この物語はフィクションであり、「XF」の著作権等を侵害する つもりではないことをここにおことわりしておきます。 また、「XF」に関するすべての権利は、クリス・カーター氏 及び20世紀FOX社に帰属します。 事件モノ→モルのスーツ姿→かっこいい♪(←怪) とおのれの稚拙さをすっかり忘れて書き始めたこのFIC。 ところが。 あ、あれ?モルかっこわるい?(スーツも着てない?) しかも何にもしてない? と思い始めた時には既に遅く。 設定も展開もモルもボロボロなまま、 無理矢理エンドマークまで持ってった感があるのは、明白 でございます。(汗) ま、一応読んでやるか。と思った方だけ先にお進みください。 お読み頂いた後、御不満な点も多くあるかと存じますが、罵声、 中傷等のメールは御容赦下さいますようお願い申し上げます。 +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 時計の針が午前3時を告げる。 「ごめんなさい。眠ってたわ。」 「起こした?」 ベッドに腰かけて靴をはいていた僕は、 立ち上がって彼女の方を振り向いた。 「雨の音。」 「え?ああ。さっき降りだした。」 「大丈夫?」 「このまま泊まっていく?って聞いてくれる?」 彼女はそれに答えず、肩をすくめて、そして微笑んだ。 その仕草に吸い寄せられるように、僕はベッドに膝をついて。 そして彼女にくちづけをする。 僕のための甘い吐息。 「帰らないでって顔に書いてあるぞ。」 「うそ。帰りたくないって顔に書いてある。」 「愛してる・・。」 彼女の名前を呼ぼうとした次の瞬間。 まるでそれが合図だったかのように、 僕は現実の世界に引き戻された。 降りしきる雨。 アスファルトの上に、僕は横たわっている。 救急車のサイレンが遠くで聞こえる。 僕は今いた世界に戻りたくて、もう一度目を閉じる。 スカリー。 彼女の名前を呼ぼうとしたが、もう声にはならなかった。 雨は容赦なく僕に降りかかる。 総てを洗い流そうとしているかのように。 僕の胸を濡らす、この自分の血液さえも。 /-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/          「Missing Link」 /-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/ 昨日の雨が嘘のように空は澄み渡り、1月だというのに、晩秋を思わせる ような暖かい朝だった。ドクターは今しがた買って来たばかりのドーナツを、 すっかり煮詰まったコーヒーで流し込みながら、この夜勤明けにしなければ ならないことを思い出していた。 まず、キャシーに約束していたおばけねずみみたいなぬいぐるみを買いにい くこと。こいつは、話しかけるとそれにあわせて返事をしてくれるシロモノ らしい。殆どの友達はクリスマスプレゼントでもらったというのに、誕生日 まで待つなんてと、さんざん文句を言われたのだ。 単に、買いに行った時には既に品切れだったという理由だけだったのだが。 今日こそは買って帰らなければ、ますます相手にしてもらえなくなりそうだ。 それから銀行に寄って、住宅ローンの借換え申請用紙をもらいに行くこと。 アリスンに頼まれてからもう2週間になる。今日こそ持って帰らなければ、 「いいのよ、記入もあなたがしてくれるなら。」 と冷たく言い放たれるに決まっている。 その前に、実習生のレポートにコメントをつけて…、婦長から上がってきた 看護婦の勤務評定をチェックして…。 のんびりしてる場合じゃない。 とコーヒーを一息に飲み干して立ち上がろうとした時、勢い良くドアが開いて、 看護婦のシンシアが飛び込んできた。 「テイラー先生。昨日の銃創患者が!」 「どうした?」 「行方不明です。」 「あのFBIの?」 「はい。さっきの検温の時にはいたってサンディーが…。」 「警備に連絡して。あの傷じゃまだ痛みが強いはずだ、まだ院内だろう。」 朝の穏やかなひとときは一瞬にして破られた。 「まったく人騒がせな…。」 テイラーはそうつぶやくと、控え室の扉を開けてナースステーションへ 続く階段を上がろうとした。 その時。 脇の物置きの扉が突然開き、後ろから誰かに掴まれ中へ引きずりこまれる。 足を払われ、思わず膝をつく。 後から腕で喉を押さえ込まれ、悲鳴どころかうめき声一つ出なかった。 「静かに。」 