DISCLAIMER// The characters and situations of the television program "The X-Files" are the creations and property of Chris Carter, Fox Broadcasting, and Ten-Thirteen Productions. Also the movie "Mission:Impossible" starring Tom Cruise does not belong to me, either. No copyright infringement is intended. ------------------------------------------------------------------------------------------ −前書き− 約一年前、怖いもの知らずなAmandaが世に放った迷作(^^;)「スパイ大作戦Ficシリーズ」である 『It's My Order』および『The Real Conqueror』の続編です。XFキャラ達が「壊れて」います。 そして、かなりお下品かも....そんな「ぶっ壊れな彼ら」に嫌悪感をお持ちの方は、お読みに ならない事をお勧めいたします。 また、これは筆者の個人的な想像の産物である事をおことわりしますと同時に、お読み下さる皆様 には、上記の設定に対しての寛大なご理解をお願い申し上げます。 ------------------------------------------------------------------------------------------ 〜 映画「M:I-2」公開記念 and「スパイ大作戦Fic」誕生一周年記念 〜 Title: みっしょん・いんぽっしぶる? (2/2) Category: Comedy Spoiler: None Inspiring: Mission:Impossible (Starring Tom Cruise) Date: 07/26/00 By Amanda ------------------------------------------------------------------------------------------ <前回のあらすじ> スキナーのお遊び....もとい、スキナーが考案中のプロジェクトに参画する事になったモルダーと スカリー。しかし実のところ、そのプロジェクトは「イタズラを決行しろ」という、なんとも馬鹿 げたもの。それなのに忠実に任務を遂行しようとする彼らって一体....?? とにもかくにも、テレビドラマ「スパイ大作戦」の大ファンだったというスカリーのアイデアから ヒントを得て、TLGまでをも巻き込んだ「CSMイタズラ大作戦」を決行する事になった。 「いいアイデアでも?」 「どうせスキナーも『スパイ大作戦』指向なんだから、それを見習わなくっちゃ」 彼女はニヤリと笑った。 ------------------------------------------------------------------------------------------ カラン.... 琥珀色のバーボンが入ったグラスを右手に、CSMはカウンターの席でぼんやりと座っていた。 一人でゆっくりと酒を飲む事がめったにない彼にとって、地味なバーでアルコールと煙草を たしなむ自由な時間は、彼の密かな楽しみとなっていた。 デュポンサークルの近くにあるこのバーは、彼のお気に入りだ。店の外に掲げてある看板は遠慮 がちで目立たず、店の入り口は地下にある。内装も質素で、決してガイドブックに載るような 派手な作りではないが、ここでサーブされる酒と、耳に心地良いジャズやブルースは、なかなか のもの。酒と音楽に対して相当な目利きだけが集う、本物のバーだ。 CSMは、右手におさめられたグラスを眺めながら、ピアノとサックスの伴奏でしっとりと歌い 上げられた「Come Rain or Come Shine」をうっとりと聴いていた。 一人のバーテンが、カウンターにもう一杯のバーボンをそっと置いた。 「あちらのお客様からです」 三つ向こうの席に、女が座っていた。