貴女にThanks a million!! / Ayaでした。