暗闇で聞き慣れない声がする。 「だ、誰だ?」 恐る恐る聞き返す。 「ドクター…。手荒なことをしてすまない…。頼みがあるんだ。」 「その声は、まさか昨日の…。」 救急車で担ぎこまれ、左上肩部の銃弾を摘出した捜査官だ。 名前は確か…。 「モルダーだ。ドクターテイラー。」 かすれた声で彼が言った。 「いったいどういうつもりだ。」 「しっ。小声で。」 「君はけが人なんだぞ。」 「わかってる。だから頼んでるんだ。」 彼が続ける。 「今から、ウエストエンドへ行く。  運転してくれないか?さすがに僕はハンドルを握れない。」 「今からだって?」 「とにかく時間がないんだ。  だから、まず僕の所持品と何か着るもの。  それからモルヒネを。」 「正気か?君は。」 テイラーは語気を強めた。 「自分が一体どういう状態かわかっているのか?」 「静かに。」 もう一度彼が言う。 「わかってるさ。説明しようか?こうやってる間も痛みで体が震えて、  その震動を押さえる自分の力で、更に痛みが増幅して気絶しそうだ。」 「だから…。」 テイラーが続けようとした言葉を彼が遮った。 「だから、ドクター。頼む。ほんの数時間で済む。  今、頼れるのは君しかいないんだ。」 彼のかすれた声の中に、ただならぬ気迫を感じて、 テイラーは溜息を一つつくとこう言った。 「本当に数時間?」 「ああ。本当だ。」 「わかったよ。」 「感謝するよ。ドクター。」 彼は安堵の吐息をもらし、腕をゆるめた。 自由になったテイラーが彼の方を振りかえった。 暗さに目が慣れて、彼の表情が目に入る。 彼の瞳は憔悴して輝きを失っていたが、 有無を言わさない真摯な落ち着きがあった。 「1つ条件がある。止血剤を使わないと。傷が開きはじめた。」 「それは後だ。痛みさえ治まれば、移動中に自分でできる。」 彼は左肩を染め始めた赤い色を見ながら言った。 「モルダー…。僕は医者なんだよ。」 テイラーがそう言うと、彼の堅い表情がふと緩んだ。 そしてわずかに笑みを浮かべる。何かを思い浮かべたかのように。 「モルダー?」 怪訝そうにテイラーが訊ねる。 彼が壁にもたれてこう言った。 「いや。よく聞くセリフなんだ。それ。」 そう言いながら彼はテイラーに傷を見せるため、入院着をはぎとった。 ******************************************************** 警備員やら看護婦やらに 「あれ?テイラー先生。どうかなさいました?」 という質問にしどろもどろになりながらもようやく彼は、けが人を自分の車に 乗せることに成功した。国産の紺のセダンにエンジンをかける。 助手席には自分のジョギングウェアにスニーカー姿の捜査官。 なにやってんだ。自分は。 テイラーは心の中でそう溜息をつきながら、アクセルを踏む。 空は相変わらず美しく、少し強くなった風の音がこだましている。 目的地はウエストエンド。 彼はウインカーを左に出して、高速の入口へと向かう。 「行き止まり(デッドエンド)じゃないだけマシか。」 彼はそうつぶやいた。 「ここで停めて。」 心ここにあらず、といった様子でずっと黙っていた彼がそういった。 それは傷のせいではなく。 しかしテイラーはあえて訊ねなかった。 どうせ後でわかることだ。 通りの向こうには円筒型の温室を抱えた、低層の建物があった。 その温室の効果が十分に発揮できるほど、日は高くなっている。 『M・ハーシェフスキー研究所。』 よく手入れされた芝の敷地で鎮座している大理石の塊に、 そう書いてあるのが車の中からもよく見えた。 ああ。ここが。 テイラーは頷いた。 マーヴィン・ハーシェフスキー。 彼の研究所か。 「急がないと。」 彼がそう言って車を降り、身をかがめてテイラーに話かけた。 「エンジンをかけたままそこの角にいてくれないか。必ず戻る。」 「その体で何をするつもりだ?」 「大丈夫。人を迎えに行くだけだ。」 彼はそういって、彼は足早に歩き出した。 人を迎えに? 冗談だろ。 エントランスに吸い込まれる彼の後ろ姿を見ながら、テイラーは肩をすくめた。 その時。 コンコン。 誰かがドアをノックする。 ドアを開けるべきかどうか躊躇する間もなく、テイラーは次の瞬間車から引き ずり出された。後頭部に激痛が走る。 覚えているのはそこまでだった。 ******************************************************** エントランスは無人だった。