彼女はこちらに目をやり、かすかに微笑んだような表情を 浮かべて、飲んでいたカクテルを上げ、「乾杯」のジェスチャーをした。彼もまた、今夜二杯目 のバーボンを手に「乾杯」を返した。 一口くっと喉に流し込むと、女が席を立ち、近づいてきた。 「隣、空いてる?」 「ああ」 互いに視線を合わせないまま、女は隣の席に座った。 「どうしたの?」 「何がだ?」 「あなた、淋しそうよ」 「そう見えるか?」 「ええ」 彼女の低い声が、耳に優しく転がり込んでくる。 「ねえ、一本、いいかしら?」 そう尋ねられて、二人は初めて互いの顔を見た。落ち着いたソバージュヘアの、肩までの髪。 少し栗色がかったブルネットは染めているのだろうか? そして、それと同じ色の瞳。はっきり とした目鼻立ちに、細めの顎。ダークレッドのルージュがよく似合っている。 「どうぞ」 「ありがとう」 女は、差し出された煙草を箱ごと受け取り、中から一本を抜き取った。残りは、前もって用意して いた同じ銘柄の別の箱と擦り代えた。 「これ、好きな銘柄よ」 「君には重いんじゃないのか?」 「いいのよ、重くないと吸った気がしないわ」 女は、おいしそうに煙草を吸う。吐き出した煙が、ゆらゆらと宙に舞って消えた。 「はい、あなたも」 ニッコリと煙草を勧められたCSMは、そのうちの一本を抜き取り、慣れた手つきで火をつけた。 (やった....) 女は心の中でほくそ笑んだ。まんまと引っかかったと、あわれ煙草を箱ごと擦り代えられた事を 露ほども知らない彼をじっと見つめ続けた。 「なんだ?」 「何も....見てるだけよ」 「それはなぜかな?」 「あなたを見てるとドキドキするの」 これから起こる事を想像すれば、ドキドキするのも当たり前。 「今度また、おごってもいい?」 「会えたらな」 「ふふ....嬉しい」 彼女の屈託のない笑顔が、CSMの心にわずかばかりの潤いを与えた。 「それじゃ、またね」 「君、名前は?」 「....デニースよ」 そう言うと、女は席を立って歩いていった。 太腿まで大きくスリットの入った黒のワンピースを身にまとう彼女の後ろ姿を、CSMは ぼんやりと見続けた。 いい女だ だが....背がやたら高いな しかも....ガニマタ気味だ.... バーのバスルームに入ると、女はすかさず個室をめがけて飛び込んだ。黒いワンピースを脱ぎ捨て、 あらかじめ用意していた自前の服に着替える。顔の輪郭をつまんで「デニース」のフェイスマスクを 外し、ビリビリに破ってごみ箱に放り込んだ。 「こちらモルダー。作戦通り、奴に煙草を吸わせたぞ」 ------------------------------------------------------------------------------------------ バイヤースのもとに、時計にはめ込んだ小さなトランシーバーを通じて、第一段階終了を伝える モルダーの声が聞こえてきた。 「了解、モルダー。そのまま奴を尾行してくれ。女装はどうだった?」 「スカートはカゼをひきそうだ。下から風がスースー入ってくるからな」 「女の苦労がわかったろ、モルダー。それじゃ頼むぞ」 バイヤースは、外にいるラングレーとの交信チャンネルに切り替えた。 「おいラングレー、そっちはどうだ?」 「良好。配水管の調節も完了した」 「よし、じゃあ戻ってきてフロヒキーを手伝ってくれ」 「了解」 交信を終えると、バイヤースは後ろを振り向いて言った。 「さあスカリー、次は君の番だ」 「ええ」 「フロヒキー、絶対に手を放すなよ」 「わかってるよ。俺が彼女を落とすと思うか?」 そう答えたフロヒキーの両手には、太さ2センチ程のワイヤーが握られている。その長さは数メートル に及び、片方の端は床に取りつけられたペグで固定され、もう片方はスカリーのウェストに巻かれた ベルトにつながっていた。 「そうだろ? こんなにセクシーな彼女を、俺が落とすわけないだろうが」 ウェストでワイヤーにつながれた「セクシーな彼女」は、赤みがかったブロンドの髪を一つに まとめ、黒ずくめのボディースーツに身を包んでいた。 「ねえフロヒキー、この格好、ドロンチョ様みたいじゃない?」 「昔、日本でやってた『ヤッターマン』に出てくるあれか? 大丈夫だよベイビー、俺には キャットウーマンにしか見えないぜ」 彼らはCSM宅の書斎の天井裏にいる。