この物語はフィクションであり、「XF」またはその出演者の著作権、肖像権等を侵害する つもりではないことをここにおことわりしておきます。 また、「XF」に関するすべての権利は、クリス・カーター氏及び20世紀FOX社に 帰属します。 主役2人を愛するあまり(というか進展を望むあまり…)役を降りた2人の関係もこんな だったらなーと思いつめて書いてしまいました。 (こんなだったら…が上手にお伝えできないのは個人の力量のせいではありますが…) ですので、設定は数シーズンを過ぎた頃ということにしておりますが、現実の人間関係や 状況/場面設定などは一切無視して作者の妄想だけで成り立っております。 モルスカじゃない上に甘々でもない作品になっていることもあわせて、以上を御了承頂いた 方のみ先にお進み下さい。 お読み頂いた後、御不満な点も多くあるかと存じますが、罵声、中傷等のメールは御容赦 下さいますよう心よりお願い申し上げます。 -/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/ 「道の途中」                          亜里 エージェントのラリーから電話があったのは、午後遅い時間だったにもかかわらず、 私は、目覚ましにシャワーを浴びたところだった。 このところ、不眠症がひどくて、空が白まないと眠りにつけないのだ。 私は、不機嫌な声を隠さずに「もしもし」と言った。 ラリーは全く気にも留めずに、「やあ、ジリアン。急な用件で申し訳ないんだけど…。」 と相変わらずの早口で話し続けた。 「実は君のスケジュールが少し変更になったんだ。  明後日の金曜日。NY入りを変更してプレミア試写に出てもらうことになったから。  知ってるよね。『フロンティア』のワールドプレミアだよ。」 「あら?トレイシー・ミルズでも、ドタキャンしたのかしら?」 私はバスローブのままベッドに寝転んで、タバコに火をつけながら答えた。 トレイシーはハリウッドで最も高いギャラを取る女優の一人である。 ラリーは続けた。 「いや。キネティック社のエージェントから御指名だ。」 彼は、私が主演する番組のスポンサーの名前を口にした。 番組が始まった頃は中堅のコンピュータメーカーだったこの企業は、ここ数年であっと いう間に世界規模に成長した。単にハードウェア開発だけにとどまらず、 尽きない資金力で買収した企業のノウハウを吸い取って、彼等はソフトウェア事業に 手をのばし始めた。そして世界規模にまで成長した彼等が目をつけた内の1つが、 ハリウッドの映画産業というソフトウェア市場だったのだ。 『フロンティア』はそのキネティック社の全面投資で製作された、ばかみたいに 金のかかった映画である。映画制作費用に比例して、かける宣伝費もケタ違いらしく、 〜新世紀への宴〜とか言うなんだか気の早いネーミングの大夜会と試写会を引っさげて 世界規模でプロモーションするらしい。 当然前評判もすごく、プレミアにたかるプレスの数を想像するだけで気が遠くなる位だ。 「ついこの前のデイビッドのインタビュー読んだだろ?」彼は続けた。 「いいえ。でも誰かに会う度に言われるもんだから、中身は知ってるわ。」 「彼のコメントは君の評判にも関わってくるんだから。もう少し慎重にしてもらわないと。」 「ライターが気に食わない奴だったのよ。きっと。それに別に今に始まったウワサ  じゃないわ。」 「来々シーズンの契約はまだなんだ。スポンサーがナーバスになったら困るだろ。  だから、キネ社のエージェントが先手を打ったんだよ。」 番組の評判と視聴率を気にするスポンサーに気をつかって、私達にプレスの前で一芝居 打てということだ。 「彼はなんて?」 「ジムのことだ。首に縄くくってでも連れていくだろ。」 ラリーはデイビッドのエージェントの名前を口にした。 「つまり、私も首に縄くくってでも連れてかれる訳ね。」 「もちろんだよ。ジリアン。いいじゃないか、2ショットなんてプレスが大喜びだ。」 「わかったわ。シンディーに今日中にここに寄るように伝えて。」 そういって私は受話器を置き、タバコの火を消した。 そうして、小さく溜息をつく。 デイビッドの取材嫌いは有名だ。ただ、それには注釈がつく。 私達の番組についての取材に関しては。ということだ。 どうせまた、気に入らない質問でもされたんだろう。と思っていたが、 あまりに度重なるのでキネティックのエージェントも、気にし始めたというところか。 そのことを考える反面、私は当日何を着ていこうかと少しわくわくする自分が いるのに気が付いた。 どうして? 彼に久しぶりに会うから? そんな訳がない。来月に新シーズンの撮影に入ってしまえば、嫌でも顔をあわすのだ。 それに19や20の小娘じゃあるまいし、男に会うのになぜわくわくする必要があるのだろう。 しかも、ただの仕事仲間にだ。 