カウンターにモニターが1台置かれている。 画面上の整列したアルファベットにさわると、その頭文字を持った名前の ボタンが一覧表示された。モルダーは『マクブライト』というボタンに触れる。 『しばらくお待ち下さい。』 という表示の後、カウンターのインターホンから声がした。 「はいドクターマクブライトです。」 聞き慣れた凛とした声。 スカリー。 彼はその言葉を飲み込んで、インターホンにこう話しかけた。 「メリーランド大学のジェンキンスです。  お約束に遅れて申し訳ありません。」 すこしの沈黙。 「エレベータで3Fへ。ホールでお出迎えしますわ。」 彼女がそう答えた。 もう少し。 彼はエレベータへと足を急ぐ。 「3Fです。」という自動アナウンスが流れ、軽やかなベルの音と共に、 エレベータの扉が開く。 しかし。 ホールで待っていたのは彼女ではなかった。 「ようこそ。ミスタージェンキンス。  ジョギングの途中にお寄り頂いたのですかな?」 「所長自らお出迎えとは恐れ入ります。ハーシェフスキー博士。  ドクターマクブライトとお約束してるのですが。」 モルダーは目の前の大柄な初老の男の質問に答えずにそう言った。 彼の後ろには似合わない警備員の格好をした男が控えている。 こいつか。 自分を殺し損ねたのは。 モルダーは唇を噛んだ。 「ケイト・マクブライトは今ラボにおります。ご案内致しましょう。」 そう言うと彼はモルダーの肘をとった。 「ああ、それから。ラボは火気厳禁なんです。  スティーブン、ミスターの銃をお預かりして。」 モルダーは何も言わず、上着の下の銃を男に渡す。 どうせ、あったところでこの状況じゃ役に立ちそうもない。 「顔色が芳しくありませんな。ミスター。どこかお怪我でも?」 もっともらしく顔を覗きこみながら、ハーシェフスキーが言った。 「大した怪我ではありません。叔母に魔女がいましてね。  トリカブトとカエルを煎じたのが効くらしい。」 「楽しい方だ。ケイトが会いたがっていただけのことはある。」 彼は楽しそうに笑った。 スカリー。 急がなくては。 渡り廊下を渡ってガラスの扉を開けると、そこはドーム天井を持った 温室の上層部分だった。足下には急勾配の階段が、円弧を描くガラスの壁に 沿って、らせん状に地上まで続いている。 本館から見上げたかたちで斜面に建つ温室は、ちょうどこの位置が2階程度 の高さにあたるようだ。 下に目をやると、彼女がいるのが見えた。 緑の中に所狭しと機材が並べられ、その中央に白衣姿で座っている。 無事だったのには安堵したが、悲観的な状況であるには変わりなかった。 「ケイト。君にお客様だ。」 ハーシェフスキーが上から声をかける。 彼等を見上げると、彼女が笑みを作って立ち上がった。 「博士。私が参りましたのに。」 「いや。君は解析で忙しいだろう。お客様をお待たせできないと思ってね。」 彼はモルダーの肘をとったまま、その場から動かずにそう言った。 「こちらに紹介状を書いて下さった、ブライトマン教授の記念講演の  御案内にいらしたんです。私にもスピーチをお願いしたいと。」 「それはいい。ケイト。君のような優秀なスタッフを持てて私は幸せだ。」 ハーシェフスキーが、大袈裟なジェスチャーでそう言った。 「ただひとつ残念なことがある。その講演には君は出席できない。」 「博士?」 「今日、わが研究所には不幸な事故に遭遇する。  わが合衆国の、生物学の進歩を理解しない頭の悪い連中の策略によって、  貴重なわが研究所のデータはひとつ残らず灰になる。  不運にも居合わせた将来有望な女性研究員1名と、捜査中のFBI  捜査官1名が犠牲になるそうだ。」 「おっしゃる意味がわかりませんわ。」 「いや、それともFBIの捜査官2名。としておいた方がいいかね?  ああ、それから。  忘れていたよ。もう1人。通りがかりの民間人男性が1名だ。」 後ろの入り口が開き、砂袋のようにテイラーが放り込まれた。 意識はあるようだ。 くそっ。 モルダーは自分をののしった。 「博士。」 ハーシェフスキーの方を向き、彼のグレーの瞳を見ながら彼は続けた。 「その代償もあわせてペンタゴンはいくら払うと?」 「口を慎んだ方がいい。モルダー捜査官。私は災難に見舞われるだけだ。」 次の瞬間、モルダーはテイラーと一緒に後ろから蹴落とされた。 彼がとっさに手すりにつかまろうとのばした手は左手で、 体重がかかったその肩の激痛に彼は悲鳴を上げ、支え切れなかった彼の体は、 下まで転がり落ちた。 