重量感知装置が作動しているために床を踏めない彼らは、 それならばと、天井から侵入する事に決めたのだ。 「スカリー、今の気分は?」 「ええ、最高」 バイヤースに向かって親指を立て、スカリーは凛々しい表情を見せた。 「君にはこのヘッドセットを着けてもらう。これで僕と交信をするんだ。もし何か異変があれば 遠慮なく伝えてくれ、いいね」 「了解。フロヒキー、頼んだわよ」 「任せとけ。うまくいったら、君をディナーに誘う事にするよ」 その言葉にクールな笑顔を返したスカリーは、ヘッドセットを装着して天井の通気口に近づき、 プールに入るような格好で、足から書斎へと下りていった。彼女の体の重みでワイヤーがピンと 張り、それをフロヒキーが引っ張って支えた。 人気のない書斎はとてもひんやりとしていたが、それとは対照的に、スカリーの体は熱く火照っていた。 アドレナリンが全身を勢い良く駆け抜けているのがわかる。彼女は、まさにこの「スパイ大作戦」な 状況を存分に楽しんでいた。 部屋の隅から、1本の赤いレーザー光線が発射されていた。それは壁で反射し、異なる角度の光線を 新たに生み出す。何本もの光の帯が交差し合い、実に奇妙な光の美を形作っていた。 「すごい....」 スカリーは、鮮やかな、それでいて異様な、何とも言えない赤の色を帯びた光から、なぜか目が 離せなかった。 「スカリー、どうした?」 ヘッドセットからバイヤースの声が聞こえる。 「バイヤース....光の芸術だわ....」 「僕が知る中では、多分君が初めてだよ。レーザーを『光の芸術』と表現したのは」 「....そうかもね」 彼女はふと微笑み、掌よりも若干小さめのサイズの鏡を胸ポケットから取り出した。 「それじゃあ、今から遮断するわ」 「了解、画面でチェックする」 バイヤースは、パソコン画面に映し出された書斎の状況を一瞬たりとも見逃すまいと、目を凝らす。 画面を通して彼に見つめられながら、彼女は慎重に、鏡をレーザーのに対してゆっくりと垂直に 差し入れた。 その瞬間、部屋を自由自在に駆け回っていた赤の帯が、跡形もなくスッと姿を消した。鏡の角度を 変えないように注意しながら、スカリーは鏡からアームを引っ張り出し、天井に固定させる。 「遮断完了」 「OK、モニターでも確認できた」 何時の間にか呼吸を止めていたスカリーはフッと息を吐き出し、肩に入った力を抜いた。 「大丈夫か?」 「ええ、次に移るわ」 「よし、フロヒキー、ラングレー、ワイヤーを下ろしてくれ」 「了解」 外から戻ってきたラングレーがフロヒキーを加勢し、二人でワイヤーをゆっくりと緩めていく。それ と同時に、スカリーの体がうつ伏せの状態で下へ移動し、部屋の中央にあるデスクへと近づいていった。 「OK、届いた」 「じゃあ温度計を置いて」 腰のベルトに挟んでいたデジタル式の温度計をデスクの上に設置する。数字は22.1℃を表示した。 「22.1℃」 「よし。あとはこっちで調節するよ。パソコンを立ち上げて」 「わかった」 デスクトップパソコンのスイッチを押すと、黒い画面に波が走り、ブーンという音を立てた。 CSMのパソコンは大きい。老眼で目が見えにくくなっているのが原因で、24インチという 大画面が必要なのかどうかは定かではないが、パソコンの画面にしては、まれな大きさだ。 しかし、細工を施す者にとっては、その大きさがネックとなっていた。機材が大きい分、消費 電力が上がる。室温の上昇に大きく貢献してしまうのだ。 初期画面がスクリーンに姿を現す頃、温度計は22.4℃を表示していた。 「22.4℃まで上がったわ」 「モニターしてるよ。下げてるから心配ない」 バイヤースは手元のパソコンを使って、あらかじめ配線を細工しておいた書斎の室温を下げ 始めた。 22.3℃....22.2℃.... デスクに設置した温度計の数字が徐々に下がっていく。 「順調。PCに取りかかるわ」 黒い革の手袋をしたスカリーの右手がマウスに置かれた。彼女は画面を見ながら慣れた手つきで マウスを動かし、キーボードで文字を打ち込んでいく。バイヤースは、室温をちらちらとチェック しながらスカリーを見守った。 ピーッ 「プログラミング完了」 「よし、じゃあ君を引き上げるよ。フロヒキー、ラングレー、上げてくれ」 「了解」 持っている筋力を全て両腕に集中させたかのように、二人は力を入れて一気にワイヤーを引く。 