思い直して、私はパウダールームに戻り、ローブを脱いでこのところのウェイトコント ロールの成果を確かめた。 うん。悪くないわ。 その夜、シンディが家に来た。 「急に呼び立てて、悪かったわ。」 「いいえ。いいんです。でも、急な話ですね。ずいぶん。」 「そうなのよ。で、今からお願いして用意できるかしら?ガルディーニなら多少の無理は  きくでしょ?」 私はこの手の席にはよく着るデザイナーの名前を口にした。 モデルや女優がどこのイヴニングを着るかは、言ってみれば企業としての彼らの営業力の強さに よる。何せ、私たちが写真に撮られれば撮られるほど、ただで広告を打つようなものなのだ。 彼らにしては一晩ドレスを貸すぐらい訳もない。もちろんそれは私達が、彼らが考える 「宣伝材料」の対象にされているかどうかにもよるのだが。 「そうねぇ。」 シンディはすぐうんとは言わなかった。 「ABTのディアドラ・リンスキーが出席するらしいんですよ。  彼女は必ず彼のドレスを着て来ますよ。きっと。」 ディアドラは「アメリカの宝石」と呼ばれているプリマドンナだ。 私より背の高い彼女が、彼のデザインのドレスを着て立っている姿を想像して、私はすこし嫌な 気分になった。 シンディは続けた。 「NYに小さいけど老舗のお店があるんですけど。  最近、そこのチーフデザイナーがかわったんですよ。割と品がよくて、手のこんだ  ドレスを作るんです。そこ、聞いてみてもいいですか?」 「ふぅん。こんな急なんですもの。しょうがないわね。あなたに任せる。」 私はこういうことは、あまりとやかく言わないことにしている。 詳しい人に任せれば、大抵のことはうまく行くものだ。 プレミア試写の当日。 睡眠薬を飲んで眠ったので、久しぶりに朝に目覚めた。 コーヒーをいれて、カウチに座る。タバコは喫わない。同じ日にカフェインとニコチンは 一緒にとらないことにしてるのだ。 すると、電話が鳴った。 ラリーからだ。 「おはよう。ジリアン。起きてた?」 「ええ、おかげさまで。どうしたの?」 「ジムから電話があってね。」 「あら。デイビッドがなんて?」 私は一瞬、彼が行かないとでも言い出したのかと思った。 「一人で君の家に迎えにいくって。」 「え?」 「いや、もちろんリムジンでだけど。俺たちは乗るなってことらしい。」 撮影では、飽きるほど2人きりで車に乗っている(ように見える)私達だが、 役を降りた後は、全くといって初めてだ。 公の席に出る時はたいていエージェントがくっついている。 デイビッドったら…。 そう考えながら私はまた、少しわくわくしている自分がいるのに気付いた。 どうしたんだろう。私ったら。 シンディの用意したイヴニングは最高だった。 ミッドナイトブルーのシルクのドレスは少し痩せた私の顎から鎖骨にかけての ラインをとても美しく見せるカッティングだったし、開いた背中の縁取りには 銀糸の手刺繍が施されて、溜息が出るくらい美しかった。 おろそうと思っていた髪をアップにしてもらい、あえてネックレスはつけずに ダイヤのイヤリングだけをつけた。 「名前だけは忘れずに、ジリアン。『アデル』ですから。」 とシンディは念を押した。 私は極上の笑顔でプレスにこう答えるのだ。 「ええ。NYの『アデル』のドレスなの。彼女のデザインはとてもファンタスティックでしょ。」 私は鏡の前で微笑んでみる。 うん。悪くないわ。 運転手に案内されて、後部席にのりこむとデイビッドが上着を脱いだ姿で 微笑みかけた。彼は少し痩せて、髪も少しのびていた。 「やあ。ひさしぶり。」 私がシートに座ると、彼が向かいのシートに移動してくれたので、 私達は向かいあわせに座る形になった。 私は無意識に運転席へ通じるウインドゥが閉まっているのを確認した。 車がゆっくりと進み出す。 「お迎えありがとう。デイビッド」 「しばらく見ないうちに、また一段と美しいよ。ジリアン」 「相変わらず、お世辞が上手ね。」 「ラリーにはちゃんと僕の真意が伝わってたみたいでよかったよ。」 「彼がここにいないってこと?」 「ああそうさ。」 彼は少し斜めにもたれて、窓に右手で頬杖をつきながら、こちらに話しかける。 写真にもよく撮られているが、この角度からの彼は完璧だ。 それは、彼自身が一番よく知っていることでもある。 私は少しどきどきした。 「最近どうしてたの?」 少し居心地が悪くなって、私は尋ねた。 「さっき、ヒースローから戻ってきたところさ。乗ってたUAが揺れて、大変だった。」 「例のナレ録り?」 「ああ。今回は顔出しありだけどね。そうじゃなきゃ、家で寝てるよ。  わざわざロンドンくんだりまで行かずにさ。」 そう言って笑いながら、彼は少しタイをゆるめた。 「無理に調整して帰ってきたの?どういう風の吹き回し?」 自分でも意地の悪い質問だと思いながら、私は尋ねた。 「だって、こんなことってなかっただろ、今まで。