「モルダー!」 スカリーが駆け寄る。 彼女に後ろから支えられ、彼はようやく上半身を起こす。 今は気を失えない。 一緒に転がり落ちたテイラーがうめき声を上げた。 よかった。死んでない。 「致死遺伝子を持った細胞を後天的に体内に送り込まれた人間は?博士。」 彼を見上げながら、モルダーは叫んだ。 「致死遺伝子は個体の形成の課程において、必要不可欠な因子だ。」 「だからあなたは後天的に作用する細胞を開発した。  発現の引き金を事前にプログラムしておけばいい。  そうすれば。  ある日突然その人間は、プログラム細胞死によって起きた体の異状を訴える。  そして、医者に告げられる。  『あなたは深刻な免疫不全に陥っています。』  そして彼も家族も、悲しみに暮れ、日常の生活習慣と地上の環境汚染を  呪うんだ。  だれも疑わない。  彼の死を望む人間がそうしたことを。」 モルダーは自分の声が傷に響いて、気が遠くなるのをこらえながら続ける。 「そして、次はペルシャ湾?いや、パナマ湾でもいいさ。  沿岸で正体不明の感染症が大流行し、犠牲者が急増する。  で、人々は言う。それは神の思し召しだと。  どうだ?神になる気分は?博士。」 「君たちに教えておいてやろう。」 ハーシェフスキーが続けた。 「私が望んだのではない。神が私を代理に選んだのだ。」 彼は自信に満ちて、そう答えた。笑みさえ浮かべながら。 「神ではなく、悪魔だろ。」 モルダーがそう言い捨てる。 「キラー蛋白質によって、断片化したDNAデータを採取したわ。  これが人為的に操作されたのものかどうか、FBIが立証してみせる。」 スカリーが声をあげた。 「まだ、生きてここを出ようと思ってるのか。ケイト。いやスカリー君。  あいにくだが、時間が来たようだ。  失礼するよ。私は学会準備中の会議室でこの訃報を聞かねばならない。」 彼は無表情のまま、男を従え温室の扉を開けて出て行こうとした。 「待て。彼は無関係だ!」 モルダーが叫ぶ。 返事のかわりに、ガシャンという施錠音が響く。 彼らが渡り廊下を進み、本館との接合部にシャッターが下りるのを、 モルダーはガラス越しに眺めていた。 出入口がそこしかないこの温室は、これで全くの密室だ。 残されたのは3人。 「モルダー。どこに怪我を?」 彼を支えていたスカリーが声をかける。 「大丈夫だ。2時まであと何分?」 歯を食いしばって立ち上がりながら、彼が聞いた。 「あと、7分。」 「あと、7分でここが爆発する。時限装置を捜すんだ。」 「時限装置なら。」 頭を押さえながら、ようやく起きあがったテイラーが声をかけた。 「ここにある。」 そう言って階段の脇にあるフェデラルエクスプレスのダンボールを指さした。 中には、いかにも手製といったプラスチック爆弾が収まっている。 あくまで第三者の犯行というわけか。 モルダーが溜息をついた。 「電話は通じないわ。 」 デスクへ動いた彼女が言う。 手近にあった椅子を残ってるありったけの力で壁に投げつけたが、 ガラスにはヒビさえ入らない。 万事休すってやつだな。 その間もデジタルのセグメントが規則正しい間隔で点滅して、 残り時間を表示している。 あと5分30秒。 昨日撃たれて死ぬのと、今日ここでふっ飛ばされるのと どっちがよかっただろう。 昨日死んでれば、テイラーは巻き添えになってない。 「くそっ。」 モルダーが吐き捨てるように言った。 あと5分。 「時限装置を止める方法は?」 テイラーが隣でつぶやいた。 「何色のワイヤーを切るか誰が決める?今ならよりどりみどりだぞ。」 モルダーはそう答える。 あと4分30秒。 スカリー。 何か言い残すことは? 僕はあるよ。 彼はそう思ったが口には出さなかった。 あと4分。 「ねえ。」 スカリーが声をあげた。 「おかしいわ。これを見て。」 彼女の目はディスプレイの画面表示を見つめている。 「ここで遺伝子操作後の植物の光合成量をモニターしてるの。  見て、測定不可値まで上がってるのよ。」 「恐怖でイったんだよ。測定器が。」 「違うわ。ほらここを見て。」 その瞬間、モニターの画面が大きくひずんだかと思うと、真っ黒になった。 あと3分。 「モルダー!これを!タイマーが。」 テイラーが叫んだ。 みるとそこには。 相変わらず続くセグメントの点滅。 だが、確実にカウントダウンされていた数値が「ERROR」という文字に変わっていた。 