額にはじんわりと汗が浮かびあがっていた。 「もう少しだ」 「よし、上がったぞ」 スカリーは、いったん天井裏に引き戻された。重力との戦いから解放されたフロヒキーとラングレーは、 必死で息を整えている。 「おい、少し休むか?」 「いや、大丈夫だ」 「無理するなよ」 「平気だって、本当に」 「よし、じゃあスカリー、あともう一仕事。いいね?」 「OK」 ガーッ、ザ、ザーッ.... その時、バイヤースのパソコンの隣りに設置していたスピーカーが乱暴にがなり立てた。 その音に混じって、モルダーの声が聞こえてくる。 「こちらモルダー。ヤツの様子が変だ」 「バイヤースだ。どうした?」 「ものすごい冷や汗をかいている」 「冷や汗? ああ、気にするな。あれは結構効くからな」 焦ったようなモルダーの声音を大して気にするふうでもなく、バイヤースは答えた。しかしモルダー の困惑した様子は続く。 「効くって言っても、今にも床に倒れてのた打ち回りそうな雰囲気だぞ」 「のた打ち回るだって?」 バイヤースは、いぶかるような表情を浮かべて後ろを振り返った。 「ラングレー、煙草には予定通りのものを入れたのか?」 「ああ、5錠しっかり」 「5錠....な、なあラングレー? お前まさか、一本に5錠は混ぜてないよな?」 「え、駄目なのか?」 一同の間に、冷たい空気が走り抜けた。 「お前....本当に5錠混ぜたのか!? 一本に!?」 「ああ」 キョトンとして答えるラングレーを見て怒るに怒れなくなったバイヤースは、額に手を当て、大きく ため息をついた。 「わかったよ。悪かった、僕のミスだ。あれは『一箱に5錠』の意味だったんだよ」 「え、そうなのか?」 そのやり取りを聴いていたフロヒキーが、腹を抱えて笑い出した。 「バカねえ、ラングレー。あなた『コーラック』の効き目を知らないの?」 「え、だってスカリー、ただの便秘薬だろ?」 「そうなんだけどね....あれ、すごく強力なのよ」 「ありゃあな、成人は一回に2錠って決まってんだよ。それだけでもすんげえ勢いで『くる』んだぜ。 それをいっぺんに5錠も飲んでみろ、どうなると思う?」 想像したくない。 「や....やべぇ....」 ラングレーの顔がたちまち真っ青になったが、スカリーが真面目な顔でしれっと言った。 「まあでも、いいんじゃない。たまには彼にも腸の掃除をしてもらうって事で」 「腸の掃除....」 「そう。どうせろくな物を食べてなさそうだし、食物繊維も不足してるかもしれないもの」 「あ、ああ、そうかな」 こんな時にも決して動じない彼女の毅然とした態度に、なぜかラングレーは心の底から感動した。 「モルダー、予定よりも薬がちょっと効きすぎるようだから、そのまま見張っててくれ」 「了解」 笑いをこらえながら、バイヤースはモルダーとの交信を終えた。 「俺も見たかったな、ヤツのアホな姿」 「そのうちここに戻って来るって」 「よし、じゃあその前に任務を完了させてしまおう。いいね、スカリー?」 「わかったわ」 スカリーは、もう一度書斎に侵入するべく、ワイヤーに支えられながら下へと下りていく。 「バイヤース、例のモノをちょうだい」 「OK、大きいから気をつけて」 そう言って、スカリーに『例のモノ』を手渡した。 「ねえ、これ、可愛いわね。どこで見つけたの?」 「日本のホームページ。ベビー用品を専門に扱ってるサイトさ」 「これなら赤ん坊も喜んで用を足すだろうよ」 彼女の両手の中では、白鳥の「おまる」が、つぶらな瞳で愛敬を振りまいていた。 「大丈夫かい? 頭の部分にテグスをつけてあるだろう? それを使うんだ」 「了解」 スカリーがゆっくりと天井の中央に移動し、テグスの端を天井につけようとしたその時だった。 「....ちゅう」 見ると、ぷくっと太ったねずみちゃんが、フロヒキーの足元にぴっとりと張り付いていた。 「ぶわっ!!」 フロヒキーが驚いて声を上げた。その瞬間に彼の両手が緩み、手の中をものすごい勢いでワイヤーが 走った。 シュルルルルル.... ザーッ!! スカリーはバランスを崩し、あっという間に床を目掛けて真っ逆さまに落ちていった。 「あっ!!」 「スカリーーーーーッ!!」 フロヒキーとラングレーが必死にワイヤーを掴み取る。 ガシッ!! ワイヤーがピタリと動きを止めた時、スカリーの体は、床すれすれの所まで落下していた。