面と向かってデートに誘うより  来てくれる確率が高いと思ったからね。」 「あら。デートだってわかってたらもっとおしゃれして来たのに。」 私はおどけてそう答えた。 「そうだよ。これじゃあ『ホワイトスネイク』で門前払いを食っちまう。」 彼は撮影所の近くにあるスタンディングバーの名前を出して笑った。 私もつられて笑う。私の機嫌が悪くないことが彼に伝わったのか、 「ねぇ。ジリアン。」 彼が急に身を乗り出して、組んだ足に頬杖をつく。 見つめられて、私の鼓動が少し早くなった。見なれた相手役の顔だというのに。 「え?なあに?」 「そう遠くない将来、僕たちに起こる出来事って何が考えられる?」 予想もしてなかった質問だったので、私は少し拍子抜けした。 「もう、何を言い出すかと思えば…。」 「想像してよ。」 「それは、仕事上の話?それとも個人的な話?」 「全部ひっくるめてさ。」 「そうねぇ。どちらか、または両方が結婚するとか?」 「うん。否定はしないよ。」 「どちらかが降板するとか?」 「うん。それも否定しない。」 「どちらかが『フロンティア』みたいな映画に主演するとか?」 「うん。それから?」 「どちらかが、セットから転落するとか?」 「うーん。あんまり想像したくないけどね。」 そう言って彼は笑った。そしてこう続ける。 「僕達の関係は?どう思う?」 私はこう答える。何度も取材で聞かれてることだ。 「私達は共演者として、お互いに信頼しあっていてすごくいい関係だと思うわ。  もちろんこれからも。」 これは本心だった。彼がどう思ってるかはわからないけど。 私は彼とうまくやれると思っている。 「スカリーみたいなことを言うね。」 「彼女みたいに優等生じゃないわ。」私はそう言って笑った。 「でも、いい女優だ。」 彼が真剣な眼差しでこう言ったので、私は赤面した。 それを隠そうと時間を気にするふりをし、少し窓の外を見やって、そして視線を戻した。 デイヴィッドはまだこちらを見つめている。 「ずるいわ。」 私はそう言った。 「私にばっかり、答えさせて。あなたはどう思ってるの?」 彼がシートにもたれ直す。 「僕はね。ジリアン。」 夕暮れでともり始めた街の明かりで、彼のヘーゼルブラウンの瞳が揺れているように見えた。 「何シーズンかをこうやって続けて来て、役者としてそれなりの成功を得たと思う。  僕達2人ともね。もちろん、これから僕らがどこまで、続けていく意志があるかどうか、  逆に僕らの意志とは別に、続けるという環境が続いていくかどうかってことも、全く  わからないことだけどさ。」 そう言って彼は少しうつむいて、また顔を上げる。 少しの間沈黙があった。 「ただね。僕にわかることは、  君との間には次の何かが待ってるような気がするってことなんだよ。ジリアン。」 彼はそう言って、安堵とも後悔ともつかない表情を見せた。私の思いすごしでなければ。 私は自分がどんな顔をして、この言葉を受け止めればいいのかわからなかった。 それよりもこの心臓の鼓動がデイビッドに聞こえることの方が心配だった。 「デイビッド…それは…。」 プライベートな話?と私が聞こうとしたところで車が止まった。 ドアが開けられ、私達はフラッシュの光の中に引き出される。私はとたんに女優の顔になる。 いつの間にか身なりを整えたディビッドが私の腕を取り、少し引き寄せてから腰に手を回した。 そうしてプレスの列に身体を向ける。 ひとときの間、私達は極上の笑顔で被写体になる。申し合わせたように見つめあい、 そして微笑んでみせる。こんなシャッターチャンスを逃すカメラマンはいないだろう。 「こういう席に、お揃いなのは珍しいですね。ミスター。」 誰かの質問に彼は答える。 「そうだよ。今日はデートなんだ。」 そう言いながら、彼は私の腰に回した手に少し力を入れて、私に『歩くよ』という合図を送る。 心の中の私は、プロムに行く女子学生みたいだ。 私達は手をつないで、会場へと続く階段を登り始める。 耳もとで彼が囁く。私の好きなトーンだ。 「話の続きは後でもいい?ジリアン。」 私は背の高い彼を見上げて、少し微笑む。少しわがままを言う時の女優の顔だ。 そして、彼の瞳にこう答えるのだ。 「いいわ。この退屈なデートが終わった後すぐならね。不眠症で時間には困らないもの。」    End /-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/ このような拙作におつき合い頂きましてありがとうございました。 インタビュー等で二人が「ディビッド」「ジリアン」と呼び合ってるのを聞くと なんだかどきどきしちゃうんですよね。で、本作でもせっせと呼ばせてみました。(笑) 御意見、御感想などを書いてやってもいいぞと思って下さった方は下記アドレスまで お送り頂ければ幸いです。 knd-mh@pop07.odn.ne.jp