「恐怖でイったのは…。君たちか?」 彼は温室内に閉じ込められている多種多様な植物を見上げて、そう声をかけた。 パトカーのサイレンが近づいてくる。 州警察もようやく重い腰をあげたな。 撃たれて病院に担ぎ込まれるのも、全くのムダ骨じゃなかったって訳だ。 モルダーは苦笑いしながら、ガラスの壁にもたれて座り込んだ。溜息をひとつつく。 スカリー。 フォーカスアウトしていく視界の中に、こちらを見つめる彼女がぼんやりと写っていた。 ******************************************************** 「光合成による電位発生が増大し、帯電した植物同士が反応して電界を生み、  それが温室内に磁場をもたらした。ですと?」 「はい。それ以外の説明がつかなくて…。」 「先生の言ってることは私にはよくわからんですな。  FBIに同じことを話して下さい。」 州警察の担当者にそうあしらわれたテイラーは、アイスパックを頭に当てながら、 ストレッチャーに乗せられたモルダーを見つけて近づいた。 パトカーやレスキュー隊、消防車などで付近はごったがえしている。 彼を搬送しようとする救急隊員に声をかける。 「モートン総合病院のテイラーだ。  うちに彼のカルテがあるから連絡をとって送ってもらうよう  ドクターに伝えてくれ。」 そして、状態を説明しながらモルダーに目を向ける。目を閉じている彼を見て、 意識がないのかと心配になって声をかけた。 「モルダー?」 「ああ。まだ生きてるよ。」 彼がうっすらと目を開ける。 「逃走癖があるから、ベッドに縛り付けるように言っといた。」 「ひどいな。」 彼がかすかに微笑んだ。 「テイラー…。ありがとう。」 そういってゆっくりと右手を差し出す。 「いや、いいんだ。貸しにしておくよ。駐車違反のチケットがたまってる。」 テイラーがその手を握りかえした。 「ついでにもう一つ頼まれてくれないか?」 モルダーが言う。 「もうドライブはごめんだぞ。」 「耳を貸して。」 ******************************************************** 日差しが傾いて、舗道を染める光がオレンジ色にかわり始めている。 救急車を見送ったテイラーは、自分の隣にようやく博士の連行を見届けた スカリーが立っているのに気が付いた。 白衣を脱いでダークグレーのパンツスーツ姿になった彼女は、研究者ではなく、 捜査官の顔に戻っていた。 「ハイ。自己紹介が遅れて。ダナ・スカリーです。ドクターテイラー。」 「よろしく。スカリー捜査官。君も医者なのかい。」 「彼が言ってた?」 「ああ。まあね。」 「本当にありがとう。あなたが彼を連れてきて下さらなかったら…。」 スカリーが言葉を飲み込んだ。 「必要に迫られてね。君は病院へは?」 苦笑いしながら彼は言う。 「ええ。ここを片付けたら。様子はどうだった?」 「ああ。彼なら大丈夫さ。」 「そう。よかった…。」 彼女が安堵の笑みをもらした。 「そうそう。君に伝言を頼まれたんだ。」 「私に?」 スカリーが首をかしげる。 「今度雨が降ったらそうする。って。」 「え?」 「うわぁっ。」 突然作動したスプリンクラーに驚いた警官の声で、後ろを振り返った テイラーは、一瞬戸惑った顔をした彼女が、頬を染めるのを見逃した。 「一つ聞いても?スカリー。」 「え?はい。なにかしら?」 つとめて平静を装ったスカリーが微笑みかける。 「この辺りにおもちゃ屋ないかな?」 END +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 謝辞========= 一度くらいは書いてみたいと思った憧れの事件FIC。 でも、発端から書くには私にとっては難しすぎて、 じゃあ。ってことで、はしょって後半部にあたる部分だけ。 と不精をしました。 人間、最初に楽をすると後で苦労するという教訓を あらためて思い知りつつ。(笑) おまけに、状況設定に詳しい方がお読みになるやもしれない というのに、堂々とこんな設定にしてしまっている (もうこれ以上どうしようもできない現実を抱え。。) 自分の厚顔さにも呆れつつ。(汗) こらえて最後までお読み下さった皆様に、深く感謝申し上げます。 もしも、ご意見(ご指導も含めて)、ご感想などを頂戴できるの であれば、下記アドレスまで頂けると幸せです。 亜里 sendtoice@moon.to.fm