決して 床に触るまいと「おまる」を持ったままの彼女は、腹筋と背筋を使って必死に重力と格闘している。 「早く上げろ!!」 「みんな落ち着け、大丈夫だ。絶対にうまく行くから」 バイヤースが必死になって声を張り上げる。フロヒキーとラングレーは思い切り歯を食いしばり、 ワイヤーに全ての神経を集中させていた。 「スカリー、大丈夫か!?」 「....」 「スカリー!?」 バイヤースの問いかけにも答えられないほど、今の彼女には余裕がなかった。 「くっ....」 驚くほど緊張している全身の筋肉が今にも痙攣を起こしそうで、スカリーの口から思わず声が漏れた。 体を床に突き落とそうとする重力が、まるで目の敵のようにして彼女に襲い掛かる。 「スカリー、今すぐに引っ張り上げるからな。頑張るんだ!!」 ヘッドセットから聞こえてくるバイヤースの声に願いを込め、スカリーは、体が床から離れていく のをじっと待った。わずかではあるが、数センチずつ引き上げられて行くのを感じる。冷や汗で ボディースーツが体に張り付き、ゾクリと寒気した。 絶対に失敗なんてしない.... こんなところで.... 冷や汗が玉のようになって、彼女の頬を伝った。ワイヤーは3分の1ほど引き上げられている。 取り乱してはならない、冷静でいよう、と、彼女は目を閉じた。 汗が頬から顎へと流れるのを感じる。 落ちる.... 真ん丸な汗の雫が、重力に従って雨粒の形へと姿を変える。 落ちる.... ポトン 汗が顎から離れた。 落ちる.... パシャッ 雫を「おまる」が受け止めた。 「....スカリー....スカリー!!」 鼓膜への刺激が、汗の音からバイヤースの声に変わり、驚いたスカリーはハッと目を開いた。 いつの間にか、ワイヤーは元の高さまで引き上げられている。 「スカリー、驚かせて悪かった。大丈夫だったかい?」 「ええ、なんとか」 「『おまる』は中止しようか?」 「いえ、大丈夫。あとは吊るすだけだもの」 フッと息を吐いて気持ちをリラックスさせ、スカリーは手際よくおまるを天井から吊り下げた。 「できたわ。ワイヤーを上げて」 「了解」 無事に任務を完了させたスカリーは、めでたく天井裏に戻って来る事ができた。 「スカリー、悪かった。ねずみが突然飛び出てきて....」 「ねずみ?」 「ああ、恥ずかしい事にな」 うなだれるフロヒキーを見て、スカリーはクスッと笑った。 「フロヒキー、罰として今後一週間の私の食事は、あなたに準備してもらう事にするわ」 ------------------------------------------------------------------------------------------ 「....ううっ」 その頃、CSMの忍耐力は、ほぼ限界に近づいていた。あわや床へと体を落とすところだった スカリーと同じく、彼もまた、冷や汗で体がすっかり冷たくなっていた。 腹がキリキリと痛み、「グルグルグル」という音を立てて腸が活発に動いているのがわかる。 は、腹が....ううううっ.... どうにも我慢がならなくなった彼は、スツールを乱暴に後ろへ引いて立ち上がり、バーのトイレへと 駆け込んだ。 しかし、運命は彼に更なる試練を与えた。 トイレのドアの前に立ちはだかる黄色い立て札。 『清掃中』 まるで志村けんが出演するコントの「お約束」のような展開に、CSMは自分の運命を呪った。 ああっ.... ぶるぶると手を震わせながら、彼は席へと戻った。 そんな彼の様子を見て、モルダーは笑いを堪えるのに必死になっていた。 「こちらモルダー。効果てきめんだ」 「バイヤースだ。あとどれぐらい持ちそうだ?」 耳に装着していたイヤホンから、バイヤースの声が聞こえる。 「多分、一度トイレに行ってから帰るんじゃないかな」 「こっちは準備完了だ。動きがあったら知らせてくれ」 「了解。彼の姿を早く見せたいよ」 モルダーが交信を続けている間も、CSMのぎこちない動きは止まらなかった。 こ、こんな時は気を静めるに限る そうだ、タバコでも吸えば落ち着くさ.... カチリ ライターに火をつけ、タバコを口に加える。 タバコのフィルターを通して、彼の胃には『ピンクの小粒』の細粒が更に5錠追加された。 ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぅぅぅぅ〜〜〜〜っっっっ 「うわっ....く、来る....」 勢いよく席から立ち上がり、再びトイレを目指して歩き出す。少しの振動でも爆発してしまいそうな 気がした彼は、お尻の筋肉をキュッと締め、足取りは内股になっていた。ヒョコヒョコと歩くその姿 は、まさにペンギンそのものだ。 清掃中でも構うもんか 意地でも入ってやる そう意気込んでいたCSMだったが、運よく『清掃中』の立て札は取り外されていた。 た、助かった.... これでトイレに行ける.... バタン!! ....と、喜び勇んでトイレのドアを開けたのもつかの間、すべての個室が『使用中』という、事が 差し迫っている者にとっては「惨状」以外の何ものでもないその状況に、彼はすっかり逆上した。 ○×▲*=♂♀§#♪∝$★〜〜〜っっっ!?!? 「お前らぁ〜〜〜っっっっ!! 覚えておけよ!!」 と、威勢のいい捨てぜりふを残し、CSMは気が狂ったように裏口から飛び出して行った。 「こちらモルダー。そろそろ戻るよ」 「了解」 ------------------------------------------------------------------------------------------ ガタン 「うぁっ....」 ボコン 「ああっ....」 ゴトン 「ううっ....」 車が振動を生み出す度に、CSMは声を出さずにはいられなかった。 あと少しだ....あと少し.... まるで呪文を唱えるかのように『あと少し』を繰り返す。今の彼にとっては信号など、あってない ようなものだ。徐行運転を無視し、赤信号に突っ込み、一方通行を逆走する。これが昼のDCなら、 一瞬にして交通渋滞を引き起こしていただろう。 ああ、神様.... もう悪い事はしません.... 『本当か?』と、つい疑いたくなるような事をつぶやいているうちに、ようやく自宅に到着した。 車を乱暴に停車させて運転席から飛び出し、ガチャガチャと音を立てて、もどかしげに玄関の鍵を 開けた。 「こちらモルダー。今着いた」 「OK、じゃあ裏に回って。ダクトがあるから、そこを使って上ってきてくれ」 「了解」 脇目も振らず、CSMは一目散にバスルームへとダッシュした。 間に合ってくれ!! 頼む!! たのむ!! タノム!! すんでのところで、彼は便座に腰を下ろす事ができた。 ........あ................ふぅ.................... シ・ア・ワ・セ............................. 天井裏では、これまでの彼の様子が全てモニターに映し出されていた。その一部始終を見物していた 「ミッション・インポッシブル・フォース」のメンバーは、彼のガッツを称えて大きな拍手を贈った。 「よくやったぞ、肺ガン男!!」 ------------------------------------------------------------------------------------------ 「はぁ、助かった....」 ようやく一息ついたCSMは、穏やかな表情で排水用レバーを押し上げた。 ところが .......ナ.....ナガレナイ....!!?? 真っ青になった彼は、何度も何度もレバーを押し上げたが、水は一向に出る気配を見せない。 なんだ!? どうなってるんだ、え!? ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぅぅぅぅ〜〜〜〜〜っっっっっ そうこうしている間に、今日2回目の「大波」が彼を襲い始めた。再び腹を抱えてうずくまる CSMだったが、水が流れないトイレはもう使い物にならない。 どうすればいいんだ!? 慌てふためいた彼は、とりあえず配水管工事を頼もうと考え、緊急サービスを実施している場所 を探そうと、電話帳を取りに書斎へと向かった。その間にも、次の「大波」の気配はどんどんと 近づいてくる。 防犯装置のロックを解除し、書斎の鍵を開けた。 「あっ!!」 書斎の真ん中では、白鳥が可愛らしく宙を舞っていた。それは、さっきと変わらないつぶらな瞳で CSMを見つめている。 「よし、スイッチを入れるぞ」 天井裏では、バイヤースが遠隔装置で書斎のパソコンを操作し始めた。 カチャッ、ブーン..... 背後で突然パソコンの立ち上がる音がして、CSMは驚いて振り返った。一体何が起こっているのか、 彼には全く見当もつかないというよりは、何かが起こっている事を認識するための思考回路も、うまく 作動していない状態だった。 パソコンの黒い画面に、白い文字がくっきりと浮かび上がった 『お腹急降下!!』 ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぅぅぅぅ〜〜〜〜〜っっっっっ 「う、うぁっ.....」 突然めまいがして、とっさにデスクの端を力強く掴んだ。 こうなったら....もうあれを.... 書斎の真ん中で呑気にユラユラと揺れている「おまる」を見据え、彼は懸命に手を伸ばした。 しかしそれは、精一杯の努力をもってしてもわずかに届かない。背伸びをしても、飛び上がっても 無駄だった。 「頼むぅぅ〜〜、下りてきてくれ〜〜っ!!」 空を仰ぐような仕種で叫んだ彼の悲痛な叫びは、虚しく部屋の壁に吸い込まれて消えていった。 ------------------------------------------------------------------------------------------ 「ご苦労だった」 スキナーは、副長官室のソファに揃って腰を下ろしている二人の部下に向かってねぎらいの言葉を かけ、窓の外に視線を移した。 デスクの上には、事の一部始終を収めた8mmビデオテープ、そして、同じ内容の動画ファイルを 収めたMOがひっそりと置かれている。 「なかなかの見ごたえだった」 「ありがとうございます」 「おかげで、彼の喫煙量も以前の半分ほどに減ったらしい」 「喜ばしい事ですわ」 これで、私の部屋で煙草を吸う事もなくなるだろうな そう考えるだけで、スキナーの心に明るい灯火が宿った。 「君達から提出された映像は、有効に使わせてもらう」 「有効に、ですか?」 「そうだ」 「副長官、それはもしや....」 「何だね、スカリー捜査官?」 「....『例のもの』の投稿用に使うのでは?」 最近、FBI内では、イントラネットを介して局員全員に配信される「FBIニュース」という闇 メールが評判になっている。建前は『ニュース』というお堅いタイトルになってはいるが、その内容 はブラックそのもの。「ハンサムな部下と美人上司の不倫ショット」や、数々の局員による「仕事中 の居眠りショット」など、FBIの裏側をすっぱ抜くネタの勢揃い、である。 しかし、誰がそれを作成し、配信しているのか。そのメールの出所は全くわかっていない。 「『例のもの』の投稿用だと?」 スキナーは、二人の方に体を向けた。 「投稿用だと?」 彼はフッと笑い、再びモルダーとスカリーに背を向けた。 スキナーがTLGと組み、密かに『FBIニュース』編集担当者として活躍している事は、誰にも 知られていない。 窓の外では、たくさんの人間や車が行き交う。その風景は、今日も同じように繰り広げられていた。 いつもと変わらない朝だな まるでそれが日課であるかのように、スキナーは毎日同じ言葉をつぶやく。 彼の一日は、そこから始まるのだ。 The END −後書き− あぁ....またやってしまった....。 CSMファンの皆様、本当にスミマセン!! 最初は彼を『ちょっとだけイジメる』つもりでした。 し・か・し....『ちょっとだけ』の筈が、気がつけばあんな事に....(汗) 私って、Fic界の異端児 なのかも(←「今ごろ気づいたんか」ってツッコミ入りそう・苦笑)きっとこの壊れっぷりは、暑さ のせいよ。そうよ、暑さのせいだわっ!! おまけに、トム様の映画「ミッション・インポッシブル」のネタを始め、懐かしのテレビアニメや テレビCMを「これでもか」と言わんばかりのいただきっぷり。これじゃあ「裸の銃を持つ男 シリーズ」ですやんか(^^;) ....と、考えつくだけのツッコミを自分でやってみました(爆) どうか皆様、こんな私を許してやって 下さいまし m(_ _)m 最後に このFicを作成するにあたり、快く質問に答えて下さったNaoさん、Eveサマ、ひろポンさん いつも私のぶっ飛びメールのお相手をして下さるAgent Kawanishi このFicを発案&リクエストしてくれたアイーマちゃん そして、「ぶっ壊れAmandaワールド」にお付き合いいただいた全ての方に感謝を込めて....。 Amanda